株式譲渡の相対効
著者 来住野 究
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 27
ページ 33‑40
発行年 2011‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2170
株式譲渡の相対効
来住野 究
1.はじめに
株式譲渡には、会社に対する関係では無効であるが、譲渡当事者間では有効であるという相対 効が認められる場合がある。すなわち、平成17年改正前商法(以下、便宜上「旧商法」と略称す る)204条2項は、株券発行前になした株式譲渡は会社に対する関係では無効であるとしており、
この規定は平成17年新会社法128条2項に引き継がれている。また、旧商法190条は、権利株譲渡 についても会社に対する関係では無効であるとしていたが、新会社法は、これを大きく改め、会 社に対抗できないものとした。一方、旧商法上、株式譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定 款規定のある会社において、それに違反してなされた株式譲渡の効力についても、解釈上譲渡当 事者間では有効であるが、会社に対する関係では無効であると解するのが判例・通説であり、新 会社法上の解釈としてもこの見解が概ね支持されている。
しかし、株式譲渡は会社に対する法律関係の移転である以上、本来会社に対する関係で無効な 株式譲渡は譲渡当事者間でも無効となるはずである。そこで、かかる相対効の合理性の有無につ いて検討することとする。
2.株券発行前の株式譲渡の効力
旧商法204条2項(会128条2項)の趣旨について、かつては、株券発行前の株式譲渡をめぐる 会社・株主間の法律関係の明確かつ画一的処理を図り、法的安定性を確保することにあると解さ れていた(最判昭和33年10月24日民集12巻14号3194頁)。ところが、従来は会社は遅滞なき株券 の発行が義務づけられていた(旧商226条1項本文)にもかかわらず、我が国の株式会社の大多 数を占める小規模会社では、株券発行の費用と手数を節約するために株券を発行していなかった。
この場合、株券発行前の株式譲渡は常に会社に対して効力を生じないとすると、会社の怠慢によ り事実上株式譲渡が不可能となってしまうため、旧商法204条2項の適用に何らかの修正を加え ざるをえなくなった。そこで、判例・通説は、同項の趣旨を、譲受人からの名義書換請求に応ず ることによる会社の事務の混乱を避けるとともに、会社の株券発行事務の渋滞を防止し、株券の 円滑かつ正確な発行を促進しようとする技術的理由に求め(最判昭和47年11月8日民集26巻9号 1489頁)、会社が株券の発行を不当に遅滞している場合には、株券発行前の株式譲渡の効力を緩 和し、譲受人の株主たる地位を会社に対する関係でも認めようとするようになった。しかし、そ の場合、会社及び第三者に対する対抗要件はいかなる方法によって具備されるのかということが
問題とならざるをえない。株券発行前の株式譲渡の対抗要件の問題はあくまでも附随的な論点と して取り上げられているにすぎないが、この点こそが旧商法204条2項の本質を理解する上で最 も重要である。
旧商法204条2項の立法者意思は、株券発行前の株式譲渡につき指名債権譲渡の対抗要件を否 定し、株券の発行を待って株券を基準として株式譲渡の対抗要件を統一することにあった。株券 は法律上当然の無記名証券であり、そこに表章される権利(株式)は無記名債権に準ずる性質を 有するが、株券発行前の株式と株券発行後の株式を区別することはできず、両者には同一性があ る以上、その譲渡の対抗要件も統一的に定められなければならないのである。すなわち、株券発 行後の株式譲渡については、株券の交付が成立要件とされ(旧商205条1項)、対抗要件もそれに 吸収されるため、株券の交付をもって第三者に対する対抗要件が具備されることになるが、株券 発行前の株式譲渡については、無記名債権の譲渡に関する一般規定に従い、意思表示のみで株式 譲渡は効力を生ずるが、第三者にそれを対抗するためには、株券の発行を待った上で株券の交付 を要すると解される(民86条3項・178条)。株券発行前の株式譲渡の会社に対する効力が否定さ れるのも、株券発行前には株式譲渡を第三者に対抗できないということを考慮したものである。
そもそも、株券発行前の株式譲渡は会社に対する関係では永久に無効なのではなく、株券発行に よって効力を生じ、それ以後は会社が原始株主を株主として取り扱わなければならない理由は失 われると解すべきであり、株券発行まで株式譲渡が会社に対して効力を生じないということは、
会社は必ず原始株主に株券を発行しなければならないということを意味する。すなわち、株券発 行前の株式譲渡においては、会社に対する関係では株式は移転していないものとみなし、会社は 必ず原始株主である譲渡人に株券を発行しなければならないとすることによって、譲渡人を経由 して株券の交付という対抗要件を具備させようという趣旨である。
ところが、会社法128条2項について、立案担当者は、株券発行前の株式譲渡は譲渡当事者間 では債権的効力を有するにすぎず、有効な株式譲渡をなすには株券が必要であること(128条1 項が適用されること)を注意的に規定したにすぎないと説明している。しかし、株券発行の前後 を問わず、株式の売買契約・贈与契約等の債権契約を有効になしうることはいうまでもなく、そ れは会社法の関知するところではない。会社法128条2項が準物権契約としての株式譲渡の効力 を規定したものであることは明らかであり、学説も旧商法204条2項をそのように理解してきた。
これを債権的効力の問題として理解することは、旧商法204条2項の立法者意思を全く無視する ものである。しかも、同項が株券発行前には有効に株式を譲渡しえないということを意味すると すれば、その場合の株式譲渡は無効どころか不成立であるから、会社に対する関係でのみ効力を 否定していることを説明できない。
もっとも、新会社法の下では、株券の不発行が原則とされ、株券を発行するには定款の定めが 必要となったため(会214条)、株券を発行する会社自体が少なくなるであろうし、あえて株券を 発行する旨の定款規定を設けた会社では速やかな株券の発行が期待できるから、あえて株券発行 前の意思表示のみによる株式譲渡について当事者間における効力を認めてまで投下資本回収の機 会を保障する必要性は乏しいとも考えられる。また、旧商法204条2項は、株式譲渡は意思表示 のみをもってなすことができ、株券の交付は第三者に対する対抗要件にすぎないことを前提とし
たとき、初めてその論理的一貫性を維持することができるのであり、株券の交付をもって株式譲 渡の成立要件とすることが確立している新会社法の下でなお同項を維持することは、論理的整合 性の点で問題がある。したがって、株券発行会社の株式譲渡には常に株券の交付が必要であり、
株券発行前には意思表示のみによる株式譲渡は認めないという立法政策上の判断はありうる。そ うであれば、同項は有害無用の規定として削除すべきであったことになる。
3.権利株譲渡の効力
株式の前身(胎児)というべき株式引受人の権利を「権利株」というが、会社の将来性に対す る評価が高いと権利株の経済的価値も高まるため、権利株が取引されることがある。成否未定の 将来の会社について権利株が取引され、市場にその相場が立つということは不健全であるが、権 利株が財産的価値を有する以上、その譲渡を全面的に禁止することも行き過ぎである。かといっ て、株式引受人が頻繁に交代すると、設立前後の会社の手続が混乱するおそれがある。そこで、
旧商法の下では、権利株の譲渡は、株券発行前の株式譲渡の効力と同様、譲渡当事者間では有効 であるが、会社に対する関係では無効とされていた(旧商190条)。これは新株発行の場合も同様 である(旧商280条ノ14第1項)。また、発起人と取締役については、会社の事業が有望であるか のように吹聴して権利株を高値で売りつけた上で、会社の設立を投げ出して逃げてしまうおそれ があるため、発起人と取締役による権利株の譲渡には罰則による制裁が設けられていた(旧商 498条2項)。
新会社法は、この権利株をめぐる法規制を大幅に改め、出資履行前の権利株と出資履行後の権 利株とによって取扱を区別している。すなわち、発起設立の場合と募集設立の場合とを問わず、
出資履行前の権利株(出資を履行することにより設立時発行株式の株主となる権利)の譲渡は成 立後の会社に対抗することはできない(会35条・63条2項)。また、発起人の場合に限り、出資 履行後であっても、権利株の譲渡は成立後の会社に対抗することはできない(会50条2項)。募 集株式の発行(新株発行)の場合は、出資履行前の権利株の譲渡は会社に対抗することはできな い(会208条4項)。旧法下では、会社からも権利株の譲受人を株式引受人として扱うことはでき ないものとされていたのに対して、新会社法の下では、権利株の譲受人は会社に対して自己が株 式引受人であることを主張できないだけであって、会社が権利株の譲渡を認めて譲受人を株式引 受人として扱うことは差し支えないことになったのである。また、発起人・取締役による権利株 譲渡に対する罰則は削除された。
しかし、新会社法が権利株譲渡の効力を改めた理由は明らかではない。かかる変更は、法制審 議会会社法部会による要綱試案にも要綱案にも提案されておらず、全く抜き打ち的になされたも のである。立案担当者による解説もなく、学説上も関心の対象となっていない。
権利株譲渡の制限は立法政策上漸次緩和されてきたが、現在では、その趣旨は、設立手続また は株券発行事務の煩雑と渋滞を防止し、これを円滑ならしめるという会社の事務処理上の便宜に 求められている。そのため、もはや権利株譲渡の効力まで制限するのは適当ではないから、旧商 法190条は「会社に対抗することを得ず」の意味に解すれば十分であるとする見解も有力に主張
されていた。新会社法はかかる見解に従ったものと思われる。
権利株譲渡は会社に対する関係で無効とするにせよ、会社に対抗できないものとするにせよ、
意思表示のみによる譲渡を認める以上、第三者に対する対抗要件が問題とならざるをえない。
そもそも、権利株は会社成立または新株の効力発生を条件として株主たる地位を取得すべき一 種の期待権たる性質を有するものであると解されるが、期待権に固有の譲渡方法はない。民法 129条によれば、期待権は一般の規定に従い処分することができるが、「一般の規定に従い」とは
「条件成就によって取得する権利と同一の方法により」の意味である。したがって、権利株は、
条件成就によって取得する権利すなわち株式と同一の方法によって譲渡できることになる。従来 は会社には無記名証券たる株券の発行が一律に義務づけられ(旧商226条1項)、株式譲渡には株 券の交付が要求されていたから(旧商205条1項)、権利株の譲渡は株券の交付がその対抗要件と なると解される。もし会社が権利株譲渡を認めて、一方の譲受人を株主として取り扱い、この者 に対して株券を発行しうるものとすれば、会社以外の第三者に対する対抗要件の具備が会社の行 為にかかってくることになり、そこには会社の恣意が介入するおそれもある。そこで、権利株譲 渡においては、当事者間では譲渡は有効であるとしつつ、会社に対する関係では株式は移転しな いものとみなすことにより、会社は画一的に原始株主(譲渡人)を株主として取り扱い、この者 の手を経由して株券を流通させなければならないとの要請が働いてくるのである。したがって、
旧商法204条2項と190条は同趣旨に基づく。
新会社法の下では、株券の発行は定款自治に委ねられたが、株券が発行される場合の法律関係 は旧法下と異ならない。したがって、権利株譲渡の効力は株券発行前の株式譲渡の効力と平仄を 合わせなければならない。すなわち、株券発行前の株式譲渡の相対効を維持するのであれば、権 利株の譲渡も相対効を維持すべきであるし、株券発行前の株式譲渡を認めないのであれば、権利 株の譲渡も認めるべきではない。
これに対して、株券が発行されない場合、株式譲渡は意思表示のみをもってなしうるが、株主 名簿の名義書換が会社その他の第三者に対する対抗要件となるため(会130条1項)、権利株譲渡 の対抗要件もこれに従うことになる。この場合、対抗要件の具備が会社の行為にかからしめられ る以上、権利株譲渡を制限すべき理由は会社の事務処理上の便宜に求めることができるから、少 なくとも会社に対する関係で無効とする必要はなく、会社は権利株の譲受人からの名義書換請求 を拒絶できるとするだけで足りるようにも思われる。
しかし、会社が認めてくれない限り、永久に会社に対抗できない権利株譲渡なるものを認める ことは無意味である。実際上は会社が認めてくれる見込みが高い場合にしか権利株を譲り受けよ うとはしないであろうが、譲受人が自己の地位を保全できないような権利株の譲渡を認めるなど ということは立法としては無責任であるというほかはない。会社成立前であれば、株式引受人の 交代に伴う事務処理上の混乱を回避して設立手続の円滑化を図るため、権利株譲渡は発起人に対 抗できないこととし、会社成立後には対抗可能とすることには合理性があるが、新会社法は成立 後の会社に対する対抗不能を定めている。そして、権利株譲渡につき会社成立後に名義書換請求 がなされる場合と会社成立後直ちに株式譲渡がなされて名義書換請求がなされる場合とに応じ て、会社による拒絶の可否を区別する必要性は見出しがたい。
また、権利株譲渡に伴い出資義務者の変更を生ずることもないため、株式引受人の変動が会社 の事務処理に及ぼす影響は出資履行の前後を通じて異ならないはずである。出資履行前の権利株 は著しく不安定であり、その譲渡の危険性に配慮して法規制を設けるとしても、会社に対する対 抗不能とは結びつかない。このように、出資履行前後によって権利株譲渡の取扱を区別する理由 はなさそうである。発起設立と募集設立のいずれであるか、権利株譲渡の主体が発起人と株式引 受人のいずれであるかによって、会社の事務処理に対する影響が異なることもないはずである
このように、権利株譲渡に関する新会社法の立場は全く理解できない。むしろ、改悪というほ かはない。
4.会社の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡の効力
旧商法の下で、取締役会の承認を得ずになされた株式譲渡は、譲渡当事者間では有効であるが、
会社に対する関係では無効であると解するのが判例(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)・ 通説である(相対的無効説)。すなわち、定款による株式譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ま しくない者が株主となることを防止することにあるから、会社に対する関係で株式譲渡の効力を 否定すれば足り、他方において、株式譲渡は株券の交付のみによって成立し、それをもって第三 者に対抗できるから、譲渡当事者間においてまで株式譲渡の効力を否定する必要はないと解され る。新会社法は制限の対象を「株式の譲渡」ではなく「譲渡による株式の取得」(株式の譲受)
としているが(会107条2項1号)、その理由はここにあると思われる。新会社法は、株式取得者 からの取得承認請求を認めており(会137条・138条2号、旧商204条ノ5)、株券が発行されてい る場合には、会社法施行規則24条2項1号により、株式取得者は単独で請求できるが(株券が発 行されていない場合は、原則として株主名簿上の株主と共同して請求すべきものとされる。会 137条2項)、これは相対的無効説を前提とするものである。もっとも、会社に対する関係で譲渡 を無効と解するのは、会社が譲受人からの名義書換請求を拒絶できる理由を説明するための便法 にすぎないとすれば、譲渡自体は有効であると解するのと実質的には大差はない。これに対して、
相対的無効説の理論的不自然を問題とし、取締役会の承認がなくても、株式譲渡は完全に有効で あり、会社は譲受人からの名義書換請求を拒絶できるにすぎないと解する見解(有効説)も近時 有力に主張されている。新会社法の立案担当者の解説には、この有効説を前提としているかのよ うな記述もある。会社の承認が得られない間は譲受人は株主名簿の名義書換を請求できないとす る規定(会134条)は、会社の承認を名義書換の可否にかからしめているようにも思われるが、「譲 渡による株式の取得」につき会社の承認を要する以上、承認を得られない場合は株式の取得自体 が否定されると解されるため、文理解釈として名義書換の制限と解することは困難である。なお、
新会社法の下では定款に別段の定めがない限り株券を発行しなくてもよいが、これらの見解は株 券不発行の場合にも維持されると思われる。
このような学説の対立の根本的な原因は、株式譲渡の制限と株券の無記名証券性という本来相 容れないものを調和させようとすることにある。すなわち、株式は株券の交付のみによって譲渡 できるものとされているため、株券は譲渡方法に関する性質としては無記名証券に属するが、無
記名証券は証券の所持人を権利者として指定するものであり、会社とは無関係に流通することが 予定されているものである。一方、譲渡制限株式は、会社の知らないところで流通することなど 予定されていない。したがって、そもそも株券の無記名証券性は譲渡制限株式には親しまない。
しかし、会社法は譲渡制限株式については固有の譲渡方法は定めていないから、定款による株式 譲渡の制限は、株券の交付のみをもって株式を譲渡できるという制度の下での制限であるといわ ざるをえない。そのため、会社の承認を欠いていても、株券の交付をもって株式譲渡がなされ、
それをもって会社以外の第三者に対抗できる以上、少なくとも譲渡当事者間では有効であると解 さざるをえないのである。ところで、株券の占有者が株主と推定されるのは(会131条1項、旧 商205条2項)、株式譲渡は株券の交付のみをもって足りるため、株券の占有者は株主である蓋然 性が高いということに基づくものであるが、会社の承認を欠いていれば株券の交付を受けても完 全な株主でないことになるから、推定規定適用の前提を欠く。したがって、相対的無効説には株 券の無記名証券性の徹底において限界がある。一方、有効説に立てば、株券の無記名証券性は徹 底されるため、譲渡制限株式の譲受人にも推定規定は適用されるはずであるが、有効に株式を譲 り受け、株券の占有という名義書換請求の形式的要件をみたしているにもかかわらず、なぜ会社 は名義書換を拒絶できるのかということが問題とならざるをえない。このように、問題の元凶は、
譲渡制限株式についても株券が発行され、しかもその無記名証券性が維持されていることにある。
迅速な投下資本回収の保障についても、株主としては、譲渡制限株式を引き受けた以上、投下資 本回収に若干の不便を伴うことは当然に甘受すべきである。他方で、株券が発行されない場合、
株式の流通性など保護する必要はないし、譲渡当事者間では有効であると解する決定的な理由を 失うことになる。この場合、譲渡当事者間では有効であるとしても、株主名簿の名義書換を受け ることはできず、第三者に対する対抗要件をみたせない。譲渡当事者間の関係に限るとはいえ、
かかる株式譲渡の効力を認めることにいかなる意味があるのであろうか。
また、譲渡制限株式につき株券が発行されることの問題点は判例にも現れている。最判昭和63 年3月15日判時1273号124頁は、A株式会社がXの有するY株式会社の譲渡制限株式を競落し、株 券の交付も受けたが、A会社は長年にわたってY会社に対して取得承認請求をせず、Y会社の株 主名簿には依然としてXが株主として記載されていたため、Y会社との間でXの株主たる地位の 存否が争われたものであるが、相対的無効説を貫き、XはY会社に対してはなお株主の地位を有 することが確認された。かかる紛争が生ずるのは、競落人が取得承認請求をせず、株式移転の効 力が不完全なまま放置されるからにほかならないが、株券の無記名証券性により、競落人は株券 を占有してさえいれば、株主たる地位を第三者に対抗することができるため、取得承認請求をし なくても、競落人の財産権としての株主たる地位は保全され、何ら利益を害されないことも、そ の一因となっている。
以上に検討してきたように、旧商法上の矛盾を前提とした不自然な理論に立脚した新会社法上 の株式譲渡制限法制には到底賛成できない。立法論としては、有限会社では持分につき有価証券 を発行することが禁止されていた(有21条)のと同様に、譲渡制限株式については株券の発行を 禁止すべきである。その場合、株式譲渡は当事者間の意思表示のみによってなしうるが、会社の 承認が停止条件となる。すなわち、会社の承認を欠く株式譲渡は会社の承認があるまでは効力が
停止しており、会社によって承認されなければ無効に確定するということになる。譲渡制限株式 については株券の発行を禁止し、株主名簿の名義書換をもって会社その他の第三者に対する対抗 要件とすれば、株式取得者は、取得承認を得るまでは名義書換を受けることはできず、株主たる 地位は保全されないことになるから、取得承認請求がなされないまま放置されるなどということ は、実際上起こりえないことになろう。
これに対して、株主名簿の管理すら正確に行われていないことが少なくない中小規模の会社で は、株主にとって株券の占有こそが株主であることの決定的な証拠となるとして、株券の廃止を 疑問視する見解もある。新会社法が株券を一律に廃止しなかったのは、株式の移転や証明のため には株券があったほうがよい場合もあると考えられたからであろう。しかし、それは記名証券と しての株券について妥当しうるにすぎない。有限会社法21条も有限会社の持分につき指図証券・
無記名証券の発行を禁止していたにすぎず、記名証券を発行しても株式譲渡制限に反するもので はない。したがって、譲渡制限株式についても記名証券としての株券を発行することが妨げられ るわけではないが、新会社法が株券の無記名証券性を前提とする以上、譲渡制限株式につき株券 の発行を許容すべき理由はない。
5.おわりに
株式譲渡の効力につき当事者間の効力と対会社関係の効力とを区別する相対効は、一見不自然 な構成である。そのため、株券発行前の株式譲渡と権利株譲渡における明文上の相対効であって も、従来からその意義はあまり積極的に評価されていなかった。新会社法の下では、株券発行前 の株式譲渡については、文言上その相対効は維持されているものの、立案担当者によればその相 対効は否定され、権利株譲渡については、明文上相対効が否定された。他方で、会社の承認を欠 く譲渡制限株式の譲渡の効力については、解釈論として積極的に相対効が主張されてきた。しか し、株券発行前の株式譲渡と権利株譲渡の相対効にこそ合理性があり、会社の承認を欠く株式譲 渡の相対効には合理性がない。相対効が不自然な構成であるからこそ、明文上の相対効について はその趣旨を積極的に探究すべきであり、解釈論上の相対効についてはこれに安易に依存しては ならないはずである。残念ながら、株式譲渡の相対効のあり方につき、新会社法における立法と 解釈は逆行しているといわざるをえない。
<付記>
研究発表の要旨としての性格上、注は割愛した。詳しくは、下記の拙稿を参照されたい。
① 「株券発行前の株式譲渡・権利株譲渡の効力」法学研究(慶應義塾大学)73巻5号(平成12年)
29頁
② 「株券不発行への課題」朝日法学論集29号(平成15年)263頁
③ 「譲渡制限株式競落の法律関係」朝日法学論集30号(平成15年)295頁
④ 「新会社法における株式譲渡制限法制の評価」山本爲三郎編『新会社法の基本問題』(平成18 年・慶應義塾大学出版会)27頁
⑤ 「新会社法における株券と株式譲渡をめぐる諸問題」法学研究(慶應義塾大学)82巻12号(平 成21年)337頁