自己決定力と体験学習に関する一考察
‑きのくに子どもの村小学校のプロジェクトを中心に一
学校教育専攻 幼児教育コース 今 井 孝 弘
1.はじめに
近年、学校教育に対する厳しい批判がなされ ている。明治以来続いてきた近代学校を象徴す る「教師・教材・教科書・教室・授業・時間割J による「教え.教えられるJ関係が、制度的な学 校内の時間・空間的システムを仲立ちにして、
大人と子どもの人間関係、を大きく規定し、子ど もの輔ぎや逃避ともいうべき小一プロブレムや 不登校を生み出している。今、学校は子どもの
「学びJの場であると同時に、子どもが「育つJ 場であることから、「教え‑教えられる Jという 関係から、「育む一育つJ関係への移行が求めら れているのである。
本研究は、「学年の壁がない、教科の壁がない、
子どもと大人の壁がない」という「きのくに子 どもの村小学校J (以下「きのくにJと略す)の プロジェクト活動を中心に、この「育む一育つ」
関係を探ることを目的とする。
2.きのくに子どもの村小学校の教育恵念
「きのくにJは、 1992年4月に和歌山県橋本 市の山中に誕生した私立学校である。学園長堀 真一郎氏が、イギリスのサマーヒルを創立した ニイル(Neill,A.S.)の自由、自治の教育観とデ、ユ ーイ(Dewey,J.)の「活動的な仕事J(active occupations)の考えを採り入れた「プロジェク
トJから発想した新たな理念を実践している。
自由な子どもの育成と教育方針は以下の通り である。「きのくにJが目指す自由な子どもとは、
指 導 教 官 橋 川 喜 美 代
「自分自身で考え、主体的にいきいきと活動し、
人と心を通わせて生きる子ども」である。その ために、①感情の自由:内面的な抑圧や不安か らの解放、②知性の自由:自分自身の頭で考え る態度と能力、③社会的な自由:自分自身の生 き方をしながら、自分をコントロールし、周り の人と目標や願いを共有していくことを喜びと する、という 3点から成長を評価する。
そして、①自己決定の重視、②個性尊重、③ 体験学習、の3原則を現代学校教育の問題を克 服するものとして重視する。子どもの自己決定 力を育むために、「権威にすがったり、伝統的な ものの見方や世論へと逃避しないでJ、子ども自 身の発想や実験、自己評価を大切にする。子ど もの失敗を大切にし、「誤りや失敗があっても、
落ち込んだり他人を恨んだり、ヤケクソになっ たりしないで、またやり直すJことを評価する。
3.きのくに子どもの村小学校の実践
プロジェクト活動は、人聞が生活を送る上で 基礎的な営みである衣食住の3つに題材を求め、
「生きること」がテーマとなっているD 教師は、
自分が得意とする分野の活動を提案し、内容の 近い2人が担当する。2001年度の小学校のプロ ジェクトは、「工務庖J(建設、木工、園芸)、「フ ァームJ(農業)
r
おりもの工房J(染め物、織り 物)、「よくばりキッチンJ(料理と食生活の研 究)、「わくわくいきものくらぶJ(飼育)である。このプロジェクトがそのままクラスを意味し、
子どもたちは中身を見て、自由に決定する。し たがって、完全な縦割り学級となる。子どもた ちは、 4月にプロジェクトを選び年間計画を立 て、何度となくミーティングを重ねながら、活 動へのイメージを明確にしてしだ。ちなみに、
「工務庖Jの活動内容は、園芸、建設・工作、
きのくにの研究、雑誌の発行といった4つに分 かれる。子どもたちは雑誌の発行を中核に、他 の3領域、さらに基礎学習や周辺の活動へと興 味・関心を拡大発展させ、自発的、積極的に活 動に取り組んでし、くo例えば、水車づくりでは、
子どもたちは直径1.5mの水車を3ヶ月かけて 建設する一方、実際に水車が回っていた当時の 話を区長さんから聞いたり、図形や角度、水や 車を使った漢字を学び、水車と産業革命、水の 動力、環境問題へと関心を発展させていくo
次に、プロジェクトでの具体を明らかにしな がら、自分自身の目でものを見、自らの失敗を 乗り越えて生きる子どもの姿を辿ってみよう。
4.プロジェクトにみる自律した子どもの育成 ( 1 )研究目的:ホンモノの仕事の中に見られ る、子どもによる自己決定の実際と、子どもの 学習意欲を喚起する教師の働きかけを探る。
( 2 )
研究方法観察場面:工務庖のプロジェクト活動
抽出児:2001年4月から「きのくにJに入学し た6年生S君を抽出し、ビデオ収録を行った。
期間:2001年5月 31日から 11月1日までの 計 10日間
2001年の建設・工事は、「道(遊び場)づく りJである。 6月7日、子どもたちは学校や寮 周辺の建物や道が書かれた白地図のプリントに、
各々自分の作りたい道、遊び場、公園を書き込 んでして。 S君はなかなか思い通りのものが書 き込めない。堀先生はS君の隣で、既に完成さ
せた N君のプリントから書き込んだものを一つ ひとつ確かめ、子どもの考えを聞いている。 S 君はそのプリントを覗き込み、やがて自分のプ
リントを完成させた。
6月 14日、 S君は議長役を申し出る。ミーテ イングの内容は、近道としての階段(梯子型) をつくる際に、 2本の丸太の間に横木をどのよ うに取り付けるのかというものである。上下の 向きと長さを揃えた2本の丸太の間に、実際に 横木を置いてみることになった。解決すべき課 題は、①丸太の太い方を、上にするか下にする か、②「階段Jの足場として、三角柱(横木) のどの面を固定するのか、というものである。
S君:rじゃあ、どっちにするか、まず聞くで、意見出して。 J T君:rあっち(丸太の細い方が)上。」
S君:r他に。」
D君:rあっち(細い方)上。あっちの方が大きいやんか。・.J 細い方が上という意見ばかり出てくる。 S君は意見の理由 も聞かないまま、多数決をすぐに採ってしまう。
S君:r・・じゃあ、何個、階段(横木)置くか。あっち上や で考えてな。ああ、まず何度か決めよっか、梯子をかける・・・ J
S君は、どう表現していいのかわからず、黙ってしまう。
堀先生は、「・・ S君が言っとることは、こういうことやで。j と言いながら、実際に三角柱の面を変えながら、 S君が表現で きない部分を補足していく。
堀先生の意見にS君は領きながら、全員に向けて、もう一度 その意見を繰り返しながら、一つひとつ確認していく・.
S君は、議長役を体験しながら、具体物を使 った説明の仕方を教師の助けを借りながらも務 めたことで、自らの考えや他者の意見を熟考す る態度が徐々にではあるが育ちつつあると言え る。今までは、手も上げずに勝手に発言したり、
「いいと思います。Jと理由を付けずに発言した 様子から考えれば、大きな進歩である。まだ独 断に走りがちだが、他者がみえるようになった。