研究チーム報告
【人文科学研究部】
グリム兄弟主要著作に関する基礎・応用研究
グリム兄弟基本研究"チーム(課題番号:063003)
研究期間:平成18年4月1日〜平成21年3月31日 研究代表者:永田善久 研究員:和田達宜
【研究概要】
『聖書』に次ぐ世界のベストセラーとされる『子 供と家庭のメルヒェン集』は、グリム兄弟の存命中 19回に及ぶ改版を重ねた。本学図書館架蔵の「グリ ム兄弟・コレクション」は、これらのうち13点の版 を含んでおり、質・量ともにグリム兄弟博物館(独・
カッセル)のコレクションに次ぐセカンド・ベスト となっている。
厳密なテクスト批評に基づくより深いグリム・メ ルヒェン研究には途中の版の詳細な対照が不可欠で あるにも拘らず、商業ベースに乗りにくいという理 由のため、ごく一部の版を除けばいずれも未復刻の ままであり、過去の公刊記録もない。このような事 情から、本学所収のオリジナル資料を順次復刻して、
研究者向けの基礎資料として広く公刊することは学 術機関としての本学の使命であると考え、本学図書 館収蔵の「グリム兄弟・コレクション」の書誌学的 研究に取り組むとともに、同コレクションに含まれ る未復刻の『メルヒェン集』各版を、紙・電子の両 媒体を通じて広く一般に提供・公開することを当面 の目的に定めた本研究チームが結成された。今回の 研究チームの活動は、同じ方向性の目的を以て従事 した「グリム兄弟基本研究!」の研究活動と成果を 引き継ぎ、これをさらに発展させるよう努めたもの である。
チームにおける研究活動の役割分担は、原則とし て、和田が書誌学的・文献学的考証に基づいた、主 に『グリム童話集』の紙媒体による原典批判的復刻 を担当し、永田が(上記和田による紙媒体による資 料復刻を補う形での)電子媒体による全文テクスト データベースの作成およびインターネットでの公開、
また、インターネット公開に係わる諸技術の研究お よび開発に携わる、というものであった。
【研究成果】
[和田担当分]
先行の「グリム兄弟基本研究!」を受けて今期は
『メルヒェン集』(「小さい版」)第2版(1833)の 完全復刻を行い公刊した。これに合わせて、従来、
文献学的考証の殆ど進んでいない「小さい版」(撰 修版)が「大きい版」に対してもつ資料的重要性に ついて本学が所蔵する「小さい版」の他の版のオリ ジナル原本とともに解題した解説を書き下ろした。
また、今期の研究活動においては「小さい版」を特 徴付ける挿絵の変遷についても注力して研究を行い、
何かと不明な点の多い「小さい版」の出版史につい ても多少の成果を得ることができた。特に、2007年 には、第2版のカラー挿絵付刊本を発見し、本学図 書館で首尾よく購入することができた。『メルヒェ ン集』の重要書誌のどれもがその所在を確認してい ない刊本の存在が証明され、「小さい版」の実際の 出版事情の解明を一歩進められたことは、特記すべ き収穫である。
[永田担当分]
先行する「グリム兄弟基本研究!」研究期間内に、
Web上 に「Grimm_Database」(Namazuを 利 用 し た テクストデータベースの全文検索、Linux、Apache、
PHP、pdfLaTeXを活用したPDFファイルの自動組
版等々)を構築してあったが、今回はこのシステム をもっとインタラクティブ性の高い、ユーザ・フレ ンドリーで洗練されたものに改善した。その際、い わ ゆ るLamp(Linux、Apache、MySQL、PHP)と いう動的なWebページ開発のためのデファクト・
スタンダードとなっているオープンソース・プロ ジ ェ ク ト の 成 果 物 を 大 い に 活 用 し た(実 際 に は
MySQLの代わりに、やはりオープンソースである
Namazuを使っているので、Lanpと書くべきか)。
具体的には、サーバサイドのプログラミング言語
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タベースからの自動組版に関して、「ペーパー・サ イズ、フォントの種類、フォント・サイズ、段組、
目次の作成、ページ番号の付加、行番号の付加、ヘッ ダ(柱)の付加、ハイパーテクストリンクの付加(目 次が自動作成されると、そこに自動的にリンクが張 られる機能)」といったpdfLaTeXをバックグラウ ンドで作動させる際のオプションを、全てラジオボ タンや選択型のリストボックスによって選ぶことの できるユーザ・インタフェースを完成させた。また、
WebサーバApacheのMultiViews機能を用いてWeb サイト上での「多言語(英語・ドイツ語・日本語)
対応」の設定も施した。
テクストデータベースを可読性に富むPDFファ イルに自動組版することに関しては、グリムの原書 の中で「丸いsと長い 」の使い分けのあるテクス トを、これまでのテクストデータベースとの整合性 を失うことなく簡便に処理することのできるLaTeX 用パッケージs-dayromanを開発した(仮想フォン トの作成も含む)。さらに、前研究期間内に作成し たドイツ旧字体によるテクストの組版を高レベルで 制 御 で き るLaTeXの パ ッ ケ ー ジkhmを 改 善 し、
Grimm_Databaseシ ス テ ム に よ り 自 動 組 版 さ れ た PDFファイル上のハイパーリンクが施された目次 箇所の見出しに(いわゆる)「ドイツ語特殊文字の 文字化け」が起こらないようにもした。全文テクス ト デ ー タ ベ ー スGrimm_Databaseと 連 動 し た Namazuによる全文検 索 と、PHPとpdfLaTeXに よ る自動組版(PDFファイル出力)サービスを提供し ているWebサイトのURLはhttp://www.lg.fukuoka-u.
ac.jp/˜ynagata/grimm_database.htmlである。
【研究業績】
[和田達宜]
1.『ドイツ文法用語独和小辞典』(川口&和田ほ か)、同学社、2006年10月。
2.[教材作成]Deutsch als Fremdsprache!(Part3)
E-Learning用教材、福岡大学CCC(サイバー・
キャンパス・コンソーシアム)整備事業教育コ ンテンツ、(http://ccc.cis.fukuoka-u.ac.jp/˜user02)、 2006年6月。
3.[講演]Die Grimm-Forschung und die Grimm-
im Brüder Grimm-Museum: Grimm-Forschung und Grimm-Rezeption im 20. Jahrhundert, Kassel,2006 年5月。
4.[講演]Japanische Kinderbücher und Grimmsche Märchen―Eine illustrationsgeschichtliche Darstel- lung. Mittwochs bei Grimms im Brüder Grimm- Museum, Kassel,2006年8月。
5.[復刻資料]福岡大学図書館架蔵グリム・コレ クション稀覯原本―研究資料No.3:『グリム 童話集』〈小さい版〉第2版(1833)、福岡大学 研究部論集A:人文科学編 Vol.7No.1、2007 年7月。
[永田善久]
1.ドイツでPCモバイル、郁文堂Brunnen442号、
2006年12月。
2.自然史的愛言学―ヤーコプ・グリムの思想、岩 波書店『思想』No.995、2007年3月。
3.s-dayroman―長い と丸いsとを自動的に組み 分けるための新LaTeXパッケージ、福岡大学 研究部論集A:人文科学編 Vol.7No.1、2007 年7月。
4.[書評]「詩的知恵」の系譜―堅田剛『法のこと ば/詩のことば―ヤーコプ・グリムの思想史』―、
岩波書店『思想』No.1010、2008年6月。
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研究チーム報告
【社会科学研究部】
卸売再編と小売業に関する研究
流通システム研究チーム(課題番号:064002)
研究期間:平成18年4月1日〜平成21年3月31日
研究代表者:田村 馨 研究員:本村希代、太宰 潮(平成20年4月加入)、二宮麻里(平成20年3月脱退)、杉本宏幸(平成 20年3月脱退)
情報流活用の遅れが流通の効率性の阻害要因 メーカーにはじまり、卸を介して小売へ、さらに 顧客へと流れる流通システムは、既に膨大な資金が 投入され、現在も効率化や統合が進んでいる。花王 のEDIなどがその代表例である。しかし世の中の
「流通」は従来の「メーカー→卸→小売→顧客」と いう流れに限られるものでは当然ない。
ひとつの事例として、旅行業界が挙げられる。旅 行業界を従来語られる流通に置き換えると、ツアー などの サービス の販売は、観光地の地元や、旅 行代理店ないしポータルサイトなどの運営会社が 生産 する。それが代理店やサイトなどを経由し て販売され、顧客はツアーやホテルなどのサービス を享受する。従来の消費財の流通システムにおいて は、どのような製品がどの流通段階を介し、どのよ うな顧客に売れたかを把握することができる。だが、
旅行業界では必ずしも「情報流」が流通システムの 各参加者に共有されているとは言えない。ツアーを 組む旅行代理店では、デモグラフィック属性など顧 客の詳細なデータを保有しているが、それがホテル や観光地にまで流れていない、もしくは活用がごく 一部に限られるケースが多い。事前に来店する顧客 の属性データが把握できれば、きめ細かい対応が可 能となるはずだが、それを行っていない、またはデー タの活用に気付かないまま日々の業務が流れている ケースが散見される。
ヒアリングを行った某観光地におけるホテル・
テーマパーク運営企業からは、情報流の活用ができ ていない現状と、その活用可能性が確認された。
流通システムの変化を誘発する大規模流通企業 の投資行動
大規模な経営統合、帳合い整理、リベートの見直
し等をはじめとする取引制度の変更等に見られるよ うに、日本型流通システムを長期にわたり牽引し支 えてきた卸売業を取り巻く経営環境はさらに厳しく なっている。業界上位の大規模卸売企業も、今後、
どのような方策を採用すべきか、その選択を迫られ ている。特に、QR(Quick Response)、ECR(Efficient
Consumer Response)等、大規模メーカーと大規模
小売企業が連携して、流通在庫の圧縮を狙ったり、
シームレスな情報流を構築したりすることは、中小 卸売業だけでなく、大規模卸売企業にとっても脅威 となる。
全国展開する食品卸売企業へのヒアリング調査と 福岡県にある物流センターの視察から、各地の拠点 や小売店へ物流コストを抑えながら配送するために は、各地の物流拠点を結ぶ情報ネットワークが必要 であること、さらなるロジスティック・システムの 高度化・自動化が必要であること、そして物流・情 報システム投資を補って余りある営業力が必須であ ること等が示唆された。
つまり、各地の物流センターの省力化と自動化(労 働生産性の向上)、物流センターを含む社内情報シ ステムの連携、そして営業力強化に向けた対小売戦 略の強化(リテール・サポート、カテゴリー・マネ ジメント等)という三点が大規模卸売企業の戦略に 必要な要素として挙げられる。こうした大規模卸売 企業の戦略的な行動を支えてきたのは、その投資行 動であり、地方の中小卸売企業との格差は広がるば かりである。
地方の中小生産者の生き残りは販売戦略が鍵を 握る
地方の中小卸売業の衰退は中小生産者の衰退に連 なる。それゆえ、中小生産者の生存は自力での販路
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いて、九州内の酒造業者、酒類卸、酒販店にどのよ うな販売方法を採用しているのかヒアリング調査を おこなった。
酒類流通においては、1990年代以降、販売自由化 が進行するとともに、全国系量販店が酒類を取り扱 いはじめ、酒造業者および地方卸はその対応に追わ れた。全国系量販店は酒類を新たな目玉商品として、
価格切り下げ競争を展開した。量販店に対して低価 格品を提供するなどの迅速に対応をできた清酒メー カーは一時的に売上を伸ばしたが、清酒需要全般の 低迷という傾向は変わることなく続き、価格競争か ら脱却できていない。また地方卸は、小売業の全国 化に対しては、全国卸との提携関係を強化したのだ が、品揃えが差別化できていなければ、その活動領 域は狭められてしまう。他方、焼酎メーカーは小売 店を組織化するなどして、価格競争に巻き込まれな い策を講じた。このように販売戦略の違いが市場に おける競争のあり方に影響を与えており、自力での 販路構築はその有力な戦略の1つである。
企業規模による競争格差を ICT の活用は縮減す るか?
企業規模による競争格差が日本の流通システムを 今後とも規定していくのだろうか。
大正期における九州地方の売薬商況に関しての検 討からは、!売薬は和漢薬を主原料としており、そ れゆえ明治期以降の西洋医学導入は、売薬産地や業 者へ新たな対応を迫ったこと、"そこで打開策の一 つとして行われたのが、販路の拡大であった。九州 地方には田代などの売薬産地が存在していたが、大 正3年の段階において、新聞広告などを効率的に用 いた他府県の売薬業者が、新たに九州地方へ入り込 んできていることが確認できた。いわば、いまも昔 も、新しい情報メディアの活用が流通システムにお ける競争力を左右してきたのである。
近年、ツイッター、クラウドコンピューティング など流通企業がより安いコストで使用できるICT が次々と登場している。新たなICTは流通システ ムにおける情報流のあり方や特性、商流・物流との 関係を必然的に変えていこう。その変化が企業規模 による競争格差にどのような影響を与えるかは現時
用をめぐる競争は自力開発力に乏しい中小流通企業 の競争力向上に資するであろう。大日本印刷は仮想 顧客(ペルソナマーケティング)作成サービスを最 低50万円からスタートさせた。数百万円以上の費用 がかかる従来のサービスに比べると驚くべき低価格 で利用できる。半面、ICT活用のコスト引き下げは 規模が大きな流通企業も享受できる。さらにいえば、
ICT活用のパフォーマンスは規模が大きな流通企業 ほど上がる可能性がある。情報流の変化が日本の流 通システムにとってどのようなインパクトになるか は今後に残された研究課題である。
【研究成果および業績】
田村 馨
〈論文〉
「改正まちづくり三法を3つの視点から点検する―
小売競争・都心再生・街づくりの視点から―」『不 動産研究』第48巻第4号、平成18年10月
〈寄稿〉
「もう一つの都市の再生論―「モノ」の集積力から
「サービス・コト」の集積力へ」『観光会議きゅう しゅう』秋号、平成18年10月
本村希代
〈論文〉
「近代における近江日野売薬の展開と近江商人正野 玄三家」『福岡大学商学論叢』第53巻第2号、平成 20年9月
「近江商人正野玄三家の研究」、博士学位論文(同 志社大学)、平成21年3月
〈史料〉
「大正三年における北部九州および朝鮮・満州地方 の売薬商況―滋賀県売薬業組合聯合会「視察調査事 項報告書」―」『福岡大学商学論叢』第53巻第2号、
平成20年9月
〈学会報告〉
「近江商人の名望家活動―正野玄三家を中心に―」
経営史学会西日本部会、福岡大学、平成18年12月 その他、九州における地方百貨店の調査を行った。
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太宰 潮
〈論文〉
「フードサービスにおける経験価値アプローチ―現 状の問題点とこれからのマーケティング施策:ロイ ヤルホストを中心に―」『日本フードサービス学会 年報』第13号、平成20年10月
「価値訴求型プロモーションに関する一考察:店頭 プロモーションにおける経験価値アプローチ」『福 岡大学商学論叢』第53巻第3号、平成20年12月
〈学会報告〉
「フードサービスにおける経験価値アプローチ―現 状の問題点とこれからのマーケティング施策:ロイ ヤルホストを中心に―」日本フードサービス学会第 13回年次大会、青山学院大学、平成20年5月
「ベイジアンネットワークを用いた車体ライフタイ ムモデルの構築」(影井智宏との共同報告)日本マー ケティング・サイエンス学会第83回研究大会、大阪 府立大学、平成20年6月
「メディアミックスにおけるPowerLaw」日本商業 学会九州部会、福岡大学、平成20年7月
〈受賞〉
「マーケティング分析コンテスト2008 奨励賞」! 宣伝会議・!野村総合研究所共催、平成21年2月
二宮麻里
研究推進部が保管する岩田屋(中牟田家)文書を撮 影したマイクロフィルムおよび紙焼資料を、学会及 び地域社会の知的財産として活用できるよう、公開 へ向けた調整を行った。また九州における地方百貨 店を対象に、資料の所在確認およびヒアリング調査 を実施した。
杉本宏幸
〈論文〉
「流通統計による卸売業の効率性指標の検討―生産 性と利益性―」『福岡大学商学論叢』第51巻第4号、
平成19年3月
「卸売研究の戦略的視点」『季刊マーケティング ジャーナル』第104号、平成19年3月
〈研究ノート〉
「流通生産性の測定に関する予備的考察」『福岡大 学商学論叢』第52巻第3・4号、平成20年3月
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【社会科学研究部】
都市解析のための発見科学研究
都市解析のための発見科学研究(重点化)チーム(課題番号:074007)
研究機関:平成19年4月1日〜平成20年3月31日(1年間)
研究代表者:五十嵐寧史 研究員:林 基、栫井昌邦
【研究概要】
消費者の購買行動のなかでは、財を認知する段階 の情報が重要である。近年、その情報提供のために 過去の購買履歴などから、特定個人の選好に合致し た財の情報を提供する「リコメンデーションサービ ス」が実用化しつつある。都市内を回遊する消費者 に地理情報ともに近隣の商業サービスの情報を提供 するためにも必要なサービスといえる。これまでは 購買履歴データはPOSを構築したうえで取得する 必要があり、地域的にも限られた範囲の消費者であ ることが多かったが、インターネットの普及でネッ トショッピングが一般化し、よりおおくの消費者の データの蓄積が容易になった背景がある。
リコメンデーションサービスを実現する技法とし ては、協調フィルタリングが代表的であるが特定の ユーザと選好がにている別のユーザを見いだす原理 上、十分な数のユーザとデータの蓄積がないと機能 しないという課題(コールドスタート問題)がある。
そのためこの技法を素朴なまま適用しようとしても、
ユーザ数が少ない場合や、リコメンドの対象となる 財の種類が極めて多い場合には適用しにくい。本年 の研究では、この課題に対応するため、2つの視点 から実験・分析をおこなった。
1つは、ユーザ数が少ない場合に対応するために より精密に選好を測定することで、リコメンドを可 能にできないかというもの、2つめは、オンライン で取材可能な情報ではなく、現実世界での会話や非 言語的に交わされるインタラクションにもとづいた リコメンデーションの有効性の検証である。
前者は、アマチュアミュージシャンが作曲した楽 曲ソースに対しての好みを一対比較法(AHP)でス コア化し、それなりに好みを精密に順序尺度に落と し込むとともに、その順序関係の矛盾(Consistency Index)が大きい場合・小さい場合のリコメンデー
ションの有効性を評価した。楽曲ソースをアマチュ アから提供してもらったのは、著作権上の問題を回 避するためでもあるが、どの実験参加者も初めて接 するものとし、実験の条件をそろえるためである。
10曲の楽曲のうち、ランダムに7曲を選んで実験参 加者に聞いてもらい、2曲づつの比較でどちらが自 分の好みであったのかを回答してもらい、AHPに よってスコアとConsistency Indexを算出した。その 情報に基づいて30人の実験参加者を相関係数法で個 人間の好みの類似度を決定し、実験参加者ごとに聞 いていない残り3曲についての評価値にもとづいて リコメンデーションをし、それが的確であったかを 実験参加者に確認してもらう、という手順を踏んだ。
その結果、30人の参加者に対し、リコメンデーショ ンが的中したのは12名となり、評価値の予測はあ たったとはいえない。一方、Consistency Indexが0.1 以下となった実験参加者8名に関しは5名が的中し ており、有効性は有意にあったといえる。つまり実 験参加者がいかに順序関係のゆがみのない評価をし ているかがリコメンデーションの的中率に関係して いることを実証した。これによりユーザ数の少ない 場合においても精密な選好情報があれば、リコメン デーションが実用的になる感触をえた。
後者については、現実世界における対面での「お すすめ」が、非言語的な情報も使っている可能性が あることから、購買履歴以外の情報に基づくリコメ ンデーションの有効性を評価するものである。リコ メンデーションの対象は書籍とした。書籍という財 の特徴は、ひとつひとつがオリジナリティを求めら れるものであり、過去に経験した財と「類似」した 書籍が評価されるとは限らないことである。そのた め、リコメンデーションするには極めて困難な財と いえるが、読書サークルなどでは日常的に書籍につ いてのインタラクションがおこなわれ、おたがいの
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好みを考慮しながらのリコメンデーションが行なわ れている、といえるかもしれない。どんな情報が行 き交っているのかは分析中であるが、アルゴリズム によって類似したユーザを見いだす手 法(=協 調 フィルタリングなど)ではなく、メカニズムは不明 ながら対人的に行なわれているリコメンデーション がはたして的中しているのかどうかを測定する予定 である。この件についての検証作業は平成21年度以 降にひきついで行う見込みである。
【研究業績】
1.消費者行動アプローチによる都心カフェの経済 効果の計測−都心カフェ利用者の回遊行動特性 に着目して−、齋藤参郎、栫井昌邦、中嶋貴昭、
五十嵐寧史、木口知之 福岡大学経済学論叢、
52/3・4、435‐458、2008年3月
2.街を活性化するサービスは何か?−自己組織化 サービスマップにもとづく消費者回遊行動分析−、
栫 井 昌 邦・斎 藤 参 郎 日 本 地 域 学 会 第44回
(2007年)年次大会提出論文、2007年
3.消費者の態度・認知イメージを考慮した商業施 設選択行動分析、栫井昌邦・中村 亮・斎藤参 郎 日本地域学会第44回(2007年)年次大会提 出論文、2007年
4.都心の回遊性による地下街再開発プロジェクト の評価 〜福岡市天神地区におけるケーススタ ディ〜、斎藤参郎・栫井昌邦・中村 亮・岩見 昌邦 日本不動産学会平成19年度秋季全国大会
(第23回学術講演会)論文集23、2007年
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【理工学研究部】
C
*‐代数の局所凸位相による完備化の研究
非有界作用素環研究チーム(課題番号:065003)
研究期間:平成18年4月1日〜平成21年3月31日 研究代表者:井上 淳 研究員:黒瀬秀樹、高倉真由美
【研究成果】
本研究の目的は非有界作用素環(O*‐代数、partial O*‐代数)の構造論と表現論についての研究をすす めることである。
ヒルベルト空間上の準閉作用素のつくる*‐代数
(O*‐代数)は純粋に数学的な立場だけでなく量子 物理への応用の面からも重要であり、多くの数学者、
物理数学者により研究されている。
もちろん、多くの未解決な問題がある。そのなかで、
1.Well-behaved*‐表現
2.局所凸quasi C*‐normed代数 3.C*‐代数の非可換微分構造
の研究をすすめた。以下に主な研究成果についてそ の概要を述べる。
1.Well-behaved*‐表現の研究
非有界C*‐セミノルムは多くの数学の題材(局所 凸*‐代数、Lie群の表現、モーメント問題等)の 内に現われているがその系統的研究はまだ不充分で ある。井上、Bhatt、M. Fragoulopoulou(アテネ大)
は(局所凸)*‐代数の非有界C*‐セミノルムの系統 的研究をすすめ、局所凸*‐代数の構造論(スペク トラル性等)、表現論、非有界作用素環の研究を発 展させた。
さ ら に、井 上、Fragoulopoulouは テ ン ソ ル 積*‐代
数のwell-behaved*‐表現について研究した。
2.局所凸quasi C*‐normed代数の研究
A[‖・‖]をC*‐normed代 数、τをA[τ]が 局 所 凸*‐代数となる位相で、C*‐ノルム位相より弱い 場合を考える。
Case1:局所凸*‐代数A[τ]の積が両側連続の場合
Fragoulopoulou、井上、K. D. Kürsten(ライプチヒ大)
はC*‐代数A¯[‖・‖]の単位球のτ‐閉包Bτを調べ
ることにより、A[τ]の完備化A¯[τ]はAllanのGB*‐ 代数であることを示した。
これにより、A¯[τ]の代数的構造(可換な場合、
∞をとる連続関数のつくる*‐代数、非可換な場合、
extended C*‐代数と同型)がわかった。
Case2:局所凸*‐代数A[τ]の積が両側連続で
ない場合。
A[τ]の完備化A¯[τ]は一般にquasi*‐代数で*‐
代数とはならない。この構造は複雑となる。
F. Bagarello(パレルモ大)、Fragoulopoulou、井上、
C. Trapani(パレルモ大)はまずC*‐代数のquasi*‐
代数への自然な一般化(局所凸quasi C*‐代数とよ ぶ)とは何かを考え、その構造を調べた。
非有界作用素のつくる局所凸quasi C*‐代数、局
所凸quasi C*‐代数の量子物理への応用を考えると、
C*‐normed代数のquasi*‐代数への一般化である局 所凸quasi C*‐normed代数を考える必要があること がわかった。Fragoulopoulou、井上はこの局所凸quasi
C*‐normed代数の構造と表現について研究し、次の
結果を得た。
・可換局所凸quasi C*‐normed代数は局所コンパク ト空間上の∞‐値連続関数のつくる局所凸quasi C*‐
normed代数と同型である。
・Functional calculus定理が成り立つ。
・非可換局所凸qausi C*‐normed代数はHilbert空間 上の非有界作用素のつくる局所凸quasi C*‐normed 代数に埋め込まれる。
3.C*‐代数の非可換微分構造の研究
"BlackadarとCuntzはdifferential seminormの概念 を定義し、C*‐代数の非可換微分構造を調べた。彼 らによって定義されたdifferential seminormは!1‐
summableを仮定しているが、Bhatt、井上、荻はこ
の仮定なしでC*‐代数の非可換微分構造(smooth
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subalgebraのスペクトラル不変性、functional calculus、
K‐理論不変性等)を調べた。
!A[‖・‖]をC*‐normed代数、Ω*(A)をA上のuni- versal graded differential algebraとする。Ω*(A)上に 自然なnorm‖・‖(r>0)が定義できr ΩrAをnormed
*‐代数Ω*(A)[|・|r]の完備化とする。Banach
*‐代数の系{ΩrA; r>0}の2つの極限代数:
Ω∞A≡lim projr→∞ΩrA(Arveson)
ΩεA≡lim indr→0ΩrA(Connes)
が考えられる。局所凸*‐代数Ω∞A、ΩεAの構造を調 べ た。特 にΩεAはC*‐spectral代 数 でΩεAとC*‐代 数 A〜[‖・‖]は同じK-theoryをもつことがわかった。
"条件付期待値の研究
von Neumann代数に対する条件付期待値の研究は
非可換確率論の研究、またvon Neumann代数の構 造論に対し重要な役割をしていることはよく知られ ている。井上、荻、高倉はその議論のO*‐代数への 一般化を考え、O*‐代数の構造論、量子物理への応 用を考えた。また、Bagarello、Trapaniはどのよ う な 条 件 の も と でGW*‐代 数 のreductionがGW*‐代 数となるかを調べ、その結果をGW*‐代数に対する 条件付期待値の存在性へ応用した。
さらに、高倉はこのO*‐代数のpartial O*‐代数の 場合へ拡張した。
#O*‐代数の微分とその物理への応用
O*‐代数上の微分がいつspatialとなるかをquasi
*‐代数の概念を用いて調べた。
【研究業績】
井上 淳
[1](with F. Bagarello, M. Fragoulopoulou and C. Tra- pani) Bicommutants of reduced unbounded operator algebras, Proc. Amer. Math. Soc., 137 (2009), 3709- 3716.
[2](with F. Bagarello and C. Trapani) Equivalence of representations of quasi*‐algebras and applications to spatial derivation, J. Math. Anal. Appl. (to appear)
[3](with F. Bagarello, M. Fragoulopoulou and C. Tra- pani) Structure of locally convex quasi C*‐algebras, J. Math. Soc. Japan, 60 (2008), 511-549.
[4](with S.J.Bhatt) Limit algebras of differential forms in non-commutative geometry, Proc. India
Acad. Sci. (Math. Soc.) 118 (2008), 425-441.
[5](with M. Fragoulopoulou) Unbounded*‐represen- tations of tensor product (locally convex)*‐algebras induced by unbounded C*‐ seminorms, Studia Math. 183 (2007), 259-271
[6](with F. Bagarello and C. Trapani) Completely positive invariant conjugate-bilinear maps in par- tial*‐algebras, Journal for Analysis and its Applica- tions, 26 (2007), 313-330.
[7](with S.J. Bhatt, M. Fragoulopoulou, and D.J.
Karia) Hermitian spectral theory, automatic continu- ity and locally convex involutive algebras with a C*‐enveloping algebra, J. Math. Anal. Appl., 331 (2007), 69-90.
[8](with M. Fragoulopoulou and K.D. Kürsten) On the completion of a C*‐normed algebra under a lo- cally convex algebra topology, Contemporary Math., 427 (2007), 89-95.
[9](with S.J. Bhatt and H. Ogi) On C*‐spectrality of locally convex*‐algebras in C*‐algebras, Contem- porary Math., 427 (2007), 155-166.
[10](with S.J. Bhatt and M. Fragoulopoulou) On the existence of well-behaved*‐representations of lo- cally convex*‐algebras, Math. Nachr., 279 (2006), 86-100.
[11](with S.J. Bhatt and M. Fragoulopoulou) Existence of spectral well-behaved*‐representations, J. Math.
Anal. Appl., 317 (2006), 475-495.
[12](with Bagarello, M. Fragoulopoulou, and C. Tra- pani) The completion of a C*‐algebra with a lo- cally convex topology, F J.Operator Theory, 56 (2006), 357-376.
井上 淳、高倉真由美
[13](with H. Ogi) Conditional expectations for un- bounded operator algebras, International J. Math.
and Math. Sci., 2007 (2007), 22 pp.
[14]Unbounded conditional expectations for O*‐alge- bras, Contemporary Math., 427 (2007), 225-234.
高倉真由美
[14]Unbounded conditional expectations for partial O*
‐algebras, International J. Math. and Math. Sci., 2009 (2009) 10 pp.
―3 3―
【理工学研究部】
チタン合金の相安定性と力学物性制御に関する研究
結晶場弾性コヒーレンス制御チーム(課題番号:065004)
研究期間:平成18年4月1日〜平成21年3月31日
研究代表者:武末尚久 研究員:西田昭彦(平成20年3月脱退)、平川 晋(平成20年1月加入)
【研究概要】
一般に、物質の弾性と強度はおおよそ比例関係に あるので、低弾性と高強度が併発する可能性は大変 小さい。物質を、その力学的性質に着目して素材と して有効活用するには、この比例関係を破るブレー クスルーを見出し用途を広げる必要がある。このた めの有力な手法として考案されたのが、結晶の欠陥 を積極的に利用すること、ならびに応力誘起相転移 を付与することである。実例としては、ゴムメタル と呼ばれる強冷間加工を施した多結晶チタン合金 Ti‐36Nb‐2Ta‐3Zr‐0.3O(mass%)が あ げ ら れ る。
この合金は、非線形弾性と理想強度に近い強度を有 することで低弾性と高強度を併発させており、また、
塑性変形に対して加工硬化しないという性質も有す。
この合金では、β相と呼ばれる体心立方晶構造を持 つ相だけが安定であるが、これまで行われた多くの 研究結果によれば、この合金の組成では、ω相と呼 ばれる六方晶構造を持つ相とα”相(マルテンサイ ト相)と呼ばれる斜方晶構造を持つ相がわずかにβ 相より不安定であり、いわゆる臨界状態が実現して いることが分かっている。このような相状態は、弾 性異常と応力誘起相転移を引き起こすことが考えら れ、このことがゴムメタルの機能発現に深く関わっ ていると予想される。よって、本研究では、チタン 合金において複数相の臨界安定状態を実現する合金 設計指針を得ることと、ゴムメタルの機能発現メカ ニズムに対する予想を実証することを目的として、
以下のことに取り組んだ。
【研究内容と成果】
[1]ω相の分子軌道ポピュレーション解析と温 度に対する相挙動の観測
DV-Xα分子軌道ポピュレーション解析により、
チタン合金(Ti-X、Xは合金元素で、X=Ti、V、Cr、
Fe、Zr)ω相のβ相に対する安定性を調べた。そ
の結果、オメガ相の相安定性は、合金の電子−原子 比と合金元素の原子サイズで制御できることが分 かった。また、ω相の形成には電荷密度波が深く関 与しており、相安定性は温度に依存すると予想され るので、X線回折法と透過電子顕微鏡法を用いて温 度に対する相挙動を観測して実証を試みた。その結 果、ω相の相関長は温度に依存することが分かり、
予想は実証された。この結果より、温度もω相の 相安定性の制御因子として重要であることが分かっ た。同様に、α”相のβ相に対する安定性を調べる 必要があるが、まだ行っていない。
[2]Ti-Nb-Ta-Zr-O 合金の単結晶育成と酸素濃度 制御
ゴムメタルが理想強度に近い強度を有することは、
本合金の塑性変形が理想変形である可能性を示唆す る。もし理想変形であるならば、塑性変形に対して 加工硬化しないという性質も理解できる。理想変形 が起こる条件は、弾性定数c11−c12が小さいことと、
ヤング率が結晶方位に対して顕著な異方性を示すこ とである。これらの条件が満たされているかどうか を調査するためには、ゴムメタルと同じ組成を持つ 単結晶が必要なので、浮遊帯域法により単結晶の育 成を試みた。また、ゴムメタルの機械物性は酸素濃 度に依存することが分かっている。このことより、
弾性定数とヤング率が酸素濃度に依存すると考えら れる。よって、この依存性も調査するために、単結 晶の酸素濃度を制御することも試みた。結果、Ar ガスフロー中で、直径6〜9!、長さ100!程度の 単結晶を育成することに成功した。単結晶の組成分 析を行ったところ、ほぼ原料の仕込み組成と同じで あった。育成方位は種結晶を使うことで任意の方位 に制御できた。育成速度は6!/hr以下とする必要 があることも分かった。酸素濃度は、Arガスの純
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度(99.99%または99.9999%)と流量(0.5〜10litter
/!)を調整することにより、0.3〜0.8%Oの範囲 内で制御できた。
[3]Ti-Nb-Ta-Zr-O 合金の弾性異方性の実証と理 想強度評価
育成した単結晶を用いて引張試験を行い、〈100〉、
〈110〉、〈111〉方向のヤング率を求めた。得られた 値はそれぞれ37、64、84GPaであり、顕著に異方的 であるので、理想変形が起こる条件を満たしている。
これらの値より弾性定数を逆算したところ、c11−c12
は24.5〜27.3GPa、c44は28.5〜35.6GPaと な っ た。
c11−c12は比較的小さな値を示しているので、理想変 形が起こる条件を満たしている。c11−c12とc44より 理想強度を算出したところ、その値は1.7〜1.9GPa となり、実変形強度と同レベルとなった。以上のこ とより、ゴムメタルの塑性変形は理想変形であるこ とがほぼ分かった。ここではヤング率より弾性定数 を求めたが、共振スペクトルを測定して解析するこ とにより求めるのが一般的な方法である。現在その 作業は進行中である。共振スペクトルを測定・解析 して弾性定数が得られたら、得られた値よりヤング 率を算出して、上記の測定値と一致するかどうか確 認する必要がある。また、補足であるが、引張試験 で得られた応力−歪み曲線の内、〈110〉方向のもの は弾性限内で非線形応答とヒステリシスを示した。
このことより、単結晶を〈110〉方向に引張ると応 力誘起相転移を起こすと考えられる。
[4]T-Nb-Ta-Zr-O 合金の非線形弾性応答のメカ ニズム解明
単結晶を用いた〈110〉方向の引張試験で観測さ れた非線形応答とヒステリシスが、応力誘起相転移 によるものであるかを実証するために、研究室X 線回折装置ならびにシンクロトロン放射光の回折装 置を用いて、引張応力下で結晶格子変形のin−situ 観測を行った。その結果、無歪みの状態から約2%
の引張歪みを与えると、β相はα”相へ転移するこ とが観測された。α”相は荷重を除荷しても残留し、
続けて引張歪みを与えると残留相が成長することが 分かった。また、透過電子顕微鏡を用いて残留相の 結晶構造をex-situ観測したところ、構造はα”相の ものであることが分かった。しかしながら、単結晶 が示す非線形応答はゴムメタルも示す挙動であるが、
ヒステリシスはゴムメタルでは現れない。現状では、
この相違点について説明できないが、応力誘起相転 移がゴムメタルの弾性変形挙動に関係ある可能性は 大変高い。今後、ゴムメタルの非線形応答メカニズ ムを解明するために、冷間加工歪みを考慮して相転 移プロセスをモデル化・シミュレーションすること と、超高圧透過電顕を用いて原子レベルで変形挙動
をin-situ観測・解析することを行う予定である。
[5]Ti-Nb 合金の第一原理全エネルギーバンド計算 第一原理擬ポテンシャル法を用いて、ゴムメタル の単結晶に〈110〉方向の引張歪みを与えると応力 誘起相転移が起こり得るかどうかを確認した。モデ ルとしては、単純なTi‐25at%Nb合金の結晶モデル を用い、計算時間が膨大にならないようにした。な お、本モデルの組成はゴムメタルの組成に大変近い。
計算の結果、体積を一定として引張歪みを与えると、
結晶の全エネルギーは減少し、約2%の歪みで極小 値を示した。さらに、格子面のシャフリングを導入 して、モデルの構造をα”相のものに近づけると、
全エネルギーは顕著に減少した。引張歪みとシャフ リングを系統的に変えて、エネルギーの最小値を探 索したところ、最も安定な構造はα”相のものであ ることが分かった。このことは、単結晶の結晶格子 変形挙動の観測結果を支持する。ただし、本計算に 用いたモデルの構造は、対称性が高く作為的である ので、今後は対称性を変えて計算を行い、同じ結果 が得られるかどうか確認したい。また、補足である が、本第一原理計算手法でTi‐25at%Nb合金の弾性 定数を算出したところ、c11−c12は14.1GPaとなった。
この値は小さいので、理想変形が起こる条件を満た すことになる。
[6]コモンメタル合金への拡張
ゴムメタルに含まれる成分元素はレアメタルであ るので、原料が高価であることが難点である。それ ゆえに、原料が安価であるコモンメタルを主成分と する合金で、ゴムメタルと同様な機能を発現させる ことが望まれる。このような合金を開発するために、
本研究では、複数相の安定状態の競合が起こり得る Fe-Ni-Co-Ti合金とCu-Al-Mn合金に着目して、ゴム メタルで行われた一連の研究を行うことを目的とし た。手始めにFe-Ni-Co-Ti合金の単結晶育成を行っ たところ、最適育成条件がおおよそ予想できた。ま
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ムメタルと同様に非線形弾性応答が現れることも分 かった。今後、実験と計算で多くのことに取り組む 予定である。
【研究業績】
[1]“Temperature Dependence of Orderedness of Charge Density Waves in β Titanium Alloys”, N.
Takesue, T. Yano, T. Shimosawa, MEXT Nanotech- nology Support Project Reports (2006).
[2]“Freezing Behavior of (2/3+∆)〈111〉Charge Den- sity Waves and Electronic States inβ Titanium Al- loys”, T. Yano, N. Takesue, Fukuoka University Sci- ence Reports, 37 (2007) 21-35.
[3]“Elastic Deformation Behavior of Single-Crystal Gum Metal”, M. Hara, S. Kuramoto, N. Takesue, Ti- 2007 Science and Technology, Proceedings of the 11 th World conference on Titanium, (2007) 627- 630.
[4]“Athermal Behavior of Incommensurate Omega Phase inβTitanium Alloys”, N. Takesue, T. Yano, T.
Uchida, Y. Shimizu, MEXT Nanotechnology Sup- port Project Reports (2007).
[5]“Electronic Effect on Low-Temperature Athermal- ity of The Omega Phase”, T. Yano, T. Uchida, Y.
Shimizu, N. Takesue, Fukuoka University Science Reports 38 (2008), 1-12.
[6]“Valence Electronic Effect on Low Temperature Phase Stability of The Omega Phase”, T. Yano, T.
Uchida, Y. Shimizu, N. Takesue, J. Phys.: Condens.
Matter 20 (2008) 285216-285225.
[7]“Single-Crystal Growth of Gum Metal and Its Elasticity”, Y. Shimizu, T. Yano, N. Takesue, Fukuoka University Science Reports 38 (2008) 1-8.
[8]“Mechanical Anisotropy and Ideal Strength in A Multifunctional Ti-Nb-Ta-Zr-O Alloy (Gum Metal)”, M. Hara, Y. Shimizu, T. Yano, N. Takesue, T. Furuta, S. Kuramoto, International Journal of Materials Re- search 100 (2009) 345-348.
[9]“Single Crystal Growth of Ti-Nb-Ta-Zr-O Alloys and Measurement of Elastic Properties”, N. Takesue, Y. Shimizu, T. Yano, M. Hara, S. Kuramoto, J. of
[10]“Investigation of lower critical fields of MgB2thin films on SiC/Si substrate with parallel magnetic fields”, A.Nishida, C.Taka, S.Chromik, R.Durny, Physica C 435 (2006) 74-77.
[11]“Investigation of critical behaviour of MgB2thin films on SiC/Si substrate”, A.Nishida, C.Taka, S.
Chromik, R.Durny, J. Phys. Conf. 43 (2006) 293- 296.
[12]“Distinctive Features of the Crystal Structure and the Superconductivity of RE-123 (RE=Gd and Sm) Prepared under a Magnetic Field”, Y.Matsumoto, M.
Tomomatsu, Y.Terasaki, S.Kato, A.Nishida, AIP Conference (LT24) Proceedings, (2006) CP850.
[13]“On the temperature dependence of the magnetic hysteresis widths observed in grain-aligned Hg(Re)- 1223 specimens”, Y. Matsumoto, K. Murakami, Y.
Kimoto, K. Higuchi, A. Nishida, T. Akune, and N.
Sakamoto, Superconductor Science and Technology 20 (2007) 736-741.
[14]“Fabrication and X-ray Powder Diffeaction Analy- ses of Bi-Based High-TcCuprate Superconductors”, C. Taka, T. Nakata, A. Nishida, Fukuoka University Science Reports 37 (2007) 1-19.
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研究チーム報告
【生命科学研究部】
社会性昆虫の行動と脳に関する
行動学的・神経生物学的・形態学的研究
社会性昆虫研究チーム(課題番号:066001)
研究期間:平成18年4月1日〜平成21年3月31日
研究代表者:横張文男 研究員:藍 浩之、伊東綱男、西川道子
【研究成果】
研究期間中に実施した研究のうち代表的な研究成 果についてのみ記述する。
$社会性昆虫クロオオアリ触角の性的二形
社会性昆虫であるクロオオアリの触角感覚子の種 類と分布数に雌雄差があることを明らかにした。ク ロオオアリの個体は、女王アリと雄アリおよび働き アリに分化しているが、遺伝的には女王アリと働き アリは雌である。雌の触角は10節から、雄の触角は 11節からなる。触角感覚子の種類は、雌では8種類、
雄では7種類だった。雌アリでは、第10節には約1400 本の感覚子があり、第1節から第10節には700〜900 本程度分布し、合計で約8500本の感覚子が分布して いた。各節では節遠位側が近位側よりも感覚子が多 かった。雌にだけあり巣仲間認識に関わる錐状感覚 子!は、背〜内側に錐状感覚子が多く分布し、逆に 腹〜外側に少なかった。雄アリでは、第1節から第 11節まで各節とも400〜700本程度分布し、合計で約 6000本の感覚子が分布していた。各節での分布は雌 の場合と同様に節遠位側が近位側よりも感覚子が多 かった。このように雌雄間には触角感覚子の種類と 数に違いがあり、触角葉糸球体の数に雌雄差がある ことに対応していた。
%社会性昆虫クロオオアリの性とカーストによる攻 撃行動の違い
結婚飛行期に野外巣近傍での働きアリ雌、羽アリ 雌、羽アリ雄の3つのカーストの個体が他の個体と 遭遇したときの攻撃行動の発現の有無を調べた。結 婚飛行期では働きアリは巣近傍では非巣仲間に対し て高頻度で攻撃し、非巣仲間もそれに対して高い頻 度で反撃している。しかし、非巣仲間の翅アリ雌や 翅アリ雄は働きアリの攻撃に対して強い反撃行動は 起こさなかった。翅アリ雌は非巣仲間のどのカース
トのアリに対してもほとんど攻撃行動を起こすこと はなかったが、非巣仲間の働きアリは翅アリ雌にか なり高い頻度で攻撃している。翅アリ雄は非巣仲間 のどのカーストのアリに対してもまったく攻撃行動 を示さなかったが、非巣仲間の働きアリは翅アリに 攻撃する頻度もかなり高かった。このように働きア リはどの組み合わせでも攻撃性が最も高かった。つ いで、結婚飛行期とそれをを2ヶ月過ぎた時期に、
室内で同様に攻撃行動の有無を調べた。結婚飛行期
(5月)の各カーストのアリによる非巣仲間のアリ に対する攻撃行動の発現率を見ると、翅アリ雄では 攻撃行動をまったく示さず、翅アリ雌の攻撃行動の 発現率も十数%で、働きアリは高い攻撃率を示して いる。ところが、結婚飛行期を2ヶ月過ぎた7月の 各カーストのアリによる非巣仲間のアリに対する攻 撃行動の発現率を見ると、翅アリ雄では結婚飛行期 と同じく攻撃行動をまったく示さず、また働きアリ の高い攻撃率も結婚飛行期と大きな違いはなかった が、翅アリ雌の攻撃行動の発現率は結婚飛行期(5 月)の14%から、結婚飛行期を2ヶ月過ぎた時期(7 月)の92%へと非常に高くなっていることがわかっ た。このように翅アリ雌では攻撃行動の発現率が季 節によって大きく変化することがわかった。
&働きバチの尻振りダンスのストップシグナルが尻
振りダンスに与える影響
働きバチの尻振りダンスのストップシグナルは、
働きバチが尻振りダンスを行う個体(ダンサー)に 対して飛翔筋を振動させて発する周波数が250〜550
#で持続時間が100〜200"の振動シグナルであり、
ダンサーが尻振り後の方向転換時に胸部に向けて発 信される場合が約58%と最も多かった。尻振りダン ス中にシグナルを受けたダンサーのうち約78%がダ ンスを一旦停止した。停止したダンサーのうち56%