貨幣の価値尺度機能と産業資本の運動
高倉泰夫
Abstract
There are two cases of the measure of values in the capitalist produc- tion. One is the gold standard system and the other is the monetary- system without gold, so-called "the managed currency system." This paper concludes that the latter system is more suitable for the move- ment of industrial capital, because it is able to change the measure of values in order to describe upwardly the result of rise in the productivi- ty of labour.
はじめに
本稿では,貨幣商品金に基礎をおく貨幣制度での貨幣の価値尺度機能と,
金に基礎をおかない貨幣制度でのそれとが,資本制的生産における社会的労 働の生産諸力の発展による諸商品の価値低下が産業資本の運動(G・‥G′)の なかで発現するさいに,その発現のしかたにどのような相違をもたらすかを
1)
考察している。そして生産性の上昇が長期にわたってつづく場合には,貨幣 商品金1単位の価値量が一定にとどまる貨幣制度よりも,貨幣1単位のあら わす価値量が減少しうる貨幣制度のはうが,産業資本の運動にとってより適
2)合するものとなった。すなわち物象化した「一つの生産関係」としての貨幣 は金からはなれることで,社会的労働の生産諸力のいっそうの発展をもたら
3)
す産業資本の運動にさらに呼応しうるものとなったのである。ただし,この
呼応している関係はつねに安定しているわけではない。
1)ここでのある生産分野での生産性はつぎのように規定される。
生産物量
過去の労働投入量+現在の労働投入量
この生産性の上昇が生産物の価値量の低下をひきおこす。また一国の生産性の上昇 率は,このような各分野の生産性の上昇率をそれぞれの分野の労働投入量にしたがっ て集計することによって得られることになる。
ちなみに,行沢健三『労働生産性の国際比較一日米工業を中心として一~ (創文 社,
1 9 7 6
年)では「産業連関表の細目化とともに可能となる「過去の労働」の近似的 測定を試みることは近い将来の課題として残されているのである。J
(29~30ページ)として,
I
現在の労働」による分析をおこなっている。2)
木下悦二は貨幣の価値尺度機能について,つぎのようにのべている。「商品に現実に 価格がある以上そこには尺度が存在する。その尺度の働きをするものはなにかという のが価値尺度論の出発点である。マルクスの価値形態論によっても,一般的等価形態 に立てるにはそれがすべての商品に対して直接的交換可能性をもたなくてはならない。この役割を担えるものだけが価値尺度の役割を果たせるのである。その点からいって もはや金ではなくて,中央銀行券だけがその役割を果たしている。それ自体ふさわし い価値を持たない中央銀行券が表示している通貨単位が現実に価値尺度の役割を果た している。この紛れもない事実と,この中央銀行券がどのような過程を経て「価値物」
=金を振り捨ててきたか,とは別問題である。また,現実の価値尺度自体の価値浮動 性をどのように安定的にさせるかとの課題とも理論次元を異にする
J
(書評:松村文武『体制支持金融の世界一ドルのブラックホール化ー ~J
W
世界経済評論Jl3 8
巻7
号,1 9 9 4
年7
月,6 9
ページ)。ただ,ここでは貨幣を中央銀行券に限定するのではなく,預 金貨幣までふくむ必要がある。3
)ここでは不変資本はすべて流動不変資本と想定し,固定不変資本は捨象する。また,価値は投下労働量によって規定されるものとする。そして,労働日も一定とする。な お,貨幣商品金 l単位とは,金一定量の呼称名である価格の度量標準のことを逆から 表現したものであり,ここではそれは不変だと想定している。
貨幣の価値尺度機能について
マルクスは金本位制下の流通手段について次のように述べている。「すな わち,流通過程の或る与えられた期間については,諸商品の価格総額/同名 の貨幣片の流通回数=流通速度として機能する貨幣の量 となる J (K I . S . 1 3 3 ) 。)ここでは,諸商品の価格はその価値量を貨幣名によって変換したもの であり次元としては価値量とかわらない。
この表現は ,
,i'XjP i ! r=G ( r は貨幣の流通速度),すなわち , XP=rG , とあらわされる。
ここで貨幣商品金 1単位あたりの価値量は一定とする。また r も一定とす る 。
そして金以外の諸商品の各生産部門での社会的労働の生産諸力の発展がつ づくとすれば,各生産部門での直接・間接の投下労働量の減少にともない,
各部門での諸生産物の価値はしだいに低下しつづけることになる。そして,
その貨幣による表現としての諸価格もまた同様に,貨幣の価値尺度機能が一 定である限り,低下しつづける。すなわち , P i t > P i t + l ,である。他方で社 会的労働の生産諸力の発展は諸生産物の生産量の増加と商品種類の増加をも たらす。ここで商品種類の増加を捨象しうるとしても,生産量の増加は諸資 本の競争の結果としておこり , X i t
くX i
t+l となる。
以上のことから , X i t P i t と X i t + l P i t +
1とを比較すると , X i t P i t くあ
t+1 P
伽1 1すなわち使用価値でも価値でも拡大再生産がおこなわれるためには , P i t / P i
t+l よりも X
併l / X i t が大きいことが必要である。ここで , X=
,i'X j , P=
,i'R であり , XtP t
くXt +1 Pt +1 となる。
このように,個別の商品の価値量および価格の低下が全般として生じても,
XtP t
くX
t+l P
t+ 1であれば,社会全体としても正常な資本循環 ( G … G ' )が
おこなわれるのであり,投下された資本価値が一般的な利潤をともなって回
収されることが社会的生産の総体としては可能となる。
ここで貨幣量についてみてみると , PX=rG で r を一定として時間に関
して微分すると P+X=G となる。ここで , P は減少し X は増加するので あるが,社会全体として諸商品の価値量の減少率を商品量の増加率が上まわ らない限り,貨幣量は増加しないことになる。すなわち,金本位制下で貨幣 商品金 1単位の価値量を一定とするとき,社会的労働の生産諸力の発展のも とでは生産された商品量の増加率しだいでは流通手段としての貨幣量は減少 することもあるのである。
次に,貨幣商品金という特定の生産物に基礎をおかない貨幣制度のもとで は,貨幣 l 単位があらわしている価値量を一定と想定することはできない。
以下でも貨幣の流通速度を一定とした上で,この不確定な貨幣の価値尺度機 能を考えることにする。貨幣 1単位があらわしている価値量を E , M を流 通手段としての貨幣量とし,諸商品の価値量を O とすると , OX=ME とお
くことができる。なお,ここでは貨幣の流通速度は 1とする。
これを時間にかんして微分すれば , O+X=M+E となる。これは E=(O+X)‑M となるが,このことは貨幣 1単位のあらわす価値量は,貨 幣量の増加と諸商品の個別の価値量の減少と生産物量の増加によって,事後 的にきまることをしめす。ここで,各生産分野では生産性の上昇により個別 の商品の価値量は減少し,ここでも , Oit>O
針 1となるが , O=
'LO i である O は X の増大により , OtXt
くOt+1X t +1 となる。
貨幣量の増加が,諸商品の価値量の減少と生産物量の増加との和を上まわ るとき,貨幣 1単位のあらわす価値量が減少し,その価値量で貨幣の価値尺 度機能ははたされる。そのときは,容易に PtX t
くPt +1X
t+lとなる (P=
OjE) 。貨幣量の増加が,諸商品の価値量の減少と生産量の増加にひとしけ
れば,貨幣 1単位の価値量は一定となり,諸商品の価格も低下することにな
る 。
4 )マルクスの貨幣論の定式化については,高須賀義博『現代のインフレーションー 構造論的接近-~新評論,
1 9 8 1
年,第l
部,も参照されたい。なお,高須賀説(同上書,
6 4 " ‑ ' 6 6
ページ)では,まず国内に金生産部門を想定し,つぎに法定の価格の度量標準の固定性により,金生産部門に過剰投資がおこなわれで も,他の生産部門との関係ではそれが物価騰貴をうみ自動的に金の過剰生産が解消す るという立論をおこなっている。しかし,本稿でははじめから一国内での金生産部門 の存在を前提とし,それと他の生産部門とを比較するという方法はとっていない。
ここでは,マルクスが
1 8 6 1
年以降にとった方法である,実際には外国貿易において 圏内の剰余生産物の一部が交換されることで金が国内にもたらされるのであるが,こ の外国貿易により輸入された貨幣用金がはじめから国内に存在することを理論上の前 提として一国内での再生産過程の分析をおこなう,という方法をとっている(小著『生 産諸関係論としての経済学の成立』九州大学出版会,1 9 8 9
年,第7
章,を参照)。その ために価値尺度としての金については,ここでは金生産部門と他の生産部門との直接 比較をおこなうのではなくて,一国内でのそのように前提された貨幣用金1
単位の価 値量と,他の諸商品の価値量との比較がまずおこなわれる。そして,現実には外国貿 易によって輸入された金と他の諸商品との価値量の比較において,産金地で生産性の 上昇とともに生産量の増大もいちじるしかった場合には,貨幣商品金l単位の価値量 の低下がそこから生じこの金1
単位の価値量の低下が諸商品の価値量の価格表現へ あたえる影響はその国の商品世界全体へおよんでいくことになる。5
)学説史上の諸論者における貨幣の価値尺度機能については,たとえば,千賀重義「物 価論におけるリカードウとジェヴォンズJ
~経済と貿易~ (横浜市大)1 6
号,1 9 9 3
年7
月,同r r
管理貨幣」をめぐるリカードウとケインズJ
~横浜市立大学論叢』社会科学 系列,4 4
巻1
・2
・3
号,1 9 9 5
年3
月,同「リカードウの金本位制論J
~鹿児島経大論 集~3 6
巻4
号,1 9 9 6
年1
月,を参照されたい。6 )
トウガンーパラノアスキーは,生産諸力の発展により,社会全体でも生産物量とし ては拡大しているにもかかわらず,価値量としては縮小している表式を作成している( M i c h a e l Tugan‑Baranowsky , T h e o r e t i s c h e G r n n d l a g e n d e s M a r x i s m u s , L e i p z i g : Dun‑
c k e r & Humbolt
,1 9 0 5
,S . 1 8 0 " ‑ ' 1 8
1)。そこでは,貨幣1
単位の価値量は一定と考え られている(たとえば,S . 1 6
1,を参照)。2 金本位制下での生産諸力の発展と資本の運動 ( i ) 貨幣商品金 1単位の価値量が不変の場合
( a ) 資本の運動
貨幣商品金 1 単位の価値量が一定で,者修品部門をのぞくすべての生産部 門での社会的労働の生産諸力の発展がつづくとき,個別の生産分野のそれぞ れの商品の価値量は減少していくことから,前節でみたように P i t > 九
+1と なるが,それぞれの生産量の増大によって P i t X i t
くP i t + 1Xi t + 1 となりうる。
このことは,各個別的資本にとって G‑W(Pm) での価格低下が生じるも のの, W'
ーG ' での価格低下も生じることとなり,当初の投下資本価値を一 般的な利潤(あるいは剰余価値)をともなって回収するには,この価格低下 のなかでのそれぞれの商品の販売数量の増加を通じておこなわざるをえない ことになる。このことは生産性の上昇がいちじるしく,価格低下も大きい分 野では,この分野全体でもそしてそこでの各個別資本にとっても,この販売 数量の増加は大幅である必要がある。
たしかに,ある生産分野で生産技術の革新などで生産性の上昇をなしとげ たある個別資本は,一時は超過利潤あるいは特別剰余価値を得ることができ ることで,その分野の商品価格が下落していくなかでも投下資本価値の維持
・回収は相対的に容易におこないうるにしても,新生産方法が一般化すれば
超過利潤は消失してしまうために,つぎにはより一層の生産数量そして販売
数量の増加を通じてのみ,投下資本価値の一般的な利潤をともなっての回収
がおこなわれうることになる。このように一般的に生産性の上昇の結果とし
て商品価格の低下が生じまた販売数量の増加のための競争も激化しうる状
態のもとでは,各個別資本が社会的労働の生産諸力の発展をさらにはかって
いっそう生産性の上昇を大きくするように行動するとはいえない面が生じう
る。そしてまた,このような商品に対する需要は,資本と労働とのあいだの
分配諸関係によっても左右されることになる。
このように,社会的労働の生産諸力の発展による諸商品の価値低下そして 価格低下がつづくとき,生産資本にとってはしだいに購買 (G‑W) すると きと販売 (W'‑G') するときとの間で負の差額が生じることになる。
w‑g をべつにすれば,購買と販売とのあいだでの時間の経過が大きければ 大きいほど, G‑W と W‑G との負の差額は大きくなる。
このことは,個別的資本にとっても,社会的資本にとってもおなじである。
商品価格の低下がつづくとき,この負の差額はつねに社会全体としても存続 しつづけている個別的資本にとっても累積していくことになり,資本の運動
( G … G ' ) を名目的にもつづけていくために,この負の差額が剰余価値ある いは利潤からの控除によってまかなわれることが必要となる。
このように,貨幣商品金 1単位の価値量がかわらないという想定のもとで,
金以外の諸商品の生産性がたえず上昇すると考えるとき, G … G 'をくり返す 産業資本の運動はその金を価値鏡としていることから,ここでは当初に投下 された資本価値を名目的に維持し,利潤を伴って回収するにさいして,年ね ん困難さが増していくことになる。すなわち,価値鏡のあり方によって,価 値の運動体としての資本にとっての,生産性上昇の結果のあらわれかたがか わるのである。ここでは貨幣商品金 1単位の諸商品に対する購買力は年ねん 増していくのであり,その点では貨幣商品金 1単位にもとづいてあらわされ る資本所有は,貨幣商品金 1 単位の商品支配力が年ねん増えていく中で,名 目では同じであっても実質では年ねんかわっていることになる。この名目の 面で資本所有は法的所有としてあらわれている。
( b ) 名目賃金および実質賃金について
ここでは労働日一定としている。そして資本制的生産を二部門に分割して 分析をすすめる。
まず,実質賃金を一定とすると,社会的労働の生産諸力の発展に応じて生
活手段の諸商品の個別の価値量も減少していくことから,名目賃金は生活手 段の諸商品の価値低下率と同率で低下することになる。このことは社会全体 の剰余価値率をあげる,あるいは労働分配率を低下させる,すなわち剰余価 値率 (M/V) を上昇させていく。そのことは,使用価値だけではなく価値 からみても拡大再生産がつづく場合でも,また生産量の増加はあっても価値 の面では拡大再生産とはならない場合でも同様である。このときには,利潤 率も上昇していくことになるが,実質賃金が一定あるいは名目賃金が低下す る場合には,資本の価値構成をたかめる技術は導入されにくいので,この利 潤率の上昇傾向はつづいていくことになる。
このことを,生産手段生産部門と労働者用の生活手段生産部門との関係に おきなおしてみると,生活手段生産部門にたいして生産手段生産部門の比率 が年ねん上昇していくことになる。そのことは生産手段部門の内部での転態 が年ねん拡大していくような技術構造と需要構造が,社会的な再生産過程の なかに存在する必要があるが,必ずしもその条件が満たされるとはいえない。
そのことは,資本の価値構成がたかまらないとすればかならず生じるのであ り,このような一方的な生産手段生産部門の拡大は社会的生産を不安定にす ることになる。また,拡大再生産で蓄積率が年ねん上昇する場合でも,資本 の価値構成が低下しなければ生産手段生産部門の生活手段生産部門に対する 比率の増大はつづくことになる。
他方で,生産性が上昇するもとでこのように実質賃金が一定であることは,
労働密度がたかまる一方であることとなり,ここでは相対的剰余価値の生産 を絶対的剰余価値の生産がおおっている状態となる。この面からも,生活手 段の価値低下に応じて名目賃金も低下させることへの労働者階級の抵抗は大
きくなるといえる。
つぎに,貨幣商品金 1単位の価値量が一定のもとで実質賃金が生活手段生
産部門での生産性の上昇あるいは生活手段の価格低下に対応してひき上げら
れる,あるいは名目賃金が一定にたもたれるとする。この場合には,社会全
体としては M/V または労働分配率はほぼ一定となる。この場合には,利潤 率もかわらず,生産手段生産部門と労働者用の生活手段生産部門の比率も安 定していることがかんがえられる。ただ,実質賃金が生活手段の価値低下に 対応して上昇するときに,資本の価値構成がたかまる可能性はあるが, M /
V が安定的であれば,生産手段生産部門が生活手段生産部門に対してその比 率をたかめつづけるとはいえない。
では,このような生産性上昇による物価下落の中で名目賃金を維持するこ とは,各個別資本にとっては必ずしも望ましいこととして映るわけではない。
ここでも,個別資本にとっては,名目上の投下資本価値とそれに対する一般 的な利潤をともなっての回収をしなければならないが,他方で商品価格の低 下が結局はおこっていることから,より多くの販売量を実現することが必要 であり,そのためにおなじ生産分野での他の個別資本との競争が激しくなる ことになる。そのような価格低下のなかでの競争をしている個別資本にとっ て,名目賃金の維持は,直接に予定されている利潤率の実現をはばみ利潤を 侵食するものととらえられる。ここでは社会的資本の視点からは社会的再生 産過程を安定させるものとして望ましいことでも,個別資本にとっては競争 上の障害としてとらえられることになる。ここでは社会的資本の立場と個別 資本のそれとは相反してあらわれている。
以上みてきたように,産業資本の運動 (G … G ' )にとって,貨幣商品金 1 単位の価値量が一定であることによる物価の低下は,その資本価値の維持・
回収に負荷をあたえ,また資本所有にも負荷をあたえるものとなっている。
( u ) 貨幣商品金 1単位の価値量が減少する場合
( a ) 資本の運動
まず,社会全体での諸商品の価値量の減少と金 1単位の価値量の減少との
関係をみる。ここでも価格の度量標準は一定であっても,金 l単位の価値量
が減少することで貨幣商品金の価値尺度機能による諸商品の価値の価格表現 に大きな変化が生じる。
ここでは豊かな新鉱脈の発見または採掘における新技術の導入によって新 産金の産出が急増する場合をかんがえている。新産金の産出量が急激にそし て大量に増加するときには,それは貨幣商品金 1単位の価値量を減少させる ことにな 4 8 ) この金 l単位の価値量の減少は諸商品の価値量の減少をそのま ま価格の低下としてはあらわさない場合を生じさせる。そのことはまた,産 業資本の運動 (G … G ')に影響をあたえることになる。
社会全体での生産諸力の発展の平均あるいは諸商品の平均された価値減少 率が,貨幣商品金 1単位の価値減少率にひとしければ,金以外の諸商品の価 格水準は一定となる。また,平均された諸商品の価値減少率が貨幣商品金 l 単位の価値減少率を上まわれば,諸商品の価格水準は下落する。ここでは,
価格の度量標準としては貨幣商品金 1単位はおなじであっても,価値尺度と してはそれは相対的に増大していることになる。つぎに,諸商品の平均され た価値減少率が金 1単位のそれを下まわるときには,諸商品の価格水準は上 昇する。ここでは 1単位の金は価値尺度としては相対的に縮小したことにな る。このような社会的労働の生産諸力の発展が貨幣の価値尺度機能によって 諸商品の価格水準の変化としてあらわれてくることが,産業資本の運動ある いは投下資本価値の維持と一般的な利潤をともなう回収にも影響をあたえる
ことになる。
第一の場合として,貨幣商品金 l 単位の価値量の減少率と金以外の諸商品
の平均された価値の減少率とが同じであれば,全体としての諸商品の価格水
準は生産性の上昇がつづいているにもかかわらず一定となる。ここでは,生
産量の増加はそのまま総価格の増加としてあらわれる。このことは,諸資本
の競争の結果としての生産性の上昇の結果が,一般的にはそのまま産業資本
の運動 (G … G') に反映されることを意味している。ここでは,ある生産部
面で平均的となった生産性の上昇をおこなっている個別資本にとって,生産
性の上昇の結果は,一時的に生じる超過利潤あるいは特別剰余価値というか たちではなくて,減少した価値量での商品をつうじての投下された資本価値 の名目的な維持・回収そのものに限定される。
このように,生産性の上昇が価格低下をみちびくのではなく,生産性の上 昇がつづいているなかで,生産量の増大がそのまま G
…G ' の増大につなが るこの場合のほうが,投下資本の一定の利潤をともなった回収がはるかに容 易である。他方,ある生産部面で平均的な生産性の上昇をおこないえなかっ た個別資本はその獲得する利潤が縮小することで,新生産方法の採用かある いはその生産部面からの退出を余儀なくされる。ここでは,生産性が上昇す るもとで価格水準が安定していることは,競争下にある産業資本にとってそ の資本運動 ( G
…G ' ) の拡大をおこないやすい,すなわち生産性の上昇の結 果を手中にしながら,より一層の生産拡大をおこなうことがより容易な状況 のもとにあるといえる。
第二に,貨幣商品金 1単位の価値量の減少率が他の諸商品の平均された価 値量の減少率よりも小さい場合をかんがえると,この両者の減少率のちがい に応じて,諸商品の価格水準は低下していくことになるので,ここでも前項 の金 1 単位の価値量が一定の場合の記述がほぼあてはまる。それでも,金 1 単位の価値量が減少していくことから,投下資本価値の一定の利潤をともな っての回収は,金 1単位の価値量一定の場合よりはおこなわれやすい状態に ある。ここでは新生産方法の採用をめぐる諸資本の競争は,価格低下の度合 が小さい場合ほど活発化しやすいとかんがえられる。
第三に,金 l 単位の価値量の減少率よりも諸商品の価値量の平均された減 少率が下まわる場合をかんがえる。ここでは,社会的労働の生産諸力の発展 の結果としての生産性の上昇は,諸商品の個別の価値量の減少をもたらすが.
金 l単位の価値量の減少が大きいために価格としては上昇する傾向をしめす ことになる。ここでも第一の場合とほぼおなじ状態があらわれる。
新生産方法を先行して採用した個別資本にとっては,生産性上昇の結果と
しての超過利潤が商品の価格上昇分の差益をふくむ一般的な利潤とともに投 下資本にともなって回収されることになるが,新生産方法をおくれて採用し た個別資本にとっても諸商品の価格が上昇傾向にあることから,投下資本価 値の維持・回収 (G…G')は名目としては諸商品の価格が一定あるいは低下 傾向にあるときよりも容易である。ただ,投入される生産手段の価格も上昇 していくために,産業資本が当初の資本価値から出発して名目的に G … G ' を くりかえしていくためには,当初の資本価値では不足していくのであり,拡 大再生産がつづくときにはその不足額は累積していくことになる。この w‑g を除外しての (G1‑W1 (Pm)J く (G
2‑W
2(Pm)J く…の不足分は名
目上は剰余価値あるいは利潤からの控除によって補充される。
この金貨幣 1単位の価値量の減少による諸商品の価格上昇がゆるやかで,
この価格上昇による名目上の差益が一般的利潤率よりも十分にひくい場合に は,社会的生産の撹乱がおこる可能性はひくく,また投下資本価値の維持・
回収もおこなわれやすい状態にあることで諸資本の競争を促進しやすい環境 にあるといえる。ここでも,新生産方法を採用しなかった個別資本は,費用 が相対的に上昇し他方で価格は他の資本のそれと同一であることで実現され た利潤が縮小していくことから,新生産方法の採用をおこなうかまたは退出 を余儀なくされる。なお,生産性の上昇による商品の価値低下が他の分野で の平均的な価値低下よりも大きい分野では,価格の下落が生じることで,新 生産方法を採用することへの競争による強制はより一層強まることになる。
このような価格上昇が急速である場合には,物価上昇による名目上の差益 の発生が,産業資本の運動における一般的な利潤率を上まわりうることとな
り,生産過程を含む産業資本の運動 ( G … G ' ) を阻害することになる。
( b ) 各目賃金および実質賃金について
まず,貨幣商品金 l単位の価値量の減少率と生活手段の諸商品の生産性の
上昇による価値の平均された減少率が同ーの場合をかんがえる。ここでは生
活手段の価格は一定となる。それゆえここでは名目賃金も実質賃金も一定あ るいは労働者の生活水準も一定と想定できる。他方で,社会全体で生産性の 上昇がおこっているのであるから,名目でも実質でも賃金が一定であること は,諸資本にとっては労働分配率が低下し,剰余価値率そして利潤率が上昇 することとなる。しかも,この利潤率の上昇は,社会全体として物価が安定 しているなかで投下資本価値の回収が名目でもおこなわれやすい条件のもと にあることから,容易に実現されうることになる。
しかし,この利潤率の上昇は実質賃金一定ということからもたらされたも のであり,そのことは生活手段生産部門の生産手段生産部門に対する比率の 低下,あるいは生産手段生産部門の一方的な拡大と表裏をなすことになる。
そして,このような生産手段生産部門の一方的拡大が実際的でないときには,
この再生産過程は不安定なものとなる。
他方で,名目賃金が金貨幣 l単位の価値量の低下に応じてひきあげられ,
あるいは同じことになるが実質賃金が生活手段生産部門の生産物の価値量の 減少に応じてひきあげられていけば,労働分配率はほぼ一定となり,利潤率 も安定的となる。ここでは生活手段生産部門と生産手段生産部門は平行して 発展していくこととなる。このときには,社会的再生産過程は安定しうるも のとなる。
つぎに,金 1単位の価値量の減少率が金以外の諸商品の平均された価値量 の減少率よりも小さい場合では,生活手段の価格もその生産性の上昇によっ て少しづっ低下していく。ここで,生活手段の価格低下率に応じて名目賃金 が低下すれば実質賃金はかわらず,労働分配率は低下し利潤率は上昇する。
ここでも金 1単位の価値が一定の場合にのべたことと同じ問題が生じるので あり,生活手段生産部門に対する生産手段生産部門の比率はしだいに上昇す ることになる。
ここで,もし名目賃金が金価値の低下分だけ上昇し,旧金価値ではかると
一定のままであれば,実質賃金は生活手段の価格低下率にしたがって上昇す
る。ただし,この実質賃金の上昇は,生活手段の価値量の減少率/金 l単位 の価値量の減少率 によってきまる。労働者階級にとっての生産性の上昇の 配分をみると,生活手段生産部門での生産性上昇率あるいは生活手段の価値 の減少率のうち,金 1 単位の価値量の低下率でカヴァーされる部分であり,
残りはその手をはなれている。ここでは実質賃金は上昇するが,労働分配率 はしだいに低下する。そして利潤率も上昇するが,そのことは前とおなじよ うに,生産手段生産部門の生活手段生産部門にたいする比率はしだいに上昇 することになる。また,価格低下が緩和されたかたちでもつづくことから,
販売数量の増加をめぐる競争はG … G 'の名目的な維持のためにより強くあら われることになる。
それゆえ,労働分配率が一定の,または社会的生産において部門聞の均衡 のとれた生産がおこなわれるのは,名目賃金が金価値低下前とくらべて相対 的に上昇して, M/V が一定となるような生産性上昇の結果の配分.がおこな われたときである。なお,労働分配率を上昇させつづけるような名目賃金の 上昇がおこなわれた場合には,生活手段生産部門の生産手段生産部門に対す る比率を上昇させることになるが,産業資本の獲得する利潤の圧縮も生じう る 。
つぎに金貨幣 l単位の価値量の減少率よりも,金以外の諸商品の平均され た価値量の減少率のほうが小さい場合には,生活手段もその価値量の減少率 と,価値尺度としての金 1 単位の価値量の減少率との比にしたがって,その 価格は上昇する。そして,名目賃金が一定であれば実質賃金は下落する。そ の場合には,前と同様に労働分配率の低下と利潤率の上昇および生産手段生 産部門の社会的生産にしめる比率の増大がおこる。
あるいは,生活手段の価格上昇率にしたがって,実質賃金が不変となるよ
うに名目賃金が上昇する場合には,生産性の上昇による諸商品の価値量の減
少はつづいているのであるから,労働分配率は低下することとなり,前にみ
たこととおなじ問題が生じる。
また,労働分配率が一定となりうるような生産性の上昇に応じた名目賃金 の上昇がある場合には,実質賃金は上昇するとともに生産手段生産部門と生 活手段生産部門の拡大は平行したものとなる。
以上の三つの場合では,生産性が上昇するもとでも諸商品の価格は上昇し ていることから,産業資本にとってその投下資本価値の維持・回収は金 1単 位の価値量が一定のときよりも容易である。このような価格の一般的な上昇 傾向のもとでは,価格が低下しつづけるときにくらべて,新生産方法採用の ための投下資本の回収はより容易となり,また結果として全般的な価格低下 をもたらさない点で,諸資本の商品の販売をめぐる競争はより緩和されてあ らわれるといえる。その点で労働分配率の低下につながらないような名目賃 金の上昇は,個別資本にとってより許容されうるものともなる。生産諸力の 構造にも規定されているが,金 1単位の価値量が減少する場合あるいは貨幣 1 単位の価値量が事後的にきまる貨幣制度のもとでは,社会的資本と個別の 生産分野での新生産方法の採用をおこなっていく個別的資本とが,その次元 の違いにもかかわらず,同ーの方向をむく場がより設定されやすくなるとか んがえられる。
7)新産金の増大による貨幣商品金
l
単位のあらわす価値量の減少が投下資本価値の維 持・回収にとって好適な状態をもたらすのであり,そのことによって産業資本の側に とって新技術の採用あるいは生産性の大きな伸びが生じうるようになると本稿ではか んがえている。なお,長期波動説にたつコンドラチエフはつぎのようにのべている。「それは,金生 産高は,その増大が物価上昇と景気高揚の前提たりうるとしても,それ自体は長波の リズムに従属しており,したがって,長期波動を外部からひきおこす原因および偶然、
的要因とみなすことはできないということである
J
(中村丈夫編『コンドラチエフ 景 気波動論』亜紀書房,1 9 7 8
年,1 4 6
ページ)。8) 1 8 9 0
年代なかばから第l
次世界大戦までの物価騰貴の原因についてのカウツキーや ヴァルガ,パウアーなどの論争については,笠信太郎訳『金と物価一ーー貨幣価値論 争一』同人社,1 9 3 2
年,および,西村閑也『国際金本位制とロンドン金融市場』法政大学出版局,
1 9 8 0
年,1 0 9 ‑ ‑ ‑ 1 1 6
ページ,などを参照。パウアーやカウツキーなどは,新産金の増加ー+金価値の低下一+物価上昇の立場にたつ。
なお,それとはべつに
R
・ホートリーはつぎのようにのべる。「物価指数はイギリス についてはわれわれが検討している全期間について算出されており,その結果は啓発 的である。もし,われわれが明らかになった一般的な傾向をみるならば,われわれは 通貨が金平価にもどった1 8 1 9
年から大戦の勃発した1 9 1 4
年までのあいだに,四つの明 瞭に区分される期間を目にする。最初の期間では物価が下落しており,それは18 5 0
年 までつづいた。第二の期間は物価が上昇しており,それは1 8 7 3
年までつづいた。1 8 7 3
年から18 9 6
年まではふたたび物価が下落した期間であり,最後に1 8 9 6
年から1 9 1 4
年ま でふたたび物価は上昇した。物価上昇の期間はまさに大量の金生産の期間であり,物価下落の期間は小量の金生 産はあるいは比較的小量の金生産の期間であった。しかし,
1 8 7 3
年から1 8 9 0
年までの 金生産は,1 8 5 0
年から1 8 7 3
年までのそれよりもわずかに少なかったのであるが,それ でも1 8 5 0
年以前よりもはるかに大量のものであった。諸条件が不変のままでありつづ ければ,それは前の期間のように物価を急速に上昇させなかったにしても,物価上昇 を継続させるにはほぼまちがいなく十分であった。しかし通貨としての金の需要が突 然に増加して金の供給の速度を上まわってしまい,物価が下落することで均衡がうま れることとなった。1 8 7 3
年から18 9 6
年のあいだの物価下落は45%にのぼったJ(R. G. Hawtrey
,The G o l d S t a n d a r d i n T h e o η and P r a c t i c e
,5 t h e d .
,London: Longmans
,Green and C o .
,1 9 4 7
,p p . 8 4 ‑ ‑ ‑ 8 5 )
。なお,
1 8 7 3
年から1 8 9 6
年にいたる期間の金生産が18 5 0 ‑ ‑ ‑ 1 8 7 3
年のそれにくらべて漸 減していたことは,1 8 5 0 ‑ ‑ ‑ 1 8 7 3
年の金生産の急激な増加によるその期間での貨幣商品 金1
単位の価値量の低下とはちがって,1 8 5 0
年までとはちがった水準であるが金l
単 位の価値量をほぼ一定とすることとなったとかんがえられる。その点でホートリーの ように,1 8 7 3 ‑ ‑ ‑ 1 8 9 6
年の金生産を1 8 5 0
年以前のそれと比較するのはあやまりであろう。また,ここにワレンとピアソンによる
1 8 3 9
年から19 3 3
年までの金生産の図をかかげる( G e o r g e F . Warren
,and Frank A. Pearson
,G o l d and
pri・c e s
,New Yor
k: John Wiley &Sons
,1 9 3 5
,p . 1 2 3
,F i g u r e 2 )
。指 数 180
140
100
60
1869 1909
世界の基礎的諸商品の生産指数と金生産指数,
1 8 3 9 ‑ 1 9 3 3 . 1880‑1914= 1 0 0 .
1939
なお,
1 9
世紀の物価指数については,コンドラチエフ,前掲書,1 1 8
ページ,を参照。ま た,彼はつぎの指摘をしている。1 1 9
世紀初め以降の絶対的価格水準の一般的低落傾向にた いして,決定的意義を担ったのは,技術的進歩(生産手段,交通手段,生産組織の改良を 包括する広義の)であり,主としてこの進歩に結びついた労働生産性の上昇であった。こ の技術的手段と労働生産性の発展は生産費の低下を招来し,このことが国内的・国際的競 争の緊張という条件のもとで,上述の継続的な価格低落傾向の最重要かつ第一義的な原因 をなしたのであったJ
(前掲苫,2 4 0
ページ)。3 貨幣商品金を基礎としない貨幣制度
ここでは,いわゆる「管理通貨制度」といわれる貨幣制度のもとでの貨幣
の価値尺度機能と産業資本の運動との関連について分析する。第 l節にみた
ように , M=OX/E であり , O/E=P であった。そして,時間で徴分すれ
ば, E=(O+X)‑M となるが,ここでは,貨幣 l単位のあらわす価値量
は金本位制のもとでのように金の採掘条件などの技術的なあるいは自然的条
件によって決定されることはない。貨幣商品金に基礎をおかない貨幣制度の
もとでは,生産数量 X を別にすると貨幣量と生産性の変化によって貨幣 l
単位のあらわす価値量は決定される。つまり,金本位制下とは異って貨幣の 価値尺度機能も資本制的生産の中での内生変数化してはたされているのであ る。金本位制のもとで,諸商品の生産における生産性の上昇と対応しうるよ うな貨幣商品金 1 単位の価値量の減少は,富鉱の発見や採掘や精製での新技 術の導入のような自然のあるいは外的な諸条件によって左右されるものであ ったのにたいして,ここではそのような制約から免れている。ここでは,貨 幣は金本位制下でのように事前に確定されたかたちで価値尺度機能をはたす のではなく,時間の経過の中で,基本的には貨幣量および生産性の変化によ って事後的にたえず修正される形で価値尺度機能をはたす。
このような貨幣の価値尺度機能によって,社会的労働の生産諸力の発展に よる諸商品の価値量の減少が一般的には価格低下としてあらわれず,むしろ 価格が一定であるか,またはゆるやかな上昇傾向にあるか,あるいは,ゆる やかな価格低下でも長期にわたっては継続しない状態がもたらされることと なり,そのことは産業資本の運動にとって投下資本の価値の一般的な利潤を ともなっての回収のためにはむしろ望ましい状態となる。この点では,先に みた金貨幣の価値量の低下率と諸商品の価値量の平均的な低下率とがほぼひ としい場合とおなじような現象がここでもみられる。ただ,ここではそれが 人為的になされうるのである。
ここで平均的な生産性の上昇率の分野の商品は価値低下率も平均的な水準
にあるが,そのような商品を生産する資本にとっては,生産性の上昇が価格
低下に直結しないぶん,金価値一定の場合にくらべて競争のためには好適な
条件下にあるといえる。金価値一定の場合には,競争の結果としての生産性
の上昇が商品価格の低下をもたらすために,投下資本価値の正常な回収のた
めの販売競争が激化しうるものであったことにくらべてそうかんがえられ
る。もちろん,貨幣商品金に基礎をおかない貨幣制度のもとでも平均よりも
高い生産性の上昇がおこる分野では商品価格の下落がつづくために,投下さ
れた資本価値の正常な回収をおこなうための競争は激しいものとなる。
ここでは生産性の上昇が価格の安定につながることで,産業資本の運動に とっては名目賃金が上昇し,そして労働分配率が安定的であることは,むし ろ好ましいものとして,社会的総資本の次元では一般的には認識されうるで あろう。その場合には生産手段生産部門と生活手段生産部門との平行した発 展が可能となる。ここでは,社会的労働の生産諸力の構造とその変化も,貨 幣 1単位のあらわす価値量と社会的再生産過程との関係が安定していくこと に影響をあたえていることが注目される。
9
)貨幣量から貨幣1
単位の価値量の決定にいたるまでには,産業資本の側での生産性 の上昇率や生産数量の変化だけでなく,実際には中央銀行の信用の供与量,蓄蔵貨幣 と流通手段および支払手段としての貨幣との間での利子率をも媒介とする転換可能性,そして貨幣の流通速度も作用することになる。
1 0 )
本稿では,資本制的生産がおこなわれる時代では,貨幣商品金が陽表的にではあれ,陰伏的にではあれ,つねに価値尺度機能をはたしているという立場にはたっていない。
金貨幣ときり離して現在での貨幣の価値尺度機能についてかんがえるほうが貨幣と生 産過程との関連をかんがえうるのであり,価格の度量標準の変更から物価上昇あるい はインフレーションを規定する方法では貨幣と資本制的生産過程との聞を切断するこ とになる。
1 1 )赤羽隆夫による,金融資産取引,実物資産取引,および国民経済計算では控除され
るC部分にあたる企業間での取引をふくむ財貨サービス取引とM
1との関連についての 研究では .M1の供給ー+資産取引ー+財貨サービスの増加,という経路がしめされて いる。ここで .M1の総額=資産取引量+財貨サービスの取引量,である( f
国民経済総 取引の推計一実物経済と金融経済の関連に関する分析のための基礎資料集(昭和3 0
年 平成2
年 ) 一J
W経済分析n .
(経済企画庁J 1 2 2
号.1 9 9 1
年3
月)。ただ,貨幣1
単位があらわす価値量がきまるのは,財貨サービス取引においてであって,資産取引 における貨幣がもっ価値尺度機能はその財貨サービス取引から逆に規定される。む す び
貨幣商品金を基礎としない貨幣制度のもとでは,新製品の開発や新しい生 産方法の開発とその採用をめぐる激しい競争がおこなわれている分野を別に すれば,平均的な生産性の上昇あるいは商品の価値低下が生じている生産分 野の個別的産業資本の多くにとっては,生産数量あるいは使用価値量の増加 が,ほぼそのまま総価格の増大そして資本の拡大再生産へとつながることと なる。ここでは貨幣 l単位があらわす価値量が低下していくもとで,商品流 通 (W‑G‑W) における商品生産的所有は形式的に維持されているのであ るが,べつの面では,社会的労働の生産諸力の発展のもとでは長期的には貨 幣 1単位のあらわす価値量を低下させていくことが資本運動を浮揚させる効 果をもつこととなる。すなわち,金本位制下では貨幣商品金の価値量が一定 であれば生産性の上昇は商品価格の低下をもたらし,それが資本価値の維持
・回収に負荷をあたえていたのにたいして,ここでは資本の運動からそのよ うな負荷をとりのぞくこととなる。それは生産諸力の発展の結果が資本所有 に反映されやすくなるように,貨幣の価値尺度機能のあり方がかわったとい うことであり,資本所有は資本運動と相まって形式として維持されている商 品生産的所有を資本所有により従属させるものとなっている。
そして,資本の運動あるいは資本循環 (G…G') が,社会的資本において も個別的資本においても連続していること ( G … G ' ・ G . . . G ¥ …)が,
~資本論』そのままではないにしても,価値形態そして貨幣の価値尺度機能をた えまなく連続して再現させている。)すなわち,価値形態ー+貨幣‑ー産業資 本 という順序だけではなく,資本循環の連続性・継続性一+価値形態ある いは貨幣という方向からも物象化した「一つの生産関係」としての貨幣を 考えることが,後期資本制における貨幣をとらえるためには必要だといえる。
そして,価値形態および貨幣の価値尺度機能のこのような変化は,生産諸力の
構造変化とも対応している。
1 2 )
筆者と概念はことなるが,宇野弘蔵は「管理通貨」を「一つの過渡的な資本主義の 政策」であり,またそれは「価値尺度の骨髄を抜いたようなもの」であるとのべている(~資本論に学ぶ』東京大学出版会,
1 9 7 5
年,1 8 1
ページ)。1 3 )
富山康吉は管理通貨制下でのインフレーションによる所有権の空洞化,すなわち貨 幣の価値尺度機能と所有権との関係について,つぎのようにのべている。「たとえば,管理通貨制の下におけるインフレーションをとりあげよう。そこでは,賃金債権,預 金債権などが,法律上の権利としてはいささかも変らないが,その財産としての値打 ちが減ってしまう。あるいは,さらにインフレーション・ギャップというものが働い て,実質賃金の切り下げが企業の利潤を増すというふうに,ある主体の財産が増え,
他の主体の財産が減るという経済的過程が,権利のほうの変動を伴わないで結果され る。そこでは,財産権は不変であるということが,まことに虚構にすぎないものとな っている。しかし財産権としては不変であるとしなければ,それはインフレーション にはならないし,そもそも右の虚構を前提としないと管理通貨制などはありえない。
いうなれば,財産権不可侵の原則が一方では依然として私的所有の根幹を支え,他方 では虚構と化することによって,企業の資本蓄積を維持するフイスカル・ポリシーの 前提となる,というふうに,二重に働いているわけである。あるいは,法的過程と経 済的過程という面からみても,インフレを結果する日本銀行の発行行為とか,政府の 支出行為などを,法律行為と法律効果というワク組みでいくら辿ってみても,右のよ うなインフレーションの財産変動の過程はとらえられない