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第1章 序 論

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著者 水落  文夫

その他のタイトル Evaluation of affective states that predicts the performance of an athlete: Examination by its relationship with physiological indices of psychological stress

学位授与年度 平成29年度

学位授与番号 17104甲生工第321号

URL http://hdl.handle.net/10228/00006823

(2)

博士論文

スポーツ競技のパフォーマンスを予測する 感情状態の評価に関する研究

― 心理 的ス トレ スの 生理指 標 との関連 による 検討―

平成 29 年度

九州工業大学大学院 生命体工学研究科 生命体工学専攻

水落 文夫

指導教員

磯貝 浩久

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目 次

第 1 章 序 論

1.問題の所在・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・ 2

2.スポーツ競技 にお ける心理的な 問題 ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・ 6

1) スポーツ選手 のパフォーマ ンスを脅 かすプレッシ ャー

2) スポーツ競技 場面における 一過性の 心理的ストレ ス

3.一過性の心 理的 ストレス反応 評価の現 状と課題 ・・ ・・・・ ・・・・15

1) 心理指標 2) 生理指標

4.スポーツ領 域に おける感情状 態研究 ・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・19

1) 感情の要素説 を基礎とする 研究

2) 感情の次元説 を基礎とする 研究

5.感情状態尺度 開発 の方向性・ ・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・28

1) 先行研究のま とめ

2) 作成する 感情状態 尺度の特徴

6.研究の目的と 期待 される効果 ・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・35

7.論文の構成 ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・36

第 2 章 スポ ーツ 選手 の 感 情反 応 を 評価す る感情状態 尺度の 作成

1.目的・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・40

2.方法・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・40

1) 調査の概要 2) 倫理的配 慮

(4)

3) 尺度項目 候補 の選 択 (1) 調査対 象者

(2) 感情表 現語の収 集 (3) 調査手 続き

4) 尺度項目 候補 の絞 り込み (1) 調査対 象者

(2) 調査手 続き

5) 因子分析 による ASSSPPの因子構造の 構築 (1) 分析デ ータ

(2) 分析手 続き

3.結果と考察・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・46

1) スポーツ 選手が試 合前に感じる 感情 (1) 尺度の 固有性の 観点から

(2) 尺度の 鋭敏性の 観点から 2) 因子分析 による ASSSPPの作成

4.まとめ・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・60

第 3 章 感情 状態 尺度 「ASSSPP」の信頼性と妥当性

1.目的・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・62

2.方法・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・62

1) 調査対象 者 2) 調査手続 き 3) 信頼性の 分析 4) 妥当性の 分析

(1) 基準関連妥当 性(併存的妥 当性)

(5)

(2) 基準関連妥当 性(予測的妥 当性)

(3) 構 成 概 念 妥 当 性

3.結果と考察・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・65

1) ASSSPPの信 頼性 2) ASSSPPの妥 当性

(1) 日本語版 PANASとの関係に基 づく 基準関連妥当 性

(2) 実力発揮度 および 競技種 目差との 関係に基づく 基準関連 妥当性

(3) 共分散構造分 析に基づく構 成 概 念 妥 当 性

4.まとめ・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・73

第 4 章 心理社 会的ス ト レス課 題 による ス ポーツ選 手の感 情反応

1.目的・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・75

2.方法・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・75

1) 測定対 象者 と実 験期間 2) 実験と 測定の 手 続き (1) ストレス反 応実験

(2) TSSTTrier Social Stress Test)

3) 測定項 目 (1) ASSSPP

(2) 唾液コルチ ゾール (3) 心拍変動 3項目

4) データの 処理 5) 倫理的配 慮

3.結果と考察・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・85

1) TSST課題に お ける感情反応

(6)

2) TSST 課題に おける生理反 応 (1) 唾液コ ルチゾー ル

(2) 心拍変 動

3) 感情反 応と 生理 反応の関係

4.まとめ・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・96

第 5 章 試合前 および 試 合中の ス ポーツ 選 手の感情 反応

1.目的・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・98

2.方法・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・98

1) 測定対象 者 2) 測定項目 (1) ASSSPP

(2) 唾液コルチ ゾール (3) 心拍数

3) 試合と測 定 の手続 き 4) データの 処理

5) 倫理的配 慮

3.結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105

1) 練習試合 のストレ ス反応 とパフ ォーマン ス の関係 (1) 平均心 拍数の変 化

(2) 感情反 応と生理 反応

2) 公式試合 のストレ ス反応 とパフ ォーマン ス の関係

3) 練習 試合 との 関係 から みた 公式 試 合 に お ける 心理 的ス ト レス の パフォ ーマンスへの 関与

4.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119

(7)

第 6 章 総括

1.結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121 2.本研究の限 界と今 後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127

注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 130

文 献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 133

資 料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 148

研 究業 績リスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 153

謝 辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 155

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第 1 章 序 論

1.問 題の 所在

2.ス ポー ツ競 技 にお ける 心理 的 な問 題

1) スポー ツ選手の パフォーマン スを脅か すプレッシャ ー 2) スポー ツ競技場 面における一 過性の心 理的ストレス 3.一 過性 の心 理 的ス トレ ス反 応 評価 の現 状 と課 題

1) 心理指 標 2) 生理指 標

4.ス ポー ツ領 域 にお ける 感情 状 態研 究 1) 感情の 要素説を 基礎とする研 究 2) 感情の 次元説を 基礎とする研 究 5.感 情状 態 尺 度 開発 の方 向性

1) 先行研 究のまと め

2) 作成する 感情状態 尺度の特徴 6.研 究の 目的 と 期待 され る効 果 7.論 文の 構成

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1.問題の所在

2012年のロン ドンオ リンピックに おいて ,体操競技男子 団体 総合 で金メダル が期待された 日本の エ ース選手 は, 複数の種 目で 演技を失 敗した . 直後のイン タビューで「や っぱり オリンピック には魔物 がい る」と語り( 杉本 ,2016),地 元のイギリス 選手を応 援する会場の 雰囲気に のまれたと 述 べた .そ の選手が 演 技前に行って いる強固 なプレパフォ ーマンス ルーティンも ,想定外 のプレッシ ャーに対して 注意集中 の 効果は十分 ではなか ったと思われ る . オリ ンピック後 に選手は「魔 物は 自分 自身で作り出 している もの 」と振り 返ってい る (杉本,

2016). ど ん な 競 技 レ ベ ル の 選 手 で も , 高 め た 競 技 力 に 見 合 う パ フ ォ ー マ ンス を常に発揮す ることは できない.重 要な試合 で 自己最高記 録を達成 する ことが 難しいことは ,オ リン ピックや世界 選手権に おける自己記 録更新の 低率(村 木,

2002)からも明ら かで ある.感情の機 能を説 明する代表的 な基礎理 論の 一つで ある構成要素 理論を 提 唱した Scherer(2000)は,感情には, 認知 ,生理的制 御,動機づけ ,運動表 出,モニタリ ング(主 観感情) とい った要素 が含まれ,

これらの変化 する 構成 要素 の組合せ により幸 福や恐れとい った感情 が区別され るとした(大平,2014b).たとえば,予 期せ ぬ高い競技レ ベルの 対 戦相手 に対 処が困難と認 知的 評価 をして,心拍 数の増加 ,顔の 蒼白, 発汗 とい った生理 反 応,無力感, 筋緊張に よる かたい動 きなどの 要素が揃うと ,恐れ と いう感情経 験をしている ことにな る .感情を創 り出す重 要な脳部位は 扁桃体と 前頭眼窩野 であるが,前 頭眼窩野 は扁桃体と協 調するこ とによって, 刺激・行 動・結果の 良し悪しの関 係性を評 価し,それに基 づき行 動を制御する( 大平,2014b).心 理学の感情学 説として 圧倒的な説得 力をもつ ものはない(戸田 ,2007)ものの,

構成要素理論 は,感情 が生理反応お よび行動 反応と強く 結 びつ いて いる ことを 示唆しており ,脳はこ れらのプロセ スをモニ ターしながら ,感情 に よって行動

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を制御しよう とし てい ると考えられ る. 選手 が期待したパ フォーマ ンスの発揮 ができないと き も ,行 動を制御する ための生 理反応と感情 反応は生 起する ため , その後に感情 経験 の記 憶に基づき, 選手はパ フォーマンス 低下の要 因として 心 理的な問題を あげる よ うになる と推 測される .

日本では,1964 年の 東京オリンピ ック にお ける 選手の「あ がり」対策を 起点 に,スポーツ 競技にお ける選手の心 理的問題 が 勢力的に研 究され, 感情への 高 い関心から長 くスポー ツ心理学の 研 究テーマ として取りあ げられて いる. たと えば,「あ がり」に関 して市村(1965)は,スポーツ領域 の立場か ら自律神経緊 張,心的緊張 ,不安感 情を 関連要因 として あ げ,不安をパ フォーマ ンスの予測 因として実証 している .これを契機 に,不安 の ほかにもパ フォーマ ンスに 影響 する感情要素 が特定さ れていった ( プレッシ ャーとあがり について は次節で詳 述する.また,スポーツ 領域における 感情研究 については本章4 節で 詳述する ).

しかし,この ような感 情 研究の成果 が,スポ ーツ競技の心 理的コン ディショニ ン グ に 役 立 つ 情 報 を 提 供 し た か ど う か の 議 論 は な さ れ て い な い . た と え ば , Cerin(2003)は,ス ポーツ選手 の 競技前の 感情機能 の研 究から ,その後のパフ ォーマンスに 役立つ情 報源として不 安は不十 分であり,そ れのみに 頼ることを 回避すべきと 提言して いる.そし て,Hanin(2000)は,パフォ ーマンスに関 与する感情の 個別性と 多様性を強調 している .ポジティブ 感情( 注 1 )を高めるこ とで動作速度 や瞬発力 の向上が認め られるな ど,ポジティ ブ感情の 機能として 身体運動パフ ォーマン ス への効果も 報告され るようになっ た( レビ ューとして ,

町田,2010).こ のよ うに,スポ ーツ のパ フ ォーマンスを 規定する 感情の機能的

側面に注目し たとき , 特定の感情要 素 に限る ことなく, 個 別性と 多 様性を有す る感情に対応 した 評価 法が有効と思 われる . たとえば,感 情は快 - 不快次元 と 高活性-低活 性次元 の2 次元構 造をなし,この 2次元 の空間に す べての 感情要 素を布置する ことがで きる(たとえ ば,Russell,1980)とされる ことから ,競

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技で選手が感 じる 感情 の個別性・多 様性,お よび状況と時 間で 少し ずつ 変化す る感情状態( 注 2 )に応 じて,主要な 次元で区 分される 抽象 度の高い 感情( 注 3 )を 評価する方が ,その後 のパフォーマ ンスを予 測する ために 役に立つ 情報 になる と考えられる .し かし ,感情 の2 次元 構造 モ デルのような 強固な理 論モデル に 基づき,抽象 度の高い 感情状態を広 く評価で き,さらにス ポーツ競 技に特化し た固有性と高 い鋭敏性 を有する感情 尺度が見 当たらない. そのため , 試合前か ら試合中にか けて スポ ーツ競技 で起 こる 選手 の感情状態を ,特定の 感情要素に 限らず,包括 的に評価 し てパフォー マンスと の関係を 実証 的に検討 した研究 も みられない. スポーツ 領域の感情 研 究を進展 させ,選手の 心理的コ ンディショ ニングに役立 つ情報を 提供するため には,適 正な感情状態 尺度の開 発と,これ を用いたスポ ーツ競技 の場での実証 研究が必 要である.

前述した体操 選手のよ うに, スポー ツ競技の 試合環境では ,選手の 競技レベ ルに見合うパ フォーマ ンス発揮 (実 力発揮) を脅かす潜在 的な心理 的ストレッ

サー( 注 4 )が 様々な形 で存在する.選手の多 くが プレッシ ャー と呼 ぶような心理

的ストレッサ ー に 対し て,選手は認 知的評価 を介して感情 反応 およ び生理反応 を生起させ, 引き続き パフォーマン スに影響 する行動的な ストレス 反応を表出 する (た とえ ば, 永井 ほか ,2003;田 中・ 関矢 ,2006).選 手が 重要 な試 合で 克服しなけれ ばならな い「あがり」 は,この 強い 心理的ス トレッサ ー に曝され た状況でのパ フォーマ ンス低下とい える. こ のような競技 中に起こ る複雑な心 的現象を一過 性 の心理 的 ストレスの 問題とし てとらえれば , 感情反 応や生理反 応として生起 する 生体 内の主要なス トレス反 応系の活動を 追跡する ことで, 試 合状況におけ る 感情 状 態の変化につ いて, そ の状況に 適応 しようと する生体の ストレス反応 としての 解釈ができる ようにな ると考えられ る. これ まで,主要 な心理的スト レスモデ ルにしたがい ,競技活 動や日常の苛 立ち事に 注目して,

スポーツ選手 のストレ ス反応を評価 する尺度 の開発と実証 研究が展 開されてき

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た.しかし, スポーツ 領域のストレ ス研究動 向に おいて, パフォー マンスに影 響する一過性 の心理的 ストレスに注 目し ,感 情反応の 評価 尺度開発 および実証 を行った研究 はむしろ 稀であり,研 究成果も 限られている .

これまでに, スポーツ 競技の試合と いった 固 有性を重視し ,その 状 況で生じ る一過性の心 理的スト レス における ストレス 反応を評価す るために 開発された 感情状態尺度 はない. この ような評 価尺度の 不備の問題も あり, ス ポーツ領域 のストレス研 究では, 従前より主要 なストレ ス反応系の亢 進 を主因 とするパフ ォーマンス低 下が仮定 され ているも のの ,試 合における感 情反応 お よび自律神 経系や内分泌 系の 活動 を検証した研 究は少な い .特に試合 中の実態 は明らかで はない.感情 反応を起 点とする生理 反応とそ の後の行動反 応,およ びパフォー マンスへと続 く心理的 ストレスのプ ロセスを 探るには,本 研究で 開 発する感情 尺度が,スト レス反応 の中の感情反 応 を鋭敏 に評価できる こと ,そ の評価が 生 理指標の動態 およびパ フォーマンス と連動す ること を検証 する必要 がある .開 発した感情尺 度によ っ て評価された 実際の試 合前から試合 中の 感情 状態 が,同 時に測定され た自律神 経 系・内分泌 系の反応 ,および試合 のパフォ ーマンスと 関係すること を検証で きれば ,感情 状態が 選 手のパフォー マンス予 測 と,その 予測によるプ レーの選 択・修正 のた めに 重要 な情報 になる と思われ る .

本研究の成果 として, スポーツ領域 における 感情研究にお いて, 感 情状態を 評価する尺度 の 不備を 補い,スポー ツ競技の 重要場面であ る試合の 状況を対象 とした実証的 知見の蓄 積を推進する ことがあ げられる .ま た,選手 に対して自 己の感情状態 を評価す る方法 を提供 すること になり,メン タルトレ ーニングや ストレスマネ ジメント ,あるいは心 理的コン ディショニン グの効果 を高める こ とに貢献する と考えら れる .

本節であげた 研究の 問 題について, 先行研究 により概観し ていく.

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2.スポーツ競技における心理的 な問題

1) スポーツ 選 手のパ フ ォーマ ン スを脅 か すプレッ シャー

運動の制御や 学習を説 明する情報処 理モデル(レビュ ーとして ,山 本,2005)

によれば,人 間は内外 の環境を認知 し,環境 の中に存在す る情報を 刺激として 利用すること で行動( 反応)する た め, 刺激 -反応系は因 果関係に ある とされ る.たとえば ,スポー ツ競技におい て選手は ,その状況か ら得られ る情報によ って自動的に 生じる 認 知的評価 や推 論を繰り 返しながら, その都度 プレーを選 択・実行して いると考 えられる.そ のため , 選手が発揮す るパフォ ーマンスの 精度に対して ,知覚・ 認知機能の影 響度は高 いと考えられ る.

しかし,重要 な試合で 多くの選手は ,強い不 安や緊張に襲 われ,手 に汗をか いて心拍が高 まり,身 体がこわばっ て動作が うまくできな くなる . その結果,

ミスが多発す る. 一度 パフォーマン スが低下 すると,生理 的な覚醒 ・緊張水準 を多少下げて もパフォ ーマンスはも とのレベ ルには戻りに くい(佐 久間,1997).

しかし,コー チの 声か けをきっかけ に 心理状 態が好転し, プレーの 精 度が高ま ることもある .これら の変化が試合 の「流れ 」(レビ ューとし て, 淺井・佐川 , 2013)をつくり,勝敗 を左右するこ とになる .たとえば,陸 上競技 ハンマー投 種目のオリン ピッ ク 5 大会上位入賞 選手 の ,そのときの平 均記録は ,それら の 選手の過去の 最高記録 に比べると 約 3%減と報告されてい る(Murofushi et al., 2016). 重 要 な 試 合 で 最 高 記 録 の 達 成 が 難 し い こ と は , オ リ ン ピ ッ ク や 世 界選 手権における 自己記録 更新の低率( 村木,2002)からも明らかで あ る.その主 な原因として ,コ ンデ ィショニング の中でも 比較的不 安定 な要素( 青山,2017)

とみられてい る心理的 な問題が指摘 される.

選手の試合に おけるパ フォーマンス を低下さ せる代表的な 心理的問 題として ,

「あがり」と いったプ レッシャーに よる不適 応状態に関す る研究が ,不安など

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の主要な感情 要素との 関係から展開 されてき た .その中で,野和 田(1994)は,

「あがり」につ いて ,「潜在的な他者 の存在に よって評価の 対象とな る状況にお いて生理的変 化をとも ない,行動の 結果を予 測することか ら生じる 不安感や期 待感を含んだ 状態」と 定義した .「あが り」の特徴に関し て市村(1965)も,ス ポーツ領域の 立場から 自律神経 活動 亢進 ,心 的緊張,不安 感情をあ げており,

他者への意識 と評価, 自律神経活動 の亢進 , 心的緊張・混 乱,不安 感情,結果 の 予 測 を ,「 あ が り 」 の 概 念 を 構 成 す る 要 素 に し て い る 研 究 者 は 多 い . Baumeister(1984)は,特定の 状況にお い て高いパフォ ーマンス を発揮するこ との重要性を 高める因 子をプレッシ ャーと呼 び,プレッシ ャーによ りパフォー マンスが低下 する現象 を“choking under pressure”と呼 んだ(村 山 ほか ,2009).

最近では ,「あが り」 の訳として ,“choking under pressure”を 用いる場合が 多く(関矢 ,2016),プレッシャー となる 大 勢の人前での 発表,あ るいは 入学試 験や大試合の ときに経 験する状態( 藤原・菅 原,2010)と,不安 を 感じ息苦し くなる競技ス トレスの 状態(Wang et al.,2003)は,同じ「あがり 」の現象と して理解され ていると 考えられる . スポーツ 競技場面と人 前で話す 場面におけ る「あがり」 の自律神 経 活動亢進に ともなう 現象は,試合 直前およ び試合中と も同様の傾向 を示す( 丹羽・高柳,1989)ことも確認され ている.そこで,ス ポーツ領域の 立場から 本研究では「あがり 」を ,「ス ポーツ競 技場 面に存在する 他者評価や結 果予測な どの プレッシ ャー と呼 ばれる心理的 ストレッ サー により , 自律神経活動 亢進によ る生理反応と 心的緊張 による感情反 応を生起 した心理的 ストレス状態 であり, 選手のパフォ ーマンス を低下させる 不適応状 態」と操作 的に定義する こととし た.

この「あがり 」がプレ ーにおける動 作精度を 低下させるこ とについ て,心理 的な側面から 理論的に 説明されてい る(レ ビ ューとして ,田中 ,2014).たとえ ば,意識的処理 仮説(Conscious processing hypothesis:Masters, 1992)では,

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心理・社会的 なプレッ シャーによる 運動課題 に対する過剰 な意識的 制御,また 注意散漫仮説 (Distraction hypothesis:Eysenck, 1979;Eysenck and Calvo, 1992)では ,増強 した 不安などの運 動課題に 関係しない対 象に 注意 が配分され , 運動課題に必 要な注意 の 配分不足に よる 処理 効率の低下を 示唆して いる.そし て,このよう な状況で は, 運動の正 確性を低 下させる 動作 の縮小や 変動性の増 大(田中・関矢 ,2006),あ るいは連 続運動 および離散運 動 におけ る動作調整の 精度低下と考 えられる スキル変動性 の減少(Court et al., 2005;Higuchi et al., 2002)といった現 象が 確認されてい る.この ような動作縮 小や変動 性の増減に よるパフォー マンスの 低下は,情報 処理 プロ セス における 主に 企画 ・実行の問 題によるもの と考えら れる .

情報処理プロ セスでは 企画・実行に 先行して , 選手をとり まく内外 の 情報に 対する選択的 注意から 運動行動の選 択に至る 知覚・認知が ある.パ フォーマン ス低下におけ るプレッ シャーの影響 は,この 知覚・認知に 基づく 意 思決定にお いてもみられ る.行動 経済学の分野 で人間の 非合理的な意 思決定行 動を説明し た プ ロ ス ペ ク ト 理 論 ( レ ビ ュ ー と し て , 山 川 ・ 大 平 ,2013) を 参 考 に す る と , ゲーム要素が 主体とな るスポーツ競 技 におい て ,強いプレ ッシャー の中で心理 的ストレスを 高めた 選 手の行動は次 のような 理解となる. たとえば ,あるテニ ス選手は,自 分より 明 らかに競技レ ベルが 高 いと認識した 選手と対 戦するとき は,ミスを起 こしやす い リスクの高 いショッ トを選択 する .試合終 了が迫り,

敗戦濃厚なラ クロスの アタックは, 成功率が 低いにもかか わらず 無 謀なシュー トをしてチャ ンスを逃 す. プレッシ ャーによ る心理的スト レス状態 における主 な内分泌反応 として副 腎皮質から分 泌される コルチゾール の増加が 知られてい る が , こ の 増 加 と 危 険 な 選 択 肢 を 選 ぶ 割 合 に 相 関 が 認 め ら れ て い る ( 大 平 , 2014b).事 例としてあ げたテニス選 手や ラク ロス選手の非 合理 的な プレーの選 択段階の失敗 は,情報 処理プロセス の知覚・ 認知に基づく 意思決定 の問題と考

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えられ,プレ ッシャー による心理的 ストレス がパフォーマ ンスの低 下を促進し た現象ととら えられる .

運動制御や運 動学習を 説明するモデ ルや理論 は, 学習され 向上した 競技能力 がスポーツ競 技の場で 常に 十分に発 揮され, 高めた競技能 力から想 定される パ フォーマンス のレベル を保証するこ とを前提 としている. しかし, 多様なプレ ッシャーが存 在するス ポーツ競技に おいて, 現実には高い 確率でパ フォーマン スは低下する (たとえ ば, 村木,2002;Murofushi et al., 2016).その原因と なる「あがり 」といっ た 心理的な不 適応 状態 は,生起要因 や 構成要 素 の多くが 特定され,意 思決定 や 運動制御 に対 する影響 も 理解される ようにな ってきた . 久しくスポー ツ領域の 研究対象とな っている が,最近の研 究成果は ,これから の新たな展開 を期待さ せる. たとえ ば,この 不適応状態を 心理的ス トレスとと らえることで , パフォ ーマンスを予 測するた めの,感情反 応,生理 反応,行動 反応を包括し た スポー ツ領域 のスト レスモデ ル の構築が促 進する と 思われる.

2) スポーツ競技場面における一過性の心理的ストレス

前節で事例と してとり あげた テニス 選手やラ クロス選手に 限らず, スポーツ 選手の多くは 課題の困 難度や時間切 迫といっ たプレッシャ ー の下で プレーを行 っている.そ こでの心 理状態やプレ ーの精度 を観察すると , 同様の プレッシャ ーの下でも, 選手間で 異なるととも に個々の 選手の個体内 でも 変動 しており,

そこから法則 性をみつ けて ,一般化 された対 処を手だてす ることが 難しいよう にみえる.こ のような 競技中に起こ る複雑な 心的現象を , 一過性 の 心理的 スト レスの問題と してとら え ,感情反応 とともに 生体内の主要 なストレ ス反応系の 活動(レ ビューと して ,出村 ,1994;図 1-1を参照)を追跡す るこ とで,生 理 反応との関連 で みた 感 情状態 に対し て, 選手 のパフォーマ ンス を予 測するため の解釈が容易 になる と 考えられる.

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スポーツ競技 の試合環 境では,他者 の評価, 課題の困難さ ,報酬 と 罰,結果 の予測など, 選手の 心 理状態に働き かける プ レッシャーが 存在する . これらの プレッシャー は 心理的 ストレッサー ととらえ ることができ(田中 ,2009),スポ ーツ競技にお ける 心理 的ストレッサ ーに対し て,選手は認 知的評価 を介して感 情および生理 反応に引 き続き,パフ ォーマン スの向上ある いは低下 に影響する 行動 反応 を表 出す る ( たと えば ,永 井ほ か,2003;田 中 ・関 矢 ,2006).すな わち,スポー ツ競技 の 試合場面で, 選手は一 過性の心理的 ストレス 反応を生起 しており,そ の中の感 情反応の結果 である感 情 状態は,そ の後のパ フォーマン スに関与する ことが考 えられる .

ス ト レ ス 反 応 で は 感 情 反 応 と と も に 主 要 な ス ト レ ス 反 応 系 の 活 動 に よ り 生 理 反 応 が 生 起 す る .そ し て ,ス ト レ ス 状 態 に あ る 人 間 の 行 動 に つ い て ,生 理 反 応 を 指標 に 説 明 が 試 み ら れ て い る .生体内で活性 化 す る主要なスト レス反応 系を図 1-1に 示した.大脳 辺縁系の 視床で受けと った感情 的刺激は,低 次経路で 直接,さら

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に感覚皮質を 経由した 高次経路 の 2 系統で 扁 桃体に送られ る .扁桃 体はその感 情刺激を検出 して「良 い/悪い」や 「安全/ 危険」の評価 を行い, 対応する感 情反応や生理 反応 を起 こす 基点とな る.情報 を受けた視床 下部では ,主に 2つ のストレス反 応系を 活 性化して自律 神経系や 内分泌系を制 御する . 一過性の心 理的ストレス において ,比較的急峻 に反応す る視床下部- 交感神経 -副腎の軸

(Sympathetic-Adrenal-Medullary axis:SAM系)は,交感神経 系の活性化を 促し,最終的 には副腎 髄質のアドレ ナリン分 泌を増強する .この系 の活性化は ストレスに対 する積極 的行動につな がりやす く,怒り,恐 れにとも なう闘争・

努力,逃走・ 回避の行 動を特徴とす る .やや 遅れて緩徐に 反応する 視床下部-

下垂体-副腎 の軸(Hypothalamic-Pituitary-Adrenal axis:HPA系)は,視床 下 部 か ら 分 泌 さ れ る 副 腎 皮 質 刺 激 ホ ル モ ン 放 出 ホ ル モ ン (Corticotropin- Releasing Hormone:CRH), 下 垂 体 か ら 分 泌 さ れ る 副 腎 皮 質 刺 激 ホ ル モ ン

(Adrenocorticotropic Hormone:ACTH)と 繋ぐ液性情報 により ,最終的には 副腎皮質から 分泌され るグルココル チコイド を調節する . この系の 活性 化は不 安や抑うつを ともなう 副交感神経 系 優位の無 反応行動(いわゆ る「す くみ反応 」)

を特徴とする .コルチ ゾールは 副腎 皮質から 分泌される 主 要なグル ココルチコ イドであり,脂 質代謝 の促進や免疫 反応の抑 制など多様な 機能(Contrada and

Leventhal,2007)のほかに,HPA 系を活 性化させるス トレスに 鋭敏に反応す

る代表的なス トレスホ ルモンである .無意識 的な感情反応 の 基点 と なる扁桃体 の活動強度 とACTH は正の相関を 示す(大 平,2014b).そして,コルチゾール はネガティブ 情報への 注意を高める(井 澤,2010)など ,HPA 系 を担う情報伝 達物質の影響 による認 知や注意の機 能阻害が 報告されてい る . これ らから,ス トレスフルな 状況で生 起する感情反 応,生理 反応,行動反 応は ,そ れぞれが 独 立したもので はなく, 生体の主要な ストレス 反応系の活動 にともな い,感情反 応を起点とし て協調あ るいは牽制し ながら一 体となって機 能してい る .

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一過性の心理 的ストレ スでは,生体 で起こる ストレス反応 の システ ムを担う 物質は,脳を 含む全身 に作用する . その作用 は, 知覚・認 知プロセ スとその後 の企画・実行 のプロセ ス に影響を与 え,その 結果としてパ フォーマ ンス を低下 させる.たと えば, ス ピーチのよう な 自ら課 題に対処する よう努力 する 積極的 対処が求めら れる 一過 性の心理的 ス トレスで は ,不安や抑 うつの増 強とともに コルチゾール の分泌が 顕著に増加す るが,そ の増加の度合 と危険な 選択肢を選 ぶ割合との間 に相関が 認められる(大平 ,2014b).また,冷水に手 を 1 分間程 度浸す冷水昇 圧試験に よる 一過性の ストレス 負荷後,ある いは HPA 系活動の 指標となるコ ルチゾー ルの投与後 に ,いずれ も ギャンブル 課題を呈 示すると,

一貫してリス クを選好 する割合が高 まる(Porcelli and Delgado, 2009).心理 的ストレッサ ーを 負荷 することによ り人間の 行動が変化す る とき, 主要なスト レス反応系の システム を動かす様々 なホルモ ンの変動がみ られ, 特 に不快な感 情状態の増強 および パ フォーマンス との関連 が指摘され る HPA 系活動の指標 となるコルチ ゾールに 関する報告 は 多い.

スポーツ選手 の一過性 の心理的スト レスに関 する研究は, ストレッ サー,認 知的評価,コ ーピング ,ストレス反 応,およ びこれらの関 係を対象 に検討され ている.とり わけスト レス反応につ いては, 心理的,生理 的,ある いは行動的 指標による様 々な側面 からのアプロ ーチが可 能である.Henry(1986)は,心 理社会的脅威 の認知に よって生起す る生体内 のストレス反 応が,時 間とともに 反応様相が変 化するこ とを観察した(図 1-2の左から右へ の時相 ).心理的ス ト レッサーによ るストレ ス反応として 不快な感 情反応は,時 間ととも に怒り,不 安,抑うつと 変化しな がら,ストレ ス反応の 慢性化に移行 していく .それぞれ に対応して活 動する辺 縁系の部位も ,扁桃体 中心核,扁桃 体基底核 ,海馬・中 隔と変化し, それらに 行動反応も, 闘争・努 力,逃走・回 避,制御 不能・無力 感と対応する .そ れぞ れに関連する 神経内分 泌パターンは ,ノ ルア ドレナリン,

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アドレナリン ,コルチ ゾールの特徴 的な反応 によって区別 される .

すなわち ,競技中 のス トレスフルな 状況で焦 燥や怒りが対 応してい るときは , SAM系が活性化 して 交感神経系の 賦活によ り血圧,心 拍が上昇 し ,ノルアド レ ナリン,テス トステロ ンの分泌が増 強する . しかし,競技 によるス トレスフル な状況が続い てコント ロール不能に なり,不 安や抑うつが 表出する ようになる と,次第に HPA 系が 活性化して,CRH,ACTH,コルチゾール な どの分泌が増 強するように なる .特 に,パフォー マンスに 有害となるこ とが多い ネガティブ な感情の要素 は,それ ぞれの感情要 素で特定 の行動反応や 生理反応 と明確な関 係をもつ.ポ ジティブ 感情が特定の 行動と結 びつかないこ とに対し ,ネガティ ブ感情は,攻 撃行動や 逃避行動など の特定の 行動との関係 が明確で ある(阿久 津ほか,2008;鈴木 ,2005).

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スポーツ選手 は重要な 大会や試合 の 前,さら に大会中や試 合中にお いても , 心理的ストレ ッサーと なりうる様々 な刺激を 受ける.この パフォー マンスに影 響する刺激は 一時点の ものだけでな く,内容 と強度を変化 させ なが ら経時的に 負荷されるも のである . 比較的高活 性の感情 とされる 情動 は, 秒単 位の短時間 で持続するも ので,分 単位,時間単 位で長時 間持続したと いう印象 は,連続し て発生する 複数の 情 動 のエピソー ドである と 示唆される (Ekman,1992).そ のため,一時 点の感情 を特定の感情 要素に限 って評価して も,その 後のパフォ ーマンスを予 測するこ とは難しいと 思われる .したがって , 複数の 感情要素を 含んだ抽象度 の高い感 情領域の感情 状態を評 価すること, さらに 一 過性の心理 的ストレスと 想定 して 生理的なスト レス指標 との関係を と らえるこ とで,パフ ォーマンスの 良否につ いての予測精 度を高め ることができ ると思わ れる .

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3.一過性の心理的ストレス反応評価の現状と課題

1) 心理指標

心理的なスト レス反応 の評価は, 様 々な活動 環境における 心理的不 適応を評 価するために ,主要な 心理的ストレ スモデル を基礎として 開発され た自記式の 質 問 紙 を 用 い る こ と が 多 い . た と え ば ,Lasarus and Folkman(1984) の transactional model(ラザルス・フォ ルクマ ン,1996)は,ストレ ッサーとス トレス反応を 一方向的 な因果関係と して捉え るだけでなく , ストレ ッサー,認 知的評価,一 過性の ス トレス反応, コーピン グ, そして認 知的評価 と,ダイナ ミックに動く 過程 を「 ストレス」と 考え,そ の先に慢性的 ストレス としての 心 理的不適応状 態 あるい は不均衡状態 (スポー ツ領域であれ ば,バー ンアウト,

ドロップアウ ト,薬物 依存,摂食障 害,オー バートレーニ ング,負 傷頻発,イ ップスなど) が 想定 さ れている.そ して, こ のモデルは, ストレス 反応の表出 に対して個人 の認知的 評価とコーピ ング方略 が重視され て おり (上 里・三浦,

2002), そ れ ぞ れ の 要 素 間 の 関 係 性 を 検 討 す る た め の , 不 適 応 状 態 の 軽 減 に限 らず積極的な 適応状態 を導く理論的 枠組み と して認識され ている .煙山(2013)

は,スポーツ 選手用の ストレス反応 尺度開発 に際し,スト レス反応 は,ストレ スを起因とし た不健康 状態を表す直 接的な評 価基準である とともに ,ストレス マネジメント 等の対処 的・予防的介 入方法を 探る指標であ るとして ,ストレス 反応の評価に 対する基 本的な方向性 を示して いる .

このような方 向性から 作成されたス トレス反 応尺度として,わが国 では,「心 理的ストレス 反応尺度(新名 ほか,1990)」「 中学生用スト レス反応 尺度(岡安 ほか,1992)」「大学 生 用ストレス自 己評価 尺 度(尾関,1993)」「小 学生用スト レス反応尺度 (嶋田 ほ か,1994)」「心 理的 ストレス反応 尺度 SRS-18(鈴木ほ か,1997)」「 高校運動 部員用ストレ ス反応尺 度(渋倉・小泉,1999)」「看護婦

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用ストレス反 応尺度( 山口ほか,2001)」「職 場ストレスス ケール改 訂版(小杉 ほか ,2004)」「スポ ーツ 選手 用ス トレ ス反 応尺 度( 煙山 ,2013)」な ど, 主に 学校ストレス や職場ス トレスを対象 に開発が 進められてい る .岡安 ほか(1992)

は,日常生活 における ストレス反応 を,包括 的にとらえる ために身 体的反応,

情動的反応 ,認知・行 動的反応 の 3つの側 面 に区分してい る .この 中の情動的 反応に関して は,いず れの尺度も「抑 うつ」「不安」「怒り 」「不機 嫌」といった 共通する因子 が見出さ れている .ま た, スポ ーツ選手を対 象に日常 ・競技 活動 で経験する固 有のスト レッサーを想 定して作 成された渋倉・小泉(1999)や煙 山(2013)の尺度で も,同様に抑う つ,不 安,怒り ,不機嫌 な ど の感情要素が 因子として抽 出されて いる .

しかし,いず れにして もこれらの尺 度は,基 礎とする理論 ・ モデル の文脈か ら,日常的に 負荷され る苛立ち事を ストレス の対象として おり,個 々のストレ ッサーの負荷 強度は比 較的弱 く,緩 やかに変 動するストレ ス反応を 評価 して,

現在および将 来の心理 的不適応状態 を予測 す るものである .また, 当然ではあ るが,評価さ れるスト レス反応の強 度はネガ ティブな方向 であり, 情動的反応 では不快感情 の評価を 中心とする . これに対 して, 本研究 において 評価する ス トレス反応は ,スポー ツ競技の試合 を 一過性 の 心理的スト レス 事態 と想定し,

そのときのパ フォーマ ンス に直接影 響する強 いストレス負 荷に対す る 急峻な反 応を評価する ものであ る .これまで に,スポ ーツ競技 の試 合に特化 した固有性 と高い鋭敏性 を重視し ,そのときの ストレス 反応を 評価す るために 開発された 心理尺度は見 当たらな い .

さらに,本研 究によっ て作成 される 尺度は, 表出する感情 の起源を 主要なス トレス反応系 の動態 に 求めている も のの, そ の後のパフォ ーマンス を予測する ための機能も 期待して いる .大竹(2014)は,ポジティブ感 情の機能 について,

特定の強い行 動を引き 起こすという より,全 体として落ち 着いた安 堵感のある

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状態や行動傾 向と結び つくものと推 測してい る .そして, ポジティ ブ感情には 心理的自立や 学習意欲 を高める(水 落ほか,2017)だけでなく ,ネ ガティブ感 情によって引 き起こさ れた生理反応 を 素早く 元に戻す効果(Fredrickson et al., 2000)や ,ネガテ ィブ 感情に よるバ ーンアウ ト傾向の深刻 化を 抑制 する効果(田 中・水落,2013)も推 測されている .このよ うに,ポジテ ィブ感情 にはネガテ ィブ感情の効 果を 減弱 させる 機能が あり,ス トレス反応と して感情 反応を評価 するのであれ ば,両者 を包括的に評 価 できる 尺度の開発が 必要であ る .

2) 生理指標

試合前から試 合中にか けての運動ス トレスに ついては,心 拍変動な どの自律 神経機能,お よびスト レスホルモン などの内 分泌機能を評 価した体 力科学や身 体的コンディ ショニン グの方面から 多くの知 見が蓄積され ている .これに対し , 試合における 心理的ス トレスを評価 するため に生理 的ある いは 生化 学的な指標 を採用した研 究 が注目 されるように なったも のの,知見の 蓄積は 十 分とはいえ ない.そのほ とんどが 海外での報告 である. 唾液中のスト レスホル モンである コルチゾール であれば ,柔道選手や サッカー 選手を対象に ,ベース ラインおよ び試合前後を 定量し, その変化と不 安,自信 ,試合への期 待との関 係などが検 討 さ れ , 概 ね 試 合 前 の コ ル チ ゾ ー ル 値 の 増 加 が 認 め ら れ て い る ( た と え ば , Salvador et al., 2003;Edwards et al., 2006;Haneishi et al., 2007;Alix-Sy et al., 2008).ス ポー ツ領域の ストレス 研究 では,健 康運動と の関 連で様々な 心理学的理論 やモデル が援用され, 生理生化 学的な指標を 併用した 研究も広く 展開されてい る.しか し,試合とい う競技場 面で起こる一 過性の心 理的ストレ スに注目し, 感情反応 に限らず自律 神経系お よび内分泌系 の機能変 化を実証的 に検討したも のは少な く,特に試合 中の変化 に関する実態 は明らか では ない.

最近では,様々な 研究 領域で,HPA 系と SAM系の 2つのスト レ ス反応系か

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ら,対応する 生理生化 学的指標を用 いて評価 するようにな った.ス ポーツ選手 の心理的なス トレス反 応を対象とし た場合, 非侵襲的で頻 回の採取 が可能な唾 液に含まれる ストレス ホルモンの定 量 と,心 電図 RR間 隔(R-R Interval:RRI)

の時系列デー タをもと に,スペ クトル分 析(spectrum analysis)やローレンツ プロット(Lorenz Plot:LP)法を用い て交感 神経系と副交 感神経系 の 活性を独 立して評価す る方法が ,その高い妥 当性と安 全性からスト レス 反応 の指標とし て採用されて いる.と りわけ,唾液 コルチゾ ールは暗算, 騒音,ス ピーチ,試 験,恐怖映画 のような 一過性の心理 ・社会的 ストレスに対 し て,一 時的に増加 することが知 られてお り(レビュー として,野村 ほか,2009),HPA系の動態 を推測できる 短期的な 評価指標とし て信頼さ れている.た とえば, スピーチと 暗算で構成さ れる心理・社会的ストレ ス課題 である TSST(Trier Social Stress Test)の負 荷(Kirschbaum et al., 1993),あるい は精神 作業 中の 騒音の 負荷

(三木・須藤,1999)によるストレ ス反応増 強に対し,ネ ガティブ 感情と唾液 コルチゾール の分泌亢 進といった HPA 系の 影響力の強さ が指摘さ れている.

また,スポー ツ競技場 面と人前で話 す場面に おける「あが り」の自 律神経現象 は,試合直前 および試 合中とも同様 の傾向を 示す(丹羽・高 柳,1989)ことも 確認されてい る.した がって,試合 前や試合 中に 心理的ス トレッサ ーが負荷さ れ,心理的ス トレスの 増強が生じた ときには ,人前でのス ピーチの ように心的 混乱や,主 に HPA 系 活動亢進の行 動特徴で ある「すく み」の 状態 が観察 され,

そのときには ネガティ ブ感情の増強 ,唾液コ ルチゾールの 分泌亢進 が推測され る.このよう に,HPA 系活動亢進を 主因とす る選手のパフ ォーマン ス低下が仮 定されるが, 実際の ス ポーツ競技場 面 で確認 した研究成果 はほとん どみられな い.

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4.スポーツ領域における感情状態研究

感情を 厳密に定 義す ることは難し く,心理 学において一 般に認め られた標準 的な感情の定 義という ものは存在し ない(大 平,2014a).感 情研究 が進んだ現 在でも,この 状況は続 いている.こ こでは, 感情の機能を 解明する ための基礎 理論として提 示された ,基本感情理 論に基づ く感情の要素 説と感情 次元理論に 基づく感情の 次元説を 取りあげ,2 つの側面 からスポーツ 領域にお ける感情研 究を概観する .

1) 感 情の 要素 説を 基礎 とす る 研 究

感情研究の成 果として ,感情が人の 行動を規 定する強い機 能を有す ることを 明らかにした .そのこ とはスポーツ 領域でも 同様であり, たとえば 試合前の感 情状態と試合 における 選手のパフォ ーマンス の関係性は, 動機づけ 研究やスト レス研究など から関心 を集めながら ,久しく 主要な研究テ ーマとな っている . たとえば,感 情状態が スポーツ・パ フォーマ ンスを規定す ることの 心理学的理 論や神経生理 学的メカ ニズムが少し ずつ明ら かにされる前 から,す でに選手や コーチは試合 前やプレ ー前の感情状 態をコン トロールする 心理的コ ンディショ ニングの重要 性を認識 してい た.

スポーツ・パフォー マ ンスに影響す る感情研 究の初期の関 心は ,「 不安」など の特定の感情 要素に向 けられた .特 に不安研 究は欧米を中 心に発展 し,不安モ デルの構築と 実証が盛 んに進められ た .Martens et al.(1980)は,一般化仮 説である Spielberger(1975)の状態-特性 不安モデルを ,ス ポー ツ競技に特化 させるために 改編した スポーツ競技 不安モデ ルを作成し, このモデ ルに基づき 競技状態不安 尺度(Competitive State Anxiety Inventory:CSAI)を開発した . この競技不安 とパフォ ーマンスとの 関係は, 不安を認知的 不安と身 体的不安に

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分ける多次元 不安理論 によって説明 されてお り, 失敗に対 して否定 的な心配を 反 映 す る 認 知 的 不 安 の パ フ ォ ー マ ン ス へ の 負 の 影 響 が 確 認 さ れ て い る

(Martens et al., 1990).わが国 でも,多 々 納(1995)が,Martens et al.(1980) の諸理論を再 検討して 新たな競技不 安モデル を提唱し た. 多々納の 仮説モデル では,内外の 刺激に対 する認知的評 価を介し て喚起された 抑うつや 不安などの 主観的感情が ,競技パ フォーマンス の規定要 因になること を示唆し ている .ま た,佐久間(1997)は ,競技不安反 応の発生 過程に関する モデルを 提示し ,生 理的覚醒を契 機にした 自律神経系反 応 と,認 知的解釈 を介 した 不安 感情 および 不安行動のパ ターンの 違いが,個々 の競技不 安反応として の生理的 ,心理的,

行動的変化と なっ て表 出する ことを 説明した(図 1-3).そ して,橋本・徳永(1985) は,Spielberger(1975)のモデル に基づき ,試合前 の状態不 安を 測定する スポ ーツ状態不安 診断検査 (State Anxiety Inventory for Sport:SAIS)を開発し た.このよう な経緯を 起点として, 試合前の 自己評定によ る状態不 安の変化と

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試合のパフォ ーマンス の関係性に関 する実証 知見が,様々 な競技種 目を対象に 集積され,概 ね試合が 近づくと状態 不安は上 昇し,競技パ フォーマ ンスと負の 相関関係を示 すことが 明らかにされ ている( たとえば,Mayers et al., 1979;

橋本・徳永,1985;徳永ほか,1991;Landers and Boutcher, 1998;大嶽ほか,

2002;山田・中 島 ,2011).

一方で,メン タルトレ ーニングや心 理的コン ディショニン グの観点 から,選 手のパフォー マンスを 左右する試合 前の心理 状態を,主に 多因子構 造の心理尺 度でとらえる 試みが行 われている . たとえば ,スポーツ選 手の試合 前の心理状 態を測定する 尺度とし て McNair et al.(1971)が開発し たPOMS(Profile of Mood States)の日本語版(横山 ほか,1990)がよく利用さ れる .丸山(2013)

は,オリンピ ック選手 のオリンピッ クにおけ る試合前の心 理的コン ディション を,POMS による感情 状態の自己評 定によっ て測定し ,試合前 の良 好なコンデ ィションとパ フォーマ ンスの関係を 推測して いる .しかし ,POMS はもともと , 神経症診断を 目的に作 成されており ,尺度を 構成する 6 因子(新版 の POMS-2 は7 因子 )は消 極的感 情因子が多く ,必 ずし もスポーツ選 手に必要 な心理状態 を診断してい るとはい えないという 指摘(徳 永 ,1998)がある .不 安尺度も同 様であったが ,広く感 情状態を評価 するとき ,一般的な普 及型心理 尺度では,

スポーツ競技 で起こる 大きな変化や 交錯する 感情状態を捉 えること が難しいと 考えられてい る . 多く の研究者は, スポーツ 競技特有の行 動に相応 しい反応性 を有する感情 尺度の開 発が必要であ ることを 認識している .これら の指摘を受 けて,徳永(1998) は「試合前の 心理状態 診断検査(Diagnostic Inventory of Psychological State Before Competition:DIPS-B.1)」を開 発し, スポーツ選 手の試合前の 心理状態 が試合中の心 理状態を 介して 実力発 揮度に影 響すること を示した(徳永 ほか ,1999).この尺 度を構 成する因子の 中には,不安,落ち着 き,緊張とい った感情 要素を自己評 定するも のが含まれて いる .そ の試合前の

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因子得点と競 技成績と の関係性も報 告されて いる .また, 同様の意 図で,スポ ーツ選手用に 開発され た猪俣 ほか(1996)の「心理的コ ンディシ ョ ンインベン トリー(Psychological Condition Inventory:PCI)を用 いて,坂中 ほか(2008)

は,バレーボ ール選手 の試合前の心 理状態を 追跡測定した .その結 果,試合前 の活気,不安 , 情緒的 安定,疲労感 などの感 情要素と指導 者評価に よるパフォ ーマンスとの 関係を推 測している .

これら一連の 不安状態 や感情状態の 研究によ り,試合前お よび試合 中におい て,ネガティ ブあるい は不快の領域 に布置さ れる感情要素 が増強す ると,試合 のパフォーマ ンスは低 下し,ポジテ ィブある いは快の領域 に布置さ れる感情要 素が増強する と,パフ ォーマンスは 向上する という大まか な因果関 係が確認さ れている.主 に感情要 素を対象とし た一連の 感情研究によ り,不安 はパフォー マンスの強力 な予測因 として実証さ れたが, そのほかにも 影響する 感情要素 が 認められてい る . 最近 では,ポジテ ィブ心理 学の隆盛とと もに ,ポ ジティブ感 情の役割が注 目されて いる .町田(2010)は ,ポジティブ 感情研究 をレビュー し,その認知 ・対人関 係・身体運動 に対する 影響について ,創造性 を高め,注 意の幅を広げ ,課題遂 行への柔軟性 を高め, 素早い判断を 可能にす ると示唆し ている.さら に, ポジ ティブ感情が パフォー マンスに好影 響を与え ること も推 測している. このよう に 行動を規定 する 感情 の多様性を考 慮すれば ,特定の感 情要素に限ら ず,スポ ーツ競技特有 の行動で 起こる感情状 態を包括 的にとらえ ることが必要 である .

2) 感情の次元説を基礎とする研究

Wundt(1910)が感情 の 3 方向説 を提唱し て 以来,感情構 造が 2次 元あるい は3 次元の 空間構造 を 成し,すべて の感情要 素はその空間 内に布置 されるとい う次元説の視 座から ,多くの感情研 究が展開 されている .とり わけ,「快-不 快」

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次元に,「覚醒 -睡眠 」「関与- 不関与 」「 活 性-不活性 」とい った 次元を加えた 感情の 2次 元構造モ デ ルは,感情体験 の多く がこれら 2つの感情 次 元で説明す ることができ(Larsen and Diener,1992),感 情状態を理解 すること や評価する ことが容易で ある こと から,感情研 究をリー ドするように 知見が蓄 積されてい る.そして, これら の 2 軸で形 成される 直交座標空間 (2 次元 空間)に布置 さ れる感情要素 は,交点 からのベクト ルの方向 と距離によっ て特徴づ けられ,こ れにより他の 感情要素 との関係性も 知ること ができる .

この2 次元構造 および この構造を基 礎とする 円環で説明す る代表的 な感情モ デルは,それ ぞれを支 える理論の違 いから次 元の呼称は異 なるもの の,概して

「快-不快」 の誘引性 次元と「活性 -不 活性 」などの覚醒 次元の組 み合わせと し て 定 義 づ け ら れ て い る ( 菊 谷 ほ か ,1998). た と え ば ,Larsen and Diener

(1992)は,「快 -不 快」次元と「活性 -不 活性」次元で構 造化し たモデルを提 唱し,この直 交軸を 45°回転させた 領域に「 快の活性 」「快の 不活 性」「不 快の

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活性」「 不快の不 活性 」を設けて合計 8 つ の感情領域を 設定した (図 1-4).こ の区分は ,自己報 告に よる感情体験 を扱う研 究において有 用であり(菊谷 ほ か,

1998), そ の こ と は , ス ポ ー ツ 選 手 が 体 験 す る 競 技 状 況 を 対 象 と し た 研 究 でも 同様と考えら れる .

これまで に 2 次元構 造 の感情モデル は様々に 提案されてい る .研究 者の多く はこれらの構 造を統合 することはそ れほど難 しくはなく, 次元間 で 45°回転さ せることで同 一の 2 次元空間内に 配置でき ると仮定して いる(45°回転仮説).

感 情 状 態 を 扱 っ た 代 表 的 な 4 つ の 2 次 元 構 造 を 基 礎 と す る 感 情 モ デ ル

(Russell’s circumplex, 1980; Watson and Tellegen’s positive and negative affect, 1985; Thayer’s tense and energetic arousal, 1989; Larsen and Diener’s 8 combinations of pleasantness and activation, 1992)を統合する試 みを実証的に 行っ た Yik et al.(1999)は,45°回転仮説の修 正版 モデルを 提唱 した.そして,快と活 性の 2次元 空間に 2 軸 の双極とな る 4 つの 変 数が,互い

に45°の倍数パターン で構成される ことを示 した .

ス ポ ー ツ ・ パ フ ォ ー マ ン ス に 影 響 す る 情 動 の 機 能 に 焦 点 を あ て た Hanin

(2000)の IZOF(Individual Zones of Optimal Functioning)理論では,そ の特徴的な概 念として 個別性と広範 な情動の 関与を強調し ている . 最適なパフ ォーマンス状 態を導く 感情は,選手 それぞれ 個別の様相を 示すもの であり,否 定的情動に限 らず肯定 的情動を含め た広範な 情動要素が関 与すると 考えられる

(レビューと して,蓑 内 ,2005).した がっ て,理論的 に裏づけ ら れた感情領域 に対応した抽 象度の高 い感情状態の 評価を可 能にする感情 の2 次元 構造 モデル は,スポーツ 選手のパ フォーマンス に影響す る感情状態を 捉えると きに有用 で あり,スポー ツ行動を 規定する 広範 な感情要 素を包括する 感情尺度 の開発を促 進すると考え られる . そのため,Watson and Tellegen(1985)の直交 2 次元 構造モデルに 基づき作 成され た日本 語版PANAS(Japanese version of Positive

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and Negative Affect Schedule:佐藤・安 田 ,2001)は,高い 信頼性と妥当 性 からスポーツ 領域でも 広く活用され ,多くの 研究成果が得 られてい る .この原 版である PANAS(Watson et al., 1988)は,世界各国の言 語に翻訳 され,有用 な感情評価尺 度として 信頼されてい る.しか し,その理論 的文脈か ら,すべて の尺度項目は ,快 と高 活性(ポ ジティブ 感情 ,Positive Affect:PA),不快と高 活性(ネガテ ィブ感情 ,Negative Affect:NA)を組み合わ せてお り,低活性状 態とみなされ る「疲労 」や「リラッ クス」と いった評定項 目は含ま れていない

(Ekkekakis, 2013).本研究の 予備調査( 水落,2015)として ,大学生ス ポ ーツ選手 267 名に,最 近の試合前や プレー前 という競技状 況での感 情状態を日

本語版 PANAS により評定させ,各 尺度項目 得点とその試 合の主観 的実力 発揮

度の相関関係 を分析し た .その結果 ,NA 因 子の項目であ る「 怯え た 」「ビ クビ

Mean SD r p

実力発揮度(%) 65.1 26.9

誇らしい 3.54 1.42 .356 <.001

強気な 4.30 1.37 .339 <.001

活気のある 4.32 1.27 .321 <.001 気合の入った 5.03 1.05 .316 <.001

熱狂した 4.04 1.44 .291 <.001

わくわくした 4.63 1.34 .219 <.001

機敏な 3.91 1.15 .167 <.01

きっぱりとした 3.25 1.24 .157 <.05

恥じた 1.70 1.20 -.297 <.001

うろたえた 2.04 1.21 -.273 <.001

苛立った 1.81 1.25 -.270 <.001

苦悩した 2.36 1.45 -.262 <.001

心配な 3.73 1.48 -.163 <.01

怯えた 2.09 1.26 -.113 n.s.

ビクビクした 2.38 1.42 -.053 n.s.

ぴりぴりした 3.25 1.52 .045 n.s.

PA

NA

表1-1 試合前/プレー前の感情状態と実力発揮度の相関関係

(「日本語版PANAS」による評定)

(n=267) 実力発揮度

との相関関係

(33)

26

クした」「ぴりぴ りし た」の 3項 目は,有 意 な相関関係が 認められ なかった( 表 1-1).その他 にも 関係 性が弱 いと評 価さ れた 項目が 両因子 にい くつ か含ま れ , 尺度項目とし て採用さ れている感情 表現語が 選手の 試合前 の感情体 験と乖離し ているか,コ ンディシ ョンのバロメ ーターと して活用しな い もの が 含まれてい るようである .日本語 版 PANAS は,スポー ツ競技特有の 行動で喚 起される感 情状態を想定 して作成 されていない .そのた め,スポーツ ・パフォ ーマンスを 予測する感情 尺度とし て用いるには ,いくつ かの問題点が 指摘され ,スポーツ 競技特有の行 動に相応 しい反応性を 有する感 情尺度の開発 が期待さ れている .

運動・スポー ツ領域に おいて 2 次 元構造モ デ ルを基礎とす る感情尺 度が開発 されている .荒井 ほか(2003)は,運 動心理 学の立場から ,Larsen and Diener

(1992)のモデ ルに基 づき「一過 性運動研 究 に用いる感情 尺度(Waseda Affect Scale of Exercise and Durable Activity:WASEDA)」を開 発し ,エ ルゴメータ 運動後に否定 的感情の 低下と高揚感 の増強, ウォーキング による否 定的感情の 低下と落ち着 き感の増 強をとらえて いる .荒 井ほか(2003)は,WASEDA の 開発に際し,感情 尺度 が備えるべき 条件とし て Dishman(1992)の指摘を参考 に「敏感 」と「固有 」を あげた .そして ,WASEDA は感情状 態を従 属変数とし,

健康運動とい う刺激の 変化に対して 敏感に固 有に反応する 尺度とい える .ま た,

坂入ほか(2003)は,Russell(1980)の双 極二次元空間 モデル に 基づいて ,気 分の変動を頻 回に測定 できる二次元 気分尺度 (Two-dimensional Mood Scale:

TDMS)を開発し た .この TDMS は,その 後に改良と標 準化が進 められ,様々

な運動・スポ ーツ場面 の包括的な感 情状態を 追跡するため の信頼性 と妥当性が 保証されてい る . もと もと一般的場 面や様々 な運動・スポ ーツ場面 での利用を 想定している ため ,む しろ汎用性を 視野に入 れた尺度とい える .以 上 2 つの感 情尺度は,い ずれも測 定の簡便性の 点で優れ ており,試合 前や試合 中における 今の感情状態 を測定す ることに有利 である . しかし,スポ ーツ競技 の試合前や

(34)

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プレー前とい う特定状 況を想定し た 固有性と ,その状況で 生起する であろう強 い情動状態の 変化 に対 応する鋭敏性 の点で, その後のパフ ォーマン スを適正に 予測するため の 性能は 不明である.

田中・関矢(2007)も 指摘するよう に,スポ ーツ選手の競 技中の自 己評定に よる感情状態 とパフォ ーマンスを評 価した実 証報告は極め て少ない .国内で は,

ゴルフ競技を 対象に日 本語版 PANAS を用いた報告(田 中・関矢 ,2006)と,

サッカー競技 のハーフ タイムに POMS を用いた報告(大 嶽ら ,2002)の 2 例 のみと思われ る . 前者 では,大学ゴ ルフ競技 公式戦におい て,試合 直前,試合 中,試合後の 選手のネ ガティブ感情 およびポ ジティブ感情 と実力発 揮度の間に 相関関係を認 めている .このように ,今ここ で感じる感情 状態とそ の変化が,

選手のパフォ ーマンス 予測やプレー の選択・ 修正に重要な 情報とな っているに もかかわらず ,心理尺 度による感情 状態の測 定による実証 研究は 遅 れている . この問題の障 害には, 試合前のコン ディショ ニングや試合 中のプレ ーの合間に 質問紙で測定 すること の困難や,測 定による パフォーマン スへの悪 影響の危惧 があることは ,当然の こととして見 逃せな い .しかし,評 価資源と なる感情尺 度の開発が遅 れている という研究者 側の 原因 も考えられる .

(35)

28

5.感情状態尺度開発の方向性

1) 先 行 研究のまとめ

特定の感情要 素に注目 した感情研究 の隆盛に より,たとえ ば状態- 特性不安 モデルや多次 元不安理 論が提唱され , その後 の広範な不安 研究によ り,不安は 選手の運動パ フォーマ ンスに 影響す る予測因 として認識さ れている .しかし , Cerin(2003)は,ス ポーツ 選手が 競技前に 感じる 感情の 機能 を 研 究し,その 後 のパフォーマ ンスに役 立つ情報 源と して不安 は不十分であ り,それ のみに頼る ことを回避す べきと 提 言している .そし て,IZOF理論を提唱し た Hanin(2000) は,パフォー マンスに 関与する感情 の 個人差 に基づく 個別 性と その 多様性を強 調している. 加えて , 動作速度や瞬 発力の向 上 など,ポジ ティブ感 情のパフォ ーマンスに対 する正の 影響力も指摘 される . すなわち,ス ポーツ行 動を規定す る感情の様々 な機能 を 考慮すれば , スポーツ 競技の試合前 や試合中 の感情状態 から,そ の後のパ フォ ーマンスを予 測するた めには,特定の感 情要 素に限らず,

広範な感情要 素を対象 とした 感情状 態の評価 が必要と考え られる .したがって , 快と活性の 2次元構造 を基礎として 理論的に 裏づけられた 感情領域 に 対応した 抽象度の高い 感情の評 価を可能にす る 感情 の 2次元構 造モデル,およびこれを 基礎とする感 情円環モ デルは, 選手 のパフォ ーマンスに影 響する感 情状態を捉 えるときに有 用である .

最近では,日 本語版 PANASなどの感情の 2 次元構造モデル に依 拠した感情 尺度を用いて 選手の 感 情状態を評価 した研究 もみられる. また,運 動心理学の 立場から感情 の 2次 元 構造 モデルに 依拠した 感情尺度も開 発されて いる.しか し,これらの 尺度は , もともと一般 的場面や 健康運動での 利用を想 定している ため,むしろ 汎用性を 視野に入れた 尺度であ り,スポーツ 競技特有 の試合前や 試合中に生起 し変化す る強い感情状 態という 特定状況を想 定してい ない.田 中・

参照

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