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雪冷房方式低温貯蔵システムを使用した農産物貯蔵の基礎調査

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Academic year: 2021

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(1)

緒    論

 豪雪地域において,雪は年間の降水量の一部として考 えた場合には必要不可欠であるが,莫大な除雪費用等の 降雪によるマイナス経済効果のが大である。しかし,雪 が有している冷熱エネルギーを利用することができれ ば,現在の冷蔵システムに要する冷媒や電源に代わり,

非常にコストの低い冷蔵システムを備えることが可能で ある。最近になって,各地域で実際に利雪型冷蔵システ ムを利用した雪室による食品素材や加工食品類の貯蔵あ るいは付加価値を高めた食品の開発が盛んに試行されて きている(1,2)。しかし,農産物の低温貯蔵について,

室温と比べた場合は別として,一般的に使用されている 冷蔵システムと比較した場合の雪室の有効性や欠点は完 全に解明されていない。また,上記2種類の冷蔵システ ムで長期間,農産物を貯蔵して,その物性や栄養成分を 詳しく比較している例もまだ少ない状況にある。さら に,各地域の雪室構造やシステムが異なるために,それ ぞれの試験測定値を比較することは不可能である。本研 究では,青森県内で生産される6種類の農産物を雪室と 一般的に使用されている大型冷蔵室でそれぞれ貯蔵し,

各々の試料の物性や栄養成分の変動を比較することで,

青森県における利雪型農産物貯蔵システム確立に結びつ く基礎知見を収集した。

材 料 と 方 法

1 .貯蔵農産物

 試料は,青森県平賀町で同場かつ同日に採取した同じ ロットのハクサイ,キャベツ,ダイコン,ニンジン,ト マトおよびホウレンソウを平賀町農協より購入して貯蔵 した。

2 .貯蔵方法

 試料は青森県平賀町のエコ農産みちのく雪室および JA 平賀集出荷所の低温冷蔵室でそれぞれ貯蔵した。各 試料の入庫は平成111028日に行い,以後,平成 12124日まで経時的に貯蔵した試料の物性と栄養

雪冷房方式低温貯蔵システムを使用した農産物貯蔵の基礎調査

中村 信吾・ 長田 恭一

生体機能工学講座

(2001年10月22日受付)

弘大農生報 No.4 : 37 ― 41, 2001

成分を分析した。雪室での野菜類保存は,各試料を別々 にケースに入れた後に,それぞれを分別して3段の保存 台上で保蔵した。なお,貯蔵環境を調べるために,温湿 度測定計(おんどとり RH,ティアンドデイ社製)を用 いて冷蔵室内の温湿度を常時モニターした。

3 .分析方法

 各試料の硬度はレオメーター(FUDOH NRM‑1003A を使用し,No. 5‑50の突き刺し型針を用いて3Kgで加 圧して,突き刺す時の負荷力から算出した。測定した試 料については,ニンジンと大根は中心部から 2cm 厚に 輪切りにしたものを上部より,キャベツは半分に切断し たものを外側と内側の両者から,トマトは上下部から突 き刺すことで測定した。

 水分は 105 ℃で 3 時間乾燥加熱する常圧加熱乾燥法

(3)で経時的に追跡した。

 ビタミンC濃度はHPLC分析法(4)で行った。すな わち,試料50gより還元型ビタミンCを抽出し,日立高 速液体クロマトグラフ装置655型を用い,分析カラムと してIntertsil ODS‑2(ジーエルサイエンス社,4mm× 150mm),移動相は30mM KH2PO4(0.1mM Na2EDTA を含む,流速,0.5ml/min),カラム温度は 50 ℃,検出 254nm(日立638‑41型)の分析条件下で分離定量し た。

 糖度は各試料から搾汁液を作成し,手持屈折計(アタ  500型)を使用して測定した(5)。なお,測定値は室 20℃で補正した。

 トマトおよびニンジンの色素に関して,β−カロテン は試料よりメタノールで抽出後,トマトのリコペン濃度 はメタノールでβ−カロテンを除去後,ベンゼンで抽出 し,それぞれメタノールあるいはベンゼン10mlに溶解 させた後に,分光光度計(β−カロテン:451nm,リコ ペン:487nm)を用いて測定し,各色素の吸光係数を 用いて算出した(6)。

 貯蔵中の色の変動は色彩色差計(ミノルタ CR‑300)

を用いて測定した。

(2)

結 果 と 考 察

1 .貯蔵温度と湿度の変動

 図1に示すように,温度変化は両システムともに比較 的小さかった。しかし,湿度変動は局所的ではあった が,電気冷蔵システムの方が比較的大きいことを確認し た。以上の結果から,温度と湿度に関しては,貯蔵シス テムとして雪室は電気冷蔵システムと比較して何ら条件 的に問題がないものと思われる。

2 .貯蔵物質の硬度変化

 各試料の固さは,図2に示すように個体差が大きかっ たために正確な見解を述べることは不可能であるが,ト マトを除く各試料は,貯蔵期間が長くなるに従って硬度 が減少する傾向にあった。また,貯蔵の一時期ではある が,トマトとダイコン貯蔵の中期,キャベツ貯蔵の後期 には,電気冷蔵と比べて雪室で保存した場合の方が固さ が保持されやすい現象を認めた。この原因は,雪室の湿 度変動が比較的小さかったことが影響したのではないか と考えられるが,冷蔵システムの違いと植物代謝に何ら かの関係がある可能性もある。

3 .貯蔵物質の栄養成分の変動

 各試料の水分濃度の変動を追跡した結果,水分濃度変 動に大きな差がなかった(図3)。しかし,ダイコンと トマトを除く3種類の野菜類は,電気冷蔵よりも雪室で 貯蔵した方が水分の減少がわずかに抑えられる傾向に

1 雪室と電気冷蔵室の温湿度の変化

2 貯蔵野菜の硬度変化

   測定値=6分析値の平均値±S.E.M.

あった。この現象も湿度変動の違いと何らかの関係があ るのかもしれない。

 各試料のビタミンC濃度変動はそれぞれ異なった(図 4)。ハクサイは 2 種類の冷蔵貯蔵で大きな差は生じな かったが,キャベツは電気冷蔵よりも雪室で貯蔵すると ビタミンCは減少し易い傾向にあった。一方,ダイコン とトマトは貯蔵最終日を除いて,電気冷蔵と比べて雪室 で貯蔵すると,ビタミン C 濃度が保持され易い傾向に あった。冷蔵方法の違いによって生じた各試料のビタミ C濃度変動の違いを生じさせた原因は不明であるが,

植物組織内の酸化還元系に及ぼす影響がそれぞれの冷蔵 システムによって変化するのではないかと予測される。

 糖度は,ニンジンとトマトの場合は両冷蔵法でも,わ 3 貯蔵野菜の水分変動

   測定値=3分析値の平均値±S.E.M.

(3)

ずかに減少する傾向にあったが,他の3種類の野菜類は ほぼ同じ濃度を保持した(図5)。ニンジンの糖度保持 効果は電気冷蔵と比べて雪室で貯蔵した方が劣ったが,

ダイコンとトマトは雪室で貯蔵すると,糖度減少が抑え られる傾向にあった。ハクサイとキャベツは両冷蔵貯蔵 間で差はなかった。一般的に,でんぷん質の少ない農産 物の糖度は貯蔵中に減少していくことが知られている が,本実験で使用された試料では,糖度減少が比較的小 さかった。リンゴやバナナ等の様にでんぷん質の高いも のを試料として調べることで,糖度変動と冷蔵システム の関係をさらに調べていく必要があると思われる。

 トマトとニンジンのリコペンおよびβ−カロテンの両 濃度を調べたところ,トマトの両色素濃度は電気冷蔵よ りも雪室で貯蔵すると高くなる傾向にあった(図6)。

しかし,ニンジンのβ−カロテン濃度は電気冷蔵よりも 雪室で貯蔵すると低くなった。

 3種類の野菜類の色彩変動は,図7に示すように,ト マトの場合,貯蔵中に明度(L値)が減少し,赤色度の 増加(a値が+へ増大)が両冷蔵貯蔵で認められた。と くに,この2つの指標の変動は電気冷蔵と比べて雪室で 若干大きかった。b値(+方向は黄色の増大を,−方向 は青色の増大傾向を示す指標)の変動は両冷蔵貯蔵とも に小さかったが,電気冷蔵の場合は初期に減少し,一定 レベルを保持したが,雪室保存の場合は貯蔵中期から減 少した。L値とa値の両変動とリコペンおよびβ−カロ テンの両濃度の変動との間には相関する傾向があった が,b値との関連については不明であった。

 ニンジンの場合,L値は雪室よりも電気冷蔵で貯蔵す ると低くなり,a値およびb値は雪室で貯蔵すると電気 冷蔵よりも明らかに高くなった。この結果は雪室と比べ

4 貯蔵野菜のビタミンC濃度変動    測定値=2分析値の平均値

5 貯蔵野菜の糖度変動    測定値=2分析値の平均値

6 貯蔵トマトおよびニンジンのlycopene β‑ carotene濃度の変化

測定値=6分析値の平均値±S.E.M.

(4)

れ以上の物性と栄養成分の保持効果が確認できた。すな わち,青森県においても,電気消費が少なく,冷媒を用 いない環境に配慮した利雪型貯蔵システムによる農産物 の貯蔵が有効であることが本研究の測定値から十分に予 測できる。

摘    要

 農産物の雪冷房方式貯蔵システムを確立するために,

ハクサイ,キャベツ,ダイコン,ニンジン,トマトおよ びホウレンソウを雪室と電気冷蔵庫で貯蔵し,各野菜類 の物性と栄養成分に与える影響を比較した。雪室と電気 冷蔵庫の温湿度に大きな差はなかった。電気冷蔵と比べ て雪室貯蔵では,キャベツおよびダイコンの硬度は保持 され易い傾向にあった。ハクサイ,キャベツ,およびニ ンジンの水分減少がわずかに抑えられた。ダイコンとト マトのビタミンC濃度は電気冷蔵と比べて雪室貯蔵で保 持され易かった。ハクサイ,キャベツおよびダイコンの 糖度は雪室貯蔵でほぼ同じ濃度に保たれた。トマトのリ コペンおよびβ−カロテン濃度は電気冷蔵と比べて雪室 貯蔵で高く,ニンジンβ−カロテン濃度は雪室貯蔵で低 くなった。以上のように6種類の農産物を電気冷蔵と雪 室で貯蔵したところ,若干の物性や栄養成分の貯蔵変動 があるが,農産物の雪冷房方式貯蔵システムを使用した 貯蔵は可能であることが明らかとなった。

謝    辞

 本研究は青森県雪エネ研究会との共同研究かつ,文部 科学省地域先導研究として行われたものである。また,

各種分析においてお世話になった青森県工業試験所,奈 良岡馨氏,青森県つがる農産物加工センター,山本忠志 氏に深く感謝致します。

引 用 文 献

1.佐藤利美,伊藤美和,鈴木武,高橋亨,渡辺朋恵:雪む ろの農業への利用に関する研究.山形農試研法.28:

81―98.1994.

2.福島忠昭:雪資源を利用した野菜の貯蔵,東北の園芸資 源―その特徴と新技術.園芸学会東北支部編,秋田.

165―167.1994.

3.前田安彦:1979.水分の定量 p. 2127 前田安彦編.

初学者のための食品分析法.弘学出版.東京.

4.倉田忠男,大塚恵:1997.ビタミンCの定量 p. 439 454 日本食品科学工学会編.新,食品分析法.光琳.

東京.

5.安藤達彦:2001.野菜や果実をはかる: p. 60―65 安藤 達彦,吉田宗弘編.身のまわりの食品化学実験.三共出 版.東京.

6.木村進:1996.カロチノイド成分と変色:p. 187 290  木村進,中林敏郎,加藤博通編.食品の変色の化学.光 琳.東京.

7 貯蔵野菜の色彩色変化

て電気冷蔵室で貯蔵すると赤色および黄色度が強くなっ て,明度が低下することを意味するが,β−カロテン濃 度の変動と相関していなかった。この点についてはさら なる検討が必要である。

 一方,ホウレンソウのL値は雪室で貯蔵した場合,初 期は電気冷蔵の場合よりも低くなったが,後期には逆に 雪室よりも電気冷蔵で貯蔵した場合の方が高くなった。

a値は電気冷蔵の場合はほぼ同じレベルで推移したが,

雪室貯蔵では上昇する傾向にあり,電気冷蔵の場合より も高くなった。b値はa値で観察された現象の逆の傾向 にあった。これらの結果はホウレンソウを雪室で貯蔵す ると電気冷蔵と比べてやや鮮やかな色彩になる傾向にあ るのではないかと予想される。この結果の原因として,

クロロフィル等の色素の代謝と消長に対して冷蔵システ ムの違いが何らかの影響を及ぼしたのではないかと考え られる。

 平成 11 年度の弘前地域は記録的猛暑かつ暖冬の影響 で年度内は例年よりも気温が高い状況にあった。とく に,貯蔵試験開始から終了期にかけては降雪量も異常に 低く,最高気温が 10 ℃を越える日も多かった。他の地 域に存在する利雪型貯蔵システムに比べると完成度が比 較的高い雪室ではあったため,外気温が高かったにも関 わらず,電気冷蔵とほとんど変わらないか,あるいはそ

(5)

Basic Studies on Storage of Agricultural Products Using Storage Room Cooled by Snow

Shingo NAKAMURA and Kyoichi OSADA Laboratory of Food Science

SUMMARY

  The aim of this study is to establish the storage room of agricultural products cooled by snow.   

The changes of physical properties and nutrition ingredient of stored vegetables in each storage room were  compared after Chinese cabbages, cabbages, Japanese radishes, carrots, tomatoes, and spinets were stored  in the storage room of cooled by snow or the electric refrigerator.   Significant differences in moisture  and temperature between the two storage systems were not observed.   The hardness of cabbages and  Japanese radish among examined vegetables tended to be held in the storage room cooled by snow.   

The decrease of the moisture level of Japanese cabbages, cabbages and carrot was slightly inhibited in  the storage room of cooled by snow.   The vitamin C level of Japanese radishes and tomatoes tended  to be held in the storage room cooled by snow compared to the electric refrigerator.   The sugar levels  of Japanese cabbages, cabbages, and Japanese radishes was same in the two storage systems.   Lycopene  and β‑ carotene levels were higher in tomatoes stored in the storage room of cooled by snow than in those  stored in electric refrigerator, however, β‑ carotene level of carrots stored in the storage room cooled by  snow was lower than that stored in the electric refrigerator.   Thus, the uncommon problem was not observed  in storage of vegetables using the storage room cooled by snow, although the changes of physical properties  and nutrition ingredient in vegetables stored in each storage systems were slightly different.   Therefore,  the storage room of agricultural products cooled by snow may be available in an area of high snowfall.

Bull. Fac. Agric. & Life Sci., Hirosaki Univ. No.4: 37―41, 2001

参照

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