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第6章 海底 石 油 資源 開発 の際 の

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第6章 海底 石 油 資源 開発 の際 の 油 流 出事 故 に よ り生 じ る

損 害 につ いての国 際賠 償 責任

小樽商科大学商学部企業法学科助教授 佐古田彰

第 一 節 は じめ に

国際法上の責任 と国 内法上の責任

サ ハ リ ン沖 合 の 海 底 に あ る 石 油 資 源 を 開 発 す る に あ た っ て は 、 事 故 に よ り油 が 周 辺 海 域 に 流 出 す る 可 能 性 が 常 に つ き ま と う 。 特 に 、 我 が 国 は 、 油 流 出 事 故 に よ り 日本 海 沿 岸 特 に 北 海 道 の 沿 岸 が 危 険 に 晒 さ れ る こ と か ら、 無 関 心 で は い ら れ な い 。 実 際 の と こ ろ 、 道 内 で こ の 問 題 へ の 対 処 に 関 す る 各 種 会 合 が 開 か れ 、 ま た 、 日 本 、 ロ シ ア 及 び 米 国 の 関 係 国 の 当 局(我 が 国 で は 海 上 保 安 庁)の 間 で 事 故 発 生 時 の 対 策 が 協 議 さ れ 実 施 訓 練 も 行 わ れ て い る 。 しか し、 原 油 生 産 が 開 始 さ れ た 直 後 の1999年9月 に サ ハ リ ン2で 油 漏 れ 事 故 が 発 生 し、 道 に は 被 害 が 及 ば な か っ た が 道 内 の 関 係 者 に 大 き な 不 安 を 抱 か せ た1。

事 故 の 発 生 を 防 止 す る た め の 事 前 の 行 政 的 規 制 や 、 あ る い は 事 故 が 発 生 した 場 合 に 損 害 の 発 生 を 最 小 限 に 止 め る た め の 技 術 的 な 油 防 除 措 置 に っ い て は 、 関 係 国 行 政 当 局 の 判 断 と責 任 に 委 ね られ る こ と は 、 言 う ま で も な い 。 し か し、 不 幸 に して 事 故 が 発 生 し我 が 国 沿 岸 に 油 汚 染 損 害(oilpollutionda皿age)が 発 生 した 場 合 に は 、法 的 な レ ベ ル で 賠 償 責 任 の 問 題 が 生 じ る こ と に な る 。 細 か い 法 律 的 な 話 は と も か く、 常 識 的 に 考 え る な ら、

加 害 者 が 被 害 者 に 対 し損 害 を 賠 償 しな け れ ば な ら な い こ と に な る 。 し か し、法 律 的 に は 、 ま た 現 実 的 に も 、 被 害 者 が 賠 償 金 を 得 る た め に は い くつ も の 難 しい 問 題 を 克 服 しな け れ ば な ら な い 。

本 稿 は 、 こ れ を 国 際 法 の 観 点 か ら 取 り上 げ る も の で あ る が 、 論 に 入 る 前 に 、 国 際 法 上 の 責 任 と 国 内 法 上 の 責 任 と の 区 別 に つ い て 説 明 して お き た い 。

責 任 の 問 題 と は 、つ ま る と こ ろ 、責 任 を 追 及 す る 側 と さ れ る側 の 間 の 法 的 紛 争 で あ る 。 本 研 究 会 の 報 告 書 第1号 で 説 明 し た よ う に 、 法 的 紛 争 は 、 国 際 法 上 の 紛 争 と 国 内 法 上 の

1『 北 海 道 新 聞 』1999年9月28日 付 タ 刊 及 び そ れ 以 降 の 記 事 参 照 。

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紛 争 に 分 け られ る2。 つ ま り、誰 が 誰 に 対 しい か な る 法 秩 序(国 際 法 か 国 内 法 か)に 基 づ き賠 償 責 任 を 追 及 す る の か と い う こ とで あ る 。 具 体 的 に 言 い 換 え る な ら、 日本 政 府 が ロ シ ア 政 府 に 対 し責 任 を 求 め る の で あ れ ば そ れ は 国 際 法 に 基 づ く国 際 法 上 の 責 任 の 追 及 で あ り(国 家 責 任 方 式)、 日 本 国 民 が 例 え ば 石 油 開 発 企 業 に 対 し責 任 を 求 め る の で あ れ ば 、 そ れ は ロ シ ア 法 ま た は 日 本 法 に 基 づ く国 内 法 上 の 責 任 の 追 及 を 意 味 す る(民 事 責 任 方 式)。 した が っ て 、事 故 が 発 生 し損 害 が 生 じた 場 合 、誰 が 誰 に 対 しい か な る 法 秩 序 に 基 づ き 責 任 を 求 め る の か 、 つ ま り国 家 責 任 方 式 を と る の か 民 事 責 任 方 式 を と る の か は 、 適 用 さ れ る 法 規 が 異 な り と る べ き 法 戦 略 が 異 な る た め 、 第 一 に 考 慮 しな け れ ば な らな い 要 因 で あ る 。 こ れ は 、 投 資 紛 争 の 場 合3と 全 く異 な らな い 。

二,本 稿 の 目 的 と対 象

本 稿 は 、 サ ハ リ ン沖 合 の 海 底 の 石 油 資 源 を 探 査 ・開 発 す る 際 の 事 故 に よ り生 じ る 油 汚 染(oilpollutiol1;油 濁 と も い う)に よ っ て 日本 の 沿 岸 に 損 害 が 発 生 した 場 合 の 賠 償 責 任 に 関 す る 国 際 法 上 の 仕 組 み と そ の 問 題 点 と を 明 らか に す る も の で あ る 。 具 体 的 に は 、 日本 政 府 が ロ シ ア 政 府 に 対 し国 際 法 上 の 責 任 を 追 及 す る 場 合 の 国 際 法 上 の 権 利 義 務 関 係 が 中 心 的 な 課 題 で あ る(国 家 責 任 方 式)が 、 更 に 、 日 本 人 被 害 者 が 資 源 開 発 を 行 う企 業 に 対 し責 任 を 追 及 す る た め の 国 際 法 上 の 制 度 を ど う 形 成 して い くか(条 約 に よ る 民 事 責 任 方 式 の 制 度 化)と い う点 ま で 踏 み 込 ん で 、 論 じ よ う と 思 う 。 こ れ に 関 して 、 以 下 の 諸 点 に 留 意 して も ら い た い 。

第 一 に 、 本 稿 は 国 際 法 上 の 問 題 を 対 象 と し、 国 内 法 上 の 責 任 の 問 題 そ れ 自体 は 扱 わ な い 。 被 害 者 個 人 が 加 害 企 業 に 対 し国 内 法(ロ シ ア 法 ま た は 日本 法)上 の 責 任 を 追 及 す る と い う 方 法 は 、 保 険 以 外 で 現 時 点 で 利 用 可 能 な ほ ぼ 唯 一 の 方 法 で あ る が 、 そ の 具 体 的 な 要 件 ・手 続 き は 筆 者 の 専 門 外 で あ る た め 、 直 接 扱 っ て い な い 。 た だ し、 上 述 の よ う に 、 こ の よ う な 場 合 に つ い て も 、 国 際 法 上 の 制 度 と して ど う形 成 す る べ き か と い う 問 題 は 本 稿 で も 詳 し く論 じ る 予 定 で あ る 。

第 二 に 、 本 稿 は 、 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 の 際 の 事 故 の 場 合 を 扱 い 、 タ ン カ ー 事 故 の 場 合 の 油 汚 染 損 害 の 問 題 を 扱 わ な い 。 採 掘 さ れ た石 油 資 源 の 多 くは タ ン カ ー で 輸 送 さ れ る こ と に な る が 、そ の タ ン カ ー の 事 故 も 我 が 国 沿 岸 に 多 大 な 被 害 を 与 え る こ と が あ り4、こ れ も 我 々 に と っ て 重 大 な 関 心 事 で あ る が 、 適 用 さ れ る 国 際 法 規 則 ・制 度 が 異 な る た め 、 本 稿 で は 取 り扱 わ な い 。

第 三 に 、 本 稿 は 、 我 が 国 沿 岸 に 損 害 が 生 じた 場 合 を 対 象 とす る の で あ っ て 、 そ れ 以 外 の 損 害 に つ い て は 対 象 と し な い 。 例 え ば 、 資 源 開 発 の 事 故 の 際 に そ の 場 に 居 合 わ せ た 日 本 人 関 係 者 あ る い は 偶 然 近 くを 通 りか か っ た だ け の 観 光 客 が 被 っ た 損 害 、 油 汚 染 の た め

2佐 古 田 彰 「国 際 紛 争 及 び 投 資 紛 争 の 国 際 法 的 解 決 方 法 」 北 東 ア ジ ァ ー サ ハ リ ン研 究 会 『サ ハ リ ン石 油 ・ガ ス 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト と北 海 道 経 済 の 活 性 化 第1号 』(1998年)(以 下 、 佐 古 田 「98年 報 告 書 」 とす る)81‑83頁

3佐 古 田 「98年 報 告 書 」81頁

41997年1月 に 発 生 し た ロ シ ア船 籍 ナ ホ トカ 号 の 事 件 は 、 記 憶 に新 しい 。

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に サ ハ リ ン 近 海 で 漁 獲 が で き な くな っ た た め に 生 じた 日本 漁 民 の 損 害 、 事 故 の 結 果 必 要 な石 油 が 入 手 で き な か っ た た め に 取 引 関 係 者 が 被 っ た 損 害 と い っ た 場 合 は 、 扱 っ て い な い 。 こ れ ら は 、 適 用 さ れ る 国 際 法 ・国 内 法 規 則 ・制 度 が 異 な る た め で あ る 。 本 稿 は 、 あ

くま で も 、 我 が 国 の 沿 岸 に 直 接 の 被 害 が 及 ん だ 場 合 を 対 象 と す る 。

第 四 に 、 本 稿 が 扱 う事 態 の 発 生 が 科 学 的 に ど の 程 度 の 可 能 性 を 持 つ の か は 、 本 稿 は 関 知 しな い 。 サ ハ リ ン沖 で の 事 故 に よ り流 出 した 油 が 実 際 に 北 海 道 沿 岸 に ま で 流 れ 着 くか ど う か 、 ま た 流 れ 着 く と して ど の 程 度 の 分 量 に な る の か は 、 海 流 や 風 の 動 き な ど科 学 的 な 事 項 に 属 す る 。事 故 が 起 こ っ て も北 海 道 に ま で 油 は 届 か な い と い う 見 方 も あ り5、本 稿 は そ れ を 否 定 も 肯 定 も で き な い 。 あ く まで も 仮 定 の 話 と して 北 海 道 に被 害 が 及 ん だ 場 合 に 、 そ の 損 害 賠 償 の 問 題 に つ い て 論 じ る も の で あ る 。

第二節 領 海 と大 陸棚 の法 的地位

賠 償 責 任 の 問 題 に 入 る 前 に 、 サ ハ リ ン沖 合 の 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 が 行 わ れ る 場 所 が 、 国 際 法 上 ど の よ う な 地 位 を 持 っ て い る の か と い う点 を 明 らか に して お き た い 。 こ れ は 、 後 に 見 る よ う に 、 沿 岸 国 の 国 際 法 上 の 責 任 の 問 題 を 理 解 す る た め の 前 提 で あ る た め で あ る 。 実 際 に サ ハ リ ンの 資 源 開 発 が 行 わ れ る 場 所 は 、 国 際 法 上 は 、 ロ シ ア 連 邦 の 領 海 内 と 大 陸 棚 上 の2つ に 分 け られ る6。

一 .領 海

領 海(territorialsea)は 、 沿 岸 国 の 主 権(sovereignty)が 及 ぶ 海 域 を い う(1982年 国 連 海 洋 法 条 約2条 参 照)7。20世 紀 初 頭 ま で は 領 海 に 対 す る 沿 岸 国 の 権 限 の 法 的 性 格

に つ い て 争 い が あ っ た が 、 今 日で は 主 権 、 つ ま り領 土 に 対 す る 権 限 と 同 一 で あ る と理 解 さ れ て い る 。

し た が っ て 、 領 土 上 で 何 ら か の 事 業 活 動 を 行 う に あ た っ て は 、 外 国 人 ・外 国 法 人 は も と よ り国 民 ・内 国 法 人 も そ の 国 の 国 内 法 に よ る規 制 を 受 け る8と い う こ と と 全 く同 じ意 味

5サ ハ リ ン1で の 事 業 を 行 う に あ た り、 エ ク ソン社(当 時)は 、 少量 の石 油 を流 し季節 ごとの シ ミュ レー シ ョ ンを 行 っ た結 果 に つ い て の 調 査 報 告 書 を提 出 して い る。 筆 者(佐 古 田)は 、1998年9月8 日 にサ ハ リ ン州 国 家 環 境 保 護 委 員 会Onischenko委 員 長 に 対 し 同委 員 長 執 務 室 で ヒ ア リ ン グ を行 っ た 際 、 そ の 報 告 書 を 見 る 機 会 が あ っ た 。 この 報 告 書 に よ れ ば 、 流 出 した 石 油 は す べ て カ ム チ ャ ツ カ 半 島 に 向 か い 北 海 道 に は届 か な い とい う 。

6サ ハ リ ン に お い て 石 油 ・ガ ス 資 源 開 発 が 行 わ れ て い る場 所 は 、 サ ハ リ ン 北 部 地 域 の 沖 合 で あ る 。 サ ハ リ ン北 部 地 域 は 、南 部 地 域 と異 な り、1875年 樺 太 ・千 島 交換 条 約 以 来 、 継 続 して ロ シ ア(ソ 連 時 代 を 含 む)の 領 土 で あ る 。

7本 年 度 報 告 書 も、紙数 の 関係か ら条約 文 の再録 は最 小限 に とどめ た。条約 文 の入手 方法 につ いて は、

佐 古 田 彰 「外 国 投 資 の保 護 に 関 す る 国 際 法 上 の 権 利 義 務 」 北 東 ア ジ ア ー サ ハ リ ン研 究 会 『サ ハ リ ン 石 油 ・ガ ス 開 発 プ ロ ジ ェ ク トと北 海 道 経 済 の 活 性 化 第2号 』(1999年)(以 下 、 佐 古 田 「99年 報 告 書 」 とす る)113頁 注6参 照 。

8佐 古 田 「99年 報 告 書 」111頁 参 照 。

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で 、 領 海 で の 活 動 も、 海 域 で の 活 動 つ ま り主 と して 船 舶 に よ る 活 動 とい う 特 性 は あ る に せ よ 、 内外 人 を 聞 わ ず 、 原 則 と して 沿 岸 国 の 国 内 法 に よ る 規 制 を 受 け る 。

な お 、 領 海 の 幅 に つ い て は 、 古 くか ら3カ イ リ(1カ イ リ 二約1.85km)と す る 国 が 多 か っ た が 、1982年 の 国 連 海 洋 法 条 約 で は12カ イ リ ま で 拡 張 さ れ た(3条)。 サ ハ リ ン 沖 合 に つ い て 述 べ る な ら、12カ イ リ(約222km)内 が 領 海 、12カ イ リ外 が 次 に 述 べ る 大 陸 棚 、 と い う 区 分 に な る 。

二.大 陸 棚

大 陸 棚(continentalshelf)は 、 元 々 は 地 質 学 上 の 概 念 で あ っ た が 、 今 日 で は 、 国 際 法 上 の 意 味 と制 度 と伴 う 独 自の 法 的 概 念 と し て 位 置 づ け られ て い る 。 そ の た め 、 領 海 の 場 合 と異 な り、 こ こ で は 比 較 的 そ の 意 味 と制 度 を 詳 し く確 認 して お き た い 。

本 来 、 領 海 の 外 の 海 域 は 、 公 海(highsea)と して い ず れ の 国 の い ず れ の 国 民 も 自 由 に 利 用 し う る 海 域 で あ っ た 。 つ ま り、 そ の 海 域 で の 活 動 は 、 沿 岸 国 の 国 内 法 で は な くそ の 船 舶 の 旗 国 の 管 轄 に の み 服 す る(旗 国 主 義)と い う も の で あ っ た(公 海 自 由 の 原 則)。

こ の 公 海 自 由 の 原 則 が 大 陸 棚 資 源 の 開 発 に は 適 用 さ れ な い と い う考 え を 表 明 した の が 、 1945年 の 「トル ー マ ン 宣 言 」で あ る 。 そ の 後 、 こ の トル ー マ ン 宣 言 の 内 容 が 基 本 的 に 国 際 法 上 の 制 度 と して 確 立 す る こ と に な っ た 。

つ ま る と こ ろ 、 大 陸 棚 と は 、 そ こ で の 資 源 開 発 活 動 に 対 し、 元 々 公 海 と して 沿 岸 国 の 権 限 が 及 ば な か っ た も の が 、 沿 岸 国 の 権 限 に 服 す る よ う に な っ た と い う海 域 と して 理 解 す る こ とが で き る 。

1.大 陸 棚 制 度 の 沿 革

(1)1945年 トル ー マ ン 宣 言

第 二 次 大 戦 終 了 直 後 の1945年9月 、米 国 の トル ー マ ン 大 統 領 は 、 「大 陸 棚 の 下 層 土 及 び 海 底 の 天 然 資 源 に 関 す る 合 衆 国 の 政 策 の 宣 言 」 と題 す る 宣 言(い わ ゆ る 「トル ー マ ン 宣 言 」)を 発 し た9。 こ の 宣 言 は 、 石 油 そ の 他 の 鉱 物 資 源 が 世 界 的 に 必 要 と な っ て い る こ と、 こ れ ら の 資 源 は 大 陸 棚 に 埋 蔵 さ れ て お り近 い 将 来 利 用 可 能 で あ る こ と、 大 陸 棚 の 下 層 土 と 海 底 の 天 然 資 源 に 対 す る 沿 岸 国 の 管 轄 権 の 行 使 が 合 理 的 で あ り公 正 で あ る こ と、

大 陸 棚 は 沿 岸 国 の 土 地 が 拡 張 し た も の で あ っ て 、 当 然 に そ の 付 属 物 で あ る こ とな ど を指 摘 した の ち 、 次 の よ う に 述 べ た 。

9ト ル ー マ ン 宣 言 に つ い て 、武 山 眞行 「トル ー マ ン宣 言 」 『国 際 関 係 法 辞 典 』(三 省 堂 、1995年)594

‑595頁 。 こ の 宣 言 文 は 、AmerieanJourna10flnternationa1Law,vo1.40,Supplement(1946),p.

45に 再 録 さ れ て い る 。 ま た 、 こ の 宣 言 の 全 訳 は 、 小 田 滋 『海 の 国 際 法 下 巻(増 訂 版)』(有 斐 閣 、

1969年)180‑181頁 。

(5)

「合衆国政府 は、公海 の下 にあ るが合衆国沿 岸に隣接す る大陸棚の天然資源は合衆 国に 属 しその管轄権 及び管 理に服する もの とみ なす。」

こ の 宣 言 は 、 公 海 の 下 に あ る 場 合 で あ っ て も 大 陸 棚 の 資 源 は 沿 岸 国 の 管 轄 権 ・管 理 に 服 す る と述 べ て い る こ とか ら分 か る よ う に 、 上 述 の 公 海 自 由 の 原 則 は 大 陸 棚 資 源 に 関 し て は 適 用 さ れ な い と い う考 え を 表 明 し た も の で あ る 。 っ ま り、 大 陸 棚 資 源 の 開 発 は 、 沿 岸 国 の 法 令 に従 っ て 行 わ れ な け れ ば な らな い とい う こ と を 明 確 に 示 した の で あ る 。

こ の 米 国 の 宣 言 に 対 し、 い くつ か の 国 は こ の 宣 言 が 出 さ れ た 直 後 か ら 同 様 の 宣 言 を 行 い あ る い は 国 内 法 を 制 定 して 、 こ の トル ー マ ン 宣 言 の 考 え を 採 り入 れ た10。 しか し こ の よ う な 主 張 は 、 法 理 論 か ら 言 え ば 公 海 自 由 の 原 則 に挑 戦 す る も の で あ り、 こ れ を 違 法 と す る 立 場 も 少 な くな か っ た 。

(2)1958年 大 陸 棚 条 約

1949年 に 設 置 さ れ た 国 連 の 国 際 法 委 員 会(lnternationalLawCommission;ILC)は 海 に 関 す る 国 際 法(海 洋 法)の 規 則 を 条 約 化 す る こ と を 任 務 の 一 つ と して い た 。ILCは 公 海 と領 海 に 関 す る 伝 統 的 な 国 際 法 規 則 の 他 に 、 上 述 の よ う な 諸 国 の 動 き を 受 け て 、 大 陸 棚 に 関 す る 国 際 法 規 則 も そ の 作 業 に 加 え 、1950年 か ら海 洋 法 に 関 す る 国 際 法 規 則 の 法 典 化 作 業 を 行 っ た 。ILCは 、基 本 的 に 公 海 自 由 の 原 則 を 修 正 す る 方 向 で 作 業 を 進 め 、1956 年 に 海 洋 法 条 約 草 案 が 完 成 した 。

1958年 に 、ス イ ス の ジ ュ ネ ー ブ で こ の 海 洋 法 条 約 の 採 択 の た め の 会 議(第 一 次 国 連 海 洋 法 会 議)が 開 か れ た 。 こ の 会 議 で は 、ILC条 約 案 を4っ に 分 割 し、 そ れ ぞ れ 、 公 海 条 約 、領 海 及 び 接 続 水 域 条 約 、大 陸 棚 条 約 、及 び 公 海 生 物 資 源 保 存 条 約 と して 成 立 さ せ た 。

こ の 大 陸 棚 条 約 は 、 「沿 岸 国 は 、 大 陸 棚 を 探 査 しお よ び そ の 天 然 資 源 を 開 発 す る た め 、 大 陸 棚 に 対 して 主 権 的 権 利(sovereignrights)を 有 す る 。」(2条1項)と 定 め 、 公 海 の

自 由 の 原 則 が 適 用 さ れ な い 、 特 別 の 国 際 法 上 の 制 度 と して の 大 陸 棚 制 度 を 認 め た 。 基 本 的 に 、 トル ー マ ン 宣 言 の 内 容 が 受 け 入 れ られ た の で あ る 。

(3)1969年 「北 海 大 陸 棚 事 件 」 国 際 司 法 裁 判 所 判 決11

大 陸 棚 制 度 の 内 容 や 法 的 性 質 の 確 立 に 大 き な 影 響 を 与 え た の が 、1969年 の 「北 海 大 陸 棚 事 件 」 に 関 す る 国 際 司 法 裁 判 所(ICJ)の 判 決 で あ る 。

こ の 事 件 は 、 デ ン マ ー ク ・オ ラ ン ダ と西 ドイ ツ(当 時)の 間 で 争 わ れ た 、 こ の3力 が 関 係 す る 北 海 海 域 の 大 陸 棚 の 境 界 画 定 に 関 す る 事 件 で あ る 。1966年 に デ ン マ ー ク と オ ラ ン ダ が 大 陸 棚 の 境 界 線 を 定 め る条 約 を締 結 した と こ ろ 、 西 ドイ ヅ が そ の 境 界 線 は 西 ド

10小 田 『同 上 書 』180‑184頁 参 照 。

11JCJReρorts1969 ,3、 こ の 事 件 に つ い て 、 兼 原 敦 子 「北 海 大 陸 棚 事 件 」 730頁 。

『国 際 関 係 法 辞 典 』(注9)

(6)

イ ヅ に 帰 属 す る 大 陸 棚 を侵 奪 して い る と し て 抗 議 し、 結 局 、3力 国 は 、 合 意 の 上 で 国 際 司 法 裁 判 所 に 紛 争 を付 託 した 。 当 時 、 デ ン マ ー ク とオ ラ ン ダ は1958年 大 陸 棚 条 約 を 批 准 して い た が 、 西 ドイ ヅ は こ れ を批 准 して い な か っ た た め 、 大 陸 棚 の 境 界 画 定 に 関 す る 慣 習 法 規 則 の 解 釈 ・適 用 が 争 点 とな っ た12。ICJは 、 境 界 画 定 に 関 す る規 則 を 導 くた め 、

大 陸 棚 に 関 す る 慣 習 法 制 度 の 本 質 に ま で 立 ち 入 っ て 検 討 を 行 っ た の で あ る 。 こ の 点 に つ き 、ICJは 、 「海 の 中 と下 へ の 領 土 の 自 然 の 延 長(naturalprolongation) を 構 成 す る 大 陸 棚 区 域 に 関 す る沿 岸 国 の 権 利 は 、 領 土 に 対 す る 主 権 に よ っ て 、 ま た 海 底 を 探 査 しそ の 天 然 資 源 を 開 発 す る た め の 主 権 的 権 利 を 行 使 す る に あ た っ て の 領 土 主 権 の 拡 張 と して 、事 実 か ら 当 然 に か っ 最 初 か ら存 在 す る 」13、 「大 陸 棚 に 対 す る 沿 岸 国 の 権 利 は 、 領 土 に 対 す る 主 権 に基 づ い て お り、 大 陸 棚 区 域 は 海 の 中 と下 へ の 領 土 の 自然 の 延 長 で あ る 。」14と 述 べ た 。 こ の よ う に 、ICJは 、 大 陸 棚 が 領 土 の 自然 の 延 長 で あ る こ と、 及 び 大 陸 棚 に 対 す る 沿 岸 国 の 主 権 的 権 利 は 領 土 主 権 の 拡 張 で あ る こ と を 示 し、 大 陸 棚 ・主 権 的 権 利 と領 土 ・領 土 主 権 と の 密 接 な 関 係 を 明 らか に した 。

ま た 、ICJは 、大 陸 棚 制 度 の 骨 格 を 定 め る1958年 大 陸 棚 条 約1条 〜3条 が 慣 習 法 化 し た こ と も認 定 し15、 し た が っ て 大 陸 棚 に 関 す る 特 別 の 国 際 法 規 則 が 存 在 す る こ と を 確 認 し た 。つ ま り、大 陸 棚 制 度 は 、1958年 条 約 を 批 准 した 国 の 間 で の み 存 在 す る 特 殊 な 制 度 で は な く、 す べ て の 国 に 同 様 に 適 用 さ れ る 国 際 慣 習 法 上 の 制 度 と し て 存 在 して い る こ と

を 、ICJは 確 認 し た 。

(4)1982年 国連海洋法条約

1973年 か ら1982年 ま で 行 わ れ た 第 三 次 国 連 海 洋 法 会 議 の 結 果 採 択 さ れ た1982年 国 連 海 洋 法 条 約 は 、 海 の 国 際 法 を ほ ぼ す べ て 網 羅 す る 大 き な 条 約 で あ る 。 こ の 条 約 は 、 1958年 大 陸 棚 条 約 と1969年 「北 海 大 陸 棚 事 件 」ICJ判 決 と そ の 後 の 諸 国 の 実 行 を 踏 ま え 、 ま た こ の 条 約 に よ り創 設 さ れ た 排 他 的 経 済 水 域 の 制 度 と も 若 干 の 調 整 を し た 上 で 、

「第6部 大 陸 棚 」 と して 、76‑85条 ま で の 規 定 を 置 い た 。 こ の 国 連 海 洋 法 条 約 は 採 択 後 複 雑 な 経 過 を 辿 っ た が 、 日 本 は1996年 に 、 ロ シ ア 連 邦 は1997年 に こ の 条 約 を批 准 し て お り、 少 な く と も 日 ロ の 間 で は 大 陸 棚 に 関 す る 紛 争 は こ の 国 連 海 洋 法 条 約 に よ っ て 規 律 さ れ る こ と に な る(上 述 の 領 海 に 関 す る紛 争 も 同 様 で あ る)。

今 日で は 、 大 陸 棚 の 国 際 法 制 度 は 、 基 本 を こ の1982年 海 洋 法 条 約 に 置 き つ つ 、 向 か い 合 っ て い る 国 や 隣 接 す る 国 との 間 で 特 に 境 界 画 定 の た め に 締 結 さ れ る 国 際 協 定 に よ り 個 別 に 規 律 さ れ る とい う 構 造 を 持 っ て い る 。 ま た 、 通 常 各 国 は 「大 陸 棚 法 」 と い っ た 国

12国 際 法 の 法 源 は 、 主 と して 条 約 と 国 際 慣 習 法 が あ る 。 こ の2つ の 法 源 の 間 に は 、 条 約 が 適 用 さ れ な い 場 合 は 国 際 慣 習 法 が 適 用 さ れ る と い う 関 係 に あ る 。 こ の 事 件 で は 、 西 ド イ ツ が1958年 大 陸 棚 条 約 を 批 准 し て い れ ば 、 こ の 大 陸 棚 条 約 の 解 釈 ・適 用 と い う 観 点 か ら こ の 紛 争 を 扱 う だ け に 留 ま っ た が 、 そ う で な か っ た た め 、 国 際 慣 習 法 の 解 釈 ・適 用 が 問 題 と な っ た 。

13∫diReports1969 ,p.22,para.19.

141bid .,P.29,para.39.

151bid .,p.39,para.63.

(7)

内 法 を 制 定 して 、 こ の 国 際 法 制 度 を 国 内 に お い て 実 施 す る よ う に な っ て い る 。 日 本 は 1996年 に 「排 他 的 経 済 水 域 及 び 大 陸 棚 に 関 す る法 律 」 を 、 ロ シ ア 連 邦 は1995年 に 「大 陸 棚 に 関 す る 法 律 」 を 制 定 した 。 た だ し、 日 ロ 間 で は 、 大 陸 棚 に 関 す る 国 際 協 定 は 締 結 さ れ て い な い16。

2.1982年 国連海洋法条 約における大陸棚制度

前 述 し た よ う に 、大 陸 棚 に 関 す る 基 本 的 な 国 際 法 規 則 は 、1982年 国 連 海 洋 法 条 約 が 規 定 す る 。 こ の 条 約 の 定 め る 大 陸 棚 制 度 に つ い て 、 以 下 概 観 す る 。

(1)大 陸棚 に対す る沿岸国の権限

前 述 の よ う に 、 大 陸 棚 の 国 際 法 制 度 の 中核 は 、 伝 統 的 な 公 海 の 自 由 の 原 則 を 排 し、 大 陸 棚 に 対 す る沿 岸 国 に 特 別 の 権 利 ・権 限 を 認 め る こ と に あ る 。 こ の 沿 岸 国 の 権 利 を 定 め た の が 、国 連 海 洋 法 条 約77条 で あ る 。77条 は 、以 下 の 規 定 で あ る 。な お 、77条 は 、1958 年 大 陸 棚 条 約2条 と ほ と ん ど 同 文 で あ る 。

「1沿 岸 国 は 大 陸 棚 を探 査 し及 び そ の 天 然 資 源 を 開 発 す る た め 、大 陸 棚 に 対 して 主 権 的 権 利 を 有 す る 。

21の 権 利 は 、沿 岸 国 が 大 陸 棚 を 探 査 せ ず 又 は そ の 天 然 資 源 を 開 発 しな い 場 合 に お い て も、当 該 沿 岸 国 の 明 示 の 同 意 な しに そ の よ う な 活 動 を 行 う こ と が で き な い と い う 意 味 に お い て 、 排 他 的 で あ る 。

3大 陸 棚 に 対 す る 沿 岸 国 の 権 利 は 、実 効 的 な 若 し くは 名 目 上 の 先 占 又 は 明 示 の 宣 言 に依 存 す る も の で は な い 。

4こ の 部 に 規 定 す る 天 然 資 源 は 、海 底 及 び そ の 下 の 鉱 物 そ の 他 の 非 生 物 資 源 並 び に 定 着 性 の 種 族 に 属 す る 生 物 、す な わ ち 、採 捕 に 適 し た 段 階 に お い て 海 底 若 し くは そ の 下 で 静 止 して お り又 は 絶 え ず 海 底 若 し くは そ の 下 に接 触 して い な け れ ば 動 く こ

との で き な い 生 物 か ら成 る 。」

こ の う ち 特 に 重 要 な 項 は 、1項 で あ る 。 沿 岸 国 は 大 陸 棚 に 対 して 一 定 の 権 利 を 有 して お り、 こ の 条 文 が 明 記 して い る よ う に 、 こ の 権 利 は 「主 権 的 権 利(sovereignrights)」

と呼 ば れ る 。 こ の 主 権 的 権 利 は 、 国 家 が 自 国 の 領 域 に 対 して 有 す る 権 利 で あ る 「主 権 (sovereignty)」 に 類 似 す る 言 葉 で あ る が 異 な る概 念 で あ る こ と に 注 意 しな け れ ば な らな

い 。

(2)主 権的権利の及ぶ事項

16日 本 は 、 韓 国 と の 間 で1974年 日韓 大 陸 棚 協 定(こ れ は2つ の協 定 よ りな る)を 締 結 して い る 。

(8)

こ の 沿 岸 国 の 主 権 的 権 利 の 及 ぶ 事 項 は 、 上 記77条1項 が 規 定 す る よ う に 、 限 定 さ れ て い る 。 す な わ ち 、沿 岸 国 は 、 「大 陸 棚 を 探 査 し及 び そ の 天 然 資 源 を 開 発 す る 」 こ と に 関 して の み 主 権 的 権 利 を 有 す る 。 探 査(exploration)と は 、 未 だ 埋 蔵 さ れ て い る 資 源 が 知 られ て い な い と き に 大 陸 棚 そ の も の を さ ぐ る こ と を い い 、 開 発(exploitation)と は 、 そ の 存 在 の 知 られ た 資 源 を 採 掘 す る こ と を い う17。 現 在 の サ ハ リ ン 海 底 鉱 物 資 源 に 関 し て は 、石 油 ・ガ ス の 採 掘 が 実 際 に 行 わ れ て い る こ とか ら、 「開 発 」 の 段 階 も 含 ま れ る と い

う こ と が で き る 。

沿 岸 国 の 主 権 的 権 利 は 、 天 然 資 源 の 探 査 及 び 開 発 に 対 して の み 及 ぶ 。 し た が っ て 、 大 陸 棚 資 源 の 探 査 ・開 発 に 関 係 の な い 活 動 ・事 実 に つ い て は 、大 陸 棚 制 度 は 適 用 さ れ な い18。

サ ハ リ ン沖 合 の 石 油 ・ガ ス の 採 掘 は 、 天 然 資 源 の 探 査 ・開 発 に 関 係 す る 活 動 で あ る こ と は 明 ら か で あ り、 し た が っ て 沿 岸 か ら12カ イ リを 超 え る 区 域 に つ い て は 、 ロ シ ア 連 邦 の 主 権 的 権 利 に 服 さ な け れ ば な らな い 活 動 と い う こ と に な る 。

こ の 探 査 及 び 開 発 は 、 天 然 資 源 に 関 して 行 わ れ る も の で あ る 。 こ の 大 陸 棚 制 度 に 関 す る 天 然 資 源 の 定 義 は 、77条4項 に 規 定 が あ る 。ち ょ っ と分 か りに くい 規 定 振 りで あ る が 、 要 す る に 天 然 資 源 は 、 鉱 物 資 源 と 生 物 資 源 の2種 が あ る とい う こ と で あ る 。 生 物 資 源 の 範 囲 に つ い て は 解 釈 の 余 地 が あ る19が 、 本 稿 が 対 象 と す る 石 油 資 源 は 鉱 物 資 源 と して 大 陸 棚 資 源 に 含 ま れ る こ とは 間 違 い な い 。

以 上 の こ とか ら、 サ ハ リ ン 大 陸 棚 の 石 油 資 源 の 探 査 ・開 発 は 、 沿 岸 国 の 主 権 的 権 利 が 及 ぶ 活 動 で あ る と い う こ と が 理 解 で き よ う 。

(3)主 権的権利 の内容 〜 主権 との相違

さ て 、 重 要 な 点 は 、 こ の 主 権 的 権 利 の 内 容 で あ る 。 主 権 的 権 利 に 関 して 規 定 す る 国 連 海 洋 法 条 約77条1項 は 、1958年 大 陸 棚 条 約2条1項 と 同 文 で あ る 。1958年 条 約 を 作 成 す る に あ た っ て 、ILCが 「主 権 」 で は な く 「主 権 的 権 利 」 と い う語 を 用 い た の は 、 大 陸 棚 の 上 部 水 域 に お け る 航 行 ・漁 業 の 自 由(伝 統 的 な 公 海 自 由)や 上 空 飛 行 の 自 由 を妨 害 しな い と い う消 極 的 な 理 由 の た め で あ っ た20。 そ の 上 で 、ILCは 、 「こ こで 採 用 さ れ た 語 は 、 沿 岸 国 に 与 え られ る こ の 権 利 が 、 大 陸 棚 の 探 査 の た め に 必 要 な 及 び そ の 天 然 資 源 の 開 発 に 関 連 す る す べ て の 権 利 を カ バ ー す る と い う こ と に 、 疑 問 の 余 地 を残 さ な い 。 こ の 権 利 は 、 法 律 の 違 反 の 防 止 と処 罰 に 関 す る管 轄 権 を 含 む 。」 と した21。 今 日 で は 、 む し

17小 田 『前 掲 書 』(注9)228頁 。 後 述 の 「オ デ コ ニ ホ ン 事 件 」 東 京 地 裁 判 決 及 び 東 京 高 裁 判 決 で も 同 じ 理 解 が 示 さ れ て い る(訟 務 月 報28巻11号2224頁 、 同30巻8号1479頁)。

18山 本 草 二 『海 洋 法 』(三 省 堂 、1992年)190頁 。 例 え ば 、 大 陸 棚 上 の 沈 没 船 の 引 き 上 げ な ど は 、 天 然 資 源 の 探 査 ・開 発 と 無 関 係 な 活 動 で あ る 。

19小 田 『前 掲 書 』(注9)230‑232 、206‑6‑206・9頁 参 照 。 特 に エ ビ ・カ ニ が 大 陸 棚 の 資 源 に 含 ま れ る か ど う か 、 が 問 題 と な っ た 。

20小 田 『同 上 書 』217‑218頁 、 山 本 草 二 「大 陸 棚 の 開 発 活 動 と 国 内 法 令 の 適 用 関 係 」 『日 本 の 海 洋 政 策 』2号(1979年)2‑3頁 。

21】Yearbookofthθlnternationa1LawCommission ,1956,vol.II,p.2g7,para.2.こ れ は 、1956年

のILC海 洋 法 条 約 草 案68条(大 陸 棚 条 約2条 の 原 案)に つ い て のILCの 注 釈 で あ る 。

(9)

ろ こ の 積 極 的 な 面 が 重 視 さ れ る よ う に な っ て い る22。 ま た 、 特 に 、1982年 条 約 は 、1958 年 大 陸 棚 条 約 と異 な り、1969年 「北 海 大 陸 棚 事 件 」ICJ判 決 を 受 け て 大 陸 棚 を 「(沿岸

国 の)領 土 の 自然 の 延 長 」 と して 定 義 づ け て お り(76条1項)、 実 質 的 に も 主 権 と の 関 連 性 が 強 調 さ れ る よ う に な っ て い る 点 も、 留 意 が 必 要 で あ る 。

な お 、 日本 の 大 陸 棚 で 事 業 活 動 を 行 っ た 外 国 法 人 に 対 す る 法 人 税 の 課 税 を め ぐっ て 日 本 の 裁 判 所 で 争 わ れ た 事 件(1982年 「オ デ コ ニ ホ ン 」 事 件 東 京 地 裁 判 決 、1984年 東 京 高 裁 判 決23)に お い て 、 裁 判 所 は 、 次 の よ う に 判 示 して い る 。

「… 大 陸 棚 に 対 す る 主 権 的 権 利 は 、大 陸 棚 の 鉱 物 資 源 の 探 索 ・開 発 に 必 要 な 、 又 は そ れ に 関 連 す る す べ て の 主 権 的 な 権 利 、 す な わ ち 立 法 、行 政 及 び 司 法 権 を 含 む 。す な わ ち 、 目的 に お い て は 制 限 さ れ る が 、 右 目 的 の 範 囲 内 に お い て は 完 全 な 性 質 を 有 し、

包 括 的 か つ 排 他 的 で あ っ て 、 領 域 主 権 と異 な る と こ ろ が な い 。

した が っ て 、大 陸 棚 に 対 す る 主 権 的 権 利 は 、主 権 の 一 側 面 た る 課 税 権 を 当 然 に 含 む も の で あ る 。」24

こ の 一 節 に 、 主 権 的 権 利 の 意 味 が 言 い 尽 くさ れ て い る 、 と い っ て よ い 。

3.日 本法 における大陸棚 制度

日本 に お い て 、 大 陸 棚 に 対 す る 日 本 の 法 的 権 限 を 一 般 的 に 認 め る 直 接 の 法 的 根 拠 が 明 記 さ れ た の は 、1996年 に 日本 が 批 准 した1982年 国 連 海 洋 法 条 約 と 、 こ の 条 約 の 批 准 と 同 時 に 制 定 し た 上 述 の 「排 他 的 経 済 水 域 及 び 大 陸 棚 に 関 す る 法 律 」 に よ っ て で あ る 。 そ れ 以 前 は 、 部 分 的 ・曖 昧 な 形 で 法 的 根 拠 が 示 さ れ た に と ど ま っ た25。

こ の 排 他 的 経 済 水 域 ・大 陸 棚 法 は 、全 部 で4力 条 か ら成 る 簡 単 な 法 律 で あ る 。同 法 は 、 大 陸 棚(と 排 他 的 経 済 水 域)に 関 す る 日本 の 国 内 法 の 基 本 的 な 枠 組 み を 規 定 す る も の で あ る が 、 そ の 内 容 は 、 大 陸 棚 の 範 囲 を 定 め(2条)、 日本 の 法 令 の 適 用 さ れ る 事 項 を 列 挙 す る(3条)に と ど ま る 。 い ず れ も 、 国 連 海 洋 法 条 約 の 規 定 を 受 け 入 れ た 内 容 とな っ て い る26。 要 す る に 、 こ の 法 律 で 地 理 的 範 囲 と事 項 的 範 囲 を 定 め 、 そ の 事 項 に 関 す る 具 体 的 な 法 令 の 適 用 は 個 別 の 法 律 に 委 ね る とい う趣 旨 と い え よ う 。

22山 本 「前 掲 論 文 」(注20)3頁

23第 一 審 判 決 に つ い て 、東 京 地 判 昭 和57年4月22日 訟 務 月 報28巻11号2200頁 以 下 、控 訴 審 判 決 に つ い て 、東 京 高 判 昭 和59年3月14日 訟 務 月 報30巻8号1427頁 以 下 。 この 事 件 に つ い て 、武 山 眞 行 「オ デ コ ニ ホ ン事 件 」 『国 際 関係 法 辞 典 』(注9)94頁

24訟 務 月 報28巻11号2224頁 、 同30巻8号1479頁 。 東 京 高 裁 は 、東 京 地 裁 の 判 決 理 由 を 若 干 の 語 句 の 訂 正 を 加 え た 上 で ほ ぼ全 面 的 に 引 用 して い る が 、 こ の 本 文 で の 引 用 部 分 に は 訂 正 が 加 え られ て い な い 。

25前 記1974年 日韓 大 陸 棚 協 定(78年 発 効)や 政 府 委 員 に よ る 国 会 の 委 員 会 答 弁 な ど。 この 点 に っ い て 、 水 上 千 之 『日 本 と 海 洋 法 』(有 信 堂 、1995年)113‑115頁 参 照 。 日本 は 、1958年 の 大 陸 棚 条 約 に 加 入 しな か っ た 。

26中 村 洗 「国 連 海 洋 法 条 約 と海 洋 基 本 法 」 『ジ ュ リ ス ト』1096号(1996年)38‑39頁 参 照 。

(10)

4.ロ シ ア 連 邦 の 大 陸 棚 法

ロ シ ア 連 邦 は 、1995年11月 に 、 「大 陸 棚 に 関 す る 法 律 」 を 制 定 した27。 こ の 法 律 は 49力 条 か ら成 る 比 較 的 大 き な 法 律 で あ る 。 日本 法 と異 な り、そ の 名 の 示 す 通 り大 陸 棚 に 関 す る 事 項 の み を 規 定 す る 。 そ の 構 成 は 、 以 下 で あ る 。

第1章 第2章 第3章 第4章

総則

鉱物資源 の調査、探査及び開発 生物資源 の調査及 び利 用

大 陸棚 にお ける人工施 設の組 立て並び に海底電線及 び海底 パイプライ ンの敷

第5章 第6章 第7章 第8章

海洋の科学的調査

鉱物資源及び生物資源の保護及 び保存並び に廃 棄物その他 の物 質の投棄 大 陸棚の利用 におけ る経 済関係

この連邦法の規定 の実施

こ こ で こ の 詳 細 を 紹 介 す る 余 裕 が な い が 、 日本 法 と の 比 較 で 簡 単 に 述 べ る と、 ロ シ ア 法 は 、 大 陸 棚 に 関 す る 活 動 を 包 括 的 か っ 詳 細 に 規 定 す る だ け で な く、 そ の 前 文 で 「こ の 法 律 の 定 め て い な い ロ シ ア 連 邦 の 大 陸 棚 及 び そ こ に お け る 活 動 に 関 す る 事 項 は 、 ロ シ ア 連 邦 の 大 陸 棚 に 適 用 さ れ る そ の 他 の 連 邦 法 に よ り規 律 さ れ る も の と す る 。」と規 定 して い る よ う に 、 他 の 法 律 に 対 す る 特 別 法 と い う位 置 づ け に な っ て い る 。 つ ま り、 日本 法 は 、 地 理 的 範 囲 を 事 項 の み を規 定 しそ の 具 体 的 な 規 制 内 容 は 個 別 の 法 令 に 委 ね る と い う 内 容 で あ る の に 対 し、 ロ シ ア 法 で は 大 陸 棚 に 関 す る 事 項 は ま ず こ の 大 陸 棚 法 に よ っ て 一 義 的 に 規 律 さ れ る と い う仕 組 み で あ る 。 実 際 の と こ ろ 、 こ の ロ シ ア 大 陸 棚 法 は 、 大 陸 棚 に お け る 活 動 に 関 す る 許 可 な ど の 手 続 きや そ の 監 督 官 庁 も規 定 して い る 。

第三節 大 陸棚 資源 開発 に関する沿 岸 国の法 的義 務

と国際 賠償 責任制 度

以 上 が 、 領 海 と大 陸 棚 の 国 際 法 制 度 の 概 略 で あ る 。 こ の こ と を 踏 ま え 、 本 論 で あ る 損 害 賠 償 の 問 題 に 考 察 を 進 め よ う。

本 稿 が 対 象 と す る 損 害 賠 償 の 問 題 は 、 冒 頭 で 述 べ た よ う に 、 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 の 際 の 事 故 に よ り生 じた 油 汚 染 損 害 に 関 して 、 国 際 法 の 観 点 か ら取 り上 げ る も の で あ る 。

27そ の 英 訳 と し て 、internationa1LegalMaterials ,vol。35(1996),p.1498が あ る 。

(11)

前 述 した よ う に 、 国 際 法 分 野 で は 、 基 本 的 に は 被 害 国 が 加 害 国 に 対 し国 際 法 上 の 責 任 を 追 及 す る(国 家 責 任 方 式)と い う こ とが 中 心 に 置 か れ る 。 しか し、 特 に 、 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 の 事 故 に よ り生 じた 損 害 に っ い て 、 被 害 者 を 救 済 す る た め の 特 別 の 仕 組 み が 国 際 法 上 作 成 さ れ る 例 が 見 ら れ る よ う に な っ て い る(条 約 に よ る 民 事 責 任 方 式 の 制 度 化)。

以 下 、 そ れ ぞ れ に つ い て 、 そ の 法 的 な 仕 組 み を 解 説 し よ う 。

国家責任方式

民 間 の 事 業 者 の 行 っ た 海 底 鉱 物 資 源 開 発 か ら生 じ る 油 汚 染 損 害 に つ い て 、 国 際 法 上 、 そ の 沿 岸 国 は 損 害 を 被 っ た 国 に 対 し損 害 賠 償 の 責 任 を 負 う か 。 こ れ は 、 国 家 が 国 際 法 上 の 責 任 を 負 う 場 合 の 要 件 に 関 係 す る 。 国 家 は 、 国 際 法 上 の 義 務 に 違 反 す る 行 為 を 行 っ た 場 合 に は 国 際 法 上 の 責 任 を 負 う と い う こ と は 、 国 際 法 上 確 立 した 原 則 で あ る28。 つ ま り、

沿 岸 国 が 自 国 の 沖 合 の 海 底 鉱 物 資 源 開 発 に 関 して い か な る 義 務 を 負 っ て い る の か 、 そ し て 事 故 が 発 生 し た 場 合 に 沿 岸 国 は そ の 義 務 に 違 反 した か ど う か とい う2点 が 、 重 要 な ポ イ ン ト と な る 。 後 者 は 個 別 の 状 況 と沿 岸 国 が 行 っ た 具 体 的 な 行 為 に 関 わ る た め 一 般 的 に 論 じる こ と が で き な い の で 、 こ こ で は 前 者 の 沿 岸 国 の 義 務 に つ い て 述 べ る 。

1.沿 岸国の損害 防止義務 と賠償責任

(1)領 域使用 の管理責任

一 般 に、 領 域 国 は 、 自 国 が 支 配 す る 領 域 を 自 ら使 用 し ま た は 私 人 に そ の 使 用 を 許 す に あ た っ て は 、 他 国 の 領 域 そ の 他 の 国 際 法 上 の 権 利 を 害 す る 結 果 に な らな い よ う、 一 般 国 際 法 上 特 別 の 注 意 義 務 を課 さ れ る 。 こ の 注 意 義 務 は 、 我 が 国 で は 「領 域 使 用 の 管 理 責 任 」 と呼 ば れ る 重 要 な 原 則 で あ る29。

こ の 原 則 を 確 認 し た 重 要 な 判 例 が 、1941年 の 「ト レイ ル 熔 鉱 所 事 件 」米=カ ナ ダ 仲 裁 裁 判 所 判 決(米 国 対 カ ナ ダ)で あ る30。 こ の 判 決 は 、 次 の よ う に 述 べ 、 領 域 使 用 に 関 し

て 国 家 に 課 さ れ る こ の 特 別 の 注 意 義 務 の 内 容 を 明 ら か に し た 。

「事 件 が 深 刻 な 結 果 を も た ら し被 害 が 明 白 か つ 確 信 の あ る 証 拠 に よ っ て 確 証 さ れ る 場 合 に は 、 い か な る 国 家 も 、他 国 の 領 域 に お い て 、他 国 の 領 域 に 対 し ま た は 他 国 領 域 内 の 財 産 若 し くは 人 に 対 して 、煤 煙 に よ り被 害 を 与 え る よ う な 方 法 で 自 国 の 領 域 を 使 用

しま た は 使 用 を 許 す 権 利 を 持 た な い 。」31

28山 本 草 二 『国 際 法(新 版)』(有 斐 閣 、1994年)625、632頁 。 29山 本 『同 上 書 』275‑277頁 。

30Reρortsoflnternationa1Arbitra1Awards ,vol.3,p.1905.こ の 事 件 に つ い て 、 尾 崎 重 義 「ト レ イ ル 熔 鉱 所 事 件 」 『国 際 関 係 法 辞 典 』(注9)595‑596頁 。

31RIAA ,thid.,p.1965.

(12)

こ の 判 決 の 示 す よ う に 、 国 家 は 、 こ の 注 意 義 務 に 違 反 して 他 国 に 損 害 を 与 え た 場 合 、 そ の 損 害 に つ い て 責 任 を 負 わ な け れ ば な ら な い の で あ る32。

こ の よ うな 領 域 国 の 義 務 は 、 多 くの 重 要 な 国 際 文 書 で 確 認 さ れ て い る 。 例 え ば 、1972 年 「人 間 環 境 宣 言 」 原 則21は 、 次 の よ う に 規 定 す る 。

「国家は、(中 略)自 国の管 轄権 又は管理 の範 囲内の活動が他 国の環 境又は国家管轄権 の限界 を超 える区域 の環境 に損害 を与えない よう確保 する責任 を有 する。

他 に、 例 え ば1992年 「環 境 と 開 発 に 関 す る リオ 宣 言 」 原 則2な ど に も、 同 様 の 規 定 が 置 か れ て い る 。

(2)大 陸棚資源開発 に関する沿岸国の慣習法上の義務

先 に指 摘 した よ う に 、 領 海 と大 陸 棚 は 法 的 に は 別 の 海 域 で あ り、 こ れ ら に 対 す る 国 家 の 権 限 も そ れ ぞ れ 異 な る 内 容 を 持 つ 。 した が っ て 、 領 域 国 が 負 う義 務(領 域 使 用 の 管 理 責 任)が 大 陸 棚 の 沿 岸 国 に も 課 さ れ る と言 え る か ど う か 、 課 さ れ て い る と して 同 一 の 内 容 か ど う か は 、 別 個 検 討 しな け れ ば な らな い 。

こ の 点 に つ き、 一 般 に 、 大 陸 棚 と の 関 連 で も、 沿 岸 国 は 同 様 に 使 用 管 理 上 の 義 務 を 負 う と 理 解 さ れ て い る33。 大 陸 棚 は 国 家 領 域 の 「自 然 の 延 長 」 で あ り主 権 的 権 利 は 領 土 主 権 の 延 長 で あ る と い う そ の 質 的 な 共 通 性 か ら 導 か れ る と言 っ て よ い 。 国 家 は 、 大 陸 棚 の 資 源 開 発 に 関 して 他 国 に 損 害 を 与 え る こ と の な い よ う注 意 を 尽 くす 義 務 を 負 う の で あ っ て 、 も しそ の 義 務 に 違 反 して 他 国 に 損 害 を 与 え た 場 合 に は 、 国 際 違 法 行 為 を 行 っ た と し て 損 害 賠 償 の 責 任 を 負 わ な け れ ば な ら な い の で あ る 。

こ の こ とは 、 前 述 の 領 域 使 用 の 管 理 責 任 の 原 則 を 規 定 す る 多 くの 国 際 文 書 で も 、 確 認 さ れ て い る 。 例 え ば 、 前 述 の 人 間 環 境 宣 言 原 則21や リオ 宣 言 原 則2は 、 領 域 と か 領 域 主 権 とい う 言 葉 で は な く、 「管 轄 権 」 と い う 語 を 用 い て 、領 域 で な く と も 国 家 の 管 轄 権 が 及 ぶ 区 域 の 活 動 に つ い て も 、そ の 国 に こ の 特 別 の 注 意 義 務 が 課 さ れ る こ と を 示 して い る 。 む し ろ 、 今 日で は 、 領 域 使 用 に 関 す る 領 域 国 の 義 務 と大 陸 棚 等 国 家 の 主 権 的 権 利 が 及 ぶ 海 域 の 使 用 に 関 す る 沿 岸 国 の 義 務 は 、 一 体 と して 合 わ せ て 取 り扱 わ れ る よ う に な っ て い

る 。

32米 国 と カ ナ ダ の1935年 の 裁 判 付 託 合 意 書(オ タ ワ 条 約)で は カ ナ ダ が 責 任 を 負 う べ き こ と が 明 記 さ れ て い た が 、 こ の 責 任 の 根 拠 に つ い て 、 裁 判 所 は 、 単 に 条 約 で 規 定 さ れ て い た か ら と い う だ け で は な く 、 こ の 義 務 に 違 反 し た こ と に 求 め た も の と 解 さ れ る 。 臼 杵 知 史 「領 域 使 用 の 管 理 責 任 一 ト

レ イ ル 熔 鉱 所 事 件 一 」 山 本 ・=古 川=松 井 編 『国 際 法 判 例 百 選 』(有 斐 閣 、2001年)67頁 。 33水 上 千 之 「大 陸 棚 の 海 底 鉱 物 資 源 の 探 査 開 発 に 伴 う 海 洋 汚 染 の 規 制(一)」 『広 島 法 学 』9巻3号

(1985年)46‑47頁;E.Gold,"Po■utionfromOffshoreActivities‑AnOverviewofthe

Operational,LegalandEnvironmentalAspects",C.M.DeLaRue,ed.,LiabilityforDamageto

theMarineEnvironmθnt(1993),203,PP.218‑219.

(13)

また、実際の ところ、資源が領海 と大 陸棚 にまたが って存在 す るような場合 、領海で の資源開発 と大陸棚での資源開発を分けて内容の異 なる国際法上の権利 義務 を設定 する 意味はほ とん どない。

(3)条 約 における海洋環境保 護義務 の取り扱 い

こ うい っ た 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 に 関 す る沿 岸 国 の 損 害 防 止 義 務 は 、 海 洋 環 境 の 保 護 義 務 と い う意 味 合 い を 強 く持 ち 、 今 日多 くの 海 洋 環 境 保 護 条 約 に お い て 、 こ の 沿 岸 国 の 義 務 が 規 定 さ れ る よ う に な っ て い る 。 しか し、 海 洋 環 境 保 護 に 関 す る 条 約 規 定 で の こ の 保 護 義 務 の 取 り扱 い は 、 そ れ ぞ れ の 条 約 に よ っ て 一 様 で は な い 。

海 底 鉱 物 資 源(特 に 大 陸 棚 資 源)の 開 発 は 、 戦 後 に な っ て か ら特 に 注 目 さ れ た も の で あ る が 、 当 初 は 、 海 洋 環 境 の 保 護 とい う 包 括 的 な 取 り扱 い は な さ れ て お ら ず 、 ま た 国 家 の 保 護 義 務 が 特 に 明 記 さ れ て は い な い 。 例 え ば 、1958年 の 公 海 条 約24条 は 、 「す べ て の 国 は 、 海 水 の 汚 濁 の 防 止 に 関 す る 現 行 の 条 約 の 規 定 を 考 慮 に 入 れ て 、 船 舶 若 し くは パ イ プ ラ イ ン か ら の 油 の 排 出 又 は 海 底 及 び そ の 下 の 開 発 及 び 探 査 に よ り生 ず る 海 水 の 汚 濁 の 防 止 の た め の 規 則 を 作 成 す る も の と す る 。」 と規 定 す る に と ど ま る 。 ま た 、1958年 大 陸 棚 条 約5条 は 、 大 陸 棚 の 探 査 及 び 開 発 に 関 す る 沿 岸 国 の 義 務 に つ い て 規 定 す る が 、 航 行 、 漁 業 ま た は 海 洋 生 物 資 源 の 保 存 に 対 し不 当 な 妨 害 を 与 え て は な らな い(1項)、 洋 生 物 資 源 を 有 害 物 質 か ら 保 護 す る た め の 適 当 な 措 置 を と らな け れ ば な らな い(7項)

と す る 程 度 に 止 ま り、 こ れ も他 国 の 沿 岸 に 損 害 を 与 え て は な らな い とい う 内 容 に な っ て い な い 。

海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 か ら海 洋 環 境 を 保 護 す る とい う考 え が 強 く示 さ れ る よ う に な る の は 、1972年 人 間 環 境 宣 言 か らで あ る 。 こ れ 以 降 は 、 大 き く2つ の 流 れ が あ り、1つ は 地 域 的 海 洋 環 境 保 護 条 約 で 、 沿 岸 国 の 間 で 特 定 の 海 域 の 環 境 の 保 護 を 包 括 的 に 図 っ て い く

と い う も の で あ り、 も う1つ は 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 に よ り生 じ る 損 害 の 賠 償 責 任 を 取 り 扱 う も の で あ る 。

前 者 の 例 と して は 、 例 え ば バ ル ト海 を 対 象 とす る1974年 「バ ル ト海 の 海 洋 環 境 保 護 に 関 す る条 約 」、 地 中 海 を 対 象 と す る1976年 「汚 染 か ら の 地 中 海 の 保 護 に 関 す る 条 約 」、

ペ ル シ ャ 湾 を 対 象 と す る1978年 「汚 染 か らの 海 洋 環 境 の 保 護 に 関 す る 協 力 の た め の ク ウ ェ ー ト条 約 」 な ど が あ る34。 こ れ ら の 条 約 は 、 い ず れ も 締 約 国 の 海 洋 環 境 保 護 義 務 を 包 括 的 一 般 的 に定 め た 上 で 、 条 約 を 補 完 ・強 化 す る た め 締 約 国 の 間 で 個 別 の 事 項 に に つ い て 議 定 書 を 作 成 し、 よ り個 別 具 体 的 に 海 洋 環 境 の 保 護 を 図 る よ う に な っ て い る 。 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 と の 関 連 で は 、前 記1978年 ク ウ ェ ー ト条 約 の1989年 「大 陸 棚 の 探 査 及 び 開 発 か ら生 じ る 海 洋 汚 染 に 関 す る議 定 書 」35と 、前 記 地 中 海 保 護 条 約 の1994年 「大 陸

34こ れ ら の う ち 、1976年 地 中 海 保 護 条 約 の 訳 に つ い て は 、 そ の 邦 訳 が 地 球 環 境 法 研 究 会 編 『地 球 環 境 条 約 集 第3版g(中 央 法 規 出 版 、1999年)362頁 に 掲 載 さ れ て い る 。

351989年3月29日 ク ウ ェ ー トで 署 名 、1990年2月17日 発 効 。 条 約 文 は 、Z.Gao,EnVironmenta7

RegulationOfOilandGas(1998),pp.491・500に 掲 載 さ れ て い る 。

(14)

棚 並 び に 海 底 及 び そ の 下 の 探 査 及 び 開 発 か ら生 じ る 汚 染 に 対 す る 地 中 海 の 保 護 の た め の 議 定 書 」36(以 下 「地 中 海 大 陸 棚 議 定 書 」 と す る)が あ る37。

後 者 の 賠 償 責 任 の 問 題 に つ い て は 、 国 家 責 任 方 式 を と る か 民 事 責 任 方 式 に す る か は 見 解 の 対 立 が あ り、 一 般 的 な 内 容 の 国 際 文 書 の 作 成 に あ た っ て は コ ン セ ン サ ス が 得 られ な か っ た 。 例 え ば 、1972年 人 間 環 境 宣 言 原 則22は 、 「国 は 、 汚 染 そ の 他 の 環 境 損 害 の 被 害 者 の た め の 賠 償 責 任 と賠 償 金 に 関 す る 国 際 法 を 一 層 発 展 さ せ る こ と に 協 力 す る 。」と定 め る に と ど ま り、 国 家 責 任 方 式 か 民 事 責 任 方 式 を と る の か に つ い て 態 度 を 保 留 した 。 し か し、 い くつ か の 条 約 は 、 開 発 を 行 う 事 業 者 へ の 責 任 を 定 め 、 民 事 責 任 方 式 に 踏 み 切 っ た 。 こ れ に つ い て は 、 後 述 「二.民 事 責 任 方 式 」 で 取 り扱 う 。

1982年 国 連 海 洋 法 条 約 は 、 国 家 に 対 し海 洋 環 境 保 護 の 一 般 的 義 務 を 定 め る(192条 194条1項2項)と 共 に 、特 に 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 に よ る 汚 染 に 関 す る 規 定 を 置 い た(194 条3項(c)、208条 、214条)。 他 方 、 賠 償 責 任 に っ い て は 、 両 方 式 を 併 記 して 上 記1972 年 人 間 環 境 宣 言 原 則22と 同 様 の 内 容 を 持 っ 一 般 的 な 規 定 を 置 くに と ど ま っ た(235条)。

そ の 他 、 海 底 鉱 物 資 源 の 開 発 に 関 す る 環 境 保 護 義 務 は 、 様 々 な 条 約 で 部 分 的 ・間 接 的 に 規 定 さ れ て い る ほ か 、EC/EU法 、 非 拘 束 的 な ガ イ ドラ イ ン 等 で も取 り扱 わ れ て い る

380

これ ら海洋環境保護条 約では、 国家 に環境保護の ための一定 の義務 を定 めてお り、理 論 的には この義務 に違反 して他 国に損害 が生 じた場合はその国が被 害国 に対 し責任 を負

うとい うこ とがで きる。

2.国 家責任方式 の現実 的問題点

こ の よ う に 、 国 家 責 任 方 式 、 つ ま り国 家 が 自国 の 国 際 法 上 の 義 務 に 違 反 して 生 じ た 損 害 に つ い て 国 家 が 負 うべ き賠 償 責 任 は 、 国 際 法 上 は 確 か に 非 常 に 有 用 性 が 高 い 。 も と よ り、 こ の 義 務 の 違 反 の 認 定 は 容 易 で な く、 そ れ は 、 一 般 に 国 際 法 上 の 義 務 の 違 反 の 認 定 が 困 難 で あ る こ と に 加 え 、 そ も そ も こ の 義 務 の 内 容 自体 一 般 的 抽 象 的 で あ り、 具 体 的 な 内 容 は 各 国 の 個 別 の 判 断 に 委 ね られ る 部 分 が 大 き い た め で あ る 。 そ の た め 、 実 際 に 損 害 が 発 生 して も、 そ れ が 沿 岸 国 が 果 た す べ き 義 務 の 違 反 に 起 因 す る の か ど う か の 判 断 は 、 非 常 に 困 難 で あ る 。そ れ に も 関 わ ら ず 有 用 性 が 高 い の は 、1941年 の ト レイ ル 熔 鉱 所 事 件 の 判 決 と い う先 例 が 現 に 存 在 す る た め で あ る 。 加 え て 、 こ の 義 務 を 定 め る よ り詳 細 に規 定 す る 国 際 文 書 も 多 く作 成 さ れ 繰 り返 し確 認 さ れ て い る こ と も 、 無 視 す る こ と が で き な い 。

361994年10月14日 ド リ ー ド で 署 名、未 発 効(国 連 環 境 計 画 サ イ ト(http:〃www.unep.ch/seas/main!

med/medoffsh.html)よ り 。 こ の 条 文 の 一 部 が こ の サ イ ト に 、 全 文 がGao,ibid.,pp.465・490に 載 さ れ て い る 。

37R .R.Churchill1AtV.Lowe,ThθLapvOfthθSea,3ded.(1999),p.373.

38こ こ で 取 り 扱 っ た 条 約 等 に つ い て、 詳 し く は 、Churcill1Lowe,ibid.,370・374;Gao,suρranote35,

pp,13・32;M.Gavouneli,PollutionfromOffshoreInstaUations(1995),pp.68・76参 照 。 ま た 、 こ れ ら の 国 際 文 書 の い く つ か に つ い て は 、 そ の 邦 訳 が 『地 球 環 境 条 約 集 』(注34)に 掲 載 さ れ て い る 。

(15)

しか し、 こ の 義 務 違 反 に よ る 国 家 責 任 の 発 生 と い う法 原 理 は 、 サ ハ リ ン 沖 合 の 海 底 鉱 物 資 源 開 発 の 事 故 に よ り北 海 道 沿 岸 に 油 汚 染 損 害 が 発 生 した 場 合 を 念 頭 に 置 く と、 果 た して 被 害 者 個 々 人 に と っ て ど こ ま で 実 際 的 有 用 性 が あ る と い え る だ ろ う か 。 つ ま り、 こ の 方 法 は 、 日本 政 府 が ロ シ ア 政 府 に 損 害 の 賠 償 を 外 交 手 段 に よ っ て 求 め る と い う も の で あ っ て 、 そ れ 自体 決 して 意 義 は 小 さ くな い と して も 、 被 害 者 に と っ て は 様 々 に不 安 定 な 要 素 が 覆 い 被 さ っ て く る 。

第 一 に 、 ロ シ ア か ら賠 償 金 を得 る た め に は 、 日本 政 府 が 積 極 的 に行 動 しな け れ ば な ら な い 。 上 述 の よ う に 、 こ れ は ロ シ ア の 義 務 違 反 行 為 に よ っ て 日本 の 国 際 法 上 の 権 利 が 侵 害 さ れ た た め ロ シ ア に 対 し損 害 の 賠 償 を 求 め る と い う形 を と る 。 し た が っ て 、 日 本 政 府 が 自 国 の 権 利 を ど の よ う に と らえ そ の 救 済 を ど の よ う に 求 め る か に よ っ て 、 そ の 請 求 の 内 容 が 異 な っ て くる 。 極 端 な 場 合 、 油 汚 染 損 害 が 北 海 道 に 生 じて も 日本 政 府 が 何 ら権 利 を侵 害 さ れ て い な い と判 断 す る 場 合 は 、 ロ シ ア 政 府 か ら賠 償 は 得 られ な い 。 そ こ ま で 極 端 で な く と も、 被 害 者 個 人 に 生 じ た 損 害 を 個 別 に 日 本 政 府 が 国 と して の 損 害 と して ロ シ ア 政 府 に 請 求 す る か ど う か は 、 ひ と え に政 府 の 判 断 に よ る 。

第 二 に 、 国 家 間 紛 争 の 解 決 方 法 は い くっ か あ る39が 、 日 本 と ロ シ ア と の 間 で は 基 本 的 に 交 渉 に よ っ て 紛 争 解 決 を 図 る と い う 可 能 性 が 高 く40、 そ れ だ け 両 国 の 力 関 係 に 左 右 さ れ る 部 分 が 多 くな る 。

第 三 に 、 第 二 に 関 係 す る が 、 日本 と ロ シ ア の 間 の 国 家 間 紛 争 で あ る た め 、 そ の 解 決 は 両 国 の 政 治 的 状 況 に 大 き く左 右 さ れ ざ る を 得 な い 。 両 国 の 関 係 が 良 好 で あ る な ら事 態 の 解 決 は そ れ ほ ど 難 し くは な らな い で あ ろ う が 、 悪 化 して い る 場 合 は 交 渉 の 場 す ら設 定 で きな い こ と も あ り う る 。 良 好 な 関 係 で あ る か ど う か とは 別 に 、 二 国 間 の 間 で 大 きな 政 治 的 関 係 の 進 展 が 見 られ る 場 合 、 損 害 賠 償 問 題 が 場 合 に よ り犠 牲 に さ れ る こ と も考 え られ る 。 例 え ば 事 故 の 発 生 が 北 方 領 土 問 題 が 決 着 しそ う な 最 終 段 階 に 入 っ た よ う な 時 期 の 場 合 、 日本 政 府 の 判 断 と して 北 方 領 土 の 返 還 を 優 先 さ せ て 損 害 賠 償 の 問 題 を こ じれ さ せ な い よ う あ え て 譲 歩 す る とい う こ と は 、十 分 あ り う る 。あ る い は 、 ロ シ ア の 経 済 状 況 か ら、

十 分 な 賠 償 金 が 得 られ な い 場 合 、 日 本 政 府 と して 政 治 的 な 考 慮 を加 え あ え て 減 額 して 請 求 す る と い う こ と も あ ろ う 。 そ の 差 額 を ど う す る か は 、 日本 の 国 内 政 治 的 問 題 とな る 。 第 四 に 、 日本 政 府 が ロ シ ア か ら賠 償 金 を得 た と し て も 、 そ れ が 被 害 者 個 人 に 支 払 わ れ る か ど う か は 、 実 は 法 的 に は 保 証 さ れ な い 。 実 際 に は あ り え な い で あ ろ う が 、 日 本 政 府 が ロ シ ア か ら得 ら れ た 賠 償 金 を 、 被 害 者 に 渡 さ ず 全 額 国 庫 に 入 れ る とい う こ と も 、 日 ロ 闇 で 特 に取 り決 め を し な い 限 り法 的 に は 可 能 で あ る 。 そ こ ま で は い か な い と して も 、 得

られ た 賠 償 金 を ど の よ う に 配 分 す る か は 、 基 本 的 に は 国 内 の 政 治 的 事 項 で あ っ て 、 被 害 者 個 人 に生 じた 損 害 が ど こ まで 補 填 さ れ る か は 、 政 府 の 判 断 に よ る 。

こ の よ う に 、 賠 償 問 題 を 国 家 間 紛 争 と して 処 理 す る場 合 に は 、 被 害 者 個 人 に と っ て い くつ か の 不 安 定 さ が 残 る 。 こ れ は 、 結 局 の と こ ろ 、 義 務 の 内 容 及 び 紛 争 解 決 の 手 続 き に

39佐 古 田 「98年 報 告 書 」84‑93頁 。

40佐 古 田 「98年 報 告 書 」116‑118頁 参 照 。

参照

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