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Peer-Reviewed Article 査読論文 A Structural Analysis of Loyalty in Professional Baseball: A Comparative Case Study of Hiroshima Toyo Carp, Yokohama DeNA B

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(1)

A Comparative Case Study of Hiroshima Toyo Carp, Yokohama DeNA BayStars, and Yomiuri Giants

プロ野球ファンのロイヤルティ形成に関する 因果モデルの構築

― 広島東洋カープ,横浜 DeNA ベイスターズ,読売ジャイアンツの比較事例研究 ―

Erika Tanaka

 *1

早稲田大学 大学院経営管理研究科 修士課程

田中 江里華

*1 Graduate School of Business and Finance, Waseda University, Japan, erika.sep30@toki.waseda.jp

Abstract : In this study, the causal structure of loyalty formation in sport relationship marketing was analyzed to gain insights into long-term competitive advantage. A Japanese professional baseball team, Hiroshima Toyo Carp, has been successful in establishing strong customer loyalty and profitability for 45 years independently without a parent company.

Based on customer satisfaction index and service quality review approaches, a comparative quantitative survey was conducted for Hiroshima Toyo Carp and two other teams. First, a factor analysis indicated a difference in evaluation of service quality at each stadium and the value proposition for each team. Carp fans had an internal connection with other fans and self-actualization through watching a game, enabling strong customer satisfaction regardless of winning or losing. Second, a covariance structure analysis showed that, for all three teams, factors related to the game strongly affected customer satisfaction and loyalty, whereas stadium experience factors that were less related to the game did not necessarily affect these items. Furthermore, in the results for all teams, customer satisfaction and loyalty led to assimilation and cooperative intention. An implication of this study is that it is important to understand the value required by customers and strengthen subjective and objective benefits, which contribute to a deep and lasting relationship between companies and customers. We conclude by identifying future research based on fans of other teams or market segmentations.

Keyword : Customer satisfaction, Factor analysis, Covariance structure analysis, Relationship marketing, Sports marketing

要約:日本におけるスポーツビジネスの発展は重要な課題であり,野球単体で黒字化が難しいプロ野球業界では近年マーケティ ングの活用が進められてきた。一方で,広島東洋カープは12球団中唯一親会社を持たず45年間黒字を継続している。本研究 は,その長期的競争優位の因果構造を,JCSIの枠組みを用いてロイヤルティ形成という視点から考察する。読売ジャイアンツ,

横浜DeNAベイスターズを比較対象とし,因子分析と共分散構造分析で定量的に研究した。その結果,各ファンが評価する球 場体験,球場サービスの便益の違いが浮き彫りになり,カープファンは観戦を通したファン同士の繋がりと自己実現を評価し,

成績に左右されない顧客満足が実現できている事がわかった。さらに,三球団に共通して試合に関する要素が顧客満足やロイヤ ルティに強く影響する一方,試合と関連の低い球場体験は顧客満足に影響すると言いきれない事と,ロイヤルティが同化意向,

協力的行動に影響している因果構造が明らかとなった。顧客の求める価値を理解し,主観的・客観的な便益を強化することが,

企業と顧客の高次で長期的な関係性に寄与すると示唆された。

キーワード:顧客満足,因子分析,共分散構造分析,リレーションシップ・マーケティング,スポーツマーケティング Information : Received 11 August 2020; Accepted 13 November 2020

(2)

I.はじめに

1.問題意識と研究の背景

近年,日本におけるスポーツ産業は縮小傾向にあり,

政府が2016年に策定した日本再興戦略において,2025 年迄に現在の5兆円から3倍の15兆円市場に成長させ るという目標が掲げられている1)。日本のスポーツビジ ネスが欧米のように発展してこなかった理由の一つに,

マネジメントの違いがある。日本のプロ野球はオーナー シップ・スポンサーシップ・マネジメント一体型で運営 されてきたが黒字化が難しく,親会社の支援を前提とし た体質が2000年頃から問題視され,業界再編とマーケ ティング手法が積極的に取り入れられるようになった。

一方で,アメリカの「4大プロスポーツ」では各機能が 独立し(図1),チケットや会場のエンタテイメント性を 高め高収益化への工夫が行われている。連盟全体が収益 を管理し,地域別のチーム間格差を是正するために収益 を分配することで,リーグ全体が繁栄する仕組みが整っ ている。

本研究で着目した広島東洋カープ(以下,カープと称 す)は,日本のプロ野球12球団中唯一親会社を持たな い。2009年新設のスタジアムは動員に貢献しており,開 場した年は売上が71億円から117億円となり,その後 も右肩上がりに伸びている(図2)。2016年から3年連 続でリーグ優勝を果たした事も動員の増加に寄与したと

考えられる。2019年は四連覇を逃し,売上高は前年比減 収となった2)が,黒字経営は変わらず45年間継続してい る。VIP個室やパーティー席,砂かぶり席,寝ころび席 など観客のニーズに合わせた多様な観戦席をはじめ,段 差の無いコンコースなどエンタテイメント性溢れる球場 デザインや,独特の経営手法が参考にされている。

2.先行研究と本研究の意義

プロ野球ファンのロイヤルティに関する研究には,12 球団のサービス品質,顧客満足度,ロイヤルティの因果 関係を調査した研究(Suzuki, 2020)や,チームに対する ロイヤルティと満足度に関する研究(Takahashi & Suzuki, 2005)がある。試合成績が満足度に非常に大きな影響を 与える一方,球場サービスやアクセスの良さ,地域密着 化が観客数の増加や安定した経営に有効と指摘している。

一方で球場でのどのような主観的・客観的価値が満足度 やロイヤルティに繋がるかは今後の調査課題となってい る。本研究の価値は,プロ野球ビジネスの収益の柱であ るスタジアム来場に伴う客観的な球場サービスや主観的 な観戦の便益をファンがどう評価しているかを明らかに し,顧客満足とロイヤルティの因果モデルを構築する点 にある。球場サービスに対する評価の考察については,

サービス産業における企業ごとに異なる知覚品質の顧客 評価を因子分析によって明らかにしたSuzuki and Miyata

(2002)の研究を適用した。因果モデルの構築について

はSuzuki(2020)の先行研究をベースに,スタジアム来

球団マネジメント 日欧米の比較

チーム オーナーシップ

スポンサーシップ マネジメント

チーム オーナーシップ スポンサーシップ

マネジメント

日本の球団マネジメント 欧米の球団マネジメント 出典:Fukuda(2011)をベースに筆者作成

図 1  

(3)

場時の客観的・主観的便益の項目を追加し考察している。

学術的にはスポーツマーケティング,リレーションシッ プ・マーケティングへの考察,実務的にはスポーツビジ ネスのみならず,サービス産業に応用できる長期的顧客 ロイヤルティと競争優位の確立という経営課題に貢献で きるインプリケーションがあると考える。

II.仮説の立案と検証方法

ロイヤルティ形成に関する因果モデルを構築するにあ たり,調査対象は黒字経営を続けるカープに焦点を当て た。提示する仮説と考察は下記の通りである。

まず,新スタジアムのバラエティに溢れる観客席,球 団グッズ,飲食サービス,コンコースでのファミリー向 けイベントなどエンタテイメント性高い球場サービスが 高く評価されているという予想から,カープファンは試 合と関連の低い球場体験への評価が高い(H1)と考え る。さらに試合周辺の球場サービスだけでなく,熱狂的 な観戦を通して観戦体験に満足し,強いロイヤルティが 形成されているという予想から,他の球団のファンと比 べて,試合成績より観戦体験を重視し(H2),観戦体験 から一体感の便益をより強く受けている(H3)のではな いだろうか。観戦に欠かせない応援グッズの充実は経営

側がコントロールできる変数として重点的に取り組んで いる事からカープファンは球団グッズを通して自己表現 という便益をより強く感じている(H4)と考える。

以上のように,プロ野球のコアコンテンツである試合 の勝敗や選手だけでなく,観戦体験,球場体験,グッズ など周辺サービスの評価まで総合的に顧客満足に影響し ているためカープファンの顧客満足度は野球観戦に対す る全体的な品質評価から影響を受けている(H5)と予想 する。

さらに,近年話題となった「カープ女子」がユニフォー ムを着て応援する様子がInstagramやFacebookに投稿さ れ,ファンコミュニティが広がっているという予想から,

カープファンはソーシャルメディアへの関与度が高い

(H6)と考える。最後に,相対的にファンのロイヤルティ が高いという予想から,球団・ファンに対する協力的行 動意向が高く(H7),チーム・ファン同士の同化意向が 高い(H8)。つまり選手や球団,地域に対するコミット メントがより強い(H9)。そのロイヤルティの強さから,

カープファンの試合評価は顧客満足度・ロイヤルティに 因果関係の影響を与えない(H10)と考える。

H1は試合と関連の低い球場体験に関する客観的サー ビスに対する便益,H2, 3, 4は主観的な観戦体験の便益,

H5は球場体験と観戦体験の総合的な便益,H6, 7, 8, 9, 10 はロイヤルティに関する仮説である。書籍,記事,実地 広島東洋カープの過去 12 年の売上高

71 117.1

98.4 106.6

148.3

182 188 189.4 169

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 新スタジアムオープン

単位:億円 96.5 103

128.7

出典:Itou(2017),The Chugoku Shimbun(2020)をベースに 筆者作成

図 2  

(4)

調査,先行研究から以上の仮説とそれらを検証するため の因果モデル(図3)を設定し,質問票を5件法で作成 した。質問項目はSuzuki(2020)のACSIに基づく顧客 満足度アプローチとJCSIモデルをベースに,スタジアム 来場時の客観的・主観的便益の項目を追加して作成した。

独立変数は球団やチームに対する評価・認識に関する質 問27項目,従属変数はロイヤルティの強さを測る質問 34項目,合わせてファンクラブ加入状況,応援年数,観 戦動機,WTP(willingness to pay:支払意志額)等属性 に関する質問17項目を設定した。カープの競争優位性 を明らかにするため,読売ジャイアンツ(以下,ジャイ アンツ)と横浜DeNAベイスターズ(以下,ベイスター ズ)を比較対象とし,年二回以上応援に行くロイヤルティ の高いファンを調査対象とした。サーベイは楽天インサ イト株式会社を通して2019年11月に実施し,全国から 各球団200人,計600の有効回答数を得た。そして,IBM SPSS Statistics version26を 用 い た 因 子 分 析 ,AMOS

version25を用いた共分散構造分析で品質評価とロイヤル

ティ形成の構造を分析した。

III.結果

1.因子分析

1)三球団のファンが求める便益の違い

まず独立変数を使った探索的因子分析により,観戦前 の期待,球場体験・観戦体験・選手・グッズ・試合など の全体的な品質評価,コストパフォーマンスに対するファ ンの評価を分析した結果,球団ごとにファンが評価して いる便益の種類が異なるという示唆を得た。カープはファ ン同士の一体感と自己実現(表1),ベイスターズは球場 体験の総合的な満足感,ジャイアンツは選手と試合のク オリティが第一因子として確認できた。つまり各球団の ファンが球団・球場のサービス品質をどのように評価し ているかが明確になった。この結果を根拠に下記の仮説 1~4を検証している。

2)仮説 1~4 の検証結果と解釈

因子分析の結果,試合以外の球場体験の要素の中でも,

試合観戦と親和性の高い観客席や応援グッズで構成され る「観戦と関連の高い周辺サービス」がカープファンの 検証する仮説モデルと各因子を構成する尺度の概要

全体 ばらつき ニーズ

品質対 価格 価格対

品質

全体 ニーズ 信頼性 信頼性

グッズ

関連購買 頻度拡大 持続期間

ソーシャル メディア 対人口コミ

球団 ファン

球団 ファン

顧客期待

企業・ブランド への期待

協力的 行動

同化 再購買

意向

推奨意向

WOM, e-WOM

顧客満足

ロイヤルティ 知覚価値

コストパフォー マンス

知覚品質

全体的な品質 評価

WTP

顧客 属性

愛着 信頼 誇り 地域 愛着 観戦体験

球場体験 選手

独立変数 従属変数

全体 選択 満足 生活

満足

○潜在因子, □観測変数, 誤差項は省略。

図 3  

(5)

場合第二因子であった。それに対し,観戦と関連の低い 飲食サービスや娯楽施設イベントの観測変数は因子負荷 量が低く,観戦体験ほど強い影響を与えていないと解釈 できる。一方で,ベイスターズファンの第一因子は,球 場設備・店舗・応対に関連する「球場体験の総合的な満 足感」である事が確認された。そのため試合と関連の低 い周辺サービスに対する評価はカープファンより強いと 推察できる(H1を棄却)。

次に「ファン同士の一体感と自己実現」がカープファ ンの球団に対する品質評価を構成する第一因子で,「応援 歌や掛け声を通して,ファン同士の一体感を感じる」と いう変数の因子負荷量が最も高かった。その為試合成績 より観戦体験から影響を受けている傾向にあり,一体感

の便益はカープファンが一番評価していると言える。一 方,ジャイアンツは「選手と試合のクオリティ」を構成 する観測変数群が第一因子であったため,試合成績より 観戦体験を重視しているとは言えないと解釈できる。ベ イスターズは,第一因子が「球場体験の総合的な満足感」

で,特に試合や設備,店舗,応対への品質対価格満足の コストパフォーマンスに関する尺度の因子負荷量が高く,

観戦体験やファンの一体感より総合的な球場体験を重視 していると解釈できる(H2,H3を支持)。

最後にカープファンの「球団グッズの所有を通して自 己表現ができている」という観測変数は,第一因子「ファ ン同士の一体感と自己実現」を構成する尺度であり,因 子負荷量も0.69という高さであったため,一番強い影響 広島東洋カープの探索的因子分析結果

観測変数

(球団やチームのサービス・クオリティに関する質問項目)

因子

1 2 3 4

ファン同士の 一体感と 自己実現

関連の高い 観戦と

周辺サービス 試合成績 球団グッズの 独自性

x8 応援歌や掛け声を通して,ファン同士の一体感を感じる 0.91

x11 お気に入りの選手がいる 0.70

x1 観戦前に,試合の勝敗や成績について,非常に期待していた 0.69

x18 球団グッズの所有を通して自己表現ができている 0.69

x10 観戦を通してそこに自分の居場所を感じる 0.57

x17 球団グッズの所有を通してファン同士の一体感を感じることができる 0.56

x9 ラッキーセブンでファン同士の一体感を感じる 0.53

x2 観戦前に,球場設備や店舗・応対など,試合以外の内容に非常に期待していた x7 球場のフード・ドリンク商品は常に工夫が凝らされている

x13 選手は,自分達が支えてきたという自負がある

x24 過去 1 年間,球場設備や店舗,応対など試合以外の球場サービスは非常に優れていた

x25 過去 1 年間,球場設備や店舗・応対には,何も不備や不都合は生じなかった 0.67

x5 観戦席はバラエティに富んだ独自性がある 0.48

x16 球団グッズは球場以外の色々な場所で購入することができる 0.48

x22 観戦全体に使った金額や時間に見合う十分な試合・球場サービスを受けた x12 過去 1 年間,常に選手は全力で戦い迫力ある面白い野球を見せていた

x20 チケットは入手しやすい 0.65

x23 過去 1 年間のそのチームの試合成績は非常にすぐれていた 0.58

x26 過去 1 年間の球場経験から,チーム・球団・球場は自分の個人的な要望に十分に応えてくれた 0.57 x21 球場での試合や設備・店舗・応対に対し,満足するチケット代/球場サービス代である

x6 球場の娯楽施設は常に面白いイベントを実施している

x14 球団グッズは常に新しく更新されている 0.90

x15 球団グッズはユニークさ・独自性がある 0.75

因子間相関 0.62 0.43 0.73

0.43 0.64 0.43 注)因子負荷量0.45以上のみ記載。

因子抽出法:最尤法

回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法 9回の反復で回転が収束しました。

表 1  

(6)

を与えていると解釈できる。それに対し,クッズを通し た自己表現は,ジャイアンツは第二因子,ベイスターズ は第三因子を構成する尺度であったため,カープファン が三球団のうち相対的に最も強く影響されていると解釈 することが出来る(H4を支持)。

2.共分散構造分析

1)ロイヤルティ形成における因果モデルの検証 次に共分散構造分析を用いてロイヤルティ形成の因果 関係を検証する。まず全球団のデータをもとに三球団統 一モデルで検証した(図4)。適合度はGFIが0.9未満だ が,本研究は観測変数が60個以上である為,説明力が 無いとは判断できない事,さらにRMSEAは適合指標と される0.05以下に近い事から,妥当な結果と判断した。

次に三球団別のデータを用いた分析結果を表2に示 す。三球団に共通して,顧客期待から知覚品質,知覚品 質から知覚価値,顧客満足からロイヤルティ,ロイヤル ティから再購買意向,推奨意向,協力的行動,同化意向 への影響があるという事が確認できた。しかし,知覚品 質から顧客満足と知覚価値から顧客満足のパス係数は,

5%水準で有意ではなく,野球観戦・球場体験の全体的

な品質評価やチケット・球場サービスのコストパフォー マンスは顧客満足に影響を与えるとは言いきれない事が わかった。さらに,顧客満足やロイヤルティと顧客属性 やWTPの有意な関係性は確認できなかった。球団によ る違いが鮮明に出たのは,カープの顧客期待は知覚価値 と顧客満足への影響が有意で無かった一方,球場体験の 総合的な満足感を評価しているベイスターズは顧客期待 から知覚価値,顧客満足への影響が有意であった点,選 手と試合のクオリティを重視しているジャイアンツファ ンは期待から満足への影響が高水準で有意であった事で ある。以上の共分散構造分析の結果をもとに,仮説5~

10の検証結果を導いている。

2)仮説 5~10 の検証結果

まず共分散構造分析の結果,観戦体験・観戦以外の体 験を含む全体的な品質評価から顧客満足へのパスは三 チーム共通モデルでは1%水準で有意となったものの,

チーム別の分析では全ての球団において5%水準で有意 とならなかった(表2)ため,全てのチームにおいて全 体的なサービス品質の評価は顧客満足に影響を与えてい るとは言い切れない事がわかった(H5を棄却)。

顧客満足とロイヤルティの構造(三球団統一モデル)

顧客期待

企業・ブランド への期待

協力的 行動

同化 再購買

意向

推奨意向

WOM, e-WOM

顧客満足

ロイヤルティ 知覚価値

コストパフォー マンス

知覚品質

全体的な品質 評価

.78***

1.05***

.51***

.95***

.89***

.84***

.29**

.91***

-.18*

.42**

適合度指標 n=600, GFI=.644, AGFI=.62, CFI=.739, RMSEA=.064 注)図中のパス係数は標準化係数を表す。

有意なパスのみ記載。*** 0.1%水準,** 1%水準,* 5%水準で有意。

観測変数,誤差変数は省略。

図 4  

(7)

次にロイヤルティから推奨意向(対人口コミ・ソーシャ ルメディア)へのパス係数の有意確率は,ジャイアンツ

の0.1%水準に対し,カープは1%水準である(表2)事

と,ソーシャルメディア(Facebook, Twitter, Instagram)

に関する観測変数とロイヤルティの相関係数が,カープ はベイスターズと共に有意ではなかった事を根拠とした。

カープファンはインターネットより対人口コミ意向の方 が平均値は高く(WOM4.16, e-WOM2.09),球場でのファ ン同士の一体感に価値を感じていると解釈できる(H6 を棄却)。

ロイヤルティ因子から協力的行動因子,同化因子への 関係は,全球団0.1%水準で有意を示した(表2)が,因 子を構成する観測変数の平均はカープが最も高く(協力 的行動:カープ3.56,ベイスターズ3.2,ジャイアンツ

3.14,同化:カープ3.68,ベイスターズ3.26,ジャイア

ンツ3.21),t検定でこの差は0.1%水準で有意であった

為,相対的にカープが最も高いと解釈した(H7,H8を 支持)。

ロイヤルティ因子を構成する観測変数の平均はカープ が最も高く(カープ4.22,ベイスターズ3.89,ジャイア

ンツ3.63),t検定でこの差は0.1%水準で有意であった

為,相対的にカープが最も高いと解釈した。さらに共分 散構造分析から得られたロイヤルティ因子の重相関係数 の平方(決定係数)はカープ0.904,ジャイアンツ

0.846,ベイスターズ0.838となり,カープが最も高く

なった。そのため,ロイヤルティという内生変数が,選 手や球団,地域に対するコミットメントの観測変数によっ

て90%説明される事がわかり,その割合が相対的に高い

傾向が明らかとなった(H9を支持)。

最後に,試合評価に関する三つの観測変数「観戦前の 試合の勝敗への期待」「過去一年間の試合成績の評価」「過 去一年間の観戦試合の内容への評価」を選択し,顧客満 足とロイヤルティとの因果関係を明らかにするため,重 回帰分析を行った。その結果,三球団とも勝敗への期待 や試合の質は顧客満足とロイヤルティに影響するとわ かった。決定係数R2が0.46~0.53である事からも,三 球団に共通して試合の要素が顧客満足に強く影響すると 明らかになった。しかし,カープのみ試合成績の評価は 顧客満足とロイヤルティに影響するとは言いきれない結 果となった(表3)。この結果からH10は一部支持で,

カープは勝敗に左右されない経営戦略が実現できている といえる。

IV.結論と考察

1.総合的な結論

サービス品質評価に関する因子分析とロイヤルティ形 成の因果モデルに関する共分散構造分析の仮説検証から 以下5点を結論として挙げる。

1)顧客満足は経営側でコントロール出来ない試合から の影響を強く受けている

試合以外の球場体験を含む全体の品質評価から顧客満 足への影響が三球団とも5%水準で有意でなかった一方,

試合に関する観測変数(勝敗への期待,試合の質・試合

顧客満足とロイヤルティの構造モデル 三球団の比較

チーム

パス係数(標準化係数) 適合度指標

期待 期待 期待 品質 品質 満足 ロイヤルティ ロイヤルティ ロイヤルティ ロイヤルティ

GFI AGFI CFI RMSEA

品質 価値 満足 価値 満足 ロイヤルティ 再購買 推奨 協力 同化

3 球団統一モデル .78*** -.18* .51*** 1.05** .42** .95*** .89*** .29** .84*** .91*** .644 .62 .739 .064 広島東洋カープ .79*** 1.23*** .94*** .84*** .27** .82*** .91*** .539 .507 .648 .078 横浜DeNAベイスターズ .74*** -.31* .49** 1.11*** .91*** .85*** .27** .8*** .88*** .563 .533 .677 .074 読売ジャイアンツ .81*** .87*** .81*** .9*** .94*** .56*** .88*** .92*** .518 .485 .682 .073 注)パス係数が空欄の箇所は5%水準で有意ではないことを表す。

*** 0.1%水準,** 1%水準,* 5%水準で有意。

表 2  

(8)

成績への評価)から顧客満足の影響が,一部の例外を除 き有意となった為である。この事から,プロ野球ビジネ スのロイヤルティ形成において,経営側がコントロール 出来る変数によって確実に顧客満足度を上げることが難 しく,勝敗・試合の質といったコアプロダクトとしての 試合自体の競争力を高めていく努力が必須であると言 える。

2)試合以外の周辺サービスは観戦の便益を高めるため の補助的な位置づけと考えるべき

試合以外の要素はコアプロダクトとしての野球の便益 を相乗効果としてより強めるための位置付けとし,その 便益を高める努力が必要であるといえる。試合と関連の 高いサービス,試合と関連の低いサービス全てを含む知 覚品質因子から顧客満足へのパスが,H5における球団 別の分析では5%水準で有意ではなかった。しかし,探 索的因子分析の結果を鑑みると,応援グッズや独自性の ある座席など観戦と親和性の高い要素は,芯となる野球 観戦の便益を高める効用をもつと考える。知覚品質は,

試合の質,観戦体験,選手,グッズ,球場の設備や店舗・

応対,飲食以外の娯楽施設,チケットの要素で構成され る。試合の質,観戦体験,選手といったコアプロダクト だけでなく,試合と関連性の高い周辺サービスを強化す る事は経営の安定に有効であるといえる。

3)ファンのサービス品質評価はチームによって異なる 全体的なサービス品質評価を構成する観測変数の探索 的因子分析からこの結果が得られた。この事から,同じ スポーツビジネスでも,チームによって顧客の品質評価 が全く異なると言える。三球団の違いとして,カープは

「観戦体験を通してファンの一体感と自己実現が得られ る」,ベイスターズは「球場体験の総合的な満足感があ る」,ジャイアンツは「選手と試合のクオリティが高い」

というファンの評価により,ロイヤルティが高められて いる。球団の経営戦略として,ファンが野球観戦とその 周辺サービスからどのようなベネフィットを感じている か理解を深め,ロイヤルティを高める要因に効果的に影 響するよう施策を計画する事が重要であると言える。

試合評価と顧客満足度・ロイヤルティの重回帰分析結果

Dependent variable: Dependent variable: Dependent variable:

広島東洋カープ - - - 横浜 DeNA

ベイスターズ - - - 読売

ジャイアンツ - - - -

顧客満足度 ロイヤルティ 顧客満足度 ロイヤルティ 顧客満足度 ロイヤルティ

勝敗の期待 0.39*** 0.29*** 勝敗の期待 0.25*** 0.15*** 勝敗の期待 0.33*** 0.19***

(0.04) (0.05) (0.04) (0.05) (0.04) (0.04)

試合成績 0.06 -0.01 試合成績 0.21*** 0.15** 試合成績 0.21*** 0.19**

(0.04) (0.04) (0.06) (0.06) (0.05) (0.05)

試合の質 0.24*** 0.24*** 試合の質 0.33*** 0.44*** 試合の質 0.26*** 0.28***

(0.05) (0.06) (0.06) (0.06) (0.06) (0.05)

Constant 1.28*** 2.08*** Constant 0.85*** 1.03*** Constant 0.62*** 1.18***

(0.22) (0.23) (0.23) (0.23) (0.20) (0.19)

Observations 200 200 Observations 200 200 Observations 200 200

Adjusted R2 0.46 0.31 Adjusted R2 0.48 0.44 Adjusted R2 0.53 0.47

F Statistic 56.62*** 30.44*** F Statistic 62.07*** 54.17*** F Statistic 76.37*** 60.46***

Note: *p<0.1; **p<0.05; ***p<0.01 Note: *p<0.1; **p<0.05; ***p<0.01 Note: *p<0.1; **p<0.05; ***p<0.01 表 3  

(9)

4)ロイヤルティは協力的意向・同化意向に影響して いる

本研究では,球団と顧客との強固な関係性である協力 的行動や同化意向はロイヤルティとの正の相関である関

係性が0.1%水準で有意であった。この強い関係性を強

化していくことが,チーム・球団の長期的な競争優位性 に寄与するといえる。

5)カープの競争優位の源泉は,観戦を通したファン同 士の一体感と自己実現,試合成績の評価に左右されない 顧客満足度にある

最後に,本研究で検証した広島カープの独自の競争優 位性で明らかになった事は,観戦を通した一体感と自己 実現の便益をファンが強く感じている事で,試合成績に 左右されない顧客満足が実現できており,成功している グッズ戦略がその実現をサポートしていると解釈できる。

一方で,ソーシャルメディアを活用したマーケティング については今後カープが取り組むべき課題と言える。

プロ野球ビジネスの顧客満足はコントロールできない 試合に強く影響を受けており,客観的な周辺サービスだ けで顧客満足を確実に高めることは難しい。チーム毎に 異なるファンの求める価値を理解し,球団グッズや観戦 席,飲食など試合と関連の高いサービスと観戦価値を組 み合わせて主観的な観戦体験の便益を最大化するよう顧 客体験をデザインすることが有益であり,チームとファ

ンの長期的で高次な関係性や高い生産性に貢献すると考 える。

2.外的妥当性の検討,サービス産業へのインプリケー ション

外的妥当性の検討として,プロ野球に限らず,特にス タジアム応援型のプロスポーツビジネスに本研究の結論 は応用できると考える。スポーツビジネスおける重要な ポイントは,「予測の出来ない勝敗」を提供する特殊な領 域であり,顧客ロイヤルティを維持・向上させるために は,ファンの求める便益を理解した上で,観戦体験をよ り楽しませるための周辺サービスを充実させ,有形性と 無形性のサービスを組み合わせたハイブリッドな顧客経 験を提供することが必要であるといえる。スポーツビジ ネスに限らず,サービス産業においても,企業と顧客の 強いファンコミュニティ醸成を通した長期的な競争優位 性の確立という視点で,応用できるインプリケーション があると考える。企業がロイヤルティの高い顧客を創造 するために活用すべき経営資源は,図5の通りであると 考える。

プロ野球でいう野球といったコアプロダクト(試合や 選手といった野球コンテンツ,観戦体験)を強化するこ とと,その周辺要素としてコアプロダクトとの親和性が 高い周辺サービス(観戦席や応援グッズ),その次にコア プロダクトとの親和性が低いサービス(飲食サービスや 企業が強化するべき経営資源としてのプロダクトの層

コアプロダクトと親和性の高いサービス・商品

(観戦席,応援グッズ)

コアプロダクトと親和性の低い球場のサービス・商品

(飲食サービス,イベント)

コアプロダクトと親和性は高いが活用できていない領域

(ソーシャルメディア)

コアプロダクト・中核となる便益

(野球コンテンツ,観戦体験)

図 5  

(10)

コンコースでのイベント),さらに現在はまだ活用できて いないが今後さらに活用するべき領域(ソーシャルメディ ア,デジタルコンテンツ)であると考える。その優先順 位は,業界での競争ポジションと自社の顧客の便益を理 解した上で,上記の順にその便益を強化していくべきで ある。顧客の求める価値を理解した上での主観的・客観 的な便益の強化が,企業への協力活動,同化意向を伴う 高次で長期的な関係性の構築に寄与する。そしてその強 固な関係性の構築こそが企業の長期的な競争優位性に寄 与すると言うことができる。

3.本研究の限界と今後の課題

本研究はロイヤルティ形成のモデル構造を構築するた めに確認的・探索的因子分析,共分散構造分析を用いて 検証してきた。最後に,本研究の限界と今後の研究課題 を述べる。第一に分析対象が三球団に限定されている事。

本研究の結論がプロ野球ファン全体で言えるか,他球団 との違いを比較検証した際にどのような結果となるか,

今後はより広範囲な球団を対象にした考察が必要である。

第二に分析手法に関する限界である。カープファンを中 心にチーム毎の違いを検証したが,共分散構造分析は異 なる母集団の横比較が統計的な有意性という判断基準で しか明確に出来なかった。補足として本研究ではt検定 や相関係数を用いたが,多母集団同時分析という方法を 用いれば異なる母集団間のパス係数の違いを比較するこ とができるため,最適な分析手法を用いてさらなる考察 が有用であると言える。第三に,顧客属性による違いが 考察出来ていない事。本研究では,顧客属性やWTPと 顧客満足,ロイヤルティの有意な関係性は確認出来なかっ た。しかし,性別,年代,応援年数によるロイヤルティ 形成構造の違いは少なからずあると思われる。顧客層を セグメンテーションしターゲットごとに戦略を実行する という実務へのインプリケーションを得るためにも,属 性によるロイヤルティ構造の違いは今後明らかにしてい く必要がある。

謝辞

本論文の作成にあたり,早稲田大学大学院経営管理研 究科の内田和成教授,川上智子教授,菅野寛教授の御指

導をいただきました。清水たくみ准教授,青山学院大学 の黒岩健一郎教授,調査対象企業のご担当者様にも御助 言をいただき深く感謝申し上げます。そしてマーケティ ングレビューのシニアエディターの皆様,マーケティン グカンファレンス2020オーラルペーパー査読者の皆様 からは改稿のための貴重な意見をいただきました。ここ に記して感謝を申し上げます。

注1) Nikkei(2019)。

2) The Chugoku Shimbun(2020)。

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参照

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