日本管理会 計学会 誌
管 理 会 計 学 2014 年 第 22 巻 第1号
論 文
ブラ ン ドが企業 業績に お よぼす影 響に 関する実証研 究
福田正彦
〈論文 要 旨 〉
近年,ブラン ドをは じめ とする無 形 資 産 が 企 業の業績や価値に 大きな影 響を 与 え る とい う認 識が高 まっ て い る.本稿で は, ブ ラン ドが 日本 企 業の業績に お よぼす影 響を実 証的に検 討 する.
こ のため,ブラン ド・エ クイティを表 す 指標 として 日経 BP コ ンサル ティ ン グ発行の 『ブラン ド・ジャ パ ン』からの 3つ の指標, 認 知 率, 好感 率, 他に はない 魅力 率を選択し,企業業績を表 す 財 務 値との関係 を分 析し た.こ の結 果, 3つ の指 標の うち,他に はない 魅力 率が財 務値と 正
の関係があ るこ とが明 らかになった.他 に は ない魅 力 率は, ユ ニ T クな ブラン ド連想を 示す指 標であり,他のブラン ドから当該ブラン ドを選 択 す る上で重 要であるとの 指 摘 が ある.企業業 績 に は, ブラン ド・エ ク イティ のなか でもユ ニ ークな ブラン ド連 想 が 重要 であるこ とが 示唆さ れ た.
〈キーワード
〉
ブラン ド指標,企業 業 績,財 務 値,企業ブラン ド
Empirical Study:Brand lmpact on Company Performance Masahiko FUKUDA
AbstraCt
Recently, it has been皿 ore reahzed that intangible assets such as brand have sig皿薗cant
impact on company performance and co叩 orate value . This paper investigates empiriea 皿y
brand洫 pact on Japanese oompanies ’
performanoe . For this purpose I sele(hed 丘om
‘‘Brand Japan”i8sued by Nildcei BP Consulting three i皿dices;awareness ,鉛vorableness ,
and attractiveness distinCt fno皿 others , to analyze rela廿onship with 丘nandh1 五gures. The
resUlts show that the attractiveness distinct丘o皿 others has a positive association with the financial{igures. The attractiveness distinct from others represent unique brand
association and it is pointed out that it is i皿 portant ill selecting this brand丘om other
bra且ds, Implication of this study is{br oompany perf()皿 1ance , out of the brand power indioes the attractiveness distinct firom others is important.
Key Words
Brand indices, Company performance, Financial figures, Corporate brand
2012年11月 5日 受 付 2014年 1月23 日 受理
筑 波 大 学 大 学 院 ビジ ネス科 学 研 究 科 博 士 後 期 過 程
Submitted 5 November 2012 Accepted 23 亅anuary 2014
Doct rial Student of University of Tsukuba
The Japanese Association of Management Accounting
The Japanese Assoclatlon of Management Accountlng
管理会計 学 第22巻 第1号
1 . は じ め に
ブラン ドを はじめ とする無形資産が 企業業績や 企業価 値の向上に重要であるとの認 識が高 ま
っ て いる (伊藤(2002),Blair and Wal1皿 a皿(2001)).こ の結果,2000 年に 入 りブラン ド価 値 を貨 幣価値で評 価 するモ デル が日本に 登 場 した.2001 年に伊藤 邦雄教 授がCB バ リュ エ ーターを発
表 し,2002 年に は経 済 産 業 省が設 置し たブ ラン ド価 値 評 価 研 究会に よ るモ デル が公表 され た
(経済産業省企業法 制 研 究 会 (2002)).こうした認 識のもと筆者は,上揚 企 業約 3800社に対 し,
郵 送に よ る質問を 送付し,企業のプラン ドに関 する意識調 査を 行っ た.こ の調 査か ら業界 内で ブラン ドの位 置づ けが高いと認 識して い る企業 と低い企業との間で,マ ーケ テ ィン グ 上の利 点 等に差が あ り,ブラン ドの位 置づけ が高い企業のほ うが,利点 等が高い と認識し ているこ とが示 唆された.
し か し,こ の調査結果は,あくまで企業 自身による自社の企業ブラン ド (CB) と主 な 製 品ブラ
ン ド (PB)の位 置づけにもとついたもの で あ り,客観 的 な評 価では な かっ た.そ こ で筆者は企 業
のブラン ドにつ い てより客観的な評価と企業業績の関係にっ い て リサーチ を おこな うこと とし
た.も うひ とつ の研 究の背 景 とし ては,日本 に お ける ブラン ド と企業業績の関係につ いての実 証 研 究が限られてい る か らである.ブラ ン ド価 値 評 価モ デル に よっ て算出され た ブ ラン ド価 値 と株 価 や株 式 収 益との 関係につ い ての 実証 研究は お こな われ ている が (桜 井 ・石 光 (2004),
朴 ・中 條 (2006),伊藤 ・加 賀谷 (2006)),ブ ラン ドを表 す 指 標と企業 業績の関係につ い て は, 筆 者の知る限りほとん ど存 在しない .
本 研 究は,Ke11er(1998,2008)が提 唱 する 「顧 客ベ ース のブラン ド・エ クイテ ィ」の概念を 中
心に,ブラン ドと企 業 業 績の 関係 を実 証 的 に 検 証 し よ う とす る もので あ る.ブラン ドを 表 す 指 標 として 日経 BP コンサルテ ィ ング が おこなっ た 『ブラン ド・ジャ パ ン』の 2005年〜 2008 年
の調 査 結果を使 用する.企 業 業 績 とし て ’H経NEEDS の財 務 値 を使 用し,両者の関係 を共 分 散 構 造分 析によっ て解 明することを試み る.
2 .先行研 究 および仮説の設 定 2 . 1.ブ ラン ドが企業に もた らす 効 果
売上や利 益な どの企業業績に影響を与 える ブ ラン ドにっ い て,マ ーケテ ィン グ領域での 研 究 が進んで い る.Aaker (1991)は,ブラン ドが顧 客に製品 に関する膨 大 な惰 報 を解 釈 させ るこ と に役立ち,顧 客の購 買決 定の確 信に影 響し製 品の使用の 際に満足 を与え ること を 通 じて,ブラン
ド・エ ク イ ティ 1が次に 挙げる6つ の価 値を企 業に与 えると主 張した. マ ー
ケ テ ィン グ・プロ グラムの効率や有効性,
ブ ラン ド・ロ イヤ リティ
,
プ レ ミアム 価 格 と高いマ ージン
,
ブラン ドの拡 張 を通じた成 長,
流 通 チャ ンネル のテコ , 競争優位.
Keller(1998,2008)は,「顧 客べ 一ス のブラン ド・エ ク イ ティ」を唱 え,これを,あ るブラン ドの
マ ーケ ティ ング活 動に対する消 費 者の反 応にブラン ド知識 が お よぼす 潮 II化 効 果と定義し た.
ブ ラ ン ドが 企業 業 績に お よ ぼ す影響 に 関 す る 実 証 研 究
ブラン ド・エ ク イ ティにつ い ぐは,ブラン ド化 され た製品やサービス のマ ーケ ティ ングから生じ
る成 果が,ブラン ド化さ れ ていない もの と なぜ 異な るの か を 説 明する ものであるとの見 解
(view )を とっ て い る.
良い 「顧客べ 一ス のブラン ド・エ ク イ テ ィ」を有するブラン ドは,ブラン ドが 明 らかに なっ た と きに,製 品や 製 品のマ ーケティング活 動 に対し,消費 者 に よ り好 ましい反 応 を起こさせ,強いブ ラン ドは次に挙げる 10 の利 点(advantages of strong brand)を企 業にも た らす と主 張した.
強い ロイ ヤ リティ,
競 争 的マ ーケティング活 動へ の強い抵 抗九 マ ーケ テ
ィン グ危機へ の強い 抵抗力, 大 き なマ ージン,
価格上昇に対 する消費者の非 弾力 的 な反応,
価 格下落に対 する消 費 者の 弾 力 的 な反 応, 流 通か らの大 きな協 力 と支 援,
マ ーケティ ング・コ ミュ ニ ケーシ ョン効 果の増 大
,
ライセ ン ス供 与機 会の可能 性,
ブ ラン ド拡 張機 会の増 加.
ブラ.ン ドが企 業 に もた らす 効 果 として,日本 に おい ては,プラン ド価 値 評 価 研 究 会の調査結果 が 図表 1のよ うに示 されてい る.
図表1 Qlo.競 争優位を もたらす ブラン ドの効 果 (該 当項目すべ て に○ をつ ける)
第 1位 68.7%
第2位 52.2%
第 3位 34β % 第4位 20.8%
第5位 16.9%
第6位 5,1%
他社の製品 と同価格であっ て も,よ り多くの製品等の販売 ・提供が できる
ブ ラン ドを利 用し て シナ ジー効果 を生み出し
,新 市場 を開 拓できる 他 社の製品等に 比べて高い価 格で販売できる
流通経 路 を容易に確保できる 広告宣伝 費 を 削減できる
ブラ ン ドを他 社に対 してライ セ ン ス供与ま た は売 却する こ と に よっ て 莫 大 な収入を得ることができる
出典:経 済 産 業省 企 業 法 制研 究会 (2002)p.30よ り 「競 争 優位を もた らすブ ラン
ドの ある会社の回答」 を抜き出し て筆者が作成
す なわ ち,第 1位がよ り多 くの販 売 量,第2位が新 市場の開拓,第3位が高い価格第4位が流 通 経路の確 保,第 5位が広告宣伝費の削減,第 6 位がブラン ドのラ イセ ンス 供与 や売却に よ る収入
であ る.これ ら は,Aaker (1991)や Ke皿er (1998,2008)が挙 げた ブラン ドが 企業にもた らす価値 やマ ーケテ ィ ング 上の利 点 を 中心 と したもの と同種のもの で あ る.こ の よ うに 日本企業 も,ブラ ン ドが 企業に 与 え る効 果と し てマーケ テ
ィ ング上の利 点を認 識してい る.
さ らに後述 す る仮 説に おい ては 企業 ブ ラン ドを扱 うが,企 業ブラン ドの利 点につ いても次の ような先行研究がある.
Keller(2008)は,企業ブラン ドが4っ の 点で連想を想起しや すい こと を挙 げ,こ うし た連 想 が
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管 理 会 計 学 第22 巻 第 1号
個々 の製品の 市 場 成 果に重 要 な効 果 を 表 す 例 を 挙 げてい る.4 つ の 点と は,共通する製 品 属 性 ・ベ ネフ ィッ ト・態 度 (品 質
,革 新 性 ),人 材と顧 客との関係,環境配慮 や社 会 的 責 任のプログ ラム と価 値観企 業の信 頼 性である.
Hatch and Schultz(2001)は,よ り具 体 的 な企業 ブ ラン ドの長 所と し て,広 告 宣 伝 やマ ーケテ ィ
ン グの 面 で規模の経済を働か せコス トを 削減できるこ と と顧客にコ ミュ ニ ティ意 識 を与 え,喜
.んで高い 価 格を支払わせ るこ と を挙 げてい る.
小川 (2001)は,日本 企 業 が 企 業ブ ラン ド戦 略 を展 開 す る理 由と し て個別のブラン ドに メデ
ィア予算を割り振 るよりは,企業ブ ラン ド に消 費 者へ の メ ッ セ ージ を集 中 させたほ うが効 率が 高い ことを挙 げてい る.
小林 (2001)も企 業ブ ラン ド戦 略の利 点 とし てマ ーケテ ィン グ資 源の効率的 な 活 用を挙げて
い る.
2。 2. ブ ラン ドと財務値の 関係
次に,ブラン ド と企 業 収 益 や 株 式 収 益 との関係 を研 究し た代表 的なもの を挙 げる.
Aaker and Jacobson(1994 )は,ブ ラン ド・エ ク イテ ィを構成 する知覚品質と株 式 収 益の 関係を 検証 した.1989年か ら1992年の 34ブ ラン ドを対 象に,知覚品 質は11段階の 消費 者 評 価であ る.
ブ ラン ド・エ ク イ テ ィを 構成する知覚品質は,株 式収益と正の 関係が あ ること を 示 し た. eand Jacobso1(1995)は,ブラン ド拡 張の発 表と株 式 収益の関係の検 証を おこなった.
1989年から1990年の間に投 入され た食品59の ブラン ドに よ る,89のブラン ド拡 張 を対 象 とし た.ブラン ドへ の態度(brand attitude )とブラン ドへ の親 密 性(brand familiarity)が 高いブラン
ドの拡 張発 表は,高い株 式収 益 を も た らすこと を示 した.
Aaker and Jacobson(2001).は,1988年から1996年 まで の IT関係9社のサンプル数248 を 使用 し て,ブラン ドへ の態 度の変化 とROE ,株 式収 益 との関係を検 証した.ブ ラン ドへ の態度は,
好き (like)= 11中立 (neutral )=0ノ嫌い (dishke)=− 1の 3段 階で評価された ものであ る.これに よ る と1四半期前と2四半 期 前のブ ラン ドへ の態 度の変 化は,ROE と正の 関 係がある.ま た,ブラン ドへ の 態 度の 変 化 は;同 時 期の株 式 収 益と 正の関係が あ る.
Ki皿 et al (2003)は,ブラン ド・エ クイテ ィと財 務 値の関係を韓国の ラグジャリーホ テル を使
っ て検証した.財務値はホテル の 1部屋 当た りの売上 を使い ,ブラン ド・エ クイティに は,ブラン ド・ロイヤ リテ ィ
,ブラン ド・アウェ アネス知覚品質,ブラン ド・イメージ2を使っ た.知 覚品質 は統 計 的に有 意 な数 値で はなかっ た が残 りの3っ の 要素にっ い ては有 意な数値であり,財 務 値
と正の関 係が存在することが検証 され た.
S皿ith a皿d Whght (2004)は,共分散構 造 分析を使っ て,1994年か ら2000年に かけ,PC 企業 6
社の顧 客ロイ ヤ リティと財務値な どとの関係 を検証した.製 品 品質と販 売 後のサービス 品 質が 顧 客ロ イヤリテ ィを向上させ,顧 客ロイ ヤ リ ティは,平均 価格販 売成長 率,ROA を向上 させ るこ
とを示し た.
MiZik and Jacobson (2008)は,Ybung and Rubicam社 (Y&R)の Brand Asset ValuaiX)r
model のブラン ド資産の5つ の柱 (5p皿ar) と株 式 収 益の回帰 分析を おこなっ た.5つ の 柱 と は, 差 別化(d蹠 rentiation ),適 切 性 (relevanoe ), 尊 重(es もeem ), 認知 ・理解 (knowledge), イノ
ベ ーテ
ィヴ ・ダイ ナ ミッ ク(energy )である.こ の結 果,ROA の 変化 と販 売 成 長率 に加え,ブ ラン ド資産5つ の柱のうち差別化 と適 切性が株 式 収 益に対し,正の影 響 を与えるこ とを示 した.
Verbeeten and V7ijn(2010)}ま,オランダ企 業の うち,ブラン ドを一っ し か もた ない企業 89