欲望のソシオン理論 : ソシオンダイアッドにおけ る差異と欲望の力学と感情のキューブモデル
その他のタイトル A "Socion" Theory of Interpersonal Desire : Constructing a Cube‑Model of Human Feelings by means of Differencial Calculus of
Interpersonal "Weight‑Game".
著者 木村 洋二
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 25
号 2
ページ 1‑41
発行年 1993‑12‑05
URL http://hdl.handle.net/10112/00022552
欲 望 の ソ シ オ ン 理 論
ソ シ オ ン ダ イ ア ッ ド に お け る差異と欲望の力学と感情のキューブモデル
木 村 洋
A "Socion" Theory of Interpersonal Desire: Constructing a Cube‑Model of Human Feelings by means of Differencial Calculus of Interpersonal "Weight‑Game".
Yohji (Yorge) KIMURA
Abstract
A dynamical system model o f interpersonal state o f feelings i s con‑
structed on the basis o f s o c i o n theory. The b a s i c hypotheses are;1)the Ego i d e n t i f i e s w i t h t h e difference o f w e i g h t s between the Alter ego's evaluation o f the Ego and the Ego's evaluation o f the A l t e r . 2)Pleasure o r displeasure i s the s i n g a l o f a n increase or decrease of weight's dif‑
ference. 3Hhe sense o f s e l f o r otherness i s the differencial calculus of pleasure or displeasure. 4)Love or hate i s t h e differencial of s e l f or otherness. A Cube‑model c i f interpersonal f e e l i n g system i s proposed. The Cube consists o f 8 b r i c k s ; MODESTY, ARROGANCE, C O M P A S S I O N , DESPISE, GREED, H U M I L I T Y , ENVY and P R A I S E . The l a t t e r four f e e l i n g s move toward a cosmos o f difference, and the former four seek an equalitarian Utopia. But i n t h i s U t o p i a , s l i g h t differences o f weights generate very sharp d i f f e r e n c i a l waves ( p u l s e s o f awareness) o f s e l f n e s s and otherness, which may very p o s s i b l l y l e a d the Utopian commune to c o l l a p s e .
Key Words: SOCION, SOCIOTRON, CUBEMODEL, COMMUNICATION, FEELING, SELF, OTHER, PLEASURE, LOVE, HATE, COMPASSION, DESIRE, ENVY, UTOPIA
抄 録
ソシオンは自他の荷重差にアイデンティファイする。荷重差の正負が楽と苦に,その変化率が快不 快に対応する。自他は快不快の変化率である。不快の減少と快の増大が自己性に,快の減少と不快の 増大が他者性に対応する。愛憎は自他の変化率である。愛は自己性の減少と他者性の増加を伴い,憎 は他者性の減少と自己性の増加をめざす。優ー劣,自ー他,差異化一対称化の 3 つの次元から,謙遜 と憐憫,尊大と侮蔑,貪欲と嫉妬,卑下と称賛の 8つの頂点をもつキューブが導かれる。尊大は権力 への意志,侮蔑は差別主義,卑下は自己非難,称賛は他者崇拝となってそれぞれ差異のコスモスに至 る。憐憫と謙遜は愛の運動,貪欲と嫉妬は欲望の運動となってともに差異が解消し欠如が消滅する平 等主義のユートヒ°アをめざす。この平等の特異点では小さな差異のゆらぎによって自他を峻別する意 識のパルス (2 階微分成分)が発生し,熱死のユートビアを差異のカオスと化して崩壊に導く。
キーワード:ソシオン,ソシオトロン,キューブモデル,コミュニケーション,荷重,感情,自己,
愛,憎しみ,他者,快感原則,欲望,嫉妬,ユートピア
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関西大学「社会学部紀要」第 2 5 巻第 2 号
は じ め に
人間は互いに選択的に荷重しあいながら情報—資源的に連結されて社会的ネットワークを構成 する。ソシオン ( s o c i o n ) は,この荷重ネットワークの結節として人間を概念するためにわれわ れがつくった用語である% ソシオンは,他者の像を内部に構成し自己の鏡像を外部つまり他者 のもとにもつ一種の超個体(的な回路ユニット)で,コミュニケーションを通じて荷重を学習・
調節しあう。そのとき人間が自己として体験する荷重の量(存在感情)は,自他の荷重差と,他 者のかざす鏡像からの帰還,そして自己回帰の 3 つの要素によって決まる,と考えられる。本稿 は,このうち荷重差への同一視によって自己システムに生じる欲動のダイナミックスと感情のメ カニズムを理論的に探求する。
目 次
I 自己の構成
1 . ソシオンのダイアッド 2 . 私のループ
1 [ 差異のゲーム 1 . 差異への同一化 2 . 欲望のシーソー
m シャドーオペレーション 1 . 影の誕生
2 . 影への供物 I V ソシオトロンの力学
1 . シーソーのダイヤグラム 2 . 欲動の三角関数 3 . 他者の位相 4 . 欠如の管理
v 欲動の論理 1 . 差異の対称変換 2 . 欠如の愛 3 . 欲望の正義 4 . 愛の計量 5 . 嘲笑とユーモア V I 感情のキュープモデル
1 . 感情のパラメークー 2 . キューブモデルの構成 3 . キュープの領域 4 . アンビバレンス V J I モデルの射程
1 . 差異と超越 2 . 世界の対角線 3 . 熱死のユートピア 4 . ハイパーループ 5 . カオスとコスモス
1) 詳細は,木村•藤沢•雨官1990,
藤沢・雨宮・木村 1 9 9 1 ,
雨宮・木村•藤沢 1993 を参照。なお「荷重」とは.「信一不信」「好き一嫌い」のように正負の分極性をもつアナログ量で,デキゴトにたいする予期ボテ ンシャルと考えてよい。その荷重量に応じて表象のリアリティがきまり,ソシオンの社会的なインボータ ンスがきまる。
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I 自己の構成 1 . ソシオンのダイアッド
A と B2 個のソシオンが構成するダイアッドのソシオマップを図 1 に示した。 A のなかの右側 にある小さな円は, A が B について構成した表象 B• とそれにおいた荷重 W a b(A の私 I) を , 左にある小さな円は A が自分自身について構成した表象 A• と荷重 W •• (A の私 I l I ) を表わし ている。 B のなかの小円も同じように, 右から, B が自分自身について構成した像 Bb と荷重
wbb,B が A に つ い て 構 成 し た 像 心 と 荷 重 Wb 。 (A の鏡像, A の私 I I ) を示している。
図 1 ダイアッド
A B
B•: W a b , Aのみた B A•: W a a , AのみたA
Ah: W b a , Bのみた A Bh: w b b . Bのみた B
このソシオマッフ゜表示では小円の大きさが荷重の大きさに対応している。白黒のぬり分けで荷 重の正負を表わすことができる。(図 1 では, A が B より大きな荷重を与えられている。)円から 円への矢印線は,表象ユニット間に情報的な荷重の送り込みによる「対応づけ」 (コミュニケー ションあるいはオペレーション)が働いていることを表わしている。
2 . 私のループ
ソシオンは,他のソシオンがかざした鏡像(たとえば B が A にかざした A の像 Ab あるいは荷
重 Wしに同一視することで,自己の像 A• を構成し,荷重 W し を 認 知 す る % 図 2 の矢印線 / 2
で示した鏡像から自己像へのフィードバックループが,この鏡像からの帰還(式( 1 ) の右辺の第 2 項)を表している。さらにソシオンは,内部に自己回帰ループをもって一定の自己同一性をつむ
ぐ , と考えられる。図 2 の大きな円 A から内部の左がわの小円=私皿へのマッビング八が, こ
2) 自己像が他者の視線を意識すること,つまり他者にどう見られているかについて私が想像的に構成した私 の像(私 I I ' 「鏡像」)についての意識性を核に形成されることは, C.H. クーリーの「鏡のなかの自己」
の概念いらい,すでに人間科学の古典的な洞察となっている。近くはフランスの精神分析学者 J . ラカン がこの鏡像への同一視を,「疎外する同一視」(自己を譲り渡す同一視)あるいは「騒しとられ」 ( i d e n t i f ‑ i c a t i o n a l i e n a n t , c a p t a t i o n ) と呼んで, その人間学的意義を強調した(「私の機能を形成するものとし ての鏡像段階」,「心的因果性について」)。なおソシオン理論による自他連関の概略と鏡像帰還の意味づけ については木村1 9 9 1 b を参照されたい。
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の自己回帰ループの機能(式( 1 )の第 3項)を表わしている 3) 。
本稿ではこれに加えて,ソシオンは基本的に自他の荷重差を検出して,それに同一化する傾向 をもつと仮定したい。 ソシオン A は , B とのあいだの荷重差(私 l [ 一 私 I , Wba‑W. 心 を 検 出 し , この差異を社会的に構成された自己の荷重(とりあえずの私 m) として取り込む傾向があ る , と考えるのである。図 2 では,このループを / 1 で,取り込まれる荷重差分を斜線部 ( I l 一
I) で表わしている。
以下,この荷重差への同一視という仮定からどのような論理的系が導かれるか,現象学的なデ ータとの対応を視野に入れながら理論的に追求してみたい。
図 2 「私」のループ
A B
/ 1 差異への同一化,ん鏡像帰還, l a 自己回帰
I
I 差異のゲーム
1 . 差異への同一化
ダイアッド(二者関係)においては,おおくの場合(ほぼ無意識の比較によって)自動的に自 他の荷重差が検出される。そしてそれにひきつづいて,検出された荷重の差異への同一化の運動
3) われわれ(雨宮•藤沢•木村)は藤沢を中心にソシオンネットワークをコンピューターシミュレーション
にのせることを企図している。式( 1 ) は , 自己として体験される荷重私 m の変化量ハいが, 1 )自他の荷重差
(Il-1) と, 2) 他者からの鏡像帰還 (I•J l l ) , そして 3 ) 自己回帰の量によって決まる, という考え 方を暫定的に表したものである。
4私直 =a( 私 n ―私 I)+{J 私 I•
J私 H+r 私直……… ( 1 )
第 2 項の鏡像帰還 (/J 私 I•