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派生句構造と音韻効果

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

派生句構造と音韻効果

著者 高橋 孝二

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 22

号 1

ページ 23‑35

発行年 1973‑11‑15

その他のタイトル On the Phonology Dependency of Derived Constituent Structures

URL http://hdl.handle.net/10105/2754

(2)

派生句構造と音韻効果

高  橋  孝 (英語学研究室)

23

生成音韻論(generative phonology)の理論的洞察の一つは、音韻現象が、順序づけられた規 則の体系からなる文法表示(grammatical representations)によって予測され得るという点に ある。そして、この文法構造は、基底部門と変形部門とから、やはり予測される。

統語規則と音韻規則とのかかわり合いの研究は、 phonologyの予測能力(predictive power) を拡げると同時に、統語的表示(syntactic representation)に関する新しい情報を提供するこ

とになり、 「可能な」探層構造の形式的特性決定‑の重要な手がかりを与え、その理論上の射程 はきわめて大きいintonationが再び文法の問題として注目されるに至った一つの出発点は、

J.W. Bresnan (1971; 1972)の、 stressとsyntaxとのinteractionについての指摘に求めら れる。

本稿は、このBresnanに導かれながら、核強勢規則(Nuclear Stress Rule; NSR)が、ど のような文法変形を「変形」として認めることに役立つかを考察し、これまで問題とされて来て いるいくつかの統語論上の主張を再考しつつ、一般的には、句構造の変容という、 syntaxを規 定する音韻規則の確立を志向しようとするものである。

(‑)

プロソディック特性(prosodic features)としての「かぶせ音素」の一つである stressを 決定し、それらを記述する時に伴う最大の困難点は、それらが多様に変化するものであり、調音 力(articulatory force)がアクセント文脈に依存する相対的なものである、というところにある。

従って、音韻現象が、どこまで文法の範囲にくみ入れられるかが問題になるが、 S.Newman (1946)は、文法的にsignificantなカテゴリーとして、 ̀expressive accent'よりも̀stress accent'を優先させ、 6種類の変種を持つ三つのphonemic類に分けているO その中、 middle stressが統語関係を示している例として、 bread to eat, instructions to giveを挙げ、これら のheavy stressを持つ名詞は、 middle stressを持つ動詞のIogical objectであり、 middle stressを持たないa desire to eat, the will to liveの場合は、全く別の統語関係にあり、動詞

は名詞の補足的関係に立つことを指摘していた。更に、次の二文(1)と(2)

(1) I have instructions to lとave. (‑1 am to leave instructions.) (2) I have instructions to leave. (‑1 have been instructed to leave.)

の強勢付与(stress assignment)の差が、統語上の相異を反映しているという観察こそ、上の Bresnan論文の出発点になっているものである。

Bresnanの他に、統語規則と音韻規則との相互関係に注目した論考にEmily Pope (1971)が ある。音形部門が、部分的にせよ、文の生成に参加するまでは、統語部門の規則が始動しない例 として、 Popeはyes‑no questionsについて論じている。今、一つの質問文(3)が発せられたと

(3)

24 派生句構造と音鶴効果(高橋)

き、予想される答えは(4)か(5)のいずれかであるが、 intonationの差異によって、

(3) Are they married?

(4) yes, happily. (‑yes, they are happily married.)

‑‑‑

(5) yes, happily. (‑yes, they are married, I'm happy to say.)

その意味が全く異なる。つまり音調付与(intonation assignment)が行なわれてから、消去変形 (deletion)が働くことになり、次の結論になるとする。

(6) a)音調付与は音形部門に属する現象である。

b) (4)、 (5)の派生には統語部門に属する規則が作用している。

c) a)の規則はb)の規則に先行する。

Popeの弱点はa)にあると考えられる。音調付与が音韻現象であることには問題はないが、その 付与が表面構造の統語上の情報を音声解釈(phonetic interpretations)に旋すというとらえ方、

つまり表面構造のみの音形部門に属する現象とするところに弱点があると考えられる.このこと と同じ主張が、 「音調付与規則はbracketsを考慮に入れるが、 Iabelsを無視する」というかた ちでもなされている(P.73)e 次の二文は、異なるIabellingがなされるが(深層では支配する カテゴリーとしての結節点は異なるが)、同一のbracket.ingを持っているから(表層では構造 が調整されているから)、同一の音調曲線(intonation contour)を持つことになる。

(7) a) [It was fortunate! [that he camel b) [It was yesterday] [that he camel

しかし、このような音旗句が、表面構造上の情報だけで決定することは出来ない例として、

Stockwell (1972)は次のように論じている。 (以下、主強勢を付与される語い項目を大文字で 示す。)

(8) a) I want to know how she BUILT it.

b) [Slower] I WANT to know HOW she BUILT it.

(9) a) I saw how quickly she BUILT it.

b) [Slower] I SAW how QUICKLY she BUILT it.

(8)、 (9)のhowには同じnode labelがあり、 (8)の深層構造は̀Shebuilt itin some manner' を含み、 (9)には̀She builtit inaquickmanner'を含む探層構造があると考えられる。共に、

様態の副詞にwh一付加(WH‑attachment)が働き、 howが出て来るが、 b)の発話がゆっくり となされたときに随意的に見られる、音調曲線の境界としてのpausesは、実は一般的規則に従 っていることが分かる。その原理は、 pausesが導入されるとき、深層で高い位置にある成分 (constituents)から低い位置にある成分へと、順序づけられている、というものであり、音韻 効果を、深層で作用させることを許すモデルが必要になって来る。音形、統語両レベルの規則が intersperse出来るモデルの確立の歩みの中に、 Bresnan論文が位置づけられることになる。こ

こでとりあげられている音形規則としてのNSRは次のように定められる。

(10)核強勢規則(NSR) Chomsky&Halle (1968)

句の最も右はしの聞こえのピーク(sonority peak)に第‑強勢を与え、他の強勢 をすべて自動的に一段階格下げること。 (以下で、主強勢(/)‑大文字‑1) Chomsky& Halleは、 Trager‑Smithの観察データをふまえた上で、複雑な強勢の型がいかに syntax‑dependentであるかを示そうとしたものであるが、個々の語い項目がword stressを受 けたあとに、 NSRは循環的に働く。 (10)は次の(ll)のように定式化される。

(4)

i'lti‑ nJ構造と音嶺効果(高橋) 25

1       1

(ll)些旦革  V‑⇒  ̲aXVY‑Z]

1

条件;a) zはVを含まない。

b) AはNP、 VP、 S等のmajor categones。

この音形規則を派生のプロセスの中に、各変形サイクルのあとに順序立てながら組み入れるこ とによって、統語的に複雑な構造の強勢付与も統一的に説明することが可能となる。例えば、

1

(12) a) Helen left directions for George to follow.

1

b) Helen left directions for George to follow.

の各文は、次の(13)の夫々の意味に対応しているが、

(13) a) Helen left directions which George is supposed to follow.

b) Helen left directions to the effect that George should follow.

(12)は次のように生成されることになる。

(14) (12) a)の派生(derivation)

LsHelen left fNPdirections fsf‑r George to follow directionsslNpls]

1  1    1       1    1   1 2     2    1

2   2     1        3     3

深層構造でfollov は直接目的語を持つ。

(15) (12)b)の派登

LsHelen left LNpdirections fs for George to followsJnpJsD

I l l        1    1 2     1 2        3     1 2   2     3       4     1

(word stress) 1st cycle : NSR 2nd cycle : Syntax 3rd cycle : NSR

(word stress) 1st cycle : NSR 2nd cycle : NSR

3rd cycle : NSR

深層構造でfollov は直接目的語を持たない。

(14)の二番目のサイクルで統語上の規則(deletion)が働いているが、 (15)はすべて音形上の規 則だけが働いていて、深層の相違がstressに反映されていることが分かるO 探層構造で埋め込 まれた単文(S)の強勢の型が、変形操作後の次の派生句構造にそのまま持ち込まれて表層に実現 されるというのがBresnanの提唱する「順序の仮説」 (the ordering hypothesis)の骨子であ る。彼女は更にこのモデルの説明力を検証するものとして、次の関係節を挙げている。

1

(16) a) George found someone he'd like you to meet.

1

b) George found some friends he'd like you to meet.

1

c) Let me tell you about something I saw.

1

d) Let me tell you about something strange I saw.

a)のsomeoneは̀pronominal head'であるために、動詞にprimary stressが与えられている が、 b)のfriendsは̀specific'であるために、先行詞として前置されたあとも、そのまま contour centerを持ちつづけると説明される。これに対して、次のような反例(counterexamples)

(5)

26 派生句構造と音麹効果(高橋)

が挙げられた(Stockwellによる)

(17) a) Introduce me to the man you were TALKING to.

b) Teddy is the only CAPITALIST I would ever vote for.

その他にも多く提出されて来ている「反例」は、しかし「順序の仮説」そのものを捨てさせるこ とにはならないと考えられる. ((≡)参照) NSRの性質から、一番右の要素が問題であるが、

(17)では前置詞が位置しているからでもある Lakoff (1972)は、 Bresnanの仮説への反証例を blockする働きを持つ次のような「全体的派生制約」 (global constraint)をindependentlyに 立てている。

(18)あるNPがcontour centerを派生のプロセスを通して担うことを許されるのは、

次の三つの条件に従うときである。 (「順序の仮説適用制限」と仮称しておく。) a)最深構造において、そのNPは直接目的語であること。

b)浅い構造において、そのNPは「節仲間」 (clause‑mates)を従えないこと。

C)表面構造において、そのNPは最深構造の述語(logical predicate)のclause・

mate になっていることO 条件°)は次の生成を妨げる。

(19) *Which PRBOLEMS is it likely that he'll竺1竺?

条件b)は、 NPがNSRを受けるための保障を与えている。 a)が今後の検討を要する条件であ る。 (この点に関して筆者は「斜格関係詞の構造」を準備中である。)

「順序の仮説」がS中のVPには通用されず、 NPとSだけに通用されていたのは((14)、 (15) 参照)、 Chomsky(1970)の変形サイクルはNPとSのみにかかり、 VP‑にはかからないという立 場に立つからである。このことはすぐに、音親句上の境界づけ(phonological phrase boundaries) の問題につながる(20)のa)が(20)のb)のような構造をしているならば、

(20) a) It bothered him that she was intelligent.

b)

So

NP VP Si駈=コ

VPにcommandされているSには独自のintonation contourが与えられることになり、 Soが

̀root'sentenceのstatusを失うことになるという問題や、次の(21)が、

(21) It is tough for students to solve this problem.

(22) a) underlying S‑[for students to solve this problem]

b) underlying PP+VP‑[^for students! Cto solve this problem !

(22)のb)のように基底で分析されれば、 NSRが働かないことになってしまうこと等である。 S のstatusを保持する(preserve)分析とその有効性を次章で考察することにする。

音形規則の深層への導入は、 「意味をなぞった」不可能な深層構造と変形とを排除することに なり、言葉は話されるものであるという、本来の自然な姿に、言語研究をもどしてくれたという 点だけから考えても、以上のモデルは貴重である。

(6)

派生句構造と音鶴効果(高橋) 27

(ニ)

「変形」に一般的な制約(constraints)が存在し,望ましくない、あるいは、不可能な「派生 句構造」 (derived constituent structure)を除去しているのは、自然言語にある種の原理が存 在しているからであると考えられる Bresnanの̀implicational universal'が、どのように深 層構造と変形との相互依存関係をとらえているかを、従来提唱されて来ている「変形」の検討に

よって見て行こう。

Bresnan (1970b)の「文法的フィクション」は、次のようなfictionsを除外する原理をどこ に求めるかを問いかけていた。今、意味論上の規則(semantic rules)が統語的派生(syntactic derivations)に優先して定義されると、変形部門(T‑component)を強化することによって、例

えばあらゆる「述語補文化」 (predicate complementation)が可能になる。くforce〉タイプの 動詞がくbelieve〉 タイプの動詞と統語的に異なるのは、前者がEqui‑NP Deletionに従い、後 者がSubject‑Raisingに従う(あるいは動詞のタイプによってtriggerされる変形が異なる)と いう点においてだけであり、上の二つの変形の間にあるとするPseudo‑Cleftを受けるかどうか で両タイプを区別するのは、

(23) a) *What I forced was ‥.

b) What I believed was ‥.

次の、 (24) a) I forced John to examine the doctor.

b) I forced the doctor to be examined by John.

がsynonymousでないのに、 forced‑believedと置き換えることにより、同じ補文(S)である のにsynonymousになるという̀shallow structure'を認める立場と共に「作りごと」であると 断じている。 「同一名詞句消去」と「主語の引き上げ」はパラレルにduplicateするものである からである。

英語の複雑な音韻現象は表面構造だけで決定されるという立場は、 N S Rの派生構造への導入 によって修正されることになる。更に基底構造から働く場合には、当然word stressの付与が前 提となり標準理論(ないしは拡大標準理論)の「探層構造」は存在することになる。

(25)代名詞(pronouns)は深層構造に存在し、変形によって生成されるのではない。

NS RはIexicalinformationに依存し、それが代名詞か否かを知っているからこそ、 stress 1 が次例のように正しく付与される。

1

a) The parable shows [what suffering! men can create.

1

b) The parable shows what [suffering men] can create.

尚、 Bresnan (1970a)は、 There・Insertion, Adverb‑Preposing,という syntax の面から Pronominalizationが存在しないことを論じている(Deep Pronoun Hypothesis)

(26)英語は、 McCawley (1970)の意味でのVSO languageではない。

英語の基底にある語順は全変形サイクルを通してV S Oであり、 postcyclicな̀verb‑second rule' によってSVOに直されるとすると、 normalintonationとして、次のように正しくないcontour が与えられてしまう。

1  2

a) *Jesus wept.

2  1

b) Jesus wept.

(7)

28 派生句構造と音嶺効果(高橋)

(27) Postal (1968)の̀Tough Movement'の分析には欠陥がある。

次のa)が、 a)

Fred is easy hard tough fun etc.

for Dick to throw snowballs at.

b)のような基底形から派生すると考えるモデルが̀Tough Deletion'であり、

Fredv

easy hard tough

fun etc.

for Dicky [sY throw snowballs at Xs]

C)のような基底形から派生すると考えるのが̀Tough Movement'である。(Postal& Ross(1971))

It is easy hard tough fun etc.

for Dicky [sY throw snowballs at Freds]

これらの形容詞+不定詞補文がb)c)のようにSから派生されるか、あるいは深層のVPから導 かれるかが問題となる。 S分析を否定する事実には次のことがらが挙げられる。

d) There‑Insertionが起らない。 (この点で̀eager'タイプの形容詞と異なる。)

*It will be tough for there to be at least some students in class on time.

e) ̀for'‑complementizerとは異なる選択上の特徴がある(cf. ̀eager'タイプ)

*It was tough for that theorem on modules to become known.

f) S Movementが起らない。 (この点で̀surprising'タイプの形容詞と異なる。)

*For students to grasp this concept is tough.

NSRの「順序の仮説」は、 ̀tough'タイプの形容詞を含む上の構造がC)に見られるように、

目的語を移動させる変形(Object Shift)にかかわるものであるから、新しい根拠を提供するこ とになる。今、変形サイクルはVPにかからないとすると、 complementをPP+VPと表記し たとき次のような派生の仕組みが得られる。 (例文That theorem was tough toproveの場合)

Figure 1 S

宅igた!

NP VP

/へ\

V VP [+Predj

l芸∠∠ゝ

NP

Figure 2

/ \

S VP v/vp p‑d]l^<‑) II

A toughto蒜tha言heorem That theoremtouァh to prove

l 1 1

Figurelに示される深層で、変形はVPにかからないからSまで何らの規則も適用されない。

Sのサイクルまで来て、 proveの目的語がshiftされ、 Figure2に示される派生構造が得られる。

次にNSRが働き[2211 C最終的には[231])という正しいcontourが得られる。

NP [+

(8)

と音親効果(高橋)

一方、文補語(sentential complement)としての表記をとるとき、概略Figure3となり、

Figure 3 So

・lr\、、 pI

SI V

〔+Pred]

5

for∠4toprove that theorem tough

Figure 4

VP NP 〔十Pred〕

∠二ゝ L

that theorem tough

l 1

29

Sl

∠>ゝ

for』to prove 2

;      i       l

SlサイクルでNSRが働きprove that theoremを生じ、 Soでthat theoremが主語の位置 に入り、 Figure4に示されるようにSlが外匿される。ここでNSRが1213]という正しくな いcontourを与えてしまうO このようにして、 stressと syntaxからVPとSの二つの由来 が明らかになり、不定詞を従える形容詞が下位区分されることになる Object ShiftはVP complementsからだけ可能となる。 (不定詞一般についての他言語との比較に基づく研究が要請 される。)

(28)目的語の引き上げ(Object Shift)

[S△Pred(PP)[vpV*(P)NP]] (V*はto begin to try to please等の配列を許す。)

†         l

Postalの̀ToughMovement'は、NPがS‑nodeをただ一回だけ超えることを許す̀cross

sentence'のモデルであるが、Bresnanの(28)は、いかなるS‑node(S‑bracket)をも超えるこ

とを許さない̀intra‑sentence'のモデルであり、ISモデルが優れていることは次例によって立 証されることになる。

(29)a)Itisnot¥‑蝣¥fortheretobechildreninvolvedinsuchthings.

^3pprOpri」tt6J

b)*Suchthingsarenot・!芸蝣.¥fortheretobechildreninvolvedin.

pr。pnatej

(‑)の最後に触れたSを̀preserveするモデルを追求して行くと、(27)b)に示した̀Tough

Deletion'の派生の型をとるが、ObjectDeletion,Equi‑NPDeletion,S‑pruningの各変形を通 用することになり、基底形が解体してしまい、̀bareverbalskeletonになってしまう。

(30)QF(QuestionFormation)はComplementizer‑Substitution変形である。

QFは各サイクルでSを一つ一つ吟味(scan)して行くが、その構造記述が満足されたときに 働く。つまり、そのSがWH(‑Q)によって補文化されているときであり、そのときQFが最初 の適格(eligible)な語をWHと置き換える。例えば次の(31)で、満足すべきSDはS2のサイク ルにあり、

(31) [s3 John asked me [S2 WH [sl you thought [so he liked what]]]]

(9)

30 派生句構造と音嶺効果(高橋)

QFはこのサイクルでwhatをWHと置き換えて(32)が出来るO このモデルでは、 Postalの前 置詞の̀stranding'の現象は起こらないO

(32) *Who did she think to you spoke?

疑問文がこの「補文標識置換変形」によって生成されるというモデルは、次によって支えられる。

(sL‑COMP S、ここで[COMP,+WH]は疑問形態素のQ)

1

(33) a) John asked what Helen had written.

b) [s John asked [s COMP [s Helen had written somethings]sls]

十WH       +WH

1 1

2  2

something +wh

1     1 2     1

3     1

(word stress) 1st cycle : NSR 2nd cycle : Syutax

(‑QF) 3rd cycle : NSR (34) ̀good'タイプの形容詞を中心とする構造は次のように説明される。

[It was [good [of John]] [to leave]]

I l l      1 2  1

1  3  2

2

John

3     2

0  0

(word stress) 1st cycle : NSR 2nd cycle : Compound Rule

3rd cycle : Syntax (‑OS) NSR

そして(35)の派生が許されないのは、

(35) *Mary was good of John to leave, (cf. Itwas good of John to leave Mary.) for NPとof NP という前置詞句の相違がObject Shiftの通用を規制しているか、 OSが働

く段階で[s to leaves]のstatusを保持していて、 OSがS‑bracketsを超えないという制約 によるものと考えられる。

これまでsyntaxと stressを順序づけながら派生のプロセスに参加させることによって新し く説明される例について、いくつか検討して来たが、生成意味論の̀global'な主張がどのように 再主張ないし改訂されるか、大いに興味のあるところである Stockwellによれば次の三つの方

向が考えられる。

(36) a) intonation assignmentにはsyntaxがかかわるo このかかわり合いは一定の 顧序をもって交互になされる。

b) intonation assignmentにはsyntaxがかかわる。この場合音形規則が通用さ れてしまってから(終了してから)統語規則が働く。

c) int̲onation assignmentにはsyntaxがかかわる。しかし音形上のcontrastを iden山yする証拠(例えばtagなど)が派生のある段階まで残されているこ

とが必要である。 (global, trans‑derivational constraint)

syntaxとの関係においてintonationが、より深く、しかも自然な統一理論によって究明され るとき、言語研究のさまざまな分野に与える影響は大きい。

(10)

肘hサJ革埠と音韻効果(高橋) 31

(≡)

Bolinger (1972)は、 Chomsky‑HalleのNSRとBresnanの理論修正(ordering hypothesis)、

その他これに関連するモデルは、すべてaccentを syntaxの視点から説明しようとする共通の 試みであるが、 accentはsyntaxとは別のものであり(independent)、 information focusと

して、話者のintentionを直接反映するものであって、音形部門と統語部門の二つのレベルは、

これを混同することは変形理論を待つtrapであり、峻別しなければならないと警告している。

どの理論を採用し、どの理論を捨てるかは、多くの言語事実に則して経験的に決定されることに なるが、 Bresnanの理論と軌を一にする研究を、次にいくつか検討したい。音形規則としての再 調整規則(Readjustment rule)は、語い表示(lexical representation)としての表面構造と、

音形表示とを結びつけるための規則であるが、統語論上の規則と考えられる「Raising変形」を 認めない立場に立つK. Hasegawa (1973)は、派生句構造において、深層の従文主語が表層主 語として機能せず、主文の動詞の直接目的語になっていると考えなければならない現象(次の(3 7))を解決する方法として、文に音韻上の句を与える一種の再調整規則を設定した。

(37) a) [[want]v[John]Np[to leave]s]vp b) [[believe]v[John]NP[to be honest]s]vp

は無関係に、 V, NP, to VPi (VPlは動詞句全体から助動詞成分 この規則は、派生の由来と

Auxを除いた残りの部分)のように分析できる任意の記号列に、 [[V], [npi, [to vpqivPl のような構造を与えるもので、次のようにより一般化した形で述べている。

(38)再調整規則(Realignment Rule)

[NP, V, NP, X]s‑[[NP], [V NP],. X]S これにより次のような音韻句上の単位が与えられるとする。

(39) [the man] [promised Bill] [to come]

[the man] [showed the theorem] [to be wrong]

この「再調整規則」の形式上の特徴は、最終記号列の形は変えないで構造だけを変えるという通 常の変形とは異なる性質にあるが、この規則が派生のどの段階で通用されるかという問題につい ては、変形サイクルの最終部分に含まれると主張されている。と同時に、文体上の変異形を生み 出すComplex NP Shiftのような変形を準備するものである。 (従って筆者には、この規則の 性格が近い将来に十分明らかになって行くにつれて、出力条件を含む言語運用上のfilterとして の役割を担うところの、 performanceモデルの一つとして位置づけられることになる、と予想し ている。) Bresnanの、 NSRは循環的(cyclic)に通用されるという主張と同じように、この RARも循環的に通用され、正しい音調型を生成するために、各サイクルで、 NSR通用に先行 して派生構造を適正に再構成(restructure)する機能を持つものとされる。例えば、 Postalの Right Node Raisingは、次の(40)から(41)を導こうとする変形であるが、

(40) He didn't want that to happen but I did wish that to happen.

(complementizer ̀for'がない。) (41) He didn't want but I did wish for that to happen.

この場合(40)からは次の(42)のように非文法的文しか得られないのは、次のように説明される。

(42) *He didn't want but I did wish that to happen.

(11)

32 派生句構造と音韻効果(高橋)

RNRが文の右端へ「引き上げる」要素は成分(constituent)であることが要請されるが、

(43) [[he didn't want that to happen]si but [I did wish that to happen]S2]s。‑(40)

で、 RARはまずSl、 S2のサイクルで通用され、従文の主語NP (that)を、動詞の直接目的 語化する。その結果、 RNRが通用されるSoサイクルでは、 that to happenがSという成分で なくなっているため、この部分を文尾へ取り出すことは出来ない。この時、 RARによってSの statusを喪失する前提として、 RAR通用前にはSであったことを証明しなければならないが、

there挿入変形(There‑Insertion)は文(S)を鏡域とする変形であり、 want/prefer/wish類の 動詞がこの変形を許し、深層では目的語を取らないで補文(S)のみを取ると考えられるところか ら明らかである Hasegawaのこのような「循環的に通用される再調整規則」の提案は、本質的 に音韻句上の情報に依存しながら、音韻効果をもつ派生句構造の決定にかかわるモデルであると 考えられ、今後大いに議論を呼ぶに違いない。今のところ筆者には、先に下線で示した論述、つ

まり「派生の由来とは無関係に」というところが問題になるように思われる。

Ross (1967)が提案していた出力条件(Output Condition)は、 Perlmutter (1968)の表面 構造制限とは非常に性質の異なる、文法に属するものではなく言語運用(performance)に関す

るものと考えられているOその中から、上の「Sのstatusの喪失」に関係する「Sの刈り込み」

(S‑pruning)を再吟味しよう。

(44) Sの刈り込み(S‑pruning)

埋め込まれた結節Sは、枝分かれしないとき(すなわち、L二つ以上の結節を直接 支配しないとき)には消去すること(P.26)

それまでの派生句構造を与える規定の仕方は、 Chomsky(1965)のように、付加(adjunction)、

消去(deletion)、置換(substitution)の三つの基本的操作の型によっていたが、この「刈り込 み」規定は、そのような状況を作り出す操作がどのようなものであれ、派生の由来とは無関係 に、それが適用できる状況が作り出された時に通用される。更に(44)は、指定された環境にあ るSという結節だけを消去し、それが支配する他の要素には影響を与えない。また、各変形の間 に順序づけられて配列されることはなく、それが適用できる時にはいつでも通用されるという性 質も持っているが、ここに音鶴効果が入る余地が存在すると恩われる Rossが提案した樹の刈 り込み規則は、規則の内容についてはいくつかの改訂が論じられて来ているにもかかわらず、言 語直観に合った派生句構造の決定に有効な、音韻論的裏づけを持つperformanceモデルである と言える。同時に、音韻効果を持つ派生句構造の理論には、結節の接ぎ足し規則(Grafting rules)も組み入れられるべきであるが、次にこの方向をさぐってみよう。

Chomsky(1957)は、派生句構造に課せられるべき一般原則として、次のように述べているO

(P.73)

(45)もLXが、書き替え規則によって規定される句構造文法(phrase structure grammar)によってZとなり、変形によって作られる記号列YがXと同じ構造形

をしているならば、 YもまたZである。

この条件を今考え直してみると、変形の組み合わせ(compound)によって生じる派生句構造と いう場合、逆に派生句構造から基底規則を決定する可能性を示唆していることが分かる。結節を いわば増幅して行く、この路線に沿ったモデルとして、コピー(Copying)変形がまず挙げられ

(12)

輝生句構造と音韻効果(高橋) 33

よう。

この変形がidiom表現の分析に有効であることについてすでに論じたことがあるが(Takahashi : 1969 ; 1970)、構造を殖やすこの種のperformanceモデルは、音親的に規制されるべきである。

この点から、次に、 matrix SにembeddedSを接ぎ足す外置変形(Extraposition)を旋して、

疑似分裂文のもとにある文から分裂文を導く方式に採用されている Cleft Extraposition Rule をとりあげる。 cleft sentenceは、 ̀headless'なreduced initial clause をもつpseudo‑cleft sentenceから次のように導かれる。 Akmajian (1970)

(46) a)一番目のサイクルで埋め込み文の巾のbeがVerbalAgreement Ruleを受け て、三人称の形態をとるo

b)次に、同じ埋め込み文の主語NPが、 Relativization Ruleを受けて、関係詞 節となる。

C)このSが外置されてmatrixSに接がれる。

この場合、二種の文でfocusを当てられる成分(constituent)は、いずれもfocuspositionと してのbeのすぐうしろ(post‑copular)に位置していて、この成分がheaviest stressを与えら

‑(;O、

この分折で問題として残るのは、この規則を通用すると、疑似分裂文としては存在するが、分 裂文としては存在しない文を生み出してしまうことである。

(47) a) What I wanted was for John to leave.

b) *It was for John to leave that I wanted.

for John to leaveがb)のfocuspositionに立てない理由として、これが完全に名詞化(nom‑

inalization)されていないのは、 Bresnanが補文構造の解明で意識したfor‑toと toの相違、

forには̀Ethical Dative'に見られる内在的な意味素性L+emotive]が含まれているからであ り、この」+emotive]と focus positionそのものとが、音韻効果を巻き込みながら排除し合っ ている、と考えられる。 (次例参照)

(48) a) Why John did that was to irritate me.

b) It was to irritate me that John did that.

Kiparsky & Kiparsky(1970)は、 Rosenbaum(1967)の不定詞補文(infinitive complement) を次のようなfor‑toをもつ基底形から導くという説を否定し、

(49) a) *I believe for John to have liked Anselm.

b) *I fてirced John for John to say cheese.

表層に現実に現われる for‑to補文に注目していた。

(50) a) It bothers me for John to have hallucinations, b) I regret for you to be in this fix.

この場合のfor‑to補文はEmotive complementであり、話し手の主観的、情緒的、価値判断 的反応を表現するものである Hasegawaが指摘しているように、補文指標のforが[+emotive]

を内在的にもち、 [+emotive]を同様にもつ動詞類とのみ共起できるのであるが、 (47)のb)に関 して筆者が指摘した可能性、すなわち、意味素性(semantic features)と音韻効果を備えた統語 上の環境としてのfocuspositionとが相互に排斥し合うという事実は、レベルを異にする素性が 補い合う分布を示すという視点からの研究を侯っている。

(13)

34 派生句構造と音親効果(高橋)

これまで、派生句構造にとって重要な音形規則(NSR, RAR)を考察して来たが、これから しばらくは、この問題が変形理論内で注目を集めて行くだろう。構造主義文法以来の「相補分 布」 (complementary distribution)のモデルは、 ̀features'の場合、同一名詞句消去変形と他の 変形の場合というように新しくとらえ直されるであろう。 「絶対的統語上の中和」という概念の 提唱(Haraguchi :発表予定)がこのことを示している。筆者は、音韻効果を伴う意味論上の情 報を基底構造に入れるという立場の可能性を、 S‑nodesの融

(Apo Koinou)の構造に求めようとしている。

ということを軸として「共有構文」

以  上

REFERENCES

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(1973年4月27日受理)

(14)

35

On the Phonology Dependency of Derived Constituent Structures

Koji Takahashi

Department of the English Language, Nara University of Education, Nara, Japan.

Enrichment of one component of the grammar leads to simplification in other parts.

Transformations with greater complexity and their empirical validity have been one of

the most controversial arguments in recent linguistic literature. Bresnan's Ordering

Hypothesis -the Nuclear Stress Rule(NSR)of English is ordered within transformational cycles after all the syntactic transformations and the stress patterns of certain syntactically

complex constructions reflect those of the simple sentences embedded within them in

deep stucture has interesting implications for linguistic theory.

The ordering of the phonological rule within derived constituent structures, if it is

correct, will provide a most persuasive and explanatory insight upon which we could filter out doubtful deep structures and transformation-like operations.

In this paper I try to speculate on the way that model comes about and foresee a

possible orientation of the linguistic research by examining the role of intonation in

syntactic discussions.

(Received April 27, 1973)

参照

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