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所 属 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 学 位 の 種 類 博士(看護学)

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Academic year: 2021

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(1)

博士学位論文内容の要旨

氏 名 村上

ムラカミ

優子

ユ ウ コ

所 属 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 学 位 の 種 類 博士(看護学)

学 位 記 番 号 健博 第

161

号 学位授与の日付 平成

31

3

25

日 課程・論文の別 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 題 名 外傷により脊髄を損傷した人の経験 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 西村 ユミ

委員 教 授 山本 美智代 委員 特任教授 武井 麻子

委員 教 授 榊原 哲也(東京大学)

【論文の内容の要旨】

背景

脊髄損傷とは、事故等によって強い衝撃が加わり、脊髄に傷害を受けた状態のことであ る。脊髄を損傷すると運動麻痺、感覚障害等々、様々な合併症や随伴症状が生じる。受傷 後間もない時期は、生命を維持するための医療的依存度が高く、生命や身体的な安定を維 持することに重点が置かれる。その後も、疾患の特性上、脊髄を損傷した人は、医療との 接点をもち続けることになる。また、受傷原因は、社会的背景と密接にかかわり、今後も そのつどの状況に応じた医療・看護の検討が求められる。先行研究においては、研究者の 関心が予め想定され、その状況に適応するためにどのような看護が可能かという視点での 研究が多く、当事者の視点から探究されたものは少ない。また、調査方法は、振り返って 語ってもらうというものが多く、特に、受傷後間もない時期の経験に立ち会っている研究 は極めて少ない。そのため、脊髄損傷についての既存の理解の枠組みや研究者の関心を一 旦棚上げし、さらに、受傷後間もない時期をともにしているからこそ接近できる経験を、

当事者の視点から探究する必要があると考えた。

研究目的

本研究は、外傷により脊髄を損傷した人がそのからだで生きることをどのように経験し ているのかを現象学的記述によって開示することを目的とした。

研究方法

研究参加者は、外傷により脊髄を損傷した受傷後間もない時期の

2

名および受傷後約

10

(2)

博士学位論文内容の要旨

年を経過した

1

名であった。それぞれに参加観察を実施し、状況に応じて、会話を録音し た。データ分析は、研究参加者の語りを、意味のまとまりを区切らないように、どのよう な経験をしているのかといった点について注目して実施した。本研究は、平成

27

年度首都 大学東京荒川キャンパス研究安全倫理審査委員会(承認番号:15085)および調査施設の倫 理審査委員会(承認番号:△△△−○−001915−○○)、平成

29

年度首都大学東京荒川キャン パス研究安全倫理審査委員会(承認番号:17036)の承認を得て実施した。

結果

受傷後間もない時期に脊髄を損傷したからだで生きるという経験は、「自分であって自 分でない」こと、「自分でも何が何だかよくわからない」ことから始まっていた。彼らは、

「よくわからない」「どうなってるんだろう」等々の語りとともに、自分のからだを新た につくり直す作業を迫られていた。そして、何であるかは明示されないままに、「自分」

であることや「自分」に起こっていることへのわからなさによって、自分自身を揺さぶら れるような経験をしていた。

受傷後約

10

年の経験を振り返ったときに最初に語られたのは、希望が「切られる」とい うことであった。しかし、併せて、日常生活を取り戻すために様々なことにチャレンジし てきたことも語られた。そして、車いすにも馴染み、仕事をし、趣味を楽しむまでの状況 になり、日常生活を取り戻すという意味では、目標を現実のものとしていた。それにもか かわらず、振り返って語られた経験の焦点は、日常生活における目標とは別の「立って歩 く」という希望にかかわる可能性と現実との直面にあった。

考察

脊髄の損傷は、単に運動や感覚が麻痺するのではなく、あったはずの運動や感覚がはっ きりとは自覚できなくなることで、自分のからだの統合性が崩れるような経験だった。ま た、自分で思うように動けないことは、状況への能動的なかかわりあるいはかかわれると いう可能性を途絶えさせることになった。つまり、自分のからだの統合性や状況へのかか わりの可能性が断たれていることが、彼らにとって自分なのに自分ではない、自分のこと にもかかわらず自分のことがよくわからないという感覚を生じさせていた。このような事 態は、これまで自覚する手前で可能であった様々な事柄を、彼らに自覚的に、しかも事あ るごとに取り組み直させることになった。さらに、このようなからだの統合性の崩壊は、

出来事への応答関係の信頼を揺るがせたり特有の時間経験をつくったりしていた。

受傷後間もない時期は、少しずつ自分のからだについての分節化がなされ、世界とのか

かわりのつくり直しが経験されていた。受傷後約

10

年では、できることとともにできない

ことが分節化されることになった。例えば、リハビリの目標設定は、方向性を示すことに

なるだけでなく、限界を突きつけることにもなった。他方で、過去に使っていなかった道

具や積極的に取り組まなかったリハビリが、時間を経て、立って歩くという可能性のひと

(3)

博士学位論文内容の要旨

つとして意味づけられ取り組み直されることになった。そして、このような取り組み方の 変化は、受傷後から変わることなく抱え続けている思いを際立たせて経験させていた。

結論

脊髄損傷について、これまで動けない、感じられないという言葉で表現されてきた経験

を具体的に開示することができた。それは、自身の意識と身体との乖離というように精神

と身体とに分かれた在り方ではなく、自分のからだの統合性という身体固有の次元での経

験であった。また、そのつどの自分のからだや何らかの出来事との関係についての分節化

は、他者へ現在のからだの状態を伝える、あるいは、できることやできないことを伝える

ための媒体としてではなく、身体の在り方そのものが表現されていた。つまり、脊髄を損

傷したからだで生きるという経験は、身体の統合性が崩れることによって、そのつど可能

性と現実とに直面しながら、新たに自分のからだや世界とのかかわりをつくり直すことで

あった。

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