Title 巻頭のことば
Author(s) 小倉, 義明
Citation キリスト教と諸学 : 論集, Volume21, 2006.3 : 1-2
URL http://serve.seigakuin-univ.ac.jp/reps/modules/xoonips/de tail.php?item_id=3232
Rights
聖学院学術情報発信システム : SERVE SEigakuin Repository for academic archiVE
巻 頭
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聖学院大学総合研究所のプロジェクトのひとつ﹁ヨーロッパ統合の理念と実態研究﹂の研究活動(代表︑大木雅
夫教授︑大学院政治政策学研究科長)は︑佳境に入っている︒この研究会は研究成果をすでに公刊しており(﹃共同
研究﹁ヨーロッパ統合の理念と実態﹂研究報告書﹄二七O
頁︑
二OO
四年)︑識者の注目を集めてきた︒研究の
テlマは時代を尖鋭に表す﹁多様性と一体性﹂だ︒研究会は右報告書を公刊したのちも続けられている︒
*
欧州連合
(E
U)
は憲法条約の制定(二OO
四年
)や
統一
通貨
の発
行(
二OO二年)など進運目ざましいものがあった
が︑
二OO五年になって憲法条約の批准がオランダとフランスで否決され︑前途は決して容易ではないことを印象
づけた︒トルコの
E
U加盟申請はやっと受理されたけれど︑加盟が承認されるかどうか疑わしい︒職者によれば︑
かりに二︑三O年かかったとしても承認されたなら上出来と言うべきだそうだ︒
トルコの加盟の問題は︑
E
Uがキリスト教文化圏内に留まるのか︑外へ出るのかという深遠にして興味尽きない
文化的・歴史的課題である︒トルコはイスラム文化圏の中で政教分離を実施している(従って︑西欧型デモクラ
シーの諸原則を受けいれやすい)ただひとつの国家である︒
﹁文明の衝突﹂ではなく︑両文明の橋渡しを︑トルコは果しうるのではないか︒
しかし他方で︑フランスやドイツの国民がトルコ加盟にリラクタントなのは︑トルコが加盟してくると自分達の
老齢年金が激減するからだ︑と極めて実際的な理由をあげる人もいる︒このように多様性と一体性の問題は冷静な
そろばん勘定と熱い理想・情熱との綱引きの様相を呈している︒
‑
*
先述の研究報告書の序文の中で︑大木雅夫教授はヨーロッパ統合計画の足取りを叙述して︑クlデンホlフ・カ
レルギIに言及しておられる︒彼以前の統合計画は理想または夢に留まったが﹁実際的成果を挙げたのは︑クlデ
ンホ
lフ・カレルギーであった﹂と教授は評価されている︒
E
U実現の父とも言うべきこの人物の知見とともに︑情熱と人となりを知ることは有益である︒彼︑リヒャルト
の母は︑日本人である︒﹃ミツコと七人の子供たち﹄(シュミット村木員寿美著︑講談社︑二OO
一年
)に
くわ
しい
が︑
古美術商の娘青山みつは東京駐在のオーストリア外交官ハインリッヒ・クlデンホiフ伯爵に見初められて︑その
妻となる︒明治二十五年のことだ︒
クlデンホlフ家は十三世紀に遡るヨーロッパ貴族の名門で︑はじめオランダ地方に住んだが︑ハプスブルグ家
に従ってオーストリアに移る︒みつの夫となったハインリッヒの母マリiは旧姓をカレルギスといい︑その家系は
ギリシャ貴族でロシア宮廷に仕えている︒こういうわけでクlデンホiフ・カレルギl家は︑フランス︑オランダ︑
オーストリア︑ギリシャ︑ロシアの血が流れている︒
E
ilUの父リヒャルト・クlデンホフ・カレルギは︑ハインリッヒとみつの次男として東京で生まれた(一八
九四年)︒そのコスモポリタン的な家系と︑その故に受けたであろう数度の大戦による悲痛な経験を通して︑リ
ヒャルトは早くからヨーロッパ統合運動に挺身する︒
受けた恥辱を忍び︑相手の過誤を赦し︑怨恨を忘れて和解をつくり出す︒亀裂を縫合して︑連繋を生み出す︒こ
の高潔な作業は困難なだけに︑政治的でありつつ倫理的であり宗教的であるだろう︒
聖学院キリスト教センター所長
倉 義
明