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まえがき(pdf)

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Academic year: 2021

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pLATEX 2ε: Kyoritsu-2012-05-10 : 2012/6/29(16:46)

ま え が き

しばしば,数学の理論を勉強,研究する理由を問われると,私は口ごもって しまいます.もちろん,役に立つ,重要である,美しい,と堂々と主張できる といいと思うのですが,どうにも違和感があります.自分の考えてきたこと, 感じてきたことを振り返ると,私が30年以上もシュレディンガー方程式を勉 強してきた理由は,「量子力学がよく分からない」ということであるように思 います.「根本原理を理解したい」というような高尚なことではなくて,「量子 力学の教科書に書いてあることがよく分からない」というレベルの話です. 理論物理を勉強すると,量子力学の次は場の量子論,さらにゲージ理論,と, 高度な理論に進んでいき,量子力学は,もはや「素朴で自明な」理論である かのように感じられてきます.でも,量子力学の教科書に書かれていること を,数学的にきちんとした形で定式化し,近似や実例によって説明されている 現象,計算を,定性的に,証明できる形で理解したい,と思うと,なかなか難 しいのです.そういう,基礎的な部分の理解は,私には「やり残した宿題」の ように感じられました1).実際のところ,今でも,私には量子力学の教科書に 載っていることの多くがよく分からず,宿題のやりかけ,という気分がありま す.それでも,シュレディンガー方程式の理論を勉強する中で理解できるよう になった部分も少なくありません.そのような,量子力学の数学的な形での理 解について,自分に分かる範囲で書きたい,というのがこの本の目標です. 1)もちろん,感じ方は人それぞれですし,ほとんどの物理学者は,そのような煩いことを言わずに本 質が理解できているのだろうと思います.

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pLATEX 2ε: Kyoritsu-2012-05-10 : 2012/6/29(16:46) ii ま え が き 量子力学の本を見ると必ず書いてあるように,量子力学の数学的な基礎付け は,1930年頃,フォン・ノイマンの「量子力学の数学的基礎」2)において,抽 象的なヒルベルト空間の導入とともに実現されました.しかし,この理論は抽 象的な枠組みに留まり,具体的なモデルの解析は,なかなか発展しませんでし た.そのブレークスルーとなったのは,加藤敏夫のクーロン系の自己共役性の 証明3)で,そこを出発点にして,シュレディンガー方程式の理論は大きく発展 しました.研究成果の蓄積は膨大で,その鳥瞰的な概論を述べることは,私の 能力を大きく超えています. この本では,私が基本的と感じる,いくつかの限られた話題について説明し ています.全般的に,数学的に最も一般的な仮定ではなく,理論のアイデアか ら自然に決まる分かりやすい仮定の下で定理を定式化しました.証明の基本的 なアイデアを理解することができれば,それを一般化していくことは比較的易 しいし,その目的には研究論文を見るのが適当でしょう.また,自分で研究し ていく上では,既成の「一般的な」結果はしばしば不十分で,自分で議論を再 構築する必要があります.そのような場合には,典型的なモデルの簡明な証明 が役に立つ,と私は感じています. 第1章では具体的に解の形が見えやすい,1次元の量子力学系についての計 算を紹介しています.どのような現象を理解するために量子力学のスペクト ル論を研究したいのか,という動機付けの説明がこの章の意図です.第2章で は,やや形式的に一般のシュレディンガー方程式を定式化し,量子力学の基本 的なアイデアのいくつかをスケッチして,第3章以降の数学的な解析の前置き としました. 第3章は,ポテンシャルのない,自由なシュレディンガー方程式についての 基本的な事項をまとめました.自由なシュレディンガー作用素は,フーリエ変 換をすると掛け算作用素になるので,見方によっては「簡単な」対象なのです が,実際に解析をしていくと,決して自明ではない議論が必要になります.こ こでは深い解析には入れませんが,レゾルベントの評価だけでも,それほど簡 単ではないことが伺えると思います. 2) J. v. ノイマン「量子力学の数学的基礎」みすず書房,1957.

3) Kato, T.: Fundamental properties of Hamiltonian operators of Schr¨odinger type. Trans. Amer. Math. Soc. 70, 195–211 (1951).

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pLATEX 2ε: Kyoritsu-2012-05-10 : 2012/6/29(16:46) ま え が き iii 第4章から関数解析の議論が始まります.シュレディンガー作用素の自己共 役性は,偏微分方程式としての解の存在と一意性に対応する,基礎的で重要な 話題です.ここでは,記念碑的な「加藤の定理」を中心に,いくつかの典型的 なクラスに属するポテンシャルについて,シュレディンガー作用素の自己共役 性を証明しています. 第5章は,大まかに言えば,連続スペクトルの位置を決定する,という話題 です.スペクトルには行列の固有値と同じように考えてよい離散スペクトル と,無限次元で考えていることから現れる,近似的に無限次元に縮退した本質 スペクトルに分類されます.本質的スペクトルは,そのように直感的には捉え にくいものではあるのですが,ポテンシャルの「小さな」摂動については安定 です.このことを主張する「ワイルの定理」を証明して,具体的なシュレディ ンガー作用素について,本質的スペクトルの位置を決定できることを見ます. 第6章,第7章は散乱理論の入門で,偏微分方程式としては長時間の方程式 の解の挙動を記述することに対応しています.典型的なモデルの本質的スペク トルは第5章で決定できたわけですが,そのスペクトルの性質,それらに対応 する解の振る舞いは,分かっていません.ここでは,適当な条件の下でスペク トルは「絶対連続スペクトル」となり,時間無限大で,無限遠方に逃げていく 解に対応していることを学びます. 第8章では,磁場中で運動する粒子を記述するシュレディンガー方程式の性 質について議論します.この分野は,あまり体系的な理論があるわけではない のでトピックスの寄せ集めになりがちですが,この章では,磁場のない場合と の違い,磁場によって生じる新しい現象に着目して説明をすることを目指しま した. 第9章は,半古典解析への入門です.半古典解析は超局所解析の手法を用い るのが自然なのですが,それだけに,やや敷居の高い研究分野となりがちです. でも,古典力学系の相空間の上での性質からシュレディンガー作用素の性質を 導く,という発想は,量子力学の本質に迫る部分があると思いますし,「ボー アの量子化規則」が固有値の漸近分布に関する「ワイルの公式」と同じことを 主張している,という認識も有用と思います.ここでは,やや厳密性を犠牲に して,この理論の基礎的なアイデアをスケッチしました. 上にも書いたように,シュレディンガー方程式の理論は広大です.数理物理

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pLATEX 2ε: Kyoritsu-2012-05-10 : 2012/6/29(16:46) iv ま え が き の問題意識からの研究に限定しても,固有関数,固有値の性質,特に大きな原 子の固有値の評価である「物質の安定性」,量子力学的共鳴の理論,トンネル 効果の評価,ランダム・シュレディンガー作用素を代表とする物性理論のモデ ルの解析,など,ここで述べられなかった重要な話題は数多くあります.これ らについては,別の機会に書ければ,と思っています4) 初期の原稿を読んで,多くの間違い,不十分な点を指摘してくれた,伊藤健 一さん,糸崎真一郎さん,神永正博さん,佐々木格さん,新國裕昭さん,堀江 主起さん,水谷治哉さん5),査読をしてくださり貴重なコメントをくださった 楠岡成雄先生,ありがとうございました.また,原稿が大変遅くなったのに辛 抱強く待ってくださった,赤城圭さんをはじめとする共立出版(株)の皆さんに もお礼を申し上げます. 4)自分でも勉強しながら,ということになりますが. 5)お名前は50音順です.

参照

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