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所 属 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 学 位 の 種 類 博士(放射線学)

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Academic year: 2021

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氏 名 森山

モ リ ヤ マ

ひとみ

所 属 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 学 位 の 種 類 博士(放射線学)

学 位 記 番 号 健博 第

190

号 学位授与の日付 令和

2

3

25

課程・論文の別 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 題 名

放射線誘発ラット乳癌の病理学的および分子生物学的特徴

論 文 審 査 委 員 主査 教 授 福士 政広

委員 准教授 井上 一雅

委員 グループリーダー 今岡 達彦(量子科学技術研究開発機構)

【論文の内容の要旨】

原爆被爆者や放射線治療を受けた患者を対象とした疫学調査から、放射線被ばくは乳癌 のリスクを高めることが明らかになっている。粒子線や高エネルギーX線(8.0MeV以上)

を用いた放射線治療では、二次的に中性子線が発生するが、中性子線は高線エネルギー付 与(LET)放射線の一種であり、低LET放射線と比較して強い発がん作用を有する。しかし、

中性子線によって誘発される腫瘍がどのような特徴を持っているかは不明であった。そこ で本研究では、放射線による発がん感受性が高いことが知られている乳癌を対象に、

γ

線や 中性子線を用いて、放射線により発生した乳癌の病理学的特徴および発がんメカニズムの 解明に資する知見を得ることを目的とした。

第2章では、0.485 Gy(平均エネルギー2.3 MeV)の中性子線または

γ

線を7週齢の

Sprague-Dawley雌ラットに照射し、発生した乳癌のサブタイプおよびゲノム変異を、非照射

群に発生したラット乳癌と比較した。乳癌のサブタイプについては、腫瘍の免疫組織化学 染色を行い、ヒト乳癌の標準分類基準に従ってルミナル型と非ルミナル型に分類した。ま た、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション法(aCGH)を用いて、乳癌細胞におけるデ オキシリボ核酸(DNA)のコピー数異常について解析した。その結果、中性子線と

γ

線はル ミナル型乳癌の発生を有意に増加させることが分かった。また、DNAコピー数異常が見ら れた領域には、ヒト乳癌で変異が報告されている46の遺伝子が存在していることが分かっ た。これらの結果から、中性子線と

γ

線は、ヒト乳癌患者で見られる遺伝子異常と同様の遺 伝的異常を介して、ルミナル型乳癌の発生率を増加させていることが推察された。また、

中性子線照射により発生した乳癌のサブタイプやaCGH解析で検出されるゲノム異常は、

γ

線照射群により発生した乳癌と類似していることが分かった。

(2)

第2章で行ったaCGHによるDNAコピー数異常の検出は、全染色体を網羅的にスクリーニ ングできるという利点がある一方で、DNAコピー数異常を検出するプローブ間の間隔が長 いため、その間にあるDNAコピー数異常や、小さい変異は観察できないという欠点があっ た。そこで、第3章では、近年発展してきた次世代シークエンス技術を用いて、網羅的に一 塩基レベルの遺伝子変異を検出することにより、中性子線および

γ

線誘発ラット乳癌におけ るゲノム変異を詳細に観察し、発がんメカニズムの全容の解明を試みた。第3章では、乳癌 における被ばくの影響を検出しやすくするため、7週齢のSprague-Dawley雌ラットに、速中 性子線(平均エネルギー2.3 MeV)0.97 Gyまたは

137Cs γ

線4 Gyを全身に1回照射した、被ば く線量の高い実験群に発生した乳癌を解析に用いた。また、非照射群に発生した乳癌を比 較対象として用いた。第3章では、まず第2章と同様に免疫組織化学染色による乳癌のサブ タイプ解析を行い、一部の乳癌について全エクソームシークエンスによるゲノム変異の解 析を行った。サブタイプ分類の結果、中性子線照射群および

γ

線照射群において、非照射群 よりルミナル型乳癌のリスクが高いことが分かった。一方、非ルミナル型に分類された乳 癌は、ルミナル型に比べ、その発生率が低かったが、中性子線照射群においてのみ非ルミ ナル型乳癌の有意なリスク上昇が見られた。次に、全エクソームシークエンスによるゲノ ム変異解析の結果、各乳癌において平均80個前後の遺伝子変異が検出された。また、非照 射群に発生した乳癌において、腫瘍の成長期間と一塩基置換の発生数について有意な相関 が観察された。検出された変異を持つ遺伝子について、その機能が細胞の癌化への関与に 矛盾していない遺伝子を調査した結果、どの群においても約半数の検体で、細胞の癌化に 関係し得る遺伝子変異が観察され、特に細胞増殖や転写に関する遺伝子が多いことが分か った。また、DNAコピー数解析の結果、ラット乳癌において高頻度にDNAコピー数の増幅 が観察される領域が存在することが分かった。このDNAコピー数の増加は、非照射群と照 射群に発生した乳癌の両方で観察される共通した異常であったが、増幅が見られる領域に は、発生・分化制御に関わる転写因子をコードする遺伝子や、Wntシグナル伝達経路、

PI3K/AKTシグナル伝達経路に関係する遺伝子が存在しており、癌化への関与が推測された。

また、第2章および第3章で行ったゲノム変異解析の両方で、放射線照射群に発生した乳癌 のみにおいて、

5番染色体の一部の領域にDNAコピー数の減少が観察されることが分かった。

これらの結果から、中性子線および

γ

線被ばくではルミナル型に分類される性質を持った乳 癌が発生しやすいこと、発がんに至るメカニズムとして、細胞周期や細胞増殖の調節機能 を持つ遺伝子の機能欠損が重要な働きをしている可能性が示唆された。さらに、放射線照 射群に発生した乳癌に特徴的なゲノム異常が存在する可能性が示唆された。

以上の結果から、中性子線および

γ

線誘発ラット乳癌はルミナル型の特徴を持つ傾向にあ

ること、また放射線誘発ラット乳癌に特徴的なゲノム変異による発がんメカニズムが存在

する可能性が示唆された。本研究は、中性子線誘発乳癌における病理学的特徴およびゲノ

ム変異を示した最初の報告である。

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