は じ め に 一 九九 七年 に東 アジ ア 諸国 を襲 った 通貨 危機 は
︑こ の地 域 の諸 国に
︑経 済相 互依 存 の現 実と 新た な地 域協 力 の必 要性 を 再認 識さ せた
︒そ して
︑ 危機 を克 服す るた めの さ まざ まな 施 策が 講 じら れる な かで
︑﹁ 東ア ジア
﹂ とい う新 た な地 域概 念 が 形成 さ れて くる
︒六
〇年 代以 降の 東南 アジ ア諸 国連 合︵ A S E A N
︶ の 発展 を 背景 に﹁ 東南 アジ ア﹂ 地域 概念 が 形成 され
︑ 八〇 年 代以 降︑ 経済 相互 依存 と太 平 洋経 済協 力会 議︵ P E C C
︶ な どの 地域 組織 に よっ て育 まれ
︑ア ジア 太平 洋経 済協 力 会 議︵ A P E C
︶ や A SE A N地 域フ ァ ーラ ム︵ A R F
︶ に 結実 す る﹁ アジ ア 太平 洋﹂ 地 域概 念に 加え て︑
﹁ 東ア ジア
﹂ と い う地 域 概 念が 今 日︑ 形 成 され つ つあ る
︒﹁ A S E AN
+ 3
︵ 日 中 韓
﹂︶ 協力 の 枠組 みは この 具体 的な 事例 であ る
︵ 1
︒︶
A SE AN
+3 は︑ 一九 九 九年 一一 月の マニ ラ での 首脳 会 議に おい て︑ 東ア ジア 協力 に 関す る共 同声 明を 発 表し
︑こ の フォ ーラ ムが 取り 上げ る対 象 を八 つの 分野 とす る こと で合 意 する
︵2
︒︶
こ のリ スト が示 すよ う に︑ AS EA N+ 3 はA PE C やA RF より もは るか に包 括 的な 分野 を協 力の 対 象に 取り 上 げる こと にな って いる
︒昨 年 の首 脳会 議で は﹁ 東 アジ アF T A
︵ 自 由 貿 易 協 定
︶ 締 結 構 想
﹂や
﹁ 東 ア ジ ア サミ ッ ト 構 想
﹂ を検 討す るこ とに も合 意し た
︵ 3
︒︶
欧州 統合 の進 展や 米州 自 由貿 易圏
︵ F T A A
︶ 創設 の合 意 な ど︑ 地域 統合 と同 時に 地域
︵ 主 義
︶ 間 の競 争が 激し くな る なか で
︑﹁ 東ア ジア
﹂を 基 盤と した 地 域主 義の 強 化を 促す 国際 政治 経済 環境 が確 かに 存在 す る︒ しか し同 時に
︑ 東ア ジア も
﹁ 東 ア ジ ア
﹂ 地 域 主 義 の 可 能 性
│ A S E A N
+ 3
︵ 日 中 韓
︶ の 経 緯 と 展 望
菊
池
努
かつ ての
﹁相 互補 完的
﹂ な経 済関 係か ら︑ より 競 争的 な経 済 関係 へと 移行 しつ つあ る
︒中 国と AS EA Nと の 産業 競争 は 激化 し つつ ある し︑ 最近 の日 中韓 の
﹁セ ーフ ガー ド︵ 緊 急 輸 入 制 限 措 置
﹂︶ をめ ぐる 紛 糾は
︑今 後東 アジ ア域 内 にお いて も 経済 摩 擦が 激化 す るこ とを 予 想さ せる
︒朝 鮮半 島
︑台 湾海 峡
︑ 領土 紛争
︑米 国の プレ ゼ ンス など をめ ぐる 関係 国 の思 惑の 違 いも 顕 著で ある
︒ した がっ て
︑﹁ 東ア ジア 協力
﹂ がど こま で 実 体を 伴っ た もの とし て発 展す るか は依 然不 透 明で ある
︒ 本 稿で は︑ AS EA N
+3 の新 たな 地域 協力 の 枠組 みの 形 成過 程を 検証 し︑ この フ ォー ラム の可 能性 と課 題 を指 摘し た い︒ 本稿 は︑ 初め にA S EA N+ 3の 制度 化を 先 導し た金 融 通貨 の 分野 での 日 本の 関与 を 検討 する
︒次 いで
︑ 中国
︑韓 国
︑ AS EA Nの 対応 を分 析 し︑ 最後 にア ジア 太平 洋 の制 度相 互 の関 係に 焦 点を あて てA SE AN
+3 の今 後 を展 望す る︒
︵ 1
︶ 大 庭 三 枝
﹁ 地 域 主 義 と 日 本 の 選 択
﹂︑ 末 廣 昭
・ 山 影 進 編
﹃ ア ジ ア 政 治 経 済 論
﹄︑ N T T 出 版
︑ 二
〇
〇 一 年
︒ 菊 池 努
﹃ A P E C
│
ア ジ ア 太 平 洋 新 秩 序 の 模 索
﹄︑ 日 本 国 際 問 題 研 究 所
︑ 一 九 九 五 年
︒ ま た
︑ 大 庭 三 枝
・ 山 影 進
﹁ ア ジ ア
・ 太 平 洋 地 域 主 義 に お け る 重 層 的 構 造 の 形 成 と 変 容
﹂﹃ 国 際 問 題
﹄ 第 四 一 五 号
︵ 一 九 九 四 年 一
〇 月
︶︑ 二
│ 二 八 ペ ー ジ も 参 照
︒
︵ 2
︶JointStatementonEastAsianCooperation,28November
2000.
八 分 野 と は
︑ 経 済
︑ 通 貨 金 融
︑ 社 会 人 材 育 成
︑ 科 学 技 術
開 発
︑ 文 化 情 報
︑ 開 発 協 力
︑ 政 治 安 全 保 障
︑ 国 境 を 越 え る 問 題 で あ る
︒
︵ 3
︶
﹁ 東 ア ジ ア F T A 構 想
﹂ の 検 討 は A S E A N
+ 3 の 場 で 検 討 す る こ と に な っ た が
︑ こ れ は A S E A N
+ 3 か ら な る F T A の 可 能 性 を 検 討 す る こ と を 必 ず し も 意 味 し な い
︒﹁ 東 ア ジ ア
﹂ の 範 囲 そ の も の も 検 討 の 対 象 で あ る
︒ し た が っ て
︑﹁ 地 理 的 範 囲
﹂︵ 例 え ば 台 湾 の 扱 い
︶ を め ぐ っ て 対 立 が 生 ま れ る 可 能 性 も あ る
︒﹁ 東 ア ジ ア サ ミ ッ ト
﹂ に も 同 じ 問 題 が 内 在 し て い る
︒ 一 通 貨 危 機 と 日 本
︵ 1
︶ 通 貨 危 機 と 日 本 の 経 済 支 援 策 A SE AN
+3 首脳 会議 が 初め て開 催さ れた の は一 九九 七 年一 一月 であ る︒ この 会合 の そも そも の発 端は
︑ 同年 一月 に 橋本 龍太 郎首 相が AS EA N 発足 三〇 周年 に際 し て日 本と A SE AN との 首脳 会合 の 開催 を提 案し たこ とに あ る︒ 日本 の 提案 に対 して AS EA N 側か ら日
・中
・韓 の首 脳 を同 時に 招 待し たい との 提案 がな さ れ︑ AS EA Nと 三ヵ 国 首脳 の会 議 が開 催さ れ た︒ A S E A N と 日 中 韓 の 対 話 は
︑ A S E A N 拡 大 外 相 会 議
︵ P M C
︑︶ AP E C︑ アジ ア欧 州 会合
︵ A S E M
︶ な どの 場 で行 なわ れて きた
︒し かし
︑ それ がA SE AN
+ 3と いう 形 で制 度化 され るに は通 貨危 機 と︑ 通貨 危機 を契 機 とす る日 本
をは じめ とす る関 係諸 国 の積 極的 な﹁ 東ア ジア
﹂ への 関与 が あっ た︒ 通 貨危 機を 契機 に日 本 は︑ 経済 支援 など を組 み 合わ せな が ら︑ 東ア ジア の新 しい 制 度作 りに 重要 な役 割を 果 たす
︒通 貨 危機 後
︑日 本は 金融 面 の支 援︵ 資 金 の 提 供
︶ と 実体 経 済面 の 支援
︵ 人 材
・ 技 術
︑ 構 造 改 革 で の 協 力
︶ のそ れ ぞれ の分 野で ア ジア 諸国 に対 する 支援 を 強力 に推 進し た︒ 資金 面 では
︑国 際 通貨 基 金︵ I M F
︶ と並 行し た国 際収 支支 援 策︑ 信用 収縮 に 悩 む 民 間 企 業 の 活 動 を 支 援 す る た め の 産 業 金 融
︑ 企 業 の 生 産・ 輸入
・投 資等 の継 続 に資 する ため の貿 易金 融
︑社 会的 弱 者支 援な ど︑ さま ざま な 分野 で日 本は アジ ア諸 国 への 支援 を 積極 化す る
︒ 資 金面 での 支援 と並 行 して 日本 は︑ アジ ア諸 国 の実 体経 済 面で の基 盤強 化に も力 を 注ぐ
︒日 系企 業な ど によ る中 核的 人 材の 雇用 確保 と能 力向 上 を支 援す るた めの 現 地研 修︑ 日本 企 業の 海外 子会 社の 経営 基 盤強 化に 必要 な運 転 資金 を国 内親 企 業を 通じ て行 なう ため の 特別 貸付 制度
︑ア ジ ア諸 国の 経済 活 動維 持に 不可 欠な 部品 や 原材 料の 輸入 を維 持 する ため の貿 易 保険
︑民 間の 信用 収縮 に 対応 し︑ 政府 部門 の 資金 繰り
・資 金 調達 を支 援す るた め の貿 易保 険︑ 経済 構造 改 革支 援の ため の
﹁特 別円 借 款﹂ など
︑包 括 的な 支援 策を 大規 模に 実施 する
︒
︵ 2
︶ 日 本 と ア ジ ア の 金 融 通 貨 制 度 二 国間 ベー スの 支援 策や 閣 僚級 の協 議を 強化 す る一 方で 日 本は
︑ア ジア の金 融通 貨シ ス テム を強 化す るた め の地 域的 な 制度 の構 築に 動く
︒そ もそ も アジ ア諸 国の 通貨 を 安定 化さ せ る ため の地 域的 な制 度構 築の 構想 が日 本︵ 大 蔵 省
︶ で 検討 さ れた の は通 貨危 機 に先 立つ 一九 九六 年 秋で あっ た と言 われ る
︵ 1
︒︶
その 背景 には 九四 年の メキ シ コの 通貨 危機 があ っ た︒ 当時 の 問題 意識 は︑ アジ アの 一部 で 同様 の危 機が 起こ っ た場 合に 米 国や IM Fが メキ シコ の際 の よう な迅 速な 対応 を する とは 考 えら れな かっ たこ と︑ そ の一 方で アジ ア諸 国は 外 貨の 保有 額 だけ をみ ても 危機 に対 し て当 事者 とし て対 応で き る十 分な 能 力を 有し てい るこ と︑ し たが って
︑危 機の 際に ア ジア 諸国 の 力 を 結 集で き る 枠 組 み︵ 資 金 供 給 機 能
︶ を 作 るべ き で あ る
︑ とい うこ とに あっ た︒ 検討 の 結果
︑九 七年 初め に は一 応の 案 が作 成さ れて いた とい う
︵ 2
︒︶
だ が︑ そう した 構想 を関 係 諸国 が協 議す る前 に
︑タ イを 通 貨危 機が 襲う
︒日 本は
︑緊 急 の支 援策 をI MF 中 心の 従来 の 枠組 みの なか で処 理し よう と する
︒実 際︑ 日本 政 府は タイ か らの 直接 的な 支援 要請 に 対し てこ れを 断わ り︑ I MF との 協 議を 促す
︒八 月に 東京 で タイ に対 する 金融 支援 会 議が 開催 さ れ︑ IM F を中 心と した 緊 急支 援策 がま とま る︒
I MF を軸 に形 成さ れ たこ の支 援策 は︑ その 後 のア ジア の 協力 にと って 大き な意 味 を有 して いた
︒タ イの 流 動性 不足 額 は一 四〇 億ド ルと 見積 も られ てい たが
︑こ れに 対 して IM F の四
〇億 ドル を軸 にア ジ ア諸 国が タイ 向け に二 国 間支 援を 行 なう 形で
︑最 終的 に総 額 一七 二億 ドル のタ イ 支援 策が まと ま る︒ この 支援 策に は欧 米 諸国 は参 加せ ず︑ 国 際機 関︑ 地域 機 関の ほか は アジ ア諸 国の みが 参加 する こと にな った
︵ 3
︒︶
こ の経 緯は
︑そ の後 の 金融 支援 のあ り方 にい く つか の影 響 を与 えた
︒第 一に
︑ア ジ アの 通貨 危機 に対 して ア ジア 諸国 同 士が 結束 して 対処 しう る 能力 を有 する こと
︑第 二 に︑ IM F と協 調す る形 であ れば
﹁ アジ ア主 体﹂ の金 融協 力 にI MF も 米国 も支 持 を与 える こと
︒
︵ 3
︶
﹁ ア ジ ア 通 貨 基 金
︵ A M F
︶﹂ 構 想 タ イに 対す る﹁ アジ ア 主体
﹂の 支援 策の 合意 は
︑日 本政 府
︵ 大 蔵 省
︶ のな か にか ね てよ りあ った
︑こ の地 域の 豊富 な資 金 を活 用し た 地域 的 な資 金 供与 の メカ ニ ズム
︵﹁ ア ジ ア 通 貨 機 構 構 想
﹂︶ 作り の動 きを 加 速化 させ る
︵ 4
︒︶
国際 的な 資金 の圧 倒的 な 力 に対 し て アジ ア 諸国 に
﹁ 安全 弁
﹂を 提 供 する 必 要が あ る
︑ とい うの がこ の構 想の 推 進役 であ った 日本 の大 蔵 省の 判断 で あっ た︒ それ らの 理由 を まと めれ ば以 下の よう に なろ う︒ 第 一に
︑ 通貨 危機 は 他の 諸国 に
﹁伝 染﹂ す る可 能性 があ るこ と
︒
第二 に︑ アジ ア諸 国が 危機 に 直面 した 際に
︑ア ジ アの 域外 に 支援 資金 を求 める こと が困 難 であ るこ と︒ 実際
︑ アジ ア諸 国 は IM Fの クオ ータ
︵ 割 り 当 て
︶ が小 さく
︑I M Fか らの 多 額の 支援 は期 待で きな いこ と
︒ま た︑ アジ ア諸 国 への 支援 が 国 内で 政 治 的な 対 立を 引 き 起こ す 可能 性 が 高い 諸 国も あ り
︑ 恒常 的な 制度 の確 立が 望ま しい こと
︵ 5
︒︶
最 初に AS EM 蔵相 会議
︑ 次い で一 九九 七年 九 月に 香港 で 開か れた IM F/ 世界 銀行 総 会の 場外 で︑ この 構 想が 議論 に なる
︒タ イと マレ ーシ ア︑ イ ンド ネシ アな どの 諸 国の 蔵相 や 日本 の民 間企 業は
︑日 本 政府 の一
〇〇 億ド ルの 資 金提 供を 中 核 とす る ア ジア の 通貨 機 構 構想 に 対し て 強 い支 持 を与 え た
︒ だが
︑﹁ モラ ル ハザ ード
﹂﹁ IM Fの 機能 との 重複
﹂ 等の 反論
︑ 米 国や 中国 の反 対に 直面 して
﹁ア ジア 通 貨基 金︵ A M F
︶ 構 想﹂ は頓 挫︑ 一一 月の
﹁マ ニ ラ・ フレ ーム ワー ク
﹂と いう 代 替案 で合 意し
︑A MF 設立 構 想は いっ たん 動き を 止め るこ と にな る
︵ 6
︒︶
この 間 の 経緯 に つい て は 依然 と して 不 明 な部 分 が多 い が
︑ あえ てま とめ れば
︑I MF と の関 連で 二つ の問 題 が鍵 であ っ たと 言え よう
︒第 一に
︑融 資 条件 面で のI MF 支 援と の整 合 性の 問 題︒ すな わ ち﹁ モラ ルハ ザー ド
﹂の 問題 で ある
︒た だ
︑ 確か に日 本の 構想 に対 する ア ジア 諸国 の支 持の 背 景に は︑ I
MF の支 援に 伴う
﹁内 政干 渉︵ 融 資 条 件
﹂︶ への 強 い懸 念が あ った のは 事実 だが
︑日 本 の構 想も また
︑I MF 同 様に 協力 の 前 提と し て 融資 条 件を 付 け るこ と が予 定 さ れて い た︒ 実 際
︑ 九月 下旬 に骨 子が 示さ れ たA MF 構想 も︑ IM F との 協調 を 原則 と する
︑と 謳 われ てい た とい う
︵ 7
︒︶
第二 は︑
﹁ 制度
﹂の 問 題 であ る︒ 仮に IM Fと の 協調 を前 提と した もの で あれ
︑い っ たん でき 上が った 制度 は 政治 経済 的条 件の 変化 に 応じ て内 部 のル ール や規 範が 変化 す る︒ した がっ て︑ AM F は将 来I M Fと の関 係を 弱め るこ と もあ りう る︒ これ が米 国 やI MF の 疑念 を生 ん だと 考え られ る︒ か くし てA MF 構想 は 実現 せず に終 わる が︑ 構 想そ のも の は決 して 消え たわ けで は なか った
︒I MF な どの 提供 する 資 金量 に制 約が ある なか で
︑日 本政 府は 危機 に 直面 した 諸国 に 対し て
︑主 とし て 二国 間援 助 の形 で豊 富 な資 金を 提供 し続 け
︑ その 額は 一九 九八 年一 一 月ま でで 四四
〇億 ド ルに のぼ る︒ 一 方︑ アジ ア諸 国か らの A MF 設立 の要 求は 強 く︑ 日本 政府 に 対し てさ まざ まな ルー ト を通 じて 実現 への 積 極的 な取 り組 み を求 める
︒ I MF の提 示し た処 方 箋が
︑少 なく とも 短 期的 には 当該 国 の政 治経 済や 社会 環境 を 劇的 に悪 化さ せて し まっ たこ とへ の 批判 の高 まり も︑ AM F 構想 を後 押し する
︒ IM Fの 提示 し
た処 方箋 は危 機の 伝染 を 防げ なか った ばか りか
︑ 当該 国の 政 治経 済を 激し く動 揺さ せ た︒ この 結果
︑I M Fの 経済 再建 策 に対 す る批 判 が高 まり
︑危 機の 悪化 を 防ぐ には
︑国 際︵ 地 域
︶ 社会 から の十 分な 資金 支援 の ほう が先 決で ある と の認 識が 強 まる
︒ま た︑ 仮に 今回 の危 機 が国 際金 融の 変化 に 由来 する も ので ある とす れば
︑危 機に 備 えて の地 域協 力の 仕 組み を構 築 する 努力 を開 始す る必 要が あっ た︒
︵ 4
︶
﹁ 新 宮 澤 構 想
﹂ こ うし た要 請に 対す る日 本 の最 初の 対応 が︑ 一 九九 八年 一
〇月 の﹁ 新宮 澤構 想﹂ であ る
︒こ の構 想は
︑危 機 への 直接 的 な対 処に 追わ れて きた 日本 が
︑中 長期 的な 観点 か らア ジア 諸 国の 経済 的困 難の 克服 と
︑国 際金 融資 本市 場の 安 定化 を図 る ため に打 ち出 した もの であ る
︵ 8
︒︶
とこ ろで
︑﹁ 新宮 澤構 想
﹂は 二国 間 ベー スで の 協力 に主 眼が あり
︑地 域的 な制 度の 構築 と いう AM F構 想と は 異な るも の であ っ たこ とに 留 意す べき であ ろう
︒ また
︑﹁ 新 宮澤 構想
﹂の 一環 とし て日 本は
︑マ レー シ アや 韓国 との 間で 外 貨準 備を 利 用し たス ワッ プ取 り決 めを 結 び︑ 危機 に際 して の 通貨 供給 を 保証 する が︑ そこ には IM F の支 援と の連 携は 融 資条 件と し て盛 られ てい なか った こと も 指摘 して おき たい
︒ 日本 はA M F設 立を 求め るア ジア の 声に は慎 重に 応じ つつ
︑ 二国 間支 援
を通 じて ア ジア の期 待に 応え よう とし たの で ある
︒ ア ジア 経済 が当 初の 外 貨流 動性 危機 を乗 り切 る と︑ 危機 に 備え ての 地域 的な 資金 の 融通 メカ ニズ ム作 りと 並 行し て日 本 は︑ アジ ア諸 国の 実体 経 済の さら なる 低迷 への 歯 止め と長 期 的な 発展 のた めの 政策 を 実施 する
︒一 九九 九年 五 月に 日本 政 府 が表 明 し た﹁ 新 宮澤 構 想
﹂の 第 二ス テ ー ジが そ れで あ る
︒ この 骨子 は二 つあ る︒ 一 つは
︑実 体経 済の 本格 的 な回 復を 確 実に する ため の民 間資 金 を積 極的 に活 用す る ため の支 援策 で ある
︒日 本の 豊富 な民 間 資金 を本 格的 にア ジ ア諸 国に 還流 さ せる こと が重 要で ある と して
︑ア ジア 諸国 の 国際 金融
・資 本 市場 から の資 金調 達を 支 援す るた めに
︑日 本 輸出 入銀 行を 通 じて アジ ア諸 国が 民間 金 融機 関か ら行 なう 借 り入 れに 対す る 保証
︑ア ジア 諸国 が発 行 する 公債 に対 する 保 証︑ 輸銀 によ る 公債 の取 得 など の方 策が 挙げ られ た︒ 第 二は
︑民 間資 金の 動 員を 図る にあ たっ て
︑短 期ド ル資 金 への 過 度の 依存 が 今回 の危 機 をも たら し たと の認 識 に立 って
︑ 将来 にわ たっ て通 貨危 機 に陥 りに くい
﹁安 定 的か つ強 靭な 金 融シ ステ ム
︵ 資 金 調 達 メ カ ニ ズ ム
︶﹂ を アジ ア 域内 に 構築 す る ため の支 援策 であ る︒ 通 貨危 機を 引き 起こ した
﹁ 元凶
﹂と み られ た 過激 な国 際短 期 資本 移動 の影 響を 受け にく くす る︵
﹁ 隔 離 戦 略
﹂︶ ため に
︑域 内 の民 間資 金の 活用 を最 大化 して 域外 へ
の依 存度 を 減ら し
︑域 外 から は
﹁良 質 の﹂︵ 長 期
︑ 域 内 通 貨 建 て
︶ の 資金 流入 を促 進し
︑安 定 的な 金融 シス テム を構 築す る 必要 があ ると 考え られ た︒ こ の一 環と して
︑ア ジ ア域 内に お いて 債券 市場 を整 備・ 育成 す るこ とが 急務 であ り
︑日 本と し てサ ムラ イ債 発行 の促 進
︑国 債市 場お よび 決済 シ ステ ムの い っそ うの 整備 を通 じて 東 京市 場の 活性 化を 進め る こと が求 め られ た︒
︵ 5
︶
﹁ チ ェ ン マ イ
・ イ ニ シ ア テ ィ ブ
﹂ 危 機に 際し ての 資金 供給 能 力を 強化 する ため の 地域 的な 枠 組み 作り は︑ 昨年 五月 にタ イ のチ ェン マイ で開 催 され たA S EA N+ 3蔵 相会 議に おい て
︑い わゆ る﹁ チェ ン マイ
・イ ニ シア ティ ブ﹂ に結 実す る
︒こ のイ ニシ アテ ィブ は
︑A SE A N がす でに 有し て いる AS EA N スワ ップ 協定
︵ 外 貨 融 通 協 定
︶ お よび 日中 韓が それ ぞれ A SE AN 各国 と二 国間 ベー ス で締 結す るス ワッ プ取 り決 め をネ ット ワー ク化 し よう とい う もの であ る
︵ 9
︒︶
AM Fと いう
﹁ 機構
﹂の 構築 には 慎 重な 立場 を 堅持 しつ つ︑ 二国 間の 支援 ネ ット ワー クを 構築 し てA MF が 果た すべ き機 能を 代替 させ よ うと した ので ある
︒ これ によ っ て︑ この 地域 で通 貨危 機 が発 生し た場 合に は︑ 二 国間 のス ワ ップ 協定 が一 斉に 発動 さ れて
︑危 機に 見舞 われ た 諸国 に十 分 な資 金が 提 供さ れる こと に なる
︒
こ こで 注意 すべ きは
︑ この 合意 は︑ IM Fな ど の既 存の 国 際 制度 を 補 完す る もの で あ ると の 位置 付 け がな さ れて お り
︑ アジ アの 一部 の諸 国が 期 待し たよ うな
︑I MF と 離れ て危 機 に直 面 した 諸国 に 資金 を供 給 しよ うと いう もの で はな かっ た
︒ この 合意 に 基づ き︑ 一〇 月の 蔵相 代理 会議
︵ 北 京
︶ で さら に 協議
︑協 定締 結の ため の 基本 合意 書が 作成 され る
︒こ れに よ れば
︑支 援総 額の 一割 は IM Fの 経済 プロ グラ ム とは 無関 係 に実 施し
︑残 り九 割は I MF プロ グラ ムの 受け 入 れを 条件 と する こと と なっ た︒ ス ワッ プ協 定を 契機 に 東ア ジア でよ り進 んだ 金 融通 貨協 力 を模 索す べき だと いう 声 は域 内で 強く
︑実 際
︑本 年一 月に 開 催さ れた AS E M蔵 相会 合︵ 兵 庫
︶ では
︑地 域通 貨調 整メ カ ニズ ムに つ いて 欧州 共 同体
︵ E C
︹ 欧 州 連 合: E U
︺︶ の歴 史 的経 験に 学 ぶた めの 作業 部会 の設 置が 合意 さ れた
︒
︵ 1
︶ 篠 原 興
﹁ 地 域 協 力 と し て の ア ジ ア 通 貨 機 構
﹂﹃ 日 本 経 済 研 究 セ ン タ ー 会 報
﹄ 一 九 九 九 年 一 二 月 一 日
︑ 四
│ 九 ペ ー ジ
︒
︵ 2
︶ 同 右 参 照
︒
︵ 3
︶ タ イ 支 援 パ ッ ケ ー ジ に は オ ー ス ト ラ リ ア も 参 加 す る
︒
︵ 4
︶
﹁ ア ジ ア 通 貨 基 金
﹂ 構 想 の 背 後 に は
︑ 東 ア ジ ア 諸 国 と の 関 係 改 善 を 通 じ て
︑ 日 本 は 相 対 的 に 米 国 か ら
﹁ 自 立
﹂ す べ き で あ る と の 思 惑
︑ 別 言 す れ ば
﹁ 米 国 に 対 し て 最 後 に 切 る カ ー ド
﹂ を も つ べ き で あ る と の 意 向 が 働 い て い た よ う で あ る
︒ A M F 構 想
の 背 景 を 知 る う え で
︑ 当 時 こ の 構 想 の 牽 引 役 で あ っ た 榊 原 英 資 氏 の 以 下 の 座 談 会 で の 発 言 は 興 味 深 い
︒﹁
︿ 座 談 会
﹀ 新 世 紀 を 迎 え る 日 本 外 交
﹂﹃ 国 際 問 題
﹄ 第 四 九
〇 号
︵ 二
〇
〇 一 年 一 月
︶︒ ま た 榊 原 英 資
﹃ 日 本 と 世 界 が 震 え た 日
﹄︑ 中 央 公 論 社
︑ 二
〇
〇
〇 年 も 参 照
︒
︵ 5
︶ 大 蔵 省
︵ 現 財 務 省
︶ 関 係 者 か ら の ヒ ア リ ン グ
︒
︵ 6
︶ 大 庭 三 枝
︑ 前 掲 論 文 参 照
︒
︵ 7
︶ 大 庭 三 枝
︑ 前 掲 論 文 参 照
︒
︵ 8
︶ 短 期 資 金 需 要 に 対 し て 一 五
〇 億 ド ル
︑ 円 借 款
・ 輸 銀 融 資 等 の 中 長 期 一 五
〇 億 ド ル
︒ 輸 銀 融 資 の 供 与
︑ ア ジ ア 諸 国 の 発 行 す る ソ ブ リ ン 債 の 輸 銀 に よ る 取 得
︑ ア ジ ア 諸 国 へ の 円 借 款 の 供 与 な ど
︒﹁ 新 宮 澤 構 想
﹂ の 一 環 と し て 日 本 は ま た
︑ ア ジ ア 諸 国 へ の 融 資 に 対 す る 利 子 補 給 の た め
︑ ア ジ ア 開 発 銀 行
︵ A D B
︶ に
﹁ ア ジ ア 通 貨 危 機 支 援 資 金
﹂ を 創 設 す る
︒
︵ 9
︶ チ ェ ン マ イ
・ イ ニ シ ア テ ィ ブ を 含 む ア ジ ア の 金 融 戦 略
︑ 日 本 の 関 与 と 政 策 に つ い て は 以 下 を 参 照
︒ 岸 本 周 平
﹁ ア ジ ア 金 融 戦 略 の 展 開
﹂︑ 末 廣 昭
・ 山 影 進 編
︑ 前 掲 書
︑ 二 八 九
│ 三 二
〇 ペ ー ジ
︒
︵ 10
︶ も っ と も
︑ マ レ ー シ ア は
︑ 昨 年 の A S E A N
+ 3 首 脳 会 議 後 の 記 者 会 見 で マ ハ テ ィ ー ル 首 相 が
﹁ I M F プ ロ グ ラ ム の 受 け 入 れ を 前 提 と す る 協 定 に マ レ ー シ ア は 同 意 し て い な い
﹂ と 述 べ た よ う に
︑ こ の 方 式 に 異 論 を 唱 え て い る
︒ そ も そ も I M F プ ロ グ ラ ム の 受 け 入 れ を 協 定 の 条 件 と す る こ と は
︑ モ ラ ル ハ ザ ー ド を 避 け る 必 要 が あ る と の 理 由 で 日 本 や 韓 国
︑ 中 国 が 強 く 挿 入 を 求 め て い た も の で あ る
︒ こ れ に 対 し
︑ ア ジ ア 通 貨 危 機 で I M F の プ ロ グ ラ ム が 必 ず し も 期 待 ど お り の 成 果 を 生 ま な か っ た こ と に 不 満 を も っ て い た A S E A N 側 が 反 発
︑ 最 終 的 に 最 初 の 一 割
︵ 10
︶
は I M F プ ロ グ ラ ム な し で も 提 供 さ れ る と の 妥 協 案 で 合 意 し た
︒ 日 本 は マ レ ー シ ア と の 間 で 一 九 九 九 年 八 月 に 二 五 億 ド ル の 通 貨 ス ワ ッ プ 協 定 を 締 結 し て い る が
︑ 協 定 に I M F 条 項 は 入 っ て い な い
︒ 同 協 定 は 本 年 八 月 に 期 限 が 切 れ る
︒ 日 本 は 今 回 の ス ワ ッ プ 合 意 を 基 に 新 た な 二 国 間 合 意 を 結 ぶ 用 意 が あ る が
︑ マ レ ー シ ア は ま だ I M F 条 項 を 受 け 入 れ て い な い
︒ 二 A S E A N
+3 の 制 度 化 と A S E A N
/ 中 国
/ 韓 国 A SE AN
+3 首脳 会 議は 一九 九九 年の マニ ラ 会議 で常 設 化に 合意 する
︒そ して
︑ 金融 や通 貨が 中心 テー マ であ った こ のフ ォー ラム に数 多く の 議題 が持 ち込 まれ る︒ ま た︑ 外相 や 通産 大臣 会合 など が設 置 され たほ か︑ 協力 のあ り 方を 検討 す る高 級事 務レ ベル 協議 の 場︵
﹁ 東 ア ジ ア 協 力 検 討 グ ル ー プ
︵ E A S G
﹂︶ を 設置 する こ とも 合意 され た︒ この よう なA SE A N+ 3の 議題 の拡 大と 制 度化 には
︑A SE AN 諸 国や 中国
・ 韓国 の積 極 姿勢 も作 用し てい る︒
︵ 1
︶ 中 国
・ 韓 国 の 動 き 日本 のA MF 構 想に 冷淡 に 反応 し︑
﹁人 民元 を 切り 下げ な い こと
﹂を もっ て通 貨危 機 から のア ジア 経済 回復 へ の最 大の 貢 献で ある と主 張し てき た 中国 であ った が︑ 危機 の 深刻 化と 日 本の アジ ア支 援の 積極 化
︑A MF 設立 を求 める ア ジア 諸国 の
声の 高 まり
︑﹁ 台頭 する 中 国﹂ への 域 内諸 国の 懸 念等 に直 面し て︑ アジ ア諸 国︑ 特に AS E AN との 協力 強化 の 道を 模索 す る︒ 一九 九八 年の ハノ イで の 首脳 会議 にお いて 中 国が 行な っ た︑ AS EA N+ 3の 蔵 相代 理・ 中央 銀行 副総 裁 会合 開催 の 提案 はそ の第 一弾 であ っ た︒ 中国 はさ らに 九九 年 のマ ニラ で の首 脳会 議に おい て︑ こ の蔵 相代 理・ 中銀 副総 裁 会合 の常 設 化を 提案 する とと もに
︑ 経済 調整 や金 融改 革︑ 国 際金 融シ ス テム 改革 など に関 する 意 見調 整を 行な うた めの 蔵 相・ 中銀 総 裁会 合の 開催 を提 案す る
︒ま た︑ マニ ラの 会合 で 朱鎔 基首 相 は︑
﹁ 東ア ジア 協 力の 枠組 みで
﹂政 治 安全 保障 問 題を 協議 す る 用意 があ ると 述べ
︑東 南 アジ アの 一部 にあ る﹁ 東 アジ ア安 全 保障 フォ ー ラム
﹂設 立へ 前向 きの 姿勢 を示 す
︒ ま た︑ 日本 と韓 国︑ 日 本と シン ガポ ール との 間 のF TA 締 結 に向 けて の 動き
︵ 共 同 研 究 の 開 始
︶ は
︑ これ まで 二 国間 で もま た地 域的 なレ ベル でも
︑ 他の 地域 に比 べて F TA 締結 の 動き が少 なか った 東ア ジア で も︑ FT A締 結の 動 きが 急速 に 広ま って いる こと を中 国 に再 認識 させ るも ので あ った
︒シ ン ガポ ール の対 日F TA 締 結提 案は
︑こ れま で関 税 貿易 一般 協 定︵ G A T T
︶ の 多国 間 主義 に依 拠し
︑二 国間 や 地域 的な 自 由貿 易協 定に 慎重 な姿 勢を と って きた 日本 政府 の なか に︑ F TA を新 たな 通商 戦略 に組 み 込む べき であ ると の 声を 強め て
いた
︵1
︒︶
そ して
︑米 国も ま た︑ 昨年 九月 のブ ルネ イ での AP E C首 脳会 議の 際に クリ ン トン 大統 領が シン ガポ ー ルと のF T A締 結の 交 渉を 開始 する 旨表 明し てい た
︵ 2
︒︶
日 本や シン ガポ ール の 動き は︑ 後述 する よう に
︑台 頭す る 中国 への 備え とも みら れ
︵ 3
︑︶
中 国の 警戒 感を 喚起 し てい たと 言 われ る︒ しか も中 国に と って
︑A SE AN 諸国 の なか に生 ま れて いる 対中 警 戒心
│
す な わち︑東 南ア ジア の経 済 成長 を 支 えて き た 海外 か らの 直 接 投資 が 中国 に シ フト し つつ あ り
︑ 中国 は今 後A SE AN に とっ て深 刻な 競争 相手 に なる であ ろ うと の警 戒心
│
を 緩和 する 必要 も あっ た
︵ 4
︒︶
昨 年の 中 国│ A SE AN 閣僚 会議 での A SE AN との FT A締 結 の可 能性 を 探る 共同 研究 の提 案は
︑ AS EA Nと の対 立を 回 避す るた め に対 話を 強化 する 姿勢 を 示し つつ
︑同 時に
︑日 本 やシ ンガ ポ ール の動 き に対 して 中国 が投 じた
﹁牽 制球
﹂ と言 えよ う︒ 一 方︑ 韓国 の金 大中 大 統領 はか ねて より 東ア ジ ア協 力の 構 想を 温め てお り︑ 東ア ジ ア各 国の 民間 有識 者か ら なる
﹁東 ア ジア
・ヴ ィジ ョン
・グ ル ープ
﹂を 設置 し︑ 地域 協 力の 具体 的 なあ り方 を検 討さ せて い た︒ ただ
︑同 グル ー プの 検討 作業 よ りも 現実 の動 きが 先行 す る︒ 既述 のよ うに 一 九九 九年 末の A SE AN
+3 首脳 会議 に おい て東 アジ アの 協 力に 関す る共 同 宣言 が発 表に なり
︑八 項 目に わた る広 範な 分 野で の協 力が 合
意さ れる
︒し たが って 金 大統 領に とっ て︑ 自ら の イニ シア テ ィブ をA S EA N+ 3の なか に反 映さ せる こ とが 急務 とな る︒ 金大 統 領 は︑ 昨 年の シ ン ガポ ー ルで の サ ミッ ト にお い て
︑ 東ア ジア 協力 を検 討す る ため の政 府レ ベル の﹁ 東 アジ ア協 力 検討 グル ープ
︵ E A S G
︶﹂ の設 置 を提 案 し︑ 他の 首脳 の同 意 を得 る︒ 韓国 が狙 って いる の は︑ EA SG の検 討 作業 と﹁ ヴ ィジ ョ ン・ グル ー プ﹂ の活 動を 結び つ ける こと で ある よう だ
︒ 実際
︑韓 国政 府は
︑A SE A N+ 3で の具 体的 な 協力 項目 の 検討 作業 で中 心的 役割 を担 お うと して いる
︒昨 年 の首 脳会 議 での 合意 を受 けて 韓国 政府 は
︑本 年一 月に EA S G設 立の 正 式な 提案 を各 国に 行な っ てい るが
︑そ こで は︑ A SE AN
+ 3 の高 級事 務レ ベル 協議
︵ S O M
︶ に 参 加す る各 国政 府関 係 者か ら なる EA S Gの 設置
︑韓 国が 事 務局 を引 き 受け るこ と
︑ 具体 的な 協力 項目
︵ 短 期
︑ 中 長 期 的 な テ ー マ
︶ を検 討す る ため に実 務レ ベル 協議 の場 を設 定す るよ う提 案し てい る︒ ま た韓 国政 府は
︑E AS G のメ ンバ ーを 北東 ア ジア と東 南 アジ アで 同数 に する
︵ 日 中 韓 三 国 か ら 各 一 名 と A S E A N の 代 表 三 名
︶ と する よう 提 案し
︑従 来こ の種 フォ ーラ ムで 特徴 的 であ った
﹁A SE AN 主導
﹂ の検 討作 業を 否定 し
︑北 東ア ジ ア諸 国に よる イニ シア ティ ブ 発揮 の余 地を 大き く しよ うと し てい る︒ そし て︑ EA SG の 活動 を少 なく とも 次 期A SE A
N+ 3の 首脳 会議 まで は 存続 させ るべ きで ある と 提案 して い る︒ 韓国 政府 は﹁ ヴィ ジ ョン
・グ ルー プ﹂ の最 終 報告 書の 次 期A SE AN
+3 首脳 会 議で の承 認を 目指 し︑ 同 時に そこ に 盛ら れた 政策 勧告 をA S EA N+ 3の 合意 とし て EA SG の 活動 に繋 げ てい こう と考 えて いる よう であ る
︵ 5
︒︶
︵ 2
︶ A S E A N の 困 難: 広 域 地 域 主 義 の 模 索 A SE AN 自身 も﹁ 東 南ア ジア
﹂を 超え て︑ よ り広 域的 な 地域 主義 のな かで AS E AN の安 定と 繁栄 を模 索 しな けれ ば なら ない 状況 に直 面し て いる
︒A SE AN は一 九 九〇 年代 に 入っ てメ ンバ ーの 拡大 を 図り
︑一 九九 九年 四月 の カン ボジ ア の加 盟を もっ て一
〇ヵ 国 体制 を実 現し た︒ し かし
︑メ ンバ ー の 拡 大 は
︑ A S E A N 諸 国 の 間 の 政 治
・ 経 済
・ 社 会 的 な 格 差・ 相 違を いっ そ う際 立た せ るこ とに な り︑
﹁A SE AN の 二 層化
﹂と い う懸 念を 現実 のも のに して きた
︵ 6
︒︶
通貨 危 機 はA S EA N の 抱え る 問題 を さ らに 深 刻に す る
︒ AS EA N諸 国の 多く が 通貨 危機 を克 服す るた め の自 国優 先 の施 策を 推進 した 結果
︑ AS EA N諸 国の 間に さ まざ まな 軋 轢を 生む
︒し かも AS E AN 諸国 の経 済的 困難 は
︑新 規メ ン バー に対 して 意味 のあ る 経済 的支 援を 行な う余 力 をA SE A N諸 国か ら奪 った
︒A S EA N自 身は 通貨 危 機の 発生 とと も に︑ IM Fを 中心 に構 成 され た支 援策 への 協 力︑ AS EA N
諸国 間の 金融 通貨 協力 な どで 合意 する が︑ 支援 の ほと んど は 日本 や IM Fな ど の域 外の 諸 国や 国際 組織 から の もの であ り
︑ AS EA N 自身 の寄 与は きわ めて 限定 的な も ので あっ た
︵ 7
︒︶
一 九九 七年 一一 月の ハ ノイ での 首脳 会議 にお い て︑ AS E AN は﹁ ヴィ ジョ ン2 0 20
﹂を 採択 し︑ 繁栄 し 安定 した 東 南ア ジア 共同 体の 将来 像 を描 き︑ これ を実 現す る ため の﹁ ハ ノイ 行動 計画
﹂に 合意 す るが
︑そ うし た計 画を A SE AN だ けで は 実施 する 力 がな いこ と は明 らか で あっ た︒ その 一方 で
︑ 危機 に直 面し たA SE AN 諸 国に 支援 を提 供し
︑﹁ 縁故 主義
﹂ を批 判し て急 進的 な改 革 を求 める IM Fの 政 策に ブレ ーキ を かけ
︑国 内の 政治 経済 的 安定 を優 先し つつ 漸 進的 な改 革を 求 め てい っ たの が 日 本を は じ めと す る東 ア ジ ア諸 国 であ っ た
︒ かく して 北東 アジ ア諸 国 の力 を活 用し てA S EA Nの 政治
・ 経済
・社 会 的基 盤を 強化 しよ うと いう 動き が強 まる
︵ 8
︒︶
し かも
︑北 東ア ジア の 政治 経済 的な 変化 がA S EA Nに と って は大 きな 挑戦 とな る
︒中 国は WT O加 盟を 契 機に さら に 国際 経済 で大 きな 力を も つと みら れ︑ これ まで A SE AN の 成長 を支 えて きた 外資 が 中国 へい っそ う集 中す る ので はな い かと の懸 念を AS EA N のな かに 生む
︵ 9︶
︒日 本や 中 国を 中心 と する 北東 アジ アに 政治 経 済的 な重 心が 移行 し︑ 東 南ア ジア は その 重要 性を 低下 させ る ので はな いか との 懸念 が AS EA N
の指 導者 の間 に生 まれ る︒ さ らに
︑A SE AN 内部 に も地 域の 結束 を弱 め かね ない 動 きが 台頭 しつ つあ った
︒ シン ガポ ール によ る二 国 間F TA 締 結の 動き であ る︒ シア ト ルの WT O閣 僚会 議の 混 乱に 象徴 さ れる 多国 間主 義の 将来 へ の懸 念︑ AP EC によ る 貿易 投資 自 由化 の進 展の 遅延 など を シン ガポ ール 政府 はF T A締 結の 背 景と して 説明 して いる が
︑F TA 締結 の動 きが
︑ 東南 アジ ア の政 治経 済の 将来 に対 す る同 国の 深刻 な懸 念と
︑ その なか で 自 国 の 経 済 的 繁 栄 を 維 持 す る 道 を 模 索 す る シ ン ガ ポ ー ル の
﹁自 国 優先
﹂の 政 策の 現わ れで ある と の認 識は
︑ 東南 アジ ア 諸 国の 間に 広く 存在 して い る︒ 政治 経済 的混 乱が 続 くイ ンド ネ シア
︑マ ハテ ィー ル政 権 の政 治的 基盤 の脆 弱化 が 取り ざた さ れる 隣国 マレ ーシ アな ど
︑東 南ア ジア が政 治的 に も経 済的 に も不 安定 な地 域で ある と の認 識が 世界 に広 ま るな かで
︑シ ン ガポ ール もま たそ の一 部 であ ると みな され か ねな かっ た︒ 実 際︑ 通貨 危機 は東 南ア ジ アの 優等 生と 言わ れ たシ ンガ ポー ル 経済 にも 深刻 な打 撃を 与 えた
︒か くし てシ ン ガポ ール にと っ て︑ 自ら を他 の東 南ア ジ ア諸 国と
﹁切 り離 す
﹂政 策が 急務 と なる
︒域 外諸 国と のF T A締 結の 動き は︑ そ うし たシ ンガ ポ ール の危 機 感を 反映 して いる
︒ シ ンガ ポー ルの 動き は 近隣 の東 南ア ジア 諸 国に
﹁A SE A
︵ 11
︶
︵ 10
︶
︵ 12
︶
N連 帯﹂ への シン ガポ ー ルの コミ ット メン トに 対 する 疑念 を 生む
︒そ して
︑A SE A Nを 基盤 とし た地 域協 力 や連 帯強 化 の動 きが 頓挫 する なか で
︑よ り広 域的 な地 域主 義 で再 度A S EA Nの 結 束を 強化 しよ うと いう 動き
︵ 同 時 に
︑ シ ン ガ ポ ー ル の 独 自 の 動 き を 牽 制 す る 動 き
︶ をA SE AN 諸国 の間 で促 進す るこ とに なる
︒A SE A N諸 国が 中国 から のF T A研 究の 呼 びか けに 応え た背 景に は
︑確 かに さま ざま な要 因 が作 用し て いる が︑ 最も 重要 なの は
︑シ ンガ ポー ルや 日本
︑ 韓国
︑ニ ュ ージ ーラ ンド など の二 国 間ベ ース での FT A 締結 の動 きで あ ろう
︒中 国か らの FT A 共同 研究 提案 は︑ 再 びA SE AN が 一体 とな って 取り 組め る 共通 のテ ーマ が与 え られ たと いう 意 味で
︑A SE AN 諸国 に とっ ては
︑そ の帰 趨 はと もか くと し て︑ 短期 的に は好 まし い 政治 的効 果を 有す る と判 断さ れた と 言え よう
︒ま た︑ 中国 の 提案 に対 して
︑日 本 と韓 国を 加え る
︵ A S E A N
+ 3 の 枠 組 み で 検 討 す る
︶ よう AS EA N︵ タ イ な ど
︶ が 求め たこ とは
︑日 本や 韓国 の関 心を 東南 アジ アに 引 き止 めた いと いう AS E AN の﹁ 防御 的姿 勢﹂ の 反映 とも 言 えよ う︒ A SE AN
+3 の制 度 化を 促し た背 景に は政 治 安全 保障 上 の要 因も 働い てい る︒ A SE AN
+3 の共 同宣 言 の顕 著な 特 徴は
︑こ のフ ォー ラム の 制度 化の 直接 的な 要因 が 通貨 危機 で
あっ たに もか かわ らず
︑ 安全 保障 問題 を取 り上 げ るこ とを 排 除し てい ない こと にあ る
︒実 際︑ 日本 の政 策当 局 者も
︑安 全 保障 問題 を含 め共 同声 明 に盛 られ てい る諸 項目 が バラ ンス よ く取 り上 げら れる よう 求 めて いる
︒ま た︑ 東南 ア ジア の一 部
︵ 例 え ば フ ィ リ ピ ン
︶ には かね て より 東 アジ ア の安 全 保障 問 題 を取 り上 げる 首脳 レベ ルの 協 議体 を設 立す るよ う 求め る声 が あっ た︒ こ うし た動 きの 背後 には
︑ 第一 に︑ 東南 アジ ア の政 治安 全 保障 問題 が﹁ 東南 アジ ア﹂ と いう 地理 的範 囲に と どま らな い 広が りを もつ に至 った こと
︒ 例え ば︑ 南シ ナ海 の 領土 問題 に は
︑A S E AN 諸 国の ほ か
︑中 国 や台 湾 が かか わ って い る
︒ AS EA Nに とっ て︑ とり わ け中 国と の間 での 了 解を 勝ち 取 るこ とは 急務 であ る︒ 第 二に
︑こ れと 関連 して
︑ 一九 九四 年 に発 足し たA RF が多 数 の諸 国の 参加 を得 なが ら も︑ 地域 の 紛争 その もの の解 決や 緩 和に 有効 な手 立て を講 じ られ ない こ とへ の 不満 があ る
︒﹁ すべ ての 参加 国 が懸 念を も たず に参 加 で きる 方式
﹂を 主導 して き たの はA SE AN 自身 で ある が︑ A SE AN の一 部に はそ う した 対話 だけ では 直面 す る問 題の 打 開に 役立 たな いと の不 満 があ る︒ また
︑政 治的 な 対立 の緩 和 のた めに は︑ 首脳 レベ ル での 対話 を強 化す る必 要 があ ると の 認識 が AS EA N の一 部に あ る︒ 第三 に︑
﹁台 頭 する 中国
﹂ に
︵ 14
︶ ︵
13
︶
︵ 16
︶
︵ 15
︶
地域 諸国 が いか に︵ 共 同
︶ 対処 する かが ます ます 重要 な問 題 にな って きた こと
︑第 四 に︑ AS EA Nの 一部 に は︑ 米国 の 参加 しな いフ ォー ラム な らば
︑例 えば 南シ ナ海 の 問題 での 中 国の 姿勢 が 柔軟 にな るの では ない かと の期 待 があ る︒
︵ 1
︶ 日 本 の 通 商 政 策 の 変 化 に つ い て は
︑ 過 去 数 年 の
﹃ 通 商 白 書
﹄ を 参 照
︒
︵ 2
︶ 韓 国 も こ う し た 動 き に 呼 応 し て 二 国 間 F T A の 研 究 を 始 め る
︒ 韓 国 は チ リ と の 間 で F T A 締 結 を 交 渉 中 で
︑ 日 本 と の 間 で は 共 同 研 究 を す で に 終 え
︑ さ ら に タ イ
︑ ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド
︑ シ ン ガ ポ ー ル と の 間 で 共 同 研 究 を 実 施 中 で あ る
︒
︵ 3
︶ シ ン ガ ポ ー ル の 対 日 F T A 提 案 の 背 後 に は
︑ 中 国 の 台 頭 に 備 え て の 対 日 関 係 の 強 化 と い う 思 惑 が あ り
︑ こ れ を 受 け 入 れ た 日 本 政 府 の 側 に は
︑﹁ 華 人 国 家 シ ン ガ ポ ー ル
﹂ を
﹁ 対 中 カ ー ド
﹂ に し た い と の 思 惑 も あ る
︒日 本 外 務 省 関 係 者 か ら の ヒ ア リ ン グ
︒
︵ 4
︶ 朱 首 相 は A S E A N 首 脳 と の 会 談 で
︑ 中 国 の 世 界 貿 易 機 関
︵ W T O
︶ 加 盟 が A S E A N へ の 脅 威 で は な く
︑ む し ろ 協 力 の 促 進 に つ な が る こ と を 強 調 し て い る
︒﹃ 日 本 経 済 新 聞
﹄ 二
〇
〇
〇 年 一 一 月 二 六 日
︒ A S E A N に 対 す る 中 国 の F T A 研 究 提 案 の 背 景 に は
︑ 同 様 の 構 想 を 有 す る 韓 国 や 台 湾 に 先 手 を 打 つ と い う 思 惑 も あ っ た よ う で あ る
︒
︵ 5
︶ 韓 国 外 交 通 商 省 関 係 者 か ら の ヒ ア リ ン グ
︒
︵ 6
︶ A S E A N の 発 展 と 今 日 の 問 題 に つ い て は
︑ 以 下 の 山 影 論 文 が 的 確 に ま と め て い る
︒ 山 影 進
﹁ 日 本 の 対 A S E A N 政 策 の 変 容
│
福 田 ド ク ト リ ン を 超 え て 新 た な 連 携 へ
﹂﹃ 国 際 問 題
﹄ 第 四 九
〇 号
︵ 二
〇
〇 一 年 一 月
︶ 五 七
│ 八 二 ペ ー ジ
︒ ま た
︑
MichaelWesley,''TheAsianFinancialCrisisandthe
AdequacyofRegionalInstitutions,''ContemporarySoutheast
Asia,Vol.20,No.1,April1999.
ま た
︑﹁ 二 層 化
﹂ を 含 む
︑ A S E A N が 直 面 す る 諸 問 題 に 対 す る 日 本 の 具 体 的 な 協 力 策 を 検 討 し た 成 果 で あ る 以 下 の 報 告 書 も 参 照
︒TowardsVision2020:
ASEAN-JapanConsultationConferenceontheHanoiPlanofAction:TheFinalReportwithRecommendations,Japan
InstituteofInternationalAffairs,October2000.
︵ 7
︶ A S E A N 自 身 も マ ク ロ 経 済 政 策 に 関 す る 協 議
︑ 金 融 政 策 や 金 融 の 規 制 制 度 の 透 明 性 の 向 上
︑ 地 域 的 な 金 融 監 視 メ カ ニ ズ ム 作 り
︑ 域 内 貿 易 決 済 に A S E A N 諸 国 の 通 貨 を 積 極 的 に 使 用 す る な ど
︑ 域 内 協 力 の 促 進 で 合 意 す る が
︑ そ の 実 効 性 は き わ め て 限 定 的 な も の で あ っ た
︒
︵ 8
︶SimonSCTay,''ASEANandEastAsia:ANew Regionalism?''SimonSCTayetal.eds.,ANewASEANina
NewMillenium,CentreforStrategicandInternational
StudiesandSingaporeandSingaporeInstituteofInternational
Affairs,2000,pp.228
│240.
シ ン ガ ポ ー ル の リ ー
・ ク ア ン
・ ユ ー 上 級 相
︵ 前 首 相
︶ は
︑ A S E A N
+ 3 の 実 態 は 3
+ A S E A N
︑ す な わ ち 北 東 ア ジ ア 諸 国 が こ の フ ォ ー ラ ム の 中 心 に あ り
︑ 自 力 で 国 内 や 地 域 の 問 題 を 処 理 で き な い A S E A N 諸 国 は
︑ 北 東 ア ジ ア 諸 国 の 政 治 経 済 的 な 力 を 活 用 し て 自 ら の 問 題 の 解 決 に あ た ら な け れ ば な ら ず
︑﹁ A S E A N 主 導
﹂ な ど レ ト リ ッ ク に す ぎ な い と 喝 破 し て い る
︒,October10,2000.FinancialTimes
︵ 9
︶ 例 え ば 二
〇
〇
〇 年 上 半 期 の タ イ
・ シ ン ガ ポ ー ル の 外 国 企 業 投 資 認 可 額 は 前 年 並 み に と ど ま り
︑ マ レ ー シ ア と イ ン ド ネ シ ア の そ れ は そ れ ぞ れ 半 分
︑ 五 分 の 一 程 度 に 激 減 し た
︒﹃ 日 本 経 済
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︶