Notes on Statistical Inference for Discretely Observed OU processes driven by a Fractional Wiener Process
増田 弘毅∗
シンポジウム「統計科学の理論と応用の新展開」
2004
年11
月30
日(
火)∼12
月2
日(
木)
九州大学Abstract
フラクショナルウィーナー過程で駆動されるオルンシュタイン-ウーレンベック過程について, 離散観測に基づいて未知母数の推定を考える. ガウス性により,データに対応する尤度を正確に 書き下すことは可能であるが,その表示はかなり複雑なものとなる. ここではエルゴード的な場 合を対象とし,拡散係数(定数)とHurst指数H∈(1/2,1)は既知であるとして,ドリフト項に入 る未知母数に関する簡単な積率型推定量を考える. 強一致性が導出される.
1
序離散観測に基づいた拡散過程の推測理論は70年代以降長い歴史を持ち,漸近有効推定量の構成およ びその分布の漸近展開の正当性の確立,または逐次推定など,様々な面で整備されてきている. 拡散 過程は広く言って,連続な標本路を持つマルコフ過程である. 近年は,これに跳びの確率変動を加え たより広いマルコフ過程の族に対する推測理論も整備されつつある. マルコフ型確率微分方程式は, 今日よく知られているようにその応用上の用途が幅広く, 今日現在, 統計物理, 数理ファイナンス, 水文学などの分野においてモデリングの道具として扱われている. 近年, 様々な応用分野で重要で ある長期記憶性をモデル化する目的で, Hurst指数H ∈(1/2,1)を持つフラクショナルウィーナー 過程で駆動される確率微分方程式が注目を集めてきている. 現在も, 従来のウィーナー過程の場合 の伊藤-マリアヴァン解析に対応する解析に関する研究は精力的に行われているようである.
1.1
マルコフ型ガウスOU
過程本講で対象とするのは, “一次元フラクショナルウィーナー過程で駆動されるオルンシュタイン-ウー レンベック過程” (略してFOU過程)である. その前にマルコフ型ガウスOU過程について簡単に 触れる.
X1/2= (Xt1/2)t∈R+で一次元ランジュバン積分方程式
Xt1/2=X01/2−
t
0 (γ+λXs1/2)ds+√
σw1/2t (1)
の解を表す. ここでwは一次元標準ウィーナー過程,γ∈Rおよびλ, σ >0は未知母数である. こ れは一次元拡散過程の中で極めて特殊なものであるといえる. この確率過程は連続時間のガウス型 自己回帰過程であり,解は
Xt1/2=e−λtX01/2+γ(1−e−λt) +√ σ
t
0 e−λ(t−s)dw1/2s , t∈R+, (2) と陽に与えられる. X1/2は不変分布としてN1(0, σ/(2λ))を持つ.
∗九州大学大学院数理学研究院,〒812-8581福岡市東区箱崎6-10-1; [email protected]
1
一方で,これは例えば平均回帰平方根拡散過程など,応用上よく現れる大半のエルゴード的な拡 散過程についていえることであるが,マルコフ型であるが故, その自己相関構造が非常に制限され たものになってしまう(減衰が早い,即ち弱相関過程)という欠点がある: 実際,X1/2の自己相関関 数はr1/2(t) = exp(−λt)で与えられる. これは(2)においてw1/2をより一般のレヴィ過程に取り 替えたバージョンについても成り立つ事実である. ここで,独立なマルコフ型OU過程の重ね合わ せによって,より減衰の遅い自己相関構造を入れることも可能であることに注意しておく.
1.2
フラクショナルOU
過程まず,長期記憶型の一次元フラクショナルウィーナー過程の定義を思い出しておく1. H ∈(1/2,1) に対し,ある確率過程wH = (wHt )t∈Rがフラクショナルウィーナー過程(FWP)であるとは, それ が平均零のガウス過程であり,共分散構造が
Cov[wHs, wHt ] =1
2(t2H+s2H− |t−s|2H), s, t∈R, (3) で与えられることであった. この場合wHはウィーナー過程と違って独立増分性を持たず,セミマ ルチンゲールの枠組みから外れる(但し, “fundamental martingale”を呼ばれるガウス型マルチン ゲールを対応付けることが可能である; cf. Norros et al. [14], Kleptsyna et al. [8, 9]). FWPにつ いては, ウィーナー積分による様々な表現が知られている; 例えばEmbrechts and Maejima [6]と その参考文献.
FOU過程は, (2)においてw1/2をwHに取り替えたものとして定義される2:
XtH=e−λtX0H+γ(1−e−λt) +√ σ
t
0 e−λ(t−s)dwsH, t∈R+. (4) フラクショナルウィーナー積分の共分散公式(例えばPipiras and Taqqu [15]参照)によってXHの 不変分布を実際に求めることができ,それはN1(γ, σHΓ(H)λ−2H)で与えられる;形式的にH= 1/2 とすればマルコフ型の場合になることに注意. 本講では定常な場合のみを対象とする. また,自己相 関関数rH(t)は,任意のN ∈Nに対してt→ ∞
rH(t) = σ 2
N
k=1
λ−2k 2k−1
l=0
(2H−l)
t2H−2k+O(t2H−2N−2) (5)
で与えられる. 従ってXHは長期記憶性を持ち, 更にXHはエルゴード性を持つ(cf. Maruyama [12]: より一般の無限分解可能過程を扱っている). FOU過程に関しては, Cheridito et al. [2]とそ の参考文献を参照されたい.
Remark 1. (5)はrH(t)のオーダーを与えているが,その正確な表現は実際は複雑なものであり, よってスペクトル密度関数の陽な表示は困難であると思われる: 例えばDahlhaus [3]は一般のガウ ス過程に対して最尤推定量の漸近有効性を示したが, XH を考える場合,推定量の計算に支障が生 じるであろう.
2 FOU
に関する統計推測についてここで考察する問題は以下のものである:
(4)で与えられるXHをモデルとして想定し, 離散的な観測(Xtni)ni=1に基づいてθ= (γ, λ)∈ R×(0,∞)の簡単な積率型推定を行う. ここで(tni)ni=0は0 =tn0 < tn1 <· · ·< tnnでn→ ∞のと きtni −tni−1 =hn→0かつtnn =nhn→ ∞となる時点であり, また(σ, H)∈(0,∞)×(1/2,1)は 既知とする.
1参考文献表にはフラクショナルウィーナー過程に関する確率解析に関するいくつかの文献を入れておいた.本文中では 触れないものが多いが,それらの結果はOU過程の枠組みを外し,より一般の“フラクショナルウィーナー過程で駆動され る非線形確率微分方程式に関する推測”を考察する際に重要となるであろう.
2ここではλ≤0の場合は考えない
2
2.1
連続観測の場合: 簡単な文献紹介連続観測の場合, 即ち観測値が(XtH)0≤t≤T である場合の推測についてはいくつかの既存の結果が ある. それらの殆どが最近(2000年以降)のものである.
1. Kleptsyna et al. [9]は, Norros et al. [14]の,像測度に関する絶対連続性(ラドン-ニコディム の定理)に関する結果を援用してXHに関する尤度を陽に求め,非再帰的な場合(λ <0の場 合)を込めて最尤推定量のバイアスを平均二乗誤差のT → ∞のときのオーダー評価を行った.
2. Prakasa Rao [16]は, 上記の尤度の表示をドリフト項が未知母数について線形な場合に拡張
し,鍵になる極限定理を仮定した上での最尤推定量の漸近挙動を論じた.
3. Prakasa Rao [17]は,拡散項が小さくなっていくような漸近手法のもとで一種の最小L1-距離
推定量の漸近挙動を論じた. この漸近手法の場合,極限として自動的に非確率的なモデルが現 れるので,エルゴード定理は不要である. 実際, 上記論文においてはT >0は固定された定数 である.
4. Prakasa Rao [18]は逐次推定を論じた.
Remark 2. 連続観測を想定した場合,拡散項は任意の有界区間[0, T]からσを推定することが可 能である: cf. Kleptsyna et al. [9]. これは連続観測される拡散過程の場合と同じである. この事実 により,例えば[0,1]上の離散観測(Xi/n)ni=0に基づいたσの推定が期待される.
Remark 3. 離散観測に関しては, 拡散過程の場合を周到して, 例えば上記で触れた連続観測に基 づいた尤度関数を離散化した推定関数を介して推定量を構成する方法が考えられるが,その尤度関 数をデータ(Xt)0≤t≤T のみで表すことは直接的には困難であろう. これは尤度関数にRemark 1で も触れた“fundamental martingale”が含まれることによる.
2.2
離散観測の場合: 積率推定量の強一致性定常分布はN1(γ, σHΓ(2H)/λ2H)であったことを思い出す. ここで扱うのは最も簡単な積率推定 量である. Remark 1でも触れたことより,計算し易い推定量を確保することは重要と言える.
q∈Nと多項式fについて成り立つ評価 1
n
n
i=1
f(Xtni−1)− 1 nhn
nhn
0 f(Xs)ds q
Lq(P0)(1−e−λhn)q+O(hHqn ) (6) とエルゴード定理を介して,以下が成り立つ:
次で与えられる積率推定量θˆn = (ˆγn,ˆλn)は強一致性を持つ.
γˆn = 1 n
n
i=1
Xtni−1, (7)
λˆn = [σHΓ(2H)]1/(2H)
1
n
n
i=1
Xt2ni−1−
1
n
n
i=1
Xtni−1
21/(2H) (8)
もし(γ, λ, σ, H)の全てが未知母数であるとすると, ガウス性から, 積率推定では平均と分散の 推定しかできないという不都合が生じてしまう点に注意する.
3
References
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