ホモロジーレンズ空間の
2重分岐被覆となる
S1上 の曲面束
宮下 純平
(広島大学大学院)∗ 2020年
1月
27日
概 要
作間 [4] は,S3 の2 重分岐被覆となるS1 上のトーラス束を完全に分類し,
さらに,ホモロジー3球面の2重分岐被覆となるS1 上の曲面束の1次元ホ モロジー群の特徴付けを与えた.本稿では,レンズ空間L(p, q) の2重分岐 被覆となるS1 上のトーラス束の分類,及びホモロジーレンズ空間の2 重分 岐被覆となるS1 上の1 次元曲面束のホモロジー群の持つ性質について報告 する.ここで,3 次元多様体 M が ホモロジーレンズ空間 であるとは,M がレンズ空間と同じ整数係数ホモロジーを持つときをいう.
1.
イントロダクション
1.1.
曲面束
定義
1.1.種数
gの連結な有向閉曲面
Fg上の自己同相写像
ϕに対して,以下で定義 される
3次元多様体
Mϕ:=Fg×[0,1]/(x,0)∼(ϕ(x),1)
を
ϕをモノドロミーとする
S1上の
Fg束(曲面束) と呼ぶ.
∗〒739-8526 広島県東広島市鏡山一丁目3 番1号 広島大学 大学院理学研究科
e-mail:[email protected] web: http://mathsoc.jp/~hanako/
命題
1.2. Mϕの
1次元整数係数ホモロジー群
H1(Mϕ) := H1(Mϕ;Z)は次で与えら れる.
H1(Mϕ) ∼= Z⊕Coker(ϕ∗−1)
∼= Z⊕ ( 2g
⊕
i=1
Zni
)
, ni ∈N∪ {0}, ni |ni+1 (1≦i≦2g−1).
1.2.
作間
[4]の結果
定理
1.3. S3内の絡み目
Kが
T2束
Mϕを
2重分岐被覆に持つための必要十分条件 は,K が次の形の絡み目
K(α, β)とイソトピックとなることである.
図
1.1: K(α, β)また,
Mϕのモノドロミー
ϕは
A(α, β) :=( −1 −α β αβ −1
)
で与えられる.
定理
1.3から次の系が得られる.
系
1.4. T2 =F1束
Mϕが
S3の
2重分岐被覆であり,
H1(Mϕ)∼=Z⊕Zn1 ⊕Zn2, n1 |n2
と表すとき,
ng =n1 = 1または
2である.
定理
1.5.ホモロジー
3球面の
2重分岐被覆を
Mϕとするとき,
ng = 1または
2で ある.逆に,
ni |ni+1, ng = 1または
2を満たす任意の
(n1, . . . , n2g)∈(N∪ {0})2gに 対して,S
3の
2重分岐被覆となる
Fg束
Mϕで
H1(Mϕ)∼=Z⊕ ( 2g
⊕
i=1
Zni
)
を満たすものが存在する.
2. L(p, q)
の
2重分岐被覆となる
S1上のトーラス束の決定
2.1.
得られた結果
定理
2.1. L(p, q)内の絡み目
Kが次の形の絡み目
K(p, q;α, β)とイソトピックとな るなら,
Kは
T2束
Mϕを
2重分岐被覆に持つ.
また,
Mϕのモノドロミー
ϕは
A(p, q;α, β) :=
( r s p q
) (
1 β
0 −1
) ( −q s p −r
) (
1 α
0 −1 )
である.ただし,
r, sは
rq−ps=−1を満たす整数である.
上の図は
L(p, q)の種数
1の
Heegaard分解を表しており,ハンドル体
V1, V2それ ぞれに
α回,
β回ひねられた曲面
Siが埋め込まれている.
S1, S2の境界をそれぞれ
K(α), K(β)としたとき,K(p, q;
α, β) = K(α)∪K(β)である.
定理
2.2. pが奇数であるとき,
T2束
Mϕが
L(p, q)の
2重分岐被覆であるなら,分
枝集合
Kは
K(p, q;α, β)とイソトピックである.
2.2.
定理
2.1の証明
Vi
を
Siで切り開いて得られた
3次元多様体を
Vˆiとする.このとき,
Vˆi ∼=T2×[0,1]である.
Vˆiの
2つの連結成分のうち,
Siの境界を含むものを
Ci−,もとのハンドル体 の境界と対応するものを
Ci+とする.
Vˆi
のコピー
Vˆi′ (i= 1,2)を用意し,次の図式で示されるように貼り合わせると,K で分岐する
L(p, q)の
2重分岐被覆が得られる.
C1−
γ1
⊂ Vˆ1 ⊃ C1+ f //C2+ ⊂ Vˆ2 ⊃ C2−
γ2
C1−′ ⊂ Vˆ1′ ⊃ C1+′
f //C2+′ ⊂ Vˆ2′ ⊃ C2−′.
ここで,写像
f :C1+→C2+は誘導準同型
f∗が
( r s p q
)
と対応する同相写像であり,
γi :Ci−→Ci−′
は
(γ1)∗が
(1 α
0 −1 )
と対応し,(γ
2)∗が
(1 β
0 −1 )
と対応する対合 である.よって,ϕ
:=γ1−1◦f−1◦γ2◦fとすると,2 重分岐被覆
Mϕは
S1上の
T2束 で,モノドロミーは
( r s p q
) (
1 β
0 −1
) ( −q s p −r
) (
1 α
0 −1 )
である.よって,
定理
2.1を示すことができた.
2.3.
定理
2.2の証明
この定理の証明は,
Tollefson [6, Theorem 2]から導かれる次の定理に本質的に依存し ている.
定理
2.3. S1上の
Fg束
Mϕが
L(p, q)の
2重分岐被覆であるとする.このとき,
Mϕ上の被覆変換
hは次で定義される
Mζ :=Fg×R/(x, t)∼(ζ(x), t+ 1)上の対合
h′と
同値になる.
h′([(x, t)]) := [(γ(x),1−t)].
ただし,
ζが
ϕとイソトピックな
Fg上の同相写像であり,
γは
T2上の向きを逆転す る対合で
γ =ζ◦γ◦ζを満たす.
次の命題は良く知られている(作間
[5, p.164]参照).
命題
2.4. T2上の向きを逆転する対合
γは次の
γ1, γ2, γ3のいずれかと同値になる.
γi(θ1, θ2) (γi)∗ T2/γi Fixγi
γ1 (θ1,−θ2) (
1 0 0 −1
)
円環
2つの円周
γ2 (θ1+θ2,−θ2) (
1 1 0 −1
)
M¨obius
の帯
1つの円周
γ3 (θ1+π,−θ2)( 1 0 0 −1
)
Klein
の壺 空集合
ただし,
T2上の対合
γと
γ′が同値であるとは,次の図式が可換になる
T2上の同相 写像
fが存在するときをいう.
T2
γBBBBBB
BB ∃∼=f //T2
γ′
~~||||||||
T2
定理
2.2を示す.
Mϕを
L(p, q)の
2重分岐被覆とし,分枝集合を
Kとする.このと き,ϕ をイソトピーの範囲で取り換えることにより,M
ϕ上の向きを保つ対合
hが存在 し,
(Mϕ,Fixh)/h= (L(p, q), K)を満たすとして良い.定理
2.3により,
h([(x, t)]) = [(γ(x),1−t)]となる
T2上の対合
γが存在する.このとき,
(Mϕ,Fixh)/h ∼= (T2×[0,1/2],(Fix(ϕ−1◦γ)×0)∪(Fixγ ×1/2))/∼
∼= (N0, K0)∪(N1, K1)
と書ける.ここで,
1行目の
∼は,
(x,0)∼((ϕ−1◦γ)(x),0)かつ
(x,1/2)∼(γ(x),1/2)を表す.また,2 行目の
(N0, K0), (N1, K1)はそれぞれ次で定義される.
(N0, K0) := (T2×[0,1/4],Fix(ϕ−1◦γ))/(x,0)∼((ϕ−1◦γ)(x),0), (N1, K1) := (T2×[1/4,1/2],Fixγ)/(x,1/2)∼(γ(x),1/2).
(N0, K0)
に着目して考える.命題
2.4により,K
0は
2つの円周の和,円周,空集合の いずれかになる.ここで,次の補題を示す.
補題
2.5. K0, K1はともに空集合ではない.
証明
.例えば
K0が空集合であったとする.このとき,
Klein bottle⊂N0 ⊂N0∪N1 = L(p, q)を満たしている.よって,
H1(L(p, q);Z2)̸= 0である (
Rubinstein [3, p.187]参照).
ところが,
pは奇数と仮定していたので,
H1(L(p, q);Z2) = 0となり矛盾が生じる.よっ
て,補題
2.5を示すことができた.
□定理
2.2の証明に戻る.補題
2.5により,
N0 ∼=N1 ∼=S1×D2だから,
{N0, N1}は
L(p, q)の種数
1の
Heegaard分解を一意的に与える.よって,
L(p, q) =V1∪V2にお いて,N
0 =V1, N1 =V2として良い.よって,
(V1, V1 ∩K) ∼= (N0, K0)
∼=
{(S1×D2, ∂(annulus))
(S1×D2, ∂(M¨obius band))
だから,ある
α ∈Zに対して,
V1∩Kは
K(α)とイソトピックである.同様にして,
ある
β ∈Zに対して,
V2∩Kは
K(β)とイソトピックである.よって,分枝集合
Kは絡み目
K(p, q;α, β)とイソトピックである.よって,定理
2.2を示すことができた.
3. L(p, q)
の
2重分岐被覆となる
S1上のトーラス束の
1次元ホモロ
ジー群の計算結果
定理
2.1から次の系が得られる.
系
3.1. T2 =F1束
Mϕが
L(p, q)の
2重分岐被覆であるなら,
H1(Mϕ)∼=Z⊕Zd⊕Zdk
で与えられる.ただし,
d, kは次の
2条件
• d|2p
• k = |det(A(p, q;α, β)−E)| d2
を満たしている.
注意
.上の系の逆は一般には成立しない.すなわち,
d, kが
• d|2p
• k = |det(A(p, q;α, β)−E)| d2
を満たしていても,
L(p, q)の
2重分岐被覆となる
T2束であって
H1(Mϕ)∼=Z⊕Zd⊕Zdkを満たすように実現できないものが存在する.そのことを例
3.2で見る.
例
3.2. (1) (p, q) = (2,1)のとき,次が成立する.
H1(Mϕ)∼=
Z⊕Z1⊕Z4k k
は奇数
Z⊕Z2⊕Z2k k̸≡0 mod 4 Z⊕Z4⊕Z4k kは任意
逆に,右辺の形の
abel群は
L(2,1)の
2重分岐被覆となる
T2束
Mϕの
1次元
ホモロジー群として実現できる.従って,特に,
Z⊕Z2⊕Z2k (k ≡0 mod 4)は
L(2,1)の
2重分岐被覆となる
T2束
Mϕの
1次元ホモロジー群として実現でき
ない.
(2) (p, q) = (3,1)
のとき,次が成立する.
H1(Mϕ)∼=
Z⊕Z1⊕Z3k k̸≡0 mod 3 Z⊕Z2⊕Z6k k̸≡0 mod 3 Z⊕Z3⊕Z3k k
は任意
Z⊕Z6⊕Z6k kは任意
4.
ホモロジーレンズ空間の
2重分岐被覆となる曲面束のホモロジー群 に関する予想
定義
4.1. 3次元多様体
Mが
p型ホモロジーレンズ空間 あるいは ホモロジー
L(p,∗)であるとは,
Mの整数係数ホモロジー群とレンズ空間
L(p, q)(ただし,
qは
pと互 いに素な整数)の整数係数ホモロジー群が一致するときをいう.
前章の結果を一般化して,次の予想を立てた.
予想
4.2. pを奇素数とする.
S1上の
Fg束
Mϕが
p型ホモロジーレンズ空間の
2重 分岐被覆を
Mϕであるとき,
ng |2pである.
観察
. ng |2pであることは次の
3つの主張を満たすことと同値である.
主張
1.奇素数
kが
k ̸=pを満たすとき,
gcd(ng, k) = 1,主張
2. gcd(ng,4) = 1または
2,主張
3. gcd(ng, p2) = 1または
p.上の観察はつまり,
ngを素因数分解したとき,
2と
pの重複度は高々
1で,
p以外 の奇素数は現れないということを意味している.
本稿では,主張
1の証明を与える.
5.
主張
1の証明
観察
.主張
1は次と同値である.
•
奇素数
kが
k ̸=pを満たすとき,
dim(H1(Mϕ;Zk))≦g+ 1である.
主張
1の証明には次の補題を用いる.
補題
5.1. pを奇素数とし,
kを
pとは異なる奇素数とする.また,
Nをホモロジー
L(p,∗)とし,M を
Nの
2重分岐被覆とする.さらに,写像
h:M →Mが被覆変換 であるとき,次が成立する.
(1) i= 1,2
のとき,
1 +h∗i :Hi(M;Zk)→Hi(M;Zk)は零写像である.
(2) H2(M;Zk)
の任意の
2つの元
x, yに対して,
int(x, y) = 0∈H1(M;Zk)が成立
する.
主張
1を示す.背理法で示す.
dim(H1(Mϕ;Zk))≧g+ 2と仮定して矛盾を導く.
背理法の仮定により,dim(Coker(ϕ
∗−1))≧g+ 1である.
次元公式により,
dim(Im(ϕ∗−1))≦g−1 dim(Ker(ϕ∗−1))≧g+ 1
であることが分かる.
η :H1(Fg;Zk)↠ Coker(ϕ∗ −1)⊂ H1(Mϕ;Zk)を自然な射影と する.このとき,
η(Ker(ϕ∗−1))∼= Ker(ϕ∗−1)/(Ker(ϕ∗−1)∩Im(ϕ∗−1))
なので
dim(η(Ker(ϕ∗−1))) ≧ dim(Ker(ϕ∗−1))−dim(Im(ϕ∗−1))
≧ (g+ 1)−(g−1) = 2
が得られる.よって,次の
2条件を満たす
z ∈Z1(Fg;Zk)が存在する.
• [z]∈Ker(ϕ∗−1)⊂H1(Fg;Zk),
• ord(η([z])) =k.
ここで,[(ϕ
#−1)(z)] = (ϕ∗ −1)([z]) = 0∈ H1(Fg;Zk)なので,∂c
= (ϕ#−1)(z) ∈ Z1(Fg;Zk)となる
c∈C2(Fg;Zk)が存在する.
ˆ
z :=z×[0,1]−ϕ−∗1(c)×0∈C2(Mϕ;Zk)
で定義する.このとき,
∂zˆ = ∂(z×[0,1]−ϕ−#1(c)×0)
= ∂z×[0,1] + (−1)(z×∂([0,1]))−ϕ−1# (∂c)×0
= z×0−z×1−ϕ−#1(∂c)×0
= z×0−ϕ−#1(z)×0−ϕ−#1(∂c)×0
= (z−ϕ−#1(z)−ϕ−#1(∂c))×0
= (z−ϕ−#1(z)−ϕ−#1((ϕ#−1)(z)))×0
= 0
より,ˆ
z ∈Z2(Mϕ;Zk)である.よって,[ˆ
z]∈H2(Mϕ;Zk)が定義できる.[F
g] := [Fg×1
2]∈H2(Mϕ;Zk)
とする.このとき,
int([ˆz],[Fg]) =η([z])
であることが分かる.補題
(2)により,
η([z]) = int([ˆz],[Fg]) = 0∈H1(Mϕ;Zk)
となるが,これは
ord(η([z])) =kであることに矛盾する.よって,
dim(H1(Mϕ;Zk))≦ g+ 1が得られ,主張
1を示すことができた.
謝辞
講演の機会を与えてくださった日本大学の市原一裕先生,茂手木公彦先生に心より感 謝致します.また本研究を進めるにあたり,非常に適切かつ丁寧にご指導いただいた 指導教員の作間誠先生にこの場をお借りして感謝申し上げます.また,先輩の片山拓 弥さん,坂井駿介さんには貴重な助言をいただきました.あわせてお礼申し上げます.
参考文献
[1] A. Hatcher, Basic Topology of 3-Manifolds, unpublished notes available online at http://www.math.cornell.edu/˜hatcher
[2] D. Rolfsen,Knots and links. Mathematics Lecture Series, No. 7. Publish or Perish, Inc., Berkeley, Calif., 1976.
[3] J. H. Rubinstein,One-sided Heegaard splittings of3-manifolds, pacific J. Math.76(1978), no. 1, 185–200.
[4] M. Sakuma, Surface bundles over S1 which are 2-fold branched cyclic coverings of S3, Math. Sem. Notes, Kobe Univ., 9 (1981) pp. 159–180.
[5] M. Sakuma, Involutions on torus bundles over S1, Osaka J. Math. 22 (1985), no. 1, 163–185.
[6] J. L. Tollefson, Periodic homeomorphisms of 3-manifolds fibered over S1. Trans. Amer.
Math. Soc. 223 (1976), 223–234.