An examination of left/right differences in the strength of the calcaneus in soccer players with cerebral palsy and healthy soccer players
Masataru, TAKAHASHI 1) , Koki, TAKAHASHI 1) , Hiroshi, TAKAHASHI 2)
1) Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences, Faculty of Health Sciences, Department of Judotherapy
2) Yokohama Rosai Hospital, Department of Orthopedic Surgery
Abstract : [Purpose] The primary purpose of this study was to investigate whether the bone strength of the calcaneus of soccer players who have cerebral palsy is lower than the standard value. A second objective was to investigate left/right differences in the strength of the calcaneus in soccer players with cerebral palsy.
A final objective was to investigate left/right differences in the bone strength of the calcaneus of healthy soccer players.
[Subjects] The subjects were 22 male soccer players with cerebral palsy and 20 healthy male soccer players.
[Method] With regard to measurement, an ultrasonic bone density measuring device (GE Healthcare A-1000 EXPRESS) was used, and the Stiffness value (%) of the calcaneus was used as an index.
[Results] ① With regard to soccer players with cerebral palsy, 14 out of 22 had average left/right calcaneus Stiffness values of 100% or more, but eight had average values of less than 100%. In particular, within the C7 class, five out of nine players had average values under 100%. ② Among soccer players with cerebral palsy within the C5 and C6 classes, there was no significant left/right difference in the Stiffness value of the calcaneus. In the C7 class, low Stiffness values on the paralyzed sides were found, and the left/right difference was significant. In the C8 class, one out of three players had a prominent left/right difference. ③ Even among healthy soccer players, many cases of left/right differences in the Stiffness values of the calcaneus were found, but overall the difference was not significant.
[Conclusions] The Stiffness value of the calcaneus among soccer players who had cerebral palsy was lower than normal in 8 out of 22 players. It was shown that for adults with cerebral palsy, even among athletes there were many cases in which the calcaneus bone strength decreased. In the investigation of left/right differences in the stiffness value of the calcaneus, a significant difference in the C7 class was found. This result suggests that the measurement of the stiffness value of the calcaneus is useful for the classification of soccer players who have cerebral palsy. Even among healthy players, many had differences in left/right calcaneus stiffness, and for these various reasons, in the future, when studying the bone density of the calcaneus, measurements of both sides, instead of only one should be taken.
要旨:[目的]①脳性麻痺者サッカー選手の踵骨の骨強度が基準値より低下しているか調査すること.②脳性麻
痺者サッカー選手において踵骨の骨強度の左右差を調査すること.③健常者サッカー選手の踵骨の骨強度の左右 差を調査すること.
key words:soccer players, bone strength, Stiffness value , cerebral palsy
高 橋 雅 足
1)
髙 橋 康 輝1)
高 橋 寛2)
脳性麻痺者サッカー選手および健常者サッカー選手の 踵骨骨強度の左右差の検討
1)東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科 E-mail address:[email protected]
2)横浜労災病院整形外科
はじめに
脳性麻痺では大腿骨骨折を起こすことが多く,骨密度 の低下が骨折の発症要因の一つとして考えられている
1). これまでも脳性麻痺と骨密度との関連は調査されており,
脳性麻痺者では骨密度が低下していることが示されてい
る
2, 3).しかしながら,それらの報告の多くは成長期の
児童を対象にしたものであり,成人を対象にしていない.
さらに対象者の運動機能障害の程度については言及して いない報告が多く,脳性麻痺者のスポーツ選手を対象と した調査はほとんどみられない.一般的にスポーツ選手 の骨密度は運動していない人よりも高いという報告があ り,脳性麻痺においても日常スポーツを行っている成人 では骨密度の低下はみられないのではないかと推察し,
このことを証明するために本研究を行った.このたび脳 性麻痺者7人制サッカーの日本代表選手が参加する練習 試合および合同練習において踵骨の骨強度を測定する機 会があったので,これらの測定結果をもとに検討を加え たので報告する.
さらに,障害者スポーツ競技においては運動機能障害 の程度の差により競技の結果が不公平にならないように
「クラス分け制度」があるが,たびたびクラス分けが難し い事例に遭遇する.実際に国外の試合において国内で判 定されたクラスを他のクラスに訂正された事件が起こっ ている.このような現場での混乱を起こさないためにも 障害のクラス分け判定に関する研究が求められている.
脳性麻痺者サッカーにおいては両麻痺性の障害と軽度の 片麻痺性の障害とのクラス分け判定が難しい場合がある.
本研究では,片麻痺性の障害の選手では左右の踵骨の骨 強度に差が生じるという仮説を立て,骨強度測定がクラ ス分けの適格性の向上に有用であると考え,左右踵骨の 骨強度の比較・検討を行った.このようなクラス分けと
骨密度の関連を調査した先行研究は渉猟し得た範囲では 認められない.
最後に健常者において踵骨の骨密度の左右差の有無を 確かめるため,対照調査として行った大学生男子サッカー 選手の左右の踵骨の骨強度測定の結果を報告する.一般 のスポーツ選手を対象とした骨密度の研究ではスポーツ 種目間の骨密度の差異について検討した報告は多くみら れるが,左右の踵の骨密度を比較した研究はほとんどみ られない.
対象および方法
対象は,脳性麻痺者サッカー選手22名,および健常者 サッカー選手20名である.対象となった脳性麻痺の原因 は先天性,脳外傷および脳血管障害であった.脳性麻痺 者群は,脳性麻痺者7人制サッカー日本代表チームのメ ンバーが多く,全員男性,年齢は15~44歳(27.0±7.7歳:
平均値±標準偏差)であり,C5クラス(両下肢に麻痺が あるが走可能,動くとバランスが悪い)3名,C6クラス
(四肢に不随意な動きがあるが走可能,アテトーシス型,
または失調型)7名,C7クラス(走可能な片麻痺)9名,
C8クラス(極めて軽度な麻痺)3名であった.ここで Cはcerebral palsy(脳性麻痺)の頭文字を示す.数字 は重症度を表し,数字が少ないほど重度であり,C4以下 は走ることができない麻痺である.健常者は20名で,都 内某大学サッカー部の選手で全員男性,年齢は18~22歳
(19.5±1.2歳)であり,右利き足(主にボールを蹴るのが 右足,以下ORで示す)が12名で,左利き足(主にボール を蹴るのが左足,以下OLで示す)が8名であった.
骨密度の測定にはX線を利用する方法と超音波を利用 する方法があるが,被曝がなく,測定装置の持ち運びに 簡便であるため本研究では超音波を利用する方法で調査を
[対象]脳性麻痺者サッカー選手男性22名,および健常者サッカー選手男性20名である.
[方法]測定には超音波骨密度測定装置(GEヘルスケア社A-1000 EXPRESS)を用い,踵骨のStiffness値(%)
について検討した.
[結果]①脳性麻痺者サッカー選手の踵骨Stiffness値の左右平均値は,22名中14名が100%以上であったが,8名 は100%未満であった.特にC7クラスでは,9名中5名が100%未満であった.②脳性麻痺者サッカー選手のC5 クラスおよびC6クラスでは踵骨のStiffness値の左右差に有意差は認められなかった.C7クラスでは,麻痺側の Stiffness値の低値が認められ有意差を認めた.C8クラスでは,3名中1名に著名な左右差を認めた.③健常者 サッカー選手においても左右踵骨のStiffness値に違いのある例が多数見られたが,全体では有意差は認められな かった.
[結語]脳性麻痺者サッカー選手の踵骨Stiffness 値は正常値より低下している例が22名中8名に見られた.成人 の脳性麻痺者ではスポーツ選手でも踵骨の骨強度が低下している例が多いことが証明された.踵骨Stiffness値の 左右差の調査ではC7クラスに有意差が認められた.この結果は脳性麻痺者サッカーのクラス分けの判定に踵骨 Stiffness値の測定が有用であることを示唆している.健常者サッカー選手においても多数に左右踵骨のStiffness 値に違いが見られた.これらのことから今後踵骨の骨密度の研究を行う場合は,片側だけでなく必ず両側を測定 するべきである.
キーワード:骨強度,Stiffness値,脳性麻痺,サッカー選手
行った.超音波骨密度測定法は骨の物理的特性を超音波 で測定し,得られる指標が骨組織の構造と相関を示すこ とを利用して骨量を推定するものである.得られる指標 はいくつかあるが骨内を通過する超音波伝搬速度(speed of sound:SOS)と広帯域超音波減衰係数(broadband ultrasound attenuation:BUA)がよく骨密度の研究に 利用されており,福永ほか
4)は超音波伝搬速度は骨の密 度を,広帯域超音波減衰係数は骨梁の分布状態を現す と述べている.一方,大規模な検診事業
5, 6)などでは骨 密度の指標としてStiffness値(%)が用いられることが 多いことから,本研究では骨量の指標としてStiffness値
(%)を用い検討を行った.本研究に用いた測定装置(GE ヘルスケア社A-1000 EXPRESS)のメーカーによれば Stiffness値(%)は,若年成人の平均値が約100%の値
(20~24歳男性の平均値は103.1%,20~24歳女性の平均 値は93.1%)になるように超音波伝搬速度と広帯域超 音波減衰係数を変換し,両者を平均した値であり,曽 根
7)によれば,Stiffness値=0.667×BUA+0.278×SOS
−417で求められるという.このようにStiffness 値は骨 密度を直接測定した指標ではないが,游ほか
8)は踵骨 のStiffness値とX線を利用したSXA法(single energy X-ray absorptiometry)によって得られた踵骨の骨密度 との間には高い相関関係(r=0.878)を示したと報告し ている.また,朝井ほか
9)によれば超音波骨量測定器の 繰り返し測定に対する変動係数は0.5%であり,二重X 線吸収法(dual energy x-ray absorptiometry=DXA法)
に比して有意差はないとされている.本論文では骨密度 を現す指標の一つとしてStiffness値を測定したが,厳密 な意味での骨密度と区別するため,得られた結果を骨強 度と表現した.
統計処理は,統計ソフトウェア(GraphPad Prism6:
MDF)を用いた.健常側と麻痺側のStiffness値および 利き足と非利き足のStiffness値の比較は対応のあるt検
定を用いて検討した.有意水準は5%未満とした.
結 果
1.Stiffness値の平均
脳性麻痺者サッカー選手22名全員の両側踵骨のStiffness 値は103.3±15.5%であり,若年成人の平均値よりも高い 骨強度を示した(表1).しかし22名中8名は基準値より 低い値を示した.クラス別にStiffness値を比較すると,
C5クラス(3名)は110.8±15.0%,C6クラス(7名)
は112.4±9.5%,C7クラス(9名)は98.4±12.8%,C8 クラス(3名)は89.3±17.8%という結果を示した.C5 クラスは3名全員が両麻痺型脳性麻痺であり運動機能障 害が比較的強いにも拘わらず全員がStiffness値は100%を 超えており高い骨強度を示した(表2).C6クラスは,
7名中6名がアテトーシス型脳性麻痺であり,そのうち の1名がStiffness値96.0%と若年成人の平均値より軽度低 い値であったが他の5名は高い骨強度を示した.1名は 後天性脳障害であった(表3).脳性麻痺の病型の中で は,C5クラスとC6クラスが一般的に多い病型であるが 10名中9名(90.0%)のStiffness値が100%を超えていた.
C7クラスは,9名中5名が先天性片麻痺型脳性麻痺であ り,そのうちの2名はStiffness値が100%以上であった が,3名は100%未満であった.4名は後天性脳血管障害 による片麻痺であり,そのうちの2名は100%以上であっ たが,2名は100%未満であった.C7クラス全体では9 名中5名が100%未満であった(表4).C8クラスは極 めて軽微な麻痺で運動機能は健常者に匹敵するほどのグ ループであるが低いStiffness値を示した.(表5).
2.Stiffness値の左右差
Stiffness値の左右差を各クラス別に示した.C5クラス では,右踵骨のStiffness値は111.3±11.8%で,左踵骨は
表1 脳性麻痺者選手全体のStiffness値(22名)平均±標準偏差(mean±SD)
年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均
Stiffness値(%)
27.0±7.7 102.6±14.4 103.5±19.5 103.3±15.5
表2 C5クラス(3名)
ID 年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均
Stiffness値(%) クラス変更の
有無 麻痺原因
C5−1 15 104.0 96.0 100.0 CP
C5−2 34 102.0 99.0 100.5 CP
C5−3 28 128.0 136.0 132.0 CP
mean±SD 25.7±7.9 111.3±11.8 110.3±18.2 110.8±15.0 0名
110.3±18.2%であり,有意差は認められなかった(表2).
C6クラスでは右踵骨のStiffness値は111.4±9.6%で,左踵 骨は113.3±9.7%であり,有意差は認められなかった(表 3).C7クラスでは,麻痺側のStiffness値は94.0±12.4%
で,健常側は101.6±12.8%であり,麻痺側のStiffness値 が有意に低値を示した(図1).C8クラスでは,右踵骨 のStiffness 値は99.3±14.3%で,左踵骨は79.3±29.9%で あったが,有意差は認められなかった.(表5).
3.利き足の違いによる健常サッカー選手のStiffness値 健常者サッカー選手の測定結果を右利き足のグループ と左利き足のグループに分けてそれぞれ表6と表7に示 した.対象者20名全員の両踵骨のStiffness値は,138.9±
22.5%,右踵骨は140.1±26.1%で,左踵骨は137.7±20.2%
であり,有意差は認められなかった.利き足を分けて分 析したところ,右利き足の12名の右踵骨のStiffness値は 134.2±26.0%であり,左踵骨のStiffness値は134.9±19.7
%で,有意差は認められなかった.しかしながら,左利
表3 C6クラス(7名)ID 年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均
Stiffness値(%) クラス変更の
有無 麻痺原因
C6−1 32 103.0 107.0 105.0 C5⇒C6 CP
C6−2 23 94.0 98.0 96.0 CP
C6−3 36 116.0 111.0 113.0 CP
C6−4 44 112.0 115.0 113.5 C7⇒C6
C6−5 40 114.0 110.0 112.0 CP
C6−6 18 127.0 131.0 129.0 C8⇒C6 CP
C6−7 25 114.0 121.0 117.5 CP
mean±SD 31.1±8.8 111.4±9.6 113.3±9.7 112.4±9.5 3名
表4 C7クラス(9名)
ID 年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均
Stiffness値(%) クラス変更の
有無 麻痺原因
C7−1 30 86.0 86.0 86.0
C7−2 23 80.0 84.0 82.0
C7−3 32 112.0 114.0 113.0 C7⇒C8⇒C7
C7−4 18 102.0 110.0 111.0 CP
C7−5 17 114.0 121.0 117.5
C7−6 32 82.0 95.0 88.5 C8⇒C7 CP
C7−7 29 85.0 103.0 94.5 CP
C7−8 21 100.0 112.0 106.5 CP
C7−9 16 85.0 89.0 87.0 CP?
mean±SD 24.2±6.2 94.0±12.4 101.6±12.8 98.4±12.8 2名
表5 C8クラス(3名)
ID 年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均
Stiffness値(%) クラス変更の
有無 麻痺原因
C8−1 23 80.0 83.0 81.5
C8−2 28 114.0 114.0 114.0
C8−3 29 104.0 41.0 72.5 CP
mean±SD 26.7±2.6 99.3±14.3 79.3±29.9 89.3±17.8 0名
表6 大学生男子サッカー選手(右利き足 12名)
ID 年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均 Stiffness値(%)
OR−1 21 155 145 150.0
OR−2 21 97 111 104.0
OR−3 18 150 142 146.0
OR−4 19 140 137 138.5
OR−5 18 100 100 100.0
OR−6 18 152 140 146.0
OR−7 20 173 148 160.5
OR−8 20 119 145 132.0
OR−9 19 105 111 108.0
OR−10 20 154 162 158.0
OR−11 20 160 162 161.0
OR−12 18 105 116 110.5
mean±SD 19.3±1.1 134.2±26.0 134.9±19.7 134.5±22.1
表7 大学生男子サッカー選手(左利き足 8名)
ID 年齢(歳) 右踵
Stiffness値(%) 左踵
Stiffness値(%) 両側平均 Stiffness値(%)
OL−1 19 164 159 161.5
OL−2 19 154 148 151.5
OL−3 19 147 128 137.5
OL−4 22 169 155 162.5
OL−5 19 116 130 123.0
OL−6 20 163 151 157.0
OL−7 21 173 165 169.0
OL−8 18 105 99 102.0
mean±SD 19.6±1.2 148.9±23.6 141.9±20.3 145.5±21.6
図1 麻痺側と健常側のStiffness値(%) 図2 左利き選手のStiffness値(%)(p=0.08)が観察された(図2).
考 察
初めに踵骨の骨密度に関連して脳性麻痺の障害特性と サッカーの競技特性について考察する.脳性麻痺では大 腿骨骨折を起こすことが多く,骨密度の低下が骨折の発 症要因の一つとの指摘がある
1).脳性麻痺と骨密度の関 連については,わが国の教育・リハビリテーション・介 護といった場面でも検討・報告がみられ,それらの論文 中にも脳性麻痺児では骨密度が低下していることが示さ
れている
2, 3).成人の脳性麻痺者と骨粗鬆症の関連につ
いてはSheridan
10)の報告がみられるが,脳性麻痺と骨密 度の関連についてのこれまでの報告の多くは成長期の児 童を対象にしたものである.また,脳性麻痺者の身体部 位別骨密度については,Lin ほか
11)の報告によれば,下 肢は上肢に比較して骨密度の低下は軽度であったという.
白垣
2)も同様な結果を得ており,立位姿勢によって下肢 の骨組織へ生じた機械的刺激が,上肢に比較して下肢で の骨密度の低下を防いだのではないかと述べている.一 方,健常者のスポーツ選手の骨密度についての報告
12−15)は多くみられるが,成人の脳性麻痺者のスポーツ選手を 対象とした調査はほとんどみられない.スポーツの中で もサッカーは,身体全体を使うスポーツではあるが,ド リブルやシュートなど下肢を頻繁に使うスポーツであり,
選手の踵骨の骨密度は高いことが推察される.実際に,
片平ら
14)の報告によれば,男子高校生サッカー選手34名の 踵骨のStiffness値の平均値は121.7%であり,運動部に所 属しない一般生徒の平均値106.4%より高かったと報告して
このことを証明するために本研究を行ったものであるが,
片平らの調査対象となった健常者高校生サッカー選手の Stiffness値の平均値は121.7%,および本研究の対照群と した某都内大学サッカー部員20名のStiffness値は,138.9
±22.5%であり,これらと比較すると本研究の対象となっ た脳性麻痺者サッカー選手全員のStiffness値は103.3±15.5
%と低い結果であった.何故このような差を生じたか考 察すると,骨密度に影響する因子として,運動量,生活 習慣,食事,年齢,性差,疾患などが挙げられるが,今 回の調査対象とした若い男性の場合は最も影響があるの は運動量であると考えられる.健常者の高校生および大 学生サッカー選手はほとんど毎日練習しているのに対し て,脳性麻痺者サッカーの選手の多くは職業を持ち,さ らに練習場の確保が難しいことなどのため練習は週に3 日程度であり,両者を比較すると運動量が少ないことは 明白である.しかしながら,脳性麻痺の病型の中では,
C5クラスとC6クラスは機能障害が強いグループである にも拘わらず10名中9名(90.0%)のStiffness値が100%
を超えていた.C5クラスは病型が両麻痺性で,サッカー では回転,ピボット,停止動作,そして走るといった動 作が困難,歩幅の縮小や,または体力の消耗が早く,ト ラップをかけるのも困難,動作制限があるため,続けて 運動を行うことは困難などの特徴がみられる.C6クラス は病型がアテトーシス型で,サッカーでは,ボールの有 無にかかわらずに停止,俊敏に方向を変える動作は困難,
ランニングしながらドリブルやボールコントロールを行 うことや,急激な動作や垂直にジャンプすることも困難,
パスのとき,ボールに触れない足がもう一方の動きを妨 げることがある,などの特徴がみられる(表8
16)).この
表8 脳性麻痺者7人制サッカー各クラスの運動機能の特徴(文献16)より改変引用)
クラス 運動機能 サッカープレイ中での運動機能制限の特徴
C 5 両麻痺性/対麻痺性/
二重半身不随性/
ジストニー性
回転,ピボット,停止動作,そして走るといった動作が困難である.歩幅の縮小,ま たは体力の消耗があり,トラップをかけるのも難しい.動作制限があるため,続けて 運動を行うことは難しい.
C 6 アテトーゼ型/運動 失調性/混合型
ボールの有無にかかわらずに停止,俊敏に方向を変える動作は困難,ランニングしな がらドリブルやボールコントロールを行うことや,急激な動作や垂直にジャンプする ことも難しい.パスのとき,ボールに触れない足がもう一方の動きを妨げることがあ る.四肢の全てに筋失調性アテトーゼがある選手は,最小障害でない限りこのC6に 分類される.
C 7 片麻痺性 障害のない側は問題なく成長し,ウォーキングやランニング動作の妨げにならない.
ただし踵での歩行は困難であり,また障害のある足や障害のある片側でのホッピング,
バランス維持やサイドステップなどの動作を行うことは特に難しい.
C 8
極めて軽度の麻痺/
両麻痺性/ 対麻痺性/
二重半身不随性/
ジストニー性など
ランニング時は限りなく健常に近い機能を発揮する.やや足を引きずって歩くことは
あるが,ランニングに関しては全く問題が見られない.運動機能障害は,最も健常者
に近い.
で,C6クラス(7名)のStiffness値は112.3±9.5%であり,
Stiffness値は決して低くはない.むしろ,この両クラス はC7クラスやC8クラスのグループより運動機能が劣る にも拘わらず骨強度は高いといえる.今回調査したC5・
C6クラスの選手達は競技に対する意欲が強く,練習量が 多いことがこのような結果になったと推定される.この 結果は,脳性麻痺において機能障害と骨密度は必ずしも 比例的な関係にないことを示しており,脳性麻痺におい ても日常的な運動は骨強度低下の予防につながることを 示唆している.一般にはアテトーシス型脳性麻痺(C6 クラス)では転倒の危険性があるため運動を控える傾向 があるが,日常生活にスポーツを取り入れたほうが骨強 度は高くなり,骨折の予防につながるといえる.一方,
障害の軽微なC8クラスでは一側踵骨のStiffness値が41.0
%と極端な低値を示す例があった.この選手は走力があ りサッカーが上手く脳性麻痺者7人制サッカー日本代表 チームに選出されたほどである.片側の骨強度が極端に 低いが臨床的には片麻痺ではなく,また調査時から1年 以内の足の捻挫や骨折などの外傷の既往はなかった.低 強度の原因については不明である.
次に脳性麻痺者7人制サッカーにおけるクラス分けと 骨密度の関連について考察する.脳性麻痺者7人制サッ カーでは,障害の病型と程度によりクラス分けが実施さ れており,国内・国外ともに4クラスに分かれている.
C5クラス(両麻痺性,ジストニー性,両下肢に麻痺があ るが走可能,動くとバランスが悪い),C6クラス(アテ トーシス型,または失調型,四肢に不随意な動きがある が走可能),C7クラス(走可能な片麻痺),C8クラス(両 麻痺性,ジストニー性,極めて軽度な麻痺)の4クラス である.競技会では,公平に競技が行われるようにクラ スにより出場できる人数が決められており,チーム編成 を考える上でクラス分けは重要な要素となる.試合中は C5またはC6クラスの選手が必ず出場しなければならず,
また,C8選手は同時に2名以下しか出場できない,と いう規則がある.しかし,国内で判定されたクラスと国 際大会で判定されたクラスが異なった事例や過去にクラ ス分けの変更を2度経験した選手もおり,クラス分けの 適格性が課題となっている.本調査の対象となった選手 の中にも,表3および表4で示すように,IDがC6−1,
C6−4,C6−6,C7−3,C7−6の選手はクラス分けが 変更されていた.特にクラス分け判定の難しい両麻痺性 の障害と軽度の片麻痺性の障害とのクラス分け判定に関 する研究が求められている.C7クラス(片麻痺性の障 害)の選手では,左右の踵骨の骨密度に差があるという 仮説を立て,骨密度測定がクラス分けに有用であると考 え本研究を行った.その結果,C7クラスでは麻痺側の骨 密度が低下して左右差が認められたことから,クラス分
対照として健常な大学生男子サッカー選手20名の両側 踵骨のStiffness値を調査した.スポーツ選手の骨密度を 調査した先行研究の多くは運動をしていないグループと の比較や身体部位別の比較であり,踵骨の骨密度の左右 差を比較した研究は少ない.呉ほか
17)は前腕骨の骨量測 定を行い,テニスなど負荷に左右差のある種目では利き 腕のほうが非利き腕より骨量値が高いと報告しているが,
山口ほか
12)は大学生男子陸上競技選手43名の調査におい ては左右踵骨の骨密度に差が認められなかったと報告し ている.本研究で明らかになったことを以下に述べる.
20名全員の両踵骨のStiffness値の平均値は,138.9%であ り,片平ほか
14)の報告による男子高校生サッカー選手34 名の踵骨の骨密度のStiffness値の平均値121.7%と比較し てもわかるように非常に高い値であった.本研究のグルー プは,平均年令が19.5歳で骨密度が生涯の中で最も高い 時期であり,さらにサッカーでは名門の大学サッカー部 の選手であり,休むのは正月だけというほど一年中休み 無しに強度な練習を継続している集団であるために高い Stiffness値を示したと考えられる.
Stiffness値が高いであろうという結果は予想通りの結 果であったが左右差の比較では興味深い結果が得られた.
全40足の踵骨を平均して左右差を比較すると右踵骨の平 均値は140.1%で,左踵骨は137.7%であり,左右の平均値 の差は2.4%とわずかであった.しかし,右利き足と左利 き足のグループに分けて分析したところ興味深い結果が みられた.右利き足の12名では左右の平均値の差はわず か0.7%で,ほとんど差がなかった.しかしながら,左利 き足の8名では,7.1%という大きな違いが認められた.
さらに,左利き足の8名中7名は,左足よりも軸足とな る右足のStiffness値が高かった.この理由については,
右利き足の選手は練習時にほぼ同じ時間をかけて両側の 足でボールを蹴る練習を行うのに対して,左利き足は少 数派で貴重な戦力であり試合では左足でシュートを決め ることが求められていることが多く,左足でボールを蹴 る練習時間が多いためと考えられる.また,左足でボー ルを蹴る際には,軸足となる右足に高強度の負荷がかか り踵骨の骨密度が高くなると推察される.大学生陸上競 技選手の調査においては左右踵骨の骨密度に差が認めら れなかったという山口ほか
12)の報告はあるが,サッカー において左右の利き足と骨密度の関連を分析した先行研 究はみられない.これらのことから今後スポーツ選手の 踵骨の骨密度の研究を行う場合は,片側だけでなく必ず 両側を測定するべきである.
結 語
本研究の結論は,以下のようにまとめられる.
1)脳性麻痺者サッカー選手の踵骨Stiffness値は正常値 より低下している例が22名中8名にみられた.成人 の脳性麻痺者ではスポーツ選手でも踵骨の骨強度が 低下している例がみられることが証明された.一方 で,骨強度が高い例も多く,脳性麻痺において機能 障害と骨密度は必ずしも比例的な関係にないことを 示しており,脳性麻痺においても日常的な運動は骨 強度低下の予防につながることを示唆している.
2)両踵骨Stiffness値の左右差の調査ではC7クラスに有 意差が認められた.この結果は脳性麻痺者サッカー のクラス分けの判定に踵骨Stiffness値の測定が有用 であることを示唆している.
3)健常者サッカー選手においても多数に左右踵骨の Stiffness値に違いがみられた.これらのことから今 後スポーツ選手の踵骨の骨密度の研究を行う場合は,
片側だけでなく必ず両側を測定するべきである.
本論文の要旨の一部は中央大学保健体育研究所紀要第 30号(2012年)に資料として報告し,および第25回日本 臨床スポーツ医学会学術総会(2014年11月,東京)にお いて発表した.本研究は中央大学保健体育研究所倫理委 員会の承認を得て行った.利益相反はない.
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