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全文

(1)

Japan Advanced Institute of Science and Technology

JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/

Title

潜熱の影響を考慮した鼻腔壁面モデルを用いた鼻腔内

流れに関する研究

Author(s)

埴田, 翔

Citation

Issue Date

2014‑03

Type

Thesis or Dissertation

Text version

ETD

URL

http://hdl.handle.net/10119/12105

Rights

Description

Supervisor:松澤 照男, 情報科学研究科, 博士

(2)

氏 名 埴 田 翔 学 位 の 種 類

学 位 記 番 号 学 位 授 与 年 月 日

博士(情報科学)

博情第 297 号

平成 26 年 3 月 24 日

論 文 題 目 潜熱の影響を考慮した鼻腔壁面モデルを用いた鼻腔内流れに関する研 究

論 文 審 査 委 員 主査 松澤 照男 北陸先端科学技術大学院大学 教授 党 建武 同 教授 井口 寧 同 教授 前園 涼 同 准教授 石川 滋 金沢市立病院耳鼻咽喉科 科長

論文の内容の要旨

鼻腔は,鼻孔から咽頭にかけての空間である.鼻腔内部は,甲介がはり出すことにより 上鼻道,中鼻道,下鼻道に分割されており,複雑な構造をしている.鼻腔には,空気中の 埃を取り除いたり,匂いを感知したり,音を反響させたり,吸気の温度や湿度を調節する 機能がある.これらの機能は,様々な環境下における呼吸において肺や気管を保護する上 で重要である.

数値流体力学(Computatinal Fluid Dynamics (CFD)) を用いて,鼻腔内の流れを数値シ ミュレーションすることで,鼻腔機能を解明するための検討が行われている.数値シミュ レーションおいては,実際の現象を精度よくシミュレーションするためのモデル化が重要 である.

本研究では,鼻腔内の流れ,温度,湿度および潜熱の影響を明らかにするために,鼻腔 壁面における温度と水蒸気交換モデルを提案し構築した.提案した鼻腔壁面モデルは,鼻 腔粘膜の厚さをモデル化すると共に,検熱だけでなく水蒸気の移送に起因する蒸発潜熱や 凝縮潜熱による熱の交換も考慮している.これらを考慮することによって,提案した鼻腔 壁面モデルは,生体内の物理現象を,これまで以上に精密にシミュレーションすることが 可能である.提案した鼻腔壁面モデルを用いて,鼻腔内の流れ,温度分布,湿度分布のシ ミュレーションを行った.シミュレーション結果は,実験により測定された温度および相 対湿度の結果と良好に一致を示した.したがって,提案した鼻腔壁面モデルは,鼻腔内の 流れ,温度,湿度の適切にシミュレーションを行う事ができる.

種々の環境下における鼻腔の温度および湿度調節機能を検討するために,暑く湿った空 気,暑く乾燥した空気,冷たく湿った空気,冷たく乾燥した空気を吸った場合の,鼻腔内 の流れのシミュレーションをおこなった.何れの場合においても,吸気された空気は,咽 頭に到達するまでに体温付近まで調節された.また,低湿度の吸気の場合においても,吸

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気は,相対湿度で100% 近くまで,加湿された.全ての吸気ケースにおいても,温度および 湿度が最適な状態に調節されることを明らかにした.また,鼻孔からの吸気の温度および 湿度は,鼻腔前方部で,急激に調整され,鼻弁周辺で,最も熱および水蒸気の交換が行わ れていることを明らかにした.

さらに,種々の空気を吸気した場合における潜熱の影響の検討をおこなった.暑く湿っ た空気を吸気した場合では,凝縮潜熱が働き,暑い空気が体温まで冷却されるのを妨げる ことを明らかにした.暑く乾燥した空気を吸気した場合では,蒸発潜熱が働き,暑い空気 が体温まで冷却されるのを促進されることを明らかにした.冷たく乾燥した空気および冷 たく湿った空気を吸気したケースでは,蒸発潜熱が働き,冷たい空気が体温まで加温され るのを妨げることを明らかにした.また,潜熱は,鼻腔粘膜からの水の移動に依存して変 化するため,乾燥した空気を吸気した場合などの水の移動量が多い場合に潜熱の影響が大 きくなることを明らかにした.

呼吸は,呼気と吸気からなる非定常な現象であるため,鼻腔内の流れの非定常性につい ても検討をおこなった.鼻腔内の流れ,温度分布,湿度分布には,ほとんど非定常的な現 象は,観察されなかった.したがって,鼻腔内流れは,定常シミュレーションにより,十 分に検討可能であると考えられる.

性別,年齢,体格などが異なる個体における鼻腔内流れの個体差について検討をおこな った.今回検討した個体では,鼻腔の体積が50% 程度異なる個体が存在したが,鼻腔内の 流れ,温度分布,湿度分布に顕著な個体差は見出されなかった.健常者の鼻腔においては,

体格,年齢および性別による機能の差異を見出す事は困難であった.したがって,健常者 の鼻腔においては,性別,年齢,体格などに鼻腔の機能は,ほとんど左右されないと考え られる.

副鼻腔の生理学的機能を数値流体力学の観点から検討した.副鼻腔については,副鼻腔 の中で最も体積が大きい上顎洞を対象に検討をおこなった.数値流体力学の観点からは,

鼻腔内の流れ,温度分布,湿度分布について検討をおこなった.上顎洞を含む結果と上顎 洞を含まない結果では,鼻腔内の流れ,温度分布,湿度分布には大きな変化は見出せなか った.吸気においては,上顎洞は鼻腔内の流れや温度,湿度分布には影響を及ぼさないこ とが示唆された.

論文審査の結果の要旨

鼻腔は呼吸の通路だけではなく、嗅覚、温度と湿度の調節、鼻毛によるチリの除去、さらには 音声の共鳴など重要な器官である。代表的な疾病として鼻炎や副鼻炎などあり、多くの場合は「鼻 づまり」の愁訴によって受診しており、これには鼻腔内の流れが関与している推定される。診断 および治療には、鼻腔の流れの微細構造や流れに伴う温度と湿度の調節機能の解明が必要で、こ れらを感知すると思われる粘膜での熱や水分交換のモデル化が必要である。本研究は従来用いら

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れていた熱交換モデルに潜熱の影響を考慮した新しいモデルを提案し、モデルの妥当性の検証お よび様々な環境化における温度と湿度の調節機能を明らかにすることを目的としている。

提案している熱交換モデルは従来モデルに Roger et al.の潜熱の式を取り込み、粘膜の暑さを 考慮して粘膜表面(空気側)の温度を未知数とし、粘膜下部(組織側)の温度を生体内温度に固 定し、鼻腔表面の境界条件とした。鼻孔側には大気圧を仮定し様々な温度および水分の質量分率 に変化させ、咽頭では1回換気における平均流量を仮定し、温度と湿度の境界条件は課さない。

このような条件化で、簡単な直円管モデルで解析し提案した交換モデルの妥当性を示した。

さらに CT 画像から再構築した鼻腔モデルについて、実測されている温度と湿度に合わせた 解析をした。流れは温度や湿度を変えても大きな変化はなく、中鼻道で高速になり、下鼻道や上 鼻道では流速は遅く鼻弁の下流側には剥離渦が観察された。温度と湿度については、従来モデル に比べ、両者とも実測値の値により近くなりモデルの妥当性が示された。咽頭近傍では、鼻孔で の様々な温度や湿度条件においても、生体内の温度と湿度になることが示された。また、呼吸の 流量を三角関数で仮定した非定常解析を行い、定常解析と大きな違いが無いことを示し、鼻腔の 流れ解析では定常解析でも十分であることが示唆された。さらに数人の健常者による解析におい て、有意な個体差はなく、基本的な構造と愁訴をしている患者との比較により鑑別できることが 示唆された。さらに、生理学的機能が不明な上顎洞(副鼻腔)を追加した解析を行い、上顎洞の 無い場合と比較しても、鼻腔の流れ構造や温度と湿度の調整機能に大きな変化が無いことが示さ れ、上顎洞の生理学的機能の解明に一つの方向性を示したことは評価される。

以上、本論文は、鼻腔粘膜の熱と水交換について新しいモデルの提案をし、様々な環境下にお ける鼻腔の生理学的機能を解明しており、学術的にも臨床的にも貢献するところが大きい。よっ て博士(情報科学)の学位論文として十分価値あるものと認めた。

参照

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