要 約
本研究では、日本の幼稚園教育の戦後から平成後期までの幼児の「表現活動」における変遷 の中での教師の取り組みと幼児の変容について考察を深めた。研究方法として、戦後昭和20年 代後半から平成後期までの間に幼稚園教諭を経験した方々へのインタビュー調査とその分析・
考察を行った。その結果、戦後の幼稚園教育要領制定後は、幼稚園教育要領で示された領域に おける内容の活動が中心の傾向であった。平成元年幼稚園教育要領改訂後は、幼児が遊びや生 活の中で、感じたことや考えたことを様々に表現して遊ぶ姿や学びの芽としての姿も大切にと らえるようになった。幼稚園教諭の取り組みの中では、幼稚園教育要領における重点等を学び、
幼児の変容・成長を願いながら様々な表現活動の実践を試みていたことなどが明らかになっ た。表現活動における幼児の変容につながるものとしては、教師との信頼関係、幼児の興味や 発達に合った教材・環境との出会い、活動への興味や意欲の高まり、心揺るがす楽しさの体験 を重ねることなどが重要であることがわかった。
Ⅰ 問題と目的
現代は、機械化、情報化が急速に進み、AI の活用も様々な面で進むなど、変化が大きい時 代を迎えており、子どもたちは、その中で生き、生活している。
平成29年に改訂となった幼稚園教育要領においては、幼児期に「未来を生きるための力の基 礎」を育むことの重要性が強調された。そして新たに幼児期から高等学校まで共通した 3 つの 資質・能力として「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」
の 3 点が示された。これは、校種間の連携や接続の問題が問われる時代となり、幼児期から高 等学校までの教育において、同じ視点、同じ教育観で子どもを育てることが求められるように なったからである。 3 つの資質・能力の中の「思考力・判断力・表現力の基礎」を育むという ことでは、物事に対して幼児が考えたことや学んだこと、判断したことを、どのように表現し ていくかという上で「表現力」はとても重要となってくる。特に幼児期は、人間の人格の基礎 が築かれる重要な時期である。それ故幼児が生活や遊びの中で、豊かな感性を育むことも重要 であると考える。
幼児の「表現活動」ということでは、現行の幼稚園教育要領
1)において、表現力に大きくか
研究ノート日本の幼稚園教育における幼児の「表現活動」の 変遷に関する一考察
─戦後から平成後期までの幼稚園教諭へのインタビュー調査を中心に─
創価大学通信教育部教育学部
清 水 百 合 香
キーワード:日本の幼稚園教育 幼児 表現活動 変遷 教師の取り組み 幼児の変容
かわる内容として領域「表現」がある。領域「表現」は「感性と表現に関する領域」と示され ている。領域「表現」の内容としては、歌ったり踊ったり、作ったり描いたりする表現の内容 の他にも園生活の中での幼児の様々な表現について幅広くとらえられている。「表現力の基礎」
を培うことは、幼児が自分の思いや考え、イメージしたことを表現し、友達や教師と遊びや生 活を進めていく中で自己発揮するなど、学びを深めていくために必要な力である。また幼児の 表現について砂上(2015)は「対象とのかかわり方の変化が、子どもが表現者として育つ過程 に重なっている」と示している。園生活における幼児の表現は、人的環境としての友達・教師 とのかかわりや、物的環境とかかわる中での学びの深まりなどにも現れてくるといえる。そし てこのような力は、小学校以降の生活や学習においても、重要な力となってくる。それ故、幼 稚園教育においては、幼児の様々な表現を伴う活動における環境や教師の援助の工夫が重要と なってくる。
では、園生活における具体的な環境や教師の援助はどうあるべきかということを考えた時、
これまでの先行研究では、身体表現や音楽リズムなど、ある特定の表現活動を取り上げた研究 は行われてきた。また戦後から昭和・平成の間における幼稚園教育要領の中での保育内容「表 現」の指導に関する変遷についての研究などはある。しかし幼稚園生活の中における広い意味 での幼児の表現活動に関する具体的な実践についての研究は少ない。
また現行の幼稚園教育要領では、示された 3 つの資質・能力について、幼稚園教育の中で、
幼児の「主体的・対話的で深い学び」によって実現されるようになることが求められている。
山内(2017)は保育内容「表現」指導に関する研究の「今後の展望」の中で、「『主体的・対話 的で深い学び』の実現においては、まず幼児のやる気や意欲を引き出すことが肝要となる。」
と述べている。幼児のやる気や意欲を引き出すとともに、幼稚園教育の基本である「環境を通 して行う教育」の考え方をふまえると、幼児が自主的に、環境にかかわり、友達の中でのびの び自己を発揮し、表現していくことができるための環境や教師の援助はどうあればよいのか、
ということが課題となる。それ故、そのための環境や教師の援助等の具体的な内容について明 らかにすることにより、今後の実践へとつなげていくことができると考える。その一つの方法 として、幼稚園教育における実際の幼児の「表現活動」についての教師の取り組みや、幼児が 表現活動に意欲的に取り組むようになった変容の姿から、その要因をとらえていくという方法 が考えられる。
そこで、戦後から平成期後期までの幼稚園における「表現活動」に関する幼稚園教諭の教育 実践に着目した。戦後、社会が大きく変わる中、幼稚園は、学校教育法において「学校」とし て定められ、昭和31年には幼稚園教育要領が制定され、幼稚園教育の基準も示された。昭和39 年改訂の幼稚園教育要領においては、幼児の具体的、総合的な経験や活動・指導についての重 要さが示され、幼稚園教育現場では、幼児の成長の姿を目標としながら、教育課程を踏まえ、
指導計画のもとに保育が展開されてきた。その後平成元年には、幼稚園教育の基本が示されと ともに、幼児の発達をとらえる視点として示された 5 つの領域の中に、領域「表現」が誕生し、
幼児の表現に関するとらえが広がった。その後領域「表現」の考え方は変わらず、現行の幼稚 園教育要領に至っている。そのような中で、昭和から平成の時代にかけて、社会の背景や法令 の変化を受けながらも、幼児が「表現活動」の中で、自己発揮していけるように、また自主的・
主体的に取り組んでいけるように、様々な実践を行ってきた幼稚園や幼稚園教諭もいると考え
る。戦後の昭和期から平成期の間の実際の幼稚園教育での幼児の「表現活動」における幼稚園
教諭の取り組みや幼児の変容の姿について考察を深めていくことにより、幼児の表現への意欲
を高め、表現力を育む上で大切な環境や教師の援助について明らかにしていくことができるの
ではないかと考えた。
本研究の目的は、日本の幼稚園教育の戦後の昭和期から平成後期までにおける幼児の「表現 活動」の変遷に関する幼稚園教諭経験者へのインタビュー調査内容から、表現活動の内容と教 師の実践への取り組み・表現活動における幼児の変容の姿とその要因等に着目し、考察を深め ることとした。インタビューの対象者は、幼稚園教育に15年以上携わった教師である。それは ベテランの幼稚園教師は、長期にわたる教育現場の実践の中で、指導の工夫や様々な試みが あったのではないかと考えたからである。実際の幼稚園教師の取り組みや・教育実践と幼児の 変容につながった内容・要因について明らかにし、今後の幼稚園教育における教育実践へとつ なげていきたいと考える。
Ⅱ 研究方法
1.調査期間 平成30年 3 月~令和 2 年 3 月まで 2 .インタビューの対象者と人数
昭和20年代後半~平成後期において幼稚園教諭をしていた方10人 ・昭和20年代~ 1 人
・昭和30年代 1 人 ・昭和40年代~ 2 人 ・昭和50年代~昭和後期(昭和64年まで) 2 人 ・平成元年~平成中期(平成15年まで) 2 人 ・平成中期~平成後期(平成31年まで) 2 人
計 10人
※10人の幼稚園教諭経験者は、全員幼稚園教諭として15年以上経験がある人で、そのうち 9 人 は、公立幼稚園に勤務していた。 9 人のうち 3 人は園長、 2 人は教頭経験者である。またそ のうち 2 人は私立幼稚園も経験している。 1 人は、私立幼稚園経験者。
3 .調査方法
昭和20年代後半から平成後期までにおいて、幼稚園教諭経験者10人に、戦後の昭和20年代、
30年代、40年代から昭和後期まで、平成初期から後期までにおける各年代での幼稚園における 教育実践の中での幼児の表現活動に関する内容についてインタビューを行った。インタビュー の内容としては、各時代の表現活動の内容、表現活動における幼稚園教諭の取り組み、表現活 動の中での幼児の変容についてであり、具体的には、次の「4 .質問内容」で示す。
4 .質問内容
1 .幼稚園や保育の様子に関すること
⑴ 勤務されていた幼稚園のクラス数・各クラスの幼児数等 ⑵ その時の保育のおおまかな様子・特徴
2 .保育の中における幼児の表現活動、遊びの様子について
⑴ 保育室に置いていた幼児の表現活動に関する遊具・用具等について ⑵ 保育室内外の幼児の表現活動に関する環境構成について
⑶ 幼児の表現活動において、どのような教材が活用されていたか。
⑷ 表現活動における幼児の反応や様子はどうであったか
⑸ 表現活動において、教師の意図や配慮していたことなどについて 3 .法令などにおいて─昭和20年代から平成後期まで
〇昭和20年代─「保育要領」と保育における「表現活動」について
〇昭和30年代─昭和31年制定の幼稚園教育要領と保育における「保育内容」領域「音楽 リズム」「絵画製作」「言語」と「表現活動」 について。
〇昭和40年代~昭和後期(昭和64年まで)─昭和39年改訂幼稚園教育要領の保育内容領 域「絵画製作」「音楽リズム」「言語」と「表現活動」 との関係について。
〇平成初期~平成後期(平成31年まで)─平成元年、平成10年、平成20年、平成29年改 訂の幼稚園教育要領と保育における領域「表現」「言葉」を中心とした幼児の 「表現 活動」について。
4 .「表現活動」と幼児の変容について
〇幼稚園における幼児の生活や遊びの中で、幼児の表現活動と成長・変化ということに おいて、特に印象に残っている幼児の姿について
5 .倫理的配慮
本研究は、創価大学「人を対象とする研究倫理委員会」の承認を得て行った。調査対象者に は、研究の意義、目的等について説明し、同意書の提出をもって、調査協力への同意とした。
Ⅲ 結果と考察
1 . インタビュー結果と分析・考察
インタビュー結果においては、法令等の内容に大きな変化がとらえられた年代として次の 4 つの区分⑴昭和20年代後半、⑵昭和30年代、⑶昭和40年代から昭和後期(昭和64年まで)、⑷ 平成初期~平成後期(平成31年まで)に分け示すこととした。
結果については、・表現活動の内容、・教師の取り組み、・幼児の変容の 3 点から示した。
そして・教師の取り組み、・幼児の変容の内容は、インタビューの主な主旨として示した。な お、幼児の変容の内容は、記号をカタカナで示し、考察の内容とつながるように示した。結果 についての考察では、①表現活動と教師の取り組み(法令等との関連も含む)、②幼児の変容 とその要因、の 2 点を示し分析・考察した。
⑴ 昭和20年代後半における幼稚園教諭へのインタビュー結果と考察
<表現活動の内容>
・ 歌、遊戯、楽器遊び、折り紙などの製作、絵具で絵を描く、物語の表現をして遊ぶ、劇 遊び、ごっこ遊び(おうち、車、お店)など
<A教諭のインタビュー> ―昭和20年代後半―
<教師の取り組み>
〇絵本の読み聞かせ後に、昔話などの物語の内容を、学級の皆で表現して遊び、劇遊びへ とつなげていった。また幼稚園で幼児全員がとっていた月刊絵本の内容を活かし、遠足 や行事などの前に皆で見て、期待がもてるようにした。
〇えの具で絵を描いたり、製作滑動などを行ったりしたが、のりなどの教材においては、
教師が自分でのりをといて作り、幼児が使えるようにしていった。学級の幼児数40名で 多かったが、教材などは十分ではなかった。
〇「保育要領」が示されたことは知っていたが、表現活動やその他の活動も、計画的に進 めていくということは難しかった。
<幼児の変容>
ア 月刊絵本を、全園児がとっていたので、園で教師や学級の友達と一緒に見てから、毎
月家庭に持ち帰った。その後の園での生活や遊びの中で、月刊絵本に載っていた物語に 出てくる内容や言葉・歌などを楽しそうに表現していた幼児がおり、言葉や動きの表現 が豊かになっていた。<昭和20年代のインタビューにおける分析・考察>
① 表現活動と教師の取り組み (法令等との関連も含む)
〇絵本の物語の内容を学級の皆で表現して楽しんだり、月刊絵本の内容を活かし、遠足や行事 などを迎える前に、幼児がイメージをもって期待を高めていけるようにしていた。日本では、
昭和20年代の後半よりテレビなどが普及していくが、社会や家庭においては、まだ映像など は少ない時代である。幼児が物語の内容を表現して楽しんだり、行事を迎えたりする上で、
学級の皆でイメージを共感できることが大切であると考え、絵本を活用していったのだと思 われる。
〇製作活動においては、教材なども十分ではなかったため幼稚園教諭は、表現活動を行うため に使うのりなどの教材を自分で作ったり、準備したりしていたということがとらえられた。
戦後の敗戦から、社会全体が復興に向かっていった中、昭和20年代後半においても、物質的 な面では、まだまだ不足していたことがとらえられる。しかし教師は、作ったり描いたりす る表現活動を幼児が楽しみ、表現の仕方を身に付けるという意味からも教材の必要性と重要 性を感じ準備や活用の工夫について努力をしていたのではないかと考える。
〇昭和23年に文部省より「保育要領」が刊行され、保育内容の中に「楽しい幼児の経験」とい う主旨で12項目が示されたが、特に教材が必要な内容については、実際に計画し実践するこ とが難しかったと考えられる。
② 幼児の変容とその要因 ア 幼児の変容から ― 4 歳児
〇園で全員がとっていた月刊絵本を、学級全員で見た後、家庭に持ち帰った後も園生活の中で 絵本の内容を言葉や動きで表現していた幼児の表現が豊かになっていたという変容である。
変容の要因として、当時の月刊絵本は、季節に関する内容や物語・歌なども編集されている 総合絵本であったが、家に持ち帰った後も親が読み聞かせをしていた家庭もあったと思われ る。まだテレビも普及していない時代であったので、教師や親が読み聞かせをしてくれた内 容は、特に幼児の心に残り、園生活の中でも言葉や動きで表現していたのと思われる。それ により表現の仕方も広がっていったのではないかと思われる。
⑵ 昭和30年代における幼稚園教諭へのインタビュー結果と考察
<表現活動の内容>
・歌、踊り、フォークダンス、楽器あそび、劇遊び、月刊絵本の付録を製作して遊ぶ、絵 を描く、えのぐで描く、粘土遊び(油粘土)、ごっこ遊び(おうち、お店、病院、他)、
自然とのかかわり など。
<B教諭のインタビュー> ―昭和30年代―
<教師の取り組み>
〇保育の中で、6 領域に関する活動内容を、◦曜日は領域「絵画製作」で描く、◦曜日は 領域「音楽リズム」で歌や踊りを行うというように計画し、一斉指導で行っていた。そ のため自由遊びの時間は短い時間だった。
〇学級の幼児の人数は40名ほどで多かったが、教材が十分ではなかったため、当時一人ず つとっていた月刊絵本の付録の教材も使って製作したり、作ったもを使って学級の皆で 遊んだりした。
〇領域「言語」においては、正しい言葉が幼児に身につくようにということも意識して絵 本の読み聞かせをしていった。
<幼児の変容>
イ 歌や踊りなどの一斉指導動における表現活動の中では、なかなか言葉を発せず、表情 も変えない幼児がいた。しかし自由な遊びでままごとに興味をもち遊ぶようになってか ら、言葉が出てきて、いろいろな気持ちを明るく表現できるようになった。
<昭和30年代のインタビューにおける分析・考察>
① 表現活動と教師の取り組み (法令等との関連も含む)
〇昭和31年に、初めて幼稚園教育の基準を示した「幼稚園教育要領」が制定され、その中で 6 つの領域が示されたが、幼稚園教諭は、各領域についての強い意識をもち、曜日ごとに 6 領 域の内容や活動を順番に一斉指導で行っていたということだった。◦曜日は「音楽リズム」
の指導、◦曜日は「絵画製作」の指導というように、教師は一斉指導の中で、各領域の内容 を強く意識しながら、一つずつ指導していったということがとらえられた。教師は、幼稚園 教育要領で示された 6 領域の内容をもと活動の計画を立てていったが、小学校の教科のよう にとらえてしまった幼稚園もあった。歌や踊り、製作や絵画における表現活動も、一斉指導 の中で教師が計画し、指導していくということが多かったと考えられる。
〇学級の幼児の人数も40人と多く、教材なども十分ではなかったため幼稚園教諭は、月刊絵本の 付録などを製作活動に活かし、皆で製作したもので遊ぶというような工夫をしていた。月刊絵 本は、幼稚園に大きく広がった時代であり、全園児が一冊ずつ購入していた幼稚園も多かった。
教材が少ない時代であったが、教師が絵本の付録をそのまま製作活動に活かしたことによ り、幼児たちは、作ったものを使って学級の皆で遊ぶ楽しさを経験できていたと考える。
② 幼児の変容とその要因 イ 幼児の変容から ― 4 歳児
〇教師が進める一斉指導での表現活動においては、自分を出すことができなかった幼児が自由 な遊びの中で、楽しさを表現して遊ぶようになったという変容である。幼児の変容につな がった要因として、自由な遊びの時間に、興味をもったおうちごっこの遊びの中で、解放感 や安心感を感じ、楽しさを表現できたのではないかと考える。学級集団で行う表現活動では、
多くの幼児の中での緊張感などもあることや、教師の進めていく内容に応じていくことが多
いため、その中では自分を出せなかったのかもしれない。興味のある遊びがあり、楽しさを 感じて遊べるということは、自己表現にもつながると考える。
⑶ 昭和40年代~昭和後期の幼稚園教諭へのインタビュー結果と考察
<表現を活動の内容>
・ 粘土遊び(油粘土、泥粘土、紙粘土、小麦粉粘土、)えのぐで描く、フィンガーペイン ティング、 砂遊び、空き箱製作、廃材を使った製作、自然物を使った製作、木工製作、歌、
踊り、フォークダンス、わらべうた遊び、楽器あそび、合奏、オペレッタ、ごっこ遊び(遊 園地、レストラン、おうち、電車、バス、ヒーロー、お化け屋敷、忍者、探検、映画館、
ゲームセンター)、自然とのかかわり、小動物とのかかわり など。
<C教諭のインタビュー> ―昭和40年代―
<教師の取り組み>
〇昭和39年改訂幼稚園教育要領の「総合的な経験や活動」の考え方などについて研修会で 学び、自由遊びにおいても 6 領域の内容が総合的に経験できるように指導・援助を考え たり、幼児が自由に遊びに取り組める時間を増やしたりしていった。
〇一斉活動における表現遊びなどにおいても、幼児がイメージをもてるように工夫しなが ら、なりきって表現し楽しさを十分に感じていけるような働きかけや言葉がけなどを試 みていった。
<幼児の変容>
ウ 一斉指導におけるダンスや表現遊びなどにおいて、すぐに取り組めないような幼児が いたが、幼児がイメージをもって想像し、やってみたいと思えるような言葉がけやかか わりを工夫していくと、意欲的に表現を楽しむようになった。
<D教諭のインタビュー> ―昭和40年代―
<教師の取り組み>
〇「絵画制作」や「音楽リズム」「言語」などに関する研修会に参加し、それらの内容や 教材・指導法などについて学び、保育雑誌なども参考にして、保育の中で試みていった。
〇絵本の読み聞かせ後、日常の保育の中で「言語劇」などを行ったが、自分(たち)で言 葉を考えるなどして楽しく表現できるようにしていった。
<幼児の変容>
エ 幼児が興味をもてるような教材や動かして遊ぶ製作物などについて考え、教材を準備 し保育の中で提示してくと、興味をもった幼児たちが喜んで製作し、作ったものを使っ て友達と一緒に遊びを進めることを楽しむ幼児が多くなった。
<E教諭のインタビュー> ―昭和50年代~昭和後期―
<教師の取り組み>
〇自由な遊びや一斉活動においても、幼児の実態や興味をよくとらえ、「ねらい」や「発 達課題」「遊びの総合的な指導」というものを意識して、教材を準備し、働きかけや援 助を行っていく努力をしていった。
〇粘土や木工などの教材のについて深め、幼児が保育の中で経験し楽しめるようにしたり、
自分たちで扱えるカセットデッキを準備したり、OHP やなどの機器を使って、幼児同
士で遊びを進めていけるような環境を工夫するなどしていった。
<幼児の変容>
オ 自分たちでカセットデッキを使っての踊りや、OHP を使っての映画ごっこなどの遊 びでは、5 歳児は特に遊びへの興味が何日も続くようになり、その中で、自分たちの動 きや教材の動かし方などを工夫し合い、遊びを進める姿が見られるようになった。
<F教諭のインタビュー> ―昭和50年代~昭和後期―
<教師の取り組み>
〇「表現リズム」の活動の中では、身体表現などについて研修で学び、幼児がのびのび表 現できるような内容や言葉がけ・進め方について試みていった。
〇ごっこ遊びでは、幼児の表現意欲が高まるように、お面や身に着けるもの、手に持って 遊ぶことができるような物などを、幼児が作れるように教材を提示したり、動物や乗り 物なども実際に乗れる物になるように教材を考え提示したりしていった。
<幼児の変容>
カ 絵本の中の蝶に興味をもった4歳児の女児たちが、感じたことを言葉で表現していた が、教師が蝶の羽に合った素材に気づかせると、背中につけたいと言ってきたのでつけ られるようにした。とても喜び、その羽をそれぞれ身に着けて蝶になって動くことを楽 しみながら、園庭などへも出て行き、何日も興味が続き友達と一緒に表現して遊んだ。
キ 絵の教室などに通う幼児の中で、パターンとしての表現しか表すことができなかった 幼児がいたが、絵の具やフィンガーペインティングなどの教材を使って、表現を十分に 楽しめるようにすると、しだいにのびのびと自分なりの表現を楽しむようになった。
<昭和40年代~昭和後期のインタビューにおける分析・考察>
① 表現活動と教師の取り組み (法令等との関連も含む)
〇昭和40年代においては、領域別の一斉指導を中心に行うのではなく、自由な遊びにおける時 間も十分にとり、その中で、総合的な指導を行っていくなどの保育方法を試みた幼稚園がと らえられた。これは昭和39年改訂幼稚園教育要領の第 2 章「内容」の中に「領域」に示す各 事項について「相互に密接な関連があり、幼児の具体的、総合的な経験や活動を通して達成 されるものである」と示された内容について幼稚園教諭は理解を深め、領域別に活動を考え るのではなく、遊びにおける総合的な指導について、園全体で保育方法を見直していったた めであると考えられる。
〇表現活動の中で、幼児のイメージが膨らみ、意欲が高まるような言葉がけを工夫をしたり、
身体表現における表現活動の中で、細かい動きの表現に気づかせたりするなどの試みをして いた教師もいた。このような取り組みは、昭和39年改訂幼稚園教育要領で示された「望まし い幼児の経験や活動を選択し配列して」などの内容や、活動内容の充実などを意識していた のだと思われる。そして領域「音楽リズム」「絵画製作」「言語」などの内容に関する遊びや 活動についての指導方法や教材の提示の仕方について深め、実践を試みようとしていたのだ と考えられる。
〇ごっこ遊びでは、幼児が興味のある遊びの中で表現して楽しむことができる時間や場所を保 障したり、遊びの中で幼児が身に着けるものなどの教材について工夫したりして、表現を十 分楽しめるようにしていた教師もいた。そのことにより幼児の表現意欲が高まり、興味が何 日も持続するなどの遊びの変化が、遊びの内容の深まりにもつながっていったのではないか
と考える。またごっこ遊びの中で、幼児が楽しく表現して遊ぶ姿から、社会認識の育ちなど もとらえられたことなどから、様々なごっこ遊びが行われるようになっていったのではない かと考える。
② 幼児の変容とその要因
ウ 幼児の変容から ― 4 歳児〇学級全体での表現遊びにおいて、積極的には取り組めなかった幼児が、自分なりにイメージ をもち、想像しながら喜んで表現し遊ぶようになったという幼児の変容である。変容の要因 として、教師の言葉がけの工夫により、山や川などのイメージ、遠足に行くというようなイ メージをもつことができ、想像しながら喜んで表現して遊ぶようになったと考える。表現し ようという時に、幼児がイメージを持って、楽しさを感じていけるような言葉がけや、働き かけを工夫するということは大切であると考える。
エ 幼児の変容から ― 5 歳児
〇製作などをあまりしなかった幼児が、教材に興味をもち、製作して表現して遊ぶことを楽し むようになったという変容である。変容の要因として、教師が幼児の興味をとらえ、その興 味に合った教材や製作物を考えて提示したり、学級の皆で製作したもので遊ぶという経験を 重ねたことにより、作って遊ぶことの楽しさや、製作の中で、自分の考えを表現する楽しさ を十分に味わえたからだと考えられる。またしだいに製作することへの自信も高めていった のではないかと考える。
オ 幼児の変容から ― 5 歳児
〇カセットデッキや OHP などの機器を使って、自分たちで遊びを進め、表現することを楽し むようになった幼児たちの変容である。変容の要因として、 5 歳児は、知識も高まってきて おり、手先の技能なども身に付いてきているので、簡単な機器の操作なども自分たちで行い、
遊びを進めていく喜びや満足感を感じながら表現を楽しめたのではないかと思われる。また それが意欲や興味の高まりへとつながり、遊びが何日も続いていったのだと考えられる。と ともにそれらの遊びを継続できる場や時間を保障し、遊びへの取り組みを認め、共感して いった教師の支えがあったからであるということも大切な要因であったと考える。
カ 幼児の変容から ― 4 歳児
〇絵本の中の蝶に興味をもった女児たちが、教師が気づかせた素材を羽として身に着けた後、
何日も興味を持続しながら、蝶のつもりで、動きの表現を楽しむようになったという幼児の 変容である。変容の要因として、羽らしい素材を教師が気づかせたことにより、蝶の羽への イメージが膨らんだとともに、教師が羽を身につけられるようにしてくれたことで、より蝶 になったつもりで動き、表現することへの楽しさを感じたのだと思われる。また本物の蝶を イメージし、園庭での動きも楽しむようになったのではないかと思われる。
キ 幼児の変容から ― 4 歳児
〇パターンとしての描き方しか表現できなかった幼児が、のびのびと自分なりの表現を楽しめ るようになったという変容である。変容の要因として、絵具やフィンガーペインティングな どの教材を使う活動を十分に体験する中で、解放感や自由にのびのびと表現する楽しさを実
感できたことにより、その幼児自身の表現方法が広がっていったのだと考える。
⑷ 平成初期~平成後期における幼稚園教諭へのインタビュー結果と考察
<表現活動の内容>
・泥団子作り、砂遊び、粘土遊び(油粘土、紙粘土、泥粘土、小麦粉粘土、砂粘土)えの ぐで描く、フィンガーペインティング)、廃材や自然物を使った製作、木工製作、歌、フォー クダンス、楽器あそび、合奏、民謡の踊り、太鼓たたき、ごっこ遊び(宅急便や、高速 道路、バーベキュー場、回転寿司や、おうち、ヒーロー、レストラン、ケーキや、パン や、おお化け屋敷、水族館、病院、動物になって遊ぶ、人形劇、劇場ごっこ、遊園地、船、
釣り、他)、自然物とのかかわり、小動物とのかかわり、素材とのかかわり など。
<G教諭のインタビュー> ―平成元年~平成中期―
<教師の取り組み>
〇幼稚園教育の基本として示された「環境を通して行う教育」について、幼児の自主性・
主体性を大切にした環境・援助等について、教員同士で話し合いを深め実践していった。
〇幼児がのびのびと自分を表現していくようになるために、一人一人の幼児との信頼関係 を築くことに努力した。
〇運動会における表現リズムや、発表会における劇などの表現遊びの中で、幼児が意欲的 に取り組めるように、幼児の興味を活かしながら教材を工夫していった。
<幼児の変容>
ク 数名の幼児が興味をもってやり始めた泥団子作りの中で、かたまりやすい土や・砂な どについて吟味し、作る場所などの環境も配慮した。幼児が興味を持続しながら、友達 同士で、感じたことや考えたことを言葉や動きで様々表現していく姿や、より光る泥団 子を作ろうと試していく姿が何日も見られ、作り上げた時は、皆とても満足そうだった。
<H教諭のインタビュー> ―平成元年~平成中期―
<教師の取り組み>
〇幼児が自ら始めた遊びの中で、「楽しい!」と感じていけるような環境や指導の工夫に ついて他の教員とも意見交換し合い、様々な環境・教材についての実践を試みた。
〇製作や絵画などにおいても、幼児が自分から、描く・製作するなどの気持ちをもって取 り組めるように、コーナーの保育環境を工夫していった。
〇遊びの中では、幼児が友達と自分たちで環境を作り上げ、それぞれの思いや考えを表現 していけるような場所や教材を考え、時間も十分にとるようにしていきながら、遊びが 深まっていけるように努力した。
<幼児の変容> ― 5 歳児―
ケ 1年間世話をしていた小動物を課題画として描く機会を設け、教材も吟味した時に、
それまで描くことに興味を示さなかった幼児が意欲的に描く表現に取り組み、書き上げ た絵を友達からも認められたことで、大変満足げな表情となり、自信も高めていった。
<I教諭のインタビュー> ―平成中期~平成後期―
<教師の取り組み>
〇幼児が遊びの中で様々に表現している姿や、何か気付いた時など、その機会をとらえ認
めたり、共感したりして、友達や学級の中でもそれが生かされていくようにしていった。
〇「豊かな感性」ということでは、自然の変化や、身の回りの物など、園生活や遊びの中 で、幼児が様々に感じたことを受け止め、それを遊びの中で活かしていけるように、働 きかけや援助について工夫した。
<幼児の変容> ― 4 歳児―
コ 学級の皆の中で、一緒に行動することが苦手だった幼児がいたが、学級の皆の中で、
その幼児なりの表現を繰り返し認めていった。しだいに学級の皆と一緒に表現を楽しむ ようになっていった。発表会に向けての劇遊びにおける表現活動の中でも、皆と一緒に 喜んで取り組み、劇の中での歌や踊りなどの表現も楽しそうに取り組むようになった。
< J 教諭のインタビュー> ―平成中期~平成後期―
<教師の取り組み>
〇生活の中での幼児の様々な「表現」ということを意識しながら、幼児のありのままの表 現を受け止めることに努力した。また幼児が自然や動植物とかかわっていく時の表情や 言葉なども細かくとらえていきながら、それらの姿を認めていった。
〇幼児の豊かな表現ということを考えた時に、教師自身が感性豊かになっていくことが大 切であると思い、普段の自分の言動をはじめ、手遊びやダンスなどについても、豊かに 表現していけるように意識し、努力した。
<幼児の変容> ― 4 歳児―
サ 全員で行う体操やダンスなどの表現活動に参加しようとしなかった幼児が、自由な遊 びの中で、興味を示したレゴを使っての乗り物作りを楽しむようになったので、その姿 や作りあげたものを毎回認めていくと喜んでいた。しだいに表情が明るくなり、学級全 体で行う体操やダンス、そして絵を描くことなどにも、一つ一つ取り組むようになった。
<平成初期~平成後期のインタビューにおける分析・考察>
① 表現活動と教師の取り組み (法令等との関連も含む)
〇平成初期において、幼稚園教諭は、幼児の園生活における「表現」の姿というものをあらた めて、しっかりとらえようとして、自分の感じたことだけでなく、園内の教員同士でも、話 し合って理解し合おうと努力していたということがとらえられた。これは、平成元年の幼稚 園教育要領改訂において「環境を通して行う教育」という幼稚園教育の基本とともに 新た に 5 つの領域が示されたが、それまでの「望ましい経験や活動の選択配列」という考え方と の違いや、「領域」の考え方の違いなどについて、園内の教員同士でも深め合おうとしてい たことがとらえられる。特に「感性との表現に関する領域」としての領域「表現」における
「ねらい」「内容」は、他の 4 つの領域「環境」「人間関係」「言葉」「健康」 のすべてにかか わるものであり、幼児の生活全般における大変広い表現に関するとらえであったので、それ までとの違いを理解していく必要があったのだと思われる。
〇「環境を通して行う教育」 という考え方について深め、「表現活動」 の中においても、 幼 児の自主性や意欲を高めていくための働きかけや環境について、様々試みていた教師もい た。また自由な遊びの中での幼児なりの表現を繰り返し認め、幼児との信頼関係を深めて いくことに努力していた教師もいた。「環境を通して行う教育」の意味として柴崎(1997)
は、保育内容の研究の中で「保育者の役割は、幼児と信頼関係を築き、幼児が主体性を発 揮して活動を展開する中で、自ら発達の必要な経験を積み重ねていけるような環境を構成
していくことである」と示している。このことからも幼児がのびのびと自分を表現していけ るようになるためには、教師との信頼関係が重要あることが考えられる。また教師自身が人 的環境であり自身の言動や雰囲気を意識して幼児に接していくことの大切さについて深め、
努力していた教師もいた。それは人的環境の教師の存在の影響も大きいということが改めて 確認されるようになったからであると考える。
〇教師は、領域「表現」の広いとらえから、幼児の人や環境へのかかわり方の変化や、生活全 般において幼児が言葉や動きで表現している姿をとらえていくように努力をしていたと思わ れる。また幼児が興味をもち、自主的・主体的にかかわっていくことができる物的環境とし ての教材や教具について吟味したり、友達一緒に遊びを進めていくことができる環境などに ついても試みていた教師もいた。そのような実践の中で、幼児が感じたことや考えたことを 言葉で表現したり、友達や教師と言葉で伝え合い、かかわりを深めていく成長の姿や、学び の芽などがとらえられていくという考え方も深められていったのではないかと考える。
② 幼児の変容とその要因 ク 幼児の変容から ―5 歳児
〇泥団子作りの中における幼児の変容である。変容の要因として、幼児の泥団子への興味がも とにあるが、教師が、泥団子についての教材・環境について、考えを深め、土も泥団子に適 した質の土を準備したり、砂場の近くにその土を置くなど、環境も工夫していたことも大き な要因だったと思われる。また友達と泥団子を作る中で、幼児の気づきや驚き、喜びを伝え 合う姿など、何日も取り組む中で、友達とのかかわりも深まっていったと考えられる。遊び の中での様々な気づきや発見を友達や教師に伝え合いながらの遊びへの取り組みは、主体 的・対話的で、深い学びの姿とも考えられる。
ケ 幼児の変容から ―5 歳児
〇絵を描くことをあまり好まなかった幼児が、思いを込めて描き、友達の中でも認められ自信 を高めていった幼児の変容である。変容の要因として、 1 年間世話をし続けた動物であった ため、親しみが深まっていたことや、またもうすぐ卒園するため、その動物と別れなければ ならないことから動物への思いが高まっていたことも表現意欲を高めた要因と考えられる。
また教師は、描くための教材も吟味し、選択したことにより、その動物らしさがより表現で きたのではないかと考えられる。時期や課題画として選んだ対象、そして描くための教材選 択なども幼児の変容につながった要因と考えられる。
コ 幼児の変容から ―4 歳児
〇学級の皆と一緒に行動することが苦手だった幼児が、学級の皆と行う表現遊びや劇遊びにお いて一緒に取り組むことを楽しめるようになった幼児の変容である。変容の要因として、学 級の皆の中で、教師がその幼児の得意なことを繰り返し認めていったことで、少しずつ学級 の中で自分を表現することに対しての苦手意識が消え、自信が高まっていき、表現意欲も高 まっていったのではないかと考えられる。
サ 幼児の変容から ―
4 歳児〇体操やダンス・絵を描くなどの表現活動をやろうとしなかった幼児が、興味のある遊びの中 で教師に認められていく中で、しだいに表現活動にも明るく取り組むようになったという変
容である。変容の要因として、自分がやりたいレゴの構成遊びをする中で、あたたかく見守 り、作ったものをいつも認めてくれる教師に対しての信頼関係が深まっていったのではない かと考える。また幼児は、入園までに体操やダンス・絵を描くなどの活動に楽しさを感じた 経験が少なく、そのため興味もわかなかったのかもしれない。教師へ信頼関係の深まりによ り、幼児は他の活動に対しても、教師が見守ってくれていることの安心感から、やってみよ うという気持ちが湧き、一つ一つの活動に取り組めるようになったとともに、楽しさを感じ ていく中で、表情も明るくなっていったのではないかと考える。
Ⅳ まとめと今後の課題
本研究は、戦後の昭和期から平成後期までの日本の幼稚園教育における幼児の表現活動の変 遷に関して、各時代の表現活動の内容と幼稚園教師の取り組み、表現活動における幼児の変容 とその要因について考察を深めた。その結果、日本の幼稚園教育においては、戦後の昭和期か ら平成後期まで、様々な表現を伴う遊びや活動が行われていた。幼児が経験した様々な表現活 動は、時代の社会背景や規則などの影響も受けて、少しずつ変化していったものもあった。自 由な遊びの中でのごっこ遊びなどにおいては、それぞれの時代における社会背景の影響も受け ながら、生活する中で、幼児が体験したことや感じたこと、考えたことなどを遊びの中で表現 していた姿でもあったと考えられる。
幼稚園教諭は、各時代における幼稚園教育要領における考え方を学びながら、幼児の成長を 願い、表現活動における幼児の変容の姿をよくとらえていた。それは、一人一人への成長への 願いをしっかりもっていたが故に、変容した姿をとらえることができていたのだと思う。そし て幼児の表現活動の中での環境の工夫や、働きかけ・言葉がけの工夫などをしていた。教師が 何を願い、何を意図としていくかで、幼児へのかかわりや言葉がけは違ってくる。教師が幼児 への愛情をもとに、幼稚園教育における基本・子どもという原点を見つめ、実践に取り組んで いくことが、いつの時代においても重要であると考える。
表現活動での幼児の変容における要因としては、教師との信頼関係の深まりや、幼児の興味 や発達に合った教材・環境との出会い、幼児の活動への興味や意欲の高まり、幼児の心揺るが す喜びの体験が重ねられたことなどがとらえられた。表現活動において変容した幼児は、自己 表現の方法が広がり、結果的に対象に向かうかかわり方も変化していったと思われる。園生活 の中で、幼児の豊かな表現を育むためには、幼児が自分の興味のあることを十分楽しみ、その 幼児なりに表現できる時間も十分保障していくことが大切であると考える。特に 4 歳児・ 5 歳 児では、表現して遊ぶ中で、自分の考えを表現したり、友達や教師に自分の考えを伝えたりし ながら、物事への興味や認識を深めていった幼児の姿もとらえられた。そのような姿は、遊び の中での学びを深めていた姿であり、主体的、対話的で深い学びへとつながる姿であると考え る。それ故、「生きる力の基礎」となる学びを深める上においても重要なものとなっていく力 であると考える。
今後の課題としては、機械化、核家族化などがいっそう進む中で、幼児期において「豊かな 感性」「表現力」をはじめ「生きる力の基礎」を培っていくことは、より重要となってくる。
それ故教師は、幼児との信頼関係を深めながら、幼児が様々に表現して遊ぶ姿の中に「豊かな 感性」や「主体性」、「創造性」や「社会性」「学びの芽」など様々なものが育まれていることを、
しっかりととらえていくことが必要である。そして教師は、園生活の中で、幼児がのびのびと 自分を表現しながら、主体的・対話的で深い学びが実現していけるように環境を整え、幼児の
意欲・やる気を高める援助・かかわりを工夫していくことが大切であると考える。そしてその ためには、幼児が様々に表現する姿を受け止めていく役割の教師自身が、人的環境として感性 を磨き、表現力を高めながら、教育実践に取り組んでいくことが重要であると考える。
注
1 )平成29年(2017年) 3 月に文部科学省より告示された幼稚園教育要領
引用・参考文献
⑴ 平田智久・ 小林紀子・ 砂上史子編『最新保育講座『保育内容「表現」』 ミネルヴァ書房
(2015)p. 43
⑵ 山内信子「保育内容『表現』の指導に関する研究:幼稚園教育要領等の変遷に基づいて」
聖和短期大学紀要 第 3 号(2017)p. 83
⑶ 柴崎正行編著『戦後保育50年史─証言と未来予測─第 2 巻 保育内容と方法の研究』栄 光教育文化研究所(1997)p. 338
⑷ 文部科学省『幼稚園教育要領 平成29年』フレーベル館 (2017)
⑸ 文部省『幼稚園教育百年史』ひかりのくに株式会社 (1979)
⑹ 日本保育学会編『日本幼児保育史 第 6 巻』フレーベル館 (1975)
⑺ 民秋言編『幼稚園教育要領・保育所保育指針の成立と変遷』萌文書林(2008)
⑻ 森重敏著『保育内容総論(改訂版)』創価大学出版会(1993)
⑼ 文部科学省『幼稚園教育要領解説 平成20年』フレーベル館 (2008)
⑽ 文部科学省『幼稚園教育要領解説 平成30年』フレーベル館 (2018)
⑾ 岸井勇雄・無藤隆・柴崎正行監修・榎沢良彦編著『保育内容・表現』同文書院 (2009)
⑿ 小林紀子・砂上史子・刑部育子編著『保育内容「表現」』ミネルヴァ書房(2019)
⒀ 大場牧夫『表現言論』萌文書院(2009)
⒁ 岸井勇雄・無藤隆・柴崎正行監修・太田光洋編著『保育内容・言葉』同文書院 (2006)
⒂ 清水百合香「日本の幼稚園教育における絵本の扱われ方の変遷─明治期から昭和後期」日 本基礎教育学会 紀要第17号 (2012)
⒃ 清水百合香「幼稚園教育での幼児の遊びにおける「表現」の育ちに関する研究─ごっこ遊 びにおける幼児の表現と社会認識の芽生えに関する一考察─」創価大学通信教育部学会 通 信教育部論集 第22号(2019)
⒄ 神永美津子・ 津金美津子・ 五十嵐一郎編著『乳幼児教育・ 保育シリーズ 保育方法論』
光生館 (2018)