民法改正の手法・手続

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Kyushu University Institutional Repository

民法改正の手法・手続

七戸, 克彦

九州大学大学院法学研究院 : 教授

http://hdl.handle.net/2324/12543

出版情報:民法改正を考える, pp.39-40, 2008-09-10. 日本評論社 バージョン:

権利関係:

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民 法 改 正 の 手 法

九州大学教授

提案

改正の範囲に関 して、当面の 目標 は債権法部分のみ とす るか、財産法全体 とす る につ き、早期の うちに、学界 の コンセ ンサス を得 るべ きである

改正の時期 (法案の完成 ・国会提出時期)に関 して、速やか に確 定 ・公表すべ きで る

改正 の組織 ・手続 に関 して は、「民 法 (債権法)改正検 討 委員 会」の組 織 ・手続 道 を改善 し、 これに準拠 して、法制審議会の実質的審議 を行 うべ きである。

1 改正の範囲

およそ法律一般 につ き、改正 に至 る流れは、

まず①法改正の必要性が生 じ、それに対応 して

②改正の範囲 ・規模が決 まり、そ して、それ ら

①改正の緊急度 と②改正の規模 との関係で③改 正の時期が決 まり、それを可能にするための④ 改正組織 と手続が決 まる、 とい う筋道 をとる

だが、今般進行 中の民法改正 に関 してい え ば、現在はいまだ② の段階‑ すなわち、改正 の範囲 ・規模 を、債権法部分 とするか、財産法 全体 とするかにつ き、いまだにコンセ ンサスが 得 られない状態 にある。 この うち、「債権法」

改正の方針 は、法務省か ら出 された ものであ り、その意向を受けて、平成18年10月、鎌 田薫 教授 を委員長、内田貴法務省参与 を事務局長 と す る 「民法 (債権法)改正検討委員会

が設立 された。同委員会は、学界の有志 による任意の 研究団体ではあるが、民事局の担当官 も参加 し てお り、②改正の範囲は、同委員会の検討範囲

となるもの と思われた。 ところが、第

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回全体 会議において、加藤雅信委貝 より 「債権法 に焦 点 を絞 ることについては、 どのように考 えてい らっ しゃるのか

との質問が提起 される加藤 委員は、同委員会の設立 に先立つ

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年前 (平成 17年11月)に、民法財産法の全面改正案の提示 を目的 とす る 「民法改正研究会

を立ち上げて いたか らである その結果、「この2つの研究 会 ない し委員会 は、独 立 してそれぞれの作 業 行 っている

状態 にあ り (加藤雅信 「日本民法改 正試案提示の準備のために」 ジュ リ1353 〔2008年〕

118頁)、加藤 「研究会」は、本年 (平成20年)3 月に 「民法改正国際 シンポジウム」 を開催 し、

本年秋 の 日本私法学会 シ ンポ ジウムにおいて

「日本民法改正試案」 を提示す る予定である と いう 一方、椿寿夫教授 らも、平成19年春 よ り 民法改正 に関す る共同研究 を開始 してお り、そ こで想定 されている②改正の範囲は、加藤 「研 究会」 と同様、民法財産法全域であるか ら、 こ の ような状況のまま進行すれば、以上の 3グル 39

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‑プは、それぞれ異 なった成果 を発表す ること となる

競争的 な草案 (法案)作 成 は、相 互の意思疎 通 が ない場合 には、作 業効 率 の悪 い手法 とな る。内田 ‑鎌 田 「委員会」 も、議事録 を見 る限 りでは、債権法以外 の部分の改正 を不要 とす る ものではない ようであ り (すなわち、①改正の必 要性がある個所は財産法全域にわたって存在すると の問題意識は一致 してお り、ただ、緊急性に関して のみ認識が異なる)、 したが って、他 の部分 の改 正 との整合性 を図 りなが ら、債権法部分のみ を 先行 して改正す る (すなわち、②改正の範囲に関 しては財産法全域 とし、ただし、(参改正の実施時期 を債権法部分 と他の部分でずらす)とい う形 での ア ジェ ンダ ・セ ッテ ィ ングは可 能 な はず で あ る

2 改正の時期

一方、③改正の時期 に関 して、内田参与 は、

「法制審が始 まった ら、最近 の傾 向 として、

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年がか りで審議す るな どとい うことは とて も認 め られ ませ んので、かな り迅速 な審議が 目指 さ れるのではないか と思い ます。そ して上手 くい けば、そ う遠 くない時期 に法案が作成 されるの ではないか と思い ますが、 ここか ら先 は推測で あって、正式 には後 日法務 省 が決 め る こ とで す」 と述べ るが (内田貴 「いまなぜ 『債権法改正』 か ?

」NBL872号 〔2008〕82頁)、 しか し、内 田 ‑鎌 田 「委員会」の 「改正 の基本方針 (改正 試案

) 」

が本年 度末 (平成21年3月)までの取 り まとめを予定 しているのに、法案の国会提 出時 期が定め られていないのは、遅す ぎる

3 改正の組織 ・手続

この点 は、④今後の立法手続 に関 して、従来 どお り、法務省内で担 当官 によ り原案 を固めた 後、法制審議会でオーソライズす るだけの手続 が想定 されているか らであろ うが、 しか し、 こ の簡略手続 をとるためには、内田 ‑鎌 田 「委員 会」の 「改 正 の基 本 方 針 (改正試案

) 」

の 内容 が、相 当程度固 まっている必要がある ところ、

現在 までの各準備会の作業結果 を見 る限 り、同

試案が、 どの程度の水準 まで到達す るか不安な 部分 もある その根本的な問題点は、マ ンパ ワ ーの不足 と偏 り (学者中心の草案作成)にあ り、

それが、上記②改正の範囲 との関係で、改正部 分 と財産法全体 との間の整合性 につ き、公表 ま で1年 を切 った今 もなお、定見が示 されない状 況 を生み出 し、個別論点 に関 して も、た とえば 第3回全体会議での債権者代位権 の報告 におけ る、直接 の移転登記請求が認め られているがゆ えに債権者代位権 は不要 との論は、中間省略登 記無条件肯定説あるいは登記請求権の法的性質 に関す る物権的登記請求権一元説 を当然の前提 に しているようにみえる。 また、改正試案 に関 しては、「理由書」の公表 も予定 されているが、

そ の内容 は、ボ ワ ソナー ドの旧民法草案注釈 や、 ドイツ民法典第 1草案理由書 と比較 して、

かな り貧弱 な出来になることが予測 される。だ が、委員の実力に関 しては、筆者 もよく存 じ上 げている 要は、十分 な検討 を行 うだけの時間 が、絶対的に不足 しているのである

この ような現状か らすれば、法制審議会の手 続 に関 しては、上記簡略手続 は行わず、新信託 法の制定 に際 して とられたの と同様の実質的審 議 を行 う方が よい。具体的な起草分担や手順 に 関 しては、内田 ‑鎌 田 「委員会」の手続 をパ イ ロ ッ ト・システム ととらえ、その欠陥個所 を改 善 した本 システムを立 ち上げる形で、改めて仕 切 り直 しをす るのが よい だ ろ う 上記 「委員 会」の欠 陥 の うち、マ ンパ ワー不足 に関 して は、若手 (准教授 ・講師 ・助教クラス)の有能 な 人材 を局付 に採用 し、 フルタイムで立案 に従事 させ る (ドイツ民法典では8人、日本の現行民法典 では3人の起草委員補助がいた。「委員会」の構造を そのまま移行させるならば、各準備会に1名、合計 5名が考えられる)。一方、「学 者草 案」へ の偏 向の対応 策 として は、法曹実務家 (裁判官 ・弁 護士等)のほか、金融機 関その他 の関係業界か ら、法的素養 と実務 に明る く、かつ熱意のある 人材 を派遣 して もらい (現行民法典の起草過程に おいては、実業界委員の不熱心が目立った)、委員 に加 える必要があろ う

(しちのへ ・かつひこ)

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