九州・中国8県における 不快感を表す形容語 (下)
大学生の実態
山 県 浩
*目 次 1. はじめに 2. 調査の概要 3. 調査結果・考察
3 1. 項目単位の傾向(以上、前号)
3 2. 地域差の実態 4. おわりに
5. 別表の説明
3 2.地域差の実態
[1]
3 1章では、項目ごとに九州7県及び山口県・広島県における不快感を
表す諸形式の使われ方の特徴を述べ、地域固有形式の有無を第一の基準とする 4〜6グループに9県を分類した。この分類は、項目ごとの、ある基準に基づく9県の地域差の実態でもある。
そこで、本章[2]項では、項目4を除く4項目の分類を統合して、9県の関
*
福岡大学人文学部教授
係のあり方を数量化し、地域差の一形態として9県の関係のあり様を示す。た だ、これは、項目ごとには完結性を持つが、項目どうしは、基準が同一でない ため、まとめることに問題がある。従って、項目全体をまとめた地域差は示さ ない。ここで言う関係のあり様とは、ある基準に基づいて9県の関係のあり方 を数量化したとき、9県が相互にどのような遠近関係にあるかというものであ る。
本稿で地域差と称して示す実態は、当該4項目がどのような言い方によって 言い分けられ、また共通して言い表されるか、つまり項目の区分のあり方に基 づいてまとめたものである(本章[3][4][5]項参照)。
勿論、これは、前章の分類から得られた9県の関係のあり様と比較し、更に 前稿・山県(2007)の結果とも比較する。このように、別の観点、別の調査と 比較することによって、地域差の実態を多角的に捉え、妥当性を検証する。
[2]
3 1章[3]〜[7]項で項目ごとに各県の使われ方の特徴を示し、そ
れに基づいて次の如く9県を分類した。項目1;前髪掛かり a1類;佐賀県・長崎県 a2類;広島県
b1類;福岡県・宮崎県・山口県 b1 類;鹿児島県
b2類;大分県 b2 類;熊本県 項目2;長雨続き
a1類;広島県
a1 類;大分県・宮崎県 a2類;佐賀県・長崎県
b 類;福岡県・熊本県・鹿児島県・山口県
項目3;雨夜の出迎え a1類;広島県
a1 類;大分県・宮崎県 a2類;鹿児島県
a3類;佐賀県
b1類;福岡県・長崎県 b2類;熊本県・山口県 項目4;落ち着きのない子供
a1類;佐賀県・長崎県・熊本県 a2類;福岡県・大分県
a3類;山口県
b 類;宮崎県・鹿児島県・広島県 項目5;疲労感
a1類;山口県 a2類;広島県
b1類;福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県 b2類;大分県
b3類;宮崎県・鹿児島県
基本的には、地域固有形式の有無で
a 類・b 類に二分し、それぞれを共通語 的形式の回答率の違いなどで細分した。このため、地域固有形式を有さない福
岡県・熊本県はb 類に分類されることが多い。逆に地域固有形式が3項目・4
項目に見られる佐賀県・長崎県・大分県・宮崎県・広島県は、a 類に分類され ることが多い。なお、各分類で、どのような言い方がどのように使われているか、その特徴 は3
1章の各項を参照されたい。
[21]回答者の男女比が平均を上回って、女性の方が多い県の場合、この分類
を見直す必要が生じる。
特に、女性の回答者が8割を越える長崎県・大分県・鹿児島県で、回答に男 女差の存する言い方の場合、平均的な男女比を持つ諸県に対して、その回答率 がより高く、またより低く現れることが予想される。
しかし、
3 1章[9
5]項で述べた如く、問題となる3県は、代表的な言い方 に関しては男女差が小さく、また回答率の差があっても20% を越える言い方 は殆どない。このため、分類の見直しは必要ないと判断する。例えば、項目1;前髪掛かりで鹿児島県は、〈ジャマ(イ)〉が〈ウザイ〉と 同じ46.1% で並び、〈ウットーシイ〉(33.6%)より高いことを特徴にして
b1 類とした。しかし、当県の〈ジャマ(イ)
〉の男女差は−10.7% で、女性の方 で高い。そこで、補正の結果によっては、熊本県と同じb2 類(=〈ウザイ〉
が〈ウットーシイ〉〈ジャマ(イ)〉より多い)に改めることも考えた。しかし、
注(11)によって補正しても 2% の減少に留まり、また他の言い方との回答率 の差を考えても、分類を違えるまではないと判断した。
またこれら3県で20% を越える男女差は、項目5;疲労感の大分県〈シン ドイ〉だけである。しかし、この言い方は回答率が24.5% で、対象外である。
たとえ補正をして30% を越えても、当県は、最も高い〈ツカレタ〉(54.0%)
とこれに次ぐ〈ダルイ〉(49.1%)に基づいて分類したため、影響することは ない。
[22]項目4を除く4項目につき、9県ごとに、他の8県と同じ分類に属する か否かを数量化し、集計した(表−6参照)。
具体的には、ある県と別の県を比較して、所属が
a 類・b 類で異なれば、2
点、同じa 類または b 類で、 1〜3の分類が異なれば1点、同じ1〜3でダッ
シュ「 」の有無であれば、0.5点を与えた。従って、ある県が別の県と4項 目すべてで同じ分類になれば0点、すべて異なれば8点となる。なお、この分類は、項目ごとに9県の特徴に基づいて行ったもので、各項目
で完結する。共通するのは、地域固有形式の有無を第一次基準とするなど、基 本的な方針程度である。従って、地域固有形式が2語しかなく、ともに回答率 の低い項目1の分類と、それが4語もあり、回答率の高い言い方を含む項目3 の分類では、
a 類と b 類の違いにしても同じでない。しかし、項目ごとの分類、
即ち、不快感を表す、幾つかの意味ごとの地域差の実態をまとめ、数量化する ことによって、項目ごとの検討で見落とした、新たな側面を浮かび上がらせる ことができる。以下、適宜表−6を参照されたい。
[23]広島県は、九州各県とは当然として、同じ中国地方の山口県とも距離が あり、対象9県の中で孤立する。
即ち、最も低い値で佐賀県との5点、8県の平均が6.56点で、9県で唯一6 点を越える。
九州各県における、値の低い組み合わせは、地理的に隣接する諸県どうしで ある。即ち、福岡県と熊本県、佐賀県と長崎県、大分県と宮崎県、この3組が 最も低い値2点を示す。しかし、一方で、隣接するが、福岡県と大分県、福岡
表−6 不快感4項目における9県分類の数量化
福 岡 県 佐 賀 県 長 崎 県 熊 本 県 大 分 県 宮 崎 県 鹿児島県 山 口 県 広 島 県
福 岡 県 6 4 2 6 5 3.5 3 8
佐 賀 県 6 2 6 5 5 6 8 5
長 崎 県 4 2 5 6 5 7 7 6
熊 本 県 2 6 5 5.5 6 4 3 8
大 分 県 6 5 6 5.5 2 5 7 6
宮 崎 県 5 5 5 6 2 3.5 6 5.5
鹿児島県 3.5 6 7 4 5 3.5 4.5 7
山 口 県 3 8 7 3 7 6 4.5 7
広 島 県 8 5 6 8 6 5.5 7 7
県と佐賀県は、ともに6点で低くない。これは、地域固有形式を持たない福岡 県に対して、佐賀県に〈セカラシイ〉、大分県に〈ヨダキイ〉が存するためで ある。また両語が複数の項目にまたがることも値を高くする。
その他、福岡県が山口県と低い値(3点)で結びつくのは、山口県の特徴が
項目5
〈エライ〉だけで、他に特徴的な言い方が少ないためである。また福岡 県は、長崎県や鹿児島県の方(順に4点・3.5点)が隣接する佐賀県・大分県 より値が低いのもほぼ同じ事情に依る。勿論、長崎県・鹿児島県には〈ヤゼイ〉〈テソイ〉が存する。しかし、両語 は複数の項目にまたがることがなく、両県とも当項目以外では特徴的な言い方 が少ない。このため、福岡県と同じ分類になることが多い。
また熊本県が鹿児島県・山口県と低い値(順に4点・3点)で、大分県・宮 崎県と高い値(順に5.5点・6点)であるのも、当県が福岡県と同じく地域固
有形式を有さないためである。
その他、値と地理的な関係で、鹿児島県と宮崎県(3.5点)も妥当なところ である。鹿児島県は、〈ヨダキイ〉の存在で大分県・宮崎県と分類を異にする が、項目5〈ダルイ〉〈ダレタ〉で一致し、宮崎県と同じ分類となる。
同じ中国地方で隣接しながら、山口県と広島県は値が高い(7点)。広島県 は、〈タイギ〉に加え、項目1〈ジャマクサイ〉によって、4項目すべてで
a 類に分類されたことが大きい。一方、山口県は、先述の如く項目5
〈エライ〉にしか特徴を有さない。
以上、福岡県と長崎県・鹿児島県のような例も見られるが、基本的には、地 理的に近接する県どうしが徐々に結び付き、階層をなす。しかし、広島県は、
それ以外の8県と大きな距離がある。また九州の諸県の中でも佐賀県・大分県 に同様の傾向が見られるものの(8県の平均;佐賀県5.38点、大分県5.31点。
5.3点以上は九州7県で両県のみ。次に高いのは長崎県の5.25点)、隣接する 長崎県・宮崎県を介して九州の枠に収まる。
[24]項目4;落ち着きのない子供は、宮崎県・鹿児島県・広島県に特徴的な 言い方が見られず、他の6県と区別されるなど、他4項目と異なるところがあ る。
資料として示さないが、本項目を加味した全5項目の値も算出した。しかし、
最大で2点の増加であるため、地理的に隣接する県どうしの値が低いことに変 わりはない。また隣接する福岡県と佐賀県、福岡県と大分県、更に広島県と他 8県は、値が高いままか、少し高くなる。
以上、
3 1章に示した4または5項目の分類に基づいて9県の関係のあり方
を数量化し、9県相互の遠近関係として示した。連続的な数値であるため、9 県をグループ化して、何らかの地域差を示すことはしない。しかし、不快感を 表す諸形式の使われ方の特徴に基づいた関係のあり様として、広島県や佐賀 県・大分県など、若干の例外を含むが、地理的な隣接性を基本とする一つの地 域差が見て取れる。[3]地域差の記述のための基準はさまざま存する。本稿では、
項目1
・2
・3
・5の4項目について、これらがどのような言い方によってどのように言い表さ
れるかを基準にして地域差の実態をまとめる。注(12)
具体的には、これら4項目が、県ごとに、どのような言い方によって言い分 けられ、またどのような言い方によって共通して言い表されるかを検討して各 県を特徴付ける。この4項目の区分のあり方に基づいて9県をグループ化した ものを地域差の実態として示す。
例えば、4項目すべてを異なる言い方で区別する場合、また、4項目のうち、
項目1
・2は同じ言い方で表すが、項目3
・項目5はそれぞれ別の言い方で表 す場合など、区分のあり方はいくつか考えられる。そして、この区分のあり方 によって9県がいくつかにまとめられる。更にそれらのグループは相互にどの ように関連するのかを考察する。またこの地域差の実態について、前項の9県の関係のあり様と比較し、更に
九州・山口8県は、前稿・山県(2007)における区分のあり方と比較する。
[31]項目の区分のあり方を検討する際、各項目で回答された言い方は複数存 するため、どの言い方までを対象とするかによって結果が異なる。
本稿では、これまで通り回答率30% 以上の《一定の回答率を持つ、安定し た言い方》に基づいて検討する。従って、例えば、項目1・
2両方である言い
方が30数%の回答率であれば、他に50% 台・60% 台の言い方が各項目にあっ たとしても、項目1と項目2は同じ言い方で共通して言い表されることにな る。共通する言い方が各項目でどのような位置の回答率であるかに触れること もあるが、この点まで配慮した区分ではない。このため、本稿の最終的な地域 差の実態を示すとは述べたが、これもある基準による地域差の一形態に留まる。なお、女性の比率の高い県で補正を行った結果、30% を切って対象外にな る言い方が存する可能性もあった。しかし、実際は、本章[21]項で述べた通 り、そのような言い方は存しない。そこで、これまでの言い方に基づいて検討 する(論末、図−!
〜
"参照)。[4]9県すべて項目1;前髪掛かりと項目2;長雨続きは、ともに〈ウザイ〉
〈ウットーシイ〉などによって共通して言い表される。
更に項目1・
2に項目3
;雨夜の出迎えが加わり、3項目が共通する県もある が、項目1と項目2がある言い方で共通する点で県による違いはない。この場合、
項目1は、
〈ジャマ(イ)〉が全県で30% 以上で使われるなど、固 有な言い方を持つ。一方、項目2は、福岡県・熊本県・鹿児島県・山口県で〈ウザイ〉または〈ウットーシイ〉以外に30% 以上の言い方が存しない。こ のため、当4県では項目1と項目2の重なりが大きい。この点で両項目の重な り方に関して県による違いが存しない訳ではない。
その他、項目2と項 目3は、4県(佐 賀 県・大 分 県・宮 崎 県・広 島 県)で
〈ヨダキイ〉〈タイギ〉など、項目3と項目5;疲労感は、6県(熊本県・大分 県・宮崎県・鹿児島県・山口県・広島県)で〈ダルイ〉などによって共通して
言い表される。
なお、共通する言い方を持つ場合でも、項目3・
5にはそれぞれ固有な言い
方、即ち、〈メンドイ〉〈メンドークサイ〉などの面倒系の言い方や〈キツイ〉〈ツカレタ〉〈ダレタ〉などの言い方が存する。このため、項目2が項目1に 包み込まれるような事例は、他には見られない。
また3項目以上が共通するのは、佐賀県で〈セカラシイ〉による項目1・
2
・3
、広島県で〈タイギ〉による項目2・3
・4である。従って、共通する言い方
がない、即ち、重なることのないのは、項目1と項目5だけである。
[41]福岡県・長崎県は、項目1と項目2が〈ウザイ〉と〈ウットーシイ〉ま たは〈ヤゼイ〉で共通するが、他に項目間に共通する言い方がなく、4項目が 3区分される(図−!
・
"参照)。長崎県は、項目2で〈ユーウツ〉が34.3% と一定の回答率を有する。この ため、項目1と項目2は、〈ウザイ〉〈ヤゼイ〉で共通するとともに、前者に固 有な言い方〈ジャマ(イ)〉〈ウットーシイ〉、後者に固有な言い方〈ユーウツ〉
によって区別される。
一方で、福岡県は、項目1に固有な言い方〈ジャマ(イ)〉が存するが、項
目2には存しない。このため、項目2が項目1に包み込まれる。この点で福岡
県では項目1と項目2の区別は分明でない。なお、長崎県を特徴付ける〈ヤゼイ〉は、項目3で27.8% である。後に前 稿との比較で触れるが、もし30% を越えていれば、佐賀県と同じ区分のあり 方となる。このため、4項目を3区分するグループ内にも微妙な差が存し、3 区分の典型は福岡県となる。
[42]熊本県・鹿児島県・山口県は、項目1と項目2が〈ウザイ〉などで共通 する上に、項目3と項目5が〈ダルイ〉で共通するため、4項目が2区分され る(図−#
・
$・
%参照)。項目1と項目2の重なり方は3県とも福岡県の場合と同一である。即ち、共
通する言い方が〈ウザイ〉〈ウットーシイ〉2語(熊本県)か、〈ウザイ〉1語
(鹿児島県・山口県)かの違いだけで、3県とも項目2に固有な言い方は存し ない。
一方、項目3と項目5は、項目1と項目2に比べると、重なりが小さい。即 ち、それぞれに固有な言い方は、
項目3で3県とも〈メンドイ〉など各々2語、
項目5で熊本県・鹿児島県に〈ツカレタ〉など各々2語、
山口県に〈ツカレタ〉〈キツイ〉など4語存する。更に共通する〈ダルイ〉は、殆どの場合、固有な 言い方より低い。例外は、鹿児島県の項目5で、〈ダルイ〉は55.3% で最も高 いが、次が〈ツカレタ〉46.1%・〈ダレタ〉32.3% である。例外とは言え、〈ダ ルイ〉の回答率が特別に際立つ訳でない。
また、鹿児島県に特徴的な〈テソイ〉は項目3、山口県に特徴的な〈エライ〉
は項目5に限定されるため、区分に関与しない。他の項目で〈テソイ〉は概ね 10% 前後、〈エライ〉は選択肢として準備しなかったが、その他の言い方とし
て記されることはない。
[43]佐賀県は、〈セカラシイ〉によって項目1・2・3が共通し、項目1と項
目2は、更に〈ウザイ〉でも共通する。従って、項目5が〈キツイ〉
〈ツカレ タ〉などの言い方で孤立し、熊本県・鹿児島県・山口県と異なる形で4項目が 2区分される(図−!参照)。当 県 を 特 徴 付 け る〈セ カ ラ シ イ〉の 回 答 率 は、項 目130.6%、項 目2 32.7%、項目338.8% の如く、微妙なものを含む。この回答率が示すように
項目1では〈ジャマ(イ)
〉(64.3%)・〈ウザイ〉(56.1%)、項目2では〈ウザ イ〉(44.9%)、項目3では〈メンドイ〉(52.0%)の方が回答率が高い。また項目2は固有な言い方を有さないため、項目1に包み込まれる。項目3には、
他に固有な言い方として〈メンドークサイ〉(31.6%)が存するため、項目3 と項目1または項目2との重なりは小さい。しかし、項目1と項目3がある言 い方で共通するのは、本県だけである。
[44]大分県・宮崎県の区分は、熊本県・鹿児島県・山口県の[項目1・2 対
項目3・5
]という2区分から項目2と項目3が〈ヨダキイ〉で共通する ことによって生じたものである(図−!・
"参照)。即ち、4項目が〈ウザイ〉または〈ウットーシイ〉、〈ヨダキイ〉、〈ダルイ〉
で連鎖し、一体化する。
重なり方に関する両県の違いは、項目1と項目2に共通する言い方が大分県 で〈ウットーシイ〉、宮崎県で〈ウザイ〉となる点だけである。
また各項目に固有な言い方は、項目2に存さず、項目1で両県とも〈ジャマ
(イ)〉など各々2語、項目3で両県とも〈メンドークサイ〉の1語、項目5で 大分県に〈ツカレタ〉〈キツイ〉の2語、宮崎県に〈キツイ〉〈ダレタ〉など4 語見られる。
両県を特徴付ける〈ヨダキイ〉は、項目2と項目3に共通する。回答率で、
大分県は順に39.3%・41.1% とほぼ同じであるが、宮崎県は順に41.4%・
57.1% の如く、項目3の方が高い。その他、〈ヨダキイ〉は項目5で大分県 28.2%・宮崎県21.4% である。特に大分県は微妙で、もし30% 以上となれば、
次項の広島県と同じく、項目2・3・5が一つの言い方で共通することになる。
以上の如き両県の回答率の違いがどのような〈ヨダキイ〉の意味の差に基づ くかは、今後の課題である。
[45]広島県の区分は、熊本県・鹿児島県・山口県の2区分から項目2・3・5 が〈タイギ〉で共通することによって生じたものである(図−#参照)。
4項目を1区分とする区分のあり方は、大分県・宮崎県のあり方と同一であ る。しかし、両県は〈ヨダキイ〉によって項目2と項目3が共通したが、当県 は項目2・3・5が〈タイギ〉で共通するとともに、項目3と項目5は〈ダル イ〉でも共通する。注(13)このような重なり方の違いを重視して、広島県は大分 県・宮崎県と別グループとした。しかし、両グループの違いは、他の3グルー プとの違いほど大きくない。
その他、項目1と項目2が〈ウザイ〉で共通するのは、他の多くの県と同一 で あ る。ま た 固 有 な 言 い 方 は、項 目2に 存 さ ず、項 目1で〈ジ ャ マ(イ)〉
〈ウットーシイ〉など3語、項目3で〈メンドイ〉の1語、項目5で〈シンド イ〉〈ツカレタ〉など3語存する。なお、項目2と項目5がある言い方で共通 するのは、本県だけである。
[46]項目4;落ち着きのない子供は、回答率が全体的に低く、30% 以上に限 定すると、他4項目と対等な検討が行えない。このため、図−!
〜
"に項目4 は含めなかった。項目4は、当項目だけの〈メザワリ〉
〈サワガシイ〉などの言い方が存する 一方、当項目を設けた経緯(2章[3
2]項参照)から項目1・2と共通する言 い方〈ウザイ〉〈ウットーシイ〉が多い。従って、項目4を加えると、佐賀県 を除く8県は、項目1・2と共通することになる。佐賀県は項目4でも〈セカ ラシイ〉が32.7% で最も高いため、項目1・2・3・4が共通することになる。その他、当項目は、熊本県で〈セカラシイ〉(38.5%)、大分県で〈シャーシ イ〉(37.4%)が特徴的である。しかし、両語とも項目1・2では 5% 未満で あるため、当項目に固有な言い方となる。
従って、たとえ項目4を加えても、対象9県が区分のあり方によって[福岡 県・長崎県][佐賀県][熊本県・鹿児島県・山口県][大分県・宮崎県]
[広島県]の5グループにまとめられることに変わりはない。このことに加え、
図が煩雑になるため、項目4は除外した。
[5]項目1・2・3・5の4項目の区分のあり方に従って、[4]項では5グルー プごとにその区分の実態を示した。
それらが相互にどのような関連を持つかをまとめたものが、図−1である。
これは、[福岡県・長崎県]の区分を基本にして、どの項目にどの言い方が加 わることによって、どのグループの区分になるかを示したものである。言い換 えると、4項目を3区分する[福岡県・長崎県]が起点になり、どの項目がど
の言い方で共通するようになるかを示したもので、区分の少ないグループの方 に矢印が向く。
従って、これは、歴史的な前後関係を示さないことは明らかである。あくま でも、若年層を対象にした結果、即ち、各地の伝統的なあり方から共通語や新 方言の使用など、様々な変化を遂げた姿である。そして、矢印で示した流れは、
このような現在の若年層のあり方を共時的に見たとき、どのような関係にある か、つまり、区分に関わる言い方がどのように加わったか、換言すると、各々 の区分がどの言い方によって結び付くかを示したものである。
勿論、問題となる言い方が地域において伝統的方言であるか新方言であるか、
また伝統的方言でもどのような意味変化が関わっているかによって、歴史的な 関係は定められる。
例えば、[福岡県・長崎県]と[佐賀県]の場合、図−1では、[福岡県・
長崎県]の区分の項目1・2・3に〈セカラシイ〉が加わることによって[佐賀 県]の区分になるという意味で矢印「→」を記した。しかし、〈セカラシイ〉が
図−1 不快感4項目区分の関係図
項目1・2・3 セカラシイ
福岡県・長崎県 佐賀県
項目3・5 ダルイ 熊本県・鹿児島県・山口県
項目2・3 項目2・3・5
ヨダキイ タイギ
宮崎県・大分県 広島県
関わる箇所だけを言えば、福岡県や長崎県で伝統的方言である〈セカラシイ〉
が衰退して、佐賀県の実態から福岡県・長崎県の実態に至ったという歴史が考 えられる、云々。
[51]
3 1章に示した項目ごとの分類、更にそれに基づいた本章[2]項の関
係のあり方は、地域固有形式すべてについて、その有無を重視したものであっ た。一方、本章の4項目の区分のあり方では、同じ地域固有形式でも、複数の項 目に共通する〈セカラシイ〉〈ヨダキイ〉〈タイギ〉は、特定の項目だけの〈ヤ ゼイ〉〈テソイ〉〈エライ〉と異なり、重要な存在であった。また共通語出自の
〈ダルイ〉も複数の項目に共通するため、重要であった。
従って、複数の項目に共通する〈セカラシイ〉〈ヨダキイ〉〈タイギ〉や〈ダ ルイ〉が規定の回答率以上となる各県は、図−1の如く[福岡県・長崎県]と は別グループとなった。
このように基準が異なるとは言え、同じデータに基づくものである。このた め、4項目の区分のあり方によるグループ分けは、
3 1章の分類に基づいた9県
の関係のあり方と比較しても著しい違いは見られない。[52]9県の関係のあり方を数量化した値によって、[福岡県・長崎県][佐 賀県][熊本県・鹿児島県・山口県][大分県・宮崎県][広島県]という5 グループを見直すと、結果的に5点以上の県どうしが同じグループになってい ないことが知られる(表−6・図−1参照)。
特に大分県と宮崎県が同グループをなすこと、広島県だけでグループをなす ことは、値から首肯できる。大分県と宮崎県は、ともに特徴的な〈ヨダキイ〉
のためである。しかし、大分県は、項目5の回答率によっては、4項目の区分 のあり方は変わらないが、重なり方で広島県と同様になる。
一方、宮崎県は、鹿児島県と3.5点で、近い関係にある。これは、主として
項目5における〈ダルイ〉
〈ダレタ〉の共通性による。しかし、これら2語は複数の項目に関わることがないため、4項目の区分に関係しない。このため、
宮崎県と鹿児島県は別グループとなった。
佐賀県は、2点であった長崎県と別グループである。これは佐賀県でなく、
長崎県の方に問題がある。即ち、長崎県で項目3の〈ヤゼイ〉は僅かに基準の 回答率30% に達しないため、
項目3が項目1・2と重ならなかった。その結果、
4項目が3区分され、結果的に、4点で、佐賀県の次に点数の低い福岡県と同 グループをなした。一方、佐賀県は、長崎県以外の諸県とは5点以上で値が高 いことを反映し、一県でグループをなすのであろう。
4点である福岡県と長崎県が同じグループになることは、値の上で、熊本県・
鹿児島県・山口県が同じグループになることと同一である。先の関係のあり方 では、福岡県・熊本県・山口県が2〜3点で近い関係にあり、その次にこれら 3県は鹿児島県と3.5〜4.5点の関係にあった。しかし、区分のあり方では、福 岡県と熊本県・鹿児島県・山口県が異なるグループになった。これは、項目3 の〈ダルイ〉の回答率が異なり、項目3と項目5が共通するか否かという違い が 存 す る た め で あ る。確 か に 福 岡 県・長 崎 県 と も
項 目3の〈ダ ル イ〉は、
23.5%・24.3% で、基準の30% には遠い。しかし、佐賀県の15.3% より高 く、[熊本県・鹿児島県・山口県]のグループ寄りである。
以上、同じデータを異なる基準で整理した結果であるため、全く異なる関係 のあり方やグループ分けになることはあり得ない。しかし、比較することによっ て本稿で地域差の実態と称する9県の5分類も、佐賀県と長崎県、大分県と広 島県など、グループを異にする県どうしの結び付きの存在が再認識できた。
[6]前稿・山県(2007)では、
1章[2]項に述べた如く、対象とした県ご
とに7項目の区分を示すだけで、それらの区分がどのような関連を持つかを述 べなかった。データに不安があったためでもあるが、回答者の少ない諸県では対象とする 言い方が多数存して、まとめられなかったことも大きい。
本稿で一つの目安を提示したので、比較のため、共通する4項目につき、前 稿で40% 以上の言い方を対象に各県の区分のあり方をまとめた。
これら4項目の区分のあり方について本稿と前稿を比較すると、広島県を除 く8県で、一致するのは、福岡県・佐賀県・大分県・鹿児島県・山口県の5県、
一致ないのは、長崎県・熊本県・宮崎県の3県である。また区分のあり方が一 致する5県でも共通する言い方が異なる場合もある。
そこで、以下、それらの違いは、どの項目の、どの言い方で、何に原因する かを述べる。またこの過程で本稿において回答率30% 以上の言い方を対象に 検討したことによって見落とした事項を掬い上げる。
なお、共通する4項目(項目1・2・3・5)は、前稿では順に項目 e・a・g・
b
と称した。3 1章ではこの略称を用いたが、ここではすべて本稿の項目1〜5
で統一する。[61]区分のあり方が一致しても、複数の項目に共通する、要になる言い方が 異なる場合がある。
福岡県・山口県はすべてで一致するが、佐賀県・大分県・鹿児島県は共通す る言い方が異なることがある。本項では、後者3県について略述する。
佐賀県は、項目1・2・3が〈セカラシイ〉で共通した。しかし、前稿ではこ れら3項目が〈ウザイ〉で共通する。〈セカラシイ〉は項目2・3で共通するだ けである。これは前稿における項目3の〈ウザイ〉の高さ、項目1の〈セカラ シイ〉の低さのためである。
項目3における〈ウザイ〉の回答率の高さは、 3 1章[5
2]項でも触れた。前 稿では、特に佐賀県・長崎県で高かったが(順に44.8%・63.2%)、本稿では 両県とも30% に達しない。しかし、他7県より高い傾向は見られる(長崎県 22.5%・佐賀県19.4%・広島県16.7%・福岡県13.2%・熊本県12.6%・山口 県6.3% …)。前稿における項目1の〈セカラシイ〉の回答率の低さ(37.9%)は、本調査でも項目1の回答率が3項目の中で最も低く(30.6%)、同傾向で
ある(本章[43]項参照)。
大分県は、本稿で4項目が〈ウットーシイ〉〈ヨダキイ〉〈ダルイ〉で順に繋 がっていた。しかし、前稿では項目3と項目5が〈ダルイ〉でなく〈ヨダキイ〉
で共通する。これは、一つに〈ダルイ〉が項目3で40% 未満(35.3%)であ るためである。一方、〈ヨダキイ〉は全般に回答率が高く、項目2・3・5は順 に85.7%・76.5%・42.9% で、これら3項目が共通する。しかし、項目5の 低さが際立つ。
本稿の〈ヨダキイ〉も同傾向で、項目2と項目3はほぼ同じ回答率である が、項 目5は30% 未 満 で あ る(項 目239.3%・項 目341.1%・項 目5 28.2%、本章[44]項参照)。
鹿児島県は、項目3と項目5に共通する言い方が〈ダルイ〉だけであった。
前稿では更に〈テソイ〉が加わる。この場合、その回答率は、項目358.8%、
項目55
0.0% の如くいずれも高い。しかし、当県の回答者は、項目3は17名 であるが、項目5は6名に過ぎない。なお、本稿の〈テソイ〉は、項目3で35.5% であるが、項目5で17.1% に 過ぎない。このため、先の〈セカラシイ〉〈ヨダキイ〉の如き、基準とした回 答率を挟んだ、微妙なユレとは事情を異にする。
以上、複数の項目に共通する言い方が異なる場合、問題となる言い方は、多 く、回答率の僅かな差と基準の設定が関わるもので、本稿と前稿の傾向は基本 的に一致すると言える。また前稿で当該県の回答者が少ないことも関係する。
[62]区分のあり方の一致しない場合も、本稿と前稿の傾向に根本的な違いが 存する訳ではない。
区分のあり方に違いを生むことになった言い方は、前項と同じく、その回答 率が両稿で基準とした値を僅かに上回るか下回るもの、前稿で回答者の少ない 諸県の項目のもので、説明の付かないものは稀である。
[621]長崎県は、項目1・2が〈ウザイ〉〈ヤゼイ〉で共通し、項目3・5は独
立していた(図−!参照)。
しかし、前稿では項目3でも〈ウザイ〉〈ヤゼイ〉の回答率が高く(順に 63.2%・57.9%)、項目1・2・3が共通して、[項目1・2・3 対
項目5
]の如く2区分される。
本稿・項目3における当県の〈ウザイ〉は、22.5% で、前稿との違いは説 明できなかった(
3 1章[5
2]項参照)。この点は今後の課題である。一方、項目3の〈ヤゼイ〉は2
7.8% で、基準を僅かに下回るだけである。〈ヤゼイ〉の 回答率によっては、佐賀県と同じく項目1・2・3が共通することはすでに述べ た。[622]熊本県は、項目3・5が〈ダルイ〉で共通した(図−"参照)。しかし、
前稿では項目3の〈ダルイ〉が29.4% と低いため(項目561.5%)、対象外 となり、[項目1・2 対
項目3
対項目5
]の如く3区分される。本稿は、項目3と項目5が〈ダルイ〉で共通するとは言え、項目335.6%、
項目54
7.4% の如く、項目3の方が項目5より低く、前稿と同様の傾向を示 す。一方、項目3は〈メンドイ〉55.6%、項目5は〈キツイ〉71.1% で最も高 く、〈ダルイ〉は両項目に共通する言い方ながら、いずれでも項目で中心的な 位置にない。この点も前稿と同様である。
[623]宮崎県は、4項目が三つの言い方で共通し、一体化していた(図−"
参照)。これに対して、前稿は項目2の〈ヨダキイ〉が33.3% と低いため、項
目1・2と項目3・5が分かれて、4項目が2区分される。
また項目3と項目5が〈ダルイ〉で共通する点は一致するが、更に項目5で 回答率50.0% の〈ヨダキイ〉が〈ダルイ〉に加わる。
まず、前稿における項目2〈ヨダキイ〉の回答率の低さは、後述の如く、前 稿の大分県及び本稿の大分県・宮崎県の項目2・3・5における〈ヨダキイ〉の 回答状況から判断して不自然である。
3 1章[4
2]項でも述べたが、この33.3%という値は、6名という回答者の少なさに僅かな回答ミスが加わって生じた誤 りと考える。
一方、本稿では項目2・3の〈ヨダキイ〉は、順に41.4%・57.1% で、両項 目で最も高い。一方、
項目5は2
1.4% と低く、この3項目の回答状況は[61]項で述べた大分県のそれと同一である。
同じく[61]項で述べたが、前稿でも大分県は項目2・3に対して項目5は 低い(順に85.7%・76.5%・42.9%)。しかし、宮崎県の場合、繰り返すこと になるが、項目233.3%、項目381.8%、項目550.0% で、項目2が特異 である。項目2を除くと、項目3と項目5の違いは大分県に類する。
[63]本稿と前稿で共通する4項目につき、それらの区分のあり方を比較した。
区分のあり方の異なる場合に加え、区分が同一でも共通する言い方が異なる 場合も検討した。結果的には、いずれも特定の言い方の回答率が両稿で異なる ことが原因である。しかし、この場合、その言い方の他の項目での回答率、同 じ項目の他の言い方の回答率などと比べて傾向を捉えると、本稿と前稿に本質 的な違いは認められない。また鹿児島県の項目5や宮崎県の項目2など、前稿 で回答者の著しく少ない県・項目の言い方である場合も存した。
本稿側の問題で解決しがたいのは、佐賀県・長崎県の項目3〈ウザイ〉の回 答率の低さ程度である。
以上の如く、区分のあり方、更にそれを決定する、幾つかの要になる言い方 の回答状況につき、本稿と前稿を比較した。しかし、両者の間に問題になる違 いは存在しない。両稿の依った調査は、対象・規模とも大きく異なる。しかし、
この一致によって、4項目の区分のあり方に関しては、特に本稿の実態は、各 県の言葉の実態をかなり正確に反映していると判断することができる。
4.おわりに
[1]不快感を表す諸形式の使われ方につき、九州7県と山口県における県内
の地域差を報告する稿の前準備として、調査項目全体・調査地域全体の特徴を 記述するものとして、種々述べた。
基本的には、不快感を表す諸形式につき、九州7県及び山口県・広島県にお ける、それらの使われ方の特徴をまとめ、次稿の県内差の記述に際しての基準 とした。そして、調査地域の全体相として、対象項目の区別のあり方に基づい て対象9県の地域差の実態を示した。
その中で、男女差の実態を述べたり、前稿・山県(2007)の結果と比較を行っ たりした。
章・項目ごとにまとめを行っているので、改めてここで詳細は述べない。今 後の課題と併せ、述べ来たった事項を略述する。
[2]
3 1章は、項目単位での検討を基本とし、項目の順に従って、県ごとに不
快感を表す諸形式の使われ方の特徴を述べ、項目ごとに地域差を9県の分類と いう形で示した。別稿では分類の根拠とした県ごとの使われ方の特徴を基準にして、それから の偏差という形で県内各地の使われた方をまとめ、各県の地域差(県内差)を 記述する。
この場合、県内各地の違いだけでなく、県が異なっても、隣接する地域どう しを見比べる必要がある(注(6)の佐賀県と福岡県筑後地域との関連など)。 若い世代の実態でも、【救急絆創膏】を表す言い方に一部見られた如く、伝統 的な方言区画に従う場合も存するためである。また、これは、本稿で示した、
県単位での地域差を見直すことにもなる。
なお、県全体の数値は、注(6)で述べた如く、回答者の多い、県庁所在地の 都市出身者に左右されることが多い。そこで、県内差を示すことで、初めて調 査地域全体の姿が示せることになる。
[21]
3 1章に付記のような形で添えた男女差に関する考察は、論を進める上
で最低限のものに留まった。代表的な言い方について述べただけである上、二項対立であるにも関わらず、
検定も行っていない。また男女差が見られる場合、なぜその言い方にそのよう な差が見られるかまで触れなかった。更に〈ウザイ〉など、男女差の大きい言 い方は、注(11)の補正に依らず、男性だけ、女性だけで県差などの地域差を 検討する必要がある。
[22]回答者の属性に関わる問題として、在学している大学・短期大学は、出 身県内にあるか、県外にあるか、また4年制大学であるか、短期大学であるか なども、言語接触に関わる環境の点から無視できない。
地域差も生育地という属性の問題である。以上の如く複数の属性が関係する ため、本稿で扱った回答率の如き、クロス集計に基づく考察には限界がある。
別の解析方法を利用しなければならない。
[3]
3 2章では、各項目がどのような言い方によって言い分けられるか、また
言い分けられず、複数の項目がどのような言い方によって共通して言い表され るかなど、項目の区分のあり方をまとめ、その区分のあり方に基づいて対象9 県の地域差の実態を示した。それは、図−1の如く、九州7県及び山口県・広島県が[福岡県・長崎県]
[佐賀県][熊本県・鹿児島県・山口県][宮崎県・大分県][広島県]とい う5グループに分かれるというものである。
この前提となる各県における4項目の区分のあり方は、ある基準で絞り込ん だ言い方に基づくものであった。しかし、前稿の結果と比較したところ、これ は各県の言葉の実態をかなり正確に反映していると判断できる。
この場合、福岡県が4項目を3区分するグループでも典型的なあり様を示し、
ある意味で対象9県の要の位置にあった。これは、山県(2010)で【救急絆創 膏】を表す言い方と【絆創膏】を表す言い方の組み合わせにおいて福岡県が最 も新しい組み合わせの型であることと軌を一にする。
本稿で扱った不快感は、人間の基本的な感覚・感情である。このため、それ
らを表す言い方の歴史は、【救急絆創膏】【絆創膏】を表す言い方の歴史とは比 べものにならないほど深い。しかし、高度経済成長期以降、地域語を取り巻く 社会的な変化は著しい。このような中で、本調査が対象とした、九州・山口地 域における若い世代の言語相で福岡県、更に本稿では言及しなかった福岡市の 持つ言語的な位置は、対象とする意味・事象に関わらず、一定して当該地域の 要になるのではないかと考える。
[31]区分のあり方に基づいて地域差の実態を示したが、基準を含め、その方 法にいろいろな課題が残った。
例えば、佐賀県の〈セカラシイ〉の如く30% 台の回答率で複数の項目に共 通する場合も、広島県の〈タイギ〉の如く50〜80% もの回答率で複数の項目 に共通する場合も、同じように扱った。また同じ言い方でも項目によって回答 率が異なる。30% 以上の回答率で共通することだけでなく、その回答率や項 目に固有な言い方の回答率を考慮し、項目どうしの重なり方の違いを踏まえて 区分のあり方を示すには至らなかった。
従って、本稿で示した地域差の実態と称するものは、あくまでも、ある基準 でデータを整理したときの、ある分類に基づくものである。
[32]各グループの関連は、各グループの区分のあり方を共時的に比較し、ど の項目にどの言い方が加わることによって、別のグループの区分のあり方にな るかというものである(図−1参照)。
また図の矢印は、論中述べた如く、歴史的な前後関係を示すものではない。
勿論、本稿の限りでも、加わる言い方の性格を考えると、前後関係に言及する ことは可能である。しかし、歴史的な関係は、〈セカラシイ〉に関する一例を 紹介するに留め、今後の中年層・老年層に対する調査を俟って、遺漏のない形 で論じたい。
[33]項目どうしの関連、即ち、意味の違いに触れる余裕がなかった。
重なり方という点で、項目1;前髪掛かりと項目2;長雨続きは9県、項目
2と項目3
;雨夜の出迎えは4県、項目3と項目5;疲労感は6県である言い 方で共通するなど、差が認められる。また重なる場合、複数の項目に共通する言い方が存する一方、どの項目にも 固有な言い方が見られた。しかし、項目2は、長崎県に〈ユーウツ〉が存する だけで、他8県は、項目1と共通する〈ウザイ〉〈ウットーシイ〉である。こ のため、4県では項目2が項目1に包み込まれる。
以上の如く、項目1と項目2は、意味的に近接することは明らかである。実 際、注(12)の如く、両項目とも自己の行動が関わらない、受動的で、外界の 事態に原因する感覚的・精神的な不快感が問題となる。また対象としなかった
項目4
;落ち着きのない子供も、項目2とほぼ同様の形で項目1に包み込まれ る。項目1とは、触覚か聴覚の違いだけで、視覚に障る点で共通し、「うるさ さ」が問題になる。これらに対して、項目2と項目3は、自身の行動が関わるか否かで異なる。
このため、重なりが少ないかと予想した。しかし、4県、〈セカラシイ〉〈ヨダ キイ〉〈タイギ〉で共通する。
項目2は雨が関わり、精神的に停滞するため、何もしたくなくなる。このこ
とが項目3の面倒で、ある行動をしたくない気持ちに繋がるのであろう。また項目3と項目5は、精神と肉体で、別レベルの問題であるように思える。
しかし、重なりが多く、6県すべてで〈ダルイ〉が共通する(広島県は更に〈タ イギ〉)。これも「だるい」の「病気や疲れなどで体が重苦しく、動くのがつら いと感じる」(明鏡国語辞典・第2版)・「(発熱や疲れなどで)体に力がなく動 かすのがつらい感じである」(学研現代新国語辞典・改訂第4版)などという 意味から、項目3の面倒で、したくない気持ちは繋がる。
一方で、項目1と項目3は、佐賀県のみで重なり、項目2と項目5は広島県 のみで重なる。これは、両項目以外に、項目2でも共通する〈セカラシイ〉、
項目3でも共通する〈タイギ〉の持つ広義性のためもあろう。項目1と項目3
は、具体的な外的要因に依る嫌な感じで共通し、項目2と項目5は、精神的・
肉体的原因は別にして、何もしたくない気持ちで共通する。
対象とした4項目で、唯一重なることのないのは、項目1と項目5である。
〈セカラシイ〉〈タイギ〉の如く、両項目以外で重なる項目があれば、連続性 で説明できる。しかし、この両項目だけを考えると、したくなさが項目1で問 題にならないため、項目5と共通する言い方が存在し得なかったのであろう。
以上、解釈にゆれのない質問文を目指したが、不備なところがあったため、
様々な解釈を許したようである。これも不快感という抽象的な意味をアンケー ト調査で捉えようとする難しさである。この点で、岸江他(2011)の「「わず らわしい・面倒くさい」というのをどういいますか」(p.354)などの共通語 形だけを示す質問文は、さまざまな解釈を許すため、危うさを感じる。
実際、当言語地図(図10 p.367)では九州7県や山口県・広島県には〈ウ ザイ〉〈ウザッタイ〉が〈メンドイ〉〈メンドークサイ〉と並んで多数見られ る。しかし、本稿の項目3;雨夜の出迎えで〈ウザイ〉は長崎県の22.5% を 最高値とするだけで、〈メンドイ〉〈メンドークサイ〉が圧倒的である。
[34]いろいろな場面で前稿・山県(2007)の結果と比較を行った。
前稿で回答者の少ない県・項目に相違が見られることがあったが、回答の傾 向は概ね一致した。
従って、結果的に相互に検証することになり、本稿の依る調査はかなり信頼 できること、前稿の調査の信頼性も侮れないことが示せた。
勿論、項目3における佐賀県・長崎県の〈ウザイ〉など、調査で注目した言 い方であるのにも関わらず、解決できていない相違も存する。ただ、この問題 は、アンケート調査の範囲を超えている。今後は現地調査で解決しなければな らない。
[35]本稿の依る調査は、山県(2006)と同じく〈ウザイ〉の実態を明らかに することを目的の一つとしていた。
注(7)で〈ウザッタイ〉とともにすべての回答率を示したが、何も触れるこ とはなかった。また3
1章[9
3]項で述べた如く〈ウザイ〉における男女差は 群を抜いて大きい。〈ウザイ〉〈ウザッタイ〉に特化した論を設け、その使用に つき、生育地・性・在学校など、様々な属性との関連も考察する予定である。[4]アンケート調査は、データの信頼性はさておき、短時間に大量のデータ を収集できる点を特徴とする。
従って、詳細な意味・用法の記述でなく、限定した意味・用法で回答者の属 性の違いに対応する形式の違いを考察する際に有効である。本稿の依る調査も 九州・山口地域における、様々な地域的な違いを明らかにすることを第一の目 的とする。
この点で、県単位の違いだけを問題とした本稿は、準備段階に留まる。また 調査を依頼してからはや4年目が経過した。データが古びないうちに、早急に 県内差に関する論を取りまとめたい。また並行して、要になる言い方はその使 用地域に出向き、意味・用法の記述を含めた現地調査を早急に行わなければな らない。
5.別表の説明
別表−1〜5
不快感に関する5項目につき、九州・中国の11県での回答状 況を集計したもの・県名の下の数値は、各県の回答者全体の数を示す。
・各欄には、不快感を表す各言い方を回答(選択)した数と( )内に各 県の回答者全体に対してその言い方を回答(選択)した者の占める割合
(百分比・%)を示す。
・「その他」は、使う言い方が選択肢にないとして、何らかの言い方を記 した回答者の実数を示す。複数の言い方が記されることもあるため、言 い方の実数ではない。これらの言い方は、県内差を検討する別稿に示す。
【付記】
図− ! 〜 "
不快感に関する4項目につき、回答率30% 以上の言い方が各項目にどのように現れるか、県ごとに図示したもの。特にある言い方が複数の 項目に共通して見られる場合は、項目を重ねた。
謝辞
2007年〜08年の調査では、沢山の先生方にお世話になった。お名前を 挙げてのお礼はすでに行っているので、本稿では省略させていただく。また報 告がこのように遅くなったことに関し、改めてお詫び申し上げる。【引用文献・参考文献】
岸江信介他(2 0 1 1) 「新方言全国地図(簡略版) 」 『大都市圏言語の影響による地域言語 形成の研究』 ) (科研費基盤研究研究成果報告書)
花岡健吾(2 0 0 2) 「広島県大竹市方言における疲労感を表す形容語彙」 『國文学攷』−
1 7 5
山県 浩(2 0 0 6) 「福岡県の若年層に見られる不快感を表す形容語 ―〈ウザイ〉を中 心に―」 『福岡大学日本語日本文学』−1 6
――――(2 0 0 7) 「九州・山口方言の若年層に見られる不快感を表す形容語」 『福岡大学 研究部論集・人文科学編』6−8
――――(2 0 1 0) 「福岡県を中心とする【救急絆創膏】 【絆創膏】を表す言い方 ―中年 層の実態―」 『福岡大学研究部論集・人文科学編』1 0−7
※本稿(下)で言及したもののみを記す。詳細は、前号(上)を参照のこと。
注
(1 2)本稿で対象とした5項目は、不快感の性格や原因などによって、次の如き階層を
なす。
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"
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"
!#
"
#
項目1;前髪掛かり 項目4;落ち着きのない子供 項目2;長雨続き
項目3;雨夜の出迎え 項目5;疲労感
不快感が肉体的なものであるか精神的なものであるかで、項目5と他の4項目が区分 される。次に自身の行動が関わる、したくない気持ちであるか、行動を伴わない、純粋 に内的な問題であるかで、項目3と他の3項目に区分される。
そして、精神的な不快感であるか、何らかの感覚器官が関わる不快感であるかで、項 目2と他の2項目が区分され、2項目は、触覚・視覚に関わる項目1と聴覚・視覚に関 わる項目4に分けられる。
このような違いが区分のあり方にどのように表れるかが問題となる。
なお、これら5項目の限りでは、不快感の性格や原因などに基づく体系だった区分の ように見える。しかし、体系的・網羅的に不快感を捉えようとする場合には、項目が少 なく、粗い。項目数を増やして調査を行うことが今後の課題である。
(1 3)複数の語で共通することは珍しく、他は項目1と項目2における〈ウザイ〉 〈ウッ トーシイ〉 (福岡県・熊本県)または〈ウザイ〉 〈ヤゼイ〉 (長崎県)だけである。
なお、九州を中心とする調査であったため、項目1 ・項目4には選択肢として〈タイ ギ〉を示さなかった。しかし、その他の言い方として記されることはない。
地域固有形式の中で多くの項目に見られるのは、佐賀県の〈セカラシイ〉3項目と本 県の〈タイギ〉3項目である。前者は、[4 3]項に述べた如く回答率が4 0% を越えるこ とはない。一方、後者は、回答者の少ない広島県の言い方である点を考慮する必要があ るが、項目27 0. 0%、項目38 3. 3%、項目55 6. 7% の如くいずれも高い。項目2では
〈ウザイ〉 (4 3. 3%)より、 項目3では〈メンドイ〉 (5 6. 7%)より高く、 項目5では〈シ ンドイ〉 (6 3. 3%)に次ぐ。
このことは「 「タイギー」といった比較的多くの意味枠にまたがった語が、将来、身 体・精神、統制不能・可能に関わらず使用されていくことになる可能性も考えられる」
(花岡(2 0 0 2)p. 9)と関連しよう。氏によると、 〈タイギ〉の伝統的な意味は身体・精
神両方にまたがる統制不能な疲労感を表すようである。しかし、統制可能の方向に使用
されることは具体的にどのようなことであるのか、また本稿の傾向がその中でどのよう
な意味を持つのかは、今後の課題である。
【最終稿 2 0 1 1年1 2月2 0日】
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図−Ⅰ 福 岡 県
図−Ⅱ 佐 賀 県
図−Ⅲ 長 崎 県
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図−Ⅳ 熊 本 県
図−Ⅴ 大 分 県
図−Ⅵ 宮 崎 県
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