• 検索結果がありません。

放射能と食の安全 ~食品中の放射性物質の「基準値」の意味~

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "放射能と食の安全 ~食品中の放射性物質の「基準値」の意味~"

Copied!
1
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

放射能と食の安全

~食品中の放射性物質の「基準値」の意味~

1. はじめに

 未曾有の大地震と大津波で引き起こ された原発事故.原子力災害の実態は,

放射線障害というより「避難災害」と

「不安ストレス」だった.放射線への 過剰な不安と誤解は,被災者に追い打 ちをかけ,いわれのない絶望を強い,

復興を妨げる二次被害を生んでいる.

2. 私たちが怖れている放射線と

 地球には天然の放射性物質が存在

し,いつも自然界の放射線を浴びてい る.農作物にも人体にもカリウム 40 などの天然の放射性物質が含まれてお り,日本の平均では自然界の放射線は 年間約 1.5 mSv(図 1).さらに,年 間約数 mSv の医療放射線も受けてい る.

 放射線は細胞を傷つけることがある ので,強い放射線は生物にとって危険.

これを逆手にとって,放射線殺菌やが ん治療などに利用されている.しかし,

危険かどうかは放射線の量による.自 然放射線か人工放射線かは関係ない.

シーベルト(Sv)の数値が同じなら 内部被ばくも外部被ばくも人体への影 響やリスクの大きさは同じ.

 強い放射線は危険,大量の放射性物 質は強い放射線を出すので有害.しか し,今回の原発事故で避難されている 住民の方々で心配されるのは,放射線 の健康影響ではなく,むしろ避難生活 や屋外活動の制限など放射線防護措置 に伴う生活上の負担と過度の不安スト レスによる心理的・精神的影響である.

3. 放射線と健康影響

 生物の遺伝子(DNA)は,放射線 や紫外線,タバコの煙,呼吸で生じる 活性酸素,食品中の無機ヒ素やカビ 毒・アフラトキシン,加熱調理で生じ る多環芳香族炭化水素やアクリルアミ ドなどによって,絶えず損傷を受けて いる.しかし,生物は,DNA の損傷 を修復する仕組みや,異常な細胞を取 り除く仕組みを持っているので,ある 程度までの損傷は修復することができ る.

 その修復能力の限界を超えて一度に 大量の放射線を浴びると,生命活動の 維持に必要な細胞が死滅して障害が起 きる.これが「確定的影響」すなわち,

ある程度(=しきい値)以上の量の放 射線を受けると必ず出る影響(図 1).

 確定的影響が現れない範囲でも,一 度にある程度以上の多くの放射線を受

けた場合,その後の発がんリスクが高 まる.これが「確率的影響」すなわち,

多くの放射線を受けると出やすくなる 影響.一度に 1 Sv(1 000 mSv)でが ん死のリスクが 5%増加,100 mSv 以 上で 0.5%増加と推定されている.

 一度に受けた線量が 100 mSv 以下 の場合,原爆被爆者などの疫学調査で は,がんは増えていない.しかし,統 計的な誤差に隠れてしまうくらいわず かに増えている可能性もあるため,「増 加はない」と断定することはできない.

そこで,念のために「発がんの増加に はしきい値はない」と仮定し,どんな にわずかな線量でもそれなりにわずか にリスクがある,と安全側に立って用 心しておくのが国際的な放射線防護の 考え方である.

 一方,放射線は,同じ線量でも,ゆっ くり受けた場合は一度に短時間に受け た場合よりも健康影響が小さいことが わかっている.どれくらい小さくなる か,1/2~1/10 などのデータがあるが,

安全側に立って「リスクは 2 分の 1」

と仮定されている.実際には,インド のケララ地方の自然放射線が高い地域 の住民の疫学調査では,数十年間の累 積線量が 500 mSv を超える集団でも 発がんの増加は認められていない.

4. 食品中の放射性物質による健 康リスクは十分に低い

 法律上の一般公衆の線量限度「年間 1 mSv」は,何も利益がないリスクは 避けるのが賢明ということで,自然放 射線と医療以外の無用の被ばくは年間

1 mSv を超えないように放射線使用 施設を規制する,いわば環境基準のよ うなもの.安全と危険の境界線ではな い.

 食品中の放射性物質の基準値は,子 どもの健康にも配慮され,相当の安全 側に立った目安であり,ずっと食べ続 けても問題ないと考えられるレベル.

超えれば即有害と思うのは間違い.さ らに,現在出回っている食品中の放射 性セシウムによる内部被ばく線量は,

たとえば日本生活協同組合連合会の陰 膳調査では過大に見積もっても 0.011

~0.022 mSv とすでに十分に低い.一 部の業者のように消費者の安心のため と称して独自基準を設けても,リスク はほとんど減らず,「安全」には関係 ない.

5. おわりに

 チェルノブイリ原発事故で,増えた 病気は子どもの甲状腺がんだけだっ た.白血病や他のがん,先天的な奇形 の増加も,科学的に確認されていない.

むしろ,公衆衛生上の最大の問題は,

不安ストレスによる心的外傷など精神 的な影響だったと報告されている.

 放射線の影響はその量に依存する.

放射線の影響を侮ってはいけないが,

心配し過ぎてもいけない.科学的な知 識と正しい情報を味方につけて,無用 の不安や被災地を苦しめる風評被害

(風評加害),不安につけ込む詐欺的商 法などの「害」を減らそう!

(原稿受付 2012 年 6 月 5 日)

〔小林泰彦 原子力機構・量子ビーム〕

図1 人が受ける放射線の量と影響

出典:放射線医学総合研究所「放射線被ばく早見図」,農林水産省「放射性物質の基礎知識」を元に 一部改変http://www.nirs.go.jp/data/pdf/hayamizu/j/j120405-hi.pdf

http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/pdf/120301_kiso.pdf がん死のリスクが 線量とともに徐々 に増えることがわ かっている ラムサール(イラン)

自然放射線(年間)

確定的影響(女性の 不妊)のしきい値

2 500 〜 6 000 mSv 確定的影響(造血系の 機能低下)のしきい値

500 mSv 1 000 mSv

100 mSv 10 mSv

1 mSv 0.1 mSv ガラパリ(ブラジル)

自然放射線(年間)

Sv(シーベルト,実効線量)

放射線による人体影響のリスク の目安(100 mSv 以下では,発 がんの増加のリスクだけ)

がんについて統計的に有 意な増加が認められない 自然放射線の世界

平均 2.4 mSv /年 自然放射線の日本

平均 1.5 mSv /年 東京〜ニューヨーク間往復 宇宙線増加分 0.1 〜 0.2 mSV/回

1 Sv=1 000 mSv=1 000 000 μSv

─ 51 ─

日本機械学会誌 2012. 9 Vol. 115 No.1126 666

参照

関連したドキュメント

放射能濃度は、試料の輸送日において補正。

特定原子力施設内の放射性廃棄物について想定されるリスクとしては,汚染水等の放射性液体廃

粒子状物質 ダスト放射線モニタ 希ガス ガス放射線モニタ 常時 2号炉原子炉建屋. 排気設備出口 粒子状物質 ダスト放射線モニタ 常時

粒子状物質 ダスト放射線モニタ 希ガス ガス放射線モニタ 常時 2号炉原子炉建屋. 排気設備出口 粒子状物質 ダスト放射線モニタ 常時

ノッチタンク2基の天板ハッチ部蓋および天 板がずれ、降雨により放射性物質を含む雨

・例 4月8日に月1回の空気中放射性物質濃度測定

滞留水に起因する気体状の放射性物質の環境への放出低減のため地下開口部を閉

で、測定の際の管理の品質が低下しないよう、当社の委託した放射線管理員は、汚