• 検索結果がありません。

岡田太志著 保険問題の諸相

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "岡田太志著 保険問題の諸相"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

岡田太志著 保険問題の諸相

⎜ 千倉書房,2006年3月,緒言と謝辞2頁,目次5頁,初出一覧 1頁,本文203頁,主要参考文献6頁,索引2頁=219頁 ⎜

1.本書の構成内容

本書は12の章から構成されており,各章の内容(概要)は以下のとおりで ある。

第1章は,アメリカの損害保険事業を取り上げ,料率規制の変遷について 分析している。具体的には,保険者・ビューロー・消費者・規制当局という 当事者の動向に着目して,市場構造(種目別保険料構成)の変化と料率規制

(事前認可制から競争的料率制への移行)との相互関連性を解明している。

第2章は,1980年代後半のアメリカで発生した保険危機と保険事業規制の 急速な緩和との因果関係を解明している。具体的には,まず,支払保証基金 の有用性とモラル・ハザードについて考察している。次に,それらをふまえ て,保険危機を引き起こした要因の1つは,事前的規制と事後的規制の相互 影響性を無視し,事後的規制(支払保証基金制度)を旧態依然としたままで 事前的規制を緩和したことであり,そのために保険経営のモラル・ハザード が顕在化したことを論証している。

第3章は,アメリカの生命保険事業を取り上げ,その安定性と効率性につ いて考察している。具体的には,1980年代における生命保険会社の倒産実態,

ニューヨーク州における生命保険会社の自己資本規制と保険監督庁の検査体 制,おもにニューヨーク州の生命保険支払保証基金,NAIC(全米保険庁長 官会議)のリスク基準自己資本比率について分析している。

第4章は,1980年代末〜90年代初めのアメリカで多発した生命保険会社の 支払不能と,それを受けたソルベンシー規制について分析している。具体的 には,まず,生命保険会社の支払不能の発生傾向・特徴・原因と保険監督庁 257

【書 評】

(2)

の監督能力について検討している。次に,NAICが1990年代初めに起草し たリスク基準自己資本比率のモデル法案の概要・有効性・実行可能性につい て分析している。そして,自己資本比率と支払保証基金の賦課率・拠出率を 連動させると,事前的規制と事後的規制の両面から保険経営のリスク・コン トロールが可能になることを提示している。

第5章は,近代保険の特質と保険事業規制の意義について考察している。

具体的には,保険事業規制の最大の論拠は,近代保険の価値循環の転倒性に あることを論定している。また,保険者と保険契約者のあいだの 情報の偏 在 と 交渉能力 の観点から保険事業規制の意義を明らかにし,それをふ まえてアメリカの損害保険支払保証基金の問題点(内部補助金の問題)を提 示している。

第6章は,前章で取り上げた保険事業規制の意義を確認し,理論的に補強 している。具体的には,経済学の分野で精緻化された 情報の偏在 の議論 をふまえて,保険取引における 保険者の情報優位 と 保険契約者の情報 優位 について分析している。そして,保険事業規制の意義は,情報の偏在 の克服可能性という点(情報の偏在に起因する被害の発生を最小限にすると いう点)にあることを確認している。

第7章は,おもに消費者保護の視点から商品規制を考察している。具体的 には,近代保険の特徴と技術的特性,保険可能リスク,契約者保護の意義な どを確認しながら,商品規制の意義と政策課題を明らかにしている。

第8章は,①非対象的情報の錯綜に起因する保険取引の脆弱性,②不完全 情報に起因する2つの伝染効果(契約者による解約の増大,保険者による保 険供給の制限),③家計のリスク保障と自己責任について考察し,それによ って保険事業規制の必要性を確認するとともに,①〜③から導き出される保 険事業規制の基本的課題を提示している。

第9章は,保険料率の算出方法とその構成の基本的な実証的側面を確認し たうえで,算定会料率制(遵守義務を伴ったカルテル料率制)における差額 地代的超過利潤の問題と内部補助の問題およびリスク細分化・料率自由化の

岡田太志著 保険問題の諸相

258

(3)

意義と問題点を理論的に検討している。そして,規制緩和・自由化が進展す るほど,契約者保護(規制)の必要性は高まることを指摘している。

第10章は,規制緩和・自由化の進展にともなう商品差別化と料率自由化に よって家計保険契約者に生じる問題,逆選択およびモラル・ハザードと料率 制度との関係,解約時と会社解散時における預金者と契約者の利害状況の基 本的相違,セーフティネット(保険契約者保護機構)について考察し,それ によって規制改革を評価するとともに,将来の課題を提示している。

第11章は,相互会社の内部コントロールについて分析している。具体的に は,まず,相互会社の内部コントロールのこれまでの実態と特質を析出して いる。そして,ITの急速な発達にともなう総代会でのネット投票の実現可 能性と意義および相互会社の株式会社化の進行下における相互会社の存在意 義と経営パラダイム転換の可能性について論じている。

第12章は,1990年代以降の市場化という社会的潮流の下で,生命保険の市 場と組織に関する基本的課題について,前章までで展開した重要な論点を繰 り返し強調しつつ考察している。そして,最大の転換期を迎えている生命保 険事業の将来像(相互会社の経営改革の可能性)を提示している。

2.本書の評価

本書の各章は,筆者が1990年〜2005年の16年間に学術雑誌に発表した12本 の論文に基づいている。各章のタイトルは,本書の 初出一覧 からわかる ように,既発表論文のそれとほとんどまったく同じである。また,各章の内 容も,既発表論文のそれと総じて同じであると思われる。もしそうであるな らば,それは既発表論文に加筆・修正する必要がないほどそれらがよくまと まっており,完成されていることを示すものである。

本書の特色はおもに以下の点にあり,高く評価できる。第1に,保険の競 争と規制の整合性(市場の効率性と安定性の確保)という重要なしかし困難 な課題に本格的・積極的に取り組んでいることである。第2に,先行研究の 成果をきちんと取り入れてベースにするとともに,筆者独自の理論的・実証

保険学雑誌 第 599号

259

(4)

的分析を充分に加えて精緻化していることである。第3に,日本に先駆けて 規制緩和・自由化が進展したアメリカの保険事業を分析し,しかも損害保険 事業または生命保険事業の一方に限定しないで両者を取り上げていることで ある。第4に,こうした時間と労力をかけた丹念な作業によって,筆者がい くつも提示している見解には説得力があることである。

他方,2点ほど指摘しておきたい。第1に,筆者は本書の冒頭の 緒言と 謝辞 のなかで 基本的問題意識 を提示している。そして,それとともに 各章の内容と関係および全体のまとめも提示しておくと,さらによかったと 思われることである。つまり,それによって,筆者が本書全体を通じて明ら かにしたこと,主張したいことを読者はよりよく理解できるであろう。

第2に,いくつかの章の第1節 はじめに のなかで, 近年 や 現在 の語句を用いて現在形で叙述している保険事業などの状況がそれぞれの既発 表論文を執筆していた時期のものであるために,いささか違和感をもった読 者がいるかもしれない。そこで,たとえば本書の冒頭の 緒言と謝辞 のな かで,それぞれの既発表論文を執筆していた時期における保険事業などの状 況を現在形で叙述していることとその意図について付言しておくとよかった と思われることである。なお,その効果として,それぞれの既発表論文を執 筆していた時点における筆者の現状認識と問題意識を読者は読み取ることが できる点があると思われる。

しかし,これらはささいなことにすぎない。本書は,研究者はもちろん,

実務家と規制当局者にとっても多くの知見が得られる大作である。筆者は各 章で今後の課題をいくつか提示している。それらはたいへん興味深く,重要 な論点である。筆者の今後の研究成果を大いに期待したい。

(評者:小樽商科大学商学部教授 中浜 隆)

260

岡田太志著 保険問題の諸相

参照

関連したドキュメント

はじめに 第一節 研究の背景 第二節 研究の目的・意義 第二章 介護業界の特徴及び先行研究 第一節 介護業界の特徴

現実感のもてる問題場面からスタートし,問題 場面を自らの考えや表現を用いて表し,教師の

2 第 85.01 項から第 85.04 項までには、第 85.11 項、第 85.12 項又は第 85.40 項から第 85.42

第1章 生物多様性とは 第2章 東京における生物多様性の現状と課題 第3章 東京の将来像 ( 案 ) 資料編第4章 将来像の実現に向けた

第1章 総論 第1節 目的 第2節 計画の位置付け.. 第1章

第 3 章  輸出入通関手続に関する利用者アンケート調査結果 現在、通常の申告で問題がない。 

第第 11 部部 かか けけ がが ええ のの なな いい 海海..

第7条の4第1項(第4号に係る部分を除く。)若しくは第2項若しくは第14条の