嶋 脇 秀 隆
Ener gy Di s t r i but i ons of Emi t t ed El ect r ons f r om Semi conduct or Fi el d Emi t t er s
Hi det aka S
HIMAWAKIAbs t r act
The energy distributions of field‑emitted electrons from single‑tip n‑type and p‑type Si field emitters have been analyzed by using an el ectrostatic cylindrical sector analyzer. The energy distribution of an n‑type Si field emitter suggests that electrons are emitted from near the Si conduction band under the influence of band bending,radial momentum due to the geometrical structure of a sharp needle and some of electron emission from the interface states. On the other hand,for a p‑type Si field emitter,the energy distribution shows that electrons are mainly emitted through surface states,in which electron are supplied from the valence band of Si.
:Si field emitter,field emission,energy distribution,electron spectroscopy
1.
は じ め にシリコンを始めとする半導体材料を用いた微 小冷陰極は,製作の際に半導体プロセス技術が そのまま適応できるのみならず,半導体の電子 物性を利用した電子放射[1]や能動素子との一 体集積化が可能であることから[2,3],真空デ バイスと半導体デバイスの両者の特長および機 能を融合させた新たなエレクトロニクスの展開 に向けた基幹素子として期待されている。半導 体微小冷陰極を高性能化・高機能化し,実用デ バイスに応用するためには,電子放射機構を十 分理解することが不可欠である。エミッタから の放射電子のエネルギーには,その起源に関す る重要な情報が含まれているため,放射電子の エネルギー分析は,電子放射機構を理解する上 で極めて有用な手段である[4,5,6]。これまで,
金属材料からなる電界電子放射陰極については 詳細なエネルギー分析が行われているが,Si電 界電子放射陰極からの放射電子のエネルギー分 析に関する研究は,あまり例がない[7,8,9]。こ れは,Siエミッタの表面は非常に活性であり,
また,酸化膜の有無やエネルギーバンド構造等 の影響によって,放射電子のエネルギー分布が 複雑に変化するためである。これまでに,n型 Si エミッタからの放射電子のエネルギー分布は,
フェルミ準位以下に数 eV程度まで広がってお り,清浄な表面の金属エミッタに比較してかな り広い分散を持つこと,また,表面処理の違い によりマルチピークとなることなどが報告され ている[8,9]。
本稿では,127°円筒型エネルギー分析器(最 小分解能 8 meV)を用いた単一ティップの n型 および p型 Si電界電子放射陰極から電界放射 された電子のエネルギー分析と Si電界電子放 射陰極からの電子放射機構について述べる。測 定にあたっては,計測中の電流変動を避けるた
平成 17年 12月 16日受理システム情報工学科・助教授
め,放射電流が安定するまで長時間のエイジン グを行っている。
2. Si
電界電子放射陰極の電子放射特性図 1に,通 常 の 反 応 性 イ オ ン エッチ ン グ
(RI E)と熱酸化によるシャープニング法を用い て製作した Si電界電子放射陰極の走査型電子 顕微鏡(SEM)写真を示す。エミッタのゲート 孔径およびティップ高さは,それぞれ,1. 5μmφ および 1μm である。また,ゲート電極形状は,
エミッタ近傍で,その非対称性に起因する電界 の歪みが電子ビーム軌道に与える影響を抑える ため,直径 1. 6 mm の比較的大きな円形とした。
n型および p型 Si電界電子放射陰極の製作に あたっては,比抵抗 2‑4Ωcm の n型(100)Siお よ び 比 抵 抗 10‑15Ωcm の p型(100)Si基 板 を それぞれ用いた。
図 2および図 3に,単一ティップの n型およ び p型 Si電界電子放射陰極の I ‑V特 性 と F‑
N プロットをそれぞれ示す。図より,n型 Si電 界電子放射陰極では,放射電流はゲート電圧の 増加と共に指数関数的に増加している。一方,p 型 Si電界電子放射陰極の場合,高電圧側で放射 電流の飽和傾向が見られる。これは,p型 Siに おいて,電子は少数キャリアであることから,高 電圧側で電子の供給律速が生じているためと考 えられる。しかしながら,飽和放射電流量は,バ ルク Siにおいて,室温で少数キャリア濃度から 予想される空乏層での電子の生成量(2×10 A/cm )と比べ,非常に大きい。p型 Siエミッ タの放射電流の飽和特性は,エミッタの表面処 理の仕方(酸化膜の有無など)によって異なる ことから,p型 Si電界電子放射陰極からの電子 放射は,価電子帯から励起された電子が表面ま たは界面準位を経由して行われると考えられる
[10] [11]。したがって,飽和電流量は,エミッ タ表面の表面準位あるいは酸化膜との界面準位 と空乏層における電子の供給量により決まると
考えられる。
図 2 単一ティップ n型 Si電界電子放射陰極の電 子放射特性図 1 Si電界電子放射陰極の SEM 写真
3. Si
電界電子放射陰極の電界放射電子の エネルギー計測製作した Si電界電子放射陰極は,TO‑5トラ ンジスタパッケージにマウントした後,サンプ ルホルダーに取り付けられ,超高真空チャン バー(1×10 Pa)内に導入される。エネルギー 計測中の電流変動を避けるため,nAオーダー の放射電流で数時間のエイジングを行ってい る。
図 4に,127°円筒型エネルギー分析器(最小 分解能 8 meV)の概要を示す。分析器は,入出 力レンズとスリット付き同軸円筒偏向電極,検 出部から成る。検出器には 2次電子増倍管セラ トロン(村田製作所)を用いている。また,分
析器の電子ビーム入射側にはスリット付き蛍光 板が設置されており,電子放射像を観測しなが らアライメント調整や分析する部位の選択を行 うことが可能である。ここで,放射電子のエネ ルギー計測にあたり,電子のパスエネルギーは 10 eVに設定した。
図 5に,ゲート電圧を 34 Vから 37 Vまで変 化させた際の単一ティップ n型 Si電界電子放 射陰極からの放射電子のエネルギー分布を示 す。図中の電流値は,各ゲート電圧における全 放射電流値である。ゲート電圧の増加に関わら ず,いずれのエネルギー分布も,フェルミ準位 付近にしきい値エネルギーを持つ単一ピークの 分布となっている。このことは,n型 Siエミッ タの表面は蓄積あるいは空乏状態にあり,伝導
図 3 単一ティップ p型 Si電界電子放射陰極の電子放射特性
図 4 エネルギー分析器の概要
図 5 単一ティップ n型 Si電界電子放射陰極から の放射電子のエネルギー分布
帯から供給された電子が Siのフェルミ準位近 傍からエミッションされていることを示唆して いる。しかしながら,ゲート電圧の増加に伴い,
ピーク位置が僅かに低エネルギー側にシフトし ている。このことから,今回使用した n型 Si電 界電子放射陰極においてはバンドベンディング が起きていると考えられる。また,エネルギー 分散は,ゲート電圧 34 Vにおいて半値幅が 0. 3 eV程度と比較的広く,ゲート電圧の増加に伴 い,エネルギー半値幅も増加している。エミッ タ表面には多数の表面準位または酸化に伴う界 面準位の存在が予想されるため,これら準位に トラップされた電子が,ゲート電圧を増加する につれてエミッションに寄与してくるものと考 えられる。
図 6に,ゲート電圧を 37 Vから 45 Vまで変 化させた際の単一ティップ p型 Si電界電子放 射陰極から電界放射された電子のエネルギー分 布を示す。n型 Siエミッタと同様,それぞれの エネルギー分布は,単一ピークの分布となって いる。しかしながら,各々のしきい値エネルギー は,フェルミ準位より 1. 5 eV以上低く,ゲート 電圧の増加と共に,0. 1 eV/1 Vの割合で低エネ ルギー側に移動している。それに伴い,ピーク 位置も,同様に,低エネルギー側にシフトして いる。また,エネルギー分散は,n型の場合と比
較してかなり広い。しかしながら,その半値幅 は,ゲート 電 圧 に 依 ら ず ほ ぼ 等 し く(約 0. 5 eV),またエネルギー分布の形状も変化してい ない。これらの結果は,p型 Siの場合,エミッ タ表面に空乏層が形成され,価電子帯から励起 された電子が表面または界面準位を介してエ ミッションされるということを示唆している。
図 7に,p型 Siエミッタからの電子放射のモ デルを示す。ゲート電圧の増加に伴い,しきい 値エネルギーが低エネルギー側にシフトしてい くことから,ゲート電圧を増加するにつれ,エ ミッタの表面では電子の供給律速のより Siの 表面近傍の空乏層幅が広がる。また,エネルギー 分散の半値幅が n型 Siの場合よりも広く,ゲー ト電圧を増加しても変わらないことから,低電 圧においても,すでに真空障壁は表面準位から トンネル可能な状態にあり,価電子帯から励起 された電子が表面準位を介して放射される。し たがって,ゲート電圧を増加した場合,トンネ ル確率の増加により放射電流量は増加するが,
エネルギー分布形状は変化しない。
以上の結果より,n型 Siおよび p型 Si電界 電子放射陰極からの電子放射は,表面準位が寄 与していることが確認された。したがって,Si 電界電子放射陰極の放射電子の低エネルギー分 散化には,表面処理・修飾によって表面準位を 減らすことが重要となる。
4.
む す び単一ティップの n型および p型 Si電界電子
図 6 単一ティップ p型 Si電界電子放射陰極からの放射電子のエネルギー分布
図 7 p型電界電子放射陰極からの電子放射のモデ ル
放射陰極から放射された電子のエネルギー分析 を行った結果,エミッタの表面または界面準位 が放射に深く関与していることが明らかとなっ た。電子ビームの低エネルギー分散化のために は,表面改質・修飾により表面準位の低減化を 図ることが重要である。
エミッタからの放射電子のエネルギー分析に より,電子放射機構に対する理解が深まること で,真空・半導体機能融合デバイスの実現に向 け,より高性能・高機能な微小冷陰極の開発が 進展するものと期待される。
参 考 文 献
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