二面杢萌第二5誰言)
〔シンポジウム〕
内分泌疾患の臨床
内分泌性高血圧
東京女子医科大学ラジオアッセイ検査科・内科
教授 出 村 博
デ ムラ ヒロシ
(受付 昭和55年12月1日)
Hypertension due to Elldocrhユe Disorders
Hiroshi DEMURA, M.D.
Pro{ヒssor, Director
Radioassay Center, Tokyo Women,s Mcdical Collegc
Afew%of hypertension is caused by endocrine disorders. Most of theln are so called curable hypertension. several recent statistics in Japan reveal that diagnosis of endocrine hypertension is made correctly fbr only less than l/50f the actual cases. Measurements of plasma and urinary hormone mainly by radioimmunoassay at basal condition and in response to special provocation tests are of diagnostic value. Recent progress in diagnosis and therapy of primary aldosteronism, Cushing,s syndrome, congenital adrenal hyperplasia and pheochromocytoma was reviewed. Possibilities of involve−
ment of hormonal disorders in essential hypertension were described.
1.高血圧の定義と内分泌性高血圧
WHO(世界保健機構)の基準によれぽ,高血 圧は3回以上別の機会に血圧を測定して収縮期圧 が160mmHg以上または拡張期圧が95以上の場合 をいう.この基準に従えば全人口のおよそ8%は 高血圧を有しており,わが国ではその数はほぼ 1,000万人に達している.ところで高血圧の大部 分,3/4は病因不明のいわゆる本態性高血圧であ る(図1).残りの約1/4は高血圧の原因が明らか な続発性または二次性高血圧であり,その大部分 は慢性腎炎な:どの腎実質性病変による.ところ で高1血圧症全体の数パーセントはいわゆる治癒可 能鷹高血圧(curable hypertension)である.治癒
可態とは,腎または副腎に何らかのホルモン分泌 の異常があって,そのホルモン異常を正しく診断 して高血圧の原因を明らかにすれば,高血圧を完 全に治癒させることができるという意味である,
治癒可能な高血圧を正しく診断するためには,
尿蛋白,糖,血清電解質,心電図や眼底などの一 般検査のほかに,ホルモツの検査を行う必要があ る.血圧を上昇させるホル.モンの主なものはレニ ン,アンジ.オテンシン,アルドステロン,コルチ ゾール,アドレナリンやノルアドレナリγなどで ある.最近これらホルモンの測定法はラジオイム ノアヅセイなどの進展によって著しく簡便,迅速 化され,少量の血液や尿を採ってしらべれば治癒
治癒可能高血圧症(6%)
高血圧症の頻度 図1
※CAH:先天性副腎皮質過形成 治癒可能高血圧症のうちわけ 副腎が関与する高血圧の頻度
可能な高血圧は極めて正確に診断できるようにな った.これらのうち日常の診療上最も重要なのは 血漿レニン活性および血中アルドステロン値の測 定である.レニンは腎の傍糸球体装置で生成され る酵素で,血中に放出されるとアンジオテンシ ノーゲンという基質に作用してアンジオテンシン
(Ang)1をつくる(図2).レニンそのものは分 解され易いので,レニン活性は,生成されたAng Iの量で表している.Ang Iには血圧上昇作用は ないが,転換酵素の作用によりAng皿となると,
この物質は血管に作用して血圧を上昇させたり,
副腎皮質に作用してアルドステロンの分泌を促 す.血漿レニン活性が増加する代表的な疾患は腎
血管性高血圧と大動脈縮窄症で,治癒可能な高血 圧症の70〜80%を占めている.以下に副腎ホルモ
ン過剰によって起る高血圧を中心に述べる.
2.原発性アルドステロン症
大部分は副腎皮質にアルドステロン(Ald)を 産生する良性の腺腫(aldosterone producing ade−
noma APA)が生ずる結果, Na貯溜による高血 圧,K喪失による低K血脱力発作,四肢麻痺や 多飲多尿などを生ずる(図3).副腎が関与する 高血圧の中では最も高頻度にみられ,高血圧症全 体の0.5%位が本症であるとの報告もあり,わが 国でも数万人近くの本症が存在する可能性がある が,最:近厚生省特定疾患「ステロイド産生異常症 調査研究班」の1972〜1976年の5年間の統計に
レニン基質 転換酵素
\\婁ジオテンシン1 肝
アンジオテンシンII
尿,蟹白,糖 血清N馬K,
心電園 胸離x−P
レニン 雌漿レ藁ン猛牲
血中アンジ才テンシ薯
血中アンジ才デンシン莚
穣v瓢A(一崩法〉
尿津ア智鈷ナリン 豪中ノルア撫ナqン 取中v脚A
副 腎 崩寧アルドステロン
アルドステロン
愈中ア垂侮 ナリン貴 ノルアドレナ‡婁ン
蝕
諺ノ
遠位尿細管
図2 高血圧のホルモン検査法
1駕;三欝・轡碧
噛義鎌㌻毅纂
図3
謹乏、躍
原発性アルドステロン症における病態生理 ノ /ノ黙叢叢讐㌣
/
尿中K喪失
∠:薩甥
表1 アルドステロン症(除続発性)患者の症例数 (第二次全国実態調査)
病 因 男 i女 計
1.副腎腺腫 131 313 444(75.5)
2.副腎癌 1 1 2(0.3)
3.副腎過形成 18 27 45(7.7)
1)腺腫様過形成 9 15 24
2)びまん性過形成 8 5 13
3)記載なし 1 7 8
4.正常副腎 0 4 4(0.7)
5,異所性副腎腫瘍 0 0 0
6.不 明 17 32 49(8.3)
7.記載なし 21 23 44(7.5)
計 188 400 588(100。0)
よれぽ444例の本症が診断されているに過ぎない
(表1).ちなみに副腎に腺腫が存在せず,過形成 を示す広義の原発性Ald症である病因不明の特 発性Ald症も45例(7.7%)みられた.本症は中 年の女性に多いが,高血圧と低K血とを主徴とす
る患者の中には未発見の本症が多いと思われる.
本症を診断するためには血中または尿中Ald値 の高いこと,血漿レニン活性が低下していること と尿中17・OHCS排泄:量(または血中コルチゾー ル値)および17−KS排泄量が正常であることを 証明する(Connの診断基準)のが大切である.
3.クッシング症候群
中心性肥満,あから顔,座瘡,伸展性皮膚線 条,糖尿病,高血圧,無月経,多毛や精神異常 などを主徴とする疾患で,慢性のコルチゾール
(F)分泌過剰によって起る.F過剰を起こす病 因として,① 下垂体にACTHを産生する小腺 腫があって両側副腎皮質の過形成を来す,② 副 腎皮質にF産生腺腫がある,③肺癌などの悪性
腫瘍がACTH様活性を分泌して副腎皮質を刺
激する(異所性ACTH症候群)の3つの場合が ある(図4)が①が最も多い.①,②ともに中年 の女性に多い.クッシング症候群は高血圧症の 0.3%くらいを占めるとの統計があり,わが国でも3万人,少なくとも1万人位の本症が存在する と思われるが,厚生省特定疾患「下垂体機能障害 調査研究班」の1965〜1975年の10年間の集計では 1,000人ぐらいが診療されているに過ぎない.本 症の診断にはデキサメサゾン抑制試験やメトピロ
ン負荷試験を行なうことが大切である.本症では 多くの報告で約80%に高血圧がみられる.高血圧 の成因としてはFのミネラルコルチコイド作用が 第一に考えられるが,副腎皮質過形成よりも腺腫 において高血圧がやや高頻度にみられること,こ の際F分泌過剰の程度には両者間で差がなく,デ オキシコルチコステロン(DOC)やコルチコステ ロン(B)の関与も考えられる.演者らは以前F
罎
CRF分泌低下下垂体腺腫ACTH分泌増加
赤字が高血圧の頻度 青字:は低K血の頻度
副腎皮質
職欝
CRF分泌低下視床下部下垂体前葉(77%) (91%)(30%)(44%)
高血庄== 砥・:=K海・
過形成(50−80%) (80〜90%)
催主形成・窪
欝月読RF
ド
礁泌簸.
製・・
翻鵜副腎腫瘍(腺腫または癌)
日σ¢
コルチコステ虐ン
図4
冠
ACTH 三 活性 監・
副腎皮質過形成
異所性ACTH症候群 DOC lデオキシコルチコステロン クッシング症候群の病因と高血圧,低K血の頻度
過剰の際の昇圧物質に対する血管感受性の二進に は血中。−AMP/c−GMP比の低下が関与している ことを報告した.なお本症における治療後の高血 圧の予後について,共同研究者前田らがしらべた 結果では,副腎皮質過形成では徐々に降圧した が,副腎腺腫では腺腫摘出後速やかに正常に復し た(図5),
4.先天性副腎皮質過形成
副腎皮質ホルモンの生合成に必要な酵素が先天 的に欠乏する病態で,主なもの6種が知られてい るが,高血圧を生ずるのは2種である(図6).
第1は11β・hydroxylaseの欠乏による場合でDOC の過剰によって高血圧と低K血が生じ,また副腎
mmHgSBP 200
150
100
1ope「ation 。下垂体腺腫
△副腎腺腫
・降圧剤投与例
\く\
、
ミ叢
一
アンドロゲン過剰により女児では外性器の男性 化,男児では性早熟などの副腎性器症候群を呈す る.第2は17α一hydroxylaseの欠乏による場合
で,DOCおよびBの過剰によって高血圧を生
じ,性ホルモン欠乏によって二次性徴の欠如が起
る.
5.褐色細胞腫
副腎髄質ホルモンであるアドレナリン(A)や ノルアドレナリン(NA)の分泌過剰により,頭 痛,動悸,視力障害,発汗,体重減少や糖尿病な
どを主徴とする(図7),高血圧は全例で見られる が,持続型と発作型に2大別される.持続型が70
%を占め若年者に多いのに対して,発作型は30%
・テー・ア・・産生腫・(副腎髄質85%副腎外ユ5%)
腫瘍かちのカ テコールアミ ン大量放出
交感神経末端に蓄積された 多量のカテコールアミンが 刺激(体動,喫煙や精神感 動たど)で放出
頭痛,動悸,視力障害,発汗,やせ,
嘔気,全身倦怠怠感,めまい,胸腹痛
……ll…ii…iii…馨鍵i…iiiii
0
図5
1M 3M 6M IY 2Y 3Y (期 間)
Cushing症候群の術後の血圧変化
職潔鋳藷鞍三
軸
茎漬獄馨鱗膿糞ミ彰 薮傷心繊試嬢階種
下7 褐色細胞腫と高血圧
;騰二翻隷躍症}にお・・るホルモ・の増減を示す
〆蟻羅翫三欝評
輪編無鞭蒙ジ
、
※性腺でも性ステロイドが生成されない 図6 高血圧を呈する先天性副腎皮質過形成の2型の病態生理
CH20H と。
H3C
HO 一一〇H O H3C H3C
CH20H
とD H3C 一一〇H
16β・hydroxydehydroepiandrosterone
O
十
〇 II O 点
5α・dihydrocortiso1 5α・dihydrocortisone
しUllckら)
図8 チコイド
HO
OH
(Liddleら)
低レニン性本態性高血圧症の病因としてあげられた未知のミネラロコル
で高齢の女性に多くみられる.本症は高血圧全体 の0.2%位を占めるとの推定があり,わが国でも 2万人位の患者が存在することになるが,実際 に報告されているのはその1/10以下である.外来 における本症のスクリーニング試験としては尿
1滴を用いて髄質ホルモンの代謝物であるVMA
(vanlmandelic acid)を証明する方法が有効であ るが,診断確定のためには,尿中カテコラミン
(アドレナリンとノルアドレナリン)の1日排泄 量が100μ9以上であることをしらべることが大 切である.カテコラミンの測定は未だRIAによ つては成功していないが,化学的測定法が著しく 進歩し,感度は通常のRIAに匹敵するので,血 中値の測定も可能となった.但しカテコラミンの 血中半減期は極めて短いので,測定値の判定には 注意を要する.
6.他のホルモン異常と高血圧
成長ホルモン(GH)過剰によって惹起される 末端肥大症でも約30%に高血圧がみられる.そ の病態はよくわからないが,おそらくGHめNa 貯溜作用によるものと考えられる.本症に高血圧 を伴う場合には一般に血漿レニン活性は低下して いる.心血管系障害や糖尿病を合併することが多 いためか,GH過剰が除去されても,高血圧の改
善は一般に思わしくない.
このほか甲状腺機能充進症,妊娠時,経口避妊 薬投与時の高血圧もホルモン異常によるがその詳 細は割愛する。
7.本態性高血圧症におけるホルモン異常 本症の約1/3は低レニン性(1・wrenin essential hypertension LREH)である. mEHは加齢,人 種(黒人で高率),食塩摂取量などによって発生 頻度が左右され,heter・geneityが存在すること が指摘されている.しかしその一部は未知のミネ ラルコルチコイドによると主張するものがあり,
図8に示したものがあげられたが何れも確実でな
い.
最近EH患者では降圧物質であるキニン,カ リクレインやプロスタグランディンなどの排泄量 が有意に低下しているとの報告もみられる.
8. まとめ
高血圧症の数パーセントは明らかなホルモン異 常によるが,最近のわが国の調査結果をみても正
しく診断されて適切な治療を受けているのは数分 の一に過ぎない.一方高血圧症の大部分を占める 本態性高血圧症についても,未知のミネラルコル チコイドの過剰や,降圧物質の減少など,ホルモ
ンの関与も示唆されている.