経済と経営 45−1(2014.11)
論 文>
危険な海岸漂着物
地方自治体の認識
浅 野 一 弘
1.はじめに 日本列島は四面環海,漂着列島と称してよい ような状態にあり,全国各地の 地元で古老の話 を聞いたり,地名や過去の文献,絵馬などを調べてみると,漂着にまつわる話はきわめて多く,多 彩である とされる。その一例として,正倉院に保管されている,椰子の実をあげることができる。 この椰子の実は, 内果皮( )の部 にある発芽孔三孔のうち二孔を目玉,一孔を口とし,三孔の 部 を正面から見ると,あたかも猿のように見え る宝物である。しかも, 宝物の椰子の実は,そ の孔を利用しての垂れ目,太い眉毛がつけられ,さらに一孔が円形に三センチメートルほど広げら れて,口を開いた,おどけた表情となっている のだ 。 上記の逸話にくわえて,現在でも,海岸に 漂着しているビニールやプラスチックの容器を注意 深く見ると,そこには,ハングル文字や,漢字,ロシア文字などが記されており,漂着物をもたら す海が世界に通ずるみちであることを,あらためて知る こととなる。もちろん,海岸に点在する 漂着物をみて,ロマンを感じることは可能かもしれない。だが,海岸に漂着した, 海藻や流木,そ してカラフルなビニールやプラスチック等の化学製品 などを目のあたりにすると, 汚い 酷い という言葉がとび出すほどに,その状況は目をおおいたくなる ばかりか, 環境破壊という危機感 さえもつ のである 。 そこで,海岸における良好な景観及び環境の保全を図る上で海岸漂着物等がこれらに深刻な影響 を及ぼしている現状にかんがみ,海岸漂着物等の円滑な処理を図るため必要な施策及び海岸漂着物 等の発生の抑制を図るため必要な施策(以下 海岸漂着物対策 という。)に関し,基本理念を定め, 国,地方 共団体,事業者及び国民の責務を明らかにするとともに,政府による基本方針の策定そ の他の海岸漂着物対策を推進するために必要な事項を定めることにより,海岸漂着物対策を 合的 かつ効果的に推進し,もって現在及び将来の国民の 康で文化的な生活の確保に寄与することを目 的 (海岸漂着物処理推進法・第1条)として,2009年7月 15日,海岸漂着物処理推進法(= 美し く豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理 等の推進に関する法律 )が成立した。 こうして,海岸漂着物(= 海岸に漂着したごみその他の汚物又は不要物 〔海岸漂着物処理推進 法・第2条1項〕)をめぐる課題への本格的なとり組みがスタートすることとなった 。同法・第4 章では, 海岸漂着物等の円滑な処理 (第1節), 海岸漂着物等の発生の抑制 (第2節), その他 ( ) 15 15★本文のダースを1字部にする指示有り★
の海岸漂着物等の処理等の推進に関する施策 (第3節)などの記述がみられるものの,危険物に関 する特別な記述はみられない。しかしながら,現実には,危険な海岸漂着物によって,ケガをする という事例も出現しているのである。たとえば,つぎの記事は,その好例といえよう 。 【県内海岸で注射器など 128個回収 男児けが受け巡回/島根県】 県は管理する全 68カ所の海水浴場や砂浜を 19日からパトロールし,注射器や薬ビンなど医 療系廃棄物やポリタンクなど計 128個の漂着物を 24カ所の海岸で回収したと 27日,発表した。 漂着物は,針付き注射器 18個▽針なし注射器 56個▽注射針9本▽中身の入った薬ビン7個 ▽中身のない薬ビン 34個,など。 12日に石見海浜 園(浜田市久代町)で,県外から家族で訪れた男児の足裏に注射針が刺さっ たことから,パトロールをした。 防災危機管理課の担当者は 海岸で医療系廃棄物などを見つけたら絶対に手を触れず,最寄 りの自治体へ連絡を と話す。 この記事からも明らかなように,とくに,海岸を観光のウリとしている地方自治体にとって,危 険な海岸漂着物の存在は大きなマイナスであるように思われる。しかしながら,危機管理の観点か ら,海岸漂着物をとらえている地方自治体は,きわめて少ないのが実状である。 そこで,本論においては,これまでのヒアリング調査の一部を紹介し,地方自治体が,危険な海 岸漂着物に対して,どのような認識をいだいているのか,その一端を浮き彫りにしたいと えてい る。そして最後に,簡単な私見を述べたい。 2.危険な海岸漂着物の実状 海岸漂着物の実状にくわしい,ライターの眞淳平によれば, 近年,危険なごみも海岸に多数流れ 着くようになりました とのことである。具体的には, ガラスや陶器の破片。くぎ・針金。車両用 のバッテリー。そして医療ごみ などであり, これらは,回収しようとする人を傷つける凶器とも なりかねない ものである。とりわけ, 危険なのが医療ごみ で, クスリの入っていたビンや包 装,点滴のチューブなどさまざまな医療廃棄物が,海岸に漂着して いる。なかには, 薬剤などが 残っていることもあるので,とくに注意が必要なごみ といえる。さらには,注射器も, 誤って体 にさしてしまった場合,大変な事態になる危険性 もある 。 また,医療系廃棄物に関して, 漂着ゴミの実態調査 などを中心に, 海浜環境調査を全国的規 模で継続している ,山口晴幸・防衛大学 教授は, 我が国では 感染の恐れ といった危険性の ある医療廃棄物は法令上 特別管理産業廃棄物 と呼ばれている が, 廃棄に当たっては特別な処 がなされ,一般廃棄物として処理できないにもかかわらず,多数,海岸に漂着している実態があ る と述べている。同教授の調査によると,2000年 12月時点で, 琉球諸島・屋久島 74海岸,九州 西岸・山陰 岸 25海岸,関東 岸 43海岸,北陸 岸 10海岸,北海道 岸 29海岸で,全海岸 181箇 所中 130海岸(7割以上)で医療廃棄物が確認された という。そして, その 計は注射器 264本,
医療ビン 1,422本に達した そうだ 。
さらに,前出の眞と 国際海岸クリーンアップ(International Coastal Cleanup:ICC) 活動の コーディネート・助言をし ている,JEAN(クリーンアップ全国事務局:Japan Environmental Action Network)代表・小島あずさとの共著 海ゴミ―拡大する地球環境汚染― でも,危険な海 岸漂着物の問題がとりあげられている。そこでは, 近年,日本各地に海外からの危険な廃棄物がた びたび漂着し,問題となっている としたうえで, たとえば,二〇〇五年八月中旬から一〇月にか けて,鹿児島県から秋田県にかけての広い範囲に大量の医療廃棄物が流れ着いている 事実が紹介 されている。そのとき, 見つかったのは,注射器や薬ビン,アンプルなど二万四〇〇〇点以上で, 薬品や血液と見られる液体が入ったままのものもあった ようだ。なかには, 中国製造 と書か れたものもあり,これだけの数がまとめて漂着するということは,海外での不法投棄による廃棄物 とみてよかろう。同書によると, 二〇〇六年八月から九月にも同様の医療廃棄物が,鹿児島県から 福井県にかけての地域に流れ着いた そうで, 海上保安庁によれば,九月六日現在でその数は一万 一四一〇個に達している という。これらの内訳は, 中国製の医療廃棄物と見られるものがかなり の割合を占め,韓国製も一部ある らしい 。 くわえて,同書では, 各種の液体が入ったポリ容器 が, 注射器以上に大量に漂着している との警鐘もならされている。なぜなら,ポリ容器の多くは, おもに韓国で化学薬品の貯蔵に われ ていた容器 で, 海苔の養殖用に われる有機酸や,硫酸,硝酸,酢酸,蟻酸,塩素系漂白剤といっ た危険な薬品が入っていたものである からだ。これらのポリ容器は,2005年度にかぎっていえば, 計九三〇二個が長崎県から北海道にいたる日本海側の各地に漂着し,その内訳は福岡県六五〇 個,石川県二一八五個,山形県一八六個,北海道三七五個など で, 日本海側の海岸に文字通りま んべんなく流れ着いていることが見てとれる 。 北海道から九州にいたる日本海の海岸に,大量の ポリ容器が漂着するようになった のは, 二〇〇〇年前後から であって,容器の 大きさは二〇 リットル入りがほとんどで,青をはじめ,白や赤,黄色などさまざまな色 からなっている。なか でも, もっとも多い青のポリ容器は,漂白剤として われる過酸化水素水などが入っていたもの であり, 過酸化水素水の高濃度の溶液は,触れると皮膚がただれ,まれに爆発することもあるので, 取り扱いには注意が必要である とされる。もっとも, 容器の表示に関する調査から,ほとんどが 韓国の大手無機化学工業メーカー三社のものであることがわかっている そうだ 。 こうした実状を受けて,国土 通省では,2009年7月1日に,海岸漂着危険物対応ガイドライン, 海岸漂着危険物ハンドブック をホームページ上で,掲載するようになった。同ホームページには, 以下のように記されている 。 海岸の漂着ゴミは,海岸機能の低下や環境・景観の悪化など様々な問題を引き起こしていま す。 また,漂着ゴミの中には, 用済みの注射器やガスボンベ,信号弾など危険物も確認されて おり,海岸利用者等が被害にあう危険性があります。 一方,これらの危険物は,それぞれ対処方法が異なり,対処には慎重を要しますが,海岸管 理者は,個々の危険物の専門知識までは有しておらず,速やかな対応を行うため,危険物対応 の手順をあらかじめ整理することが必要です。 危険な海岸漂着物 17 17( )
海岸漂着危険物対応ガイドラインは,危険物対応にあたって混乱が生じやすい危険物漂着時 において海岸管理者が行うと想定される初動対応についてとりまとめました。 また,海岸漂着危険物ハンドブックは,海岸漂着危険物の危険性を子どもにもわかりやすい ように紹介しています。なお,本ガイドライン,本ハンドブックは海岸管理者へ配布し,また, 以下のホームページに掲載します。 このように,国土 通省では,危険な海岸漂着物への注意喚起をおこなっている。現に,表紙に, このハンドブックに載っているものや何か からないものに触ると,ケガなどの恐れがあります。 絶対に触らないで,近くの大人に知らせましょう と書かれた, 海岸漂着危険物ハンドブック のなかには, 医療系廃棄物は,種類が多く,私たちが知らないような形をしたものがあります こ れらは,病気を治すために われたため,触わると病気がうつることがあります。海外では,浜辺 にある注射針が刺さり,子供に病気がうつったことがあります などの文言が記された, 医療系廃 棄物(注射器・薬ビン・点滴パック) の項目をはじめ, 薬品・農薬・液体が入っている容器 の 部 では, 浜辺に落ちているポリタンクやペットボトルなどには,強い化学薬品(塩酸など)や燃 えやすい液体(ガソリン・灯油・オイルなど)が入っていることがあります 外国語や化学記号, ドクロマークが書かれた容器には,人体に有害な薬品が入っていることがあります 中に入ってい る化学薬品に触ったり,吸い込んだりすると,火傷や皮膚がただれたり,呼吸が苦しくなったり, 目を痛めることがあります また,燃えやすい液体の場合,火を近くでつけたりすると引火したり 爆発したりして,火傷やケガをすることがあります などの記述がもられている。しかも,同ハン ドブックでは,すべての漢字にふりがなをふるなど,子どもを意識した体裁となっている 。 3.危険な海岸漂着物に対する地方自治体の認識 本章では,これまでおこなってきた,海岸漂着物をめぐるヒアリング調査のごく一部を紹介する ことで,危険な海岸漂着物に対して,地方自治体などが,どのような認識をいだいているのかの一 端を浮き彫りにしたいと えている。なお,本章での紹介順は,ヒアリングを実施した日時の順番 であることを付言しておく。 ⑴ 五島市役所(長崎県) 五島市では,海岸漂着物については, 観光客も海岸におりる体験型がふえてきたので,とくに, 目につく ため, 観光地になってるところには,かならず,清掃する方が配置されている という。 砂浜,海水浴場は,サーフィンをやっている人,地区の住民がやっている らしいが, 人の手で やるので,危険性の問題と えている との回答を得た。五島市役所において,こうした認識がで てくる背景には, 五島は風がつよいので , 石浜だと,ごみとまざりあう だけでなく, 台風の ときなどは,したまで入ってしまう という事情も関係しているようだ。注射器などの危険な海岸 漂着物が,砂のなかにうまってしまっている場合,その回収にあたったボランティアが,負傷する 可能性がたかい。とはいえ, 五島市自体,財政的に難しい状況 で, いちばんお金がかかる ,ご みの回収作業にあたって, ボランティアはありがたい 存在である。だからこそ,これまで, 漂
着物でケガをするということはない かもしれないが,今後,よりいっそう,回収作業時に,危険 という視点を重視していくことが求められよう 。五島市としては,ひとたび,事故がおこってか らの対応では,遅いという基本的な発想を徹底していく必要がある。 ⑵ 長崎県庁 2012年2月 21日の長崎県庁のヒアリングでは, 発泡スチロールは,くだけてしまって 状のも のになってしまう。そういうところに,注射器などが入りこんでくる ので,海岸漂着物は, 放置 しないほうがいい といった見解や 長崎の場合は,外国からの危険物が多い。薬品が流れてきた りとか,針のついているものが流れてきたりするのは,危機ではある との認識を示しつつも,回 収にあたっての 主導はうち であって,県庁内で, 連携をとってやってはおりますが ,危機管 理セクションは,危険な海岸漂着物の処理にあたって,メインの役割をになっていないようであ る 。 また,このときのヒアリングでは,危険な海岸漂着物である,廃ポリタンクは, 去年まではかな りきていたが,今年はあまり聞かない という事実も明らかとなった。そこには, きれいで豊かな 海を共に守るための日韓実務協議 の影響が大きいようだ 。ちなみに,この協議は,まずはじめ に,2009年2月6日におこなわれたもので, 日本側より廃ポリタンク漂着問題の深刻な状況を説明 し,専門的な 析もふまえ,この問題の原因及び対策につき突っ込んだ意見 換を行いました と いう 。なお,この協議については,同年1月 12日に開催された,麻生太郎首相と李明博大統領と の日韓首脳会談の折りにも言及がなされたようで, 麻生 理より,近く きれいで豊かな海 のた めの実務者協議が開催されることを歓迎するとともに,漂着ゴミ削減のための協力が具体化するこ とを期待したい旨述べた のであった 。このように,首脳レベルの会談においても,言及がなさ れるほど,危険な海岸漂着物の問題は,注目をあつめているといえよう。 ⑶ 財団法人 環日本海環境協力センター(富山県) 前出の長崎県庁で, 外 上の問題というのは,ほんとあると思う との指摘がなされるとともに, 韓国のごみが多いものの,われわれは,原因の追及はずっとやるが,犯人捜しはしない,とずっ といってきた。犯人捜しをしないといういい方は,ある程度,共感をもってもらっている。ながー い年月かけてやっていかなきゃならんし,罰則等でやろうとしても,効果があまりない。それより も現状を知ってほしい との指摘を受けた 。おなじような見方が,財団法人 環日本海環境協力 センター(NPEC:Northwest Pacific Region Environmental Cooperation Center)においても 示された。具体的には, 中国の自治体は,自 たちが原因とされるのを非常にいやがっている た め, なるべく,あの国が多いね,あの国が少ないね,という議論はしないようにしている という ものだ 。 ちなみに,ここでいう NPEC とは,現在及び将来の人間が日本海及び黄海がもたらす 全で恵み 豊かな環境の恵沢を享受するとともに,良好な環境が将来にわたって維持されるよう, 岸諸国や 地域等との連携のもとに, 岸地域の流域管理をも視野に入れた日本海及び黄海における海洋環境 保全に寄与しようとする 団体である 。 この NPEC でのヒアリングによると, 能登半島でブロックされるので,富山県自体は,海ごみは ( ) 19 19 危険な海岸漂着物
深刻ではない ようだが,危険な海岸漂着物による負傷を回避するため,不明なものがあったらいっ てください という具合に,ボランティアによる回収作業の 実施まえに,注意をする という 。 ⑷ 対馬市役所(長崎県) 対馬市では,2012年度の 韓国人観光客は,過去最高で,10万人となった という。その なか には,漂着ごみをあつめたという人もいる らしい。それは, 年間とおして,韓国側に漂着して, 漁民を中心に回収の対応をしている 対馬市ならではの事情も関係しているとみてよかろう。それ ほど,韓国からの海岸漂着物の多い対馬市であるが, 心配なのは,そこに,劇薬物が入っている ことで, なかには,医療器具が入っている ものもあるということだ。これまで, 大きい事故に つながったことはない ものの,だれかが, いままでは,何回かケガをしたことがあった らしく, 今後,マニュアル化をはかっていかなければならないと えている との回答が得られた。しか しながら, 廃ポリは少しは減っている との声からもわかるように,もしかすると,根拠のない安 心感が醸成され,マニュアル化を遅らせる一因となっているのかもしれない 。 そうしたなか, 対馬市では,対馬市主催による 釜山外国語大学学生とのボランティアによる海 岸清掃 (平成 15年度∼平成 19年度), 日韓学生つしま会議 (平成 18年度∼平成 20年度), 日 韓市民ビーチクリーンアップ (平成 20年度∼継続中)等,発生抑制対策に係るイベントに付随し て海岸清掃を実施している が ,たとえば, 2012日韓市民ビーチクリーンアップ の折りには, 海岸清掃は,足元が悪いところや,危険な箇所,危険な漂着ごみもありますので,十 に注意し ながら海岸清掃作業にご協力ください と記したビラを配布している。そこには,さらに, 海岸清 掃における注意事項 として, 危険な漂着ごみには十 注意してください。特に針がついた注射器 などの医療機器等を見つけた場合は,必ず,スタッフに連絡して下さい。(スタッフで処理します。) また,キャップがついたままのポリ容器には薬品が残っている可能性がありますので,発見した 場合は,必ず,スタッフに連絡して下さい。(キャップは,絶対に開けないようにして下さい。)と の注意書きがふされている 。危険な海岸漂着物に関するマニュアル化がすすんでいないとはい え,こうしたビラを用意するのは, 医療機器の部 はいちばん大きい。いままで,事故がおこって いないだけ。そういった事故が常時でるようになると,学生さんや住民による回収はできない と のつよい懸念があるからであろう 。財政的な側面から,海岸漂着物の回収をボランティアに依存 せざるを得ないという事情もあって,危険物への対応が,ほかの地方自治体よりもすすんでいると いえよう。 ⑸ 山形県庄内 合支庁 山形県内の 合支庁は, 地域における課題を市町村と連携しながら,地域で え,地域で決定し, 地域自らが実行していくために 合的な行政の展開 , 県民にわかりやすい行政の展開 , 県民 の視点・地域の視点に立った地域づくり を目指し,地域振興の拠点として村山・最上・置賜・庄 内の4つのブロックに設置されています とのことだ 。このうち,庄内 合支庁が管轄する地域 は,とりわけ,海岸漂着物が多いことで知られている。 同 合支庁でのヒアリングによると, よく,ポリ容器や注射器が漂着した場合は,連絡調整会議 という組織をたちあげて,初動態勢の確保をはかる そうだ 。同会議のメンバーは,鶴岡市廃棄
物対策課長,酒田市 務課危機管理室長,遊佐町地域生活課長,山形県県土整備部港湾事務所長, 庄内 合支庁 務課防災安全室長,同地域振興課長,同環境課長,同水産課長,同 設 務課長, 同河川砂防課長の 10名からなる 。ここには,酒田海上保安部などにも, 参与というかたちで, くわわってもらう という。このように,危険な海岸漂着物がみつかったときに,連絡調整会議が たちあがるのは,海岸漂着物の 事務局の環境課としては,危機ととらえているが,県全体の組織 的なところでみた場合,本庁の危機管理課の所管とはなっていない ものの, 優先度のたかい問題 としてとらえている 証左といえよう 。 なお,山形県庄内 合支庁でも,長崎県庁と同様に, ポリ容器と注射器については,表示からみ ても,国内由来とは えにくいので,外 ルートからの対応が必要 とのスタンスが示されたが , 山形県では, 平成 22年1月で,2,589個。平成 23年3月では,1,084個 あった,ポリ容器が, 2012年3月の時点では, 304個しかきていない ようで, 韓国からの漂着物が減ってきた とい う。 それは,日韓 渉の成果なのかな,と思っている というのが,山形県庁担当者の見方であっ た 。それゆえ,今後も,“犯人捜し”というかたちではなく,韓国などとの有意義な協議を深める ことで,発生抑制にとり組んでいくことが,求められよう。 4.結 び 危険な海岸漂着物でケガをするというようなニュースがあると,当該海岸を訪れる観光客の数は 減少してしまいがちである。そうなると,旅館業や土産物業で生計をたてている者たちは,大きな 打撃を受けてしまうこととなる。その打撃は,これらの業者だけでなく,ひいては,当該業者から の税収が減少する地方自治体にも大きなダメージをあたえることになる。まさに,危機があらたな 危機を生みだす,負の連鎖(=危機の連鎖)が生じてしまうのだ 。いったん,この負の連鎖が発 生すると,それをなかなか断ち切ることができないという事実に,われわれは,留意しなければな らない。 では,なぜ,危険な海岸漂着物への対応が劇的に進展していかないのであろうか。ここには,自 たちとは異なる地方自治体の海岸で,危険な海岸漂着物をめぐる被害がでたとしても,それを他 人事としか思えない発想(=正常化の偏見)がある。 行政レベルでも,担当者でも,事故がおきな いと,認識しない という,都合のいい認識が邪魔をしているような気がしてならない 。結局, 悲しいことに, 人の命にかかわるとか,現状,そういう被害がでていないので,あとまわしになり がち というのが,実状である。もちろん,地方自治体における人的資源の不足という現実もあっ て,海岸漂着物対策以外にも, ほかにもやらなければいけないことが多すぎて ,漂着物への対応 が あとまわしになっている のは ,ある程度まで,許容され得ることかもしれない。現に,長 崎県五島市役所からは, 漂着ごみも重要な問題ではある。しかし,いま,そくしなければならない というわけではない。どうしても予算措置があとまわしになっているのが現状 との声も聞かれ る 。 だが,だれかがケガをしてから,地方自治体が対応したのでは,ときすでに遅しで,危機管理に は,“応急”だけでなく,“予防”という重要な局面があることを忘れてはならない。その意味にお いて, 汚いから対策をするんじゃあなくて,人間をふくむ生き物への対策としてやるべき で, そ ( ) 21 21 危険な海岸漂着物
うなると,いまみたいな対策ではなく,危機管理という発想がでてくる という,JEAN 代表の小 島の指摘には, えさせられるものがある 。 また,海岸漂着物一般の問題に関しては,それらが一部の地域に, 偏在していた こともあって, ふるくて,あたらしい問題だといわれてきた 。そうしたなか,どうしても, そこの固有の問題 と思われてしまう かたちとなってしまい, 広域的な社会的な問題として,共有されてこなかった のが実態であろう 。現に,環境省の担当者でさえ, 海ごみというのは,地域内での困りごと と 断じている 。しかしながら,わたしたちの多くは,観光で海岸を訪れる機会がある。そのとき, 危険な海岸漂着物で,自 自身や家族がケガをして,よいのであろうか。そうした観点から,危険 な海岸漂着物の問題に関して, そこの固有の問題 と えるのではなく,日本全体でとり組んでい くべきものとしてとらえていく必要があるように思えてならない。 注 石井忠 海からのメッセージ・漂着物 谷川 一著者代表 漂流と漂着・ 索引 (小学館,1993年), 49頁および 88-89頁。 同上,50頁。 なお,環境省の担当者によれば,法律案の作成にあたって, ごみという認識がつよかったが,ごみ だけじゃなくって,不要物かどうかわからないので,海岸漂着物ということばをつかった ようだ(環 境省〔東京都〕へのヒアリング〔2011年9月6日〕)。 朝日新聞 〔島根版〕2014年8月 28日,26面。 眞淳平 海はゴミ箱じゃない (岩波書店,2008年),88-89頁。 山口晴幸 ひげ先生の書簡 漂着ゴミ―海岸線の今を追って― (文芸社,2002年),7頁,190頁お よび 192頁。 海ゴミ―拡大する地球環境汚染― (中央 論社,2007年),116-117頁。 同上,117-119頁。 http://www.mlit.go.jp/report/press/river03 hh 000170.html(2014年9月 25日)。 海岸漂着危険物ハンドブック (http://www.mlit.go.jp/common/000043930.pdf〔2014年9月 25 日〕),1頁および4頁。 五島市役所(長崎県)へのヒアリング(2012年2月 20日)。 長崎県庁へのヒアリング(2012年2月 21日)。 同上。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/21/2/1187813 1092.html(2014年9月 25日)。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s aso/korea 09/gaiyo.html(2014年9月 25日)。この当時 の海岸漂着物をめぐる日韓間のやりとりについては,たとえば,環境省地球環境局 日本海 岸地域等 への廃ポリタンクの大量漂着への対応状況について (https://www.env.go.jp/water/marine litter/ jpn sea/jokyo.pdf〔2014年9月 25日〕)(平成 21年3月)を参照。 長崎県庁へのヒアリング(2012年2月 21日)。 財団法人 環日本海環境協力センター(富山県)へのヒアリング(2012年8月 27日)。 特定非営利活動法人 パートナーシップオフィス(山形県)へのヒアリングでも, いきなりアピー ルしても,韓国,中国が悪いと,犯人捜しで終わってしまう。そこで,政府同士ではなく,民間同士で やることがいいだろうと,おたがい理解 したという(特定非営利活動法人 パートナーシップオフィ ス〔山形県〕へのヒアリング〔2013年2月 17日〕)。 http://www.npec.or.jp/1 npec/gy-tp.html(2014年9月 25日)。 なお,同団体は, 富山県が 岸地域の地方自治体との環境協力事業を効果的に推進するため,環境
保全 野の情報を収集し,事業実施に向けての意見 換等 を実施するなど,富山県庁とのつながりが 深いため,あえて,ここで,ヒアリングの結果を紹介することとした(同上)。 財団法人 環日本海環境協力センター(富山県)へのヒアリング(2012年8月 27日)。 対馬市役所(長崎県)へのヒアリング(2012年 10月9日)。 長崎県対馬市 漂着ごみの現状と対策 ,2頁。 2012日韓市民ビーチクリーンアップ参加者の皆様へ 。 対馬市役所(長崎県)へのヒアリング(2012年 10月9日)。 http://www.pref.yamagata.jp/about/job.html(2014年9月 25日)。 山形県庄内 合支庁へのヒアリング(2013年2月 18日)。 山形県海岸漂着物連絡調整会議設置要綱 。 山形県庄内 合支庁へのヒアリング(2013年2月 18日)。 同上。 山形県庁へのヒアリング(2013年2月 19日)。 この点に関しては,浅野一弘 日本政治をめぐる争点―リーダーシップ・危機管理・地方議会― (同 文舘出版,2012年),45-46頁を参照されたい。 対馬市役所(長崎県)へのヒアリング(2012年 10月9日)。 一般社団法人 JEAN(東京都)へのヒアリング(2011年9月5日)。 五島市役所(長崎県)へのヒアリング(2012年2月 20日)。 一般社団法人 JEAN(東京都)へのヒアリング(2011年9月5日)。 同上。 おなじように,特定非営利活動法人 パートナーシップオフィス理事の金子博も, 特定の海岸に被 害が集中してしまうような偏在性を持っている (金子博 海洋ごみ問題から える流域一体的な海岸 管理 河川 2009年7月号,46頁)ため, この問題を全国で共有できず,対策が劇的にすすまない と論じている(特定非営利活動法人 パートナーシップオフィス〔山形県〕へのヒアリング〔2013年2 月 17日〕)。 環境省(東京都)へのヒアリング(2011年9月6日)。 しかも,おなじ県内であっても, 岸市町にとってみれば,自 たちの問題 であるが, 山のほう の市町にとっては,遠い問題 と指摘する宮崎県庁の担当者もいる(宮崎県庁へのヒアリング〔2013年 2月 25日〕)。 ※ なお,本論は, 2010年度 財団法人 北海道開発協会研究助成事業 および科学研究費助成事 業・基盤研究(c) 海岸漂着物の処理対策と行政の危機管理 (研究課題番号:23530178)による 研究成果の一部であることを付言しておく。 ( ) 23 23 危険な海岸漂着物