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サッカー サッカー サッカー
サッカー日本代表 日本代表 日本代表 日本代表の の の の決定力不足解決 決定力不足解決 決定力不足解決 決定力不足解決への への への への扉絵 扉絵 扉絵 扉絵
~2010 年ワールドカップのゴールイン分析を通して~
09E330 加藤大希
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サッカー サッカー サッカー
サッカー日本代表 日本代表 日本代表 日本代表の の の の決定力不足解決 決定力不足解決 決定力不足解決 決定力不足解決への への への扉絵 への 扉絵 扉絵 扉絵
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~ 2010 年 年ワールドカップ 年 年 ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップの の の のゴールイン ゴールイン ゴールイン ゴールイン分析 分析 分析を 分析 を を を通 通 通して 通 して して して~ ~ ~ ~
Ⅰ Ⅰ
Ⅰ Ⅰ. . . .はじめに はじめに はじめに はじめに
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ. . . .日本 日本 日本サッカー 日本 サッカー サッカー界 サッカー 界 界 界が が が抱 が 抱 抱 抱える える える永遠 える 永遠 永遠 永遠の の の のテーマ テーマ テーマとは テーマ とは とは とは
~
~ ~
~サッカー サッカー サッカー サッカー日本代表 日本代表 日本代表の 日本代表 の の の現状 現状 現状と 現状 と と課題 と 課題 課題 課題~ ~ ~ ~
1.AFCアジアカップに関する日本代表の成績と戦術 (1)AFCアジアカップの大会成績
(2)第1回大会から第15回大会までの戦術の大きな移り変わり (3)ボールを支配する攻撃的なサッカー
2.FIFAワールドカップに関する日本代表の成績と戦術 (1)FIFAワールドカップの大会成績
(2)第1回大会から第19回大会までの戦術の移り変わり (3)ボールを支配される守備的なサッカー
3.戦術の“衣替え”による得点力の低下
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ. . . .2010 2010 2010 2010 年 年 年 年 FIFA FIFA FIFA FIFA ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップの の の のデータ データ データ比較 データ 比較 比較 比較
1.スペイン代表と日本代表の共通点 (1)小さな世界王者
(2)王者の戦術
2.日本代表とスペイン代表の比較分析 (1)分析方法
(2)スペイン代表の分析 (3)日本代表の分析 3.得点力不足解決への扉
(1)ゴールイン分析から抽出された特徴の整理 (2)得点力向上のための考察
Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ. . . .おわりに おわりに おわりに おわりに
1.各章の要約 (1)第Ⅱ章 (2)第Ⅲ章 2.結論
3.今後の展望と課題
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Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ. . . .はじめに はじめに はじめに はじめに
2010年6月29日に、筆者の願いは、儚く消え去ってしまった。そして、「もし、1点が 入っていれば…。」という思いが頭から離れない。
サッカーの大会の最高峰と位置付けられるFIFAワールドカップの南アフリカ大会で、カ メルーン代表を強固な守備からカウンターで1点をもぎ取り、デンマーク代表を日本のお 家芸とも称されるフリーキックで蹴散らしたサッカー日本代表は、決勝トーナメント1回 戦で南米の古豪であるパラグアイ代表と1点を争う接戦を繰り広げた。しかし、延長戦で も決着がつかなかったその戦いは、サッカー日本代表がPK戦によって敗れる結果となって しまった。もし、サッカー日本代表が、この試合で1点を取って勝利をしていれば、決勝 トーナメント2回戦で戦うことになっていたのは、2010年ワールドカップ南アフリカ大会 を制したスペイン代表であった。さらに、もし、スペイン代表から大金星を挙げていれば、
その勢いで世界の頂上まで駆け上れたかもしれないのである。このように、サッカーにと って得点とは、観客を魅了する熱狂的なシーンであると同時に、試合の勝敗を左右するも のであり、たった1点の差で未来が大きく変わってしまうのである。
本稿では、サッカー日本代表の現状を、2つの国際大会の成績、戦術の変遷、1試合平 均得点、ボール支配率およびシュート数の視点からの分析によって、サッカー日本代表の
「戦術の“衣替え”による得点力の低下」という問題点を明示し、その後、2010 年 FIFA ワールドカップ南アフリカ大会でのゴールイン分析を用いてスペイン代表と日本代表を比 較することを通して、サッカー日本代表の得点力不足の解決策を導き出すことを最終目的 としている。
以下では、第Ⅱ章「日本サッカー界が抱える永遠のテーマとは~サッカー日本代表の現 状と課題~」、および第Ⅲ章「2010年FIFAワールドカップのデータ比較」の2つの項目に 分けて、サッカー日本代表の得点力不足の解決案を提案していく。
まず、第Ⅱ章の「日本サッカー界が抱える永遠のテーマとは~サッカー日本代表の現状 と課題~」では、2つの国際大会でのサッカー日本代表の大会成績、戦術の変遷、1試合 平均得点、ボール支配率およびシュート数を各大会での優勝経験国と比較しながら、サッ カー日本代表の現状と課題を明らかにしていく。
次に、第Ⅲ章「2010年FIFAワールドカップのデータ比較」では、ワールドカップで優 勝したスペイン代表と日本代表を、体格および戦術の視点から共通点を導き出し、スペイ ン代表を日本代表の目指すべき対象とした後、2010年ワールドカップでのスペイン代表お よび日本代表の全得点に関して、4つの分析項目を用いたゴールイン分析を行い、日本代 表の得点力を向上させることができる解決策を導き出す。
以上の考察を踏まえて、第Ⅳ章「おわりに」では、本論の要約や結論、今後の展望と課 題を述べることで、本論を結びとする。
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Ⅱ. . . .日本 日本 日本サッカー 日本 サッカー サッカー サッカー界 界 界 界が が が抱 が 抱 抱 抱える える える える永遠 永遠 永遠 永遠の の の のテーマ テーマ テーマとは テーマ とは とは とは
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~サッカー サッカー サッカー日本代表 サッカー 日本代表 日本代表の 日本代表 の の の現状 現状 現状 現状と と と と課題 課題 課題 課題~ ~ ~ ~
第Ⅱ章では、サッカー日本代表の過去から現在までの国際大会成績と戦術(1)の変遷を照ら し合わせることを通して、現在のサッカー日本代表が抱える得点力に関する問題点を明ら かにしていく。
まず、第1節では、サッカー日本代表のAFCアジアカップ(2)の第1回大会から現在まで の成績と戦術という2つの視点からサッカー日本代表のアジアでの現状を明らかにし、サ ッカー日本代表は「アジアでは得点力があり、ボールを支配する攻撃的サッカー」である ことを示す。次に、第2節では、FIFAワールドカップの第1回大会から現在までの大会成 績と戦術という2つの視点からサッカー日本代表の世界での現状を明らかにし、サッカー 日本代表は「世界では得点力がなく、ボールを支配される守備的なサッカー」であること を明確にする。そして、第3節では、第1節と第2節で明らかになった現状を、大会規模 の違いから比較し、サッカー日本代表の問題点を論じていく。
以上を通して、サッカー日本代表の過去から現在までの大会成績と戦術を踏まえた上で、
得点および戦術面の視点から、サッカー日本代表が直面している問題点を明らかにする。
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1. . . .AFC AFC AFC AFC アジアカップ アジアカップに アジアカップ アジアカップ に に に関 関 関する 関 する する する日本代表 日本代表 日本代表 日本代表の の の成績 の 成績 成績 成績と と と と戦術 戦術 戦術 戦術
本節では、アジアでのサッカー日本代表は、「得点力があり、ボールを支配する攻撃的な サッカー」であることを明らかにする。そのために、「(1)AFCアジアカップの大会成績」、
「(2)第1回大会から第15回大会までの戦術の大きな移り変わり」および「(3)ボール を支配する攻撃的なサッカー」の3つに分けて、1936 年開催である第1回大会から 2011 年開催である第15回大会までのAFCアジアカップに関する日本代表の成績と戦術の変遷 を、さらにはアジア内の強豪国の得点力などとの比較を通して、アジアではサッカー日本 代表は「得点力があり、ボールを支配する攻撃的サッカー」であることを示していく。
( (
( (1 1 1 1) ) ) ) AFC AFC AFC AFC アジアカップ アジアカップの アジアカップ アジアカップ の の大会成績 の 大会成績 大会成績 大会成績
1993 年のJリーグ設立から約 20 年の月日が流れ、日本のサッカーは、4大会連続の FIFAワールドカップへの出場やAFCアジアカップでの優勝など、アジアのサッカーをリ
(1) 戦術とは、戦略の下位概念で、一般には師団より小さい戦闘単位の軍事行動を計画・組織・遂行する ための通則を指す。攻撃・防御、陣地戦・遭遇戦といったいくつもの形式に分けられるのが普通である。
サッカーでの戦術とは、フォーメーションとサッカースタイルの組み合わせのことである(ジョナサン 2010,10ページ)。
(2) AFCアジアカップとは、アジアサッカー連盟(Asian Football Confederation)が主催する、各国代 表チーム(ナショナルチーム)によるサッカーの大陸選手権である。1956年に香港で第1回大会が開催 され、以降4年ごとに開催されている。日本は、1992年、2000年、2004年、および2011年大会とア ジア最多の4回の優勝経験がある(日本サッカー協会公式 HP 2012,11月5日閲覧)。
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ードする存在であり、世界の舞台で活躍を続けている。まず、このような大躍進を続ける サッカー日本代表の AFC アジアカップでの歩みを振り返るため、日本が所属するアジア 地域での日本代表の大会成績を見ていきたい。最近のメディア報道では、アジアの中では、
日本代表には敵がいないとまで言われているようだが、昔から日本代表が強かった訳では ない。
ここでは、アジアチャンピオンを決める AFC アジアカップの成績表およびアジアカッ プ優勝経験国の1試合当たりの平均得点のグラフから、アジアでの得点数に焦点を当てて、
「アジアでは得点力がある、強い日本代表」を示していきたい。
以下では、①日本のアジアカップの成績から分かる特徴および②アジアカップ優勝経験 国の1試合当たりの平均得点のグラフから分かる特徴という2つの項目に分け、日本サッ カーがアジアでは得点力が高いことを、日本代表のアジアカップでの成績表と、アジアで 強豪国と言われている国々の1試合平均得点を日本のそれと比較することで示していく。
①
①①
①日本日本日本の日本のののアジアカップアジアカップアジアカップのアジアカップののの成績成績成績成績からからからから分分分分かるかるかる特徴かる特徴特徴特徴
表1は、日本サッカー協会が公表している「試合別出場記録(3)」のデータを参考に、
AFC アジアカップでの日本代表の大会成績を表にしたものである。表の見方としては、
横軸が表1の左の列からAFCアジアカップが開催された回、年、開催国、日本代表の大 会最終成績、試合数、勝利した数、引き分けた数(4)、負けた数、得点数、失点数を示して おり、縦軸が上から開催年が古い順に各大会での日本代表の成績を記載している。また、
表の下から2番目の行には、全大会を通しての各項目に対する合計が記載されており、
最後の行には、全大会を通して得点したゴール数を合計試合数で割ることで算出した得 点数の平均と、同様に全大会集計の失点数を合計試合数で割ることにより求めた失点数 の平均を記載している。なぜ、今回、日本サッカー協会が公表しているこのデータを使 用したかというと、日本サッカーを統括し、代表する組織である日本サッカー協会であ れば、日本代表の毎公式試合データを正確に記したものであると考えたからだ。
(3) 試合別出場記録は、1917年から2012年までの日本代表の試合に関する監督名、開催日、スコア、対
戦チーム、会場、大会名、出場選手、および得点者が記載されている(日本サッカー協会公式 HP 2012,
1月23日閲覧)。
(4) 引き分けた数には、決められた時間内に決着がつかなかった場合に行われるPK(Penalty Kick)戦で の勝敗が含まれている。
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(表1)AFCアジアカップでの日本代表の成績
回 開催年 開催国 成績 試合数 勝 分 負 得点 失点
1 1956 香港 不参加 ― ― ― ― ― ―
2 1960 韓国 不参加 ― ― ― ― ― ―
3 1964 イスラエル 不参加 ― ― ― ― ― ―
4 1968 イラン 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
5 1972 タイ 不参加 ― ― ― ― ― ―
6 1976 イラン 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
7 1980 クウェート 不参加 ― ― ― ― ― ―
8 1984 シンガポール 不参加 ― ― ― ― ― ―
9 1988 カタール グループリーグ敗退 4 0 1 3 0 6
10 1992 日本 優勝 5 3 2 0 6 3
11 1996 アラブ首長国連邦 ベスト8 4 3 0 1 7 3
12 2000 レバノン 優勝 6 5 1 0 21 6
13 2004 中国 優勝 6 4 2 0 13 6
14 2007 タイ・ベトナム・マレーシア・インドネシア 4位 6 2 3 1 11 7
15 2011 カタール 優勝 6 4 2 0 14 6
― 合計 ― ― 37 21 11 5 72 37
― 平均 ― ― ― ― ― ― 1.94 1
(出所)日本サッカー協会 HP の「試合別出場記録」を参考に筆者が作成(日本サッカー 協会公式 HP,『http://www.jfa.or.jp/archive/daihyo/daihyo/data/AGame.pdf』 (2012,12 月17日閲覧))。
表1を時系列に見ていくと、日本代表は1956年の第1回大会から1984年の第8回大 会まででAFCアジアカップに不参加、あるいは本大会に繋がる予選で敗退していること が分かる。これは、当時オリンピック至上主義の日本が、オリンピックと同じ年に開か れるAFCアジアカップ本大会に対して積極的ではなく、また、予選敗退した1968年イ ラン大会と1976年の同じくイラン大会では、日本代表は控えメンバーを中心としたチー ムで試合を戦っていたからである。
1988年にもバルセロナ・オリンピック予選のためのチーム作りの一環として、日本は アジアカップの予選大会に大学選抜で臨んだ。ところが、その大学選抜チームが予選を 突破し、日本にとって初めてのアジアカップ本大会出場権をもたらしたのである。しか し、1988年にカタールで開かれたアジアカップ本大会での日本は、1次リーグの4試合 で無得点となり、最下位で予選敗退してしまったのである。
そこで日本は、日本代表の強化を図るべく、初めてとなる外国人監督であるハンス・
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オフト氏と契約を結び、世界基準のサッカーを日本代表に取り込もうとした(5)。その結果、
1992年の日本で開催されたアジアカップでは、初優勝を飾り、1992年大会以降、日本代 表は、2000年、2004年、および2011年大会とアジア最多の4回の優勝を経験するので ある。
ここで、表1の1988年大会から2011年大会までの日本代表に関する試合数の欄より 右の各項目を見ていく。なぜ、この期間に絞ったかというと、日本代表がAFCアジアカ ップの本大会に出場したのが1988年大会以降からであり、かつ優勝を争う真剣勝負が繰 り広げられる本選での成績に焦点を当てたいと考えたからである。
まず各大会での成績を述べると、日本代表が初めて本大会に出場を決めた1988年開催 の第9回カタール大会は、成績がグループリーグ敗退、試合数は4試合、勝利した数は 0回、引き分けた数は1回、負けた数は3回、得点数は0点、および失点数は6点であ る。1992 年開催の第 10 回日本大会では、成績が優勝、試合数は5試合、勝利した数は 3回、引き分けた数は2回、負けた数は0回、得点数は6点、および失点数は3点であ る。1996 年開催の第 11 回アラブ首長国連邦大会では、成績がベスト8、試合数は4試 合、勝利した数は3回、引き分けた数は0回、負けた数は1回、得点数は7点、および 失点数は3点である。2000 年開催の第 12 回レバノン大会では、成績が優勝、試合数は 6試合、勝利した数は5回、引き分けた数は1回、負けた数は0回、得点数は21点、お よび失点数は6点である。2004 年開催の第 13 回中国大会では、成績は優勝、試合数は 6試合、勝利した数は4回、引き分けた数は2回、負けた数は0回、得点数は13点およ び失点数は6点である。2007 年開催の第 14 回タイ・ベトナム・マレーシア・インドネ シア大会では、成績は4位、試合数は6試合、勝利した数は2回、引き分けた数は3回、
負けた数は1回、得点数は11点、および失点数は7点である。2011年開催の第15回カ タール大会では、成績は優勝、試合数は6試合、勝利した数は4回、引き分けた数は2 回、負けた数は0回、得点数は14点、および失点数は6点である。
次に、累計記録を述べると、1988 年大会から 2011 年大会までの各項目の合計は、試 合数は37試合、勝利した数は21回、引き分けた数は11回、負けた数は5回、得点数は 72点、および失点数は37点である。
最後に、1988 年大会から 2011 年大会までの得点数の合計を全大会通算試合数で割っ た日本代表の1試合平均得点は1.94点、および同期間の失点数の合計を全大会通算試合 数で割ることで算出した1試合平均失点数は1点である。
表1から分かることは2つある。まず1つ目は、2000年開催の第9回レバノン大会で 21得点をあげて優勝して以降、2004年大会で13得点、2007年大会で11得点、および 2011 年大会で 14 得点と2桁得点を記録しているものの、得点数は減少傾向にあること だ。ただし、2000年大会、2004年大会および2011年大会で優勝していることから、筆 者は、アジアでの日本代表のレベルが落ちてきているのではなく、対戦チームの守備力
(5) 北・西部(2012,132ページ)を参照せよ。
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が向上していると考えた。次に2つ目は、1試合当たりの平均得点である1.94点が、同 じく1試合当たりの平均失点数である1点と比べると、0.94 得点上回っていることだ。
これは、日本代表がアジアカップでは1試合平均当たり約1点差をつけて勝利している ことを表している。この2つの特徴から分かった主なこととして、日本代表は、アジア 地域内では平均として1試合当たり約1点差をつけて勝利することができる能力を持っ ているが、他の国の代表もレベルが高くなってきているため日本代表のさらなる得点力 の向上が急務であるという点である。
このように、アジア地域ではサッカー日本代表は強豪国であると考えることができる。
しかし、この表1だけでは、他国と比べてどれくらい得点力が高いかが分からないため、
以下では、AFC アジアカップ公式ホームページの資料を用いて、アジアカップ優勝経験 国の1試合当たりの平均得点と日本代表のそれを比較していく。
②
②②
②アジアカップアジアカップアジアカップ優勝経験国アジアカップ優勝経験国優勝経験国優勝経験国ののの1の111試合当試合当試合当試合当たりのたりのたりのたりの平均得点平均得点平均得点の平均得点ののグラフのグラフグラフグラフからからから分から分分分かるかるかる特徴かる特徴特徴特徴 図1は、AFC が公表している「TECHNICAL REPORT&STATISTICS」のデータを 参考に作成したものである。この図は、縦軸にアジアカップでの1試合当たりの平均得 点、横軸に左から日本代表、イラン代表、韓国代表、サウジアラビア代表、クウェート 代表、およびイラク代表の1試合当たりの平均得点を国別に表している。なぜ、アジア カップ優勝経験国に限定したかというと、アジア地域には強豪国と呼ばれる国が日本代 表以外にもあるため、それらの中で日本代表の1試合当たりの平均得点が高いか否かを 調べることにより、アジアでの日本代表の得点力は高いと評価することができると考え たからである。
(図1)アジアカップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点
(出所)AFC 公式 HP,『http://www.the-afc.com/en/resources/resources-technical-reports』
(2012,12月17日閲覧)。
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ここで、図1のアジアカップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点を見ていくと、日 本代表が1.94点、イラン代表が1.93点、韓国代表が1.64点、サウジアラビア代表1.41 点、クウェート代表が1.17点およびイラク代表が1.03点となっている。
このように、日本代表の1試合当たりの平均得点数である1.94点は、2位であるイラ ン代表の平均得点数である1.93点と比較すると0.01点という僅差ではあるものの、日本 以外の国で直近の大会に優勝したイラクと比べる約2倍となっており、アジアの中では 1番得点能力が高いと考えることができる。つまり、日本代表はアジアでは、得点力が あると言える。
したがって、表1および図1の考察の結果から、日本代表は、「アジアでは得点力があ り強い日本代表」であると考えられる。次の(2)では、サッカー日本代表が、どのよ うにしてアジアチャンピオンへの道を歩んで行ったかを、戦術面から述べていく。
( (
( (2 2 2 2) ) ) )第 第 第 第1 1 1回大会 1 回大会 回大会から 回大会 から から から第 第 第 第 15 15 15 15 回大会 回大会 回大会 回大会までの までの までの までの戦術 戦術 戦術 戦術の の の大 の 大 大 大きな きな きな きな移 移 移り 移 り り変 り 変 変 変わり わり わり わり
ここでは、1956年開催の第1回AFCアジアカップ香港大会から2011年開催の第15回 AFCアジアカップカタール大会までの日本代表が、どのようにしてアジアの中でサッカー 強豪国に進化を遂げたかを明らかにするため、歴代日本代表監督が志向した戦術に焦点を 当てて、時系列に述べていく。
日本代表は、アジア最高の選手権であるアジアカップに初めて参加したのが1968 年開 催の第4回大会からであり、その大会には日本代表の控えを中心にメンバーを構成したチ ームで大会に臨んでいる(6)。また、その当時の日本代表の戦い方は、テクニックの面では アジアも含めて外国には勝てないという考え方が前提にあったため、韓国や中東諸国との 試合では相手にボールを支配され、ゴールを必死に守りながら逆襲のカウンターを狙う戦 い方が中心であった。この戦術は、1980年代前半まで続いていた。
しかし、その後、1970年のワールドカップでのテクニック主体で華麗に戦っているブラ ジル代表のテレビ放映に影響を受けて育った若手選手達が、日本代表に招集されるように なったため、テクニックのレベルが高い画期的なチームが作られるようになってきた(7)。 そして、(1)で述べたように、1992年には、日本代表にとって初めてとなる外国人監督 のハンス・オフト氏が就任し、個性と能力はあるが、チームとして戦う力が欠如していた 日本代表に、分かりやすい用語(8)を使うことで戦術を浸透させ、戦術上の約束事を徹底さ せることで組織力を向上させた。例えば、FW(9)からDF(10)までの距離を40m以内にして、
(6) 後藤(2007,255ページ)を参照せよ。
(7) 後藤(2007,218ページ)を参照せよ。
(8) 分かりやすい用語とは、代表的なものでは、パスをするときに目を合わせる「アイコンタクト」やパ スコースを2つ作る「トライアングル」などがある(北・西部 2012,132ページ)。
(9) FW(Forward)とは、サッカーでのポジションの名称である。役割としては、主にフォーメーション
の最前列に位置し、得点を取ることである。
(10) DF(defense)とは、サッカーでのポジションの名称である。役割としては、主にフォーメーション
の最後尾に位置し、相手の攻撃を防ぐことである。
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攻撃と守備との距離を縮めることを絶対的な決めごととすることで連係を容易にしたり、
常にボールを持った選手の前に2つのパスコースを作ることを徹底させたりした。この戦 術は、後に述べるが、パスを繋ぐサッカーを主体とする現在の日本代表の戦術の基礎とな っていく。こうして、オフト監督は、コンパクトな陣形を作り、今まで統一されていなか ったサッカー用語を分かりやすい言葉に置き換えて戦術を浸透させることで、受け身のリ アクションサッカーから能動的で攻撃的なアクションサッカーへと変化を遂げた。そして、
試合の主導権を握った戦い方に進化した日本代表は、1992年の10月30日に、オフト監 督が就任してわずか7か月でアジアカップ初優勝という快挙を成し遂げた。
それからの日本代表は、1966年のアラブ首長国連邦大会ではベスト8止まりに終わった ものの、2000年に開催されたレバノン大会では、フランス人の監督であるフィリップ・ト ルシエ監督が、パスサッカーを主体とする戦術に磨きをかけた攻撃的なサッカーで2度目 の優勝を決め(11)、2004 年の中国大会でも、ジーコ監督が組織立ったプレーの中に突出し た個の力を組み合わせる戦術を取ることにより、アジアカップ連覇を達成した(12)。2007 年大会では、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)出身のイビチャ・オシム 監督が、選手自身のアイデアを重視するとともに、運動量を求めることで、人もボールも 動く攻撃的な戦術を披露したが、相手に引かれて攻め崩せない場面も多く、4位に終わっ た。しかし、直近の大会である 2011 年大会では、イタリア人のアルベルト・ザッケロー ニ監督が指揮した日本代表は、カタールの監督に、「日本はアジアのバルセロナ(13)だ。」と 言わせるほどの技術とパスワークにより、アジアで最多の4度目の栄冠に輝いた。
このように、1980年代前半までは、アジアでは相手チームにボールを支配され、カウン ターを狙う守備的なサッカーであったサッカー日本代表は、1992年以降、外国人監督を招 聘することで、世界基準の技術および戦術を取り入れ、さらにそれらを日本人に調和する よう発展させた。そして、パスを回すことによりボール支配率(14)を高めて戦う攻撃的なサ ッカースタイルへと変貌していったのである。次の(3)では、サッカー日本代表の現状 を調べるために直近の大会である2011年開催の第15回AFCアジアカップカタール大会 に絞り、ボール支配率およびシュート数に焦点を当てて、アジアでのサッカー日本代表は、
ボールを支配して、積極的にゴールを狙う攻撃的なサッカーであることを明らかにしてい く。
(11) 後藤(2007,338ページ)を参照せよ。
(12) 後藤(2007,366ページ)を参照せよ。
(13) バルセロナとは、1899年に創設され、スペインカタルーニャ州・バルセロナに本拠地を置き、リー ガ・エスパニョーラのプリメーラ・ディビジョン(1部)に所属するサッカークラブである。リーグ優 勝回数は19回およびUEFAチャンピオンズリーグの優勝回数は3回を誇る(小澤 2010,11ページ)。 華麗なパスワークで展開されるスペクタルなサッカーは、スペイン国内に留まらず世界中のサッカーフ ァンを魅了している。
(14) ボール支配率とは、チームがボールを支配している割合のことである。経過試合時間に対するボール 保有時間の割合を百分率で表している。ボール支配率が高いということは、チームのボールキープの時 間が長いということであり、すなわちパス回しやキープ力に優れたチームであると考えることができ る。
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( (
( (3 3 3 3) ) ) )ボール ボール ボール ボールを を を を支配 支配 支配 支配する する する攻撃的 する 攻撃的 攻撃的 攻撃的な な な なサッカー サッカー サッカー サッカー
ここでは、2011年に開催された第15回AFCアジアカップカタール大会での日本代表 に関する全試合のボール支配率およびシュート数を示した表から、日本代表は「アジアで は、ボールを支配する攻撃的なサッカー」であることを明らかにしていきたい。なぜ第15 回 AFC アジアカップカタール大会に限定するかというと、今大会はアジアで最大かつ最 新の大会であり、最近の日本代表のサッカーの傾向を顕著に表しているデータから現状を 明らかにできると考えたからである。
(図2)日本の2011年アジアカップでのシュート数とボール支配率
(出所)森本(2011),173ページ(延長戦の集計は除いている)。
上記の図2は、2011年に開催された第15回AFC アジアカップカタール大会のサッカ ー日本代表が戦った全試合に関するボール支配率、シュート数およびそれらの平均値を表 したものである。図の見方としては、左側の縦軸では各試合で放ったシュートの本数を、
右側の縦軸ではボール支配率を、横軸では左から6つの項目が 2011 年のアジアカップで 戦った日本代表の相手の国名を、右から1つ目の項目が今大会での日本代表のボール支配 率およびシュート数の平均を表している。赤い折れ線グラフはボール支配率を、青い棒グ ラフはシュート数を表している。
ここで、図2の左の項目から日本代表に関する 2011 年アジアカップでの各試合のシュ ート数およびボール支配率を見ていく。グループリーグ第1戦のヨルダン戦は、ボール支
配率が64.8%、およびシュート数が18本である。グループリーグ第2戦のシリア戦は、
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ボール支配率が60.5%、およびシュート数が15本である。グループリーグ第3戦のサウ ジアラビア戦は、ボール支配率が49.1%、およびシュート数が13本である。準々決勝の カタール戦は、ボール支配率が57.5%、およびシュート数が 11本である。準決勝の韓国 戦は、ボール支配率が55.4%、およびシュート数が16本である。決勝のオーストラリア 戦は、ボール支配率が55.8%、およびシュート数が13本である。今大会での全試合の平 均は、ボール支配率が57.2%、およびシュート数が14.3本である。
この図2から分かることは主に2つある。まず1つ目は、2011年大会での日本代表のボ ール支配率の平均が57.2%と50%を 7.2%超えていることである。ボール支配率が50%
より高いということは、相手チームよりボールを支配している時間が長いと言える。つま り、日本代表は、ボールキープ力およびパス回しが優れているチームであり、アジアでの 試合は主導権を握った試合をしていると言える。今大会では、日本のボール支配率が50%
を超えた試合は、全6試合中5試合あり、唯一ボール支配率が50%を下回った試合は、グ ループリーグ第3戦のサウジアラビア戦だけである。なぜ、この試合だけボール支配率で 負けたのかというと、サウジアラビアの戦術は、日本と同様に、自ら主導権を掌握し、ボ ール支配率を高めて得点を狙うチームであるため、日本はあえてボールを相手に持たせカ ウンターを狙っていたからである。その作戦が見事に当たり、この試合は日本が5点を取 って大勝している。
次に2つ目は、シュート数の平均が14.3本と、各試合10本以上のシュートを打ち相手 ゴールを脅かしていることである。ここで、今大会での日本代表の1試合平均の14.3本と いう数値が他国と比較して高いか否かを調べてみると、2011年大会に出場した全16チー ムの1試合平均のシュート数は12.7本であった(15)。今大会の平均と比較しても平均で1.6 本とアジアでの他のチームより多くシュートを放っていることが分かる。すなわち、日本 代表が、積極的に得点を狙う攻撃的なサッカーであることを示している。
これらのことから、最近のサッカー日本代表はアジアでは、相手チームよりボールを支 配することで、シュートを打つ機会を増やし、積極的に得点を狙う攻撃的なサッカーを展 開していることが分かった。
上記の(1)、(2)および(3)を通して、サッカー日本代表は「アジアでは得点力が あり、ボールを支配する攻撃的なサッカー」であることが示された。しかし、現在のサッ カー日本代表の目標は、世界でトップ10 のチームになることである(16)。アジアの頂点を 極めることは非常に意義のあることだが、それだけで満足してはならない。日本代表は、
世界チャンピオンを決めるFIFAワールドカップの舞台でこのような得点力があり、ボー ル支配率の高い攻撃的なサッカーができているのだろうか。
次節では、サッカー日本代表の世界での現状を明らかにするために、FIFA ワールドカ
(15) AFC公式 HP(2013,1月25日閲覧)を参照せよ。
(16) 日本サッカー協会公式 HP(2013,1月25日閲覧)を参照せよ。
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ップの第1回大会から現在までの大会成績と戦術という2つの視点から、サッカー日本代 表は「世界では得点力がなく、ボールを支配される守備的なサッカー」であることを示し ていきたい。
2 2
2 2. . . . FIFA FIFA FIFA FIFA ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップに に に に関 関 関 関する する する日本代表 する 日本代表 日本代表の 日本代表 の の の成績 成績 成績と 成績 と と戦術 と 戦術 戦術 戦術
本節では、世界でのサッカー日本代表が、「得点力がなく、ボールを支配される守備的な サッカー」であることを明らかにする。そのために、「(1)FIFAワールドカップの大会成 績」、「(2)第1回大会から第19回大会までの戦術の移り変わり」および「(3)ボールを 支配される守備的なサッカー」の3つに分けて、1936年第1回大会から2010年第19回大 会までのFIFAワールドカップでの日本代表に関する成績と戦術の変遷を、さらには世界の 強豪国の得点力などとの比較を通して、世界ではサッカー日本代表は「得点力がなく、ボ ールを支配される守備的なサッカー」であることを示していく。
( (
( (1 1 1 1) ) ) )FIFA FIFA FIFA FIFA ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップ ワールドカップの の の の大会成績 大会成績 大会成績 大会成績
ここでは、世界チャンピオンを決めるFIFAワールドカップの成績表およびワールドカ ップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点のグラフから、世界での日本代表の得点数に焦 点を当てて、「世界では得点力がなく、弱い日本代表」であることを示していく。
以下では、①日本のワールドカップの成績から分かる特徴および②ワールドカップ優勝 経験国の1試合当たりの平均得点のグラフから分かる特徴という2つの項目に分け、日本 サッカーが世界では得点力が低いことを、日本代表のワールドカップでの成績表と、世界 のトップレベルである国々に関する1試合平均得点を日本のそれと比較して示していく。
①
①①
①日本日本日本の日本のののワールドカップワールドカップワールドカップのワールドカップののの成績成績成績から成績からからから分分分かる分かるかるかる特徴特徴特徴特徴
表2は、日本サッカー協会が公表している「試合別出場記録」のデータを参考に、FIFA ワールドカップでの日本代表の大会成績を表にしたものである。なお、表の見方および 日本サッカー協会が公表している「試合別出場記録」のデータを使用した理由は、第1 節の(1)の①の「(表1)AFCアジアカップでの日本代表の成績」と同じであるため省 略する。
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(表2)FIFAワールドカップでの日本代表の成績
回 開催年 開催国 成績 試合数 勝 分 負 得点 失点
1 1930 ウルグアイ 不参加 ― ― ― ― ― ―
2 1934 イタリア王国 不参加 ― ― ― ― ― ―
3 1938 フランス 不参加 ― ― ― ― ― ―
4 1950 ブラジル 不参加 ― ― ― ― ― ―
5 1954 スイス 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
6 1958 スウェーデン 不参加 ― ― ― ― ― ―
7 1962 チリ 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
8 1966 イングランド 不参加 ― ― ― ― ― ―
9 1970 メキシコ 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
10 1974 西ドイツ 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
11 1978 アルゼンチン 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
12 1982 スペイン 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
13 1986 メキシコ 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
14 1990 イタリア 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
15 1994 アメリカ 予選敗退 ― ― ― ― ― ―
16 1998 フランス グループリーグ敗退 3 0 0 3 1 4
17 2002 日本・韓国 ベスト16 4 2 1 1 5 3
18 2006 ドイツ グループリーグ敗退 3 0 1 2 2 7
19 2010 南アフリカ共和国 ベスト16 4 2 1 1 4 2
― 合計 ― ― 14 4 3 7 12 16
― 平均 ― ― ― ― ― ― 0.85 1.14
(出所)日本サッカー協会HPの「試合別出場記録」を参考に筆者が作成(日本サッカー 協会公式 HP,『http://www.jfa.or.jp/archive/daihyo/daihyo/data/AGame.pdf』 (2013,1 月19日閲覧))。
表2を時系列に見ていくと、日本代表は 1930 年に初めて開催された第1回大会から 1994年の第15回大会まででFIFAワールドカップに不参加、あるいは本大会に繋がる予 選で敗退していることが分かる。これは、第2次世界大戦などの戦争の影響により、サ ッカーを行える環境ではなかったため、やむなく大会を棄権しなければならず、また、
累計9回もの予選敗退では、同じアジアのチームにあと一歩と迫るも惜敗し、本大会へ の出場権を勝ち取れなかったからである。
本大会に初出場を決めたのは、1998 年に開催された第 16 回のフランス大会からであ る。日本代表が初めてワールドカップの予選に出場をしてから、44 年目の年月が流れて
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いた。フランス大会のグループリーグでは、アルゼンチン、クロアチアおよびジャマイ カと対戦し、試合内容としては善戦であったものの、結果は3戦全敗となり、世界のト ップクラスとの差を実感するほろ苦い経験となってしまった。しかし、日本は初めてこ の大会で、世界トップレベルのサッカーを肌で感じることとなり、今後の目標が明確と なる貴重な大会になったのである。その後、日本代表は2002年の日本と韓国の共同開催 大会、2006年のドイツ大会および2010 年の南アフリカ大会と4大会連続で本大会に出 場している(17)。
ここで、表2の1930年大会から2010年大会までの日本代表に関する試合数の欄より 右の各項目を見ていく。なぜ、この期間に絞ったかというと、日本代表がFIFAワールド カップに初出場したのが1998年大会以降からであり、かつ真剣勝負が繰り広げられる本 大会での成績に焦点を当てたいと考えたからである。
まず、各大会での成績を述べると、日本代表が本大会に初出場を決めた1998年開催の 第16回フランス大会では、成績がグループリーグ敗退、試合数は3試合、勝利した数は 0回、引き分けた数は0回、負けた数は3回、得点数は1点、および失点数は4点であ る。2002年大会開催の第17回日本・韓国大会では、成績はベスト16、試合数は4試合、
勝利した数は2回、引き分けた数は1回、負けた数は1回、得点数は5点、および失点 数は3点である。2006 年開催の第18 回ドイツ大会では、成績がグループリーグ敗退、
試合数は3試合、勝利した数は0回、引き分けた数は1回、負けた数は2回、得点数は 2点、および失点数は7点である。2010 年開催の第 19 回南アフリカ大会では、成績が
ベスト16、試合数は4試合、勝利した数は2回、引き分けた数は1回、負けた数は1回、
得点数は4点、および失点数は2点である。
次に、累計記録を述べると、1998 年大会から2010年大会までの各項目の合計は、試 合数は14試合、勝利した数は4回、引き分けた数は3回、負けた数は7回、得点数は12 点、および失点数は16点である。
最後に、1998 年大会から2010 年大会までの得点数の合計を全大会通算試合数で割っ た日本代表の1試合平均得点は0.85点、および同期間の失点数の合計を全大会通算試合 数で割ることで算出した1試合平均失点数は1.14点である。
表2から分かることは3つある。まず、1つ目は、ワールドカップでの日本代表の最 高成績が、2002年日本・韓国大会および2010年南アフリカ大会に記録したベスト16で あることだ。アジアチャンピオンを決めるAFCアジアカップで優勝を4度も経験してい る日本代表でさえ、ワールドカップではベスト16止まりということから、この大会のレ ベルの高さが分かる。次に、2つ目は、日本がワールドカップの本大会に4回しか出場 していないことである。第1節の(1)の①の「(表1)AFCアジアカップでの日本代表 の成績」では、日本代表はアジアカップに 1988 年大会から 2011 年大会までの合計 11
(17) ただし、2002年大会は、日本と韓国の共同開催で行われたため、開催国である日本代表は、アジア 地区予選が免除されている。
16
回連続で出場しており、それと比較すると7回分の差があり、ワールドカップでの日本 代表の歴史は浅い。しかし、ここまでの 15年間は 1998年の第 16 回フランス大会から 2010 年の第 19 回南アフリカ大会と連続で出場していることから、着実に日本のサッカ ーは発展していると考えられる。最後に、3つ目は、1試合当たりの平均得点である0.85 点が、1試合当たりの平均失点数である1.14点を0.29点下回っていることである。これ は、ワールドカップでの日本代表は、平均としては1点も得点することができずに負け ていることを表している。これらの3つの特徴から分かった主なこととして、日本代表 は、アジアカップよりレベルが高いワールドカップでは、新参者であり、相手チームが 世界クラスになると、1点を取ることが容易ではないという点である。
このように、世界ではサッカー日本代表の歴史は浅く、成長はしているものの、アジ アカップのように約2点以上の得点を取ることは難しいことから、まだまだ世界ではサ ッカーの点で見ると発展途上国であると言える。しかし、この表2だけでは、他国と比 べてどれくらい得点力が高いか否かが分からないため、以下では、FIFAの公式ホームペ ージのデータを用いて、ワールドカップ優勝経験国の1試合当たりの平均得点と日本代 表のそれを比較していく。
②
②②
②ワールドカップワールドカップワールドカップ優勝経験国ワールドカップ優勝経験国優勝経験国の優勝経験国ののの1111試合当試合当試合当試合当たりのたりのたりのたりの平均得点平均得点平均得点平均得点ののののグラフグラフグラフグラフからからからから分分分かる分かるかるかる特徴特徴特徴特徴 図3は、FIFAが公表している「Country statistics and records(18)」のデータを参考に 作成したものである。この図は、縦軸にワールドカップでの1試合当たりの平均得点、
横軸に左から優勝回数が多い順に、ブラジル代表、ドイツ代表、イタリア代表、アルゼ ンチン代表、イングランド代表、スペイン代表、フランス代表、およびウルグアイ代表 と日本代表の1試合当たりの平均得点を国別に表している。なぜ、ワールドカップ優勝 経験国に絞ったかというと、日本代表もワールドカップに出場をしているからには優勝 を目指しているので、優勝経験国と比較することにより、世界のトップクラスの国々と 日本代表との1試合当たりの平均得点の差を把握できると考えたからである。
(18) 「Country statistics and records」とは、FIFA(Fédération Internationale de Football Association: 国際サッカー連盟)が第1回大会から第19回までのFIFAワールドカップに関するデータを集計したデ ータをいう(2013,1月26日閲覧)。
17
(図3)ワールドカップ優勝経験国および日本代表の1試合当たりの平均得点
(出所)FIFA公式 HPの「Country statistics and records」を参考に筆者が作成(FIFA 公式 HP,『http://www.fifa.com/worldfootball/statisticsandrecords/index.html』(2013,
1月25日閲覧))。
ここで、図3のワールドカップ優勝経験国と日本代表の1試合当たりの平均得点を表 の左から見ていくと、ブラジル代表が 2.16 点、ドイツ代表が 2.08 点、イタリア代表が 1.57点、アルゼンチン代表が1.75点、イングランド代表が1.3点、スペイン代表が1.57 点、フランス代表が1.77点、ウルグアイ代表が1.61点、および日本代表が0.85点であ る。
このように、日本代表の1試合平均得点である0.85点は、ワールドカップでの優勝が 史上最多の5回を誇るブラジル代表の1試合平均得点である2.16点と比較すると、1.31 点と約2.5倍もの差がある。優勝経験国の中では最下位であるイングランド代表の1.3点 と日本代表の0.85点とを比較すると、0.45点の差がある。一見大した差はないように考 えられるが、1試合に1点を取れるか取れないかの差は非常に大きい。つまり、日本代 表はワールドカップという世界の舞台では、得点力が著しく低いことが分かる。
したがって、(表2)および(図3)を考察した結果から、日本代表は、「世界では得 点力が低く、発展途上である」と考えられる。次の(2)では、ワールドカップ初出場 となる1998年フランス大会から直近の大会である2010年南アフリカ大会までのサッカ ー日本代表の軌跡を、戦術面から述べていく。
18
( (
( (2 2 2 2) ) ) )第 第 第 第1 1 1回大会 1 回大会 回大会から 回大会 から から から第 第 第 第 19 19 19 19 回大会 回大会 回大会 回大会までの までの までの までの戦術 戦術 戦術 戦術の の の大 の 大 大 大きな きな きな きな移 移 移り 移 り り変 り 変 変 変わり わり わり わり
ここでは、1930年開催の第1回ウルグアイ大会から2010年開催の第19回南アフリカ 大会までの日本代表が、どのような戦いを繰り広げてきたかを明らかにするために、歴代 日本代表監督が指揮した戦術に焦点を当てて、世界での日本代表の戦術の変遷を時系列に 述べていく。
日本代表は、世界最高峰のサッカーの大会であるFIFAワールドカップに初出場をした のが、1998年開催の第16回フランス大会からであり、日本代表のワールドカップでの歴 史は、たったの 15 年と浅い。日本代表の世界との戦いの始まりは、グループリーグ3戦 全敗という世界との差をまざまざと思い知らされる結果となった。フランス大会で指揮を 執っていた岡田武史監督は、守備面では海外選手の力強さや技術の高さを考慮して、守備 の人数を増やすことで相手の攻撃を止めようとし、攻撃面では海外の選手と比べてまだま だ個人の力で劣るため、アジア予選で機能していたパス回しを用いて、組織としてのまと まりによって得点を取ろうと考えていた。しかし、日本代表は守備面では健闘するも、攻 撃陣がグループリーグのジャマイカ戦での1点だけと不発に終わり、初めてのワールドカ ップは幕を閉じた(19)。
2002年の日本と韓国との共同開催で行われた第17回大会では、日本で初めてFIFAワ ールドカップが開催されるとあって、日本国民の注目度は非常に高く、スタジアムにはい つも多くのサポーター(20)や観戦者が足を運んでいた。この大会では、2000 年のアジアカ ップで日本代表を優勝に導いたフィリップ・トルシエ監督が、「フラット・スリー」と呼 ばれる独特の組織的な守備戦術を用いて注目を浴びた。攻撃面では、相手チームの選手に 対して、積極的にボールを奪いに行くことで、相手陣地の近い所でボールを奪い、そこか らすぐに相手ゴールを狙う方法を使った。その方法で日本代表は、ワールドカップでは最 多となる7得点を記録して、初めてグループリーグを突破し、ベスト 16 という日本のサ ッカー史に残る成績を収めたのである。
2006年の第18回ドイツ大会で采配を振るったジーコ監督の戦術は、前監督であるフィ リップ・トルシエ監督の組織的な戦術とは正反対であった。ジーコ監督の戦術は、細かい 決まりごとは作らず、戦術の細部は選手同士の話し合いに任せる自由放任主義的な形を取 っていた。具体的には、当時海外のサッカーチームで活躍をしていた選手を攻撃陣に選び、
一方の守備陣は日本国内でプレーする選手で構成していた。特に攻撃面では、海外で経験 を積んだ選手達の考えが重要視され、ジーコ監督からの直接の戦術的指示は少なかった。
結局、最後まで戦術は細部まで詰め切れず、曖昧な部分を残したまま本大会に臨んだため、
(19) 1998年第16回フランス大会での日本代表のスコアは、グループリーグ第1戦のフランス戦が1対0、
グループリーグ第2戦のクロアチア戦が1対0、およびグループリーグ第3戦のジャマイカ戦が2対1 である。なお、スコアの数字は、前者が相手チームの得点、および後者が日本代表の得点を表してい る。
(20) サポーターとは、サッカーチームを応援する人達のことを指す。
19
グループリーグでは1勝もできずに敗退してしまった。
直近の大会である2010年南アフリカ大会では、1998年大会でも日本代表の監督を務め ていた岡田武史監督が日本代表を率いていた。岡田監督は、本来ボール支配率を高めるこ とと積極的に相手ボールを奪いに行くことを軸にした攻撃的なサッカーを志向していた が、本大会前の調整試合でその戦術が上手く機能せず、本大会では急きょ守備的なカウン ターサッカーに変更した。元々日本人選手は、ボールを相手に取られてから自陣に戻る速 さ、および献身的な守備を得意としており、ごく短期間の戦術変更でも大きな混乱はなか った(21)。本大会では、岡田監督の戦術転換が功を奏し、相手の攻撃を必死に止め、少ない チャンスを得点に繋げる守備的なサッカーでグループリーグを見事突破し、海外で開催さ れたワールドカップでは初めてとなるベスト16に輝いた。
このように、日本代表は、格上のチームが多いワールドカップでは、アジアでの攻撃的 なサッカーのままでは上位進出が難しいことを1998年大会、2002年大会、および 2006 年大会から学んだため、最新のワールドカップでは、相手チームの攻撃に耐え、少ないチ ャンスを得点に結びつける守備的なサッカーに活路を見出した。次の、(3)では、サッ カー日本代表の現状を調べるために直近の大会である2010年開催の第19回FIFAワール ドカップ南アフリカ大会に絞り、ボール支配率およびシュート数に焦点を当てて、世界で のサッカー日本代表が、守備的なサッカーであることを明らかにしていく。
( (
( (3 3 3 3) ) ) )ボール ボール ボール ボールを を を を支配 支配 支配 支配される される される守備的 される 守備的 守備的 守備的な な なサッカー な サッカー サッカー サッカー
ここでは、2010年に開催された第19回FIFAワールドカップ南アフリカ大会での日本 代表に関する全試合のボール支配率およびシュート数を示した表から、日本代表は、「世 界では、ボールを支配されている守備的なサッカー」であることを明らかにしていきたい。
なぜ、日本代表の戦術を述べる上で、第 19 回大会に限定するかというと、ワールドカ ップでは第 19 回大会が最新の大会であるため、日本代表の現状をより明らかにできると 考えたからである。
(21) 北・西部(2012,156ページ)を参照せよ。
20
(図4)日本の2010年ワールドカップでのシュート数とボール支配率
(出所)森本(2011),173ページ(延長戦の集計は除いている)。
上記の図4は、2010年に開催された第19回FIFAワールドカップ南アフリカ大会のサ ッカー日本代表が戦った全試合に関するボール支配率、シュート数およびそれらの平均値 を表したものである。図の見方としては、左側の縦軸では各試合で放ったシュートの本数 を、右側の縦軸ではボール支配率を、横軸では左から4つの項目が2010年のワールドカ ップで戦った日本代表の相手の国名を、右から1つ目の項目が今大会での日本代表のボー ル支配率およびシュート数の平均を表している。赤い折れ線グラフはボール支配率を、青 い棒グラフはシュート数を表している。
ここで、図4の左の項目から日本代表に関する2010年ワールドカップでの各試合のシ ュート数およびボール支配率を見ていく。グループリーグ第1戦のカメルーン戦は、ボー ル支配率が44.1%、およびシュート数が18本である。グループリーグ第2戦のオランダ 戦は、ボール支配率が38.7%、およびシュート数が15本である。グループリーグ第3戦 のデンマーク戦は、ボール支配率が39.4%、およびシュート数が13本である。決勝トー ナメント1回戦のパラグアイ戦は、ボール支配率が37.6%、およびシュート数が11本で ある。今大会での全試合の平均は、ボール支配率が40.0%、およびシュート数が10.5本 である。
この図4から分かることは、主に2つある。まず、1つ目は、2010年大会での全試合に 関する日本代表のボール支配率が、カメルーン戦(44.1%)、オランダ戦(38.7%)、デン
21
マーク戦(39.4%)、およびパラグアイ戦(37.6%)のように、1度も50%を超えていな いことである。次に、2つ目は、シュート数の平均が10.5本と、各試合10本以上のシュ ートを放っていることである。ここで、今大会での日本代表の1試合平均の10.5本という 数値が他国と比較して高いか否かを調べてみると、2010年大会に出場した全チームの1試 合平均のシュート数は14.1本であった(22)。今大会の平均と比較しても3.6本と少なく、
世界では他のチームよりシュートを放っている数が少ないことが分かる。
これらのことから、サッカー日本代表は世界では、相手チームにボールを支配されるた め、シュートを打つ機会が少なく、守備的なサッカーを強いられていることが分かった。
上記の(1)、(2)および(3)を通して、サッカー日本代表は「世界では得点力がな く、ボールを支配される守備的なサッカー」であることが示された。次節では、第1節と 第2節で明らかになったサッカー日本代表の現状を、大会規模の違いから比較し、サッカ ー日本代表の問題点を論じていく
3 3
3 3. . . .戦術 戦術 戦術の 戦術 の の“ の “ “ “衣替 衣替 衣替 衣替え え え え” ” ”による ” による による による得点力 得点力 得点力 得点力の の の低下 の 低下 低下 低下
本節では、サッカー日本代表が大会規模の違いから、得点力と戦術に関して相違点があ ることを明らかにするため、第1節および第2節で得点力と戦術という2つの視点から抽 出した特徴を、アジアと世界という大会規模の違いから比較することで、「アジアでは強い が、世界では弱い日本代表」であることを示したい。
まず、第1節の(1)および第2節の(1)の2つを比較していく。なぜ、この2つを 比較するかというと、どちらも大会成績と1試合当たりの平均得点およびそれらの調査対 象がサッカー日本代表の数値であるが、アジアのチャンピオンを決めるAFCアジアカップ と世界のチャンピオンを決めるFIFAアジアカップというそれぞれの大会規模が違うため、
2つの大会でのサッカー日本代表の相違点を明確にしたいと考えたからである。
AFCアジアカップでのサッカー日本代表の大会成績および1試合当たりの平均得点を述 べた第1節の(1)の①および②では、AFCアジアカップでのサッカー日本代表が、「得点 力があり、優勝経験もある強いサッカー先進国」であると示され、一方、FIFAワールドカ ップのサッカー日本代表の大会成績および1試合当たりの平均得点を述べた第2節の(1)
の①および②では、FIFAワールドカップのサッカー日本代表が、「得点力がなく、最高成 績はベスト16であるサッカー発展途上国」であると示された。つまり、サッカー日本代表 は、「アジア」という限定された地域では得点力があり、優勝するほどの強さを持っている が、舞台を「世界」という広範囲から見ると、得点力は低い部類に入り、まだまだ成長す る可能性があるサッカーチームと言える。すなわち、サッカー日本代表は世界から見ると 得点力が少ないため、世界でも通用する得点力が必要であると考えられる。
(22) FIFA公式 HP(2013,1月28日閲覧)を参照せよ。
22
次に、第1節の(2)と(3)、および第2節の(2)と(3)の4つを比較していく。
この4つを比較する理由は、前ページで第1節の(1)および第2節の(1)を比較した 理由と同じであるため省略する。
AFCアジアカップでのサッカー日本代表の戦術の変遷、ボール支配率およびシュート数 を述べた第1節の(2)および(3)では、AFCアジアカップでのサッカー日本代表が、
「守備的なカウンターサッカーから、ボール支配率を高め積極的にゴールを狙う攻撃的な ポゼッションサッカーに変わった」ことが示され、一方、FIFAワールドカップのサッカー 日本代表の戦術の変遷、ボール支配率およびシュート数を述べた第2節の(2)および(3)
では、FIFAワールドカップのサッカー日本代表が、「ボール支配率を高め積極的にゴール を狙う攻撃的なポゼッションサッカーが通じず、守備的なカウンターサッカーを強いられ ている」ことが示された。つまり、サッカー日本代表が得意としており、かつアジアで通 用している攻撃的な戦術が、世界では通用しないのである。
このように、大会規模によって得点力の高さおよび志向する戦術に相違点があることが 分かった。サッカー日本代表は、相手との力関係からアジアの戦いでは「攻撃的なポゼッ ションサッカー」を装い、本大会になると「守備的なカウンターサッカー」に“衣替え”
せざるを得ない事態になることで、勝敗の行方を握る得点力が低下するという問題点を持 っているのである。
以上のように、本章では、サッカー日本代表の過去から現在までのAFCアジアカップお よびFIFAワールドカップの大会成績と戦術の変遷を踏まえた上で、得点および戦術面を大 会規模の違いから比較することで、「戦術の“衣替え”による得点力の低下」という問題点 を明らかにしてきた。
筆者は、日本代表が2010年ワールドカップ南アフリカ大会での守備的なカウンターサッ カーを用いて、2002年の自国開催の大会以外では初めてとなるベスト16に勝ち進んだこ とは快事であると思うが、これからもその戦術を志向し続ければ良いとするのは早計だと 考える。その理由は2つある。まず、1つ目は、自陣に引き、相手の攻撃を受けてからの 守備的なカウンターサッカーでは、体格で劣る日本代表(23)は、体格が良くてパワープレイ を得意とする対戦相手に対して、カウンターを仕掛ける前に力だけでゴールを決められて しまう可能性が高いからである。次に、2つ目は、図1および図3から分かるように、攻 撃的なポゼッションサッカーで戦ったAFCアジアカップでの1試合当たりの平均得点と守 備的なカウンターサッカーで戦ったFIFAワールドカップでの1試合当たりの平均得点を 比較すると、後者の方が1.09点少ないからである。サッカーの本質であり、かつ魅力でも あるゴールが取れないことには、ワールドカップでの上位進出、さらに優勝という目標は 夢幻に終わってしまう。つまり、筆者は、アジアで戦っている得点力が高い攻撃的なサッ カーを世界の舞台でも披露すべきだと考える。そこで、次章では、現在、サッカーの頂点
(23) 村松(2010,5ページ)を参照せよ。