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巨樹伝承、宇宙樹、シャーマニズム、神楽

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Academic year: 2021

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(1)

はじめに

森神信仰に関する小論を上梓した後に樹木に関す る信仰を整理しておく必要を感じた。

i

この小論はそ の小さな試みである。樹木はすべての生命のみなも とであり、樹木の恵む果実や木の実が人間を養って きたことは、疑う余地がない。その神話的投影がか ならずあるはずであろう。仏陀は菩提樹の下で悟り をひらいたし、ネミの森では祭司が金枝を折り、先 王を殺されなければならなかった。

ii

本稿では一応古 代にまでさかのぼるが、近世まで伝えられてきた神 楽の詞章にも樹木の表象が述べられている。その神 話的表象がいかなる起源を持つものか。どのように して近世にまで伝えられてきたのかということにつ いて不十分ながら、ラフ

スケッチを描いてみたい。

樹木の表象を古代の巨樹伝承、宇宙樹、シャーマン の木、神楽の詞章によって考察しようとするもので ある。

1.巨樹伝承

1)-1 『古事記』仁徳天皇の条

此の御世に免寸河の西に一つの高木有りき。其の樹 の影、旦日あさひに当たれば淡路島に逮および、夕日に当たれ ば高安山を越えき。故、是の樹を切りて船を作りし に、甚捷いとはやく行く船なりき。時に其の船を號なづけて枯野からの と謂ひき。故、是の船を以ちて、旦夕あさゆう淡路島の寒泉しみず を酌みて、大御水お お も み献りき。茲の船、破れ壊こぼれて 焼き、その焼け遺りし木を取りて琴に作りしに、其 の音七里に響みき。(以下略)

iii

よく知られた巨樹伝承である。其の樹の影が朝日 に当たって淡路島に逮および夕日には高安山を越えると いう巨樹が描かれている。其の樹を切って船を造っ たところ大変早く走った。其の船で を焼き、焼け 残りの木で琴を作ったところ大変いい音がしたとい うのである。

iv

勝俣隆氏は巨樹伝承は大樹から、琴が作られ、琴 により天神の託宣がなされるという「宇宙樹」の観 念を指摘されている。

v

巨樹伝承、宇宙樹、シャーマニズム、神楽

福島邦夫

The Legends of the Giant Tree, Cosmic Tree, Shamanism and Kagura

Kunio Fukushima

In the Kojiki and Fudoki(Japanese ancient myth) , legends of giant trees are found. These trees are mythological cosmic trees, like Yggdarsil in Scandinavian myth. Eliade points out in shamanism when the shaman undergoes initiation, the shaman must climb up the cosmic tree in ecstasy. In Kagura, the symbolism of a giant tree is also found. Thus, clearly the image of the cosmic tree is an immemorially old one for humans.

Keywords; giant tree, cosmic trees, shamanism, kagura

【研究ノート】

長崎大学環境科学部

受領年月日 2009 年 11 月 30 日 受理年月日 2009 年 11 月 30 日

長崎大学総合環境研究 第12巻 第2号 pp.97-100 2010年6月

─ 97 ─

(2)

1)-2 『播磨国風土記逸文速鳥』

明石の驛家。駒手の御井は、難波の高津の宮の天皇 の御世、楠、井の上に生ひたりき、朝日には淡路島 を蔭かくし、夕日には大倭島根を蔭かくしき。乃ち、其の楠 を伐りて舟を造るに、舟迅きこと飛ぶが如く、一楫ひとかじ に七浪を越え行き。仍りて速鳥と號なづく。ここに、朝 夕に此の舟に乗りて、御食に供えむとして、此の井 の水を汲むに、一旦あるひ、御食の時堪へざりき。故、歌 作みして止めき。唱うたに曰く、

住吉すみのえ

の、大倉向きて飛ばばこそ、速鳥と云わめ、何 か速鳥

vi

1)-3 『日本書記景行天皇一八年の条』

秋七月の辛卯の朔、甲午に、筑紫後国の御木み けに至り て、高田行宮に居します。時に僵たおれたる樹有り。長 さ九百七十丈なり。百寮、其の樹を踏みて往かよ来ふ。

時 人ときのひと

、歌して曰く、朝霧の、御木のさ小橋、群臣、

い渡らすも、御木のさ小橋、といふ。爰に、天皇問 ひて曰く、「是、何の樹ぞ」とのたまふ。一老夫あり て曰さく、「是の樹は歴木くぬぎといふ。嘗、未だ僵れざる 先に、朝日の に当たりては、則ち杵島山を隠しき。

夕日の に当たりては、亦阿蘇山を覆ひき」とまう す。天皇の曰はく、「是の樹は神あやしき木なり。故、是 の国を御木国と号べ」とのたまふ。

vii

1)-4 『筑後風土記逸文』

三毛の郡。云々。昔者むかし、楝木あふち一株、郡家の南に生ひ たりき。其の高さは九百七十丈なり。朝日の影は肥 前の国藤津の郡の多良の峯を蔽ひ、暮日の影は肥後 の国山鹿の郡の荒爪の山を蔽ひき。云々。因りて御木み き の国と日ひき。後の人、訛りて、三毛と日ひて、今 は郡の名と為す。

viii

1)-5 『肥前風土記』

昔者、樟樹くすのき一株、此の村に生ひたりき。幹枝ひとえ秀高く、

くき

茂りて、朝日の影には杵島の郡の蒲川山を蔽ひ、

暮日の影には養父の郡の草横山を蔽へりき。日本武 尊、巡り幸しし時、樟の茂り栄えたるを覧まして、

勅りたまひしく「此の国は栄さかの国と謂うべし」との りたまひき。因りて栄の郡といひき。後に改めて佐 嘉の郡と号く。

ix

2)-1 宇宙樹・世界樹

これらの伝説は実在の木を述べたものではなく、

神話的な宇宙樹を語ったものであろう。勝俣隆氏は ミルチャ・エリアーデをひきながら、これらは宇宙 樹、世界樹であるとする。その性格は①世界の中心 に位置すること。②天上世界・地上世界・地下世界 の三つの宇宙領域を連結すること。③世界の神聖性・

豊饒性・永続性をあらわすことなどからである。

中国人留学生、賀南氏はその修士論文で日本と中 国の樹木神話を比較し、中国では建木をはじめ、桑 木、尋木、三桑、槃木などがあり、それらは宇宙樹 であり、水と深い関係があり、邪気払いなどの神話 素があり、太陽信仰と関連があることを指摘してい る。

x

2)-2 シャーマンの木

ミルチャ・エリアーデの説の一端を見てみよう。

世界樹はまず、シャーマンのイニシエーションの場 面に表れる。シャーマンの入巫儀礼はさまざまな要 素があるが、エリアーデの指摘するのは天界への飛 翔である。シャーマンの入巫候補者は天上に行き、

神々のもとにいたるべく儀礼用の柱をよじ登る。ア ルタイ・シャーマンは儀礼的に樺の木に登る。その 木には幾つかの刻み目が彫られており、樺の木は『世 界樹』(World Tree)を象徴している。この刻み目は 諸々の天を示していてシャーマンはそこを登って、

エクスタシー的旅をし、至高天へと達しなければい けない。

xi

また、世界柱の観念としてもあらわれる。他の多 くの民族同様、トルコ・タタール人は空をテントと 想像している。天の川は『幹』で星は輝く『穴』で あると考える。(中略)空の中央には、北極星が止め 棒のように天上のテントを支えて輝いている。サモ エード人はこの星を『空の留め鋲びょう』と呼び、チュク チ人やコリヤーク人は『鋲の星』と呼んでいる。(中 略)そしてこの星はモンゴル人、カルムーク人、ブ リヤート人では『金の柱』キルギス人、バシュール 人、シベリア・タタール人では『鉄の柱』、テレウー ト人では『太陽の柱』となっている。(中略)当然あ り得ることだが、この宇宙観には人間の住む小宇宙 がそっくりそのまま写し出されている。世界の軸は 具体的には家を支える柱とか、『世の柱』と呼ばれる 分立した杭の形とかとして示されてきた。シャーマ ンの昇天の儀式に見られるのは煙だし穴のついたこ のテントの穴を通じてなのである。チュクチ人は『空 の穴』は北極星であり、同様の穴で三つの世界が連 福島 邦夫

─ 98 ─

(3)

結されているし、シャーマンや神話的英雄が天空と 交通するのは、これらの穴を通してであると考えて いる。つまり、人間の住居のすべては『世界の中心』

が投影されており、祭壇やテントや家はすべて平面 での突破口、したがって天上への上昇を可能にする ことを意味するのである。

xii

3)北欧の宇宙樹、ユグドラシル

現代に伝わる宇宙樹のうちでもっとも壮大なもの は。アイスランドの詩人スノリ・ストゥルルソン

(1178

1241)による『エッダ』に描かれた、巨大

なトネリコ、ユグドラシルであろう。ユグドラシル はあらゆる樹木のうちで最大最良のものである。そ の枝は全世界をことごとく覆い天に達している。樹 をまっすぐに支える三本の根は驚くほど広がってい る。一本はアース神の地下世界アジエールに、二本 目は人間よりも古い種族である氷の巨人「霜のツフ ルセ」(そこは昔奈落の口があったところだが)、の 世界まで伸びている。三本目はニヴェルゲルミルが いてニーズヘグが下からその根をかじっている。三 本目の根は天にあり、その根の下にはウルザンプル ンという特別に神聖な泉がありそこに神々は法廷を もっている。それぞれの根のそばに泉がある。また、

トネリコの枝には一羽の鷲がとまっていて、これが 何でもよく知っているのだ。そして、その両眼の間 にはヴェズルフェルニルという鷹がとまっている。

ラタトルスクという栗鼠がトネリコをかけ上がった り、かけおりたりする。また、枝の間には牡鹿がお り、葉を食いちぎる。下にはたくさんの蛇がいる。

牡鹿の食いちぎった枝角からおびただしい滴が流れ 落ち、川となって流れる。

xiii

4)入来神舞の詞章

さて、宇宙樹の観念は古代に表れたものだけでは ない。近世の初めの神楽の詞章にも、その姿を現し ているのである。

萩原秀三郎氏は「東アジアにおける柱立ての系譜

〔太陽と鳥霊とシャーマニズム〕」のなかで神楽のな かに行われる「将軍」の舞にふれ、この舞は古い舞 であって、かつて、託宣も行われたと推測されると いい、入来神舞の将軍について紹介している。

xiv

に紹介された資料であるが、本論では別の角度から 光を当ててみたい。

入来神舞は鹿児島県薩摩郡入来町浦之名中須の浦 之名大宮神社で行われる、神楽である。その万治元 年(1658)の天大将軍のいわれに、次のように記さ

れている。

抑も天大将軍の云れを静かに拝奉に事も忝なし、

唐土より丑寅に当たりて国有り、国の名をゆ井万国 と申し、国に高さは万由じゅん、広さ八万由じゅん の岩屋有り、岩屋に池有り、池の名を峯ちか池と申、

池に島有り島の名を金剛りきじか岳と申す、島に木 にあり、木の名を釈千段ときまさしか木と申し(す か)のかの木の本の大きなることことは、七百五十 年に廻り給ふ木なり、彼の木の枝のさっしなること は、三千大世界に景(影)をさし、彼の木の第一の 枝に日羽根を休め給ふ、第二の枝に月羽根を休め給 ふ、第三の枝に天下の星の尊の羽根を休め給ふ木な り、彼の木の元に御宮造り岩根の大将軍とて毎月朔 日三日を御縁日とし玉ふは是こそ天大将軍の云れな り。

xv

(カタカナをひらがなに改め、下線福島)

ゆ井万国というところに岩屋があり、そこに池が 有り、その池に島があり、島に巨大な木が生えてい る。その第一の枝には太陽が羽根を休めてとまって おり、第二の枝には月が、第三の枝には星が休んで いる。木の根にお宮を造って岩根の大将軍として祀っ ている。これが、大将軍のいわれだという。この神 話は古代中国の盤古神話の流れを引く、古いものな のであるという。

トポローフは「宇宙樹」(世界樹)について古代ス カンジナビアとイランの神話を比較しながら、時間、

一年を宇宙樹としてたとえる例を挙げている。ロシ アのコレダー(キリスト降誕祭からキリスト洗礼祭 までの十二日節に男女の若者が歌を歌いながら各戸 を歩き回る行事およびその歌

-

つまり新年と同時に行 われる儀式)に典型的な次のようなモチーフが見ら れる。

イワンの小屋は 近くもなく、遠くもなくー七本 の杭の上にある。この小屋のまわりに銀の柵壁があ る。

(中略)

この柵壁の中には三つの上階、金色の円屋根の上階 がある。

第一の上階には月が輝いていた。

第二の上階にはうるわしき太陽。

第三の上階にはふるような星。

月が照っていれば、家の中にいるのは、主人。

うるわしき太陽であれば、女主人。

ふるような星であれば、小さな子供たち。(シェイン、

1898.第 1030) xvi

一読して類似したモチーフが読み取れるであろう。

世界のシャーマニズムを検討したアーケ・フルト 巨樹伝承、宇宙樹、シャーマニズム、神楽

─ 99 ─

(4)

クランツはシャーマニズムをウノ・ハルヴァやミル チャ・エリアーデらの学説を検討しながら、シャー マニズムが極北世界・準極北世界における宗教であ り、シャーマニズムにおける世界柱(world pillar)

の観念が人々の住居の柱の観念に由来していること を指摘している。それらが容易に世界樹(world tree)

の観念に置き換えられ、そして北極星は世界樹の上 に輝いていると語られると述べている。世界樹はま ず聖なる世界の象徴であり、樹木にはある種の鳥、

通常ロシアでは鷹、北アメリカでは雷鳥が羽根をや すめ、鷹はスピリチアルな世界からのメッセンジャー でもある。それら、世界の中心のイメージは時代が 下るに従って、聖なる寺院、都市をともなった世界 山(world mountain)の思想として実現されて来たの であると述べている。

xvii

そこでシャーマンは鳥装を して世界柱をのぼっていくのである。

xviii

巨樹伝承から始まった樹木に関する信仰の検討は 極北世界のシャーマニズムに至った。中国の盤古神 話を経由してのものにせよ、近世の初めの神楽の詞 章にまで路頭している宇宙樹の考え方は日本文化の 北方からの影響を示すものだと言えよう。しかし、

途中の経路とも言うべき中国の神話について検討で きなかった。今後の課題としたい。

xvx

i 福島邦夫「日本における森神信仰 - 対馬、壱岐を中心に して」 『井上義彦教授退官記念論文集 東西文化会通』2006 年、台湾学生書局

ii サー・ジェームズ・ジョージ・フレーザー『図説金枝篇』

1994 年、東京書籍

J.ブロス『世界樹木神話』2000 年、八坂書房

iii 日本古典文学大系本『古事記 ・ 祝詞』岩波書店による。

iv 同上3

v 勝俣隆「大樹伝説と琴」長崎大学教育学部人文科学研究 報告第 45 号 1992 年

vi 日本古典文学大系本『風土記』岩波書店による。

vii 日本古典文学大系本『日本書記上』岩波書店による。

viii 同上3

ix 同上3

x 賀南氏、長崎大学教育学部、平成二十年度修士論文『日 中神話に見られる樹木信仰に関する比較研究』2009 年

同書に大きな啓発を受けたことをここに記す。

xi ミルチャ ・ エリアーデ『シャーマニズム』1974 年、冬樹 社

xii 同上3

xiii 谷口幸男訳『エッダー古代北欧歌謡集』1973 年、新潮 社

xiv 萩原秀三郎「東アジアにおける柱立ての系譜」 『季刊自 然と文化[特集]柱のダイナミズム』1991 年、観光資源保

護財団、後に萩原秀三郎『稲と鳥と太陽の道』1996 年、大 修館書店に所収

xv 渡辺伸夫「鹿児島入来神舞資料」 『演劇研究』14 早大 演劇博物館 1991 年

xvi V .V イワーノフ、V・N トポローフ『宇宙樹・神話 ・ 歴 史記述-モスクワータルトゥ・グループ文化記号論集』1983 年、岩波現代選書

xvii Ake Hultkrantz,( 1995) “A new look at the world pillar in Arctic and sub-Arctic religions”

Shamanism and Northern Ecology, Mouton de Gruyter xviii Ake Hultkrantz, (1996)“Ecological and

Phenomenological Aspects of Shamanism”

Shamanism in Siberia Akade’ miai Kiado’ , Budapest xvx 中国神話については勝俣隆「大樹伝説に見られる宇宙 樹的要素と生命の水」 『静大国文』二九号 1984 年に述べら れている。稿了後、同論文と V 他は勝俣隆『異郷訪問譚・

来訪譚の研究上代文学編』2009 年和泉書院として発行され た。

福島 邦夫

─ 100 ─

参照

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