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【絆創膏】を表す言い方

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(1)

九州・山口 8 県における

【絆創膏】を表す言い方

大学生の実態

山 県 浩

1.はじめに

[1]本稿は、沖縄県を除く九州・山口各8県に所在する大学・短期大学の在 学生に対して行った、言語使用に関するアンケート調査の結果を報告するもの の一つである。本稿では、前稿・山県(2009)で扱えなかった【絆創膏】に関 する項目について、それを表す言い方が地域によってどのように異なるか、ま た【救急絆創膏】を表す言い方との区別のあり様が地域によってどのように異 なるかを報告する。

[2]【救急絆創膏】を表す言い方は、篠崎(1996)・篠崎(1997b)によって

「気づかない方言」の一例として高年層・若年層における全国的な分布状況が 報告された。

これに対して、山県(2009)では、九州・山口地域を中心とする若年層に限 定して、当該地域の県内差を含む地域差の実態を記述することを第一の目的と した。併せて篠崎氏の調査結果との比較に基づいて使われ方の 10 年後の変化 相についてまとめた。

福岡大学人文学部教授

(2)

その際、紙面の関係で【絆創膏】を表す言い方には触れられなかった。

[3]篠崎氏は、【救急絆創膏】を表す言い方として商品名以外に〈バンソー コー〉が使われるという。すると、〈バンソーコー〉という言い方が本来表す

【絆創膏】は、どのような言い方で表されるかが問題となる。

しかし、氏は「テープ、紙テープなどの語形を用いている」(篠崎(1996b)

p.95)と述べるだけで、その全国的な分布状況や【救急絆創膏】と【絆創膏】

の区別については報告されていない。

そこで、論末・資料-Aの如き質問項目で紙製・布製の絆創膏を表す言い方 について調査した。そして、本稿では、これら【紙製絆創膏】及び【布製絆創 膏】を表す言い方が九州・山口地域でどのような地域差を示すか、更に、それ を踏まえ、【救急絆創膏】を表す言い方とどのように区別され、その区別のあ り様はどのような地域差を示すかを報告する。この場合、後者、九州・山口地 域における【救急絆創膏】と【絆創膏】の区別のあり様の地域差を示すことが 本稿の最終目的である。

2.調査の概要

[1]本稿の依る本調査は、2007 年 10 月から 08 年4月にかけて行った。

調査対象は、沖縄県を除く九州・山口8県に所在する次の大学・短期大学 16 校の在学生である。福岡大学を除き、調査票は郵送して、依頼した先生方 の講義などで配付・回収していただいた。

福岡県;福岡大学・久留米大学・北九州市立大学 佐賀県;佐賀大学

長崎県;長崎純心大学・県立長崎シーボルト大学 熊本県;熊本大学・熊本学園大学

大分県;大分県立芸術文化短期大学 宮崎県;宮崎大学

(3)

鹿児島県;鹿児島大学・鹿児島県立短期大学・鹿児島女子短期大学・志學 館大学

山口県;下関市立大学・山口大学

これら 16 校に依頼した結果、1,760 名から回答を得た。しかし、九州・中 国・四国各県の出身者と認めがたい者を除いた 1,514 名の回答 (全回答の 86.0%)を有効回答として考察の対象とした(詳しくは、山県(2009)・21 章 参照)

更に、本稿では、県全体の回答者が 50 名以上である、沖縄県を除く九州7 県と山口県の都合8県の出身者 1,431 名に限定して報告する。

なお、前稿では、回答者の基本データは、大学ごとに集計した結果を示した。

本稿では、対象とする8県ごとに集計した結果を示す(論末、表-1参照)(1)

以上の如き本調査に加え、2009 年4月から7月にかけて、担当する福岡大 学の講義3種で追加調査を行った。

本調査と同じ条件で有効回答とした九州・山口8県出身者 177 名の回答を基 本に、その以外でも重要な記述の見られるものについては適宣報告する。

[2]本稿の依る調査では、【救急絆創膏】【絆創膏】などを表す言い方に関す る地域差の実態を問題とする。

このため、本調査・追加調査とも、回答者の出身地の認定は、次の(1)~

(3)の如き原則で行った。

(1)生まれてから高等学校卒業まで在住していた地(県及び県内 49 地域)

を出身地とする。但し、県内また 49 地域内での転居は認める。

(2)転居歴があっても小学校入学前までであれば、問題としない。この 場合、小学校・中学校・高等学校在籍期間中に在住していた地(県・地 域)を出身地とする。

(3)沖縄県を除く九州7県と山口県で、小学校・中学校・高等学校在籍 期間中における転居が 49 地域を跨いでも、同一県内であれば、「県内不

(4)

定」として、その県の出身者として扱う。

但し、本稿では、県内差(上記 49 地域の差)は原則として本論で述べない。

後述の如く【絆創膏】を表す言い方の地域差が【救急絆創膏】を表す言い方の 地域差より小さいためである(但し、注で 49 地域にかかる県内差に触れるこ とがある。各地域に該当する市町村は、山県(2009)・注(3)を参照のこと)。

[3]本調査で使用した調査票全体は、別稿に掲載することとし、本稿では、

【絆創膏】に関する項目などを示す(資料-A参照)。

資料の如く、文章と絵でその物の言い方を問い、列挙した選択肢から該当す る言い方を複数選択する形式である。

[31]本項目に限らず、本調査は、地域で使われる普段の言い方を収集するこ とを目的とする。

このため、調査場面は、資料-A(1)の如く「自宅で両親や兄姉弟妹など、

家族と話をするとき」である。更に回答の際には、口頭での注意事項の一つと して、大学で友人と話すときでなく、家族と話すときであることを説明してく ださるよう依頼した。

[32]【救急絆創膏】に関する項目は、調査票の表面の最初、【絆創膏】に関す る項目は、調査票の裏面で紙製・布製について続けて問うた。

【絆創膏】は、総称でなく、紙製・布製別に問うた。しかし、この質問の仕 方には、問題があった。また、絵まで示したが、どのような物を問われている のか正確に理解していない場合もあったように見受けられる。

そこで、追加調査では、紙製・布製別でなく、総称を問うた。更に調査票配 付後、【救急絆創膏】【絆創膏】ともに現物を示して説明を加えた。

3.調査結果・考察

[1]本章では、前章に示した調査によって得られたデータに基づいて、【絆 創膏】を表す言い方や【救急絆創膏】を表す言い方との区別のあり様は、九州・

(5)

山口地域でどのようなもので、どのような地域差を示すかを報告し、それにつ いて考えるところを述べる。

具体的には、九州・山口8県ごとに回答状況を整理し、【絆創膏】を表す言 い方の地域差を述べる(31 章)。その上で、山県(2009)も踏まえ、【救急絆 創膏】と【絆創膏】が県ごとにどのような言い方によって区別されるか、更に どのような地域差を示すかを述べる(32 章)

[2]本論では、検討の際、該当の言い方の「回答率」を利用する。(2)

ただ、県による回答者数の違いが大きいため、検定結果を参照する。更に本 稿で取り上げる「代表的な言い方」は、紙面の関係もあるため、原則として約 20%以上の回答率を有するものとする。

31.【絆創膏】を表す言い方

[1]【救急絆創膏】と異なり、【絆創膏】は医療品として長い歴史を持つ。

例えば、『日本国語大辞典 第2版』では、用例として奥山虎章『医語類聚』

(1872)や長塚節『土』(1910)などが示される。この点で 1960 年頃から出回 り始めた【救急絆創膏】に比べると、倍以上の歴史を持つ。

しかし、近年、【絆創膏】は若年層では馴染みのない品物になってきたとい う。このため、篠崎氏は、【救急絆創膏】を表す言い方について、商品名であ る〈カットバン〉〈バンドエイド〉〈リバテープ〉などが一般名称として使われ る一方、「バンソーコーの使用率は全国的に若年層の方が高くなっており、次 第に高年層にも波及しつつある」(篠崎(1997b) p.95)として、近年は〈バ ンソーコー〉という言い方が一般化してきたという。

[11]「絆創膏ばんそうこう」は、元来「テープ状の紙・布などに薬品を練り合わせた粘着 剤を塗ったもの。傷口の保護やガーゼ・包帯の固定に用いる。『明鏡国語辞典』

(2003 年刊)・「粘着剤をつけた紙・布などの医療品。創傷面の被覆、包帯の固 定などに用いられる。」『広辞苑 第6版』(2008 年刊)などと説明される。

(6)

形状は資料-A(2)の絵のようなもので、【救急絆創膏】の如く数センチにカッ トした粘着テープにガーゼを付したものではない。

しかし、篠崎氏は、このような〈バンソーコー〉が【救急絆創膏】を表すよ うになったのは、次の如き背景があったためと考える。

【絆創膏】が若年層に馴染みの薄い品物となって〈バンソーコー〉とい う言い方が宙に浮いていたところ、それが【救急絆創膏】を言い表す語形 として〈カットバン〉などの「典型的なブランド名に一般名称を与えたい という欲求を満たすのにも都合がよかった」(篠崎(1997b) p.95)ため、

今日の如き状況に至った。

更に、プライベートブランドの占有率が高まったことやいろいろな商品 がドラッグストアに並んでいることも、商品名でなく〈バンソーコー〉と いう一般名称が使用されるようになった一因である。

このような〈バンソーコー〉という言い方の「意味変化」が目に付くように なったためであろうか、『日本国語大辞典 第2版』(2001 年刊)は、【絆創 膏】の説明として、先の『明鏡国語辞典』『広辞苑』の如き説明文に加え、「消 毒ガーゼ付きのものもある。」の一文を添える(同辞典の第1版(1978 年刊・

第1版第4刷)にこの一文は見えない)

[12] 篠崎氏の全国分布図、 特に高年層と若年層の世代差から〈バンソー コー〉が【救急絆創膏】を表す言い方として一般化しつつあることは確かであ る。

しかし、調査方法などの違いを割り引いても、篠崎氏の調査後 10 年以上が 経過しているが、本調査の回答状況は篠崎氏の調査結果とあまり変わらず、九 州・山口地域で〈バンソーコー〉は目に見えて増加していない。一方、九州に 本社を置く製薬会社2社の商品名である〈カットバン〉〈リバテープ〉は〈バ ンソーコー〉に押されることなく、特に〈カットバン〉は篠崎氏の調査より使 用を増やしていた。

(7)

従って、区別の点で、【救急絆創膏】を表す言い方として〈カットバン〉〈リ バテープ〉を多用する場合、【絆創膏】を表す言い方として〈バンソーコー〉

が一定数回答されるのではないかと予想される。

ただ、〈バンソーコー〉が【救急絆創膏】を表す言い方として篠崎氏の調査 と殆ど変わらない回答状況とは言え、どの各県でもその回答率は 50~80%と 高い。そこで、本来の【絆創膏】はどのような言い方で表されるのか、「テー プ、紙テープなどの語形」(篠崎(1996b) p.95)が当該地域でも使われてい るのかなどの疑問が出てくる。

[2]【絆創膏】を表す言い方について、紙製・布製ごとに調査した結果、九 州・山口8県に大きな地域差は認められない(表-2・3参照)。

即ち、一定の回答率を有する言い方は、〈テーピング〉〈(紙・布)テープ〉

で、多様性がなく、それらの回答率は一県として 50%を超えることがない。

即ち、【救急絆創膏】を表す言い方では、60・70%以上の回答率を有する、

各県を代表する言い方とそれらと異なる 40~60%の回答率の言い方によって 地域差が見られた。しかし、【絆創膏】を表す言い方では、一二の言い方につ いて、30・40%台の微妙な回答率の違いによって地域差が見られるだけである。

ただ、【紙製】と【布製】を比べると、後者で回答率が 30%を超える言い方は

〈テーピング〉だけである。このため、【紙製絆創膏】の方で地域差が若干多 様である。

[3]【紙製絆創膏】を表す、代表的な言い方は、〈テーピング〉〈テープ〉で ある(表-2参照)。

これらに〈紙テープ〉が続くが、回答率が 30%を超えることはない。そこ で、〈テーピング〉〈テープ〉の回答状況に基づいて、九州・山口8県を特徴付 けると、次の如くである。

甲類=〈テーピング〉の最も多い県;佐賀県

乙類=〈テープ〉の最も多い県;宮崎県・鹿児島県・山口県

(8)

丙類=〈テーピング〉〈テープ〉の最も多い県;福岡県・長崎県・熊本県・

大分県

目安として、〈テーピング〉と〈テープ〉の回答率の差につき、約 10%以上 であれば「差あり」で、甲・乙類、2・3%程度であれば「差なし」で、丙類 と判定した。

検定結果に依ると、有意差の見られるのは、高い方で宮崎県の〈テープ〉

(45.7%)、 低い方で宮崎県の〈テーピング〉(12.9%)・佐賀県の〈テープ〉

(22.4%)だけである。これからも、甲類・乙類4県の中で宮崎県が〈テーピ ング〉と〈テープ〉の差が最も大きいことが分かる。

[31]〈紙テープ〉と〈テープ〉との関連は難しい。

例えば、〈テープ〉の多い乙類の3県のうち、宮崎県の〈紙テープ〉は 20.0

%で8県の中で最も低いが、鹿児島県・山口県の〈紙テープ〉は 26.7%・28.1

%で高い方である。〈テーピング〉〈テープ〉の多い丙類では、乙類と同じく

〈紙テープ〉の値に福岡県・大分県と熊本県で差が見られる。一方、〈テーピ ング〉の多い甲類の佐賀県は、8県で唯一〈紙テープ〉の方が〈テープ〉より 回答率が高い(〈紙テープ〉=27.6%・〈テープ〉=22.4%)

以上、〈テープ〉を多用するため、それに引かれて〈紙テープ〉も使われる 場合(鹿児島県・山口県/熊本県)、逆に〈テープ〉を多用するため、〈紙テー プ〉が避けられる場合(宮崎県/福岡県・大分県)があり、県によって関連の あり様が異なる。

[32]【紙製絆創膏】を表す代表的な言い方である〈テーピング〉〈(紙)テー プ〉のうち、前者は、篠崎氏の報告に見られない。

ただ、いずれも【絆創膏】を表す言い方として標準的なものではない。

[321]「テーピング」は、「傷の予防・治療のために関節・筋肉・靱帯などに テープを巻くこと。」『明鏡国語辞典』・「粘着テープを関節・靱帯・筋肉などに 巻いて、スポーツ障害の応急処置や予防を行うこと。」『広辞苑 第6版』など

(9)

と説明される。

動作であって、物を表す語ではない。ただ、運動選手などが《テープを巻く こと・巻いていること》を目にして「テーピングをしている。」と表現した場 合、聞き手は視覚的に「テーピング」を《巻いているもの》と理解してしまう ことがある。このような意味的な隣接性のため、「テーピング」が物を表すよ うになったのであろう。

「テープ」は、「①幅が狭く、細長い帯状になっているもの。②磁気テープ。

『明鏡国語辞典』・「①幅がせまく長い、うすい帯状のもの。②磁気テープのこ と。」『広辞苑 第6版』などと説明される。

形状の点で【絆創膏】も両辞典の①の一種であるが、「テープ」には「粘着 剤」が付いていない。しかし、「ビニールテープ」「セロハンテープ」「ガムテー プ」「両面テープ」などの存在から「テープ」は付着性を有する品物と理解さ れ、【絆創膏】を表すようになったと考えられる。

いずれにしても、【絆創膏】を表す言い方として〈テーピング〉〈テープ〉を 用いることは、隣接する動作や物からの「意味変化」と言える。

この場合、〈テーピング〉は〈テープ〉の存在が前提になる言い方である。

この〈テーピング〉の新しさは、本調査において〈テープ〉の方が〈テーピン グ〉より地域的に偏りなく使われていること、共通語において〈テープ〉は後 部成素となって様々な複合語を作る(=〈テーピング〉にない)ことなどから 首肯できよう。

[322]〈テーピング〉〈テープ〉の「意味変化」は、〈バンソーコー〉の「意味 変化」と関係があるのか、関係があれば、どちらが先行し、主要因であったか などが、問題となる。

いずれも今後検討してゆかねばならないが、回答率の高さから〈バンソー コー〉が【絆創膏】から【救急絆創膏】を表すようになる方が先行していたと 考えられる。この場合、篠崎氏の如く、〈バンソーコー〉の「意味変化」は、

(10)

本章[11]項に述べた背景に依る「「絆創膏」から「救急絆創膏」へと一種の 隣接意味分野への侵入」(篠崎(1997b)p.95)したものであると、結果論とし ては言えよう。しかし、【救急絆創膏】を表す〈バンソーコー〉は、単純に

〈キューキューバンソーコー〉から〈キューキュー〉が省略された言い方とも 考えられる。

現在、【救急絆創膏】の正式名称が〈キューキューバンソーコー〉であるこ とはあまり認識されていないが、〈バンソーコー〉の発生を単純な形式変化と すれば、その普及の速さや分布の広さがうまく説明できる。(3)

[33]【紙製絆創膏】を表す言い方のうち、〈テーピング〉〈(紙)テープ〉以外 の言い方や回答について述べる。

本来の言い方である〈バンソーコー〉は、例外的な存在で、回答率が5%を 超えることはない。【救急絆創膏】を表す言い方として〈カットバン〉〈リバテー プ〉の多い県(佐賀県・長崎県・熊本県・鹿児島県など)では、〈バンソー コー〉が多くなることが予想された。しかし、実際の回答は、〈カットバン〉

〈リバテープ〉と〈バンソーコー〉の併用が多く、【絆創膏】を表す言い方と して〈バンソーコー〉が存在する余地はどこにもない。

むしろ、〈バンソーコー〉より回答率の高い、〈紙テープ〉に次ぐのは、「分 からない」の回答である。過半数の県で 10%以上の回答率となる。

これは、若年層にとって【絆創膏】が日常的な品物でなくなったためであろ う。従って、〈テーピング〉〈(紙)テープ〉の回答率も、日常の自然な会話で の使い方でなく、考えた上での回答も少なからず含まれていよう。また質問形 式も、選択式でなく、記述式であれば、本調査の「分からない」に相当する

「無記入・無回答」は増加すると予想される。

なお、「その他」として選択肢にない言い方が8件記された。選択肢にない 別の言い方をわざわざ書き記した点で貴重な回答である。(4)

[4]【布製絆創膏】を表す代表的な言い方は、〈テーピング〉で、これに〈布

(11)

テープ〉「分からない」が続くが、いずれも回答率が 30%を超えることはない。

〈布テープ〉は、14.3%の佐賀県を除くと、7県は 20%前半の5%内外で、

殆ど差がない。従って、【布製絆創膏】を表す言い方について九州・山口8県 を特徴付けるなら、〈テーピング〉の回答率の高低(40%台か否か)によって、

次の如く二分される(《高》グループは回答率の高い順、《低》グループは回答 率の低い順)

《高》グループ;長崎県・佐賀県・大分県

《低》グループ;鹿児島県・山口県・宮崎県・熊本県・福岡県

勿論、《高》グループの大分県と《低》グループの福岡県の差は3%程度に 過ぎない。〈テーピング〉に関して有意差の見られるのは、最高値・最低値を 示す長崎県(49.1%)・鹿児島県(30.9%)だけである。

なお、【紙製】で乙類とした〈テープ〉の多い(=〈テーピング〉の少ない)

鹿児島県・宮崎県・山口県は、【布製】でも〈テーピング〉は多くない。一定 した傾向と言える。しかし、これら3県は、上記の如く《低》グループで〈テー ピング〉が多くないとは言え、【布製】を表す言い方としてテープ類の方が

〈テーピング〉より回答率が高くなることはない。

[41]〈テープ〉は、【紙製】と異なり、 8県すべて 10%台で、 一県として

〈布テープ〉より回答率が高くなることはない。

この点で、【紙製】では佐賀県を除く7県で〈テープ〉の方が〈紙テープ〉

より回答率の高かったことと異なる。従って、次項の如く若年層にとって【紙 製】の方が【布製】よりまだ一般的で、馴染みのある品物であること、このた め、〈テープ〉と言えば、基本的に【紙製絆創膏】を表し、【布製絆創膏】を示 されると、区別のために考えて〈布テープ〉を選択するという回答パターンが 予測される。

[42]「分からない」という回答は、佐賀県・熊本県で 20%を超え、他は、長 崎県(8.3%)を除き、15%前後である。

(12)

【紙製】と比べると、回答率の低い長崎県だけ同数で、他7県で「分からな い」が【布製】で増加する。特に佐賀県・熊本県では〈テーピング〉に次ぐ、

2番目に回答率の高い回答である。【紙製】以上に馴染みのない品物であるこ との現れである。

なお、「分からない」は複数回答を許さない回答である。これが1・2割を 占めるため、具体的な言い方の回答率が低くなり、〈テーピング〉を除いて 30

%を超える言い方が存しないことになったのであろう。

[43]〈バンソーコー〉という本来の言い方は、8県すべてで6%以上で、【紙 製】の場合に比べて増加する。

また〈カットバン〉〈リバテープ〉も【救急絆創膏】で多用される諸県にお いて【紙製】より回答率が高くなり、10%を超えることがある。

「その他」として選択肢にない言い方が記されることが、【紙製】の8件か ら 20 件に増加する。特に「包帯」がその半数を占めるなど、別の疑問も生じ てくる。(5)

[5]追加調査では、【紙製絆創膏】【布製絆創膏】を別々に問う本調査への反 省から「絆創膏の総称」について調査した。

それも、回答者の 85%を占める2講義では、本調査の結果(主として山県

(2009)の概略)を講述した後、【絆創膏】の現物を示して行った。回答者の数 は、本調査の8分の1程度であるが、【絆創膏】という医療品に関する理解は 十分で、回答の精度は本調査に倍する物がある。

[51]代表的な言い方は、〈テーピング〉〈テープ〉で、ともに回答率が 50%

を超えることがある。

ただ、回答者は、福岡県(124 名)を除くと、7県とも 10 名以下である。

そこで、福岡県の回答を回答率の高い言い方から示すと、次の如くである(そ れぞれ回答数と回答率(括弧内)を示す)

〈テーピング〉=69(55.6%)、〈テープ〉=59(47.6%)、〈サジカルテー

(13)

プ〉=4 (3.2%)、〈キズテープ〉=3(2.4%)、〈バンソーコー〉=2

(1.6%)、「分からない」=1

※その他=2(〈紙テープ〉〈テーピングのテープ〉)、無回答=2

〈テーピング〉が最も多いが、〈テープ〉も少なくなく、〈バンソーコー〉や

「分からない」が稀である点、本調査の【紙製】の回答状況に近い。

また問では「紙製・布製を問わない総称では何と言いますか」と記しながら、

わざわざ「布製のテープは家にありません。使ったことがないです。」(回答者 139・八女郡広川町出身・女)と記されることもあった。

[52]他県の状況を回答率だけで比較すると、〈テーピング〉の方が高いのは、

福岡県・長崎県・熊本県・大分県、〈テープ〉の方が高いのは、佐賀県・宮崎 県・鹿児島県・山口県である。

この追加調査の傾向は、佐賀県を除けば、本調査において、宮崎県・鹿児島 県・山口県で〈テープ〉が多いことと一致する(本章[3]項参照)

以上、「総称」を調査したが、全体的な回答状況は、本調査の【紙製絆創膏】

に近い傾向である。これは、若年層にとって【紙製】の方が【布製】より馴染 みのある(目にし、手にしたことのある)品物であるためであろう。そこで、

紙面の関係もあるが、次項の県内差や次章の【救急絆創膏】と【絆創膏】の区 別は、【紙製絆創膏】の回答を利用する。

[6]【絆創膏】を表す言い方における九州・山口8県の県内差は、【紙製絆創 膏】を表す言い方で概略を述べる。

県単位の違いは、回答率 30%台が中心の〈テーピング〉〈テープ〉という言 い方における、最大で 20%内外の差に基づくものであった。従って、より回 答者の少ない単位になると、数名の回答者の恣意で各地域の傾向が変わってし まう。このため、【救急絆創膏】の場合と同じく、県全体の傾向が県内各地で そのまま見られるか否かで県内差の有無を判定することが難しい。

事実、本章[3]項に示した県全体の傾向が県内どの地域でも等しく見られ

(14)

ることは稀である。この点で8県すべてで「県内差」が認められる。この場合、

県庁所在地の回答者が県全体の3割以上を占めることが多い(山県(2009)・

注(3)参照)。このため、県全体の傾向が県庁所在地の都市で認められること は多い。しかし、それ以外の地域は、回答者の少なさのためか、県全体の傾向 の見られないことが多い。

結局、県全体の傾向が見られる地域・見られない地域の多少の問題になるが、

福岡県・熊本県・大分県・宮崎県は、各県全体の傾向が県内各地域で認められ ることが比較的多い。しかし、佐賀県・長崎県・鹿児島県・山口県では、〈紙 テープ〉が最も多くなるなど、県全体の傾向の見られないことが多い。しかし、

見られないにしても、県内の地理的に隣接する地域に同一の傾向が見られたり、

異なる県の隣接した地域どうしに類似した傾向が見られたりする訳ではない。(6)

32.【救急絆創膏】と【絆創膏】を表す言い方の区別

[1]九州・山口地域において【救急絆創膏】を表す言い方は、商品名である

〈カットバン〉〈バンドエイド〉〈バンドエイド〉と〈バンソーコー〉が一定の 回答率の差で、【絆創膏】を表す言い方は、〈テーピング〉〈(紙・布)テープ〉

が僅かな回答率の差で使われていた。

このため、【救急絆創膏】と【絆創膏】を表す言い方の区別は、前者の言い 方によって大枠が決定されることになる。本章では、【救急絆創膏】と【絆創 膏】を表す言い方で代表的な組み合わせを県単位で示し、九州・山口地域にお ける区別のあり様の地域差について述べる。

この場合、前述の如く【絆創膏】は【紙製絆創膏】を表す言い方の回答を使 用する。

[2]【救急絆創膏】を表す代表的な言い方は、各県とも原則的に 60・70%以 上の回答率を有する言い方と 40~60%の回答率を有する言い方の2種であっ た。

(15)

この2種は、〈カットバン〉―〈バンソーコー〉」または「〈バンソーコー〉―

〈リバテープ〉」であるが、宮崎県のみ3種で、〈バンソーコー〉に次ぐ言い方 はともに約 50%で〈カットバン〉〈リバテープ〉が並んでいた。

そこで、最も多い言い方を基準に、一部その次に多い言い方に基づいて分類 すると、九州・山口8県は次の如く特徴付けられる。(7)

A類=〈カットバン〉の最も多い県;佐賀県・長崎県・鹿児島県・山口県 B類=〈リバテープ〉の最も多い県;熊本県

C類=〈バンソーコー〉の最も多い県 C1類=リバテープの多い県;大分県

C2類=リバテープ・カットバンの多い県;宮崎県

C3類=その他(カットバン・リバテープの多くない県);福岡県 明示していないが、A類・B類で〈カットバン〉〈リバテープ〉の次に多い 言い方は、5県とも〈バンソーコー〉である。このように〈バンソーコー〉は 共通語的な言い方として商品名に被さるように当該地域全域に広がっている。

その度合いが上記の如く県ごとに異なり、C類の3県では県内も地域によって 差が見られる。

一方、【紙製絆創膏】では、注(6)の如く佐賀県・長崎県・鹿児島県・山口 県で県内差とも言えるものが見られた。従って、【救急絆創膏】と【紙製絆創 膏】は、「県内差」のある県が重ならない。この点でも、本稿では、【救急絆創 膏】と【紙製絆創膏】を表す言い方の区別は、原則として県単位で述べる。

[3]県ごとに【救急絆創膏】と【紙製絆創膏】のクロス集計を行い、回答の 多い言い方の組み合わせから順に5組を示した(論末、表-4参照)。

【救急絆創膏】【紙製絆創膏】ともに複数回答形式であるため、掲示した組 み合わせだけで累積が 100%を越えることがある。

基本的には、言い方の種類が多く、回答率の差の大きい【救急絆創膏】を表 す言い方によって各県が特徴付けられはする。しかし、【紙製絆創膏】を表す

(16)

言い方、特に〈テーピング〉の多少によって先のA類~C類の分類通りに行か ないところがある。

そこで、【救急絆創膏】を表す言い方は、「Ⅰ類;〈バンソーコー〉優位」(=

C類)と「Ⅱ類;商品名優位」(=A・B類)に二分し、【紙製絆創膏】を表す 言い方は、「a型;〈テーピング〉〈(紙)テープ〉拮抗」(≒甲・丙類)と「b 型;〈(紙)テープ〉優位」(=乙類)に二分する。従って、【救急絆創膏】と

【紙製絆創膏】を表す言い方の区別として、4種の組み合わせが設定される。

更に、表-4のデータを重視しつつ、各県のクロス集計のデータも参照する と、九州・山口8県は、次の如く分類され、特徴付けられる。(8)

Ⅰ類a型=〈バンソーコー〉優位・〈テーピング〉〈(紙)テープ〉拮抗;

福岡県・大分県

Ⅰ類b型=〈バンソーコー〉優位・

〈(紙)テープ〉優位;宮崎県

Ⅱ類a型=商品名優位・〈テーピング〉〈(紙)テープ〉拮抗;佐賀県・長

崎県・熊本県

Ⅱ類b型=商品名優位・

〈(紙)テープ〉優位;鹿児島県・山口県

[31]【救急絆創膏】側から見ると、[2]項のA類~C類の分類に従い、最も 多い言い方が上位の組み合わせを構成する(表-4参照)。

しかし、鹿児島県・山口県は、〈カットバン〉の最も多いA類で、Ⅱ類であ りながら、佐賀県・長崎県・熊本県と異なり、「〈バンソーコー〉―〈テープ〉 という組み合わせが多く、「〈カットバン〉―〈テープ〉」という組み合わせの 次に位置する。

〈バンソーコー〉―〈テープ〉」という組み合わせは、Ⅰ類の3県で最も多 く、〈テープ〉の少ない佐賀県を除く全県に見られる。それも、回答率は常に 20%以上で、「〈バンソーコー〉―〈テーピング〉」という組み合わせより多い。

このような全域的な、安定した回答状況から「〈バンソーコー〉―〈テープ〉」

は、九州・山口地域における共通語的な言い方の組み合わせと言える。

(17)

ただ、佐賀県では、この組み合わせが他7県の半分程度の割合である(回答 数 10・回答率 10.2%)。同じⅡ類a型の長崎県・熊本県でも回答率は 20%程 度ではあるが、他県に比べると、この組み合わせは下位に位置する。両県では

「〈カットバン〉―〈テーピング〉〈テープ〉」または「〈リバテープ〉―〈テー ピング〉〈テープ〉」という上位2組の組み合わせで累積が約 60%となる。

即ち、これらⅡ類a型の3県では、【救急絆創膏】を表す言い方として〈カッ トバン〉〈リバテープ〉が盛んであるため、結果的に「〈バンソーコー〉―〈テー プ〉」という組み合わせは勢力を得ていない。

[32]4分類では、【紙製絆創膏】を表す言い方につき、〈紙テープ〉〈テー プ〉を区別せず、一括して〈(紙)テープ〉と表記した。

しかし、大分県・宮崎県・山口県は〈テープ〉が上位を占める。ただ、この

〈紙〉の有無は〈テーピング〉との違いに比べると小さく、また両者を区別す ると分類が繁雑になるため、〈紙テープ〉と〈テープ〉は一括した。

なお、県庁所在地などの主要都市について【救急絆創膏】と【紙製絆創膏】

の区別を検討した。県全体の回答者に対して占める割合が高いため、県全体の 傾向と一致することが多い。ただ、【救急絆創膏】または【絆創膏】を表す言 い方で県内差の見られた県では、若干異なることがある。しかし、ⅠⅡ類ab 型の4分類の枠をはみ出すことはない。(9)

[4]九州・山口地域の若年層の実態につき、【救急絆創膏】における商品名 と〈バンソーコー〉の新古関係、(10)【紙製絆創膏】における〈テープ〉と

〈テーピング〉の新古関係を考えると(31 章[321]項参照)、《【救急絆創膏】

は〈カットバン〉〈リバテープ〉などの商品名で表し、【紙製絆創膏】は〈(紙)

テープ〉で表す》という区別が古態の組み合わせであると言える。

勿論、西日本の限られた8県だけで歴史を議論することは危険である。しか し、本稿で得られた当該地域の地域差が妥当性を持つ根拠となるので、以下、

簡単に述べる。

(18)

[41]《【救急絆創膏】は商品名で表し、【紙製絆創膏】は〈(紙)テープ〉で表 す》という古態の組み合わせ、即ち、Ⅱ類b型に【救急絆創膏】では〈バンソー コー〉が新しい共通語的な言い方として被さり、【絆創膏】では〈テーピン グ〉が新しい言い方として被さりつつある。

この両者を比べると、〈バンソーコー〉の方が勢いがある。このため、前述 の如く「〈バンソーコー〉―〈テープ〉」という組み合わせがほぼ全県的に一定 の回答率で見られる。

そこで、ⅠⅡ類ab型の4分類の新古関係を示すと、《(古)Ⅱ類b型→Ⅰ類 b型→Ⅱ類a型→Ⅰ類a型(新)》となる。

最新のⅠ類a型である福岡県・大分県を比べると、C類内の違いの如く福岡 県の方が大分県より〈バンソーコー〉が盛んである。このため、福岡県の方が より新しい組み合わせである。

[42]【救急絆創膏】と【紙製絆創膏】を表す言い方の区別として設定した4 分類につき、それぞれで対立する2項の言い方(商品名と〈バンソーコー〉、

〈テープ〉と〈テーピング〉)の新古関係に基づいて、その新古関係を《Ⅱ類 b型→Ⅰ類b型→Ⅱ類a型→Ⅰ類a型》と考えた。

そこで、この4分類は、そのような言い方の組み合わせを有する各県のまと まりに対応するため、この4分類を4つの区域として地域差の実態に読み替え る。その際、Ⅰ類a型内の福岡県と大分県の新古の関係を加味して、歴史的に 新しいと考えられる区域から示すと、《福岡県>大分県≫佐賀県・長崎県・熊 本県≫宮崎県≫鹿児島県・山口県》となる(地域差の大小を「>」と「≫」で 区別した)

これは、九州・山口8県が福岡県を中心とする周圏的な地理的関係にあるこ とを示している。ただ、山口県は、福岡県と関門海峡を挟んで隣接するため、

例外にも見える。県単位でなく、北九州市と長門西部(=下関市)を比較しても 傾向は異なる。(11)しかし、隣接するとは言え、周知の如く、福岡方言と山口

(19)

方言は、伝統的な方言区画で九州方言と中国方言に属し、九州内の方言と異な るレベルの対立をなす。このような上位レベルの区画の違いが【救急絆創膏】

【絆創膏】という新しい品物を表す言い方においても認められる一例とすれば、

この福岡県を中心とする周圏的な地理的関係を示す地域差はかなりの妥当性を 持つ。

4.おわりに

[1]本稿は、沖縄県を除く九州・山口各8県に所在する大学・短期大学 16 校の在学生に対して行った、言語使用に関するアンケート調査の結果を報告す るものの一つである。本稿では、山県(2009)で扱えなかった【絆創膏】に関 する項目について、それを表す言い方が地域によってどのように異なるか、ま た【救急絆創膏】を表す言い方との区別のあり様が地域によってどのように異 なるかを報告した。

この場合、最終目的は、後者、【救急絆創膏】と【絆創膏】を表す言い方が 九州・山口地域でどのように区別され、その区別のあり様はどのような地域差 を示すかを報告することであった。以下、3章で述べたことと一部重なるが、

順にまとめる。

なお、本章では、【紙製絆創膏】を表す言い方の回答状況を重視しつつ、【布 製絆創膏】を表す言い方の回答状況も参照して、【絆創膏】を表す言い方一般 についてまとめることとする。

[2]【絆創膏】を表す言い方に見られる九州・山口8県における地域差は、

〈テーピング〉という言い方の回答率の違いによって決定される。

【救急絆創膏】を表す言い方で数種の言い方の有無(70~80%台か 10~20

%台か)が問題になったこととは対照的である。

調査では【紙製】【布製】を別に問い、【紙製】では〈テープ〉の回答率の違 いが絡んで、やや多様な地域差を示した。しかし、【絆創膏】を表す言い方一

(20)

般を問題とすれば、〈テープ〉は地域性が薄く、当該地域で広く使われるため、

〈テーピング〉が地域差(県差)を決定する言い方となる。

即ち、九州・山口地域における【絆創膏】を表す言い方に関する地域差は、

福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県と宮崎県・鹿児島県・山口県に2分 されるというものである。そして、前5県が〈テーピング〉の多い九州西北の 肥筑・両豊方言域、後3県が〈テーピング〉の少ない九州東南の日向・薩隅方 言域と山口方言域となる。

なお、【絆創膏】を表す言い方として〈バンソーコー〉は殆ど使われない。

この点で、〈バンソーコー〉という言い方の意味変化は、対象とした大学生に おいて完了している。基本的に九州・山口地域の大学生が〈バンソーコー〉と いう言い方で指し示すのは、【救急絆創膏】である。(12)

[3]【救急絆創膏】と【絆創膏】は、それぞれどのような言い方で表され、

どのように区別されるか、またその区別のあり様はどのような地域差を示すか についてまとめる。

本論32 章では、九州・山口8県につき、言い方の組み合わせを4分類して 特徴付けをした後、「〈バンソーコー〉―〈テープ〉」という共通語的な言い方 の組み合わせについて述べ、それに関連して一部の県の特徴について触れただ けであった。ここでは、各県での具体的な言い方の組み合わせから述べる。

なお、本論では、【絆創膏】は【紙製絆創膏】の回答を利用した。しかし、

【絆創膏】を表す言い方一般で区別のあり様を考える場合には、〈テーピン グ〉に対して、〈紙テープ〉と〈テープ〉を一括した〈テープ〉が問題となる。

[31]【救急絆創膏】を表す言い方として〈バンソーコー〉、【絆創膏】を表す 言い方として〈テープ〉は全県で一定以上、平均して使われる。

このため、「〈バンソーコー〉―〈テープ〉」がほぼ全域に見られる共通語的 な言い方の組み合わせである。

これに比べると、前項で述べた如く、〈テーピング〉は地域的な偏りがある。

(21)

このため、「〈バンソーコー〉―〈テーピング〉」という組み合わせは広域性に 欠け、宮崎県・鹿児島県・山口県に少ない。

この二組の組み合わせが代表的なものとなるのは、【救急絆創膏】を表す言 い方で〈バンソーコー〉が圧倒的に優位な福岡県である。

他は、【救急絆創膏】を表す言い方の地域性に従う。即ち、〈カットバン〉

〈リバテープ〉の盛んな佐賀県・長崎県及び熊本県では「〈カットバン〉〈リバ テープ〉―〈テーピング〉〈テープ〉」という組み合わせが代表的である。

同じく〈カットバン〉の盛んな鹿児島県・山口県は、【絆創膏】を表す言い 方として〈テーピン〉が少ないため、「〈カットバン〉―〈テープ〉」という組 み合わせが多い。しかし、「〈バンソーコー〉―〈テープ〉」という組み合わせ も、〈カットバン〉を含む、いろいろな組み合わせに劣らない。

大分県・宮崎県は、【救急絆創膏】を表す言い方で〈バンソーコー〉が多い が、〈リバテープ〉〈カットバン〉も少なくない。しかし、【絆創膏】を表す言 い方で両県の傾向が異なるため、大分県では「〈バンソーコー〉〈リバテープ〉―

〈テーピング〉〈テープ〉」という組み合わせが入り乱れる。一方、宮崎県では

「〈カットバン〉〈バンソーコー〉〈リバテープ〉―〈テープ〉」という組み合わ せが混在する。

[32]本論とは逆になるが、以上の如き、九州・山口8県ごとの具体的な言い 方の組み合わせは、【救急絆創膏】では商品名と〈バンソーコー〉、【絆創膏】

では〈テーピング〉と〈テープ〉の回答状況によって、4つの分類にまとめら れ、8県がどれかに配置された。

そして、この分類は、当該地域における【救急絆創膏】と【絆創膏】の区別 のあり様の地域差に換言できる。即ち、九州・山口地域における【救急絆創 膏】と【絆創膏】の区別のあり様に関する地域差は、福岡県・大分県、佐賀県・

長崎県・熊本県、宮崎県、鹿児島県・山口県の如く4区域に区分されるという ものである。

(22)

前項のまとめも兼ね、各区域の特徴を述べると、次の如くである。

福岡県・大分県[Ⅰ類a型=〈バンソーコー〉優位・〈テーピング〉〈テー プ〉拮抗];【救急絆創膏】は〈バンソーコー〉優位であるが、前項の如 く、大分県では〈リバテープ〉も少なくない。このため、Ⅰ類b型以外 の2区域に比べると、均質性が落ちる。【絆創膏】は〈テーピング〉と

〈テープ〉が拮抗する。

佐賀県・長崎県・熊本県[Ⅱ類a型=商品名優位・〈テーピング〉〈テー プ〉拮抗];【救急絆創膏】は〈カットバン〉〈リバテープ〉という商品 名が圧倒的に優位で、【絆創膏】は〈テーピング〉と〈テープ〉が拮抗 する。

宮崎県[Ⅰ類b型=〈バンソーコー〉優位・〈テープ〉優位];【救急絆創 膏】は〈バンソーコー〉が優位であるが、〈カットバン〉〈リバテープ〉

も少なくない。【絆創膏】は、〈テープ〉が優位で、8県の中でも際立つ。

鹿児島県・山口県[Ⅱ類b型=商品名優位・〈テープ〉優位];【救急絆創 膏】は〈カットバン〉が優位であるが、佐賀県・長崎県・熊本県ほど徹 底せず、〈バンソーコー〉も一定の勢力を有する。【絆創膏】は〈テーピ ング〉と〈テープ〉が拮抗する。

更に、本論では、この4区域に新古関係が推定され、地理的な位置関係から も、この地域差の実態は妥当性を持つと判断した。しかし、歴史的な解釈を施 すことは、本稿の目的ではなく、検証しなければならい事項も存するため、こ こでは述べない。

伝統的な九州方言の3区画、即ち、豊日方言・肥筑方言・薩隅方言に4区域 を対応させると、完全に一致する訳ではない。特に豊日方言・肥筑方言との対 応が問題となる。しかし、佐賀県・長崎県・熊本県は均質性が高い。また、こ の4区域の違いも相対的で、特にⅠ類a型の福岡県と大分県に傾向の差があり、

大分県はⅠ類b型の宮崎県と連続的である。従って、【救急絆創膏】と【絆創

(23)

膏】の区別のあり様に見られる地域差は、福岡県を埒外に置くと、伝統的な九 州方言の区画と大きく異なるとまで言えない。また、山口県は、福岡県に隣接 するが、対照的な区別のあり様を示す。九州方言と中国方言の違いに対応する ものと考えられる。

歴史的な解釈の妥当性は今後の課題であるが、地理的に隣接する県どうしが 同じ区域になったり、異なる区域でも地理的に隣接する場合は、類または型が 一致したり、しかし、地理的に隣接する場合でも、九州と本州の如く伝統的な 区画が異なると、その区域どうしが対極的な位置になったりするなど、上記の 地域差はかなり理に叶ったものである。

なお、本稿では県単位で検討した。しかし、注(9)に述べた如く、一部の県 には微妙な県内差が見られた。この点については、今後種々検討してゆきたい。

[4]今後行うべき調査は、山県(2009)に述べた如く、主要な地域に赴いた 面接調査である。その調査内容につき、【絆創膏】を表す言い方について報告 したことを踏まえ、追加的に述べる。

【救急絆創膏】を表す言い方にも関係するが、両者に関係する言い方として

〈バンソーコー〉がある。この言い方が【救急絆創膏】を表すのは、概ね若年 層からどのくらいの年齢層までであるのか、また【絆創膏】を表すのは、概ね どの年齢層以上であるのかなど、緻密さを求めて、世代差調査でなく、年齢差 調査を行うべきと考える。

更に、中年層以上で【救急絆創膏】を表す言い方として〈バンソーコー〉を 使う場合、その正式名称として〈キューキューバンソーコー〉を知っているか、

もし知っていれば、【救急絆創膏】を表す〈バンソーコー〉という言い方とど のような関係にあるのか、また【絆創膏】を表す〈バンソーコー〉とどのよう に区別するのかなどの調査が必要である。注(3)(10)で述べた如く、〈キュー キュー〉の省略形として古くから使われてきたと考えられる〈バンソーコー〉

の存在を確認するためである。

(24)

また【絆創膏】を表す言い方では、〈テーピング〉と〈テープ〉の違いや使 い分けに関する調査が必要である。その際、次の如き記述に接すると、これら の言い方を使い始めた時期やきっかけなどを尋ねる必要性を感じる。

30;福津市・男「中学校の体育祭で使用している人がいて、テープを巻く ことがテーピング(言い方に変な感じはしました)とは分かっていたが、

テープ自身の名称が不明だったので、「テーピング」と言っていた。」

また【絆創膏】を表す言い方として〈ホータイ〉が記されることが多かった。

そこで、【紙製絆創膏】【布製絆創膏】【包帯】の現物を示してそれぞれ何と言 うか、また〈バンソーコー〉と同じく〈ホータイ〉という言い方で何を示すか なども尋ねたい。

本稿で一部紹介した追加調査の他に、面接調査ではないが、中年層・老年層 に対する調査の結果が手元にある。一刻も早くまとめ、問題を絞り込んで、上 記の如き内容の面接調査を行い、九州・山口地域における【救急絆創膏】【絆 創膏】を表す言い方に関する研究に一区切りを付けたい。

5.資料・表の説明

資料-A 調査票のうち、調査場面と本稿で扱う項目に関する部分を示した。

調査票はB4用紙1枚で、山県(2009)で扱ったQ1【救急絆創膏】は表面 左側で、(1)の調査場面の直後、本稿で扱う

Q 8

【紙製絆創膏】・

Q 9

【布 製絆創膏】は裏面右側に位置する。

表-1

有効回答者 1,514 名の属性(性別・年齢・進学先の大学)を九州・山 口8県ごとに集計したもの

・各欄には、その属性の回答者の実数と括弧内に各県出身者全体に対して その回答者の占める割合(百分比・%)を示した。

・「NR」は「No Response」(無回答)である。

・「大学」の欄で、「県内」は該当の県に所在する大学に進学した場合、

(25)

「県外」は該当の県に所在しない大学に進学した場合で、それぞれの回 答者の実数と割合を示した。

表-2・3

【紙製絆創膏】【布製絆創膏】を表す言い方について、九州・山 口8県の回答状況を集計したもの

・各欄には、【絆創膏】を表す各言い方を回答(選択)した数と括弧内に 各地域の回答者全体に対してその言い方を回答(選択)した数の占める 割合(百分比・%)を示した。

・回答数の多い〈テーピング〉〈(紙・布)テープ〉「分からない」につい て母比率の検定(片側検定)を行った。判定結果が、5%未満は「*」 1%未満は「**」を欄内に示した。

表-4

【救急絆創膏】を表す言い方と【紙製絆創膏】を表す言い方について、

九州・山口8県ごとにクロス集計を行い、原則として回答の多い言い方の組 み合わせから5組を示したもの。

・「%」は、それぞれの組み合わせの回答の数が各県出身者全体に対して 占める割合(百分比)である。

・「累計%」は、各組み合わせの割合を上位から合算していたもの。複数 回答であるため、100%を超える場合もある。

【謝辞】

本調査を実施するに際しては、たくさんの先生方にご協力をいただいた。お 名前は、山県(2009)に記したので、本稿では省略させていただく。しかし、

簡略ながら、再度このような形でお礼を申し上げることにする。

【引用文献・参考文献】(本稿に関わる最低限のものに留めた。詳細は、山県

(2009)を参照のこと)

篠崎晃一(1996)「気づかない方言と新しい地域差」『方言の現在』(明治書院)

(26)

――――(1997a)「気づかない方言 1」『日本語学』16-4

――――(1997b)「気づかない方言 2」『日本語学』16-5

山県 浩(2009)「九州・山口地域を中心とする【救急絆創膏】を表す言い方 ―大学 生の実態―」『福岡大学人文論叢』41-2

(1) 本稿では、回答者の属性のうち、出身地に注目して検討する。従って、どの県 でも基本的な属性が一定していることが望ましい。一般的に大学・短大の所在する県の 出身者が最も多くなるため、どの県でも同じような依頼先に同じような回答者の数を指 定して調査を依頼すべきであった。しかし、実際は、依頼先の大学・学部が多様で、回 答者数に大きな差があるため、表-1の如く県ごとに様々な偏りが存する。

例えば、「性」では全体で女子が約7割を占める。特に長崎県・大分県・鹿児島県で は8割以上を占める。これら3県の依頼先が短大や女子学生の多い学部であったためで ある。

「年齢」では、19 歳、次に 18 歳が多く、これらで6割を占めること多い。しかし、

熊本県・山口県では 18・19 歳は5割に至らず、20 歳以上が過半数を占める。これら2 県の依頼先は、大学だけで、専門教育の講義で調査がなされたためであろう。

同じ県の出身者でも、進学した大学・短大が同じ県の場合と異なる県の場合がある。

本稿では、高校卒業までの在住地に基づいて出身地を決定したため、進学先が県内・県 外で異なっても一括して扱う。しかし、回答者の基本データとして、出身県と同じ県の 大学に進学した回答者と出身県と異なる県の大学に進学した回答者を示した(表-1「大 学」の欄、「県内」と「県外」に対応)

一般に県内の大学に進学する場合が多いため、回答者の多い大学(福岡大学(541 名) 熊本大学(186 名)・大分県立芸術文化短期大学(151 名)など)の所在する県は、「県 内」が多く、6割を超える。一方で、一県一大学の調査で、回答者の少ない大学の所在 する県、即ち、佐賀県・宮崎県は、「県外」が多く、6割を超える。また山口県は、2 大学の調査であるが、ともに他県出身者の多い大学であるため、同じく「県外」が6割 を超える。

参照

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