精神障害者の継続雇用支援に関する研究 ―法定雇 用率発生事業所に焦点をあててー
著者 中山 和子
著者別名 NAKAYAMA Kazuko
雑誌名 東洋大学大学院紀要
巻 55
ページ 79‑95
発行年 2019‑03
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00010603/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
要旨
本研究は精神障害者が一般事業所に職場定着する要因に着目し、継続雇用に必要な働きか けを明らかにすると同時に、継続就労することで果たされる精神障害者の社会参加の可能性 について明らかにすることを目的とする。対象は法定雇用率発生事業所2カ所に3か月以上就 労している精神障害者2名と雇用管理担当者2名の計4名である。半構造化面接を実施し質的 データ分析を行った結果、雇用管理担当者の中心カテゴリーは「精神障害者と実際に接す る」であった。精神障害者の中心カテゴリーは「仕事のできる職場の循環」であった。相澤
(2014:110‐112)は精神障害者の職場定着要因として6項目示した。本研究結果で「後遺障 害や残遺症状に対するセルフマネジメントスキルの習得または習得に向けた支援」が最も重 要であることが明らかになった。セルマネジメントスキルを習得した精神障害者が、雇用継 続のノウハウを講師として発信する事実も明らかになり、精神障害者の成長可能性を示し た。
キーワード.精神障害者 障害者雇用 継続雇用
序章 背景と研究目的
昭和55年に国際連合総会で採択された国際障害者年行動計画には「ある社会がその構成員 のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会なのである。障害者は、そ の社会の他の者と異なったニーズを持つ特別な集団と考えるべきではなく、その通常の人間 的なニーズを充たすのに特別な困難を持つ普通の市民と考えられるべきなのである。」と記 されている(清水2012:28)。国際社会は「障害者の権利に関する条約」(以降「障害者権利 条約」とする)採択と進み、障害者を健康な人間と同じ権利を持ち社会に参加する人として 見ることを目指すようになった。
精神障害者の継続雇用支援に関する研究
―法定雇用率発生事業所に焦点をあててー
福祉社会デザイン研究科福祉社会システム専攻修士課程修了
中山 和子
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日本の労働分野は、障害者の雇用の促進等に関する法律(以降「障害者雇用促進法」とす る)を主軸として展開してきた。障害者雇用促進法は「障害者を雇用することは、事業主が 共同で果たしていくべき責任であるとの社会連帯責任の理念」に則って設けられた制度であ る。一般的に事業主は、障害者を雇用する意思があるものの、実際に受け入れるには様々な 不安があり一歩を踏み出せない場合が多い。代表的な不安として①障害者は生産性が低下し て能率を維持するのが困難。②労務管理のノウハウがない。③向いた仕事がない。④不測の 事態が起きたりその危険がある。⑤経済的負担が増大する。⑥標準的な作業方法を運用でき ない。⑦人間関係の維持が難しい、などがあげられる。
精神障害は全般的な知的能力に障害がなく、認知機能に障害があるということへの理解は、
一般市民や企業関係者には分かりにくく障害理解を難しくしている。武井は精神障害者にと って働く効果と必要性について以下のように述べている。「『安全保障観を得る』『自尊心の 増大』『身体感覚的な “機能快”(働くことによって得られる爽快感)』『休息を引き立たせ、
深いものにする』『人生にメリハリを与える』『対人関係の1つの基盤』など。働くことは確 かにさまざまな苦労やストレスが伴うが、それ以上に社会のなかで自分の存在意義を確認で きる」(武井2009:261)。倉知は精神障害者の安定就労について「認知機能障害と自信・自尊 感情の低下があり、精神障害者が働き続けるためには、この点についての支援が重要となる。
自信と自尊感情の回復には、支援者が対等な関係で精神障害者本人と協働で進め、ストレン グスに焦点を当てることが必要である。認知機能障害には、実際の職場での支援、構造化さ れた職場つくりが必要である。」(倉知2016:328)と述べている。
精神障害者の職場定着を進めるには、一人一人の特性や状況に応じた支援を継続していく ことが求められる。こうしたことに対応するために事業所内に専門家がいれば、雇用管理が スムーズに行われる可能性は高くなるが、「専門家の配置・契約」を実施できる事業所は少 ない。「専門家の配置・契約」を精神障害者雇用の基本的な雇用管理の一つと考えると、精 神障害者雇用のハードルが非常に高いものになってしまう。精神障害者の定着に向けて、配 慮を行っている事業所であっても、「雇用管理上、大きな問題は出ていないが、いろいろな 配慮を行う必要があり、他の障害者に比べ、精神障害者雇用はかなり負担感もある」という 意見がある。一方、精神障害者を10人以上雇用している事業所からは、「精神障害者は、施 設面の大幅な改造の必要がなく、また知的障害者のような作業面での制限が少ない。コミュ ニケーションなどのソフト面を工夫すれば雇用管理はスムーズにできる」といった意見もあ る。
本研究では以下2点を明らかにすることを目的とする。①一般事業所において精神障害者 の継続雇用に必要な働きかけやそれを可能とする雇用管理担当者のマネジメントについて。
②継続就労することで果たされる精神障害者の社会参加の可能性について。
第1章 歴史的経過
第1節 精神保健福祉関連法について
精神保健福祉法詳解(2017:3-54)によると、日本では明治初期までは精神保健の分野は 法的規制のないままに推移していた。日本の精神医学は進歩しておらず、精神病治療は、ほ とんどが加持祈祷などに頼っていた。各地で宗教儀礼が行われる一方、多くの民間療法が試 みられていた。第二次世界大戦後、欧米の最新の精神衛生に関する知識も導入され精神衛生 法が昭和25年に成立した。この法律の成立によって初めて、精神病者の私宅監置が禁止され た。自傷他害のおそれのある精神障害者の措置入院と保護義務者の同意による同意入院の制 度ができた。昭和30年代から薬物療法が導入され精神疾患の完解率が大きく向上するように なったが、病状は改善したものの大幅に増加した病床に長期入院・社会的入院をする精神障 害者が多数存在することとなった。精神障害者がアメリカ駐日大使に傷害を負わす事件の影 響を受けて、精神衛生法が昭和40年に一部改正し精神者障害者への外来治療・入院治療が強 化された。その後、昭和59年に宇都宮病院で入院中の患者が看護職員によって暴行を受け死 亡する事件が発生し、昭和62年に精神衛生法が改正し精神保健法が成立した。この法律は、
精神障害者の人権擁護、精神障害者の社会復帰の促進をうたった。
平成7年に障害者基本法の成立を受けて、精神保健法が大幅に改正されて精神保健及び精 神障害者福祉に関する法律が成立した。精神障害者が法的にも明確に障害者として認知され ることになり、法律の中に精神障害者福祉がうたわれることとなった。精神障害者福祉施策 を法体上に位置づけ、精神障害者保健福祉手帳が創設された。
平成17年に障害者自立支援法が成立した。この法律は「障害者および障害児がその有する 能力及び適正に応じ、自立した日常生活または社会生活を営むことができるよう、必要な障 害福祉サービスに関わる給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を 図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすこ とのできる地域社会の実現に寄与すること」が目的とされている。これまでの施設を中心と した福祉体系が大きく見直され、障害者の地域生活への移行や就労支援事業が創設した。
平成23年に障害者基本法が改正され、障害者の定義を「身体障害、知的障害、精神障害
(発達障害を含む)、その他の心身の機能の障害があるものであって、障害及び社会的障壁に より継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」とした。
また「社会的障壁」の定義を、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障 壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」として、
個人の機能障害だけでなく、社会的障壁が「障害」を取り巻く課題としてとらえられた。
第2節 障害者雇用制度について
平成30年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(2018:14‐16)によると、昭和
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30年に国際労働機関99号勧告(第38回総会)「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に 関する勧告」が採択され、日本は障害者のための雇用に関する法律の立法化に迫られ、昭和 35年に身体障害者雇用促進法が成立した。この法律の特徴は身体障害者の採用に当たり雇用 率制度を導入したことである。昭和51年に身体障害者雇用促進法は改正され、民間事業所に 対して身体障害者雇用の努力義務が義務雇用に変更され、雇用率未達成事業所には身体障害 者雇用納付金を徴収する制度が創設された。雇用率の算出方法を、常用雇用重度身体障害者 を1人採用した場合2人として算出できるダブル算出制度が創設された。
昭和51年の改正以後、雇用率制度と雇用納付金制度を中心に障害者雇用施策は進展した。
昭和62年に身体障害者雇用促進法が改正され、障害者の雇用の促進等に関する法律(以降
「障害者雇用促進法」とする)と名称変更した。法改正によって、特例措置として雇用され ている知的障害者を、身体障害者同様に雇用率算出が出来ることとした。知的障害者は障害 程度によって算出に違いは生じない。雇用率算出可能となったものの、知的障害者や精神障 害者の雇用が進まない状況は続いていたため、平成4年に障害者雇用促進法の改正が行われ た。これにより常用雇用重度知的障害者は、雇用率算出において常用雇用重度身体障害者同 様に1人採用した場合、2人として算出できるダブル算出対象となった。
平成9年の障害者雇用促進法改正で知的障害者の雇用義務付けが成立し、身体障害者雇用 率が障害者雇用率に改称した。障害種別による制度上の格差や障害者の就業機会の拡大に対 する対策が必要となり、平成17年に法改正が行われ、特例措置として、事業所に雇用されて いる精神障害者を重度以外身体障害者や重度以外知的障害者同様、1人雇用した場合、1人と して雇用率算出に算出できることとした。また、重度身体障害者や重度知的障害者同様、雇 用率算出において20時間以上30時間未満の短時間労働の精神障害者を1人雇用した場合、0.5 人として算出可能とした。平成20年に法改正し、障害者雇用納付金の適用対象の拡大と雇用 率制度の見直しが行われた。障害者雇用納付金対象事業所はこれまで常用雇用301人以上の 事業所であったが、平成22年7月より常用雇用200以上に引き下げられ、平成27年4月には100 人以上に引き下げられた。雇用率の算出基礎となる短時間労働者は、1人雇用すると0.5人 雇用したものとして算出し、重度以外身体障害者と重度以外知的障害者は20時間以上30時間 未満の短時間労働者の場合、1人雇用すると0.5人に算出することとなった。
平成18年に国連において障害者権利条約が採択され、障害を理由とする差別の禁止と障害 に対する合理的配慮の提供という規範が国際的に承認された。日本は障害者権利条約を平成 19年に署名し、批准に先立ち国内法改革を行った。障害者権利条約批准が後押しする形で、
平成25年に障害者雇用促進法が改正され、平成30年4月1日から精神障害者を雇用義務の対象 に加えることとなった。平成30年4月以降の常用雇用労働者45.5人以上の事業所の法定雇用 率は、民間事業所は2.2%、国・公共団体は2.5%、特殊法人は2.5%、都道府県等教育委員会は 2.4%、平成33年4月以降の民間事業は2.3%、国・公共団体は2.6%、特殊法人は2.6%、都道府
県 等 教 育 委 員 会 は2.5 % に 引 き 上 げ ら れ た( 厚 生 労 働 省.2018.http://www.jeed.or.jp/
disability/koyounoufu/om5ru8000000102p-att/q2k4vk000001srci.pdf)
第2章 精神障害者雇用の現状と課題
精神障害者雇用義務化と法定雇用率の上昇に悩む事業所は、コンプライアンスとして障害 者雇用への取り組みを行っており、特に精神障害者雇用について積極的採用に至ったわけで はない。精神障害者の雇用は体調の変動があるため労務管理に難しさがある。雇用管理担当 者は「採用後に、安定出勤が出来ない、短期に離職するなどの課題については、本人に対し て深く立ち入った指導をしたり、就労支援関係機関のフォローを求めたりすることなく容認 する態度」である。事業所内外の支援を活用しながら、精神障害者の雇用管理や配慮の方法 やノウハウを蓄積していく事業所がある一方で、精神障害者雇用に期待できることはないと 表明する事業所は少なくない。一般の事業場だけでなく、特例子会社で精神障害者を雇用す る場合においても負担感や戸惑いを示すことはある。「正社員登用後でも体調を崩すケース が起きている。引き金となる主な要因は、業務内容や役割の変化に対応できない。自身のパ フォーマンスを客観的に捉えられず査定や処遇に納得できない。本人の希望で業務難易度を 上げたがうまく対応できない。などである。不調時には勤怠が不安定になり、業務パフォー マンスが低下する。また批判的、他罰的、被害者的な言動、希死念慮の発言も多く、他の従 業員が疲弊したり、管理者が苦慮するケースが増えてきた」(工藤2016:107)
中井久夫は統合失調症の方々が持つ「正常者像」について「非現実的な完璧さを備えた正 常者像である」という表現をしている。「多くの病者が、正常者とは、疲れを知らず働き、
本を開けばすらすらと頭に入り、いつも気分は一点の雲もない快晴である、とかたく信じて いることはまぎれもない事実である」(中井2015a:154)。この「正常者像」は精神障害者自身 のセルフイメージに大きく影響を及ぼし、自身の業務のパフォーマンスを客観的に捉えられ ずに査定や処遇に納得できない場面や、本人の希望で業務難易度を上げたがうまく対応でき ないといった行き違いが生じる要因となる。精神障害者自身が求める非現実的な完璧さゆえ に、焦燥感にかられ緊張し非常に疲れやすくなる。しかし、精神障害者自身の自覚としては
「自分が「あせっているかどうか」、「ゆとりがあるかどうか」分からなかったり、答えに時 間をとることはあまりない。これは知能や教育程度とほとんど関係のないことであった」(
中井2015b:170)。精神障害者が持つこれらの特徴に対して、就労を含む安定した生活を送る には障害受容という取り組みが必要になる。
精神障害者を雇用する事業所としては、一定の訓練や支援を受ける中で、精神障害者の障 害受容が一定程度進んでいることを期待するが、障害受容はリハビリテーションプロセスの 一つとして常に変化している。障害者雇用されている精神障害者であっても自分の障害と折 り合いを付けながら働いていることを語っている。
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第3章 精神障害者雇用に関する研究
第1節 先行研究
事業所が初めて精神障害者を雇用した時期は、精神障害者保健福祉手帳所持者を事業所の 実雇用率へ算出することが開始された平成18年以降が大半である。精神障害者の雇用に関す る先行研究は、雇用管理ノウハウとして先進的事例や事例検討から導き出されることが多 い。平成24年に高齢障害求職者雇用支援機構障害者職業総合センターが精神障害者雇用管理 ガイドブックを発行した。内容は採用段階から始まり、具体的に事業所が検討しておくべき ポイントを示してある。職場定着に関わる部分を抜粋する。
「仕事の与え方や職場配置」では①納期が厳しかったり作業が急変する仕事は避ける。② 仕事を切り出す。③作業を構造化する。④複数の仕事を体験させ本人に向いた仕事に配置 する。⑤ローテーションを生んでいろいろな仕事に従事させる。⑥グループやペアで仕事
を行う。
「周囲の従業員への説明」では①どのような説明をするのか本人の意向を確認する。②精 神障害や精神障害者雇用に関する基礎的情報を提供する。③精神障害者雇用に関連して周 囲の従業員に不安や悩み事がないか把握する。④社内報やイントラネットによる全従業員
への働きかけ。
「指示の出し方・仕事の教え方」では①特定の指導者を配置する。②やってみせ、分かっ たかどうか確認し、その後にやらせてみる。③指示は具体的に、誤解の余地なく、タイミ ングよく、一度にたくさん言わない、④あいまいな指示出しはしない。⑤できたことはき ちんと褒める⑥ミスに対しては具体的な解決策を一緒に考える(頭ごなしの叱責はNG)。
⑦混乱した状況は整理してやり、いつまでも迷わせない。⑧慣れてきたら本人の能力に応 じた指示を出す。⑨指示を出した後の本人の様子に注意する。⑩根気よく指導する。⑪指 導する人をバックアップする。
「コミュニケーション面」では①軽重を意識する。②定期的に相談時間を設定する。③職 場全体の雰囲気を和やかにする。④休憩時間など無理にコミュニケーションをとろうとし ない。
「健康管理面」では①通院時間の確保。②普段から本人の様子に気を付け、早めに体調の 変化を把握する。③体調不良で休みを訴えてきた時の対応。④調子が落ちてきた時の指示 出しの工夫。⑤医療機関との連携(主治医からの情報収集)。⑥産業保健スタッフを活用 する。
「能力開発・キャリア形成」では①目標設定・評価・フィードバック。②研修の実施。③ 仕事内容の変更。
「雇用継続の留意点」では①指導者や上司の移動に伴う対応。②日常生活の課題が職業生
活に影響を及ぼす場合。③支援関係機関との定期的な相談の場を作る。(上村2012:17- 35)
ガイドブックが重点的に示しているのは業務に関する「指示の出し方・仕事の教え方」で ある。精神障害者の業務指導を任された人は「指示は具体的に、誤解の余地なく、タイミン グよく、一度にたくさん言わない」ように対応するのであれば、精神障害者に付きっ切りで 指導をすることになる。事業所が行う配慮については、作業内容に関する構造化の他に、人 間関係・意思疎通やマナー及び健康管理に関する配慮について、多くのエネルギーを割いて いる。
相澤らは平成20年にハローワークに障害者登録した精神障害者の追跡調査を行ない、1年 定着しなかったケースの70.7%が3か月定着しないケースであり、3年定着しなかったケース の84.3%が1年定着しないケースであることを明らかにした(相澤2014:3)。同先行研究にお いて、3年以上、職場定着している精神障害者の定着要因について、健康生成論の視点に基 づいて6点に集約した。
① 後遺障害及び残遺症状のセルマネジメント。精神科医療機関の専門スタッフもしく は、職業リハ療育の就労支援担当者によって、後遺障害及び残遺症状のセルフマネジ メントに関する習得支援に注力がなされている。
② 無理をさせない雇用管理方針の継続。活動エネルギーの放出を極力抑えることを意図 した、無理をさせない雇用管理方針を継続させている事業所が多い。
③ 現状維持志向の労働観に対する理解と承認。職場定着している精神障害者が有する現 状維持志向の労働観を、事業所が雇用管理方針として理解・承認している。
④ 中長期的なキャリアアップを指向した雇用管理方針。就業時間の延伸や職域拡大等、
職場定着者の中長期的なキャリアアップを指向した雇用管理方針を有している事業所 もある。
⑤ ポジティブフィードバックの実践。作業行動の望ましい結果に関するポジティブフィ ードバックのみならず、職場定着者に対する事業所側の温かい受入姿勢や職場復帰の 勧奨、職場内における職場定着者の存在や役割の有意味性に関するフィードバックが 実践されている。
⑥ 職務とのマッチング。就労支援担当者と事業所担当者が職場定着者の職務適応過程に 関する情報交換を、特に就職後の初期段階において集中的におこなっており、職務と のマッチングが図られている。(相澤2014:110‐112)
精神障害者にとって、事業所で働き続けることは容易なことではない。加賀らによると職 場定着が実現できている精神障害者は「アントノフキーが提唱する首尾一貫感覚がうまく機
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能しており、自身の障害や残遺症状を客観的に見つめながら、置かれている就労環境を合理 的に把握し、何とか就労を維持していけるだろうという見通しの感覚を持ち、職業生活を維 持していくことに対して意味や価値を見出せていたり、精神科リハや職業リハの過程で具体 的なストレス対処の術を獲得・動員し、それが実際の職場の中で強みとして般化できている 者達であるということができる。また、首尾一貫感覚が後遺障害や残遺症状によって機能し にくくなっていたとしても、それを補完するための適切な環境調整や支援がなされている者 達であると考えられる」(加賀2014:77)。ことを明らかにした。
第2節 研究対象と研究方法
調査協力対象者は企業のダイバーシティの取り組みに精通している有識者の協力のもと、
精神障害者継続雇用に取り組んでいる事業所を選定し、法定雇用率発生事業所2カ所の精神 障害者の雇用管理を行っている担当者2名と当該事業所に3ケ月以上就労している精神障害 者2名の合計4名である。平成29年2月から9月までインタビュー調査を行った。
調査協力者に研究目的、データ管理方法など趣旨を説明し、書面で同意を得てインタビュ ーを実施した。インタビュー内容は調査協力者の了解を得た上でICレコーダーを用いて録 音し逐語化した。
調査内容は佐藤郁哉氏の質的データ分析法に基づき、定性的コーディングを用いて分析を 行った(2008:45-52)。インタビューにより得られたデータから意味内容ごとにコードを抽 出した。抽出された複数のコードを一般化するためにカテゴリーを生成した。カテゴリーを 図式化した。データ・コード・カテゴリー生成状況は表1にまとめる。
表1 データ・コード・カテゴリー表
カテゴリー コード データの一部
雇 用 管 理 担 当 者
精神障害者と実 際に接する
精神障害者への抵抗 知的障害に比べて精神障害は抵抗が強い
精神障害を 理解する
不安が強くアンバランス 不安が強く一人で悶々できない
精神障害者は特性による 個々の特性が違いすぎる。精神障害は特性によ る
受け入れ体制を 整える
意外と平気と思ってもらいた い
傾向くらいは言えるがまずやってみて欲しい。
障害開示は永遠の課題 障害開示はメリット・デメリットがある
配慮を共有する 配属部署に本人の希望を 伝えた
業務依頼する人に本人の要望を伝えた
面接はアセスメント 会話にワンテンポ間があって大丈夫かなと思った 障害受容 特性の把握と発信 自分の障害特性や苦手なことを把握している
業務遂行の 実態
優先順位を示せば対応でき る
優先順位が付けば急な変更にも対応できる
自分で確認できる 何コマでこの業務が終わるか測れるようになった
成長と 社会参加
気分を切り換える 忍耐力が付いて不安が拭えなくてもやるしかないと 我慢できるようになった
職員研修で自分の事を話 す
障害者雇用を進めるには当事者が前に出ること が大事
精 神 障 害 者
優先順位をつけ る
緊張と疲れを分かってもらい たい
凄く疲れてしまうのを甘えだと思われたり、仕事が遅 いと見られながら緊張と不安の中、仕事するのは 嫌。分かって欲しい
給料よりも再発するのは嫌 緊張しながら仕事して再発するのは嫌。お給料より も再発するのは嫌
自分が自覚して いる障害の実態
表現をうまく調整できない。 どうしたら失礼に当たるかっていうのがイマイチ分か らない
緊張し不安になり、体調をく ずす
不安が出て来ると体調を崩しがちになる
精神障害者の継続雇用支援に関する研究
雇 用 管 理 担 当 者
精神障害者と実 際に接する
精神障害者への抵抗 知的障害に比べて精神障害は抵抗が強い
精神障害を 理解する
不安が強くアンバランス 不安が強く一人で悶々できない
精神障害者は特性による 個々の特性が違いすぎる。精神障害は特性によ る
受け入れ体制を 整える
意外と平気と思ってもらいた い
傾向くらいは言えるがまずやってみて欲しい。
障害開示は永遠の課題 障害開示はメリット・デメリットがある
配慮を共有する 配属部署に本人の希望を 伝えた
業務依頼する人に本人の要望を伝えた
面接はアセスメント 会話にワンテンポ間があって大丈夫かなと思った 障害受容 特性の把握と発信 自分の障害特性や苦手なことを把握している
業務遂行の 実態
優先順位を示せば対応でき る
優先順位が付けば急な変更にも対応できる
自分で確認できる 何コマでこの業務が終わるか測れるようになった
成長と 社会参加
気分を切り換える 忍耐力が付いて不安が拭えなくてもやるしかないと 我慢できるようになった
職員研修で自分の事を話 す
障害者雇用を進めるには当事者が前に出ること が大事
精 神 障 害 者
優先順位をつけ る
緊張と疲れを分かってもらい たい
凄く疲れてしまうのを甘えだと思われたり、仕事が遅 いと見られながら緊張と不安の中、仕事するのは 嫌。分かって欲しい
給料よりも再発するのは嫌 緊張しながら仕事して再発するのは嫌。お給料より も再発するのは嫌
自分が自覚して いる障害の実態
表現をうまく調整できない。 どうしたら失礼に当たるかっていうのがイマイチ分か らない
緊張し不安になり、体調をく ずす
不安が出て来ると体調を崩しがちになる 表1 データ・コード・カテゴリー表
カテゴリー コード データの一部
雇 用 管 理 担 当 者
精神障害者と実 際に接する
精神障害者への抵抗 知的障害に比べて精神障害は抵抗が強い
精神障害を 理解する
不安が強くアンバランス 不安が強く一人で悶々できない
精神障害者は特性による 個々の特性が違いすぎる。精神障害は特性によ る
受け入れ体制を 整える
意外と平気と思ってもらいた い
傾向くらいは言えるがまずやってみて欲しい。
障害開示は永遠の課題 障害開示はメリット・デメリットがある
配慮を共有する 配属部署に本人の希望を 伝えた
業務依頼する人に本人の要望を伝えた
面接はアセスメント 会話にワンテンポ間があって大丈夫かなと思った 障害受容 特性の把握と発信 自分の障害特性や苦手なことを把握している
業務遂行の 実態
優先順位を示せば対応でき る
優先順位が付けば急な変更にも対応できる
自分で確認できる 何コマでこの業務が終わるか測れるようになった
成長と 社会参加
気分を切り換える 忍耐力が付いて不安が拭えなくてもやるしかないと 我慢できるようになった
職員研修で自分の事を話 す
障害者雇用を進めるには当事者が前に出ること が大事
精 神 障 害 者
優先順位をつけ る
緊張と疲れを分かってもらい たい
凄く疲れてしまうのを甘えだと思われたり、仕事が遅 いと見られながら緊張と不安の中、仕事するのは 嫌。分かって欲しい
給料よりも再発するのは嫌 緊張しながら仕事して再発するのは嫌。お給料より も再発するのは嫌
自分が自覚して いる障害の実態
表現をうまく調整できない。 どうしたら失礼に当たるかっていうのがイマイチ分か らない
緊張し不安になり、体調をく ずす
不安が出て来ると体調を崩しがちになる
社会と繋がらなくなる不安 ゆっくり生きようと思えた。雑誌のキャリアを積むため にが正しいと信じていた。それでも社会とつながら ない自分に不安だったので情報収集はした
就労と障害者生 活 の バ ラ ン ス を 取る
障害があることは恥ずかしく ない
特別なこととは思ってない
仕事をしない自分はダメだ 自分が生きていく術として仕事はかなりの部分をし めていた
自分が障害者なのか理解 できない
何が障害と判断されたのか、いまいちわかってな い
仕 事の でき る職 場の循環
無理をしなくて良い配慮がる 無理をしなくて良いのが助かる
職場に恵まれると思う 嫌なこともあるけど職場は恵まれている
業務内容確認と作業量調 整にかかわる
どういう作業内容か分からないときは、担当の方と 一緒に依頼してくださった方に聞きに行く
スケジュール管理にかかわる スケジュールは慣れてきて自分と担当者の方と一 緒に作っている
休憩時間の雑談がつらいけ 休憩時間に会話する、雑談をするというのは基本
― 88 ― 第3節 研究結果
(1)雇用管理担当者
雇用管理担当者のインタビュー調査内容から、カテゴリーを生成し図式化したものが図1 である。内容について説明する。
雇用管理担当者が精神障害者を雇用する上で最初のポイントに置いているのは、事業所の 他の労働者が「精神障害者と実際に接する」機会を作ることである。事業所の配属部署は多 岐に渡り、労働者は自社採用以外の職員もいるため、まず事業所内の部署に、支援機関の精 神障害者実習受け入れ先を受託するよう働きかけるなど、労働者が精神障害者と実際に接す る機会を開拓することで、精神障害者雇用システム構築の足掛かりとしている。しかし、労 働者が持つ精神障害者への抵抗感は根強く、抵抗感の軽減が図られるようマネジメントする ことが雇用管理担当者の大きな役割となる。このマネジメントは受け入れ部署の選定、打 診、説得から始まり、実際に受け入れを実施する場合は、人事管理部門と調整も必要にな る。実際に精神障害者と接することによって、労働者の抵抗感が少しでも軽減するよう働き かけることが、雇用システム構築へ欠かせないことが明らかになった。
事業所の労働者が実際に精神障害者と接することを前提として、「精神障害を理解する」
段階へと進む。精神障害の大きな特徴として、不安が強くアンバランスな側面があると、不 安や抵抗感の強い受け入れ部署に説明することは可能だが、実態は精神障害者一人一人の特 性に依るところが大きい。精神障害者の雇用システムを構築する中で、労働者の精神障害理 解は欠かせないが、特徴的な点を踏まえた上で精神障害者一人一人を丁寧に見て接すること を、受け入れ部署内の労働者に求めることになる。精神障害者への抵抗感が軽減されない中 で、きめ細やかな配慮を周囲の労働者に求めることは極めて難しいため、雇用管理担当者と して組織をマネジメントする必要は引き続き生じる。雇用管理担当者の役割として、精神障 害者を受け入れる部署のみならず、採用に関与する人事管理部署に対しても精神障害の理解 が進むよう働きかけることが求められる。
事業所内や受け入れ部署において、精神障害の理解が一定程度深まったことを前提とし、
実際に精神障害者を受け入れる部署において、精神障害者の「受け入れ体制を整える」段階 へ進む。精神障害者への抵抗感は、就労する精神障害者にとっても、一緒に働く労働者にと っても影響力が大きい。雇用管理者担当者としては、実際に一緒に働く周囲の労働者に
「(精神障害者のことを)意外に平気と思ってもらいたい」という理解の仕方や、偏見の修正 に期待をもって取り組んでいる。一方で、雇用に至る精神障害者の障害についてどの程度の 人的範囲で、どのような障害内容を開示するのかは課題となっている。精神障害者の障害を 開示する、物理的範囲の基本は部署単位になるが、部署の規模が大きい場合は席単位の場合 もありケースバイケースで対応することになる。
障害者雇用である以上、事業所として雇用する障害者へ配慮を提供する義務が生じるが、
精神障害者の場合、配慮の提供内容が事業所によっては過度な負担と理解されることが少な くない。受け入れ部署に障害を開示し、実際に必要な配慮内容を確認する段階では、精神障 害者が採用面接場面で発信した希望を、受け入れ部署と雇用管理担当者間で共有することが 基本となる。面接は雇用管理担当者も同席するため、アセスメントの一つになっている。受 け入れ部署と雇用管理担当者間の「配慮の共有」は、精神障害者本人が希望した内容だけで なく、雇用管理担当者のアセスメント内容も含まれる。
精神障害者を雇用する事業所の取り組みとともに、実際に就労している精神障害者の変化 についても雇用管理担当者は言及している。精神障害者が雇用されるにはまず、障害者自身 が自らの「障害を受容」し、苦手なことを説明し発信する力が必要である。精神障害者自身 が自分の障害特性を把握し、雇用管理担当者を含む他者に発信出来るという前提のもと、雇 用を継続する段階へ進む。支援機関のサポートを受けながら実際の雇用場面では、最初は簡 易な業務を指示通り遂行するだけであったが、急な業務変更も優先順位さえ示せば対応でき るようになり、業務の進捗状況や終了見込みを図れるようになるなど、「業務遂行の実態」
の変化が見られるようになる。
精神障害者自身の安定と自信に裏打ちされた変化は、忍耐力を養い不安に耐えられるよう になる。雇用を継続する中で、精神障害者の自信と成長は、事業所内における職員研修等に 講師として参加し、自分の障害のことを話すという「成長と社会参加」へと繋がっていく。
精神障害者の講師参加は、雇用管理担当者の精神障害者の雇用促進には、当事者が発信する ことが有効である、という判断に基づくもので、精神障害者が発信できる場を確保するため 事業所に対してマネジメントを行った結果である。雇用管理担当者として、「仲間の励みに
図1 雇用管理担当者の見解
(筆者作成)
就労継続による 精神障害者の変化
雇用する事業所側の準備 精神障害
者と実際に 接する
配慮を 共有する 受け入れ
体制を 整える 精神障害
を 理解する
<業務遂行の実態>
優先順位が付けば 急な変更にも
対応できる
<成長と社会参加>
職員研修で 自分の事を話す 忍耐力が付いて 不安に耐えられる
<障害受容>
自分の障害特性 の把握と発信 雇用システ
ムを作る
精神障害者 への抵抗
不安が強く アンバランス
精神障害者は 特性による
意外と平気 と思って 貰いたい
障害開示 は永遠の 課題
配属部署に 本人の希望 を伝えた
面接は アセスメント
― 90 ―
なりたいと思っている人なので前に出てもらいたい。障害者雇用を進めるには効果的だと思 うので期待している。」とハッキリ述べている。
雇用管理担当者は、精神障害者雇用前の受け入れ準備としての事業所内環境調整や、労働 者の認識是正に取り組み、採用時には障害特性を念頭においた配慮の提供を受け入れ部署に 促し、雇用安定後は精神障害者の成長に伴い、更なる事業所内の受け入れ強化策としての働 きかけを行っていることが明らかになった。こういった雇用管理担当者のマネジメントは、
精神障害者を雇用するたびに行われ、その積み重ねが洗練された、精神障害者雇用対応ノウ ハウを作り上げている。
(2)精神障害者
精神障害者のインタビュー調査からカテゴリーを生成し図式化したものが図2である。内 容について説明する。
精神障害者本人が仕事を続けていく上で一番気にかけ、細心の注意を払っていることは、
病気の再発である。このことは給与よりも重要視している。病気の増悪・再発への注意は、
精神障害の障害特性にも深く関連があり、事業所側に精神障害者の緊張と疲れを分かって貰 いたいと求めている。
自分の病気への対処法と、生活の中で「優先順位を付けられる」ことを前提とし、「障害 特性に由来する自分の不都合さ」を明らかにする段階へと進む。思ったことをまとめられず、
上手に表現できない場面が生じたり、逆に思ったことをストレートに言いすぎてしまうよう な、表現の調整が上手くできないことを障害特性の一つとして自分自身で自覚している。疲 れやすさや緊張への理解を事業所側に求めたように、慣れない環境や事柄には緊張が生じ、
緊張状態が続くと身体的体調不良が出やすくなると自覚している。身体的不調は勤怠へ影響 を及ぼし、安定雇用を脅かす要因となりうる。
精神障害の特性に由来する不都合さと共存しながら就労する段階では、「就労と障害者生 活のバランスを取る」必要が生じる。精神障害による不都合さへの自覚はあるものの、根底 には自分の何が障害と判断されたのか、理解し切れていない側面がある事が明らかになった。
就労以前に起きた疾病に起因するエピソードについても、恥ずかしいこととは思ってない。
精神障害は特別なこととは思っていないという認識があった。問題意識を持たずに、肯定的 に自分の障害と共存する形で就労に臨むが、仕事へのこだわりは強く、仕事をしない自分は ダメだと極端な価値観を示す。
精神障害者が障害由来の自分の不都合さを理解した上で、過度に卑下することなく就労を 継続するためには、勤務する職場でいくつかの条件が揃うことが必要になる。自信と自尊感 情が低下されたままでは、本来その人が持っている能力は発揮されない。
精神障害者が無理をしなくて働ける環境が必要である。これは、精神障害者が最初に緊張
と疲れやすさを事業所側に理解して欲しいと要望したように、事業所に自分の障害特性を受 け入れて貰えたと実感出来るかどうかによって大きく変化する。職場への安心感や信頼感を 醸造し職場に恵まれているという認識を生む。これらを前提条件として初めて、精神障害者 が有する能力が発揮することが可能となる。自分が担当する業務について習熟し、雇用管理 担当者に対して一定の関係が築くことが出来れば、実際の作業内容を確認したり、納期に向 けた作業量の調整や相談を自分から働きかけることが可能になる。作業内容・作業量・納期 を意識できるようなれば、自分の業務スケジュール管理を考えられるようになる。無理をし ないスタンスから精神障害者の就労は始まるが、「どれだけなじめるかというのが一番です。」
という発言にあるように、時間をかけて場や人に馴染めれば安定した継続勤務は可能である。
こういった「仕事のできる職場の循環」の中であれば、昼食時の雑談など不快なシチュエー ションであっても我慢することが出来るようになる。「嫌なこともあるけど恵まれている。」
という発言は、精神障害者に限らず労働者としてごく当たり前の感想と言える。
第4章 考察
相澤は精神障害者の職場定着要因を前述の通り6点に集約している。(2014:110‐112)。
これら6点について、本研究結果の内容を比較検討する。
① 後遺障害及び残遺症状のセルフマネジメントについては、雇用管理担当者の「精神障 害を理解する」カテゴリー内の『不安が強くアンバランス』コードと、「障害受容」
カテゴリー内の『特性の把握と発信』コードが適合する。精神障害者の「優先順位を 付ける」カテゴリー内の『緊張と疲れを分かって貰いたい』コードと、「自分が自覚 している障害の実態」カテゴリー内の『表現をうまく調整できない』『緊張し不安に 図2 精神障害者の見解
(筆者作成)
仕事のできる職場の循環 自分が自
覚している 障害の実
態
就労と障 害者生活 の バランス 優先順位
を付ける
自分が障害者 なのか理解でき ない
休憩時間の雑談が辛いけど 何とかやれる 給料よりも再
発するのは嫌
緊張と疲れ を分かって貰 いたい
表現をうまく 調整できない
緊張し不安 になり体調を 崩す
社会と繋がら なくなる不安
障害があるこ とは恥ずかし くない
仕事をしない 自分はダメだ
無理をしなくて良 い配慮がある
スケジュール管理 に関わる
職場に恵まれ ていると思う
業務内容確認と 作業量調整に 関わる
― 92 ―
なり体調を崩す』の計5コードが、後遺障害及び残遺症状のセルフマネジメントと適 合する。
② 無理をさせない雇用管理方針の継続は、雇用管理担当者の「配慮を共有する」カテゴ リー内の『配属部署に本人の希望を伝えた』コードが適合する。精神障害者の「仕事 のできる職場の循環」カテゴリー内の『無理をしなくて良い配慮がある』の計2コー ドが適合する。
③ 労働観に対する理解と承認について、先行研究では「精神障害者の就労状態を安定的 に維持していくことによって有意味感の醸成が図られ、それが就労継続に対する動機 の強化に繋がっている」と定義されている。定義に基づいて比較検討すると、雇用管 理担当者の「精神障害者と実際に接する」カテゴリー内の『雇用システムを作る』コ ードと、「精神障害を理解する」カテゴリー内の『精神障害者は特性による』コード が適合する。精神障害者の「仕事のできる職場の循環」カテゴリー内の『職場に恵ま れていると思う』コードに適合する。
④ 中長期的なキャリアアップを指向した雇用管理方針は、雇用管理担当者の「成長と社 会参加」カテゴリー内の『職員研修で自分の事を話す』コードが適合する。
⑤ ポジティブフィードバックの実践は、雇用管理担当者の「受け入れ態勢を整える」カ テゴリー内の『意外と平気と思って貰いたい』コードに適合する。
⑥ 職務とのマッチングは、雇用管理担当者の「業務遂行の実態」カテゴリー内の『優先 順位を示せば対応できる』『自分で確認できる』コードが適合する。精神障害者の
「仕事のできる職場の循環」カテゴリー内の『業務内容確認と作業量調整に関わる』
と『スケジュール管理に関わる』の4コードが適合する。
調査対象全てに出現したものは、後遺障害及び残遺症状のセルフマネジメントと、職務と のマッチングと、無理をさせない雇用管理方針の継続の3要因である。特に、後遺障害及び 残遺症状のセルフマネジメントは本研究結果の5コードを含んでおり最多である。精神障害 者が一般事業所で安定した雇用を継続するためには、「易疲労・過緊張等の後遺障害や不安 発作・被害念慮等の残遺障害を内的ストレスとして抱えている。また認知的・心理的・性格 的特性に基づく外的環境との接し方(過剰適応や行動促進傾向等)に起因してストレスを増 幅させる。こうした後遺障害や残遺症状に対するセルフマネジメントスキルの習得または習 得に向けた支援」が重要であることが明らかになった。
また、精神障害者が安定雇用を継続することによって、同僚を含む第三者に対して啓蒙啓 発活動の一環として自らの体験を発信し、社会や周囲の人々に理解を求める力がある可能性 が示された。
終章 今後の課題
障害を持つ雇用者全体のうち法定雇用率でカバーできる障害者は半分以下で他は法定雇用 率対象外事業所で雇用されている。影山は「障がい者雇用で得られること」として以下の内 容を指摘している。①人材育成のノウハウができる。②社内の業務の流れが改善される。③ 職場環境が改善される。④健常者社員が前向きに取り組むようになる。⑤適材適所のノウハ ウが形成される。⑥戦略的観点が身につく(影山2013:130‐141)。以上6点は精神障害者の雇 用に特化したものではないが、法定雇用率制度という割り当て雇用に後押しされる形で推進 される障害者雇用以外の可能性を提示している。法定雇用率発生対象外事業所における障害 者雇用の実態把握は今後の課題である。
雇用管理担当者として求められる資質や役割の検討も今後の課題としたい。果たしている 役割としては以下の内容があげられる。①アセスメント。②マネジメント。③信頼関係の造 成。④コミュニケーション。⑤組織に埋没せず俯瞰する。⑥孤独に耐える。以上6点である が、これらをより機能的に発揮する個人的資質や専門的訓練、組織の在り方についての分析 は今後の研究にゆだねたい。
引用
・上村俊一ら(2012)「精神障害者雇用管理ハンドバック」『高齢障害休職者雇用支援機構障 害者職業センター』17‐34.
・相澤欽一ら(2014)「精神障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究」『高齢障害求職 者雇用支援機構障害者職業センター』(119)3.110‐112.
・加賀信寛(2014)「精神障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究」『高齢障害求職者 雇用支援機構障害者職業センター』(119)77.
・影山摩子弥(2013)「なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?」中央法規 出版社.130‐141.
・工藤元子(2016)「精神保健医療福祉白書2017」中央法規出版社.107.
・倉知延章(2016)「雇用され、働き続けるための就労支援のあり方」『精神科臨床サービ ス』(16‐3)328.
・ 厚 生 労 働 省(2018)http://www.jeed.or.jp/disability/koyounoufu/om5ru8000000102p- att/q2k4vk000001srci.pdf
・佐藤郁也(2008)「質的データ分析法原理・方法・実践」新曜社.45‐52.
・清水達夫(2012)「最新労働法解説障害者雇用法制の動向と働くうつ・障害のある人の労 働問題:障害者雇用率の引き上げ、対象企業の広がり、精神障害者雇用の義務化、現行の 雇用率制度の問題点」『労働法学研究会報』(2539)28.
・精神保健福祉研究会(2017)「四訂精神保健福祉法詳解」中央法規出版社.3‐54.
― 94 ―
・武井麻子(2009)「精神科看護の展開」医学書院.261.
・中井久夫(2015a)「分裂病者における「焦慮」と「余裕」」『中井久夫の臨床作用』日本評 論社.154.
・中井久夫(2015b)「統合失調症の慢性化問題と慢性統合失調症状態からの離脱可能性」
『中井久夫の臨床作用』日本評論社.170.
・平成30年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト(2018)『高齢障害休職者雇用支 援機構障害者職業センター』14‐16
注記
本論文は東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科福祉社会システム専攻2017年度修士論文 を一部改変し執筆したものである。
一般事業所における精神障害者の継続雇用支援に関する研究 中山和子
Abstract:There are a few adopting psychiatric disability people on almost Japanese companies.Iconductedasurveyontwopsychiatricdisabilityparsonsandtwoemployers ofmanagementinthoseoffices.
Inordertoproceedwithemploypsychiatricdisabilitypeople,it’smosteffectiveforbeing thecontactforeliminatingprejudicedandfear.Theresult,mostimportantisnecessaryfor supportwithpsychiatricdisabilitypeopleatabletoexplainowndisability.Thiswasthe sameasinthepreviousstudy.
Keywords:psychiatricdisability,continuingemployment,eliminateprejudiced