判例評釈
〔刑事判例研究〕
早稲田大学刑事法学研究会
未必の故意による共謀共同正犯が成立するとされた事例
(最決平成19年11月14日刑集61巻8号757頁)
田 川 靖 紘
【事実の概要】
本件は、港湾運送事業、倉庫業及び産業廃棄物収集運搬業等を営む被告会社の 代表取締役等である被告人5名(以下「被告人ら」ともいう)が、被告会社の業務 に関して、Wらと共謀の上、北海道の土地において、みだりに、廃棄物である 廃酸及び廃油等の混合物(硫酸ピッチ)が入ったドラム缶(合計361本)を埋め立 て、または放置して捨てたものとして、廃棄物の処理及び清掃に関する法律16 条、25条1項8号の不法投棄罪に問われた事案である。
硫酸ピッチは、不正軽油を密造する過程において残渣物として生ずるもので、
廃酸、廃油等の混合物であり、強酸性、腐食性の物質で、ドラム缶内の亜硫酸ガ スを吸うと呼吸障害を発生させる危険があるほか、ドラム缶を腐食させて土壌や 地下水の汚染を引き起こすものである。処理費用はドラム缶1本につき5万〜10 万円であるが、その運搬・処理にあたっては、産業廃棄物管理表(マニフェスト)
が必要であり、硫酸ピッチの処理業者・処理施設は全国でも数が少なく、前記の ような生成過程から、正規の処理業者に委託することは「不正軽油の密造」を公 表するに等しい。そのため、廃棄物のブローカーや、暴力団などが介入して不法 投棄に至るケースが全国でみられ、社会問題化していた。
被告会社は、平成12年7月ころ、株式会社
S
の代表者D(以下、それぞれ「S」、
「D」という)から、期間は1年、広さは1000坪、賃料は1坪あたり月額1000円と いう内容で、廃油入りドラム缶の保管業務委託を受けた。そして、M株式会社
(以下「M」という)から借り受けていた千葉市の土地(以下「本件土地」という)
に、硫酸ピッチ等が入ったドラム缶数千本が搬入された。Dはドラム缶の内容が 硫酸ピッチであることを説明していなかった。
その後、Sから賃料が支払われなくなり、ドラム缶が腐食して内容物が一部流
出する事故も発生し、被告会社は、Dに強く輸出を迫ったものの一向に輸出され ないので、その処理に難渋するようになっていた。
被告人らは、遅くとも平成14年11月ころにはドラム缶の内容物が硫酸ピッチで あることを確定的に認識し、また、Mから本件土地の明け渡しを求められたた め、本件ドラム缶を処理しようと考えたが、数社に処理を打診するも断られ、M に確約した明け渡し期限までに正規の処理業者に委託して本件ドラム缶を処理す ることは、きわめて困難な状態になっていた。
平成14年2月から4月ころ、被告会社が本件ドラム缶の処理に難儀しているこ とを聞知したWは、本件ドラム缶の処理を請け負い、仲介料をとって他の業者に 丸投げすれば多額の利益が出ると考え、幾度となく本件ドラム缶の処理を委託す るよう迫ったが、被告会社はこれに応じなかった。
平成15年7月末ごろ、Wは、本件土地の明け渡し期限が迫っていること、本 件ドラム缶の処理がきわめて困難な状態になったことを聞知し、社会問題になる などとして、被告人らにその処理を委託するよう迫った。被告人5名は協議した 結果、Wや実際に処理に当たる者たちが、本件ドラム缶を不法投棄することを 確定的に認識していたわけではないものの、不法投棄に及ぶ可能性を強く認識し ながら、それでもやむを得ないと考えて
W
に処理を委託し、本件ドラム缶は、上記のように北海道の土地に不法投棄された。
第1審(札幌地判平成18年3月15日刑集61巻8号775頁以下)は、被告人らの故意 の有無、共謀の有無がそれぞれ争われたが、被告人らの故意を認め、Wとの共 謀を認定し、共謀共同正犯による不法投棄罪の成立を認め、被告会社を罰金400 万円に、被告人らをそれぞれ3年間の執行猶予付きの懲役(被告人
X
1は懲役2 年、X2は懲役1年8ヶ月、X3〜X5は懲役1年2ヶ月)に処した。これに対して 被告人らは、未必の故意を認めた点に事実誤認があり、未必の故意による共謀共 同正犯を認めた点で法令の適用に誤りがあるとして控訴を申し立てた。控訴審(札幌高判平成19年1月18日刑集61巻8号802頁以下)は、故意の有無と、
「未必の故意による共謀共同正犯の成否」が争われたが、被告人らに未必の故意 を認めた上で、「被告人らと
W
との共謀が認められるかについて検討するに,共謀共同正犯が成立するには,二人以上の者が,特定の犯罪を行うため,共同意 思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し,各自の意思を実行に移すこと を内容とする謀議をなし,よって犯罪を実行した事実が認められなければならな い。」と示した。その上で、「謀議」について「実行共同正犯におけるような意思 の連絡では足りないが,当該犯罪についての客観的・具体的な謀議がある場合に 限らず,その犯罪を共同して遂行することの合意があることで足りる。」とし、
この共同遂行の合意を認めるにあたっては、「被告人の地位,立場,共犯者との 早法 84巻4号(2009)
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関係,犯罪遂行過程における役割,犯行の動機等を総合的に勘案し,他人の行為 を利用して自己の犯罪を行ったといえるような場合であること」が必要であると した。
上記の勘案される要素について、控訴審は以下のものを挙げている。不法投棄 の恐れがある
W
の申入れを受け入れるにあたり、「Mへの土地明渡期限が迫り,これを厳守することが被告会社の利益のために必要であり,かつ,それが唯一の 方法であると認識していた」こと。「被告会社が本件ドラム缶の処理を
A
運輸に 委託しなければ,本件犯行は起こり得ず,その決定権は被告人らが握っていたも のである」こと。「被告会社は,合計1億4000万円を拠出しており,他に費用を 拠出したものはいない上,Dから廃棄物処理法違反に問われることを理由とする 業務委託契約の解除通知を受け取った際も本件ドラム缶の搬出作業を続行させて いる」ことである。以上から、控訴審は「被告人らは,自らは実行行為者とはならないものの,A 運輸との間で同社以下の関与者を使い,その行為を利用して自己の犯罪を行った ものというべきである。結局,被告人らには
W
らとの共謀が認められるのであ って,未必の故意ないし順次共謀の点はこの結論を左右しない。」として、控訴 を棄却している。これに対して被告人らは、判例違反などを理由に上告した。最高裁は、上告趣意が刑事訴訟法405条の上告理由にあたらないとした上で、
以下のように職権で判断した。
【判決要旨】
原判決が是認する第1審判決の認定によれば,Wにおいて,被告会社が上記 ドラム缶の処理に苦慮していることを聞知し,その処理を請け負った上,仲介料 を取って他の業者に丸投げすることにより利益を得ようと考え,その処理を請け 負う旨被告会社に対し執ように申し入れたところ,被告人5名は,Wや実際に 処理に当たる者らが,同ドラム缶を不法投棄することを確定的に認識していたわ けではないものの,不法投棄に及ぶ可能性を強く認識しながら,それでもやむを 得ないと考えて
W
に処理を委託したというのである。そうすると,被告人5名 は,その後W
を介して共犯者により行われた同ドラム缶の不法投棄について,未必の故意による共謀共同正犯の責任を負うというべきである。これと同旨の原 判断は正当である。」
【評 釈】
はじめに
本決定は、硫酸ピッチ入りドラム缶の処理を委託された業者が不法投棄に及ぶ
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可能性を強く認識しながら、それもやむを得ないとして処理を委託した被告人ら に、不法投棄罪の共謀共同正犯が成立するかが争われた事案である。最高裁は、
被告人らに対し、未必の故意による共謀共同正犯の責任を負うべきであると判示 した。なお、本件では、そもそも被告人らが未必の故意を有していたかも争われ ているが、ここでは、共謀共同正犯の成否に限定して検討する。
共謀共同正犯の故意は未必の故意で十分か
(1) 共謀共同正犯の故意は未必の故意で十分か。未必の故意による共謀共同正 犯が成立するかという問題に関しては、このような形で問題が設定され、本決定 以前にも議論がなされてきた。結論として、多くの論者がこれを肯定している。(1) 共謀共同正犯に限って未必の故意では足りず、確定的故意が要求される理由はな い、という理解が一般的な理解であるといえよう。(2)
(1) 島田聡一郎「暴力団組長である被告人が,自己のボディガードらのけん銃等の所持につ き直接指示を下さなくても共謀共同正犯の罪責を負うとされた事例」ジュリスト
No.
1288(2005年)159頁、林幹人「共謀共同正犯と『謀議』」判例時報1886号(2005年)8頁、
松原芳博「共謀共同正犯と行為主義」『鈴木茂嗣先生古稀祝賀論文集[上巻]』(成文堂、
2007年)542頁。また、大塚仁「共同正犯」団藤重光編『注釈刑法(2)⎜Ⅱ総則(3)』(有 斐閣、1969年)726頁、村上光鵄「共同正犯」大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法第二版 第5巻』(青林書院、1999年)142頁も、共同実行の意思は未必的なもので足りるとする。
(2) 本決定の解説、評釈として、長井圓「未必の故意による不法投棄罪の共謀共同正犯が成 立するとされた事例」速報判例解説―TKCローライブラリー(環境法
No.2 文献番号 z18817009‑00‑140020152)(2008年)、松田俊哉「廃棄物の処理を委託した者が未必の故意に
よる不法投棄罪の共謀共同正犯の責任を負うとされた事例」ジュリストNo.
1356(2008年)200頁、匿名「廃棄物の処理を委託した者が未必の故意による不法投棄罪の共謀共同正犯の 責任を負うとされた事例」法律時報80巻9号(2008年)124頁、岡﨑忠之「廃棄物処理を委 託した者が未必の故意による不法投棄罪の共謀共同正犯の責任を負うとされた事例」警察公 論2008
.
10(2008年)89頁、長井圓「未必の故意による不法投棄罪の共謀共同正犯が成立す るとされた事例」法学セミナー増刊速報判例解説vol.
3(2008年)309頁、山元裕史「廃棄 物の処理を委託した者について,未必の故意による不法投棄罪の共謀共同正犯の責任を負う とされた事例」研修No.
724(2008年)19頁、松原芳博「未必の故意による共謀共同正犯」刑事法ジャーナル
No.
14(2009年)112頁、十河太朗「未必の故意による共謀共同正犯」判 例セレクト2008(2009年)33頁があるが、これら解説、評釈も、未必の故意による共謀共同 正犯を肯定することで一致している。なお、本件被告会社、被告人らの他に、この不法投棄 事件に関与した別の会社と関係者も起訴され、有罪が確定している(①札幌地判平成16年8 月5日・LEX/DB
文献番号28095637、②札幌地判平成16年12月1日・LEX/DB
文献番号 28105078)。このうち②事件の評釈として、辰井聡子「硫酸ピッチ入りドラム缶の放置・埋 設が不法投棄とされた事例」いんだすとvol.22 No.8(2007年)32頁がある。また、行政
法の評釈として、北村喜宣「排出事業者による廃棄物処理の委託と不法投棄罪」平成20年度早法 84巻4号(2009)
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では、未必の故意による共謀共同正犯を否定する見解はあるか。松田調査官に よると、「本件の控訴審で,弁護人が提出した北海道大学の白取祐司教授の意見 書では,『未必の故意による共謀共同正犯』なるものはそもそも認められないの ではないかとの意見が述べられていた」という。また、具体的事実の評価との関(3) 係で、未必の故意で共謀共同正犯が成立し得るかは疑問であるという意見も
(4)
ある。本件の弁護人も、未必の故意では共謀共同正犯が成立しない旨を主張して いる。弁護人は、控訴趣意において、共謀は、単なる意思の連絡や他人(実行 者)の犯行の認識・認容では足りず、「更に積極的な意思を必要とする」と主張
(5)
した。また、上告趣意において、共謀が 共同遂行の合意」で足りるとしても、そ れが認められるためには「実行行為者に犯行を行なわしめたと評し得るような関 係が必要である……。そして,被告人に単なる未必の故意しかない場合には,
『犯罪が起きるかも知れない』という程度の認識しかないのであるから,このよ うな『犯行を行なわしめたと評価し得るような関係』を肯定すること自体困難で あ」ると主張した。(6)
(2) 本決定は、未必の故意による共謀共同正犯が成立することを明確に示して いる。もっとも、最高裁は、「被告人5名は,その後
W
を介して共犯者により 行われた同ドラム缶の不法投棄について,未必の故意による共謀共同正犯の責任 を負うというべきである」と判示するのみであって、その理由については明らか にしてはいない。また、第1審は、未必の故意と共謀とを関連付けて判断をしているわけではな い。これは、弁護人が「未必の故意」と「共謀」を別個に主張したことによる。
第1審は、被告人らと
W
との共謀につき、「Wは不法投棄の故意を有して,被 告人らに対し処理の委託を要請し,被告人らも,Wが無許可業者に依頼するな どして最終的に不法投棄されることになってもやむを得ないと考えて委託したの であるから,被告人らとW
との共謀が認められ」るとしている。(7)この点、控訴審は、第1審と比較して、共謀についてより詳しい検討を行なっ ている。これは、弁護人が、共謀が成立するには「積極的な意思」が必要である
重要判例解説ジュリスト
No.1376(2009年)50頁がある。
(3) 松田・前掲注2 201頁。なお、その内容については未入手のため不明。
(4) 芦澤政治「暴力団組長である被告人が自己のボディガードらのけん銃等の所持につき直 接指示を下さなくても共謀共同正犯の罪責を負うとされた事例」法曹時報57巻12号(2005 年)3815頁。
(5) 本件控訴趣意書原本写しより。なお、控訴趣意の内容は刑集には登載されていない。
(6) 本件上告趣意・刑集61巻8号761頁。
(7) 本件第1審・刑集61巻8号798頁。
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こと、また、「具体的な作為―指示,命令,提案など」が必要であることを主張 したことによる。この点につき、控訴審は、「共謀共同正犯の要件としての謀議 は,実行共同正犯におけるような意思の連絡では足りないが,当該犯罪について の客観的・具体的な謀議がある場合に限らず,その犯罪を共同して遂行すること の合意があることで足りる。そして,共同遂行の合意があったというには,被告 人の地位,立場,共犯者との関係,犯罪遂行過程における役割,犯行の動機等を 総合的に勘案し,他人の行為を利用して自己の犯罪を行ったといえるような場合 であることを要する」とし、被告人らの動機、役割などを認定した上で、「被告 人らは,自らは実行行為者とはならないものの,A運輸との間で同社以下の関 与者を使い,その行為を利用して自己の犯罪を行ったものというべきである。結 局,被告人らには
W
らとの共謀が認められる」として弁護人の主張を退けて(8)
いる。
従来の判例の整理
(1) これまで、未必の故意による共謀共同正犯の成立について、これを正面か ら論じた判例は存在しない。しかし、いくつか参考となる判例はある。まず、最 決平成4年6月5日刑集46巻4号245頁(以下「平成4年決定」という)は、未必 の故意による共謀共同正犯が認められた事例だとされている。この事案の被告人(9)
X、Y
はそれぞれ、被害者A
を「殺害することになってもやむを得ない」とい う認識があったとされている。そして、実際に被害者A
を刺した被告人X
が、「殺害することになってもやむを得ない」という認識を生じた時点での共謀の成 立を認めている。(10)
(2) 一方、大阪地判平13年3月14日判時1746号159頁(以下「大阪地裁判決」と いう)は、暴力団組長は直接の指示、命令はしていないものの、部下が護衛のた めにけん銃等を所持し、所持罪の共謀共同正犯が成立するかが問題になった事案 において、「親分にあっては、せいぜいけん銃等を所持する者が周囲にいるかも しれないという程度の漠然とした未必的認識(意思の連絡の基礎となる認識として はかなり薄弱なものというほかない。)を持つにすぎない」としており、未必の故 意では共謀共同正犯が成立しないかのような判示がなされている。(11)
また、最決平成15年5月1日刑集57巻5号507頁(以下「スワット事件決定」と いう)は、「被告人は,スワットらに対してけん銃等を携行して警護するよう直
(8) 本件控訴審・刑集61巻8号817頁〜819頁。
(9) 松田・前掲注2 202頁。
(10) 平成4年決定・刑集46巻4号248頁。平成4年決定控訴審・刑集46巻4号281頁。
(11) 大阪地裁判決・判例時報1746号(2001年)177頁。
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接指示を下さなくても,スワットらが自発的に被告人を警護するために本件けん 銃等を所持していることを確定的に認識しながら,それを当然のこととして受け 入れて認容していた」とし、確定的認識があったと認定し、被告人とスワットら との間には、「黙示的に意思の連絡があった」としている。(12)
(3) 上記3つの判例の特徴は、謀議行為そのものには重点を置かずに、被告人 の主観に重点を置いている点にある。平成4年決定では、被告人
Y
から具体的な 指示もあるが、その時点ではなく、被告人X
が「Aを殺害することもやむなし」との決意をした時点に共謀が認められている。大阪地裁判決では、共謀の有無に ついて、被告人は部下がけん銃等を所持して警護していたことを「認識し、これ を認容(許容)していたとするには、なお合理的な疑いが残る」として、共謀の 成立を否定している。スワット事件決定では、被告人はスワットらがけん銃等を 所持していることを「確定的に認識しながら,それを当然のこととして受け入れ 認容していたものであり,そのことをスワットらも承知していた」ので、「黙示 的に意思の連絡があった」とされている。
判例上、故意が共謀の成立にとって重要な要素であることに違いはないが、そ(13) れが未必の故意で十分かどうかについては、必ずしも明らかではなかった。未必 の故意は意思の連絡の基礎としては薄弱とする平成13年判決も、結論としては、
けん銃等所持の認識・認容がなかったことをもって共謀の成立を否定している。
また、スワット事件決定も、確定的認識を共謀共同正犯の要件としたわけでは
(14)
ない。
共謀概念と未必の故意
(1) では、共謀について、判例はどのように考えてきたか。最大判昭和33年5 月28日刑集12巻8号1718頁(以下、練馬事件判決とする)は、共謀の意義、内容を 明らかにした判例である。最高裁は、「共謀共同正犯が成立するには、二人以上 の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を 利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実 行した事実が認められなければならない」とした。
練馬事件判決は、共謀の意義、内容として客観的な謀議行為、合意形成行為を 必要としているという見方もあり、共謀を客観的な謀議行為、合意形成行為であ(15)
(12) スワット事件決定・刑集57巻5号513頁。
(13) 小林充「共謀と訴因」『刑事公判の諸問題』(判例タイムズ社、1989年)31頁は、「共謀 は、要するに、犯行の時点までに形成された内心の意思状態にほかならないのであり、犯意 と同一ではないにしてもこれと同性格のもの」であるとする。
(14) 島田・前掲注1 159頁参照。
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るとする客観説は現在でも有力に主張されている。しかし、「共同遂行の合意」(16) をもって共謀とする主観説も実務上有力である。実際、上記平成4年決定を見て(17) も、客観的な連絡行為、合意形成行為に重点が置かれず、共謀者の決意が合致し た時点に共謀を認めているし、大阪地裁判決も、被告人の認識・認容に重点を置 いているように読める。スワット事件決定でも、「黙示的に意思の連絡」があっ たとしているのみで、具体的な連絡行為は認定されていない。
もっとも、主観説も、客観面を無視するものではない。謀議行為の存在が明ら かではない事案においては、「状況証拠により客観的に認められる関与者の意 思・意欲及び行動全体,組織ないし行為者集団における地位等を総合して,謀議 行為の有無及び共同犯行の意思の有無を判定することとならざるを得ない」。ま(18) た、共謀の有無を判断するための主観的要素の存在を「肯定させる客観的事情が なければ結局は共謀が否定されることになるから、事実認定の場面でいえば、客 観説との差異は大きくない」。(19)
(2) 最高裁が是認する控訴審判決は、共謀を「共同遂行の合意」であるとし、
この共同遂行の合意が認められるのは、自己の犯罪を行ったと言えるような場合 であるとしている。
自己の犯罪」という考え方は、共謀を認めるためだけの概念ではない。松本 判事によれば、この考え方は、共謀共同正犯か狭義の共犯かを区別する基準でも ある。共謀共同正犯成立の具体的要件との関係では、意思連絡の過程で、「それ ぞれが『自己の犯罪』であるという意識を持ち、その各自の意識が相互に認識さ れている」必要があり、そして、そのような主観に加えて、「自己の犯罪」とい えるだけの「客観的な要件を備えていなければならない」のである。(20)
従来の判例は、被告人の犯罪事実の認識・認容をもって共謀成立の要件とする 傾向があった。しかし、本件控訴審は、「自己の犯罪」という要件も加えた検討 を行なっている。このような観点からすれば、本件について、 未必の故意によ る共謀共同正犯が認められるか という問題設定は、不適切ないし不十分であ
(15) 岩田誠「いわゆる共謀共同正犯の成立要件ほか」『最高裁判所判例解説刑事篇昭和33年 度』(法曹会、1959年)405頁以下。
(16) 松原・前掲注2 118頁。
(17) 石井一正=片岡博「共謀共同正犯」小林充・香城敏麿編『刑事事実認定⎜裁判例の総合 的研究⎜(上)』(判例タイムズ社、1992年)343頁。上野智「事実認定の実証的研究」判例 タイムズ
No.254(1971年)14頁。小林・前掲注13 31頁など。
(18) 渡部尚「共謀共同正犯における共謀」研修
No.521(1991年)33頁。
(19) 石井=片岡・前掲注17 343頁。
(20) 松本時夫「共謀共同正犯と判例・実務」刑法雑誌第31巻第3号(1991年)318頁以下参 照。
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る。未必の故意は、理論的に考えても、共謀共同正犯を認めるための故意として 十分である。むしろ、 未必の故意のような心理状態のもとで「共謀」を肯定し うるのか という形で問題を設定すべきなのである。(21)
未必の故意という心理状態で共謀が可能か
(1) 以上のような問題設定に基づき、まず、本件被告人らと
W
との共謀につ いての控訴審の判断を再度確認しておきたい。控訴審によれば、共謀とは「共同 遂行の合意」である。この共同遂行の合意があったといえるためには、「自己の 犯罪を行っている場合」であることを要する。そして、自己の犯罪を行っていた かどうかは、「被告人の地位,立場,共犯者との関係,犯罪遂行過程における役 割,犯行の動機等を総合的に勘案」して決せられる。その上で、被告人らの動 機、犯罪遂行過程における役割などを示して、それらを総合すると、「被告人ら は,自らは実行行為者とはならないものの,A運輸との間で同社以下の関与者 を使い,その行為を利用して自己の犯罪を行ったものとい」え、「結局,被告人 らにはW
らとの共謀が認められる」とする。(22)(2) 弁護人は、未必の故意では「積極的な意思」といえず、共謀が成立しない と主張する。しかし、「積極的な意思」とは、「自己の犯罪を行う意思」だとする
(23)
見解があり、控訴審も、これをふまえて「自己の犯罪」という考え方を示したの であろう。犯罪の認識・認容である「故意」と、「自己の犯罪を行う意思」は、
別のものである。
また、弁護人は、「共同遂行の合意」が認められるには「実行行為者に犯行を 行なわしめたと評し得るような関係が必要であ」り、未必の故意ではこの関係が 肯定できないとも主張する。しかし、このような「関係」が必要かは疑問であ る。「自己の犯罪」という考え方からは、他人の行為を自己の手段として犯罪を 実現していればよいのであり、未必の故意でも、他人の行為を自己の手段として 犯罪を実現することは可能である。
このように、未必の故意では共謀が成立しないという主張は妥当とは思われな い。
(21) すなわち、本件では、「未必の故意しか認められない場合でも,共謀を認定することが できるか」(山元・前掲注2 29頁)という、共謀共同正犯における「共謀の成否」を問題 とすべきである(なお、長井・前掲注2
TKC
5頁以下、十河・前掲注2 33頁も、未必 の故意による共謀の成否を問題とする。)そして、後述するように、「相互認識」を問題とす るという意味で、本稿は、注2所掲の文献とは異なる観点から問題を検討するものである。(22) 本件控訴審・刑集61巻8号818、819頁。
(23) 石井=片岡・前掲注17 343頁。
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控訴審は、被告人らの動機を示すことで、被告人らが、Wに委託すれば不法 投棄に及ぶ可能性が強く認識できていたにもかかわらず、自己の利益のためには 不法投棄になっても「やむを得ない」として業務委託を行なっているのだから、
「自己の犯罪を行う(のもやむを得ない)」という意思があったといえる、と考え ている。そして、本件犯行の決定権は被告人らが握っていたこと、被告会社のみ が費用の拠出をしていること、不法投棄罪に問われることを理由とする業務委託 契約の解除通知を受け取った際も、搬出作業を続けていること、という被告人ら の役割といった客観的な事情の存在も示し、被告人らは、W及びそれ以降の関 与者を自己の手段として犯罪を実現したということができる、と考えているので ある。
控訴審は、被告人らの動機や役割などを総合すると、被告人らは
A
運輸以下 の関与者を利用して自己の犯罪を行っているということができ、結局、被告人ら とW
との間に共謀が認められるとする。本件では、「状況証拠により客観的に 認められる関与者の意思・意欲及び行動全体、組織ないし行為者集団における地 位等を総合して、謀議行為の有無及び共同犯行の意思の有無を判定する」という 方法で、被告人らとW
との共謀を認めている。このような方法は、これまでの 判例にも見られるものである。(24)(3) しかし、他人の行為を利用して自己の犯罪を行ったといえることが「共同 遂行の合意」を基礎付ける、という共謀の認定方法には疑問がある。共謀共同正 犯の成立には「相互認識」が必要であるとされるが、控訴審の示す要素は、被告(25) 人と
W
との「相互認識」を基礎付けるものではないように思われる。片面的共 同正犯を否定する立場からは、共謀共同正犯の成立には「相互認識」が必要であ(26) るが、本件では、Wが被告人らの意識を認識していたか、明らかではない。そ こで、本件において「相互認識」があるのか検討する。本件は、黙示の意思連絡による共謀だといえる。黙示の意思連絡とは、客観的(27) に犯罪事実が示されることのない意思の連絡であるが、具体的状況下においては 当事者間で意思の連絡ができる場合をいう。本件は、「ドラム缶の処理」につい ての明示の合意があるものの、「不法投棄」の合意については、黙示に行なわれ た事案であった。
(24) 松本・前掲注20 321頁以下参照。最決昭和57年7月16日刑集36巻6号695頁など。
(25) 例えば、藤木英雄「共謀共同正犯」『可罰的違法性の理論』(有信堂、1977年)344頁、
松本・前掲注20 320頁など。
(26) 判例は、意思の連絡のない片面的共同正犯は認めないという立場をとる(大判大正11年 2月25日大審院刑集1巻2号79頁)。
(27) 長井・前掲注2法セ 311頁以下参照。松原・前掲注2 119頁参照。
早法 84巻4号(2009)
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先に挙げたスワット事件決定も、黙示の意思の連絡を認めた判例であるが、被 告人は「スワットらが自発的に被告人を警護するために本件けん銃等を所持して いることを確定的に認識しながら,それを当然のこととして受け入れて認容して いたものであり,そのことをスワットらも承知していた」と、相互に認識があっ たことが認められている。
この点、本件のドラム缶処理委託をもって共謀が成立するという見解は、「『処 理の委託』が『不法投棄の依頼』をも含意している」として、共謀の成立を認め(28) ている。では、「処理の委託」が「不法投棄の依頼」と受け取れる具体的事情が、
本件ではどこにあるのであろうか。
そのような事情については、Wが被告会社から「正規の廃棄物処理業者を示 すように求められていた」とい
(29)
う点が重要になるであろう。この点に、被告人ら が
W
のことを信用しておらず、不法投棄のおそれを認識していたことをW
が 認識できる事情を見出すことができるように思われる。このようなやり取りが行 なわれる過程で、被告人らとW
との間に徐々に共謀が醸成され、最終的に、取 引の段階で「共同遂行の合意」が成立したといえよう。というのも、その段階に 至れば、Wは被告人らが不法投棄のおそれを認識していながら、自分に本件ド ラム缶の処理を委託してきたことを認識できたはずだからである。おわりに
本決定は、未必の故意のような心理状態においても「共謀」が成立することを 明確に示した点で意義がある。そして、控訴審段階ではあるが、共謀とは故意と 一体をなすものだという理解を否定し、「故意と同様に犯罪成立の主観的要件で あるが,その意味,役割は一応故意とは別個のものである」ということを示した(30) 点にも意義を見出すことができる。
控訴審は、被告人らが他人の行為を利用して自己の犯罪を行った、と認定する ことにより、共謀の存在を肯定している。しかし、共謀には意思の連絡(あるい は「相互認識」)という要素が必要である。意思の連絡を基礎付けるためには、
「客観的な行為」、もしくは「連絡が可能であった具体的な事情」という客観的な 要素の認定も、同時に必要となってくるのではなかろうか。控訴審が主観説を採 用していると思われることは妥当である。しかし、「自己の犯罪」を行ったとい えるような場合に「共謀」の存在を肯定することができるとし、「相互認識」が 必要であることが示されなかったのだとすれば、これは問題である。ただ、本件
(28) 松原・前掲注2 119頁。
(29) 本件控訴審・刑集61巻8号812頁。
(30) 山元・前掲注2 29頁。
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は、客観的事情に照らしてみれば、「相互認識」の存在を肯定しうる事案であっ て、結論自体は十分に支持できるものである。
本決定の検討を通じて明らかになってくるのは、従来、すでに解明しつくされ たと思われてきた共謀共同正犯における共謀の概念内容が、実務においても学説 においても、実はまだ完全には明らかになっていない、ということである。共謀 が認められるためには、何が必要なのか。主観的要素だけで足りるのか、客観的 要素は必要なのか、それらの内容はいかなるものか、必要な要素の相互関係はど うなっているのか。共謀概念について、今一度、理論的な検討が必要であるよう に思われる。
【付記】
本稿再校段階で、山本紘之「廃棄物の処理を委託した者が未必の故意による不 法投棄罪の共謀共同正犯の責任を負うとされた事例」法学新報115巻11・12号
(2009年)261頁に接した。
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