論 説
「資本主義の多様性」論 と労働市場の成果
―一 その理論的概要 と実証的検討――
遠 山 弘 徳
本稿においては、新たな比較資本主義分析の諸アプローチを概観 した上で、そうし たアプローチの中か らとくに「資本主義の多様性」論 と呼ばれる理論的アプローチを 取 り上げ、同理論の理論的主張および同理論 に基づいて展開 された「技能 と社会的保 護」 に関する実証的成果を示す。その上で「資本主義の多様性」論か ら引き出された 理論的および実証的成果について経験的な観点か らその妥当性を検討する。 こうした 検討をつ うじて リベラルな市場経済 (一 般的資産経済 )と コーディネー トされた市場 経済 (特 殊的資産経済 )の 理論的問題点を指摘す る。
I。 は じめに
戦後資本主義の黄金時代一一第 2次 世界大戦後のおよそ 30年 間十 に 対す る分析の多 くは先進 資本主義諸経済に多様性の可能性を見 ることはなか った、少な くとも資本主義の多様性に関心が向 けられ ることはなか った。たとえば、 レギュラシオ ン学派によって展開されたフォー ド主義モデル はすべての国に適用 される参照規準であり、先進資本主義経済の制度的多様性が考察 される場合で も、 フォー ド主義 とい う単一 のモデルか ら各国の国民的 ブラン ドが評価 され るにす ぎなか った (Boyer[1990])。 だが、その後、1960年 代末か ら1970年 代初頭にかけて先進資本主義経済が陥 っ た危機の分析をつ うじて、各資本主義経済が同一の危機 に異なった方法で対処 したこと、 さらに先 進資本主義経済がその後異なった国民的軌道を取 っていることが明 らかにされるようになってきた。
こうした実証分析を受け、先進資本主義経済が 1960年 代の資本主義の黄金時代においても異なっ た独 自の軌道を採用 していたのではないかという問題が提起 されてきた。 また同時に、資本主義の 多様性分析を可能にす る理論の構築 も試み られるようになってきた
1。1以 上の研究動向については、たとえば、遠山 [2004]を 参照 されたい。
一 ‑41‑
こうした背景の下、比較資本主義分析 は新たな展開を見せ始めている。後に説明するように、そ の核心 は諸制度 の補完性 と諸制度 の ヒエラルキーにある (cf.Amable[1999],Soskice[1999], Hall and Soskice[2001])。 本稿 の課題 は、 こうした比較資本主義分析の新 たな理論的展開の概 要を示す とともに、その理論的成果 について経験的妥当性を検討することに置かれる。 ,
以下、本稿 は次のように構成 される。第 1に 、新たな比較資本主義分析 アプローチを概観 した上 で、その理論的概要を示す。次いで、複数のアプローチの中か らとくに「資本主義の多様性」論 と 呼ばれ る理論的アプローチを取 り上 げ、同理論か ら引 き出され る理論的成果 を要約す る (Ⅱ )。 そ の上で、同理論 に基づいて展開された、技能 と社会的保護 に関す る実証的成果を示す (Ⅲ )。 次 い で「資本主義の多様性」論か ら引き出された理論的および経験的成果について実証的な観点か らそ の妥当性について検討することにする (Ⅳ )。
Ⅱ。 「 資本主義の多様性」論の理論的概要
本節においては、最初 に、 これまでに展開された比較資本主義への複数のアプローチを概観 し、
次いで「資本主義の多様性」 アプローチの特徴 と理論的主張を示す ことに したい。
Ⅱ ‑1.資 本主義の多様性への諸 アプロ…チ
現代の資本主義 は相異なるタイプの制度構造 よって特徴づ けられる。それは同一の外部環境 にも かかわ らず、先進資本主義経済が異なった国民的軌道を取 ることを説明する。 そうした制度構造を 決定するのは諸制度の補完性 と諸制度間の ヒエラルキーである。
制度の補完性は経済 エージェン トの意思決定 に対す る制度的影響力の相互依存か ら発生す る。す なわち、ある 1領 域の制度が他の領域における他の制度の効率性、機能、 もしくはプ レゼ ンスを強 化する場合、制度的補完性が存在す ると言 うことがで きる。 したが って制度間に補完性が存在す る 場合、それぞれの制度 は、単独で機能す る場合 に比べ、 より効果的に機能する。
補完性の概念 は相異なる諸制度を関連づけ、相異なる制度間の正の相互作用一一言い換えれば全 体の首尾一貫性を条件づける相互作用 に焦点を当てるものである。諸制度間の ヒエラルキーの概念 は、そうした諸制度の補完性の構造、 したが って全体の首尾一貫性 にとって、 1な い しは複数の制 度の相対的重要性を強調する。
Amable[1999]は こうした諸制度の補完性 とヒエラルキーを規準 に現代資本主義への制度主義
的アプ●―チの類型化を試みている (表 ‑1参 照 )。
表 ‑1 さまざな制度主義アプロ =チ における制度的補完性
主要 な制度 &組 織 補完性 ヒエラルキー
古 典 的 レ ギ ラ ュ オ シ ン
5つ の制度形態
―賃労働ネクサス ー競争の形態 一国家 一国際 レジーム ー貨幣 レジーム
成長 レジームの ダイナ ミックスと調整 様式 において表現 される。歴史的に規 定 された諸形態の組み合わせをつ うじ て基本的な社会的諸関係を再生産する のに役立つ手続 きと行動 (個 人的およ び集団的 )の セ ットとして定義 される 後者 は成長 レジームを支え、舵取 りす る、そして分権化された意思決定のセッ
トの両立性・ 整合性を保証する。
賃労働 ネクサスが フォー ド主義 レジー ムの主導的制度形態である、 しか し、
階層 は変化す る。
畜 積 の 社 会 的
強 屋 こ ヽn り
> ン
―資本・ 労働合意
―資本・ 市民合意
―他の世界に対する国内資本の関係 二諸資本間の関係 (す なわち、資本内
部 の ライバル性 )
その要因間の首尾一貫性に起因する、
長期にわたる SSAの 安定性において 表現される。 もう 1つ の要因はアメリ カ以外の他の国への普及能力である。
階級対立を和解させる資本・労働合意 の支配
イ ノ ベ ー シ ョ ン の 日 冒 登 剛 シ ス テ ム
=広 範な定義におけるイノベ■ション、
技能および知識の蓄積 に影響を与え るほとん どすべての制度
―狭い定義におけるテクノロジー制度
―企業 と科学
合理性を制限 された工‐ジェン ト間の 相互作用をつ うじて発生。 1つ の制度 のプ レゼ ンスは学習、 したが って知識 の蓄積をより容易にする。
イノベーションは成長の源泉であり、
したが って経済生活のあらゆる他の領 域を何 らかの形で支配する。 テクノロ ジーが経済的進化 の もっとも重要 な (唯 ―の ?)決 定要因である。
生 産 の 社 会 的 シ ス テ ム
市場は経済的エージ■ント間のコーディ ネー ション様式の 1つ にすぎない。市 場、階層、 コ ミュニティ、国家、 ネ ッ
トワークおよびアソシェーションが存 在する。いくつかの要因が考察される
:一労使関係 システム
ー訓練 システム ニ企業の内部構造
―同一産業内部の企業間の、 もしくは サプライヤーとカスタマー間の構造 化 された関係
―社会の金融市場
―資本 と労働によって保持 される公正 と正義の理解
一国家の構造 とその政策
―ノルム、道徳原理、ルール、法律お よび行動の処方銭 と同様に、社会の 特異 な慣習 と伝統
すべての相異 なる諸制度 と組織諸形態 が 1つ にな り首尾一貫する。 しか しそ れ らは、相異なる要因が相互 にタイ ト に結 びつ く程度 に応 じて変化 し、十分 に発達 した システムヘ と変わる。 した が って、ありうるシステムの多様性。
制度 はイ ンセ ンティブだけをつ うじて 動 くのではない、それはエージェン ト のための世界の表象様式を形成する。
歴史や制度 の配置 とともに変化する。
資 本 主 義 の 多 様 性
4つ の システム
:―金融 システム ー労使関係 システム ー教育および訓練 システム
ー企業間 システムおよびい くつかのア クター
:一企業
―ビジネス組織
―労働組合
―中央銀行
経済の中心的問題 はコーディネー ショ ン問題である。制度 はアクター間の情 報の フローを高め、 モニタ リングを提 供 し、確実 なコ ミッ トメン ト、 コ ミュ ニケーション、および分配問題 に関す る妥協の確立を提供する。金融 システ ム 0業 統治 )と 労働市場 (労 使関係 )
との間の、 もしくは中央銀行 と賃金交 渉 との相互作用
権力構造や政治的意思決定過程の観察 可能性。たとえば、 ドイツでは、交渉 制度 (労 働組合 /企 業 )の 支配。 より 一般的には、 ビジネスの組織化の程度 が、実質的に採用 される資本主義の多 様性を条件付 ける。 コーデ ィネー トさ れているか、 コーディネー トされてい ないか。
比 較 制 度 分 析
一企業 一金融 システム ー労働市場
金融 システムと労働市場の特徴がイ ン セ ンティブのセ ットを規定す る。補完 性 はそ うした結合 されたイ ンセ ンティ プの ジョイ ン ト効果に基づいている。
たとえば、 日本の産業に特徴的なタイ ンバ ンク関係は、企業内部のチームベー スの作業組織・ 作業イ ンセンティプを 強化する一定 タイプの経営モニタ リン グを規定する。
金融 システム組織 と企業内部の作業組 織が、 イ ンプ リシットに、経済の他の 構成要素を規定す る。
イ ノ ベ ー シ ン ョ と 生 産 の 社 会 的 シ ス テ ム
6つ のサプシステム
:一科学
―テクノロジー ー産業 一労働力
―教育 と訓練
=金 融
相異 なるサ プシステムは、歴史か ら受 け継がれ、部分的に政治行動や目的的 エージェン トによって変形 された一定 の制度 と組織の ミックスによって特徴 づけられる。各サプシステムがェージェ ン トに対するイ ンセ ンティブと可能性 の集合によって特徴づけられる。各サ プシステム相互間の両立性は各国の事 後的な成長軌道を規定する。
如何なるアプ リオ リなヒエラルキ Tも 存在せず tそ れは歴史時期に依存する。
フォーディズムの時代の賃労働ネクサ ス (労 働カサブシステム );現 在の競 争形態 (産 業 と金詢
(出 所 )Amable[1999],p.13.
― ‑43‑―
表 ‑1に 示 された現代資本主義への制度主義 アプローチは時系列的に 3つ のタイプに分類 される (Amable[1999])。 第 1の タイプのアプ ローチは、 さまざまな生産様式の長期的展開 を説明す る ために、経済の全体的な制度的設計をその主要な経済的特徴に関連づける。考察 される制度 は経済 的活動を超え広範な領域をカバーす る。 「古典的 レギュラシオ ン」理論 と「 SSA(Social Structure of Accumulation)」 理論が ここに入 る。 こうしたアプローチは、 ある特定の歴史時代のすべての 資本主義 に適合的な一般的パ ターンを見出す ことを意図 している。 このため、ありうる資本主義の 多様性 には一一資本主義の歴史的可変性 に比ベーー関心が寄せ られることは少ない。 さらに、 SSA
理論 は投資 と成長を一定の制度的 コンテクス トの中に埋め込み、長期的成長パ ターンを摘出 しよう とする試みであるが、その蓄積の社会的構造を構成する制度に関する理論的首尾一貫性を欠いてい る一一 どの制度が SSAに 含 まれ、 どの制度が SSAか ら除外 されるのか一一。 レギュラシオ ン理 論 についていえば、制度形態の概念内容 もしくは境界が不分明であるため、 どの制度がどの制度形 態カテゴリーに含め られるのか、ある種の混乱が発生 している (Amable[2002],p.14)。
第 2の 制度的アプローチの焦点 はセクターに置かれ る。すなわち経済の特定領域 にその中心 を置 き、そこか ら制度的構造の考察を行 う。 こうしたアプローチには「生産の社会的 システム」が入 る。
だが、 このアプローチは、明示 された労使関係 システム、訓練 システム等を超え、慣習、公正、 ノ ルム等 といった領域 に入 ると曖昧さが発生する。経済学 によって説明されないものを「文化」的要 因 とす る問題を学む。
第 3の アプローチは比較資本主義の分析の新たな展開である。 こうしたアプローチにおいては、
第 1の アプローチに比べ考察 される制度がより限定的である。だが、第 2の アプローチと異なり、
生産 システム全体を分析 しようとする理論的志向を有する。 したが って諸制度の厳格な取 り扱いと 資本主義への包括的なアプ ローチを展開す るもの とな って いる。 この タイプに含め られ るの は Amable自 身 によって展開 されている「 イノベー ションと生産の社会 システム」 2に 加え、 「 資本主 義の多様性」論 と呼ばれるアプローチである。本稿では、 こうした新たな比較資本主義の諸潮流の うち後者の「資本主義の多様性」論を検討の対象 とす る。「 イノベーションと生産の社会 システム」
は、直接的には、 「 イノベーションの国民的 システム」を超えよ うとする試みか ら生まれて きた も のである。だが、 レギュラシオ ン派の制度分析をも受 け継 ぐものであり、 きわめて興味深い理論動 向である。 しか しなが ら、いまだ実証的な成果 は少な く、経験的観点か ら比較資本主義理論を検討 す ることを 1つ の主眼 とする本稿では取 り扱われない。 `
したが らて、本稿では、比較資本主義への制度主義的アプローチのうち「資本主義の多様性」論 を検討の対象 とする。現在、同アプローチは、制度主義的アプローチの中では、理論的にも実証的 2な お、 イノベー ション・ システム論 とりわけ「 イノベー ションの国民的 システム」論 については安孫子
[2000]が参照 されるべ きである。
にももっとも多 くの成果を生み出 しているとみることができる
3。Ⅱ ‑2。 「資本主義の多様性」論
ここでは「資本主義の多様性」 アプローチの理論的特徴を概観 し、その理論的主張を示す ことに したい。
(1)「 企業」中心型のアプローチ
「資本主義の多様性」論 は「企業」 というアクターを分析の中心 に置 くアプローチである。企業 の戦略的行動 は政治経済の制度構造 によって条件づけられる。 しか も制度的要因は各先進資本主義 経済に特殊的なものである。言い換えれば、企業の一定の活動は政治経済か ら受け取 る制度的サポー トによって他の企業よりも効率的に遂行できるのであり、そ して活動に適 した諸制度が各国に均等 には分布 していないということになる。 したが って理論的焦点 は、第 1に 、企業が自己のコアコン ピタンスを開発するためにどのように して自己の直面するコーディネーション問題を解決するか、
第 2に 、諸制度が コーディネーション問題の解決 にどのように寄与す るか、 とい うことに置かれ る
4。「 資本主義の多様性」 アプローチにとって主要な分析領域 は次の 5つ である。第 1に 、労使関係 領域である。 この領域 においては企業 は、賃金 と労働条件をめ ぐり自己の労働者、労働側を代表す る組織、および他の使用者 とどのようにコーデ ィネー トされた関係を形成するか という問題 に直面 す る。 ここで問題 となるのは、企業の成功を条件づける生産性水準 と賃金水準であり、経済全体 に ついて見れば、イ ンフレ率や失業率である。第 2に 、職業訓練 と教育の領域である。 この領域 にお いては、企業 は適切な技能を有す る労働者をどのように して確保するか という問題 に直面する。他 方、労働者 はどのような技能にどれだけの投資を行 うかを決定する問題に直面する。
第 3に 、企業統治の領域である。企業 は資金調達のためにどのような企業統治を選択するか とい う問題 に直面す る。他方、投資家は自己の投資に対す る収益を保証するためにどのような企業統治 が望 ま しいかという問題 に直面す る。第 4の 領域 は企業間関係の領域である。企業 は自社製品に対 する安定的な需要、投入財の適切な供給、および技術へのアクセスを確保す るために他企業 と関係 を結ぶ。企業間関係には、標準設定、技術移転、および共同の研究開発が含 まれる。最後 に、企業
たとえば、理論的には Soskice and lversen[2001』 [2001b]の 資産 の一般性 /特 殊性 に注 目 した資本主 義の多様性 に関す る理論的基礎づ けが注 目される し、実証的には、Hall and Soskice[2001]所 収の一連の 論文 ,Hall and Gingerich[2001]の 諸制度 の補完性 に関す る計量分析、 Rueda,Pontusson[2000]、
Pontusson,Reueda,Way[2002]に よる資本主義の多様性 と賃金の不平等の関連に関する研究が注 目され るであろう。
こうした企業の取 り扱 いは、磯谷 [2003]の 詳細な企業理論の検討に したがえば、企業への「契約論」アプ ローチと「能力論」 アプローチを超える 1つ の試みと見ることもできるであろう。
― ‑45‑―
図 ‑1 企業 と諸制度
は自己の従業員に対する関係である。そこでの中心的問題 は、従業員が企業の目的を推 し進めるた めに必要な能力を持ち、他者 と協力す !る ということを保証する、 ということである。
図 ‑1の 概念図に示 されているように、 こうした領域 において中心的アクターは企業である。企 業 はそれぞれの領域において他のアクターと一定の関係 に入 るため、それぞれの領域においてコー ディネーション問題 に直面することになる。企業のコアコンピタンスーー もしくは財やサービスを 収益力ある形で開発 し、生産 し、販売する能カーー は、 したが って、 コーディネーション問題を解 決で きるかどうかに依存す ることになる。
け )市 場 コーディネーションと戦略的 コーディネーション
企業が コーディネーション問題を解決する方法に応 じて基本的に 2つ のコーディネーション様式 が区別 される。
1つ の コーディネーションにおいては、企業 は対等な関係 とフォーマルな契約によって特徴づけ られ るような競争市場をつ うじて他のアクターとコーディネー トする。 ここでは、均衡の結果はお もに市場 によって規定 される。 もう 1つ のコーディネーションにおいては、企業 は典型的には戦略 的相互作用の過程をつ うじて他のアクターとコーディネー トする。 ここでは、均衡の結果 は、確実 なコ ミットメントの形成に利用可能な制度的なサポー トに依存する。そこには効果的な情報の共有、
モニタリング、制裁および協議に対するサポー トが含まれる。
ある政治経済においては企業は自己の活動を組織するために主に非市場的コーディネージョン様式 相互補完的
注)Hall and Ginge五 ch(2001),Fig。 2を もとに作成。
技能 1形 成●職
■ │:業 隷 1練 │■
を利用する。ある別の経済においては企業は企業活動をコーディネー トするためにおもに市場に依存 する。企業の利用するコーディネーションは各政治経済において利用可能な制度構造に対応する。こ こか ら2つ の資本主義が分類される。すなわちコーディネー トされた市場経済 C∞ rdinated Market Economiesと リベラルな市場経済 Liberal Market Economiesで ある。
3)コ ーディネー トされた市場経済 とリベラルな市場経済
表 ‑2は 2つ の資本主義 タイプの制度的特徴を要約 したものである。それぞれの市場経済 におい て諸制度の補完性が成立す る。それは、企業の戦略的行動を条件づけ、それによって企業が一定種 類の財 とサー ビスを生産 しうる効率性 に影響を与える。各資本主義の諸制度の補完性 は企業のある 一定の活動 と製品において比較優位を与えることになる。
たとえば、表 ‑3は 労使関係 と技能形成の補完関係を示 している。 ここでは 2つ の補完関係が見 出される。 1つ は lAl流 動的な労使関係 とフォーマルな教育訓練制度であり、 もう 1つ は IBl協 調的で
表 ‑2 コ…デ ィネー トされた市場経済 とリベラルな市場経済 コーディネニ トされた市場経済 リベ ラルな市場経済 労使関係 協調的で安定的な労使関係 :労使双方の、
関係への長期的なコ ミッ トメン ト
非協調的な、流動的な労使関係 労使交渉主体
労働移動 (雇 用調整 )
賃金決定制度
全国 もしくは産業 企業別 に組織 され
レベルに組織 され た協調的な労働組 た強力な労働組合 合
企業横断的な職業 企業内での移動 市場での移動 (低 い雇用調整の
自由度 )
労使間交渉制度をつ うじた賃金決定 :安 定的な所得の保障
個々の使用者 と労働者、 もしくは企業 レベ ルでの労働組合 と使用者 との交渉 企業外への移動 (高 い雇用調整の自由度 )
市場競争 をう うじた賃金決定 技 能 転用可能性の低い 転用可能性がもっ
技能 (産 業特殊的 と低い技能 (企 業 技能 ) 特殊的技能 )
転用可能性が高 い技能 (■ 般的技能 )
技能形成・ 訓練
職務編成
賃金 と職務
徒弟訓練 と職業学 企業内での仕事に 校制度 (デ ュアル・ つ きなが らのヨ │1練
システム ) (OJT)
厳格 に区分 された 曖昧な、広 い職務 深い職務内容 範囲 :柔軟 な職務
編成
熟練 に基づ く賃金 職務 と分離 した賃 金
フォーマルな職業訓練 もしくは学校教育
厳格 な、狭 い職務範囲 :硬 直的な職務編成
職務 に基づ く賃金
企業統治 株主か らの経営の相対的自律 株主 による経営の支配
資金調達 銀行か らの調達 :銀 行 との長期的関係に 依存
資本市場か ら調達 企業間関係 他企業 との長期的
関係の形成
他企業 と長期的関係を形成 しない
― ‑47‑
コーディネー トされた 市場経済
表 ‑3 労使関係 と技能形成の相互補完性
フォーマ ルな教育 訓練制度
企業特殊 的な技能 形成
lAl流 動的な労使関係 とフォーマルな教育 訓 練 制 度 訓練制度
tBl安 定的な労使関係 と企業特殊的な技能
安定的な労使関係 と企業特殊的な技能である。
lAl 流動的な労使関係 とフォーマルな教育訓練制度 :労使関係が高水準の労働移動 と競争市場に よる賃金設定に基礎をおいている場合、 フォーマルな教育をつ うじて移転可能な一般的技能を 提供す る訓練 システムがより効率的である。なぜな らば、流動的な労働者 は他企業において も 利用可能な一般的技能を取得する強いイ ンセ ンティブを持つか らである。
Bl 協調的で安定的な労使関係 と企業特殊的な技能 :賃金が競争市場か ら分離 され、安定的な所 得が保障される場合、企業 は高水準の企業特殊的な技能を提供する訓練制度を運営する方がよ り効率的である。制度的に保障される相対的に高い賃金 は労働者 に企業特殊的な技能を身 につ けさせ ることにより、従業員に技能訓練を提供 しない企業が、たとえ賃金プ レミアムを提示 し たとして も、労働者を引き抜 くことができな くなるか らである。
以下 の表 ‑4に は、 Hall and Soskice[2001]に 基づいて、先進資本主義諸経済がいずれのタ イプに分類 されるかを示 してある。
)特 殊資産経済 と一般資産経済
理論的には、 コーディネー トされた経済 は特殊的資産への投資に基づ く経済であり、 リベラルな
資本主義のタイプ 先進資本主義経済
オース トリア、 ベルギー、 デ ンマーク、 フィンラン ド、 ドイ ツ、 日本、 オ ラ ンダ、
ノル ウェー、 スウェーデ ン、 スイス、 アイス ラン ド
リベラルな市場経済 オ ース トラ リア、 カナダ、 ニュー ジー ラン ド、 イギ リス、 アメ リカ、 アイル ラン ド 表 ‑4 コーデ ィネー トされた市場経済 とリベラルな市場経済
注)Hall and sOskice[2001]に 基づ く。
市場経済 は一般的資産への投資 に基づ く経済である。実際、Iversen and Soskcie[2001a][2001
b]は コーディネ =卜 された市場経済 と リベラルな市場経済を「特殊資産」経済 と「一般資産」経 済 として分類することを選好 している。
企業 は関係特殊的な資産一一簡単 には他の目的に転用できない資産であり、その収益性 もしくは 効率性が他者の能動的な協力に強 く依存する資産である一― に投資することで利潤を追求する。た とえば、企業が企業特殊的な技能形成を実現するためには労働者 と長期的な関係を形成 し、労働者 も企業 もそうした特殊な関係にコ ミッ トする必要がある。そのためには労働者の雇用が保障される 必要があり、経営 も短期的な収益性の変動か ら切 り離 された企業統治を前提 とす る。
他方、企業 は、簡単 に他の目的に転用で きる資産一一すなわち、他の用途 に向けられた場合で も その価値が実現 される資産一一 により多 く投資す ることで利潤を追求する。たとえば、流動的な市 場の下では経済的アクターは、 より高い収益を追 い求め、資源を動かす機会の拡大を追求す る。そ のさい経済主体 は転用可能な資産一一 たとえば、一般的技能や多用途の技術一―を取得するように 奨励 される。
資産の特殊性はあきらかに「資本主義の多様性」 アプローチにおいては決定的な分析的役割を与 え られている。Ⅲにおいて取 り上 げる Esteve― Abe,et」 .[2001]、 Iversen[2002]に とって、資 産の特殊性―一労働の技能の特殊性一一 は「社会的保護」 (た とえば、雇用保護規制、失業給付、
賃金補償等 )に とり決定的なものと理解 されている。
Ⅲ . 「 資本主義の多様性」論の経験的分析
「資本主義の多様性」論に基づ き、 これまですでにい くつかの実証的成果が もたらされているが、
この理論的枠組みにもっとも忠実な実証的成果 は Estevez― Abe,et al[2001]、 Iversen[2002]で あろう。 これ らの研究の理論的主張の核心 は、転用不可能な技能への投資を行 う労働者が、長期的 失業や、異なった技能を要する職務への非 自発的 シフ トに起因する所得の損失 に対 して社会的保護
を要求する、 というものである。
Ⅲ二 1.製 品市場戦略、技能および社会的保護
Estevez― Abe et al[2001],Iversen[2002]の 理論的主張 はよ り詳細 には次の 2点 に要約 され る。 (1)企 業の製品市場戦略 は利用可能 な技術の分布に制約 される。そ して唸 )技 能の利用可能性 は適 切な保護水準を必要 とする。
最初 に、企業の製品市場戦略 と技術の相互補完 lL― 11)の 理論的主張一―について見て行 きたい。
3つ の技能 タイプが資産の特殊性一一すなわち転用可能 portabilityか どうか一一 によって区別 さ
― ‑49‑―
標準的な、規格化 された製品の 大量生産
多様化 された製品の大量生産 ニ ッチ市場向けの高品質製品の 生産
多品種・ 高品質の製品の生産
表 ‑5 企業の製品市場戦略と技能
利用可能な技能 (技 能の転用可能性 )
高い転用可能性 低 い転用可能性
一般的技能 産業特殊的技能 企業特殊的技能
lAlフ ォー ド主義的大量 生産 (自 動車や耐久消 費財等の生産 )
企 業 の 製 品 市 場 戦 略
tBl日 本の自動車産業、
電子機器産業
lClク ラフ ト集約型職場
Dlド イツの多品種高品 質生産
注 )Estevez― Abe,et al.[2001],Iversen[2002]に 基づき作成。
れる。すなわち、企業特殊的な技能、産業特殊的な技能、および一般的技能である。企業特殊的技 能は 0」 Tを つ うじて獲得 され、その転用可能性が もっとも低い。産業特殊的技能 は、 ドイツで見 られるように、徒弟制 と職業訓練校をつ うじて獲得 される。そうした技能は特定の職業内部ではど の使用者によって も利用可能である。一般的技能は、すべての使用者によって認められる、企業や 産業のタイプか ら独立的な価値を持つ。
こうした技能プロファイルと製品市場戦略との相互補完的関係は表 ‑5の ように要約す ることが で きる。表 ‑5の 各 セルには企業の製品市場戦略 と必要 とされる技能の補完関係が示 されている。
lAl フォー ド主義的生産の標準化 され規格化 された財の大量生産には高度に訓練 された労働者を 必要 としない。必要 とされるのは半熟練労働であり、狭い範囲の標準化 された課業をこなす生 産労働者である。 自動車やその他の耐久消費財などの伝統的なアメ リカ製造業産業はこうした カテゴリーに入 る。
0 日本の自動車 メーカーと電子機器産業にみ られるような、多様な範囲の製品を大規模に生産 す る戦略は、 ライ ンにおいて頻繁な製品の変更を可能にする広範囲な課業を遂行できる労働者 に依存する。労働者が遂行する課業は自社の製品や利用する機械に関する高い知識水準を伴い、
したが って高度に企業特殊的である。
lCl 第 3の 製品戦略はニ ッチ市場向けの高品質の製品生産戦略である。それは産業特殊的なクラ フ ト技能を持つ労働者を必要 とする。 こうした生産戦略のプロ トタイプはスケールメ リットを 持 たず、その工程には高度にクラフ ト集約的職場が存在する。 この例 としては、オーダーメイ
ドの衣料品、宝飾品等があげられる。
D 最後の戦略はハイブリッ ド型である。それは高品質の製品 ラインを追求するが、生産量を高 めるために小規模のクラフ ト職場か ら離れる。 これは多様化 された品質生産 と呼ばれる。 この 生産戦略は高水準のクラフ ト技能 に加え企業特殊的な技能を必要 とする。 ドイツが こうしたタ
イプの生産のプロ トタイプである。
次 に、 Estevez― Abe et al.[2001],Iversen[2002]の 第 2の 理論的主張一―技能の利用可能性 は適切な社会的保護水準を必要 とする一一 に移 ることに したい。 この両者の相互補完的関係 は表 一 6に 要約 されている。 Estevez― Abe et al.[2001]は 労働者 の行動 に関 して次の 3つ の仮定の下 に どのようなタイプの制度が、 どのようなタイプの社会的保護 と結びつ くかを検討する。
(i)人 々は教育 /訓 練投資にコ ミッ トすることを決定す る前 に自己の教育 /訓 練投資の包括的な リター ンを計算す る。
liil 人々は、投資の リスクが同一であるとすれば、 より高い期待 リターンを生み出す技能へ投資
することを選択する。
lliil 他の条件を一定 とすれば、人々はより不確かな将来の リター ンを持つ技能への投資を控える
(人 々は リスク回避的である )。
表 ‑6に おいて示されている雇用保護は制度化された雇用保障を指す。雇用保護が高まれば高ま
るほど、労働者が経済的下降期にレイオフされる可能性は低下するであろう。失業保護は失業に起 因する所得の低下からの保護を意味する、 したがってキャリア全体をつうじた賃金水準に対する不 確実性を低下させることができる。表 ‑6に おいては、 4つ の主要な技能 と社会的保護の補完性が 確認され、また典型国も与えられている。
表 ‑6 社会 的保護 と予測 され る技能 プ ロフ ァイル 雇用保護および被用者に対する所得保護
低 い 高 い
IBl産 業特殊 的技能 と企業特 殊的技能の ミックス 例 :ド イッ Dl企 業特殊的技能 例 :日 本
Iversen[2002],p.10,cf.Estevez― Abe et al.[2001],p.154.
高 い 低 い 失 業 保 護 お よ び 失 業 所 者 対 に す る 所 得 保 護 出
lAl産 業特殊的技能 例 :デ ンマーク
lCl一 般的技能 例 :ア メ リカ
― ‑51‑―
lAl 産業特殊的な技能に関 していえば、雇用保護 はそれ程重要ではない。技能が企業特殊的では な く産業特殊的である場合、労働者 は比較的容易 に企業間を移動できるか らである。産業特殊 的な技能に投資 しようとする労働者のイ ンセンティブにとって重要な点は雇用状態に関わ りな い熟練 に基づ く賃金の保護である。失業保護は、所得連動的な給付を提供することによって、
もしくは熟練労働者の供給がその需要を超える場合で も熟練労働者の賃金を高水準に維持する ことによって、技能に投資する労働者の所得を保障する。
0 企業特殊的および産業特殊的技能 に依存する製品市場戦略を追求する企業にとって、雇用の 約束 と失業の補償 は、市場における競争 ポジションを改善するコス ト効率的な経路を提供 しう る。雇用の地位 に対する将来の不確実性―二 したが って将来の賃金プ レミアムに対する不確実 性一―を低下 させる措置は大いに企業のコス ト効率性を改善 しうる。そ してそうした企業が成 功すればするほど、特殊技能に対す る需要 はますます拡大する。 こうして特殊技能均衡の中に 立つ ことになる。
lCl 雇用保護 も失業保護 も制度化 されていないとすれば、労働者にとって労働市場の リスクに対 する最善の保険は一般的な、転用可能な技能に投資することである。企業が一般的技能戦略を 追求す るのであれば、 より高い保護 は、特殊的技能労働者の雇用を大幅に高めないため、そう
した技能 に投資 しようとする労働者のイ ンセ ンティブを損なう。
③ 企業特殊的な技能 は特定の企業の外では無価値であり、それゆえ、そのような技能に投資す るように労働者を動機づけるためには高水準の雇用保護を必要 とする。あるいは労働者による 企業特殊的技能への投資を拡大す るためには、労働者がそうした投資に対する リターンを取得 できる程長期間にわたり企業に留 まることができるという保証を必要 とする。
要す るに、雇用保護 と失業保護の特定の組み合わせが技能プロファイルを決定するということが 理解 される。雇用保護 は労働者が企業特殊的技能に投資する性向を高め、他方、失業保護は産業特 殊的技能への投資を促進する。両方の保護を欠 く場合、一般的技能へ投資するインセンティブが強 め られる。
Ⅲ ‑2.労 働市場の成果
以上の理論的主張か らは、労働市場の成果について次のような理論的予測を引き出す ことができ
る。第 1に 、一般的技能 システムは稼動所得の格差を創造する可能性が高いということが指摘され
る。第 2に 、企業特殊的技能 と産業特殊的技能に依存する製品市場戦略は、一般的技能にもとづ く
市場戦略に比べ、 ジェンダーの点において不平等を もたらす可能性がある。第 3に 、技能の転用可
能性が低 い経済では、高い経済に比べ、失業が高 まると期待 される。
1)一 般的技能 システムにおいては、中等 レベルの学校教育が雇用保障へ と導 くことはない。低 水準の学校教育を受 けた人々が 自己の教育投資か らリター ンを取得す ることはほとんどない。 しか も、 この システムにおいては、 そ うした人 たちのための職業31練一一 た とえば 0」 Tや Off― JT
―一の提供は依然 として低水準である。 このため貧窮化 した労働プールが創造 される可能性がある。
対照的に、一般的技能 システムにおいては、高い学位 と大学院学位を有す る人々は自己の教育投資 に対 して大 きな リター ンを取得す る。 したが って学力の分布が技能の分布 に翻訳 され、 きわめて非 対称的な稼働所得分布を生み出す と期待 され る。
2)一 般的技能 はキャリアを中断 した場合で も高いペナルティを科 されることはない。 ところが、
企業特殊的技能 と産業特殊的技能においては、キャリアの中断は解雇 もしくは長期的な賃金所得の 低下 に帰結す る。 こうした結果 は、キ ャリアの中断が女性労働者の多 くに妥当する場合、特殊的技 能戦略を持つ企業の経済 においては、 ジェンダーの観点か らみた不平等が発生する可能性が高 くな
る。対照的に、一般的技能 システムはジェンダー中立的と期待 される。
3)技 能の転用可能性が低い経済では雇用保護が要求 され、失業が抑制 され ると期待 される。他 方、技能の転用可能性が高い経済では雇用保護 は求め られず、低水準の失業 は期待 されない。
したが って、 コーディネー トされた市場経済 とリベラルな市場経済それぞれについて、表 ‑7に
おいて示 されているような労働市場の成果が期待 される。
Ⅳ .2つ の資本主義 と労働市場の成果
本節 においては、 「 資本主義 の多様性」論か ら引 き出された労働市場の成果 に関す る理論予測を
注 )Estevez― Abe et al.[2001],Iversen[2002]の 理論 モデルを基に作成。典型国のアルファベ ットは表 ‑6
に対応。
表 ‑7 2つ の資本主義と労働市場の成果
資本主義
のタイプ 典型国
社会的保護 労働市場 の成果
失業保護 雇用保護 稼働所得
の格差
ジェンダー
間の不平等 失 業
コーディネー トされた市 場経済
lAlデ ンマー ク 高 い 低 い 低 い 高 い 一局
tBlド イツ 高 い 一昌 低 い 高 い 低 い
Dl日 本 低 い 一局
高 い 高 い 低 い
リベラルな
市場経済 lClア メ リカ 低 い 低 い 高 い 低 い 高 い
― ‑53‑―
経験的に検討することに したい。検討 にあたっては、第 1に 、労働市場の成果を直接的に評価する 方法を採用する。具体的には、労働市場の成果に関す るデータについてクラスター分析を適用 し、
グループ化 された経済が「資本主義の多様性」アプローチで識別 された経済グループ (表 ‑3お よ び表 ‑7参 照 )と 整合的であるかどうかを問 うことにす る。第 2に 、 「資本主義の多様性」 アプロー チが理論的に資産の一般性 /特 殊性 に基礎を置 く点に注 目し、資産の一般性 /特 殊性一一労働者の 技能の一般性 /特 殊性―一 と労働市場の成果 との間に関連があるかどうかを検討することにしたい。
Ⅳ‑1。 資本主義経済のクラスタ…化
「 資本主義の多様性」、 論か らは表 ‑7に 示 されているような労働市場の成果が期待 される。そこ で同理論を検討にあたっては、賃金分散、失業率、男女間の賃金格差データを取 り上げることに し たい。
(1)稼 働所得
賃金分散 としては稼働所得 (製 造業 )の 第 9+分 位 /第 1+分 位を利用 した。図 ‑2は 同データ
図 ‑2 稼働所得 (製 造業 )の 格差
AID9/Dl(sta0
注 )各 国 コー ドは以下 のよ うに対応 す る。 なお、 カ ッコ内 は ここで利用 された稼働所得 の格差 の開始年 (AllD
9/Dl(starO)と 終 了年 (AllD 9/Dl(end))を あ らわす。 Austh Australia(1980‑1995),Aust=Austria
(1980‑1995),Ca:Cmada(1981‑94),Den:Denmark(1980‑90),Fin:Finlamd(1980‑95),Fr:France(1980‑95),
Ger:9ermany(1984‑95),Ita:Italy(1979‑95),」 a:Japan(1980‑95),Neth:Netherlands(1980‑95);NZ:New
7ealald(1984‑95),Nor:Norway(1989‑93),Swe:SWeden(1980‑95),Swi: Switzerland(1991‑95), UK
(1980‑95),USA(1980‑95)。 デー タの出所 は Howell and Huebler(2091),Appendix A,p.33.
図 ‑3 稼働所得 (製 造業 )の 格差の長期的変化 1979‑2000年
3
25
2
8 81.5 ヽ
重
10.5
園じ SA
■ UK
‑1.5 ‑i 45 3 .: 1 lb l
WomenD9/DlCwageD
注 )デ ータの出所 :Glyn(2001),tttle l,p.4。 なお、データの計測期間はAustL Australia(1979‑2000),Ca:
Callada(1981‑94),Den:Denmark(1980‑90),Fin:Finland(1980‑99),Fr:Frallce(1979‑98),Ger:Germany (1984‑98),Ire:Ireland(1987‑97),Ita:Italy(1986‑96),Ja:」 apall(1979‑99),Neth:Netherlands(1979‑99), NZ:New Zealand(1984‑971,Nor:Norway(1980‑91),SWe:Sweden(1980‑98),Swi:SWitzerland(1991‑98), UK(1979‑2000),USA(1979‑2000)。
の 1980年 と 1995年 の水準値 にクラス ター分析 5を 適用 した結果 で ある。 図 ‑2に おいて は横軸 に
1980年 のデータ、縦軸 に 1995年 の デー タが とられている。 この図か ら理解 され るよ うに、 カナ ダ、
アメ リカの グループ、他方、 ベルギー、 デ ンマーク、 フィンラン ド、 ノル ウェー、 スウェーデ ンの グル ープ はあ き らか に異 な るクラス ターを形成 し、 「 資本主義 の多様性」論 の理論予測 に一致 す る。
しか し、 これ以外 のサ ンプルはいずれの クラス ターに も入 らず、独 自の グループを形成 している。
さ らに、長期的変化 を見 た場合、水準値以上 に複雑 な様相 を見せ る。図 ‑3に おいて は、稼働所
得 (製造業 )の 第 9+分 位 /第 1+分 位 の年平均百分比変化 (%)が 示 されて い る。 この指標 か ら は賃金格差 の長期的動 向を理解す る ことがで きる。 ここで は、 1979‑2000年 期 間 の男性 と女性 の デー タに ク ラス ター分析が適用 されてい る。図 ‑3か ら理解 され るよ うに、 4つ の クラス ターが成 立 す るよ うで あ る。 「 資本主義 の多様性」 アプ ローチか ら引 き出 され た理論 的予測 に下致 して、 ア メ リカ、 イギ リス、 ニ ュー ジー ラ ン ドは同一 の クラス ターに入 った。 だが、同 じリベ ラルな市場経 済 に分類 され るカナ ダ、 オース トラ リアはむ しろス ウェーデ ン、 オ ラ ンダ、 ドイ ツと同一 の ク ラス
5標 準化 されたデータに階層型 クラスター分析が適用 されているが、 2つ のクラスター間の距離の測定 にあたっ ては Ward法 が利用 されている。
― ‑55‑―
ターに入 る。 さ らに、 コーデ ィネー トされた市場経済 を形成 す るサ ンプル国 につ いて も日本 とフィ ンラン ドは異 な ったクラス ターに入 る。
9)失 業率
次 に、失業率データを用いて、同様 に、 クラスター分析を行 った。利用 されたデータは 1980年 と 1995年 の失業率である。図 ‑4に おいては横軸 に 1980年 の失業率、縦軸 に 1995年 の失業率が とられている。 Estevez― Abe,et al.[2001]、 Iversen[2002]の 理論的予測にしたがえば、デンマー クとアメ リカが、そ して ドイツと日本が同一のクラスターに入 る。だが、 ここで も彼 らの予測 とは 異なり、む しろ、 日本 とアメ リカ、 ドイツとデ ンマークがそれぞれ同一のクラスターに入 る。失業 率に関 しては 3つ のクラスターが形成 される。 しか も、表 ‑3の 分類にも適合 しない
6。8)ジ ェンダー間の不平等
これについて も理論予測 どお りの結果を得 ることはできなか った。図 ‑5に おいては、1998年
図 ‑4 失業率のクラスター 1980‑1995年
︵﹁ E O
︶ a D O E E 17.5
15
12.5
10
7.5
5
2.5
Eta■ 甲 r
Unemp(start)
注 )た だ し、 オース トリア (1980‑1994年 )、
(1980‑1990年 )、 イタ リア (1979‑1995年 )、
である。
ベルギー (1986‑1993年 )、 カナダ (1981‑1994年 )、 デ ンマーク ニュージーランド (1984‑1995年 )、 ノルウェー (1989‑1993年 )
6だ が、失業率は、各国の制度的要因や測定方法、 さらに労働力人 口か ら ドロップ した人 口を考慮すると、雇
用パ フォーマ ンスを評価する上で適切な指標ではないか もしれない。 このため、失業率データを基礎に した
場合、 Estevez― Abe,et al.[2001]Iversen[2002]の 理論的予測を適切に評価 したとはいえないもしれない。
図 ‑5 ジェンダー間の賃金格差 (1998年 )
剛 o of Modians
注 )年 齢 20〜 64歳 の従業員の賃金・ サラリー (フ ルタイム従業員の 1時 間あたりの稼働所得 )の 中位と平均を とり、男性賃金に対する女性賃金の比率 (%)を 計算。オース トラリア、カナダ、スウェーデンについては 2000年 の データ、ニュージーランド、スイスについては2001年のデータ、アメリカについては1999年 のデー タである。データはOECD Employment Outlook(2002),p.97,table 2.15よ り得た。
時点 の男女間の賃金格差 を基 にクラスター分析 を試 みた結果が示 されている。 この図をみ ると、北 欧経済 は低 い平等 を示 し、 アメ リカ、 カナダは高 い不平等 を示 している。 だが、女性が労働市場 の 下層 的 な領域 に入 る可能性 が高 い ことを考慮 すれば、「 中位」 および「 平均」 のデータでは ジェ ン ダー間 の不平等 を捉 え ることがで きないか も しれない。 そ こで賃金 0サ ラ リーの 20パ ーセ ン トタ イルで も比較 を行 ったが、 その場合 で も、 同様 に、「 資本主義 の多様性」論か ら引 き出 された理論 予測 に適合す る結果 は得 られなか った
7。Ⅳ ‑2.資 産 の特殊性 と労働市場 の成果
すで に述べ たよ うに、 「 資本主義 の多様性」論 にお いて決定 的 な役割 を果 た して い るの は資産 の
7も っとも、「資本主義の多様性」論か ら引き出されるジェンダー間生涯の不平等 はキャリアの中断に基づ く ものであり、 したがって、比較にあたっては勤続年数をコントロールする必要があるであろう。また、本デー タは男女間の賃金格差に与える他の要因をコントロール したものではない。 したが って純粋な性別格差を捉 えた ものではないというデータの制約 にも注意 してお く必要がある。
‑57‑
一般性 /特 殊性一― Estevez― Abe,et.al.[2001],Iversen[2002]の 実証分析の場合、労働者の技 能の一般性 /特 殊性――である。そこで次 に資産の一般性 /特 殊性 と労働市場の成果の関連を考察 す ることに したい。
労働市場の成果をあ らわす指標 としては上述の稼働所得の格差 と失業率を取 り上 げる。他方、資 産の特殊性を表現する指標 として Estevez― Abe,et al.[2001]に よって採用 された中位の在職期間 を採用す る。 さらに、 Hiscox and Rickard[2002]に よって考案 された特殊性指標を採用す る。
これは基本的に産業間の労働移動を尺度するものである。
具体的な検討に入 る前に、 ここで、資産の一般性 /特 殊性を代理する指標について説明 しておこ う。中位の在職期間は Estevez― Abe,et al.[2001]に おいては企業特殊的技能の尺度 として利用 さ れている。 Hiscox and Rickard[2002]は 資産の特殊性を表現す る代理変数 として産業間労働移 動を尺度す る指標を利用 している。そこには労働者の技能の特殊性が、労働者が職を変えるさいの 意思決定一一すなわち、労働移動の意思決定一一 に影響を与える、 ということが前提 されている。
本稿で利用される第 1の 指標は構造調整指標 SA(Structural Adjustment)と 呼ばれるものであ る。それは以下のように定義される。
M′ ̲z=0.5づ
二 IS∫ 一 鍔 ZI
そこで 島 は ′期か ら′一 z期 にかけて ,一 番 目の産業が 占める雇用の シェアを表現する。構造調整 指標 は一定期間における産業間の雇用の相対的 シフ トを尺度す るものであ り、 0(産 業構造 におい て変化がまった く発生 しない )か ら 1(あ る産業か ら他の産業へ労働者が完全に移動 )の 値をとる。
したが って この指標の値が大 きければ大 きいほど、雇用分布におけるより急激な変化を表現する。
第 2の 指標 は、産業か ら産業への労働移動だけに起因する雇用分布の変化を表現する、雇用の産 業間再配分指標 IR(Industry Rea1location of Employment)で ある。 この指標 は、経済の他セ
クターヘの流出入く労働力への参入・撤退に起因する変化を取り除くものであり、純粋に産業間を
移動する労働者 に起因する雇用配分の変化を表現する。
JR′ 2
0.5Σ (E′ Z+珂
)
̀=1
そこで Èは ′ 一 z期 において Ⅳ 産業の グ番 目の産業 に見出される雇用である。分子 における左側 の項 はその期間における全産業の雇用変化 (失 われた職 と創出された職 )の 総数を表現 し、右側の
Ⅳ 珂
ノ ︶ . 一 E 一
Ⅳ 口
︐ 自
珂 一
珂 一
Ⅳ 口
︐
項 は失われた職 もしくは創出された職の総数であ り、他の産業での職の喪失 もしくは創出によって 相殺 されない (補 償 されない雇用変化 と呼ばれる )。 雇用の総変化か ら補償 されない雇用変化を引 くことで、産業間への職の再配分の総数に関す る尺度が与え られる。 さらに、比率で表現す るため に製造業の雇用総数 (′ 一 z期 の平均 )に よって除 してある。
以上の 3つ の指標 と労働市場の成果指標の関連を検討することに しよう。表 ‑8に は資産の一般 性 /特 殊 性 と労働 市場 の成 果 の相 関係数 が示 して あ る。 表 ‑9に は同 じデー タに基 づ いて Spearmanの 順位相関が示 してある。
1)中 位の在職期間 と稼働所得格差
中位の在職期間 と稼働所得の格差 との間には弱い関係ではあるものの、負の相関が存在する (積 率相関 ‑0.1160、 順位相関 ‑0.2133)。 これは、技能の特殊性が低 い場合稼働所得の格差 も低 い、
ということを示す。 したが って、 コーディネー トされた市場経済の下では稼働所得格差が低 く、 リ ベラルな市場経済の下では稼働所得格差が高いという理論的予測に一致 していると見ることができ る。
だが、相関係数を見ただけでは、 コーディネー トされた経済の中の違いを見 ることはできない。
そこで 2つ の変数を基にクラスター分析を行い、産業特殊的技能ベースと企業特殊的ベースの経済 の間に相違がみ られるかどうかを見 ることに したい。図 ‑6に おいては、 3つ のクラスターが形成
表 ‑8 技能の特殊性指標と労働市場パフォーマンス指標の相関
中位の在職期間 SA IR
稼 働 所 得 格 差 ‑0。 1160
(0。 68063)
‑0.1259 (0.6549)
0。
1655 (0.5555)
失 業 率 0.1552
(0。 5808)
0。
1569 (0.5766)
0.2193 (0.5123)
注 )カ ッコ内は有意確率。
表 ‑9 技能 の特殊性指標 と労働市場パ フ ォ…マ ンス指標の順位相関
中位の在職期間 SA IR
稼 働 所 得 格 差 ‑0.2133 (0.4277)
‑0.2581 (0.3531)
0。
1074 (0.7031)
失 業 率 0.2520
(0。 3649)
0.1610 (0.5665)
0.4522 (0.0906)
注)Spettma■ lの 順位相関。 カ ッコ内は p値 。
― ‑59‑―
図 ‑6 在職期間と稼働所得の格差
・J