北タイの工場社会における権力と相互行為 : 日系 文具メーカーの事例から
著者 平井 京之介
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 21
号 1
ページ 1‑76
発行年 1996‑10‑31
URL http://doi.org/10.15021/00004170
平井 北 タイの工場社会におけ る権力 と相互行為
北 タ イ の 工 場 社 会 に お け る権 力 と相 互 行 為 日系文具 メーカーの事例か ら
平 井 京 之 介*
Power and Social Interactions in a Northern Thai Factory:
A Case Study of a Japanese Stationery Factory
Kyonosuke HnRM
Since the 1970s, industrialisation in Asia, Central America, and elsewhere has been undertaken mainly by inviting transnational com- panies to establish labour-intensive factories. In such factories various types of clashes between foreign managers and indigenous workers have been reported, often in the spheres of time, autonomy, and communica- tion. These sociological studies of work tend to take for granted doubt- ful assumptions about traditional regional societies and foreign in- dustrial societies. The over-simply stereotyped assumptions of in- dustrial sociology often ignore the workers' experience. An an- thropological study of work or factory is needed here.
The aim of this paper is to answer a question in terms of the an- thropological research data which I collected in a Japanese-owned sta- tionery factory in Northern Thailand. What types of clashes do the village women experience in the factory? How do they adapt to the fac- tory system?
First of all, this paper describes the organisation, regulations and formal authority of the factory. Then the employees' interactions in the factory are analysed, including their way of utilising the formal order and authority. Finally, this paper describes the workers' lifestyles and argues the relations between the formal power structure and the differences of the workers' lifestyles.
The research data in this paper show that the Thai workers greatly
国立民族学博物 館第1研 究部
Key Words : Northern Thailand. factory. worker. gender. interaction
キ ー ワ ー ド:北 タ イ,工 場,労 働 者,ジ ェ ン ダ ー,相 互 行 為国立民族学博物館研究報告 21巻1号
control the operation of the factory in a way that the Japanese managers do not understand. Some of the Thai managers occupy an intermediary position between the Japanese managers and the Thai workers in terms of their foreign language ability. They utilise their advantageous posi- tion to control the interactions between the Japanese and the Thai, which covertly benefits them by keeping the social order in the factory.
Moreover, the paper shows that since the relationships between Thai workers in the factory are basically or emotionally equal irrespective of rank, the superior needs special techniques of persuading the inferior to obey orders. The inferior can oppose the superior's strong compulsion by sexual gossip.
The factory women are not passively controlled by the Japanese managers or factory discipline, but are active participants in the construc- tion of the factory society. The relationships among the workers, the managers, and the Japanese managers are not so rational as the sociologists expect. The workers do not experience the capitalist discipline in the factory as cruelly impersonal or irresistibly suppressive, but rather can evade or defy the strict and irritating discipline. The paper concludes that the social relations in the factory are rather in- dividual and personal. Profitability or efficiency is not the exclusive principle of the workers' actions in the factory society. There exists not a single stable hierarchy, but a variety of hierarchies of authority in the factory society. Especially, the understanding of relations of power in the factory requires investigation of the workers' struggles for good reputations as women. These hierarchies create a disputing hierarchy.
Then, the workers' struggle for the determination of a hierarchy involves a process of defining themselves.
2 は じめ に 2 北 部 工 業 団 地 3 文 具 メ ー カ ー
3.1サ ン ラ イ ズ 株 式 会 社 3.2 リ ク ル ー ト 3.3 ア セ ン ブ リ ー 3.4工 場 に お け る 権 威 '
4 工 場 の 社 会 関 係
4.1 日 本 人 と タ イ 人 4.2 オ フ ィ ス と ア セン ブ リ ー 4.3 フ ォ ア マ ン と オ ペ レ ー タ ー 4.4 オ ペ レ ー タ ー ど う し の 関 係 5工 場 に お け る 文 化 と 権 力 5.1タ ン ・サ マ イ と ボ ラ ー ン 5.2退 職
6 お わ りに
平井 北 タイの工場社会 におけ る権力 と相互行為
1は じ め に1)
1970年 代 以降,ア ジ ア,中 央 ア メ リカ,そ の他 の地 域 に お い て,ト ラ ンスナ シ ョナ ル カ ソパ ニ ーに よる労 働 集 約 型 工場 の設 立 が 続 い て い る。 そ の よ うな工 場 につ い て の 産 業 社 会 学 的 研 究 は,こ れ まで,現 地 労 働 者 が経 験 す る さ ま ざ まな動 揺 を報 告 して き た。 そ の多 くは,彼 らが 生 まれ 育 って きた 村 と新 し く参 加 す る工 場 とい う2つ の社会 的空 間 にお い て,時 間 につ い ての 考 え方,対 人 関 係 の あ り方,コ ミュ ニケ ー シ ョ ソの 仕方 とい った,文 化 に差 異 が あ る こ とか ら生 じる と報 告 して い る。 ア プルバ ウムは 次 の よ うに 述 べ て い る。 「市 場 化 に 向か っ て い る文 化 に お い ては,家 庭 生 活 に おけ る急 ぐ必 要 の な い人 間 主 導 的 関係 と,仕 事 場 に お け る非 人 格化 され た 物 主 導 的 関 係 との間 で さ まざ ま な衝 突 が 起 きて い る」[APPLEBAUM 1984:28】。同様 に,ウ ィル ナ ーは,「工 場 に お い て労 働 者 が 外 国人 監 督 者 か ら受 け る扱 いは,伝 統 的 グル ー プ リー ダ ーか ら受 け る もの と鋭 い対 比 を 示 しな が ら,彼 らの,地 位 とは 無 関 係 に つ く られ て い る人 間 間 の適 切 な 行為 に つ いて の考 え を動 揺 させ て い る」 【W肌NER 1984:3401と 報 告 して い る。
この よ うな研 究 は,伝 統 社 会 と産 業 社 会 に つ い て の二 極 分 化 され た誤 った 仮 定 に 基 づ い て い る と思 われ る。 彼 らの 研 究 に おい て,現 地 労働 者 の工 場経 験 は伝 統 的 な 地 域 文 化 と外 国 か ら押 し寄 せ て くる産 業社 会 文 化 とい う2つ の異 質 な文 化 か ら語 られ る。
そ こに は 「子 ど も じみた,不 合 理 な}親 族 構 造 の よ うな社 会 組 織 に み られ る,未 開 精 神 と,大 人 で,合 理 的 な,官 僚 制 度 に代 表 され る よ うな社 会 組 織 に み られ る,文 明 化 した 精 神 」[CZaxNt aWSKA‑JOERGES 1992:46]と い う,極 度 に 単純 化 され た ス テ レオ タイ プが潜 ん で い る。 そ して,現 地 労働 者 が産 業 社 会 文 化 に飲 み込 まれ て い く過 程 に お い て,前 資 本 主 義 的 な地 域 社 会 が 解 体 し,彼 ら の持 って い た ア イ デ ン テ ィテ ィが 失
1)本 論 の 基礎 とな った 民 族 誌 的 調 査 は,財 団 法人 松 下 国際 財 団 お よび 財 団 法 人 トヨタ財 団 の 助 成 を 得 て,1993年6月 か ら1994年12月 の 期 間 に 行 わ れ た。 な お,筆 老 は1993年11月 か ら 1994年4月 まで の 間,本 論 が 論 じる 日系 の文 具 メー カ ー に勤 務 した 。 そ の 間 に 筆者 が携 わ っ て いた 仕 事 内 容 は 日本 人 マ ネ ー ジ ャーに 準 ず る もの で あ った。 主Y'品 質 管 理 部 門 の 仕事 に 従 事 して い た が,技 術 的 な知 識 が 乏 しい分,通 訳 やQC活 動 の指 導 者 と して働 くこ とが 多 か っ た。
本文 中 の()内 の原 音 表 記 は す べ て タ イ語 の 北 タイ方 言(kham Myang)で あ る。 表 記 法 は基 本 的 に 標 準 タ イ語 のM.Haas 1964年 版Thai‑English Student's Z)ictionaryに 従 った 。 但 し,長 短 母 音 は 区別 せ ず,声 調 符 号は 省 略 した 。 また,一 部 の表 記 に つ い て
η=ng ε=ae ∈)==oe 3)ニor と変 更 した 。
国立民族学博物館研究報告 21巻1号
わ れ て い くとい う結 論 が 導 か れ る。 そ こでは 労 働 者 の生 身 の経 験 は 無 視 され て い る。
彼 らは 近 代 的 生産 関係 の も とで 自律 性 を奪 わ れ,疎 外 され た 存 在 と され る。 そ して, 外 国資 本 が もた らす 劣 悪 な労 働 条 件 と低 賃 金 に よ る搾 取 ぼか りが 強調 され る。
ここに 人 類 学 的視 点 か ら の工 場 研 究 が求 め られ て い る。労働 者 の経 験 か ら出発 して, 工 場 組 織 が 運 営 され て い く過 程 を 説 明 す る必 要 が あ る。 確 か に,農 村 か らや って きた 労 働 者 に と って,工 場 は これ まで に経 験 した こ との な い異 質 な世 界 と言 え る。しか し, そ の異 質 な世 界 は外 国企 業 が 作 り上 げ た もの で,現 地 労働 者 が そ れ に適 応 して い く過 程 だけ が 観 察 され る とす る のは 誤 りで あ る。 そ こ では,政 治 経 済 的構 造 が工 場 社 会 を ど う定 義 す るか だ け が問 題 とな るの で は な く,労 働 者 の 相互 行 為 が 工 場 社会 あ るい は よ り広 い 範 囲 の 政 治経 済 的 構 造 に どの よ うな影 響 を 与 え て い るか を 問 題 とす る余 地 が あ る ので は な い だ ろ うか2)0
本 稿 で は,こ の よ うな視 点 に た って,北 タ イ の北 部 工業 団地 に あ る 日系文 具 工 場3) か らの調 査 結 果 に 基 づ き,次 の よ うな 問題 に答 え る こ とを 目的 と して い る。 村 か ら 出 て きた 女 性 た ちは働 き始 めた 工 場 で どの よ うな動 揺 を して い る のか 。 また,彼 らは 工 場 の シス テ ムに どの よ うに適 応 してい るのか 。 労 働 者 の 具体 的 な経 験 か ら出発 して こ
れ らの問 題 を 考 察 した い。
以下,は じめ に 第2章 で北 部 工 業 団 地 の概 要 を説 明す る。 第3章 で は 筆 者 が調 査 し た文 具 メ ー カ ーの アセ ン ブ リー部 に焦 点 を 当 て な が ら,工 場 に お いて 公 的 に定 義 され て い る組 織 規 則,権 威 に つ い て論 じる。 第4章 では,筆 者 が集 め た 調 査 デ ー タ を用 い な が ら,労 働 者 が 組織 で期 待 され て い る役 割 か ら離 れ て,工 場 内で どの よ うな相 互 行為 を行 っ て い るか を 詳述 す る。 そ して,工 場 内 の相 互 行為 に お いて,彼 らが実 際 の 状 況 で工 場 の公 的 な 秩序 や権 力 を ど の よ うに利 用 す るか を考 察 す る。 第5章 で は,工 場 内 の相 互 行 為 を 理 解 す る うえ には,労 働 者 の ライ フ ス タイ ル とい った よ うな文 化 的 な 領域 に あ る もの も考慮 に 入れ る必 要 が あ る こ とを述 べ る。 そ して,こ の 文 化 的 な も の が工 場 内 の権 力 関 係 に 関与 し,組 織 的 な 権 力構 造 と相 互 に影 響 しあ って い る過 程 を 分 析す る。
2)こ の意 味 で,オ ング に よ る マ レー工 場 労働 者 の研 究 は,パ イ オ ニア 的 な 存 在 と言 え る。 彼 女 は,工 場 で み られ る集 団 的 愚 依 現 象 を,工 場 労 働 を と りま く危 機 的 状 況 の 中 で の労 働 者 の 経 験 か ら考 察 し,厳 しい 資 本 主 義 的 規 律 に対 す る彼 ら の抵 抗 運動 の 一 形 態 で あ る と論 じた 【ONG 1987】。 しか し,オ ソ グの 研 究 も工 場 で み られ る相 互 行 為 まで 深 く入 り込 む 事 が で き な か った とい う意 味 で限 界 が あ った 。 工 場 経験 を 労働 老 の イ ンタ ビ ュ ーだ け か ら再 構 成 す る こ とは危 険 で あ る。
3)本 稿 に登 場 す る団 体 名 お よび個 人 名 はす べ て 仮 名 で あ る。
平井 北 タイの工場社会 におけ る権力 と相 互行為
2 北部工業 団地
タイ 国 内 に40以 上 あ る工業 省 直轄 の工 業 団 地 の1つ,北 部 工 業 団地 は,チ ェ ソマ イ ・ ラ ソプ ー ソ平 野 の ほ ぼ南 端 に位 置 す る(図1)。 チ ェ ンマ イ か ら車 で30分,ラ ンプ ー ソ市 郊 外 を 通 る高速 道 路 を挟 ん で蝶 の羽 の よ うな形 で北 部 工 業 団 地 が あ る。 団 地 内に は2階 建 て の 巨 大 な工 場 が 立 ち並 び,そ の周 囲 は 柵 を め ぐ らされ て い る。 柵 の外 には 水 田地 帯 が 拡 が って い る。 最 近舗 装 され た ば か りの 団 地 に面 した側 道 に は,労 働 者 向 け に食 料 品 や 雑 貨 を売 る小 さな 商店 や屋 台 が 林 立 す る。 団地 か ら1キ ロほ どの農 村 に は,水 田を 埋 め 立 て た上 にで きた ぼ か りの労 働 者 向 け の ア パ ー トが 間 隔 を お い て並 ん で い る。
図1 北部工業団地 の位置
国立民族学博物館研究報 告 21巻1号
この工 業 団 地 の誘 致 計 画 が 始 ま った のは1976年 で あ る。 敷 地面 積 は1780ラ イ(iラ イ=約0.16ha)で,工 業 団地 の 出資 金358百 万 バ ー ツ(1993年 調 査 当 時,1パ ー ツ=
約4.25円)の 多 くを 日本 の 大 手 都 市銀 行 が 出資 した 。 団地 の建 設 は1983年 に始 ま り, 1985年 に完 成 した。 当初,土 地 の販 売 は 順 調 に進 ま なか った が,1988年 に 電 子部 品 を 生産 す る大 手 日本企 業 が 進 出 して以 来,そ の 関連 企 業 を中 心 に,日 系 企 業 の設 立 ラ ッ シ ュ とな った 。特 に1991年 以 降,日 本 企 業 が 先導 役 とな って ,工 業 団地全体の生産量 が飛 躍 的 に 伸 び た。 筆 者 が工 場 で調 査 を 行 って い た半 年 間 の 間 に も,新 た に 日系企 業 3社 が 団 地 内 で 操 業 を 開始 した 。1994年 現在 で,団 地 内 工 業 用 地 全 体 の92%が 売 却 済 み で あ る4)0
国 内向 け 生産 を 中心 とす るGIZ(Genera11ndustrial Zone)と 呼 ば れ る地域 と,輸 出 向け 生 産 を 中心 とす るEPZ(Export Processing Zone)と 呼 ぼ れ る地 域 をあ わ せ て, 団地 内に は86の 工 場 が 並 ぶ 。 日系 企 業 が31社,タ イ企 業 が32社,ア メ リカ,ス イ ス, 台湾 な ど,そ の他 外 国 企 業 が23社 あ る。 企業 数 では3割 にす ぎ な い 日本 企 業 も,資 本 金 で み る と52.3%と な り,タ イ企 業 の29.8%を 大 き く越 え て い る5)。日系 の31社 の う ち,14社 が電 子 部 品 関連 の工 場 であ る。 そ の他 には,服 飾 品,加 工 食 品,化 粧 小物, 宝 石 加 工工 場 な どが あ る。 この工 業 団 地 は海 岸 線 か ら遠 く離 れ た ところ に位 置 す るた め,物 流 の 問題 か ら小物 を生 産 して い る工 場 が 多 い。
歴 史 的 に み て も,現 在 あ る工 場 の 規 模 か ら言 って も,こ の工 業 団 地 は 日系企 業が 作 りあ げ た と言 って も過 言 で は な い。 タイ企 業 や ヨmッ パ の企 業 も含 め て,各 工場 の 労 働 条 件 な どは 日系企 業 に準 じた もの とな っ てい る。日系 企 業 だ け で従 業 員 約1万 人, 日本 人 従業 員 は約140人 に 達 す る。 最 大 手 のA社 で は,3千 人 弱 の従 業 員6)を40人 の 日本 人 が 動 か して い る。 団地 全 体 で み る とA社 の 駐在 員 数 は例 外 で あ り,あ とは ど こ も5名 前 後 の 日本 人 が 工 場 を 管理 して い る。1989年8月 に,A社 社 長 が 中 心 に な って,日 系企 業 連 絡 協 議 会 が 発 足 した。 団地 内 日系 企 業 各 社 の 社 長 が集 ま って,月1 回 の 会合 を 開 き,給 料 や 福 利 厚 生,そ の他 の諸 問 題 に つ いて 情 報 交 換 を して い る。 結 果 的 に,従 業 員 確 保 の ため の過 当 競争 は抑 え られ,日 系 企 業 の 雇 用 条件 は似 通 った も の とな る。 そ の他 の外 国企 業 の 多 くも,こ の よ うな 日系 企 業 の 動 きに あわ せ て い る。
団地 内 の工 場 の 多 くは 月 曜 か ら土 曜 日まで 週6日 間 の24時 間 操 業 を して お り,昼12 時 間,夜12時 間 の2シ フ ト制 を採 用 して い る。朝 の交 代 時 間 は だ い た い7時 か8時,
4) プ ー ヂ ャ ッガ ー ン(phu cad kan)1994年4月5日 号 。 5) プ ー ヂ ャ ッガ ー ン1994年3月18日 号 。
6)従 業 員 の 多 い 会 社 は こ の 他 にK社 千2百 人,E社9百 人,0社8百 人,T社7百 人 な ど で,
す べ て 日 系 企 業 で あ る 。 こ れ 以 外 の 工 場 は す べ て5百 人 以 下 の 従 業 員 と な っ て い る 。
平井 北タイの工場社会におけ る権 力と相互行為
夜 は19時 か20時 。 この昼 の シフ トと夜 の シ フrを,各 従 業 員 は1週 間 な い し2週 間 ご 、
とに 交 代 す る。 勤 務 時 間 の12時 間 の うち,3時 間 が 残 業 扱 い とな る。 残 業 とは い え契 約 書 に も明記 さ れた 規 定 の 労働 時 間 で あ り,途 中 で帰 宅 す るに は特 別 に 許 可 が い る。
一 部,タ イ 企 業 を 中心 に,朝8時 か ら午後5時 ま で の昼 間 勤 務 だ け の工 場 も あ る。
団地 内各 企 業 の支 払 う給 与 は,諸 手 当 にお い て 企 業 ご とに 多 少 の格 差 が あ る もの の, 似 通 った もの とな って い る。 各社 の初 任 給 は 法 律 に よっ て定 め られ て い る最 低 賃 金 と ほ ぼ 同額 とな る。最 低 賃 金 は 毎年4月 に政 府 に よ って各 地 域 ご とに 決 定 され る。93年 4月 に決 定 され た 最 低 賃 金 では,バン コ ク首 都 圏 が 日給125バ ー ツ,チ ェ ン マイ な ど
の地 方 中核 都 市 圏 が 日給110バ ー ツ,ラ ンプ ー ソの よ うな中 小 地 方都 市 圏 が102バ ー ツ であ った 。 バ ソ コ クの 最低 賃 金 が 国 内情 勢 や 隣 国 との 競 争 状 況 な どに 基 づ い て 最初 に 決 め られ,ラン プー ンで 適 用 され る最 低賃 金 は現 地 の 経 済 状 態 とは関 係 な くこれ に 準 じて決 め られ る。ラン プ ー ン県 内 の多 くの タ イ私 企 業 は これ を 守 って い ない 。しか し, 団地 内 の 工 場 では これ を最 低 レベ ル の基 本 と した 上 で 能 力 に よ って 多 少 の上 乗 せ を し,そ の他 に諸 手 当 を支 給 して い る。 基本 給 の 他 に,残 業 手 当,夜 勤 手 当,通 勤 手 当, 食事 手 当 な どが ある。 また,多 くの工 場 で は,1ヵ 月休 まず に働 くと百 か ら4百 バ ー ツの 皆勤 手 当が 支給 され る。役職 者 に なれ ば,こ れ 以外 に役 職 手 当 と住 宅 手 当 が つ く。
これ らす べ て を あわ せ る と,平 均 的 なアセンブリー 労 働 者 で,日V̀12時 間 勤務 す る2 シ フ ト制 の と ころで は,合 計 して月5千 か ら7千 バ ー ツ,9時 間勤 務 の と ころ で3千 か ら4千 バ ー ツの収 入 とな る。 これ は 大卒 公務 員 の初 任 給 に 相 当 し,持 ち家 さえ あ れ ぽ,こ れ だ け の収 入 で生 活 に 困窮 す る こ とは 全 くな い。
団地 内 の工 場 はJ外 の企 業 に 比べ て福 利 厚 生 で 恵 まれ て い る点 で も共 通 して い る。
ナ イ タ ー設 備 の 整 った テ ニ ス コ ー トや サ ッカ ー場 を持 って い るの は一 部 の大 手 日本 企 業 だ け に して も,平 均 的 な工 場 で はバ レー ボ ール や タ ク ロー7)の コ ー トを工 場 敷 地 内 に設 置 して お り,年1回 程 度,運 動 会 な どを開 いて い る。年 末 には,食 事 と酒 が企 業 に よ って用 意 され るパ ーテ ィも開 か れ る。 バ スを 借 り切 って の社 員 旅 行 を 実 施 して い る企 業 もあ る。 どこの 工 場 に も医 務 室 が設 置 され てお り,怪 我 や病 気 の従 業 員 の た め に看 護 婦 が常 駐 して い る。 また,法 律 に よ って各 企 業 は 指 定 病 院 を設 定 す る こ とが 義 務 づ け られ て お りJ勤 務 中 の怪 我 な ど の時 に はす ぐにそ の病 院 に運 ぽれ る。 工 業 団 地 周辺 は お ろか,チ ェ ソマ イ の企業 で さ え これ ほ どの福 利 厚 生 施 設 を整 え て い る とこ ろ
7) タ ク ロ ー は タ イ の 国 民 的 ス ポ ー ツ の 一 つ で,足 で 蹴 っ て す る バ レ ーt一 ル の よ う な ス ポ ー
ツ で あ る 。 ネ ッ トが 低 い 他 は,バ レ ー ボ ー ル コ ー トに 似 た コ ー トを 用 い て い る 。 タ イ の 空 き
地 や 校 庭 な ど に 行 く と,少 年 た ち が タ ク ロ ー に 興 じて い る姿 が み られ る 。
国立民族学博物館研究報 告 21巻1号 は 少 な く,従 業 員 に と って は工 業 団 地 の魅 力 の一 つ とな って い る。
工 業 団 地 内 の 労働 者1万6千 人 の うち,男 性 が4千2百 人 で26.2%,女 性 が1万 千 8百 人 で73.8%を 占 め る。 事 務 職 だ げ で み る と男性 千 百 人,女 性 千3百 人 とほ ぼ伺 数 だ が,現 場 労 働 者 だ け に 限 れ ば 男 性3千 百 人,22.8%,女 性1万5百 人,77.2%と な り,圧 倒 的 に 女 性 の割 合 が 多 い8)0男 性 の多 くは 機 械 の操 作 や メイ ン テ ナ ソ ス部 門 に 働 い て お り,工 場 のアセンブリー 部 門 は ほ ぼ百%女 性 が 占 め て い る。 従 業 員 を年 齢 別 に み る と,20歳 未 満31.2%,21歳 以 上30歳 未 満63.3%と な って お り,20代 前 後 で大 半 を 占め る9)。これ は 多 くの 企 業 で ワー カ ーの募 集 時 に16歳 以 上25歳 以 下 とい う応 募 条 件 を 設 け て い るか らで あ る。 学 歴 別 で み る と,小 卒29.6%,中 卒 ま た は高 卒58.8%, 高 専 卒 以 上ll.6%と な っ て い る10)。工 業 団 地 開 設 以 来,年 々新 しい工 場 が操 業 を開 始
し,ま た 既 存 の工 場 で も建 物 を増 設 して い るの で,工 業 団 地 内 の従 業 員 数 は 著 しい増 加 傾 向に あ る。 一 方 で,辞 め る従業 員 も後 を 絶 たず,月 に 千6百 人 に も上 る と言 われ て い る11)0た だ し,辞 め た 彼 ら のほ ぼ 全員 が工 業 団 地 内 の他 の工 場 にそ の 後 再 就職 し て い る。 純 粋 に 増 加 して い る のは 団地 全 体 で月 に7百 か ら8百 人 で,増 加 率 は5%か
ら7%と な って い る12)。
ワー カ ー募 集 の 際 に は,中 卒 あ るい は小 卒 以 上 の16歳 か ら25歳 の 女性 とい うのが 応 募 条 件 とな って い る場 合 が多 い。採 用 の際 に応 募 者 を制 限 す る条 件 は性 別 と年 齢 だ け で あ る。 義 務 教 育 さえ終 え て いれ ぽ,雇 って くれ る工場 が必 ず 見 つ け だせ る。 出身 村 や社 会 階 層 な どに よって差 別 を受 け る こ とは な い。 また,他 の ア ジ ア地 域 か らの報 告 に あ る よ うな,既 婚 者 の排 除 とい った こ と もみ られ な い。 と ころ が,年 齢 の条 件 を 満 た して い なけ れ ば,ど この工 場 にお いて も採 用 され な い。 どん な低 賃 金 で も受 け入 れ る気持 ち が あ って も,30歳 を越 え て しまえ ば 団地 内の 工場 に は就 職 で きな い 。最 近 の 工 業 団地 全 体 に おけ る ワ ー カー不 足 傾 向 の も とで も,年 齢 制 限 は 多少 ゆ るむ傾 向 に あ
る もの の,よ り遠 隔 地 か ら若 い 女性 を 採 用 す る傾 向 の方 が 強 い。
工 業 団 地 の 労 働 者 の多 くは 周 辺 村 落 に あ る 自宅 か ら毎 日バ イ クな どで 通 勤 して い る。 バ イ クは工 場 に通 い 始 め る時 に通 勤 の た め に初 め て 買 う場 合 が多 い。 バ イ クで通 え な いほ ど遠 隔 地 に住 ん で い る労 働 者 は,ロ ッ ト ・ラ ップ ・ソソ(rod rab song)と 呼 ぽ れ る ピ ック ア ップ トラ ヅクを 改造 した 乗 合 バ ス に乗 って 工 場 にや って くる。 団地
8) プ ー ヂ ャ ッ ガ ー ソ1994年3月8日 号 。 た だ し,こ こ で は 事 務 職 の 定 義 が 明 記 さ れ て い な い 。 9) 1993年11月3日 時 点 。 プ ー ヂ ャ ッ ガ ー ン1994年4月7日 号 。
10)1993年11月3日 時 点 。 プ ー ヂ ャ ッ ガ ー ン1994年4月7日 号 。 11) プ ー ヂ ャ ッ ガ ー ソ1994年5月4日 号O
l2) プ ー ヂ ャ ッ ガ ー ソ1994年5月4日 号 。
平井 北 タイの工場社会におけ る権力 と相互行為
内最 大 手 のA社 の 資 料 に よれ ぽ,従 業 員 の平 均 通 勤 距 離 が15キ ロ,最 大 で25キ ロ程 度 であ る とい う。 特 に工 場 労働 者 の集 中 して い る地 域 は な く,団 地 か ら半 径20キ ロ ぐ
らい の各 村 で は30人 程 度 が 工 業 団地 に働 きに 出 て い る。北 に は チ ェ ンマイ が あ る た め, 都 市 圏 に 近 い 村 ほ ど工 業 団 地 へ来 る者 が 少 な くな るが,南 では 他 に これ とい った 働 き 口 もな く,30キ ロ以上 離 れ て い て も団地 まで 働 きに来 る者 は多 い。 ラ ンプ ー ソ県 内 の 遠 隔地 や 北 タイ の他 県 か らや って くる若 者 向け の アパ ー トが,団 地 周辺 で年 々増 加 し
てい る。
3文 具 メ ー カ ー
3.1サ ン ラ イ ズ 株 式 会 社
サ ン ライ ズ ・タ イ ラ ン ド株 式 会社 は,北 部 工 業 団地 のEPZ地 域 に あ る 日系 の文 具 メー カ ーで あ る。1990年,サンライズ 株 式 会社95%,日 本 商 社5%の 出資 に よ って, 資 本 金2千 万 バ ー ツで設 立 され,1991年 に 操 業 を 開始 した 。 親 会 社 は従 業 員60名 程 度
の 中小 企 業 で あ り,人 件 費 の 削減 を 目的 と し,生 き残 りを か け て タイ に進 出 した 。 注 文 は 日本 か 香港 の関 連 会 社 で 受 け,原 料,機 械 はす べ て 日本 か ら輸 入 し,完 成 品 は 日 本 へ,仕 掛 品13)は 日本 か 香 港 の 関 連 会 社 へ 輸 出 して い る。 現 地 日本 人 社 長 は,工 場 の建 設 地 に ラ ソプー ソを 選 ん だ 理 由 と して,タ イ人 は 目が よ く手 先 が器 用 な こ と と, バ ソ コ クyr比 べ て ラ ソプ ー ソは さ らに人 件 費 が 安 い こ と,チ ェ ソマイ か ら近 く 日本 人 の 住環 境 と して よい こ と,誘 致 に 際 して工 業 省 が 積 極 的 に働 きか け た こ とな どを あげ て い る。 筆 者 の調査 期 間 中 は,円 高 の影 響 で 日本 の文 具 メ ー カーが こぞ って生 産 工 程 の 海 外移 転 を 進 め て いた 。 このた め,日 本 国 内 の景 気 停滞 局面 に も関 わ らず,移 転 先 か らの注 文 を受 け,サ ン ライ ズ ・タイ ラ ン ドの業 績 は 好 調 で あ った。
サ ン ライ ズ ・タイ ラ ン ド株 式 会 社(以 下 サ ン ライ ズ)の 約3千 百 平 方 メ ー トル の敷 地 に は3つ の 棟 が た って い る。正 面 入 っ てす ぐのA棟 は平 屋 一 部2階 建 て で,1階 部 分 にアセンブリー 作業 場 と4百 人 収 容 の 大食 堂 が あ り,2階 部 分 に オ フ ィス と社 長 室,会 議 室 が あ る。 そ の 奥 に あ るB棟 に は 大 型 の プ ラス チ ッ ク成 型 機 械 が20台 並 ぶ 成 型 部 門 と倉 庫 があ る。C棟 は増 産 計 画 に 基 づ い た第2アセンブリー 作 業 場 と して, 筆 者 の調 査 中 に 新 た に完 成 した。
サンライズ で は受 注 生 産 を 行 って い る。 筆 者 の 調 査期 間 中 には,カ ッタ ーや キ ャ ラ 13)製 造工程の途中にあって,ま だ商品 としては完成 していない段階 の製品。
国立民族学博物館研究報告 21巻1号 ク ター ボ ール ペ ンな どを受 注 生 産 して い た。 日本 の大 手 文 具 メー カ ーが 企 画 した もの を 日本 のサ ンライ ズ本 社 が受 注 す る。 そ れ を タイ で低 コス トで生 産 す るの が サ ソ ライ ズ の役 割 であ る。 日本 か ら送 られ て きた機 械 と材 料 を 使 い,仕 様 通 りに部 品 を プ ラス チ ックで成 型 す る。 それ を別 に切 っ てお い た金 属 棒 や そ の 他 の部 品 と一 緒 に ベ ル トコ ソベ ア に流 し,ワ ーカ ー が手 で組 み立 て る。 この工 場 が 成 功 す る道 は人 件 費 の 削 減 以 外 に な く,日 本 人 駐在 員 は それ に全 力 を 傾 け て い る。
サンライズ は,会 社 と して の 活 動 規模 こそ小 さい もの の,そ の運 営 に おい て は グ ロ ー バ ル な社 会 経 済 的 状 況 の 中 に お かれ て い る。 現地 の 日本 人 駐 在 員 は,日 本 本社 か 香港 の 関連 企 業 が 受 け た 注文 に従 って作 業 計 画 を 作成 し,タ イ人 従 業 員 に実 施 に あ た らせ る。工 場 内 の重 要 な 決 定 に つ い て はす べ て 日本 本社 に い る社 長 か らの指 示 が あ る。株 主 で もあ り,材 料 調達 の 仲 介者 で もあ る 日本 商社 か ら もその 事 業 内 容 につ いて 影 響 を 受 け る。 さ らに,従 業 員 の マ ネ ジ メ ン トにつ い て は,工 業 団 地 全 体 を管 轄 して い る タ イ工 業 省 と労働 局 の 監 視 を 受 け て い る。 県 あ るい は市 な どの地 元 自治体 か ら も環 境 問 題 や 労 働者 の健 康 管 理 な どに つ い て支 持 を受 け る必 要 が あ る。 これ らの要 因 が サ ソラ イ ズの 事業 内容 に 相 互 に 複 雑 に 絡 み合 ってお り,調 整 は難iしい。 こ うい った 状 況 の も とで,サンライズ が 日本 本 社 の 思 惑通 りに事 業 を進 め る こ とは 困 難 で あ る とと も に, 従 業 員 の 要 求 に答 え る こ と も容 易 で は な い。
サンライズ に は4人 の 日本 人 が 常駐 し,261人 の タイ 人 従 業 員 と と もに工 場 を 運 営 して い る。 組織 上,日 本 人 現 地 社 長 の下 に,管 理,生 産 管 理,製 造 の3つ の部 門 が あ る(図2)。 管 理 部 門,い わ ゆ る オ フ ィス部 門 の も とに は 人 事,経 理,営 業 管 理 の3 つ の部 が あ る。 製 造 部 門 の も とに は 射 出 成型 部,アセンブリー 部 な どの製 造 に 関す る 5つ の 部 が 含 まれ て い る。 オ フ ィス部 門 は計10名,生 産 管 理 部 門10名,そ して従 業 員 の大 半,240名 が 製造 部 門 に 属 す る。 社 長 以 外 の3人 の 日本 人 の うち,2人 は そ れ ぞ れ生 産 管 理 部 門,製 造 部 門 の ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ ャーを して い る。 も う1人 は製 造 部 門 の要 で あ る射 出 成 型 部 の技 術 指 導 に 従 事 して い る14)。管 理 部 門 の ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ
ャー だけ は タイ人 の男 性 で あ る。
管 理 部 門 の タイ人 ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ ャ ーは,日 本 人 と タイ人 の 間 に入 って,工 場 運 14)た だ 日本 人 で あ る と言 うだ け で は マ ネ ージ ャー と して通 用 しな くな って い る こ とを,日 本 人 マ ネ ー ジ ャー は 強 く感 じて い る と言 う。 社 長 は 次 の よ うに 言 って い る。 「知 識 を 広 く持 っ た ゼ ネ ラ リス トか,専 門 に秀 で た ス ペ シ ャ リス トで な い と,タ イ 人 に 通 用 しな い。 一 目お か れ る存 在 でな い と仕事 は 進 まな い 。 特 に,13年 間 この 道o'従 事 して い る タイ人 フ ォア マ ソな ど を相 手 に新 人 な どで は 務 ま ら な い。」 この 工場 が操 業 を 開 始 して 以 来,1年 半 の 間 に現 地 で採 用 され た り,日 本 か ら送 り込 まれ た 日本 人 マ ネ ー ジ ャ ーは こ うい った タ イ熟 練 労 働 者 と うま くいか ず に 次 々 と辞 め て い った 。
平井 北 タイの工場社会におけ る権力 と相互行為
図2 サ ン ライ ズ組 織 図 と役 職名(1994年1月)
営 に お い て重 要 な位 置 を 占め て い る。彼 は40歳 の 華 人 系 タ イ人 で あ る。大 卒 で,英 語 を 流 ち ょうに 話す 。 毎 日,自 家 用車 で チ ェ ンマイ か ら通勤 して い る。 タイ人 の 中 で も 彼 の地 位 は特 別 で あ り,給 料 は 部 下 の チ ー フ の3倍 か ら4倍 に達 す る。彼 は1年 前 に 日系 の縫 製 工 場 か ら転 職 して きた 。 工 業 団地 内 の外 資 系 企 業 で は,彼 の よ うに英 語 あ るい は 日本語 を流 ち ょ うに話 す タイ 人 マ ネ ー ジ ャー を必 ず1人 置 い て 》・る。 彼 に期 待 され て い る こ とは2つ あ る。 一 つ は 工 業 省 や 労働 局 な ど,タ イ の政 府 や 地 方 自治体 と うま く交 渉 す る こ とで あ る。 タイ の法 律 は あ ま ぐる し く変 わ り,ま た各 省 庁 ご とに そ の方 針 に ぼ らつ きが あ るた め,彼 らの政 策 は 場 当 た り的 な と こ ろが あ る。 そ こ で企業 の方 では,問 題 が あ りそ うな場 合 に そ のつ ど関 係 省庁 と交 渉 す る必 要 が あ る。 資 料 は す べ て タ イ語 で書 かれ て お り,ま た タイ官 庁 に 対 して 独特 の根 回 しが 必要 な た め,タ イ語 に不 自 由な 外 国人 社 長 が 直接 対 応す る こ とは 不 可 能 で あ る。 彼 に 期待 され る も う 一 つ の こ とは,日 本人 とタ イ人 の 間 に 入 って相 互 の 理 解 を 促進 し,円 滑 な企 業 運 営 を 助 け る こ とで あ る。日本 人 マネ ージ ャー は彼1人 先 に理 解 させ た 後 で,彼 か ら ワ ーカ ー に指 示 内容 の説 明 を させ る。 こ うす る こ と)'rよって誤 解 を 避 け る こ とが で き る し,ト
ップの 指示 が ス ム ー ズに 工場 全体 に 行 き渡 る と考 え られ て い る。 日本 人 が 直 接 命 令す る よ り,タ イ人 同士 の 方 が 話 が分 か りや す く,摩 擦 が 避 け られ る と期 待 され て い る。
ま た,日 本 人 マ ネ ー ジ ャーに は,人 事 問 題 な どを彼 に仲 介 させ る こ とY'よ って,自 ら が 直接 危 険 な 立場 に置 か れ る こ とを避 け よ うとす る意 図 もあ る。
国立民族学博物館研究報告 21巻1号
管理 部 門 に は女 性7人,男 性3人 が勤 務 して い る。彼 らの平 均 年 齢 は24.7歳 で,学 歴 が 高 い分,年 齢 も ワー カ ー よ りや や高 い。 大 卒 が4人,高 専 卒 が4人,高 卒 が2人 で あ る。 ラ ソプ ー ン出 身者 が5人,そ の他 の北 タイ 県 出 身者 が5人 とな って い る。 管 理 部 門 の転 職 率 は 高 く,彼 らの半 分 は 勤 め てか ら1年 未満 で あ る。 操 業 開始 時 か ら こ の2年 半 の 間 に辞 め な か った の は人 事部 チ ー フの1人 だ け で あ る。 彼 らの給 料 は最 低 で18歳 高 卒 女 性 の3千4百 バ ー ツか ら,最 高 で チ ェ ンマ イ 大 卒25歳 男 性 の9千2百 パ ー ツ まで,学 歴 と役職 に よ って さ ま ざ まで あ る。 た だ し,サンライズ の 給与 体 系 は
日系 電 機 メー カー な ど と比べ る と2割 か ら3割 低 く,工 業 団地 内企 業 で は 最低 の レベ ル に属 す る。 それ で も彼 らは ワー カ ー と比 べ る と数 多 くの 特権 を有 して い る。
工 場 の 運 営 状況 は,毎 朝9時 か ら会議 室 で開 か れ るマ ネ ー ジ ャー会 議 で確 認 され る。
会 議 に は 日本人4人 を は じめ,タ イ人 の ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ ャ ー と副 ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ ャ ー,そ れ に 各部 か ら責 任者1人 ず つ が 参 加 す る。 会 議 は,各 部 責 任 者 が そ の 日の部 の ス ケ ジ ュール と他 部 門 へ の 連 絡事 項 を 紹 介 す る こ とで始 ま る。管 理 部 門 の代 表者 は 英 語 で,製 造 部 門 と品 質 管 理 部 門 の代 表 者 は 日本語 で まず 簡 単 に報 告 し,そ れ か らタ イ語 で詳 し く説 明 す る。製造 現 場 か らの 報 告 内 容 は,前 日の 作業 内容 お よび 生産 量 と, そ の 日の作 業 予 定 が 中心 とな る。彼 らの報 告 内容 を 逐 一 日本 人 マ ネ ー ジ ャ ーが確 認 し, 疑 問 が あれ ば そ の 場 で問 いた だ す。 誤 りが あれ ば修 正 す る。 各 部 か らの報 告 が 終 わ っ た後,社 長 が 総 括 す る形 でそ の 日の 注意 事 項 を ま とめ る。
報 告 の タ イ語 部 分 は 日本 人 には ほ とん ど理 解 され て い な い。 英 語 で の報 告 内 容 は 社 長 だ け にわ か り,3人 の 日本 人 には わ か らな い。 英 語部 分 に重 要 な 項 目が あれ ば,社 長 が他 の 日本 人 マネ ー ジ ャ̲6'訳 して説 明す る。 各部 の代 表 者 に対 す る質 問は,日 本 語 であ って も英 語 で あ って も そ の ま まで は う ま く伝 わ らな い こ とが 多 い。そ の際 に は, 社 長 が英 語 で タイ 人 ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ ャー に説 明 し,彼 が タ イ語 で 当事 者 に伝 え る。
これ が会 議 に おけ る中 心 的 な 日本 人 と タイ人 の コ ミュニ ケー シ ョソ手 段 で あ る。 これ 以 外 に,日 本 語 を 話 す タ イ人 副 ゼ ネ ラル マ ネ ージ ャーが 補佐 して,会 議 が進 行 す る。
会 議 が終 わ る と,日 本 人4人 だ げが 残 って,そ の 日の 懸 案 事項 につ いて 細 か い打 ち合 わ せ を 続 け るのが 通 例 で あ る 。
マ ネ ー ジ ャー会 議 は 社 長 が工 場 内の 活動 を把 握 す る こ とが 目的 で開 か れ て い る。 会 議 とい うよ りも社 長 へ の 報 告 会 と言 った 方 が そ の性 格 を うま く表 す 。 各 部 の責 任 者 が そ の 日の 作業 内容 につ い て社 長 の チ ェ ックを 受 け る。 新 しい 方針 が こ の会議 で話 し合 われ る こ とは ほ とん どな い 。 各部 責 任 者 は 社 長 か らの追 求 を 避 け る ため に 無言 で い る の が得 策 で あ る。 タイ 人 ゼ ネ ラル マ ネ ー ジ ャ ーは会 議 につ い て筆 者 に次 の よ うな不 満
平井 北 タイの工場社会における権力 と相互行為
を も ら した。 「朝 の会 議 で だ れ か が 何 か を 言 うと,す ぐに 社長 が 口を挟 む。 違 うと言 う。 間違 い を直 す 。 これ で はみ ん な怖 くて何 も言 え な い。 み ん な 会 議 で発 言 す る のが 嫌 い で あ る。 我hは い つ も会 議 で 何 も言 え な い。 い つ も 口にバ ソ ソー コ ーを貼 っ てい
なけ れ ば な らな い。」
工 場運 営 に関 す る実 質的 な議 論 や判 断 は,日 本 人 マネ ージ ャー4人 だ け に よる イ ン フ ォー マル な打 ち合 わ せ に よっ て な され る。 朝 の会 議 の後 の打 ち合 わ せ の 他 に も,昼 食 後 や 帰 宅前 な ど,頻 繁 に 日本 人 だ け が 集 ま り,世 間 話 や ゴル フ談 義 に 混 ざ って,仕 事 の話 が 行 わ れ る。 昼 食 時 に大 食 堂 で 食 事 を 済 ませ る と,日 本人 はす ぐに2階 の会 議 室 に上 が る。食 堂 は禁 煙 な の で,彼 らは こ こに タバ コを吸 い に行 く。 そ こに は 日本語 の新 聞 も置 か れ て い る。 リラ ックス しなが ら世 間話 か ら始 ま り,そ の ま ま続 け て 仕 事 Y'つ い て の情 報 交換 や議 論 へ と発 展す る。この よ うな機 会 に は,特 に 呼 ぽ れ な い 限 り,
'
タ イ 人 が い る こ と は な い 。
各 部 の 責 任 者 は,朝 の マ ネ ー ジ ャ ー 会 議 で 受 け た こ と を 自分 の 部 に 持 ち 帰 っ て 報 告 す る 。アセンブリー 部 で は 午 後12時45分 か ら副 マ ネ ー ジ ャ ー が フ ォ ア マ ソis)を 集 め て 会 議 を 開 く。 こ こ で 副 マ ネ ー ジ ャ ー が 会 議 で 聞 い た 指 示 や 連 絡 事 項 を 説 明 す る。 フ ォ ア マ ソ は こ れ に 従 っ て そ の 後 の 作 業 計 画 を 作 る と と も に,受 け 持 っ て い る オ ペ レー タ ー に 指 示 を 出 す 。
こ の よ うに し て,日 本 人4人 が 作 成 す る 計 画 が マ ネ ー ジ ャ ー と フ ォ ア マ ソを 通 じ て オ ペ レ ー タ ー に 伝 え ら れ,毎 日 工 場 が 動 く 仕 組 み に な っ て い る 。 し か し,ワ ー カ ー16)は 単 な る 機 械 で は な い 。 サ ン ラ イ ズ の ワ ー カ ー と な っ て い る の は ど ん な 人h で あ ろ うか 。
アセンブリー 部 門 に は,女 性 が159人,男 性 が7人 働 い て い る 。 そ の うち フ ォ ア マ ソが 男 性2人 を 含 む17人 で あ る 。人 事 資 料 に よ る と,最 低 年 齢 が15歳,最 高 が30歳 で, そ の 平 均 は21。6歳 で あ り,全 体 の81.8%が18歳 以 上25歳 以 下 に 属 し て い る 。 ま た,筆 者 の 聞 き 取 り調 査 に よれ ぽ,既 婚 者 は60.2%に 達 す る 。 人 事 資 料 に 基 づ い て 彼 ら の 学 歴 を み る と,高 卒 以 上 は わ ず か に6.1%,中 卒 が13.8%で,小 卒 が80.1%と 大 半 に な っ て い る 。 出 身 別 に み る と,ラ ソ プ ー ソ 県 出 身 者 は 全 体 の77.9%,ラ ン プ ー ソ と接 す る チ ェ ン マ イ 県 出 身 者 が12.7%で あ り,ラ ソ プ ー ソ県 と チ ェ ソ マ イ 県 出 身 者,つ ま り 15) フ ォア マ ン とは,マ ネ ー ジ ャーか らの 指 示 に 従 って オペ レー タ ーを マ ネ ジ メ ン トす る,チ ー フ,ス タ ッフ,リ ー ダ ーの総 称 で あ る。 特 に 区 別 す る必要 が な い場 合,彼 ら 自身 は リー ダ ー とい う言 葉 で チ ー フ,ス タ ッ フ,リ ー ダ ーを 総 称 す るが,こ こで は混 乱 を避 け るた め,フ ォ アマ ン とい う用 語 を 用 い る。
16) ワーカ ー とは フ ォ アマ ンと オペ レータ ー の総 称 で あ る。つ ま り,オ フ ィス ス タ ッ フと マ ネ ー ジ ャ ーを 除 く,工 場1階 で作 業 に 従 事 して い る者 全 員 が ワ ーカ ー であ る。
国立民族学博物館研究報告 21巻1号 自宅 か らの 通 勤者 を あわ せ る と全 体 の90.6%を 占め る。
3.2 リ ク ル ー ト
北 部 工 業 団地 に お いて ワー カ ーの募 集 とオ フ ィス ス タ ッフの募 集 は 全 く別 々に行 わ れ る。 オ フ ィス ス タ ッフの募 集 広 告 に は,新 聞 や ラジ オな どの媒 体 が 使 わ れ る。 応 募 に つ い て の年 齢 制 限 は 細 か く,従 事 す る分 野 と関連 す る学歴,専 門 的 な 経 験 年数 ,英 語 力 な どが職 種 に 応 じて要 求 され る。 これ に対 して,ワ ー カ ーの募 集 は 工 場 の 門 の前 に募 集要 項 が張 り出 され るだ け とい うのが一 般 的 で あ る。 サ ン ライズ の ワー カーへ の 応募 に は,16歳 以 上26歳 以 下 の女 性 で,6年 間 の義 務 教 育 を終xて い る こ とが求 め ら れ る だ け で あ る。 オ フ ィス ス タ ッ フ経 験 者 が ワー カ ーの募 集 に応 募 す る こ とは あ り得 な い し,元 ワー カ ーが オ フ ィス ス タ ッフの募 集 に応 募 す る こ と も通 常 は あ り得 な い。
この2つ の労 働 市場 は 明確 に区 別 され て お り,内 部 で ワー カーが オ フ ィス ス タ ッフへ 昇進 す る とい うこ と もな い。
団地 内 で の男 性 ワ ーカ ーの 募 集 は 限 られ て い る。サンライズ に は1993年11月 時 点 で 男性 従 業 員 が48名 い た 。 そ の うち の25名17)は 機 械 部 門 で 働 く技 術 者 で あ る。 アセ ソ ブ リー部 の 男 性7名 は,組 立 作 業 で は な く,倉 庫 管 理 や ア セ ン ブ リーで 使 うジ グ18) の管 理 な どを 主 な業 務 と して い る。 総務 部 門 の8名 は,工 場 内の 清掃 や ゴ ミ処 理,園 芸,棚 な どの用 具 の製 作 に 従事 して い る。 この よ うな構 成 は 団 地 内 の どこ の工 場 で も ほ ぼ 同様 で あ り,必 要 な男 性 ワー カー の数 は 限 られ て い る。 そ れ ゆ え,高 度 な 学歴 や 経 験 を 有 す る技 術 者 は 別 と して,男 性 ワー カ ーの場 合 は 職 を 得 るのが 難 し く,一 度 得 れ ば 簡 単 に は辞 職 しない 。サンライズ が操 業 を 開始 してか らの2年 半 の間 に,機 械 部 門 の25名 の 男性 は1人 も辞 め て い な い。
アセンブリー の ワー カ ーに女 性 だ け を採 用す る理 由 と して,サ ンラ イ ズ社 長 は次 の 3つ の理 由 を挙 げ た 。 第1に,タ イ 女 性 は手 先 が器 用 な の で,細 か い作 業 に 向 い て い る。 第2に,タ イ の 女 性 は従 順 で あ るが,男 性 は命 令 に 従 わ な いば か りか 怠 け者 で あ る。 第3に,バ ンコ クの例 か ら 明 らか な よ うに,過 激 な 労働 運 動 は 夜 の勤 務 時 な どに 男性 が まず 計 画 し,女 性 ワー カ ーを 扇動 す る19)0そ れ ゆ え,ス トライ キ を避 け るた め に は な るべ く男 性 を採 用 す るべ きで は な い。 これ らの 理 由 は果 た して 実状 に合 致 して い る だ ろ うか 。
17) こ の25名 に は親 族 や 同村 出身 者 が 多 い 。
18)作 業 を 円 滑 に進 め るた め に,工 程 の 各段 階 で加 工 品 の 固定 に用 い る さ ま ざま な道 具 。 19)サ ンライ ズ 社長 は この情 報 を 工 業 団 地 の 日系 企 業 連 絡協 議 会 の会 合 で 聞 い た と言 う。
平井 北 タイの工場社会 におけ る権力 と相互行為
この うち第1の 理 由に つ い て は タ イ人 ワー カ ー も同様 の考 え を持 って い る。 アセ ソ ブ リーの あ る女性 フ ォア マ ソは 次 の よ うに 言 う。 「女 は 細 か い(la iad)仕 事 に 向 い て い る。(も し組 み 立 て 作 業 を す れ ば)男 は 雑 で 力 任 せ に や る と思 う。 男 に は で きな い と思 う。 壊 した り,・折 っ た り,遅 い。(出 来 上 が りが)美 し くな い 。 男 は 重 い仕 事, 女 は軽 い 仕 事 。 女 は 弱 い性 で あ る。」
しか しな が ら,特 殊 な事 情 が あ って,サ ソ ライ ズで 男 性 ワー カ ーに 組 立作 業 を や ら せ る こ とに な った。 始 ま っ てみ る と,日 本 人 マ ネ ー ジ ャ ーや タ イ人 女 性 フ ォア マ ソの 予想 に反 し,彼 らの作 業 能 力 は 女性 に比 べ て 劣 って は い なか った 。中に は 女性 ワー カ ー よ り作 業 が 速 い者 もい た。
また,第2の 女 性 の 従 順 さに つ いて も疑 問 が残 る。 後 に 論 じる工 場 内 の ワー カー の 相 互行 為 に お いて もみ られ る よ うに,女 性 ワー カ ーは 日本 人 マ ネ ー ジ ャーが期 待 す る ほ ど命 令 に従 順 では ない 。 も と も と北 タイ 社 会 に お い て は,関 与 の仕 方 こそ 男性 と異 な る もの の,女 性 が社 会 経 済 的 に中 心 的 な 役 割 を果 た して い る20)0少 な くと も,ア ジ アの 他地 域 で言 及 され るほ ど,男 性 と比 較 して 顕著 に命 令 に従 順 な傾 向 が あ る とは 言 いが た い 。
こ う して み る と,社 長 の あげ た3つ の理 由 の うち,最 初 の2つ は そ れ ほ ど根拠 の あ る もの とは 言 え な い。 む しろ,工 業 団地 建 設 当初 よ り中心 とな って きた 日本 企 業 が, これ まで の 他 の ア ジ ア地 域 での 海 外進 出 に おけ る経験 も後 押 し して,彼 らの持 っ て い る性 的 イ メ ー ジを 無批 判 に北 タ イに も当 て は め,今 日の 状 況 に到 って い る と言 え る の で は な いだ ろ うか。 別 の言 い方 を す れ ば,男 性 日本 人 マネ ー ジ ャーが,部 下 と して女 性 を好 ん で い る と考え られ る。 実 際,工 業 団地 内 では,欧 米企 業 と異 な り,日 系 企 業 だ け が オ フ ィス ス タ ッフに も女 性 ぼ か りを好 ん で集 め る傾 向 が あ る。
サ ン ライ ズ で ワー カ ーを採 用 す る際 に は 面 接 の結 果 です べ て が決 定 され る。面 接 担 当老 は通 常3人 。 人 事 担 当者,募 集 して い る部 門 を担 当す る現場 マ ネ ー ジ ャ ー と 日本 人 マネ ー ジ ャー であ る。 面 接 で は最 初 に 人 事担 当者 が 履 歴 書 を み なが ら応 募 者 に一 般 的 な 質 問 を して い く。 残 業 が で き るか ど うか,夜 遅 くな って も帰 宅 に 問題 は な い か な ど,必 ず 確認 す る項 目が い くつ か あ る。 他 に,サ ン ライ ズ で働 い て い る知 人 が い るか ど うか,ア セ ンブ リーの 仕事 が で き る 自信 が あ るか ど うか,な どを 聞 い て い く。途 中, 応募 者 に 両 手 を机 の上 に出 させ,手 の表 裏 に問 題 が な い か を チ ェ ックす る。 手 に 傷 あ とが あ った り,ほ くろ の よ うな もの が あ っ た りす る と,そ れ が何 であ るか,作 業 に差
し障 りが ない か ど うか を確 認 す る。
20) これ については稿 を改めて詳述す る機会 を持 ちたい。
国立民族学博物館研究報告 21巻1号
面 接 は タ イ語 で行 わ れ るた め,日 本 人 マネ ージ ャーは 面 接 中 に交 わ され る会 話 のほ とん どを理 解 してい な い 。部 門担 当 の タイ人 マ ネ ー ジ ャーは就 業 経 験 に質 問 を集 中 さ せ る。工 業 団地 内で 働 い た こ とが あ るか 。 ど こで どれ くらい 働 い た経 験 が あ るか。 ど ん な作 業 を して いた か 。 ど うして辞 めた か。 人 事 担 当 者 とタイ 大 マ ネ ー ジ ャーは質 問 の都 度,自 分 のバ イ クを 持 って い る,ラ ソ プ ー ソに住 んで い る,夜 ま で働 け る,手 に 不 自 由が な い な ど,気 が つ い た 点 を特 記 事項 と して履 歴 書 に 記 入 して い く。3人 の面 接 担 当 者 は 応募 者 をそ れ ぞ れ10段 階 で評 価 し,全 て の面 接 が 終 了 した あ とで相 談 して 採 用 者 を 決 め る。 タ イ語 の会 話 が で き な い こ と もあ って,日 本 人 マ ネ ー ジ ャーは この 過 程 であ ま り口を 出 さ ない 。 人 事担 当者 も助 言 はす る が,最 終 決 定権 は将 来 一 緒 に仕 事 をす る現 場 マ ネ ー ジ ャーに あ る21)0
面 接 時 に まだ 工業 団地 内 の 日本 企 業 に籍 の あ る者 は採 用 され な い 。 日系企 業 連 絡 会 で参 加 企 業 ど うしは相 互 に従 業 員 を取 り合 わ ない とい う協 定 が 結 ぽ れ て い る か らで あ る。 各 日系 企 業 は従 業 員 の名 簿 を 交換 しあ い,採 用予 定 者 をそ れ と照 合 す る。 サ ソラ イ ズ に応 募 す る前 に,先 に勤 め て い る 日系 企 業 を 辞 め るのが 規 則 で あ る。 これ に違 反
して い る のが わ か れ ぽ,一 度 採 用 に な った場 合 で も取 り消 しに な る。
採 用者 の決 定 基 準 に つ い て は,人 事 担 当者 が 過 去 に作 成 した マ ニ ュア ル が あ る。 こ れ に よる と,判 断 基 準 は次 の5つ の 要 因 に分 け られ る。第1が 知 的 要 因 で あ る。 これ には,学 歴,就 業 経 験,合 理 的 判 断 力,潜 在 能 力が 含 まれ て い る。 第2に,人 格 的要 因 と して,健 康,容 姿,対 人 関係,成 熟 性,攻 撃 性 が あ る。 第3に,英 語 の 会話 能 力 が あ げ られ て い る。第4に,動 機 的 要 因 と して,誠 実 性,熱 意,自 主性 とな っ てい る。
第5に,そ の他 の要 因 と して,以 下 の6つ が あ げ られ てい る。 家 計 を助 け るた め に よ り高 い給 料 が欲 しい,他 の職 種 に挑 戦 した い,あ る いは 昇 進 した い とい った 理 由 に よ っ て工 場 を早 く辞 め る可 能 性 。親 の残 業 に対 す る抵 抗 。本 人 の残 業 に対 す る嫌 悪 。2, 3年 以 内 に海 外 の親 族 の とこ ろに 移 る可 能性 。 家 業 に参 加 す る可 能 性 。 通 勤 距 離 とそ れ に よ る遅刻 や残 業 へ の 影 響 。
こ の マ ニ ュア ルは,正 式 な 資料 と して,日 本 人 マ ネ ー ジ ャーの 指導 の もと に人 事部 が英 語 で 作成 した も ので あ る。 タ イ人 人 事 担 当 者 は これ に依 拠 して面 接 を 行 うこ とに な っ て い るが,面 接 担 当 者 に よ る実際 の運 用 は そ れ とはか な り異 な って い る。 筆 者 の 観 察 結 果 に基 づ い て,実 際 に 採 用者 が決 定 され る過 程 に お い て重 要 な要 因を 以 下 に あ
21)人 事 担 当 者 も部 門 ご との タイ 人 マ ネ ー ジ ャー も20代 後半 の女 性 で あ り,彼 ら 自身 も大 学 や 高 専 を2年 ほ ど前 に卒 業 し,サ ソ ライ ズに 入 社 した ば か りで あ る が,こ こ では 全 権 を 委 任 さ れ て い る。 マ ネ ー ジ ャーを 採 用 す る時 のみ,日 本 人 マ ネ ー ジ ャーが 採 否 決定 の 中心 とな る。
平井 北 タイの工場社会における権力 と相互行為
げ る。
第1の 知 的 要 因 の 中 では,就 業経 験 が と くに 重視 され る。 これ まで に工 業 団地 で働 い た経 験 が な い こ とは大 きな マイ ナ ス とな る。 人事 担 当者 に よれ ば,工 場 で働 いた こ とが な い と,時 間 を守 らな い し,会 社 の指 示 に 従 わ な いか らだ とい う。
学歴 に 関 して言 え ぽ,募 集 して い る職 種 に対 して 学歴 が 高 す ぎ る者 は敬 遠 され る。
学 歴 が 高 けれ ぽそ れ に 見合 った 待 遇 を 求 め る。 品 質 管理 部 の副 マ ネ ー ジ ャ ーは,日 給 制 の ワ ー カー に高 専卒 で は な く高 卒 者 を優 先 して採 用 す る理 由 と して 次 の よ うに述 べ た 。 「高専 卒 は 月給 じ ゃな い と満 足 しな いか らす ぐに辞 め て しま う。 そ れ に 口ば か り 達 者 で あ る。 高 い(sung)仕 事22)が 好 きで,雑 用 を嫌 が る。 彼 らは 『少 しの給 料 し か も ら って い な いか ら,少 し しか 仕 事 を しな い』 と考 え る。 また,高 専 卒 だ と容 易 に 他 の企 業 に 移 れ るか らす ぐに会 社 を辞 め て しま う。 高 校卒 な ら仕 事 を見 つ け るの が難
しい ので,日 給制 で も我 慢 してず っ と同 じ会社 に残 る。」
さ らに,面 接担 当者 とな るマ ネ ー ジ ャーは 自分 よ り年 齢 や 学歴 の高 い者 は 採 用 しな い。 年 上 で あ れ ぽ,自 分 の命 令 を素 直 に聞 か な い で あ ろ う し,社 会道 徳 上,失 礼 の な い よ うに 気 も使 わ な けれ ば な らな い 。学 歴 が 高 い者 は,自 分 よ り学 歴 の低 い上 司 の 命 令 に素 直 には 従 わ な い。 納 得 で きな けれ ば,反 論 す る。 そ の上,担 当 マ ネ ー ジ ャーに と って は,将 来 的 に 自己 の地 位 を 揺 るがす 脅 威 とな る。 応 募 者 の方 で も こ うい った 事 情 は 周 知 で あ る。 サ ン ラ イ ズ に は応 募 時 に 自分 の学 歴 を低 く偽 っ て採 用 され た ワー
カ ーが た くさ んい る。
第2の 人 格 的 要 因 は す べ て縁 故 関 係 に置 き換 え られ て い る。 サ ンライ ズ の 中 に親 族 や 友 人,同 村 出身 者 を 持 って い る と優 先 的 に採 用 され る23)0会 社 が 用 意 す る履 歴 書V' は サ ソ ライ ズ に勤 務 す る知 人 を記 入 す る欄 が あ る。 人 事担 当者 は面 接 の際 に この項 目 を 必 ず チ ェ ックす る し,空 欄 に な っ て いれ ば面 接 時 に も う一 度確 認 す る。 人 事担 当者 や 担 当 マ ネ ー ジ ャーの 親 族,友 人,同 村 出 身者 は特 に優 先 的 に採 用 され る。 彼 らの友 人 の親 族 も優 遇 され る。 サ ン ライ ズ が男 性 の ワ ー カーを 募 集 した 時 に は,こ の こ とが 顕 著 にあ らわ れ た。 団地 内の工 場 が 男性 ワー カ ーを募 集 す る こ とは 少 な く,募 集 時 に は応 募 者 が 殺 到 した。 こ の時 最終 的 に採 用 され た の は,マ ネ ー ジ ャ ーや フ ォア マ ンの 夫 や キ ョ ウダイ,親 族 ぼか りで あ った。40人 の 採 用 に際 し,面 接 担 当者 とな った 副 マ ネ ー ジ ャー の親 族 だ け で7人 も採 用 され た。 こ の よ うな仕 組 み は 関 係 者 の だれ もが 知 22)偉 い人,つ ま りマネージ ャーな どのす る仕事 と言 う意味。
23)結 果 として,同 じ村か ら同 じ工場 に多 く働 きに でることにな る。 村 ごとに多 くの従業員が 働いている会社 とい うのがあ る。筆者が住 み込み調査 を行 った ところはサ ンライズがそ うで あ った。