奈良教育大学学術リポジトリNEAR
漢字熟語の音読課題と語彙判断課題に及ぼす音韻情 報の効果
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 50
号 1
ページ 233‑240
発行年 2001‑10‑15
その他のタイトル The Effects of Phonological Information upon Performance of Reading Task and Lexical
Decision Task of Japanese Kanji Words URL http://hdl.handle.net/10105/1388
奈良教育大学紀要 第50巻 第1号(人文・社会)平成13年
Bull. Nとira Univ. Educ. Vol. 50. No. 1 (Cult. & Soc), 200]
漢字熟語の音読課題と語嚢判断課題に及ぼす音韻情報の効果
藤 田 正
奈良教育大学学校教育講座(心理学〕
(平成13年4月27日受理) キーワード: 漢字熟語.プライミング効果,音韻情報
1.問 題
意味記憶には,概念的表象とそれに対応する語嚢的表 象が貯蔵されていることが指摘されている(井上,1995主 語菜的表象に関しては.音韻的な類似性に基づく語糞ネ
ットワークの形で構造化されているという仮説がCollins
&Loftus (1975)によって呈示されている.
井上(1991)は,プライミングのパラダイムを用いて.
意味記憶における語嚢的表象の構造と処理過程について 譜豪判断課題を開いた実験的な検討を行っている.プラ イム刺激とターゲット刺激には,仮名表記語が用いられ た.結果は,音韻的に関連のある2つの刺激がプライム
とターゲットである場合にプライミング効果を兄いだし ている.この結果は,語蓑的表象が音韻的な類似性に基 づいて構造化され∴音韻的に関連のある表象同士が直接 結びついていることを示唆するものであった.
さらに井上(1995)は,日本語におけるもうひとつの 重要な表記法である漢字表記語の語菜表象にもこの仮説 が当てはまるかどうかについて検討した.課題には,音 読課題が用いられ,音韻・形態的関連条件(例えば,演 奏一演算)∴音韻的関連条件(例えば言壷足一演算),中 立条件(例えば, +H 演算),無関連条件(例えば, 適応‑演算)の4つの条件間でのプライミング効果が比 較された.その結果,漢字表記譜の場合もプライミング 効果は,昌一韻的関連の有無に従って促進効果が生じてい ること,形態的関連の有無はプライミング効果に影響を 及ぼしていないこと,さらに抑制効果は生じていないこ
となどが明らかにされた.
これらの結果は,漢字表記譜の場合も,意味記憶にお ける語義的表象は音韻的類似性に基づいて構造化され, 音韻的に関連のある表象同士が直接結びついていること
を示している.
ところで,贋瀬(1992)は.音韻情報と意味情報のい ずれが漢字熟語の検索を促進しているのかを語菜判断課
233
題を用い,プライミング効果を指桧として検討を行って いる.この実験では.同音前条件(例:確率一確認上 同音後条件(例:全国一安全上 異音前条件(例:横 顔一横断主 異音後条件(例:楽園一甘楽),非熟語条件 (例:績晩一新鮮主 中立条件(倒:##‑現実)の6つ の条件が用いられた.このようなプライム刺激とターゲ ット刺激の組み合わせの操作が行われたのは言菓字熟語 が第1語の漢字を中心とした意味的なネットワークによ
り語桑記憶が形成されている可能性に基づくものであ る.
結果は,プライム刺激として呈示される同じ漢字がタ ーゲット刺激としても早示される場合には,音韻(熟語 の読み)が異なる場合でも言葉字熟語の語菜判断を促進 することを見出した.この結果から,語菜判断課題では, 熟語の検索には音韻情報よりも意味情報の方が重要であ
ることが明らかにされた.
また森(1998)では,複数の異なる意味を持つ漢字を 第1文字とする熟語を用いて,語蓑判断課題におけるプ ライムとターゲット問の意味的,音韻的関連性がプライ ミング効果に及ぼす影響についての検討を行っている.
この実験では,プライム刺激とターゲット刺激の第1文 字をそろえた次の5つの条件を用いた.それらは,同意 昧・同音離条件 博Tj:正確一正義上 同意昧・異占儲条 件(倒:正直一正義主 異意味・同音名札条件(例:正 直一正月上 異意味・異音韻条件 月珂:正確一正月, rp 尭条件(例:##‑正義)であった.結果は,第1文字 がターゲット刺激と同じ漢字であり,かつ意味も同じ漢 字である熟語がプライム刺激として呈示された場合,タ ーゲット刺激に対する語菜判断を促進した.しかし,育 韻の同異は.ターゲット刺激に対する語嚢判断の促進に 影響をもたらさなかった.この結果から,漢字熟語の第 1文字がもつ意味的情幸田二関する活性化の方が,音韻的 情事酎こ関する活性化に比べて熟語の語菜判断に大きな影 響を及ぼすことが明らかにされた.
234 藤 田
以上の研究が明らかにしてきたように,漢字熟語を開 いた研究では.音読課題の場合には音韻情報の影響が報 告されている(耳̲上, J995)のに対して語菜判断課題で は.意味的情報の影響力が大きかった.このように.普 韻的情幸踊盲プライミング効果に及ぼす結果に違いが生じ たのは,実験に用いた課題が異なっていることの影響が 考えられる.語菜判断課題では意味的表象が強く影響し,
(贋瀬, 1992 ;蘇, 1998),音読課題では音韻的表象が強 く影響した(井ト. 19951と言える.
以上の研究におけるプライム刺激とターゲット刺激の 音韻的関連一IL̲侶ま.漢字熟語の1文字のみを操作したもの であるが,音韻的関連性が熟語全体である場飢二は,普 韻特性の効果がより大きくなることが予想される.松田 (1998)は,熟語全体の音韻情報が漢字熟語の語桑判断 課題に及ぼす効果について検討している.彼の実験では,
同字同音語条件(例:異状一異常),同字異音語条件 (例:異例‑異常),異字同音語条件 an:委譲一光常), 異字異音語条件(例:委託‑異常)の4つの条件が用い
られた.結果は,プライムとターゲットの関係において.
両者の第1文字が同一一であるか,あるいは両者が同音語 となっている場合にはターゲットの語菜判断を促進する という結果であった.
このように先行皇示される漢字表記語から熟語全体の 音壱酎膏報が獲得され,後続呈示される熟語の処理を促進 した松HI (1998)の結果は,語亜記憶へのアクセスにお ける音韻的符号化の介在の重要性を示唆する結果と言え る.
ところで,意味記憶における漢字表記譜の語菜的表象 の特性に関しては,井上(1995)は言莫字熟語の第1文 字の音韻,または形態の異同を操作してプライムとター ゲットを組み合わせた条件で音読課題を用いて検討し, 意味記憶における語尭表象は音韻的類似性に基づいて構 造化され,音顔的に関連のある表象同士が直接結びつい ていることを示唆した.しかし,語嚢判断課題を用いて は検討しされていない.他方.松田(1998)では,熟語 全体の音韻情報の効果について音読課題の場合はまだ検 討されていない.
そこで,本研究では.漢字熟語における意味的表象と 音韻的表象の特性について検討するために,ひとつの実 験において音読課題と語菜判断課題の両方の課題におい て,プライムとターゲットの熟語全体の音韻情報が及ぼ す影響についてプライミング効果を指標として検討する ことを目的とした.
2.方 法 2.1.実験計画
2×5の要因計由を用いた.第1の要因は実験課題
iE
(音読課題と語菜判断課避)であり.被験者間要因であ った.第2の要因はプライム条件(同一条件,同字条件.
異字条件.無関連条件.中立条件)であり、被験者内要 因であった.
2.2.被験者
音読課題に参加した被験者は,大学生21名(男子7名.
女子14名)で.平均年齢は20歳9ケ月(年齢範囲:18歳 7ケ月〜25歳3ケ月)であった.また.語菜判断課題に 参加した被験者は,大学生21名(男子6名.女子15名)
で.平均年齢20歳8ケ月(年齢範囲:18歳9ケ月〜23歳 4ケ月)であった.
2.3.材 料
プライム条件には同一‑条件,同学条件,異字条件,餐 関連条件,中立条件の5つの条件がある.表1は音読課 題及び語義判断課題でmいたプライム刺激とターゲット 刺激のすべてを示したものである.
同一条件は,プライム刺激とターゲット刺激が同一一の 漢字熟語(例:独創一独創)で構成されている.同字条 件は,プライム刺激とターゲット刺激の第1文字が同じ 漢字である同音異義語(例:独走一独創)で構成されて いる.異字条件は,プライム刺激とターゲット刺激が第 1文字,第2文字ともに異なるlサ1音異義語(例:毒草‑
独創)で構成されている.無間連条件は.プライム刺激 とターゲット刺激が全く無関連な漢字熟語(例:衛」一 独創)で構成されている.中立条件は,プライム刺激に
2つのシャープ記号(##)を用いた.
さらにこれらの熟語対とは別に,フィラー刺激として, 音読課題ではターゲットが無関連語であるもの40対\語 菜判断課題ではターゲットが非熟語であるもの40対を用 意した.
ところで,プライム刺激の同一条件,同字条件.異字 条件とターゲット刺激の熟語として呈示される2字熟語 の選出に際しては,第1文字が同じ漢字である同音異義 語が2つ以上あり,第1文字.第2文字共に異なる同音 異義語がひとつ以上ある漢字を国語辞典より選定し,さ らに国立国語研究所(1976)の漢字使用頻度表より.使 用度数が100以下の漢字熟語26組を選択した.このよう に使用度数を考慮したのは,辰瀬(1992)の実験3の結 果から,使用額度が高いほど語嚢判断が速くなることが 指摘されているので.この点をできるだけ統制しようと
したためである.
また.ここまでに選択された26細の漢字が一般的にも 意味と読みが理解されているかどうかを調べるために, プライミング実験に参加したのとは別の大学生21名を用 いて,熟知度調査を行った.この調査では, 78個の熟語 について読み仮名を書いてもらい,さらに意味と読みに ついて「非常によく知っている『読むことができ,意味 も正確にわかる』 (5点月から「全く知らない『読みも
漢字熟語の音読課題と語蓑判断課題に及ぼす音韻情報の効果 意味もわからない』 (1点)」の範囲で5段階評定を求め
た.評定結果に基づき, 3語ともに平均得点3.5以上の 9線を抽出し,最終的に3語で熟知度の差の少ないもの t;組を使用した.
無関連条件に用いた2字熟語には,熟知度調査によっ て選e封した8祖以外の語から平均得点3.9から4.9のもの を選択した.音読課題において,ターゲット刺激として 呈示される無関連語も同様な基準で選択した.
また,語董判断課題のターゲット刺激で用いた非熟語 については,国立国語研究所(1976)より言葉字1字の 全体使用率(1000字あたりの使用回数)が2.000‑3.000 である教育漢字を選び,口骨熟語として使Jllされない2 字の語を8項目作り使用した.
sso
以上の合計80組を各条件が偏らないように考慮して配 列したものを2分し,呈示刺激が10線からなるリストを 2種類用意した.このようにしたのは,本実験で用いた 実験用ソフトの性能上,全80試行を1つのリストとして 制御することが不可能であったためである. 1リスト内 での刺激の呈示川射幸は.同じ条件やIplじ読みの漢字が前 後3項目に入らないことを考慮して配列された.
各刺激は.白色の背景に黒色の明朝体で,舵 19.0cmX横26.0cmのディスプレイの中央に皇示された.
1字の大ききは縦1.5cmx横1.5cm (36ポイント)で.
2字の問にはl字分のスペースがあり.刺激の大きさは 縦1.5cmX横4.5cmであった.
表1 実験で使用した呈示刺激
条件 プライム ターゲット 同一条件
(プライムとターゲットが 同一一の漢字熟語)
独創 独創 水仙 水仙 中世 中世 同情 同情 新雪 新雪 私服 私服 気性 気性 閉校 閉校 同字条件
(プライムとターゲットの 第1文字が同じ漢字である
同音異義語)
独走 独創 水洗 水仙 中性 中世 同乗 同情 新設 新雪 私腹 私服 気象 気性 閉口 閉校 異字条件
(プライムとターゲットの 1宇目、2宇目ともに異なる
漢字である同音異義語)
毒草 推薦 忠誠 道場 mm 至福 起床 並行
}.'!;刺 水仙 中世 同情 新雪 私服 気性 閉校 無関連条件 衛生 独創 (プライムとターゲットが 火星 水仙 全く無関連な漢字熟語〕 動向 中世 開花 同情 高filli 一 新雪 白制 私服 上記 気性 検診 閉校
中立条件 ##
##
##
##
独創 水仙 sag 同情
## 新雪
236 藤 田
2.4.装置
音読課題における刺激の呈示と反応潜時の計測,語意 判断課題における刺激の呈示と反応潜時の計測,及び反 応の正誤の記録は全て心理学実験用ソフト(Cedrus社 製Super Lab Versionl.4)を用いて,パーソナルコン ピュータ(アップルコンピュータ社製 Macintosh Performa5320, 15インチ高解像度カラーディスプレイ) によって制御された.また,音読課題における反応の正 誤の記録は実験者が記録した.
反応潜時の計測に際しては.音読課題では口頭反応で あるため内臓マイクをボイスキーとして用い,語嚢判断 課題においてはキーボード上に指定された2つのキーの
どちらかを押すことにより msec.の単位で測定した.
2.5.手続き
実験は個別に行われた.被験者には課題の条件に応じ て,呈示されたターゲット刺激を音読してもらう音読課 題か.ターゲット刺激が意味をもつ熟語か否かの判断を 求める譜菜判断課題かを実施することが求められた.
なお,各課題共に練習試行では10試行,本試行では計 80試行を40試行ずつの2プロ、ソクに分け実施した.本試 行では. 1つ目のブロックが終了次第,休憩を5分間取 らせ, 2つ日のブロックの実験に移った.休憩中は, 1 つ目の実験の疲れが影響しないようにストレッチや実験 者と維談をした.
以下にそれぞれの課題条件の手続きについて述べる.
2.5.1.音読課題
実験に際しては,最初に以下のような教示が与えられ.
口頭反応のベースラインを測定するために音声反応速度 の測定がなされた.その後に練習試行,次いで本試行が 行われ,最後に実験に用いたプライム刺激の読みの正誤 を確認するための調査が行われた.
被験者には実験手続きの流れを図にしたものを利用し て手続きを説明した. 「これから漢字の認知に関する実 験を行います.実験では,コンピュータ画面に最初に映 し出される2字の漢字,もしくは"##"記号をしっ かり見ること,そして,次に映しfT,される2字の漢字を 音読するという2つのことをしていただきます.」とい
う旨の教示を与えた.
教示に続いて音声反応速度の測定課題を行った.被験 者は,ディスプレイの中央に数字(0‑9)が現れたら
できるだけ連くその数字を読むように求められ,刺激が 呈示されてから被験者が数字を読むまでの時間(反応潜 時)がmsec.の単位で測定された.この手続きを. lo武 行行った.なお.ここでの刺激間隔は1500msから 3000msまでの範囲でランダムに設定された.
練習試行と本試行の各試行では,最初に赤で描かれた 呈示予告刺激 ++)が画面中央に1000ms皇示され.
500msのブランクの後言莫字2字,または2つのシヤー
iK
プ記号からなるプライム刺激が1000ms呈示された.続 いて500msのブランクの後.異で描かれた十字が2つ並 ぶ呈示予告刺激(+ +)が1000ms呈示され, 500msの ブランクの後,漢字2字からなるターゲット刺激が皐示 された.被験者は,そこでターゲット刺激を音読し.そ れと同時に反応潜時が記録された.反応潜時の計測は, ターゲット刺激の呈示開始と同時に開始され,被験者が 音読するまで続いた.
そして,実験後に実験において用いたプライム刺激の 読みの正誤を確認するための調査が行われた.これは,
1語ずつカードに印刷された熟語を呈示し,それを被験 者に音読してもらうことにより確認した.
2.5.2.語嚢判断課題
実験に際しては,最初に以下のような教示が与えられ, キー反応のベースラインを測定するためにキー反応速度 測定がされた.その後に練習試行,次いで本試行が行わ れ,最後に実験に用いた刺激の読みの止誤を確認するた めの調査が行われた.
被験者には実験手続きの流れを図にしたものを利用し て,次のような教示を与え,手続きを説明した. 「これ から漢字の認知に関する実験を行います.実験では,コ ンピュータ画面に最初に映し出される2字の漢字,もし くは ## 記冒せしっかり見ること,そして,次に映 し出される2字の漢字が意味をもつものであるかどう か.つまを上 口常で熟語として使われているものである かどうかを,指J/tされたパソコンのキーを押すことによ って判断するという2つのことをしていただきます.意 味をもった熟語であると判断した場合には『M (半数の 被験者にはB)』のキーを,意味をなさないものである と判断した場合には『B (半数の被験者にはM)』のキ ーを押してください.キーは,できるだけ速く,正確に 押すようにしてください.」と言った教示を与えた.
教示に続いて行われたキー反応速度の測定課題では,被 験者は.ディスプレイの中央に星印の利敵(☆)が現れ たらできるだけ速くキーを押すように求められ,刺激が 呈示されてから被験者がキーを押すまでの時間(反応潜 時)がmsec.の単位で測定された.これを.両手それぞ
れ10試行ずつ行った.なお,この際の刺激間間隔は 1500msから3000msまでの範囲でランダムに設定され た.
練習試行と本試行の各試行では,ターゲット刺激が呈 示されるまでは音読課題と同様な手続きで行われた.タ ーゲット刺激が呈示されると,被験者はターゲット刺激
に対する語嚢判断を.キーボード士の「M」か「B」の どちらかのキーを押すことにより行い,それと同時に反 応潜時とその正誤が記録された.反応潜時の計測は,タ ーゲット刺激の呈示開始と同時に開始され,被験者が語 菜判断を終えるまで続いた.
漢字熟語の音読課題と語意判断課題に及ぼす音韻情報の効果
実験後に実験において用いたプライム刺激の読みの止 誤を確認するための調査が子 再フれた.これは. 1語ずつ カードに印刷された熟語を皇示し.それを被験者に音読 してもらうことにより確認した.
3.結 果
各課題において測定された結果のうち,誤反応と実験 後に行われた調査で不̲I周年であった者を除いた反応潜時 から音声反応測度,またはキー反応速度の平均値を差し 引いた値を,それぞれのプライム条件でのターゲットに 対する反応潜時(rt:とした.また,各条件の平均値 から2 5上〕以̲士離れた倍を異常値とみなし,分析から除 外した.さらに,中立条件の反応潜時から各条件の反応 潜時を差し引いた値を促進量(プライミング効果)とし た.
3.1.音読課題
音読課題における各条件の反応潜時の平均とSDを表 2に示した.図1は.各条件における促進是の平均を図 示したものである.
促進最の平均値を用いて, 1要因の分散分析を行った 結果,プライム条件の主効果[F(3,80)‑1.26]は有意 でなかった.しかし,標本値では条件問に違いが見られ たので.念のためにt検定を行い各条件間を比較した.
その結果,同一条件と無関連条件 f(20)‑2.91,p<.01).
同字条件と無関連条件 t(20)‑3.36,pく01),異字条 件と無関連条件( t(20)‑2.89, p<.01)の間に有意差が 且られ,同亨条件と異字条件(t(20)‑1.51,p<AO)の
問には有意な傾向が見られた.
表2 音読課題における反応潜時 ms)の平均とSD
プ ラ イ ム 条 件
同・条件 同字条件 異字条f′ト 無関連条件 中耳条件
平均 133.9 134.6 145, 170.8 169.3
S D 90.(う 86.13 87.29 92.01 12,92
0
n
U
0
n
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n
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︼ ,
・
‑
(s UI l^ 0, 05 畔輿
望 臥n
同 一条件 国字条件 異字条件 無関連条件 プライム条件
図1 音読効果における平均促進量 ms)
237
3.2.語垂判断課題
語義判断課題における各条件の反応潜時の平均とS上) を表3に示した.図2は.各条件におけるおける促進量 の平均を図示したものである.
促進量の平均値を用いて. 1要因の分散分析を行った 結果.プライム条件の主効果[F(3.80)‑2.98, p<.05]
が有意であった.主効果について下位検定を行った結果, 同一条件と異字条件[ t (201‑2.84, p<.01],同I ‑条件と 無関連条件[ t (20)‑2.88, pく.01],同字条件と異字条件
[ t (20)‑3.63. p<.001],同字条件と無関連条件[ t (20)
‑3.35, p<.01]の間にそれぞれ有意差が見られた.
表3 語童判断課題における反応潜時ms の平均とSD
プ ラ イ ム 条 件
M一条件 同学条件 異字‑条件 無関連条件 中iV一条件
平均 300.9 302.4 336.6 338.6 335.0
S I) 61.32 7(i.41 77.33 二三.()2 7上57
⁚ L
白 U ハ り
∩ H 0 n U n U 蝣
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畔韻 14
」‑甲m‑ヨ ‑」‑
同 一条件 l叶辛条件 異字条件 無聞達条件 7号イム条件
図2 語桑判断課題における平均促進量 ms)
3.3.補足的分析
異字条件に用いられたプライム刺激とターゲット利敵 として固いられた漢字熟語のアクセントの異同に基づい て刺激対を分け.それぞれの促進量とSDを算出し,そ れを用いて1要因の分散分析を行った.音読課題におい ては,同条件の促進呈の平均は22.8 (SD66A6)で.輿 条件の平均は34.4 (SD66.42)であり,アクセントの主 動一聖和ま,有意ではなかった.また,語菜判断課題におい ては.同条件の促進呈の平均は26.3 (SD80.1) ,異条件 の促進星の平均は, ‑21.9 (SD80.7)でアクセントの主 効果[F(l,34) ‑3.02.p<.10]に有意な傾向がみられた.
4.議 論
本研究では,プライム刺激とターゲット刺激として用 いた漢字熟語全体の音韻情報が音読課題と語菜判断課題
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の処理に及ぼす影響についてプライミング効果を指標と して検討することを口約とした.
実験の結果,音読課題においては同 一,同字.異字条 件が無関連条件に比べプライミング促進量が有意に大き いことが兄いだされた.以上の結果は,音読課題におい ては,熟語全体の音韻情報は,プライミング刺激によっ て活性化された意味的表象と音韻的表象の内,音韻表象 が主としてターゲット刺激の音韻処理に必要とされ.そ れが利用できる三つの条件(同一条件,同字条件,異字 条件)では,促進的プライミング効果が生じたと説明で きる.ところで,有意ではなかったが,同一一.国字条件 の方が異字条件よりもプライミング促進量が大きいこと から,音読課題においても意味的関連性が影響している 可能性が示唆された.
それに対して,語嚢判断課題においては同 ‑,同字条 件が異字,無関連条件に比べプライミング促進量が大き いことが兄いだされた.この結果は.語菜判断課題にお いては,プライミング刺故により活性化された意味的表 象と音韻的表象の内.主に意味的表象がクーゲLyト刺激 の処理に必要とされるので,意味的表象の利用できるl司
‑条件と同学条件が.それの利用できない異字条件と無 関連条件よりも促進的プライミング効果が大きかったと 結論できる.したがって.熟語全体の読みが同じであっ ても,漢字が異なる場合には,意味と形態が異なるため ターゲット刺激に灯する譜菜判断を促進しなかった結果 と言える.
漢字熟語全体の音韻情報を扱った実験の結果は,漢字 熟語の第1語の意味的類似性と音韻的類似性の影響につ いて語義判断課題を用いて検討し,プライミング刺激の 音敵情幸田ま,促進的プライミング効果を兄いだきなかっ たという廉瀬(1992)や森(1998)の実験と同様な結果 となった.
しかしながら, Collins and Loftus (1975)の仮説に よれば,意味記憶は概念的表象とそれに対応する語菜的 表象が貯蔵され.語義的表象は音韻的な類似性に基づく 語菜ネットワークの形で構造化されていることが述べら れている.したがって.プライム刺激とターゲット刺激 の漢字が異なっていても同音語であれば音韻的な類似性 に基づいてネットワークされた語嚢表象が活性化される ので促進がみられるはずである.松田(1998)の結果は,
2文字の漢字熟語を用いた語義判断課題においてこの仮 説を支持する結果を得ている.また,井上(1991)もか な表記語ではあったが語菜判断課題でこの仮説を支持す る結果を得ている.
このような矛盾する結果についてどのように考えるこ とができるであろうか.それに対する完全な解答は難し いが,少なくとも本研究の結果との相違についてだけで も明らかにする必要があるだろう.そのために,次のよ
正
うな要因の影響を検討した.
本研究の異字条件に用いた熟語にプライム刺激とター ゲット刺激のアクセントが異なるものが含まれていた点 である.そこで,異字条件の熟語をアクセントが同じで あるもの(同条件:毒草一独創,至福一私服,起床一気 性.並行一閉校)と異なるもの(巽条件:推薦一水仙.
忠誠‑中世,道場一同情,親切‑新雪)に分けて促進量 について比較検討してみた.同条件の促進量の平均は 26.3,異条件の促進呈の平均は‑21.9で結果のところで 示したように,両条件に大きな相違がみられた.
このことから,松・田(1998)と本実験の結果が異なった のは,桧m (1998)の異字同音語条件に用いられた熟語 はターゲット語とアクセントの違いが少ないのに対し, 本実験の異字条件に用いられた熟語の半数がターゲット 語とアクセントが異なっていたことの影響によるもので あることが示唆された.つまり,語義判断課題において は,プライムとターゲットに用いた漢字の意味が異なっ ていてもアクセントが同じであれば,熟語全体の音韻情 報はターゲットの語菜判断を促進した.それに対して, 意味もアクセントも異なっていた場合には,譜蓑判断を 抑制するように働いたのである.このことについては, アクセントが異なっている場合には,全く別の単語とし て認知しているためではないかと推測できる.ところが.
無関連語条件では促進も抑制もみられなかったことか ら,アクセントが異なるということがターゲットの語菜 判断に影響を与えていると思われる.
しかし,アクセントが異なる場合になぜ抑制するのか, また,どのような影響を与えているのかについては.今 後さらなる検討が必要である.
念のために,音読課題においてもアクセントの同異に ついての分析を行った.その結果,同条件の促進葺平均 値は22.8,異条件の促進量平均値は34Aで,予想とは逆 の傾向であったが.統計的には有意な差ではなかった.
この結果から, :音読課題では.アクセントの違いによる ターゲットの処理への影響はそれ程大きなものではない ことが示唆された.
ところで.音韻課題と語壷課題ともに同 ‑条件と同字 条件の促進量がほぼ同じであった.これに関しては,同 字条件とターゲットの第1文字は同じ漢字であるが,そ れが意味的に類似しているものが多かったためと考えら れる(例:閉L卜閉校).蘇(1998)では.各条件の第1 文字を揃えていたが,意味的関連条件も入っており,同 意昧条件 博u:正確‑正義)には促進があったが,異意 昧条件(例:正画一正月)では促進はみられなかった.
しかし,本実験では材料作成の都合上,意味的関連条件 を入れることができず,同 一条件と同学条件の第1文字 が意味的に類似しているものが多くなった.そのため,
同II‑条件と同字条件の促進量に差が出なかったのではな
漢字熟語の音読課題と語蓑判断課題に及ぼす音韻情報の効果
いかと考えられる.
また.音読課題においては,プライムとターゲットの 熟語全体の音韻情報はターゲットの処理に影響を与える ことが明らかになったが,井上(1995)では. 1文字の みの音韻情報でも大きな促進がみられている.また,鹿 瀬(1992上 丸橋(1999)において.熟語の認知におい て第1文字を検索手がかりとして熟語の処理が行われて いることが示唆されている.これらのことから,本実験 で熟語全体の音韻情報の効果がみられたのは,第1文字 の音静情報の効果が大きいことによる吋能性がある.つ まり.第1文字のみの音韻情報と,熟語全体の音韻情報 において促進量に差があるのかどうかという問題であ る.今後は,音韻情報が第1文字の場合と.熟語全体の 場合を比較して検討する必要がある.
5.要 約
本研究では,音韻課題と語壷判断課題に及ぼす漢字熟 語全体の音韻情報の効果について比較検討することをE]
的とした.
実験計画は, 2 (実験課題:音読課題,語菜判断課 過) ×5 (プライム条件:同一.同字,異字,無関連, 中立)の被験者聞及び被験者内の2要因計画であった.
被験者は.大学生42名で.各課題に21名ずつ参加した̲
実験に用いた材料は,プライムーターゲット刺激対と 音声反応速度測定用刺激,キー反応速度測定尉刺激であ った.表1に示すようにプライム‑ターゲット刺激対は, 設定した5条件(例:同I一一条件「独創‑独創」.同字条 件「独走一独創」,異字条件「毒単一独創工 無関連条件
「衛生一独創」,中立条件「##一独創」)に各8組ずつ, それにフィラー刺激として,音読課題ではターゲットが 無関連語であるものを40組,語義判断課題ではターゲッ
トが非熟語であるものを40組用意した.
実験は以 トの手続きにより個別に行われた.音読課題 では最初に音声反応速度の測定が行われ,語嚢判断課題 ではキー反応速度の測定が行われた.その後.練習試行 (10試行).本試行1ブロック目(40試行主 休憩(5分 間上 本試行2ブロック目(40試行)と続き,最後に実 験に用いた熟語の読みを確認するための調査を行った.
本試行では,呈示予苦‑プライム刺激(1000ms) ‑ 呈示予告)一夕‑ゲ、ソト刺激の順にディスプレイに呈示 された.音読課題ではターゲットを読むことが,語義判 断課題ではターゲットが意味をもつ熟語であるか否かを 判断することが求められた.各課題における刺激の呈示
とTTL応潜時の計測,及び語蓑判断課題における反応の正 誤の記録には.パーソナルコンピュータが用いられた.
また,音読課題における反応の正誤は実験者が記録した.
主な結果は次の通りである.促進量の平均値を用いて.
23"I
1要因の分散分析を行った.その結果.音読課題では熟 語全体の音韻情幸田まターゲットの処理を促進したが,語 菜判断課題においては音韻情幸田こよる促進はみられなか
5KO
異字条件における先行研究との相違点については.プ ライム刺激とターゲット刺激のアクセントの同異が影響 していることが原因であることが明らかになった.
6.引用文献
Collins,A丸 Loftus且F 1975 il Spreこiding activation theo‑
ry of semantic processing. Psychological revi州‑, 82, 402 ‑ 428.
頃瀬等1992 熟語の認知過程に関する研究‑プライミング法 による検討‑ 心理学研究, 63, 303‑309.
井上毅1991意味記憶における語菜的表象と音韻的プライミ ング効果 心理学研究. 62, 240‑250.
井L毅1995 意味記憶における漢字表記譜の語曇的表象の特 性とプライミング効果 日本心理学会第5帥l大会発表論文 集, 826.
国立国語研究所1976 現代新聞の漢字 秀英出版
丸橋詳子1999 漢字熟語の語義判断に及ぼすプライムとター ゲットの音韻的関連性の効果 奈良教育大学平成10年度卒 業論文
松rTl真幸1998 近「K、席に提示された漢字表記譜の音韻処哩 基礎心理学研究, 17, 27‑35.
‑森 陽子1998 漢字熟語の認知過程における意味と音韻の影 響 奈良教育大学平成9年度卒業論文
附記:本研究の実験の実施とデーター処理に関しては追 分智絵さんの協力を得た.記して厚くお礼申し上げ ます.また,実験の被験者として参加下さいました 奈良教育大学学生の皆様にも心よりお礼申し上げま す.
2 O 藤 田 正
The Effects of Phonological Information upon Performance of Reading
Task and Lexical Decision Task of Japanese Kanji Words
FUJITA Tadashi
(Departmen t of Psychology, Ni.ira University of Education, Nara 630‑8528. Japan) (Received April 27, 2001)
The purpose of this experiment was to examine the priming effects of phonological information of Kanji words upon reading task and lexical decision task.
Subjects were forty‑two college students. Twenty‑one subjects were assigned one of two task conditions, read‑
ing task or lexical decision task condition. The experiment was conducted individually and presentation of stimulus, all time factors and records of responses were all controlled by Macintosh Performa 5320 computer programmed by Super‑Mind Lab. Versionl.4 program. In the experiment, we used priming paradigm in which a prime stimulus was followed by a target stimulus. Subjects made the reading task or the lexical decision task ot target kanji words. The primes and targets were two‑character kanji words or non‑words. Five priming conditions were as follows, the iden‑
tical character condition, the same character condition, the different character condition, the unrelated character condition, and the neutral condition. Each condition was composed of the prime stimulus and target stimulus with
same shared characters in phonology and mPとining or not.
We used the response time (RT) of correct responses to target stimulus as measures. Moreover, we calculated the priming effects with the measures which subtract RT in the identical, the same, the different or the unrelated condition from RT in the neutral condition.
Main results were as follows: In the reading task, we observed the large positive priming effects in the identi‑
cal, same, and different character condition, but didnt observe the priming effect in the unrelated character condi‑
tion. These results showed that only phonological representation was required to the phonological processing of tar‑
get stimulus. On the contrary, in the lexical decision task, we observed the large positive priming effects in the iden‑
tical and same conditions, but didnt observe the priming effects in the different and unrelated conditions. These results showed that only meaningful representation was required to the meaningful processing of target stimulus.
However we didn't observe the priming effects in the different condition. This result was incompatible with the result of previous study. As the result of additional analysis, we found that the difference was attributed to the dif‑
ference of place of accent between priming stimulus and target stimulus.
Key Words: kanji words, priming effects, phonological information