保険販売の今後を考える:はじめに
⎜⎜ 創立70周年記念大会シンポジウム ⎜⎜
総合司会 岡 田 太 志
日本保険学会では,わが国における一連の保険自由化ないしは保険改革の 検証に係る研究報告が数年来続けられてきた。この度のシンポジウムのテー マ 保険販売の今後を考える は,これまでの学会活動の続編として取り上 げられたものである。
ここに改めて確認するまでもなく,われわれは,一般論として,市場にお ける自由な競争が資源配分効率を高め,やがては消費者利益に資することを 知っている。また,市場に特殊性が認められる場合には,市場補完的観点か らも公的規制や自主規制が求められることを知っている。これは,一方にお いて規制緩和が進められる程に,他方においては,主に市場透明性の確保と 契約者の交渉力の観点から,新たな規制や規制の強化が求められることを示 唆している。またわれわれは,私保険の分野には,市場の失敗の可能性のみ ならず,組織の失敗,規制の失敗の可能性が潜在していることをも歴史から 学んでいる。
こうした競争と規制のあり方に係る問題を考察する際のキーワードのひと つは,確認するまでもなく情報である。では例えば,商品に係る情報を価格 情報と非価格情報とに分けると,保険の利用者にとって,また保険市場にと って真に有意味な価格情報,非価格情報とは改めて何か。今日それらの情報 提供やその比較のあり方に問題があるとするならば,それは何か。そしてそ れは今後いかにあるべきか。これが,この度のテーマである保険販売の今後
51
*平成22年10月23日の日本保険学会大会(早稲田大学)報告による。
/平成23年1月23日原稿受領。
【日本保険学会創立70周年記念大会】シンポジウム 保険販売の今後を考える
のあり方を考える際に最も基本的な問題意識となっている。
伝統的に,家計保険の分野では,利用者の合理的判断による保険契約が必 ずしも実現してこなかった要因として,保険利用者のリスク認知に係る問題 とともに保険需要の間接性が指摘されてきた。それは主に,①保険の需要は,
生活維持のために基本的な欲求が充足された後の段階で生まれる,②保険商 品は不可視・不可触である,③保険は生活上の災厄や不幸に結びつくことが 多い,という観点から説かれてきた。これらリスク認知の限界と需要の間接 性が変わらずに認められる下で,いかなる主体が,いかなる情報を,いかな るタイミングで,いかにして利用者に提供するのか。保険需要の喚起,商品 理解の促進,需要に適合した商品選択,等を促進するため,家計保険の流通 プロセスでは,利用者に対して,なんらかの助力が必要とも考えられてきた。
そして,その役割を期待されるのが,ひとつには保険の各種販売チャネルで ある。
本シンポジウムでは,具体的には,伝統的なチャネルとしての営業職員,
代理店,そして新規参入チャネルとして,インターネット・チャネルを取り 上げ,それらの検討を通して,保険販売の現代的課題および今後のあり方に ついて考察することとした。また,この問題をできるだけ多面的に議論する ために,研究者,生保・損保の実務家,代理店というそれぞれ異なる立場か ら保険事業に係っている5氏に,パネリストとしての研究報告をお願いした。
今回のテーマについて,事前のミーティングでは,極めて率直かつ活発な 議論がなされ,それを通じて,⑴情報,⑵比較,という用語が,またそこか ら派生し,⑶ベストアドバイス義務,⑷共同プラットフォーム,⑸サービス の品質,⑹品質の比較,という用語がこの度のキーワードとなった。
各パネリストの論考から読み取っていただける通り,情報とその提供,な らびに保険利用者の意識と能力に深く係る本テーマに取り組むことは,論点 も多岐にわたり,必ずしも容易な作業ではない。しかしながら,大会には多 くの皆様方にご参加いただき,シンポジウムが大変な注目を集めたことから もご理解頂ける通り,今日,保険販売のあり方が,国民福祉のさらなる向上
保険販売の今後を考える:はじめに
52
という観点からも強く問われていることは間違いない。この度のシンポジウ ムが,この課題にさらに本格的に取り組んでいく契機となることを願ってい る。
最後に,この企画段階から実施に至るまで,さまざまにご協力とご配慮を 賜った日本保険学会大会関係者各位,ならびに当日の議論に熱心にご参加頂 いた会員の皆様方に,改めて厚く謝意を表したい。
(筆者は関西学院大学商学部教授) 保険学雑誌 第 612号
53