条件付き極値問題の理論とその応用
Theory of conditional extremum problems and its applications
関数方程式研究室 BV17042 関口 旭 指導教員: 竹内 慎吾 教授
1 はじめに
ある関数g(x, y)に対して変数x, y がg(x, y) = 0 と なる条件をみたしながら動くとき,関数f(x, y)の極値を 求める問題を条件付き極値問題という. この問題の解法を 深く知るため,その理論を主に文献[1]を参考に研究する.
2 2変数関数の条件付き極値問題
次のLagrangeの未定乗数法は, 条件付き極値問題にお
いて重要な定理である. この定理は勾配や等高線などの概 念を用いて考えると,直観的な興味深い解釈が得られる. 定理. (Lagrangeの未定乗数法)
関数f(x, y), g(x, y)は C1 級,Γ := {(x, y)|g(x, y) = 0} とする. このとき, 集合 Γ 上に制限して考えて f が (a, b) で 極 値 を 取 り, さ ら に gx(a, b) ̸= 0 ま た は gy(a, b)̸= 0であるならば,ある定数 λが存在して
{fx(a, b)−λgx(a, b) = 0 fy(a, b)−λgy(a, b) = 0
が成り立つ. このλをLagrangeの未定乗数という.
Lagrangeの未定乗数法の幾何学的解釈
関数 f(x, y) の gradf(a, b) := t(fx(a, b), fy(a, b)) は f の(a, b)における勾配という. 次に,ベクトル t(e1, e2) を単位ベクトルとすると, tの関数f(a+te1, b+te2)の t= 0 における微分係数 e1fx(a, b) +e2fy(a, b)は, 「点 (a, b)における f の(e1, e2)方向の方向微分」といわれ
る. Lagrangeの未定乗数法の仮定をみたしていれば, 陰
関数定理より, 極値を取る点 (a, b)での Γ 上の接線方向 が分かり, それにより方向微分を求めると, 「f の Γ 上 の点 (a, b) での接線方向の方向微分が 0」 となる. 実
はこれはLagrangeの未定乗数法の結論である「勾配が平
行」(図,左)と同値である. また,C1 級関数は点(a, b)で grad(a, b) ̸= (0,0) ならばの勾配と等高線は直交するの で, 極値を取る点 (a, b) での f(x, y)−f(a, b) = 0 という等高線と, g(x, y) = 0 という等高線が点(a, b) で接することも分かる(図,右). 図は共にf(x, y) =x2+ y2,g(x, y) = 2x2−3xy+y2−1に対するグラフである.
極値を取る点(−1,−1)で のf(x, y), g(x, y)の勾配
f(x, y) = f(a, b)の等高 線とg(x, y) = 0の等高線
3 N 変数関数の条件付き極値問題
条件付き極値問題はN 変数関数について一般化される. 逆関数定理を考え, それを用いて陰関数定理が示される. 定理. (逆関数定理)
開集合 U ⊂ RN で, f : U → RN は U 上C1 級, x0 ∈ U かつ J f(x0) ̸= 0 とすると x0 の開近傍 V と f(x0)の開近傍 W で次の性質をみたすものが存在する.
(1) f :U →V への制限f|V は1対1でf(V) =W. (2) f|V の逆関数g:W →V はW 上C1級で,y∈W
に対しDg(y) = [(Df)(g(y))]−1 (= (Df)(g(y))の 逆行列)が成り立つ.
また,f がCr 級(r≥1)ならば g もCr 級になる. 定理. (陰関数定理)
関数f はRN ×RM の開集合O で定義されたRM へ の Cr 級写像 (r ≥1) で, (x0, y0)∈O, Dyf(x0, y0)は 正則,f(x0, y0) = 0とする. このとき x0 の開近傍 V と y0 の開近傍 W で,V 上で定義され
g(x0) =y0, f(x0, y0) = 0 (∀x∈V)
をみたす写像 g :V →W がただ 1 つ存在する. またこ のg はV 上でCr 級となり,次をみたす:
Dg(x) =−[Dyf(x0, g(x))]−1Dfxf(x, g(x)).
逆関数定理より,陰関数定理の仮定をみたしている関数 f(x, y)においてf(x, y) = 0という関係をみたすN×M
次元空間の点(x, y)の集まりΓが, (x0, y0)の近傍ではx のある関数のグラフになる. つまり, x0 の近傍の点xと, Γ上にある(x0, y0)の近傍の点が1対1 に対応している. 陰関数定理よりLagrangeの未定乗数法が示される. 条 件付き極値問題の極値判定法は,逆関数定理を用いて通常 の開集合上の極値問題に帰着して証明される.
定理. (Lagrangeの未定乗数法)
開集合O ⊂RN で,f :O →R, g:O →RM (M <
N) はC1 級,Γ :={x∈O|g(x) = 0} とする. このとき, f をΓに制限して考えて a∈Γ でf が極値を取り,かつ rankDg(a) =M が成り立っているとすれば,M 次行ベ クトル λで
Df(a) =λ·Dg(a) をみたすものが存在する.
定理. (条件付き極値問題の極値判定法)
関数f :RN →Rとg:RN →RM (M < N) は共に C2 級とし,Γ :={x∈ |g(x) = 0} の各点 でrankDg=M とする. さらに,a∈Γ とM 次 行ベクトルλがLagrangeの未定乗数法の条件で ある Df(a) = λDg(a) をみたし, Dg(a) の最初 のM 列から成る M×M 小行列が正則であると する. このとき,a におけるふち付きHesse行列
( 0 Dg(a)
tDg(a) Hf−λg(a) )
が次の条件(E1)をみたしていればf|Γ はaで狭 義の極小値をとる:
(E1) j= 1, . . . , N −M に対して,2M +j 次の主 小行列式(最初の2M+j個の行と列からなる 行列式)の符号がすべて(−1)M に等しい. また, a におけるふち付き Hesse 行列が条件 (E2)をみたすならばf|Γ は狭義の極大値を取る: (E2) j= 1, . . . , N −M に対して,2M +j 次の主
小行列式の符号がすべて(−1)M+j に等しい. そして,a におけるふち付き Hesse 行列の行列 式が0 ではなくて,(E1)も(E2)も共に成り立っ ていないときは,f|Γ は aで極値を取らない.
条件付き極値問題
関数をf(x, y, z) :=xy2 g(x, y, z) :=t(x2+y2+z2− 1, x+y+z) として Γ := {(x, y, z)|g(x, y, z) = 0} の も と で f(x, y, z) の 極 値 を 考 え る. 集 合 Γ 上 す べ て
で rankDg(x, y, z) = 2 であるので, この問題の解は
すべて Lagrange の未定乗数法の解に含まれる. よっ
てLagrangeの未定乗数法より未定乗数 λ が存在する.
λ = (λ1, λ2)とすると, 極値を取る点では未定乗数法の 方程式 Df(x, y, z) = λDg(x, y, z),かつ g(x, y, z) = 0 をみたす. したがってこれを解くと, 6 つの解が得ら れる. 得られた点で極値判定する. Dg の最初の 2 列 を選んだ小行列が正則であるので極値判定法の仮定を み た し て い る. こ の 問 題 で は 2M +j 次 の 主 小 行 列 は ふ ち 付 き Hesse 行 列 全 体 の み で あ る. よ っ て ふ ち
付きHesse 行列全体の行列式符号が正ならその点で極
小, 負なら極大となる. いま, 得られた点の1つである p1 = (x, y, z, λ1, λ2) = (1/√
2,0,−1/√
2,0,0) について 極値判定しよう. ふち付きHesse行列Hは
H=
0 0 2x 2y 2z
0 0 1 1 1
2x 1 −2λ1 2y 0
2y 1 2y 2x−2λ1 0
2z 1 0 0 −2λ1
となるので, p1 でのふち付きHesse行列の行列式の値は 8√
2>0 となる. よって得られた点p1 で極小値を取るこ とが分かる. 得られた点すべてで同様に極値判定を行い, p1 を含む3点で極小を取り,残りの3点で極大を取る. こ の条件付き極値問題に対するグラフは次のようになる.
関数のグラフと集合Γ Γでの関数f(x, y, z)の値
4 まとめ
条件付き極値問題において重要な定理であるLagrange の未定乗数法, 極値判定法を証明するときに逆関数定理, 陰関数定理を応用する. 一般次元での条件付き極値問題に
対して, Lagrangeの未定乗数法,極値判定法における仮定
をみたしていれば,それらの定理を適用することができる. 参考文献
[1] 宮島静雄,微分積分学II,共立出版 [2] 笠原晧司,線形代数学,サイエンス社 [3] 難波 誠,微分積分学,裳華房