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近似ファクターモデル

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Academic year: 2021

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(1)

近似ファクターモデル

―― 共通ファクターおよびファクター数の推定に関するサーベイ ――

宮 田 庸 一

Approximate Factor Models:

A Survey on Estimation of the Common Factors and their Number

Miyata Yoichi

Abstract

This paper surveys principal components estimators for common factors and information criteria that select the number of the factors in approximate factor models. In particular, this paper explains six information criteria proposed by Bai and Ng (2002), which are often adopted in macroeconomic panel data analysis, and compares their relative performances using simulations.

1 はじめに

多変量データに統計処理を行う場合,観測される確率ベクトルの次元が問題になることがある.

例えば多変量自己回帰(VAR)モデルを考えてほしい.このモデルはマクロ経済の実証分析や政 策シミュレーション等に多用されている.このモデルの欠点としては,観測数 に対して系列 数 が高くなると,回帰係数などのパラメーター数が多くなるために,モデルの推定量が不安定 になることである.さらに系列数 が に近づく,もしくは の場合,推定量が定まらなくな ることが知られている(例えば,山本1987,p.145).このように観測ベクトル数 の方が観測数 よ り大きくなる可能性があるデータに対する統計モデルの1つとして,下記のものが知られている.

(1)

高崎経済大学経済学部:〒370-0801 群馬県高崎市上並榎町1300(Email:ymiyatagbt@tcue.ac.jp)

(2)

ここで′は行列の転置を表し,共通ファクター を 次元確率ベクトル,因子負 荷量 を 次元ベクトル,独自因子 を確率変数とする.また は観測可能,

, , は観測不可能であるとする.このことはモデル(1)は線形回帰モデルでなく,むし ろ 因 子 分 析 で 用 い ら れ る 統 計 モ デ ル で あ る こ と に 注 意 が 必 要 と な る . 因 子 分 析 で は を仮定するが,後で述べる2.2節の仮定においては であること を許している.このように因子分析における統計モデルの仮定を緩めた(1)式は近似ファクター モデルと呼ばれる.

Stock and Watson(1998 p.23,2002a)は,近似ファクターモデルを用いて1960年から1997年 までの224系列のマクロ経済データから共通変動を抽出して,これを景気動向指数(Diffusion Index)とみなした.飯星(2009)は日本の1983年から2008年までの約120系列のマクロ経済デー タから,ファクター数が6個あるという仮定のもとで近似ファクターモデルを用いて,共通ファ クターを推定した.さらに第1ファクターはマクロ経済変数のトレンド,第2ファクターは資産価 格および物価水準の変動とするなど,抽出されたファクターの解釈も行った.

与えられたデータにモデル(1)を当てはめる場合,真のファクター数 を推定する必要がある.

もし誤ったファクター数を持つモデルを採用してしまった場合,因子負荷量の推定値に偏りが生じ る場合があるからである.

Lewbel(1991)とDonald(1997)は行列のランクを用いてファクター数の検定を行ったが,こ の手法は もしくは どちらか1つは固定した状況で議論している.Cragg and Donald(1997)

はファクターが観測可能な説明変数の関数であるときに,情報量基準を用いてファクター数を推定 したが,この研究もデータの次元 は固定してある.Connor and Korajczyk(1993)は,資産収益 におけるファクターの数の検定を高次元パネルデータに適用できるように発展させたが,彼らの方 法は, を固定した条件の下で とし,その後で とする,いわゆる逐次的な極限 に基づくものであった.Forni and Reichlin(1998)はファクター数を推定するためにグラフによる 方法を提案したが,これは理論的な妥当性を持たない.Stock and Watson(1998)は ,

の下で,BICを修正することで,単一の系列を予測するときに最適なファクター数 の推定方法を提案したが, である必要があった.一方でBai and Ng(2002)は,上記の 手法を改善した情報量規準による推定方法を提案した.

本稿では, の場合のモデル(1)における共通ファクター,因子負荷量に対する推定 量,およびファクター数の推定方法を説明し,将来の実証的応用研究へつなげることを目的とする.

またBai and Ng(2002)によるファクター数の推定においては,ファクターの最大数の設定に大

きく影響を受ける場合があることをシミュレーションにより明らかにした.

2節では,近似ファクターモデルを解説し,この後の節で必要となる条件を仮定する.3節では,

近似ファクターモデルにおいて最もよく使われている主成分分析を用いた推定量を説明する.4節

1 Stock and Watson(1998,2002a)が採用したファクター数が6個であったため,それに従った形となっている.

(3)

ではBai and Ng(2002)により提案されている6個の情報量規準,およびその妥当性(定理2)

を説明し,そのパフォーマンスをシミュレーションにより確認する.

2 近似ファクターモデル

2.1 モデル

(1)を行列で表すと,

(2)

となる.上式の転置を取ると, となり,これを の順に縦に並べると

(3)

となり, と表せる.ここで 行列 , 行列 , 行列 はそれぞれ

と表せる.また真のファクターモデルを ,すなわち

(4)

とし,真のファクター数 は , に依存しないと仮定する.

(4)

2.2 仮定

行列 に対して, を のトレース,ノルムを

とする.ここで以下の仮定A−Dを考える.これは,Bai and Ng

(2002),Bai(2003)で与えられているものと同じ仮定である.

仮定A(ファクターに関する仮定)

1.定数 が存在して,任意の に対して,

2. 正値定符号行列 が存在して,

仮定B(因子負荷量に関する仮定)

1.定数 が存在して,任意の に対して,

2. 正値定符号行列 が存在して,

仮定C(時間的,横断的依存性)

定数 ,定数 が存在して,任意の に対して,

1.

2. かつ

3. かつ

4.

5.

仮定D(ファクターと独自変数との弱依存性)

定数 が存在して,任意の に対して,

3 推 定

この節では,近似ファクターモデル(1)に対して,主成分分析を用いた推定量を説明する.尚,

は 単位行列とする.

2  がベクトルの場合, となる.

(5)

3.1 主成分分析推定量1 の条件の下で

(5)

を最小にする , を求める. を 行列 の固有値 ,

大きさ1の固有ベクトルとする.このとき(5)の解,即ち主成分分析推定量は,以下の形で与え られる.

(6)

3.2 主成分分析推定量2 の条件の下で

(7)

を最小にする , を求める. を 行列 の固有値 ,

大きさ1の固有ベクトルとする.このとき(7)の解は,

(8)

となる.ここで は 行列であり, は 行列となる.Stock and Watson(2002b)で 述べられているように, の列ベクトルにより張られる空間と の列ベクトルにより張られる空 間は同値である.即ち, を推定するためには,(6)と(8)は計算上の都合がよい方を採用す ればよいことを意味している.例えば の時は, は より行の数が小さいため,推 定量(8)の方が計算量は小さくなる.またファクターに対する推定量の漸近的な性質としては,

以下のことが知られている.

定理1(Bai and Ng(2002) Theorem 1 と定義する.

仮定A−Dが成り立つとする.このとき,任意の に対して, 行列 が存在して,

かつ

3 ただし は一般的に異なる値をとる.

(6)

となる. ここで と表すことができる.さらに の仮定を追加すると,

が成り立つ.

3.3 識別不可能性と推定量について

モデル(1)においては,任意の非特異行列 に対して, とおくと,

(9)

となる.即ちモデル(1)は識別不可能であることがわかる.これより もまた因子負荷量に 対する推定量になる.例えばTsay(2010),p.491では, を

(4)の に対する推定量としている.しかし

と表せるため,これも因子負荷量に対する1つの推定量になる.

4 共通ファクター数の推定

4.1 Bai and Ngの情報量基準

この節では,近似ファクターモデル(2)における共通ファクター数を推定するためにBai and Ng(2002)の情報量基準を説明する.

STEP1 ファクターの最大数 を事前に決定する.

STEP2 行列 の固有値 固有ベクトル を求め,

を計算する.

STEP3 (Ë)STEP2で得た を用いて,

から最小二乗推定量 を計算する.

4  を対角成分とする対角行列を表す.

ここでは,真のモデルと推定に用いるモデルにおいて異なる共通ファクターを扱わなくてはならない.このため,その共 通ファクター数 を強調するために,(6)の推定量 と表す.同様にして,(6)の列ベクトル と表す.他の 記号についても同様に の添え字をつける.

(7)

STEP3 (Ì) を計算する.

STEP3 (Í) を計算する.

STEP4 情報量基準 を計算

¡0

¡1

¡2

ここで とする.

STEP5 の中で,¡0−¡2のいずれかを最小にする統計モデルを選ぶ

上記の¡0−¡2はファクター数の上限 の設定に影響を受けるため,Bai and Ng(2002)はこの 短所を修正した以下の情報量基準 も提案した.

¡3

¡4

¡5

ここで としたことを思い出すこと.ただし6つ情報量基準¡0−¡2,

¡3−¡5において,Bai and Ng(2002),p.201は を に置き換えた形で書いている.

しかし が成り立つため,上記の情報量基準は の主成分分析によ る 推 定 方 法 に は 依 存 し な い こ と が わ か る . ま た の 場 合 ,

とする.

定理2 仮定A−Dが成り立つとし, は¡0−¡2のいずれかを表し, は¡3−¡5のい

ずれかを表すものとする. とするとき, と

なる.また とするとき, が成り立つ.

6 しかし の場合は,筆者の知る限りBai and Ng(2002),および他の文献にも明記されていない.

(8)

定理2はBai and Ng(2002)のThoerem 2に相当するものである.これはデータに対する当て はまりの良さ と,パラメーターの増加により生じるモデルの不安定性 に対し て, という形を先に作っておき,この基準が一致性を持つように 罰則項 を決めたというアプローチを取っている.このため周辺尤度を近似した従来 のBICのアプローチとは異なるところに注意が必要となる.

この6つの情報量基準は多かれ少なかれ最大数 の設定に影響を受ける.Forni et al.(2007)は,

マクロ経済指標,ファイナンス指標を含む89系列 の標本に対して,Bai and Ng(2002)

の6つの情報量基準を適用した.このとき,ファクターの最大数を とした場合,¡0−¡2,

¡3,¡5は と同じ値を推定値として与えた.Alessi et al.(2006)は89個の株式収益の列に対して,

Bai and Ng(2002)の6つの情報量基準を適用した.このとき,ファクターの最大数 を高く推定

すると, と同じ値がファクター数として推定された.また を低い値に設定すると¡3−¡5は2 をファクター数の推定値として与えたが,¡0−¡2は7から14までの数を推定値として与えた.

4.2 シミュレーション

ここでは,前節で説明した6つの情報量基準の精度を確かめるため,Bai and Ng(2002),p.202 で与えられたモデルを用いてシミュレーションを行う.

ここでファクター は互いに独立に に従う確率変数とし,因子負荷量 も互いに独

立に に従う確率変数とする.表1は とした標本から情

報量基準¡0−¡5を用いてファクター数を推定した結果を表している.

この結果より,PC基準¡0−¡2は,最大数 に対して大きく影響を受けることがわかる.

表1:6つの情報量規準のMに対する影響

シミュレーションを1000回繰り返して推定されたファクター数の平均を表す.

丸括弧で囲まれた数値は,その標準偏差を表す.

(9)

5 まとめ

本稿では共通ファクターに対する主成分分析推定量,およびファクター数に対するBai and Ng

(2002)の6つの推定方法について説明を行い,シミュレーションにより6つの手法の推定精度を 比較した.その結果,PC基準¡0−¡2はファクターの最大数 の設定に大きく影響を受けることが わかった.このため, の推定方法が確立していない現段階では,PC基準の使用を控えておくべ きであると思われる.一方でBai and Ng(2002)のTABLE Ⅵ,Ⅶでは,標本数が大きくなく,

独自因子に系列相関を持つとき, の推定精度が悪くなることが報告されている.しか しStock and Watson(2002b),およびBai and Ng(2002)のTABLE Ⅵ,Ⅶ以外のシミュレーシ ョン,そして今回のシミュレーションから判断した場合, が大きい場合には,IC基準

¡3−¡5は の設定に対して頑強であり,ファクター数の推定についても比較的安定しているとい える.

(みやた よういち・本学経済学部准教授)

謝辞

本研究は科学研究費(若手研究(B)24740069)の支援を一部受けている.また本稿の修正にあ たり,丁寧かつ有益なコメントをくださった査読者に深く感謝する.

参考文献

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Predictors, Journal of the American Statistical Association, 97, 460, 1167-1179 [13] Tsay, R. S. (2010), Analysis of Financial Time Series, Wiley.

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ESRI Discussion Paper Series No.219

[15] 山本 拓.(1987),経済の時系列分析,創文社.

参照

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