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株式仮装払込の効力と立法政策

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株式仮装払込の効力と立法政策

著者 来住野 究

雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal

巻 98

ページ 109‑142

発行年 2015‑01‑31

その他のタイトル Validity of Disguised Payment for Shares and Legislation

URL http://hdl.handle.net/10723/2452

(2)

株式仮装払込の効力と立法政策

来住野   究

1

めに

 株式の仮装払込形態には主に預合と見せ金があり,特に見せ金による払込の 効力については判例・学説上争いがあったことは周知の通りである。

 預合とは,発起人(新株発行の場合は取締役)が払込取扱金融機関から借入をし,

これを払込金として会社の預金に振り替え,その借入金を返済するまでは会社 の預金を引き出さない旨を約する場合をいう(1)。見せ金とは,発起人(新株発 行の場合は取締役)が払込取扱金融機関以外の者から借入をし,これを株式の払 込にあて,会社成立後直ちに払込金を引き出して借入先に返済する場合をいう。

典型的には,見せ金による払込をした発起人が成立後の会社の初代代表取締役 となって,払込取扱金融機関から払込金の払戻を受け,それを会社がその代表 取締役に借入金の返済資金として貸し付けるという形式をとることが多いであ ろう。もっとも,預合が法典上の用語であるのに対して,見せ金は経済上の用 語にすぎないため,厳密に定義づける必要はなく,むしろ預合禁止の脱法行為 として案出された払込仮装形態の総称というべきものである(2)。したがって,

必ずしも払込金の借入先は第三者である必要はなく,新株発行の際に会社自身 から直接的または間接的に払込金を借り入れる場合のように,払込金が会社を 素通りするだけの場合は見せ金にあたるといってよかろう(3)

 仮装払込の構造に即してその払込の効力を法律行為論的にまたは民法理論に 忠実に検討すれば,以下のようになるであろう。もとより借入金をもって払込

(3)

にあてること自体には何ら問題はないから,仮装払込の場合,払込金が会社の 支配下に移転したといえるかが決め手となる。

 預合の場合,発起人と払込取扱金融機関が通謀して帳簿上の操作により払込 の外形を整えたにすぎず,会社は払込金を営業資金として自由に使うことがで きないから,会社財産は現実に確保されていないと評価されるのが通常である。

確かに,借入金を返済するまで会社の預金を引き出さない旨の約定が有効に会 社を拘束する限り,払込金は会社の支配下にあるとはいえない。しかし,発起 人は,成立後の会社の財産を処分する権限はない(4)から,払込金返還制限の約 定は,たかだか発起人個人に対して,払込金返還請求をしないという不作為義 務を課するにすぎず,成立後の会社を拘束しないというべきである。新株発行 における預合においても,取締役は自己の名をもって払込取扱金融機関から借 入をし,株式引受人としてそれを払込にあてるのであるから,払込金返還制限 の約定も,取締役個人に対して不作為義務を課するにすぎず,会社を拘束しな いと解する余地がある。仮に払込金返還制限の約定は会社と払込取扱金融機関 との間の株式払込取扱委託契約の内容をなすとすれば,その効力は払込取扱金 融機関制度の趣旨にかかわる。

 一方,見せ金においては,発起人と払込取扱金融機関との通謀はなく,現実 の払込があり,払込金の返還に関する制限もないという点で預合と異なる。① 見せ金により払込をなす者は,会社成立後払込金を引き出して借入先に返済す るという意図があるだけであって,払込義務の履行として払込取扱金融機関に 払込をした以上,払込の意思がなかったわけではない。民法上弁済意思がなく ても給付が債務の内容に適合している限り,弁済の効力は妨げられないと解さ れている(5)から,仮に払込の意思がなかったとしても,それにより払込の効力 は否定されないはずである。②また,見せ金の場合は,会社成立時において会 社が自由に使用しうる財産は確保されている(6)。会社成立時において払込金は 会社に帰属し,会社の自由な処分に委ねられているからこそ,それを借入先へ

(4)

の返済にあてることができるのである。したがって,見せ金による払込も有効 であると解される。

 しかし,仮装払込の効力は払込に関する周辺規定と密接な関係を有する。す なわち,仮装払込の不当性をいかなる観点からいかに評価すべきかは,払込の 欠缺に対していかなる立法政策を採用しているかに左右される。この点につき,

会社法(商法)は,預合に対してはすでに払込取扱金融機関の払込金保管証明 責任と預合罪を設けてその防止を図っていたのに対して,見せ金に対してはそ れを想定した格別の法規制は設けていなかったが,払込の欠缺に対する効果は 平成 17 年新会社法の成立を境に大きく転換した。そして,平成 26 年改正会社 法は,見せ金も含む仮装払込一般につきその効果に関する明文の規定を設ける に至った。

 そこで,株式の払込をめぐる法規制との関連において仮装払込の効力に関す る議論を整理するとともに,平成 26 年改正法の当否について検討し,仮装払 込に対する立法政策のあり方を模索したい。

2

.平成

17

年改正前商法にお 立法政策と仮装払込 効力

払込をめ 法規制

 預合を禁圧するための法規制は昭和 13 年改正法に遡る。すなわち,同年改 正法は,資本充実の原則に基づき,将来の会社債権者にとっての担保財産とな る資本額相当の出資財産を確保するため,募集設立において株式申込証に記載 された払込取扱金融機関(商 175 条 2 項 6 号)での払込を要求した上で(商 177 条 2 項),払込取扱金融機関の払込金保管証明制度を定め(商 189 条),預合罪・

応預合罪も設けた(商 491 条)。預合があっても,払込金の保管証明書を交付し た以上,払込取扱金融機関は成立後の会社に対して無条件で払込金を引き渡さ

(5)

なければならないものとすることによって,払込取扱金融機関と発起人との通 謀による仮装払込を防止し,会社が確実に払込金を営業資金として利用できる ようにしたのである。払込取扱金融機関への払込と払込金保管証明制度は新株 発行の場合にも採用された(商 370 条 1 項)

 昭和 25 年改正により資本制度は変容するに至る。同年改正前においては,

資本を株式に分割するものとされ(商 199 条),株式は資本の構成単位であった ため,設立及び資本増加の際には定款所定の資本額(商 166 条 1 項 3 号)に相当 する株式総数の引受が確定しなければならないという資本確定の原則が徹底さ れていたのに対して,改正法の下では,授権資本制度の採用に伴い,資本と株 式の関係は切断され,資本額も定款の記載事項ではなくなったため,資本確定 の原則は設立時においてのみ修正された形で維持されるにすぎなくなった。す なわち,資金需要に応じた機動的・弾力的な資金調達を可能にするため,定款 所定の会社が発行する株式の総数(商 166 条 1 項 3 号)から会社が設立に際して 発行する株式の総数(同 6 号)を差し引いた株式数については,原則として取 締役会決議をもって随時発行できることとする(商 280 条ノ 2 第 1 項)とともに,

取締役会で決定された発行予定株式総数につき引受・払込がなされなくても,

引受・払込のあった新株についてのみ効力の発生を認めたため(打切り発行の 許容),新株発行時には資本確定の原則は完全に放棄された。これに対して,

会社設立の際には,定款所定の設立に際して発行する株式総数の引受が要求さ れるため,その限りで資本確定の原則は維持された。また,改正前には,資本 額に相当する数の株式が発行されることになっていたため,株式発行の対価で ある出資の履行を確実になさしめることは文字通り資本を充実させることで あったが,改正法の下では,資本額の弾力的な決定が可能となったものの,株 式の発行価額によって予め資本額の範囲が決まり(商 284 条ノ 2 第 1 項),その 発行価額に相当する財産の現実の拠出が要求された。発起人・取締役の引受担 保責任・払込担保責任は,資本確定の原則・資本充実の原則を担保するものと

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して,改正前から設けられていたが(商 192 条 1 項・356 条 1 項),改正法では,

設立時にはこれを維持する一方,新株発行時には新株発行にかかる変更登記の 信頼性を担保するために引受担保責任のみが定められた。

 平成 2 年改正では,設立手続の合理化を図り,発起設立における検査役の調 (商 173 条)を廃止したことに伴う代替措置として,発起設立でも払込取扱 金融機関への払込が要求されることとなった。さらに,引受・払込担保責任の 主体に会社成立当時の取締役が加わり,払込担保責任の対象が現物出資の給付 未済の場合にも拡大されるとともに,払込担保責任を履行した者に株式引受人 に対する株式売渡請求権が認められた。

 なお,昭和 61 年 5 月に法務省民事局参事官室から公表された「商法・有限 会社法改正試案」では,仮装払込対策として,預合と見せ金をも含む仮装払込 に対して包括的な処罰規定を設けること(一 11)(7),会社の成立後一定期間(例 えば 2 年間)は会社からの株主に対する金銭の貸付けを禁止すること(一 12)(8) が提案されていたが,実現しなかった。

 このように,平成 17 年改正前商法における出資の履行は,資本充実の原則・

修正された資本確定の原則に基づき厳格に規制された。これを整理すれば以下 の通りである。

 発起設立と募集設立とを問わず,設立に際して発行する株式総数が引き受け られたときは,発起人・株式引受人は遅滞なくその株式の発行価額の全額を払 い込まなければならない(全額払込制:商 170 条 1 項・177 条 1 項,現会 34 条 1 項・

63 条 1 項)。払込は現実になすことを要し,払込につき相殺をもって会社に対 抗することはできない(商 200 条 2 項,現会 208 条 3 項)。払込の仮装と発起人が 払込金を会社成立前に私消してしまうことを防止するため,払込は,発起人が 払込を取り扱うべきものとして指定した銀行または信託会社(払込取扱金融機関)

に対してしなければならない(商 170 条 2 項・177 条 2 項,現会 34 条 2 項・63 条 1 項)。払込取扱金融機関は,払込金の保管証明をしなければならず(商 189 条 1 項,

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現会 64 条 1 項),証明した払込金額については,払込のなかったことまたは返 還に関する制限があることをもって会社に対抗することはできない(商 189 条 2 項,現会 64 条 2 項)

 株式の引受は有効になされたが,会社成立後払込(または現物出資の給付) ない株式があったときは,発起人は,会社成立当時の取締役と連帯して払込(ま たは給付未済財産の価額の支払)をする義務を負う(払込担保責任:商 192 条 2 項) この場合,株主となるのはあくまでも当初の株式引受人であり,当初の株式引 受人は払込義務(または現物出資の目的たる財産の給付義務)を免れるものではな いから,発起人と会社成立当時の取締役が払込義務を履行すれば本来の株式引 受人に対して払込金を求償できるにすぎず,払込義務の履行によって直ちに株 主となるわけではないが,発起人と会社成立当時の取締役は,その払込の時か ら 6ヶ月以内であれば,株式引受人に対して,その株式を引受価額をもって自 己に売り渡すべき旨を請求することができる(商 192 条 3 項)

 新株発行においても,新株引受人は,割り当てられた新株につき,払込期日 までに発行価額の全額の払込(または現物出資の給付)をしなければならない(商 280 条ノ 7)。設立時と同様,払込は払込取扱金融機関に対して現実にすること を要し(商 280 条ノ 14 第 1 項),払込につき相殺は禁止される。払込期日までに 発行価額全額の払込(または現物出資の給付)を行わない株式引受人は当然に失 権し(商 280 条ノ 9 第 2 項),その新株は引き受けられなかったものとして扱わ れるため,払込担保責任が生ずる余地はない。ただし,引き受けられなかった 新株まで含めて誤って変更登記がなされた場合や変更登記後に引受が取り消さ れた場合には,登記通りの新株発行を実現させ,登記に対する一般の信頼を保 護するため,変更登記がなされた新株のうち有効な引受を欠く部分について取 締役が共同して引き受けたものとみなされ(引受担保責任:商 280 条ノ 13 第 1 項) 連帯して払込義務を負う。

(8)

預合によ 払込 効力

 預合による払込を無効と解することに学説上異論はなかった。しかし,無効 とする実益があるかといえば,設立時には否定的に解さざるをえない。なぜな ら,払込を無効としても払込人の株主たる地位に影響はないし,払込取扱金融 機関の払込金保管証明責任により会社は払込金のすべてにつき払戻を受けるこ とができるため,発起人・取締役に払込担保責任を課する必要はなく,払込取 扱金融機関は払込人に対する貸金債権を有する以上,払込取扱金融機関にとっ て払込人の払込義務を残存させる必要もないからである。新株発行時には,預 合により払込をした株式引受人を失権させることに意義があるが,取締役が共 同引受人となるため,取締役が結託して預合を実行した場合には,払込を無効 としても,株主としての権利行使の不当性に大差はない。

 一方,払込金返還制限の約定の効力については,払込取扱金融機関制度との 関係において検討を要する。払込金保管証明責任は,払込取扱金融機関が払込 金保管証明書を交付したことに基づく特別法定責任であり,一種の禁反言の責 任であると解されてきた(9)。そうであれば,払込金返還制限の約定は有効であ り,払込取扱金融機関が払込金保管証明書を発行しない限り,払込金の返還に 関する制限を会社に対抗できることになる。しかし,払込取扱金融機関への払 込が法的に要求されるのは,払込金の受領・保管・会社への引渡の確実を期す るためであることに鑑みれば,払込金の返還を株式の効力発生とは無関係な事 実にかからしめることはその趣旨に反するから,払込金返還制限の約定は無効 と解すべきである(10)(11)。このように解すると,払込金保管証明責任は,証明 した金額について払込のなかったこと(または会社成立前・新株の効力発生前に払 込金を返還したこと)について会社に対抗できないことに格別の意義があり,払 込金返還の制限をもって会社に対抗できないことは確認的な意味を有するにす ぎないことになるが,発起設立・募集設立・新株発行のいずれの場合にも払込

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金保管証明書の発行が要求される限り,その効果として定めることに問題はな いし,かかる責任を明確にすることによって預合の抑止効果が高くなることは 間違いない。そして,払込金返還制限が無効であれば,会社は無条件に払込金 の返還を受けてこれを使用することができるから,払込の効力を否定する必要 はない(12)

 預合は刑罰をもって禁止されていることをもって払込無効の根拠とすること もできない。違法行為の私法上の効力を否定することができないからこそ罰則 をもって禁止することはありうるし,預合の違法性は払込金返還制限の効力に 反映させればよい。

見せ金によ 払込 効力

 見せ金による払込の効力につき,無効説が判例(13)・通説(14)である。すなわち,

見せ金を構成する各個の行為に違法性はないが,それらは当初から計画された 払込仮装のためのからくりの一環をなしており,しかも見せ金は預合の脱法行 為であるから,見せ金による払込を有効とすれば,厳格に資本の充実を図る商 法の趣旨が没却されてしまう。したがって,見せ金を全体的に考察すれば,実 質的に払込があったということはできず,有効な払込とはいえない。そして,

見せ金にあたるか否かは,㋐会社成立後(新株の効力発生後)借入金を返済する までの期間の長短,㋑払込取扱金融機関からの払戻金が会社資金として運用さ れた事実の有無,㋒借入金の返済が会社資金に及ぼす影響の有無等を総合的に 観察して,払込が仮装の意図をもってなされ,単にその外形を整えたにすぎな いものと認められるか否かによって判断される。無効説によれば,見せ金によ り払込をした者は,株式引受人としての払込義務が残存するとともに,設立に おいては,発起人及び会社成立当時の取締役は連帯して払込担保責任を負い,

新株発行時においては,新株引受人は失権した上で,取締役が引受担保責任に 基づき連帯して払込義務を負う。また,見せ金による払込につき払込取扱金融

(10)

機関に悪意または重過失があった場合には,払込取扱金融機関は会社に対して 払込金保管証明責任を負うと解されてきた(15)

 無効説は,資本充実という株式会社設立規制(新株発行規制)の趣旨と払込 仮装の実質的不当性が強調されることが多いが,無効とすべき必要性という観 点から見れば,発起人・取締役に無過失の払込担保責任(新株発行時には引受担 保責任)を負わせて会社財産確保の確実性を高めることにこそ,その意義があ ると思われる。見せ金による払込の効力が争われた民事判例の相当数は,設立 時の払込担保責任または新株発行時の引受担保責任を追及するものであっ (16)。また,払込を無効とすれば,払込の欠缺の程度如何によって設立無効原 因となる余地もあった(17)。これに対して,新株発行においては,仮装払込によ り新株の引受があったといえない場合であっても,取締役の引受担保責任によ り填補されるため,新株発行の無効原因とはならない(18)

 一方,有効説は,見せ金の場合には払込自体には何ら瑕疵はなく,その違法 性は会社成立後(新株発行後)払込金を借入金の返済のために私消したことに あると解する。すなわち,無効説が設立段階(新株発行段階)の問題であると 捉えるのに対して,有効説は会社成立後(新株発行後)の会社財産流出(払込金 の使途)の問題として捉える(19)。会社が払込金の返済資金を提供しなければ見 せ金は実現できないのであるから,仮装払込のための会社財産流出について関 係者の民事責任・刑事責任を追及することこそが,問題の本質に沿った解決と なる(20)。したがって,有効説によれば,借入金返済のための払込金流出に関す る会社成立後(新株発行後)の取締役・監査役の任務懈怠に基づく責任(商 266 条 1 項 3 号 5 号・266 条ノ 3 第 1 項・277 条・280 条 1 項,現会 423 条 1 項・429 条 1 項)

が問題となるにすぎない。

 有効と解すべき根拠としては,前述した理論的根拠①②のほかに,以下のよ うな点が指摘される。③商法は,株式の申込につき民法 93 条但書(及び 94 条 1 項)の適用を排除したり,株式引受の無効・取消の主張を制限する(商 175 条

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9 項・191 条,現会 51 条)など,株式引受人の主観的事情によって法律関係が覆 滅されることを回避し,設立をめぐる法律関係の安定を図っているが,無効説 はこのような商法の趣旨に反する(21)。④無効説によれば,払込金は会社に帰属 しない以上,取締役の特別背任罪(商 486 条 1 項,現会 960 条 1 項)や業務上横 領罪(刑 253 条)は問うことができないため,登記事項としての発行済株式総 (商 188 条 2 項 5 号,現会 911 条 3 項 9 号)は払込があったもののみを指すとい う解釈(22)に基づき,払込がないにもかかわらずあったように見せかけて設立登 記・増資の登記をしたという点において,公正証書原本不実記載罪(刑 157 条 1 項)が問題となるにすぎない(23)。これに対して,有効説によれば,取締役には,

公正証書原本不実記載罪よりも刑罰の重い特別背任罪または業務上横領罪(貸 付によらずに払込金を借入先への返済にあてた場合)が成立しうることになる。し たがって,有効説のほうが,見せ金に関与した者に重い刑事責任を問うことが できる点において優れている(24)

3

.新会社法にお 立法政策と仮装払込 効力

 払込をめ 法規制 変容

 新会社法において,払込をめぐる法規制はその背後にある理念とともにかな り変更された。

 発起設立と募集設立とを問わず,株式引受人には出資全部の履行が要求され るが(会 34 条 1 項・63 条 1 項),打切り発行の許容により規制は緩和されている。

すなわち,出資を履行しない発起人は失権予告付催告の手続を経た上で失権し,

払込をしない設立時募集株式の引受人は当然に失権するため(会 36 条・63 条 3 項),株式引受人の出資がすべてなされなくても,定款所定の出資額(会 27 条 4 号)以上の出資がなされていれば,会社の設立が認められることとなった。定

(12)

款所定の出資額については,それに相当する財産の確実な拠出が要求されるこ とになるが,立案担当者の考えを忖度すれば,それは事業を開始するにあたっ て必要な財産を確保するという発起人の意思を担保するものにすぎず,会社債 権者保護のための資本充実の原則に基づくものではない。全額払込制の趣旨も,

株主となった後はもはや会社に対して何ら義務を負わないものとして,株式の 流通を円滑にすることにあるという(25)。このように,新会社法は会社債権者保 護の制度としての資本充実の原則はもはや採用していないと説明されるが,そ の理由は,実際には純資産額が資本金額を下回ることがありうる以上,資本金 額に相当する財産が現実に会社に拠出されていなくても,それに対する会社債 権者の信頼を保護する必要はないという点にある(26)

 また,発起設立と募集設立とを問わず,発起人の定めた払込取扱金融機関に 対する払込が要求されることに変わりはないが(会 34 条 2 項・63 条 1 項),払込 金保管証明制度は,発起設立の場合には設立の迅速化を図るためにこれを廃止 し,募集設立の場合に限り,払込金全額を営業資金として実際に使用できるこ とを期待した募集株式の引受人を保護するためにこれを維持しているにすぎな (会 64 条)(27)。その結果,発起設立の場合,設立登記申請の際の添付書類は 残高証明書・預金通帳の写しなどで足り(商登 47 条 2 項 5 号)(28),また払込取扱 金融機関は会社成立時まで払込金を保管することを要しないものとなった(29) これは,新会社法の下では会社債権者保護のために会社財産の充実が要求され ないため,会社成立時に払込金全額を営業資金として使用できなくても,それ は発起人の自己責任に委ねられるべきであるという趣旨である(30)。新株発行(募 集株式の発行等)の際にも,払込は払込取扱金融機関に対してすることを要す るが(会 208 条 1 項),払込金保管証明制度は廃止された。

 設立時の資本充実責任としての引受担保責任と払込担保責任は,募集設立に おける打切り発行の許容に伴い廃止された。新株発行時における取締役の引受 担保責任についても,払込のない株式は失権し,引受・払込のない資本・株式

(13)

に係る登記がなされたとしても,かかる虚偽の登記を信頼して会社債権者が損 害を被った場合には会社法 429 条によって保護すればよいし,取締役が所定の 手続を経ることなく株式を引き受けることができることとなる制度の合理性は 疑わしいとして(31),同様に廃止された。

 預合に対 評価

 預合罪の規定(会 965 条)には実質的な変更はない。発起設立の場合と新株 発行の場合には払込金保管証明制度が廃止され,預合による払込仮装の実現を 防止しようとする態度が明確にされていない以上,預合罪も適用されないと解 するのが自然であるが,新会社法の立案担当者は,預合罪は,現実にはその機 能を果たしえない資本金の額等を登記・公告により広く公示し,債権者の信頼 を害する危険性を生じさせたことに対する罪であるから,発起設立・募集設立・

新株発行のいずれの場合にも成立すると解している(32)

 他方で,立案担当者は預合による払込も有効であると解している。払込を無 効と解すると,発起設立においては,会社債権者にとって払込取扱金融機関に 対する払込金返還請求権を代位行使する余地がなくなるし,募集設立において も,払込取扱金融機関が払込金保管証明責任により支払った金銭は,株主資本 に組み入れられず,剰余金の配当として株主に分配できることとなり,会社債 権者を害するからであるという(33)(34)

 思うに,預合による払込が有効であれば,払込金は会社の支配下にあるから,

他の株主や会社債権者の利益を何ら害することにはならないはずである。預合 罪の保護法益は資本充実にあると解されてきた(35)が,預合による払込が有効で あるとすれば,預合罪はいかなる保護法益のために設けられているのかが問題 とならざるをえない(36)。会社財産は確保されているし,登記との不一致もない。

払込金返還制限により払込金を営業資金として利用できないとしても,会社に 積極的損害が生ずるわけではないから,そこに犯罪を構成するほどの違法性が

(14)

あるとは思えない。一方,払込を無効とした場合,資本金は実際に出資された 財産の価額によって算定され(会 445 条 1 項),預合による払込金額は資本金額 に計上されないから,虚偽の資本金額を登記したことに違法性があることにな るが,それは公正証書原本不実記載罪と何ら異なるところはなく,格別に預合 罪を設ける意味はない(37)。したがって,預合罪の存在意義は大いに疑わしい(38)

 見せ金によ 払込 効力

 新会社法の下でも,見せ金による払込は無効と解する見解が多いが,会社債 権者保護のための資本充実は要求されていないとすれば,もはやこれを根拠と することはできない。したがって,従来の無効説は新会社法にそのまま妥当す る余地はないと思われるが,依然として会社財産確保の観点から実質的に払込 があったとはいえないというだけで無効を導く見解が多い(39)

 新会社法の立案担当者は,次のような理由により無効と解する。㋐見せ金は,

当初から払込を仮装する意図の下になされた一連の行為であり,会社の財産的 基礎を害し,株式引受人間の不平等をもたらす点で現実の払込をしていない場 合と同視される。㋑払込人に払込の意思は認められない。㋒会社が払込取扱金 融機関から払込金の返還を受けているから,債権者保護とは無関係であり,株 式引受人間の平等が図られているかどうかが重要である(40)。㋓払込を無効とす れば,設立手続を進めた発起人の任務懈怠(会 53 条)を基礎づける根拠とな (41)。㋔払込を有効とすると,見せ金を誘発するおそれがある(42)。しかし,

㋐㋑㋔については,なぜ預合と別異に解されるのか不明である。㋒については,

払込金が現実に会社財産を構成し,会社債権者の利益を害さないのであれば,

同時にそれは平等に出資がなされたことにほかならないのであって,結果的に 株式引受人間の不平等が生じていれば,それは出資に起因するものでないこと を意味する。㋓については,会社が払込取扱金融機関から払込金の返還を受け られれば,払込金の受領・保管に関して発起人に任務懈怠はないはずである。

(15)

したがって,預合を含めて仮装払込に関する立案担当者の見解は一貫性を欠い ているといわざるをえない。

 新会社法の下では,設立時において見せ金による払込を無効とした場合,株 式引受人は払込義務の不履行により失権する。この点につき,発起人について は,払込をしていなくても,失権手続(会 36 条)を経ない限り,出資義務が消 滅するわけではないと解する見解もある(43)が,失権しないとすれば,払込を無 効と解する意味はどこにあるのであろうか。改めて払込を要求しても,仮装払 込をした発起人が実質的な払込をすることなど期待できない。会社法 50 条 1 項が「発起人は,株式会社の成立の時に,出資の履行をした4 4 4 4 4 4 4 4設立時発行株式の 株主となる」と規定している以上,無効な払込をした発起人に株主たる地位の 取得と払込義務の残存を認めることはできない(44)。一方,出資された財産が設 立に際して出資される財産の最低額(会 27 条 4 号)を下回ったり,発起人の失 権により一株も引き受けていない発起人が現れるに至った場合には設立無効原 因となる(45)が,見せ金に関与した者が設立無効の訴えを提起するはずはない し,他の株主が設立無効の訴えを提起することもあまり期待できない。新株発 (募集株式の発行等)においては,見せ金により払込をした引受人は失権し,

新株発行無効の訴えの対象とはならないため,登記の訂正以外に私法上格別の 是正措置はない。結局のところ,見せ金による払込を無効とした場合の直接の 効果はその株式引受人が失権することにある以上,実際上見せ金による払込の 効力は払込人の株主たる地位の存否をめぐって争われることになる。従来は,

設立時の払込が無効とされても,払込人の株主たる地位までが直ちに否定され るわけではなかったし,新株発行時の払込が無効とされて払込人が失権しても,

その新株については取締役による引受が擬制されるため,他の株主にとって持 株比率などの支配的利益に格別の影響をもたらすものではなかった。しかし,

新会社法の下では,会社財産が充実しているかという観点からではなく,株主 としての権利行使を認めるに足る資本的危険を実質的に負担しているかという

(16)

観点から,見せ金による払込の効力が問題とされることになる。

 かかる観点から改めて見せ金による払込の効力を考察すれば,払込人は実質 的に払込をしたと評価することはできず,払込は無効と解すべきことになる。

かかる解釈は,必ずしも前述した有効説の根拠と矛盾するものではない。払込 義務の履行が単に払込義務の消滅という効果をもたらすだけでなく株主となる ための前提をなす以上,払込の有無を実質的に評価してその効力を否定するこ とはできるし,会社成立時・新株の効力発生時を基準として会社財産が確保さ れているか否かということも重要ではない。見せ金を断罪するには重い刑事責 任を問うことのできる有効説に立脚すべきことになるが,払込の効力が他の株 主の利害にも密接に関係する以上,会社内部の利害調整を劣後させることはで きない。他方で,払込を無効として払込人の株主たる地位を否定することは,

株式引受人の地位の安定を図った各種法規制と調和しないし,預合による払込 の効力との整合性の点でも問題が残る(46)

 なお,従来の無効説論者の中には,新会社法の下では払込担保責任が廃止さ れたことや,株式が無効となると株式取引の安全を害することを理由として,

有効と解する見解も主張されている(47)が,効果の側面から払込の効力を決する のであれば,払込無効の効果は株式引受人の失権である以上,仮装払込をした 株式引受人を失権させることの当否こそが問題とされるべきであり,それを問 題にせずに,単に法律関係の安定・株式取引の安全のみを理由として払込を有 効と解することは,解釈論としては本末転倒ではないか。

 見せ金による払込を無効とすれば,株式引受人は失権し,引受・払込のあっ た株式についてのみ効力を生ずるから,見せ金によって払い込まれた株式数も 含めて登記されたとしても,失権した株式は帰属者がいない以上,その分は当 然に不存在である(48)

(17)

4

.平成

26

年改正会社法にお 立法政策と仮装払込 効力

 改正法 内容

 平成 26 年改正会社法は,仮装払込を利用した不公正ファイナンスの事件が 続発した(49)ことをも契機として,仮装払込をめぐる法律関係につき次のような 規定を設けた。

 会社の設立または募集株式の発行等において出資の履行を仮装した発起人・

設立時募集株式の引受人・募集株式の引受人は,払込を仮装した払込金額全額 の支払(現物出資財産の給付を仮装した場合には当該現物出資財産の給付,会社がそれ に代えて当該現物出資財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては,そ の全額の支払(50)をしなければならない(会 52 条の 2 第 1 項・102 条の 2 第 1 項・

213 条の 2 第 1 項)。この責任は,株主代表訴訟によって追及することができ(会 847 条 1 項),総株主の同意がなければ免除することはできない(会 55 条・102 条 の 2 第 2 項・213 条の 2 第 2 項)。出資の履行を仮装した株主は,この責任を履行 した後でなければ,その株式について株主としての権利を行使することはでき ない(会 52 条の 2 第 4 項・102 条 3 項・209 条 2 項)。その株式を善意・無重過失 で譲り受けた者は,その株式について株主としての権利を行使することはでき (会 52 条の 2 第 5 項・102 条 4 項・209 条 3 項)(51)。出資履行の仮装に関与した 発起人・取締役・執行役も,その職務執行につき注意を怠らなかったことを証 明しない限り,払込金額(または現物出資財産相当額)の支払義務を負う(会 52 条の 2 第 2 項・103 条 2 項・213 条の 3 第 1 項)(52)(53)。設立時の関与者の責任は総株 主の同意がなければ免除することができないが(会 55 条・103 条 3 項),募集株 式発行時の関与者の責任の免除には総株主の同意を要しない(54)。募集新株予約 権の払込が仮装された場合,新株予約権行使の際の払込等が仮装された場合に

(18)

ついても,同様の規定が設けられている(会 282 条 2 項・3 項,286 条の 2, 286 条 の 3)

 かかる改正の趣旨について,中間試案の補足説明は,仮装払込の関与者に責 任を課するべき理由を次のように説明している。「仮に,仮装払込みによる募 集株式の発行等を有効と解する場合には,募集株式の発行等がされたにもかか わらず,その価値に見合うだけの財産が拠出されていないことになり,既存株 主から引受人に対する価値の移転が生ずる。また,仮装払込みによる募集株式 の発行等を無効と解する場合であっても,無効となる募集株式が市場で売却さ れると,当該募集株式を特定することは困難となるため,事実上,同様の問題 が生ずる」(55)。要綱案の解説においては,「もし新株発行が無効とされたり,不 存在とされると,発行された新株の株式取引の安全を害するおそれがあるし,

増資の登記が無効となること等により,それを信じた会社債権者が害されるお それもある。他方,募集株式の発行等は有効と解した場合も,現行会社法上は,

引受人の失権により新株につき払込義務を負う者がいなくなるため,会社に新 株の資金は確保されず,増資の登記を信頼した会社債権者が害されるおそれが あるし,発行済株式数の増加だけが生じて,そもそも誰が新株の株主なのかと いう問題が生じるほか,希釈化により他の株主を害するおそれがある。」と説 明されている(56)

 パブリック・コメントでは,かかる立法提案に対する反対意見はなかったと いう(57)

 改正法に対 疑問

 かかる改正法の趣旨・内容には多くの疑問がある。

 第一に,仮装払込の効力が無効であるということは所与の前提とされ(58),無 効とされるべき必要性は全く再考されていない。見せ金による払込の効力は従 来から争いがあり,しかも無効とした場合の効果に関する法規制と密接に関連

(19)

するにもかかわらず,なぜ払込の無効を不動の前提とする必要があるのであろ うか。今後仮装払込に対して立法政策上どのような効果を定めるべきかという 問題である以上,当時の立法を前提とした過去の判例の立場に拘泥すべき理由 は全くない。無効の理由は,仮装払込においては実質的には払込があったと評 価することはできず,実質的に資本的危険を負担していない株式引受人に株主 としての権利行使を認めることはできないという価値判断に求められるのであ ろうが,払込の無効が仮装払込の事後処理をめぐる立法政策の原点となるので あるから,まずその必要性が明確に説明されるべきである。

 第二に,仮装払込の弊害として「既存株主から引受人に対する価値の移転が 生ずる」という指摘にも疑問を感ずる。払込の無効を前提とする限り,端的に

「仮装払込をした株式引受人は実質的に出資義務を履行していないにもかかわ らず株主としての利益を享受するのは不当である」と説明すれば足りるように 思われる。また,募集株式の発行等が無効であっても,募集株式が流通すれば 事実上同様の問題が生ずるという説明は,振替株式である場合が想定されてい るのであろうが,それは株式振替制度に内在する問題であって,会社法上の問 題として一般化すべきではない。「既存株主から引受人に対する価値の移転が 生ずる」という弊害は,適正な価額よりも著しく低い価額で株式が発行された 場合に指摘される。すなわち,株式効力発生時における現物出資財産の価額が 当初の価額に著しく不足する場合や,著しく不公正な払込金額で募集株式を引 き受けた場合である(会 52 条・212 条 1 項・213 条)。そのため,仮装払込におけ る引受人及びそれに関与した取締役等の責任は,これらの場合における引受人・

取締役等の責任と同趣旨の規定と位置づけられることもある(59)。しかし,現物 出資の不足額填補責任も著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 の差額支払責任も,有効な株式引受契約に基づき約定の出資義務が履行された 場合に,他の株主との公平を図るために課される法定的な責任である。これに 対して,仮装払込は約定の出資義務が履行されていないと評価される場合であ

(20)

るから,少なくとも引受人については責任の性質が異なるといわざるをえない。

 第三に,改正前会社法の下では,仮装払込をした株式引受人が失権しても,

必ずしも株式の効力が否定されるわけではないということを前提としているよ うである。改正法の解説では,「出資の履行を仮装した募集株式の引受人は,

財産を拠出することなく募集株式を取得することとなる一方,財産が拠出され ないまま発行済株式の総数が増加することにより,既存株主が有する株式一株 当たりの価値が減少(希釈化)するため,経済実態としては,これらの既存株 主から募集株式の引受人に対する価値の移転が生ずることになる。」と説明さ れており(60),発行された株式が有効であることを前提としているように読め る。同旨の見解も主張されていた(61)が,帰属者のいない株式の成立を認めるこ となど常識的に理解できない。この点は改正法自体の当否を左右する問題では ないが,問題点の整理の段階でいたずらに問題を複雑化しているといわざるを えない(62)

 第四に,仮装払込に関する改正法は主に見せ金を想定しているが,預合も対 象となるのであろうか。というのも,預合をも対象としているのであれば,事 後的な法律関係について規定する以前に,預合を未然に防止するための規定を 設けるべきところ,払込取扱金融機関の払込金保管証明制度は依然として発起 設立と新株発行の場合には要求されていないからである。預合を防止しようと せずに,これを仮装払込として事後的な法律関係のみを定めるのは整合性を欠 く。このように,預合をどのように規制しようとするのか,会社法の態度は依 然として明らかではない。

 第五に,仮装払込をした株式引受人の株主としての地位は認めながら,その 権利行使を否定することは妥当であろうか。改正法は,実質的に払込をしてい ない株式引受人に株主としての権利行使を認めるべきではないから,その払込 を無効とすべきところ,その引き受けた株式まで無効としてしまうと,法的安 定性を害するため,政策的に株式の効力は否定しないこととした。そのため,

(21)

出資不履行による株式引受人の失権に関する規定(会 36 条 3 項・63 条 3 項・208 条 5 項)は,形式的に4 4 4 4出資を履行しない場合に限り適用されることになる(63) しかし,株主としての権利を行使させるべきではないという要請と株式の効力 を否定すべきではないという要請は完全に矛盾している。対立する要請のうち 一定の場合に一方の要請を優先する法律関係を定めるという立法政策は可能で あるとしても,矛盾した要請を両立させる立法政策など許容されうるのであろ うか。帰属者のいない株式の成立を認めることに抵抗がないのであれば,権利 行使できない株式の成立を認めることにも抵抗がないのであろう。もっとも,

会社の保有する自己株式についてはほぼすべての権利が停止することに鑑みれ ば,権利行使できない株式の存在自体は否定できない(64)。しかし,自己株式に ついては,その流通過程において会社がこれを取得することを認めるにすぎず,

会社が自らに対して自己株式(権利行使できない株式)を発行することを認める ものではない。また,平成 17 年改正前商法の下では,引受担保責任を負う発 起人・取締役は払込をするまでは株主にはなれない(65)とか,株主にはなるもの の株主としての権利は行使できない(66)といった見解が有力に主張されていた ことに鑑みれば,明文規定により株主の権利行使を全面的に否定することも不 可能ではないとの反論が予想される。改正法でも,仮装払込をした株式引受人 の取得した株式は,実質的な払込をすることまたは善意・無重過失の第三者が 転得することを停止条件として効力を生ずる株式であると解しているのかもし れない(67)。しかし,株式の効力が発生するのは,設立においては設立登記によ る会社成立時,新株発行においては払込期日または払込期間内の出資履行日で あるから(会 49 条・50 条 1 項・102 条 2 項,209 条 1 項),かかる停止条件付株式 を認めることはできない。かかる効力未発生の株式も含めて発行済株式総数を 登記できるとすれば,それは虚偽の登記を容認することにほかならない。また,

本来は払込を条件として株式の取得が認められるところ,払込を条件とせずに 株式の取得を認める以上,株主たる地位を有しながら権利行使はできないと解

(22)

することは困難であろう。発起人・取締役の引受担保責任においては株式取得 自体に不当性はないから,株主としての権利行使を認める余地があるとしても,

仮装払込人には株式取得に著しい不当性があるから,権利行使は否定すべきで あるとの反論もありうるが,そうであれば失権させて株式取得自体を否定する のが本筋である。

 第六に,仮装払込をした株式引受人の権利行使を否定することによる会社支 配の公正は,その実効性を期待しうるであろうか。もし仮装払込をした株主が 株主総会で議決権を行使すれば,その決議は瑕疵を帯びるが,判例・多数説に よれば,その議決権行使を否定することにより定足数や多数決をみたさないこ とになっても,決議方法の法令違反として決議取消原因となるにすぎない(会 831 条 1 項 1 号)と解される(68)ため,仮装払込が決議の日から 3ヶ月以内に発覚 しない限り,決議取消の訴えを提起することはできず,決議は有効に確定して しまう。仮装払込は直ちに露見しないことが多いことに鑑みれば,仮装払込を した株主の権利行使を否定しても,実際上は会社支配の公正は必ずしも担保さ れない。もっとも,かかる問題点は,仮装払込をした株式引受人は失権すると 解される改正前会社法の下でも同様である。

 第七に,改正法では,払込仮装に関与した取締役等が払込責任を履行した場 合にも株式引受人は株主としての権利を行使できるようになるとしているが,

実質的に資本的危険を負担していない株式引受人に株主としての権利行使を認 めることの不当性に,払込を無効とする根拠を求めるのであれば,その株式引 受人が自ら払込をすることが株主としての権利行使の条件となるはずであっ て,取締役等に肩代わりさせても権利行使の不当性は解消されない(69)。そのた め,なぜ仮装払込人は株主としての権利を行使できないのか,ひいてはなぜ払 込は無効とされるのかが改めて問われざるをえない。

(23)

仮装払込に関 立法政策

 そこで,仮装払込に対して会社法上の規制を設ける必要性について改めて整 理してみよう。

 新会社法では資本充実の原則は廃止され,資本金額に相当する財産が現実に 会社に拠出されていなくても,それに対する会社債権者の信頼を保護する必要 はなく,出資に関する株主間の平等が確保されればよいという前提に立つ限り,

仮装払込により実質的に払込がなされていなければ,その株式引受人を失権さ せるとともに,資本金額と発行済株式総数につき虚偽の登記等の情報開示をし た者の民事責任(会 429 条 2 項)・刑事責任(公正証書原本不実記載罪)が問われ ればよい。その前提自体が妥当ではないとすれば,従来の資本充実責任として の発起人・取締役の引受担保責任・払込担保責任を復活させ,仮装払込に対し てはこれをもって対処すべきことになろう。この点につき,仮装払込によって 会社債権者が害されるのは,その時点で会社に利用できる資金が拠出され,財 務状況が改善されたと信じて新たな融資をしたり,既存の債権の回収を控えた りした場合であるから,そこで保護されるべき会社債権者の信頼は,出資によっ て会社に新たな財産が拠出されたというインフローに関する情報がアナウンス されたことに対するものであると解する見解がある(70)。しかし,それが会社債 権者にとっての担保財産の確保自体に関する利益ではなく,一定規模の会社設 立または資金調達に成功したという事実に対する信頼にすぎないとすれば,そ れが会社法上保護に値するかは疑問であるし,仮に保護に値するとしても,そ れは虚偽の情報開示に関する民事責任・刑事責任をもって対処すべきものであ り,それ以上の立法政策を要しないであろう。

 改正前会社法の下での重大な不都合は,仮装払込により失権した引受人の株 式は無効であるから,それが流通した場合には取引の安全を害するという点で ある。かかる弊害を解消するためには,仮装払込をした株式引受人を失権させ

(24)

ない一方,払込を担保するという立法政策を採用すべきことになる。仮装払込 に関する平成 26 年改正法の眼目はここにある。

 他方で,仮装払込を無効と解すべき理由をどこにあるのか。払込を有効とす れば,株式も有効であるから,株式取引の安全や株主総会決議をめぐる法的安 定性も当然に確保されるからである。見せ金における会社財産の確保について も,払込自体は有効であるとしても,払込人は会社からの貸付け等によりまた は法律上の原因なく払込金の払戻を受けているのであるから,借入金または不 当利得としてこれを会社に返還する義務を負うし,払込金の回復困難な流出に 関与した取締役等も任務懈怠により会社に対する損害賠償責任を負う(会 423 条 1 項)。したがって,払込を有効と解したところで関与者の責任が否定され るわけではない。改正法は,関与者の責任を連帯責任とし,取締役等に立証責 任を転換することにより,払込金回復の実効性を高めている点に意義があるが,

かかる責任の強化も払込の無効を前提としなければならないわけではない。ま た,仮装払込を無効とした場合,その設立時発行株式総数に占める割合がいか に大きくても,設立無効原因とはならない。なぜなら,仮装払込をした株式引 受人を失権させれば,有効な払込のあった株式のみで会社の設立が認められう るところ,払込の欠缺を理由として設立自体の効力が否定される余地を残せば,

改正前よりも法的安定性を害するからである。募集株式の発行等の場合も同様 に,新株発行無効原因とはならない(71)。このように考えていくと,払込を無効 とする必要性は,実質的に資本的危険を負担していない仮装払込人の株主とし ての権利行使を否定することのみにある。他方で,株式取引の安全を中心とす る法的安定性を確保するため,仮装払込に係る株式の効力を否定できないとい う強い要請がある以上,そこで要求される立法政策上の判断は,払込無効に基 づく株式引受人の失権と払込有効に基づく株主たる地位の容認という相対立す る結果について,その弊害を比較衡量した上でどちらを優先するかということ である。しかるに,仮装払込が発覚しない限り,権利行使否定よる会社支配の

(25)

公正は実現できないし,権利行使できないとの明文の規定がなくても,仮装払 込が発覚した場合には仮装払込人は社会的非難により事実上権利行使できなく なる可能性もある。そうであれば,仮装払込人による権利行使の不当性は法的 安定性に譲歩し,理論に立ち返って,仮装払込も有効であるとの前提に立つべ きであったと考える(72)

 このように,特に見せ金による払込は,払込後にその仮装を実現するもので あって未然に防止できないし,事後的にも法的安定性を可及的に尊重して払込 を有効と解するのが妥当である。したがって,見せ金の私法上の効果を定める 必要はなく,刑罰をもって禁圧するほかはない(73)。打算的な動機に基づく経済 犯罪は,重罰化により抑止効果が期待できる。仮装払込が資本の空洞化を招く だけでなく会社支配の公正・投資家の信頼をも害する点に着目すれば,特別背 任罪・業務上横領罪よりも刑罰の重い固有の罰則を新設することも検討に値し よう(74)

5

.おわ

 以上に検討してきたように,仮装払込をめぐる法律関係に関する平成 26 年 改正法は,会社財産の確保,会社支配の公正(仮装払込人による権利行使の不当性) 株式取引の安全といった複数の要請を総合的に取り入れたもののように見える が,技巧的な立法政策に溺れたものと評価せざるをえない。本来法改正におい ては,現状の問題点とそれに対する現行法の限界を踏まえた上で,問題点を適 切に克服しうる立法政策を模索すべきであるが,今回の改正では,前提となる べき仮装払込の効力に対する理論的な省察がなされておらず,仮装払込に対す る法規制のあり方も明確に想定されていなかったのではないかと思われる。

 解釈論にも立法論にも妥当しうる戒めとして,次の至言を引用して結びとしよ う。「ケシカランものは無効だといって済むのであれば,法律学は要らない。(75)

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