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(1)

企業環境を考慮した組織化と政策的意志決定手法 : とくに自然環境をめぐって

その他のタイトル Organizing and Decision‑making Technique concerning about Business Environment Policy

著者 広田 俊郎

雑誌名 關西大學商學論集

巻 20

号 3‑5

ページ 229‑254

発行年 1975‑12‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021067

(2)

( 2 2 9 )   4 1  

企業環境を考慮した組織化 と政策的意志決定手法

ーとくに自然康境をめぐって一

広 田

俊 郎

1 . は じ め に

最近,企業環境問題として様々な問題がクローズ・アップされてきた。生 産者としての企業が直面した石油資源,その他原料価格の高騰の問題,また 供給者としての,企業の買い占め,売り惜み行為に対する,消費者,政府な どの蓑境からの糾弾,また社会の一員として,企業は公害や環境汚染を防止 しようとするべきだとする議論など,多様な問題が現われてきている。

その中でもわれわれは,特に公害や環境汚染など自然環境問題を強く意識 しつつ,企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法について議論をし たいと思う。しかしながら,それは問題の限定であると同時に,多様な環境 問題への第一歩であることを確認するために,企業環境という概念をめぐつ てまず議論を展開させよう。

近代経済学の企業理論においては,企業環境は,各種の市場や技術状態を

意味し,製品の需要曲線と,各種の生産要素の供給曲線および,生産関数と

して現われる。このような資源配分理論の一つの構成要素としての企業理論

ではなく,より現実に即した定式化を示して見よう。

(3)

4 2   ( 2 3 0 )   企業躁境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

それは,バーナード=サイモン理論と言われる近代組織論の立場である。

そこでは企業組織の構成員として,従来の思考法にとらわれず,株主や従業 員のみでなく,消費者,原材料取引業者や物流業者,などが含められてい

( I )  

る。そしてそれらの相互作用,協動休系として組織が概念づけられた。この ことは,企業の組織的意思決定における環境,すなわち意思決定すべき対象 の関連の枠の中に,それらが入ってくるということを意味している。だか ら,株主や従業員などの内部環境と並んで,消費者,原材料取引業者,物流 業者などが,外部環境としてとらえられることになる。この議論で明らかな ように,企業環境という用語には,二種の使い方が考えられる。一つは,客 観的な企業環境で,文字通り企業を取り囲むものの総体から成るもので,企 業行動に,多かれ少なかれ,経済的,政治的,文化的,その他の影響を与え

( 2 )  

るようなものである。

もう一つのとらえ方は,いわば企業の意思決定者によって主観的にとらえ

( 3 )  

られた企業環境を問題にする仕方である。 バーナード=サイモンによって考

( 4 )  

えられている企業環境とはまさにこの種のものである。そこでは,意思決定 の合理性は,個人のもつ知識の合理性によって制約されており,それを克服 するには,意思決定にもっとも関連のある一部の可変的要素とその結果のみ

( 5 )  

を考慮に入れ,他の要因を考慮の外に除外することが必要であるとされる。

企業環境システムは,そのような関連的要因の封鎖システムとして,すなわ ち主観的構成物として考えられている。

このような立論の方が,企業行動の実証的分析にとっては,より有用なも のであると思われる。たとえば,環境破壊を行なって顧りみなかった企業の

(1)  H.A.Sim 叩 〔 4 6 ]p . 1 1 ,   J .   G .  March & H .  A .  Simon ( 3 3 ]  p .  9 0 , 参照 (2)  経済社会の動向や,科学技術の動向,国際経済瑣境の動向などを述ぺることに

よって企業環境論を構成していこうとするやり方は,ここにおける意味での客観 的環境に注目しているのである。

(3)  影山喜一 (25] 参照。

(4)  J .  G .  March & H .  A .  Simon ⑬ 3 J  p .  7 1 , 参照。

(5)  占部都美〔 5 6 Jp . 1 6 0 . 参照。

(4)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 3 1 )   43  行動を説明するのには,企業が利潤極大という目標を掲げている限りでの不 可避的な結果であるとするよりは, 企業の意思決定の主観的躁境システム に,自然環境が位置づけられていなかったからだとする方が自然である。

だから,小論では,企業喋境のとらえ方について,それは主観的構成物で あるとする,後者の立場を取ることにする。それは,企業の行動を実証的に 解明しようとする場合のみならず,現実を出発点として,それからの前進,

改良を試みるための規範的議論にも有利であるからである。たとえば,主観 的にとらえられた企業環境を,操作的な限度内で,できるだけ客観的なもの に近づけるためのコミュニケーション・システムの整備の必要性の問題や,

現に企業に対して,住民運動や,消費者運動としての圧力がかかってきてい るため認識されだしているそれらの問題に対する考慮の重要性に反応できる ように主観的環境システムの枠を広げることによって,企業が好ましい政策

( 6 )  

を取りうること,などを指摘できるからである。

一方,企業は実体的環境の中で生存している。企業はある産業の中に属 し,またその産業はまた他産業と投入・産出の関係を有している。だから企 業は,当該産業のみならず,他の産業とも間接的に関係を有している。その 他に,企業は,消費者や物流業者などとも関係を有している。企業がこれら の実体的客観的環境と調和を保ちつつ,自己の維持拡大を果しうるのは,そ の主観的にとらえられた環境イメージが正当なものであり,またそれにした がって適切な意思決定を行っており,またその意思決定を実行に移す能力を 持っているからである。

このような一連の能力を「環境適応能力」と名づけよう。このように「躁 境適応能力」とは,内部的な能率を達成しつつ,環境にうまく適応して,種

( 7 )  

々の外部性や,問題状況をシステム的統合力をもって解決するものを言う。

(6)  H .  A .  Simon ( 4 5 ]  p . 1 8 5 . においても,能率の概念を,費用および成果の両面 で拡大することにより,自然痕境の問題などを取り扱おうとしている。占部都美

( 5 6 J  p .  2 4 5 . 参照。

(7)  バーナード流の用語でそれを表現するならば効率 ( e f f e c t i v e n e s s ) ということ

になる。

(5)

44  ( 2 3 2 )   企業現境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

このような「現境適応能力」をもって企業が環境に適応する仕方には,構 造的,組織的にそれを行う場合と,過程的,政策的にそれを行う場合とがあ る。前者は,環境適応の組織化であり,後者は,環境を考慮に入れた政策的 意思決定である。

前者に対応するものとしては,分権管理機栂によって変動する経済環境に 適応しようとする試みや,公害,環境汚染問題などについては,公害対策部 を設けたり,社長室にそれを取り扱う組織を設定したり,また社会監査を実 行できるようにすること,などの「内部的組織化」と,企業が環境と作りあ げているコミュニケーション・システムやその他のシステムの構造の変革を 図るような「外部的組織化」とが考えられる。

また,後者に対応するものとしては,解決したい現境問題に応じて評価基 準を設定したり,環境についての考慮をも目標の一つとして,多元的な目標を 設定できるような種々の計画手法を用いての政策的意思決定が考えられる。

本稿は,これらのうち, 「外部的」な環境適応組織化と,環境を考慮に入 れた政策的意思決定とを論じることとする。すなわち企業環境システムの構 造,組織の如何に応じて,どのような成果が生れるか,また逆に好ましい成 果を産むための企業現境システムの組織化とはどのようなものであるか,と いう問題と,政策的意思決定の手法の相異に応じて,どのように異なる結果 がうまれるか,また好ましい結果をもたらすための計画手法にはどのような ものがあるか,という問題に関して,特に自然環境をめぐって誤論しようと するものである。

2 .   シ ス テ ム 的 干 渉 ( 外 部 性 ) と ゲ ー ム 状 況

まず最初に企業漿境システムの一例として二企業からなるシステムを考 ぇ,そこで外部性が存在するとき,ゲーム状況という形での一種の組織状態 が生ずることを示し,それがどのような成果をもたらすかを考察しよう。

デービス=ウィンストンは,企業が外部経済あるいは外部不経済をもたら

(6)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 3 3 )   4 5   しているとき,政府は,課税と補助金の調節によって,私的使益と社会的使 益を一致させることによって福祉極大がもたらされるとする伝統的な議論に

( 8 )  

ついて,この処方センがあてはまる状況とそうでない状況を述べた。

すなわち,彼らは技術的外部性を「分離可能な場合」 s e p a r a b l e "と「分 離不可能な場合」 n o n ‑ s e p a r a b l e "とに分け,前者の場合においてだけ,古 典的処方センが妥当するのだとする。

分離可能な場合

一般に, f X 2 ) は次のような場合に分離可能であるとされる。

f ( ふ , X 2 )=/1 (ゎ)+f 2 ⑯) ( 1)  たとえば,二企業が存在し,それらが相互関連を及し合っている結果,そ れぞれの費用関数が,

C1 ( q 1 ,   q 2 )  =  A 沼1•+B如 C2 ( q 1 ,   q 2 )  =  A2q2'‑B 辺 1 '

ヽ ー ノ ︑ ー ノ

2 3  

︵   であるとする。

但し, q 1 ,のは,それぞれ第 1 企業,第 2 企業の生産量を示し, Ai,A 2 ,   B 1 ,   B2は係数を示している。

この場合,第 2 企業は第 1 企業に外部不経済を及している。それぞれの企 業の利潤極大条件は,価格 P を所与とすると, 費用関数が分離可能である から,

p=~=nA沼1n-l i J q 1  

i J C 2  

p = ‑=rA 辺 2 , ‑ 1

i ) の

ヽー︑ J

4 5  

︵  

によって一義的に得られる。

この結果を,二人非ゼロ和ゲームとして論じてみよう。第 1 企業の利得を p1 ,第 2 企業の利得を圧とすると,

A=Pq1‑C1(q1,  q 心 (6) 

(8)  0 .  A .  D a v i s ,   A .  W h i n s t o n  ( 1 5 〕参照。

(7)

46  ( 2 3 4 )   企業喋境を考蹴した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

A=Pq2‑C2(q1,  q 心

となる。

この問題のゲーム状況的様相は,それぞれの利得が,他の行動によって規定 (7) 

されているというところに現われている。分離可能な場合,利得はこのよう にゲーム的状況のもとにあるものの,利潤極大生産量は一義的に決定できる から,ゲーム論の用語で言うと優越する ( d o m i n a n t ) 戦 略 が あ る と い う こ とができる。

そのことをより具体的に示すために,二人非ゼロ和離散型ゲームをとり上 げて論ずることにしよう。利得が表 1 のよう 第 2 企 業 に与えられているものとする。

この場合,第 1 企 業 に と っ て の 優 越 戦 略 は , R2 である。なぜならば, 1>0.9,0 .  1>0 

\ ー

1 ︶︑ーノ 1  

2 .  

Q 0  

︐  ︐  ー

0 0  

︵  

` ノ

︑ ノ

l , °  

Q .

︐  ︐    ゜   0 1  

︵  

\  

R i R z  

第 1企業

というように,第 2企業が, Q 1 ,   Q2 のいず

れの戦略をとろうとも, R2 をとる方が利得が大だからである。 したがって 第 1 企業の採るべき戦略が R2 に一義的に決められることを意味し,それは

表ー 1

連続型ゲームにおいて,利潤極大条件によって一義的に解が決定され得たこ とと対応している。

また一方,第 2 企業の採るべき戦略も Q2 に一義的に決定されうる。

これらの戦略に具体的な状況を対応させて論じてみよう。たとえば, R 1 ,   Q 1 は,公害を出さないように配慮をする戦略とし, R 2 , Q パま,公害,環境 破壊に対する考慮を一切払わない戦略とする。そして,利得は表 1 で与えら れた通りであるとする。両者が,公害を出さないような配慮をした戦略をと れば,両者の利得はかなり高くなる。 P,=0.9, Pz=0.9, だが,両者の優越 戦略は,それぞれ R 2 , Q2 であった。すなわち,他企業の戦略が分らない以 上,公害に対して考慮を払わないという戦略の方が双方にとって好ましいも のとなってしまう。その結果, p1=0 ふ Pz=O.l という結果がもたらされ るが,それらは二企業のトータル・システムの最適状態ではない。

そこで,そのような最適状態をもたらすためには,どのような政策が必要

(8)

企業喋境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 3 5 )   4 7   かということが問題となる。それには,優越戦略が, トータル・システムの 最適状態を導くように,課税および補助金を設定すればよいのである。

連続的ゲームの場合について言えば, トータル・システムの最適状態を q 1 * ,   q 2 * とすると,

p+t1=  i ~ct;';-q:u_ J C 1 ( q 1 , l q 1  * 

p+t2=~,む) 1 i ) q 2 *

ヽ ー ノ

︑ ノ

8 9  

︵  

となるように, t 1 とわ(正の t は補助金を示し,負のそれは課税を示す)を 定めれば良いということになる。

そして,離散型ゲームのときにおいては,第 1 企業の R1 という戦略につ いて, 0 . 2 の補助金を,第 2 企業の Ql という戦略についても 0 . 2 の補助金 を与えればよい。すなわち,公害を出さない

ような行動に補助金を出すことにすると,利 得表は表 2 のようになる。その表から明らか なように,それぞれの優越戦略は, R1 と QI になり,それによってもたらされる状態はト ータル・システムの最適状態と一致する。

分離不可能な場合

二企業の費用関数が,それぞれ q 1 とのに関して分離不可能な場合を考え よう。

第 2 企 業

︶  

j '

1 1   2 .

︐  ︐  Q  ゜   2 1  

.   0 0  

︵  

ヽー︑ヽノ 2

1 2

.   Q 1 O

, ︐ 1   1 1  

︵   (

\  

R I

第 1 企業

C1 ( q 1 ,  q 2 )   =  A 囮 + B1 瞑 2 m C 2 ( q 1 ,  q 2 )   =  A唄— B2q収1' そのとき,利潤極大条件は,

p = 尉 = nA1 応 + B

i J C 2  

P==i'f=rA i J q 2   辺2 → +B 叩 ― 1 q l ' である。

( 1 0 )   ( 1 1 )  

( 1 2 )  

( 1 3 )  

(9)

48  ( 2 3 6 )   企業躁境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

この式から明らかなように,利潤極大条件は,他企業の決定の結果に依存 している。ゲーム論的用語で言うなら,優越戦略が存在しない。これに対応 するような離散型ゲームを考えるならば,その利得表は表 3のように示され

る場合がそれに当る。 第 1 企 業

このような場合,第 1 企業と第 2 企業の最 適な意思決定は相互関連性を持っており, ト ータル・システムの最適解と一致するか否か は問題にしないとしても,均衡的な解は存在

\ ー

︑ \ ノ ︑ ー 9 1  

Qzoo  ︐ 

1 ,   0 1  

︵  

ヽノ︑ー︑ 3 I O 1

‑ Q 9

︐ 表

e e  

I R R z  

I

¥  

第 2 企業

しない。だから,政府がどのような形で課税や補助金を用いて,社会的厚生 を極大にしようとしても,その達成は不可能である。このような場合につい ては,課税と補助金の利用という古典的解決法は有効ではない。ここに,市 場メカニズムの補充物としての課税と補助金の利用には限界があることが明

らかとなヽ

9

た 。

そこで,デービス=ウィンストンは, 合併か,あるいは意思決定の伝達の

( 9 )  

繰り返しによる相互調節を示している。

つまり,分離不可能な費用関数という状態のもとで,ゲーム的状況という,

企業にとっての一種の外部的組織状態(構造)は,均衡解の不確定性という 混乱状態を生ずることを示すことによって,それと代替的な外部的組織状態 をデービス=ウィンストンは示したものと言える。

そして,その線に沿う展開として,次に述べるような分解原理による,外 部性克服のためのシステム統合の試みが考えられる。

3 .   分 解 原 理 に よ る シ ス テ ム 統 合

今 , n 個の企業が存在するものとし,それらは,それぞれベクトル初で 示される量の製品を作っているものとする。そして, j 番目の企:業;に;っ;ぃ て,製品 1 単位を作るのに必要な投入の係数行列を Bi で表わし,投入の制

(9)  0 .  A. D a v i s   &  A. Whinston ( 1 5 J 参照。

(10)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 3 7 )   49  約をベクトル b i で表わすこととする。各企業はペクトル b i で示されるよ

うな,その企業に特有な投入の制約を課せられている上に,すべての企業が 共通して用いる資源についても,各企業の共遥資源の総和に関して制約が課 せられているものとする。各企業の製品 1 単位を産み出すのに必要な共通資 源の投入係数行列を Ai で表わし,共通資源の制約をペクトル b o で表わす こととする。

そして,各企業の製品 1 単位について得られる利益のベクトルを Ci とす る。そのとき, n 企業から成るトークル・システムの最適化の問題は次のよ うに表わされる。

区 Aixi=b   。

i ‑ 1 

Bi 幻 = b ; (j=l,  2 ,   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ,   n)  X;LO  (j=l,  2 ,   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ,   n)  のもとに

工 CJ   功 を最大化すること。

j‑1 

( 1 4 )   ( 1 5 )  

( 1 6 )  

このような最適問題は,(1 5 )式で示されるような独立なプロックが,(1 4 ) 式の結合方程式で結びつけられているような,係数行列が角型構造を持つ線 形計画問題に同値である。だが,この線形計画問題を直接解くことは計算上,

( 1 0 )  

非常に非効率的である。 そこで, ダンツィヒ=ウルフによる分解原理を用い ての解法が展開されてきた。この解法を模擬することにより,あるいは擬人 化することによって, n 個の企業から成るトークル・システムの最適化を,

分権的に行うことができることを示すこと,およぴその最適化に必要な行動 はどのようなものであるかを示してみよう。

子問題

与えられた問題には

Bj 幻 = b i ( 1 7 )  

( 1 0 )   L .  S .  Lasdon ( 2 9 J , 阿保栄司,石塚博司.前田幸雄〔 3 〕参照。

(11)

5 0   ( 2 3 8 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

XJL0  のもとに

( 1 8 )  

CJ 功 を最大化する。 ( 1 9 )   という問題が, n 個含まれている。それらを子問題と言う。これは共通資 源の制約を一応無視した場合の最適解を求める問題である。

もしも子問題だけを独立に解くのであれば,その最適解は実行可能領域の 端点として得られる。しかし全体の問題には,共通制約

ヱ Aj   幻 = b ,

j‑1  ( 2 0 )  

があるから,全休としての最適解は,必ずしも子問題の実行可能領域の端点 解の集合であるとは限らない。ときには,子問題の実行可能領域の内点にな

るであろう。そのような実行可能領域内の任意の幻は

功=区入 k‑1 

工幻 l  ,=1

k~l

入 }

k

: : : : : o

と表わすことができる。(がは実行可能領域の端点を示す)

親問題

( 2 1 )   ( 2 2 )   ( 2 3 )  

子問題 jの解の凸集合を構成するそれぞれの端点 K に対して

CAj=C 心,. ( 2 4 )  

PH=A 心 ( 2 4 )

とおく。 ( 2 4 )式の C"は,今想定している問題においては利益額の大きさ を示し,(2 5 ) の P j iは,共通資源の使用量を示している。そのとき,親問 題は,

工区 1   p j l , い= b 。

j‑lk‑1  1 

ヱ伍= 1 U=l, 2 ,   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ,   n) 

k•l

入 LO (k=I,  2, …•••, l ,   j  1 ,   2 ,   n) 

( 2 6 )  

( 2 7 )  

( 2 8 )  

(12)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 3 9 )   5 1   のもとに

n  l 

こ区 Cik 伍 を 最 大 化 す る こ と 。

j · l k • l

( 2 9 )   という形で表わされる。これは, 入ハを変数とする新しい線形計画問題にな っているが,これは全体の問題とまったく同値である。

こ の 親 問 題 を 解 く と,同時に共通資源のシャドー・プライス冗が得られ る。本来,子問題では,ここで得られたシャドー・プライスをもった共通資 源を用いることによるコストを考慮すべきであったのに,それを無視してい たのである。そこで子問題を修正することにする。

修正された子問題 それは

Bj 功 = b }

Xj 三 0 のもとに

( C j ー冗 Aり功 を最大化すること。

( 3 0 )   ( 3 1 )  

( 3 2 )   として示される。 ( 3 2 ) 式の意味は,利益から,共通資源の使用コストを差 し引いたものを各企業が最大化することが, トータル・システムの最適化の ためには必要であるということである。

このような分解原理について, ポーモル=フェイビアンは, それが外部性

( 1 1 )  

を克服する計画法を示唆するものであるとしている。すなわち,各サプ・シ ステムの共通資源の使用量を集計し,その資源のシャドー・プライスを評価 設定し,それをサプ・システムに伝達する。その結果を各サプ・システムは 考慮に入れて意思決定を行なう。その結果,各サプ・システムは最初の計画 とは異なった,共通資源への考慮を入れた計画を組みなおすという形で,外 部性を克服することができるとしている。このような分解原理によって,シ ステム的統合(外部性克服)がはかられている,というわけである。

( 1 1 )   W.  I .   Baumol  &  T .  F a b i a n   C  7  J 参照。

(13)

52  ( 2 4 0 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

各企業は子問題を解き,その結果を用いて親問題が解かれるのであるが,

この親問題を解くという機能を担う主体として一つのセンクーを考えよう。

そのとき,これまでの議論から得られる合意は,センクーと n 個の企業か ら成るようなトータル・システム,およぶ各々の企業環境サプシステムの最 適化が行なわれるためには, 1 , 各企業は自己の共通資源の使用董を正確にセ ンターに報告しなければならない, 2 ,それらを集計することによって,セン クーはシャドー・プライスを計算し,それを各企業に伝達しなければならな い , 3,各企業は伝達されたシャドー・プライスを厳密に考慮して生産計画を 変更しなければならない,などの要件が必要であるということである。そし て,古典的な課税,補助金などの政策によって解決しえないような,環境汚 染のように市場メカニズムの失敗として現れた状況も,これらの要件を満す

ような一種の組織化が行なわれる限り,解決できることが示唆される。

4 .  企 業 環 境 を 考 慮 に 入 れ た 政 策 的 意 思 決 定 モ デ ル 前節において,われわれは,企業をサプ・システムとして含むようなトー クル・システムの最適化が,分解原理の模擬的適用によって達成されるとい うことを考察した。この議論のように企業にとっての一種の外部的組織化を することが必要とされたのは,われわれの用語で言うならば,企業の意思決 定の主観的環境の中に,自然的資源などの共通資源が位置づけられていなか ったからである。だが,最近における企業の意思決定の環境には,それらが 適切に位置づけられてきている。そのことが,企業の側からの主体的な,環 境を考慮に入れた改策的意思決定を言わばゲーム論的用語での優越戦略とし てきており,環境を考慮に入れた意思決定についての議論を有意味なものと してきているのである。

以上のことを明示的に示すために,まず企業環境イメージの変化について

述ぺることにしよう。われわれの考えるところでは,企業およびその環境の

イメージには次のような三つの型のものがあり,歴史的には,( 1 → ) ( 2 ) → ( 3 ) と

いう形の推移を示してきている。

(14)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 4 1 )   53  ( 1 ) クローズド・システムとして.の企業イメージ

企業は,その環境が定常的であれば,企業運営に関して,重大な考慮を環 境に対して払わない。それよりも,企業は内部的な能率と生産性の上昇によ り大きな関心を持つであろう。また高度成長期における企業のように,外延 的拡大をはかってきたような場合も,環境に対する考慮がさほどなされなか った。このような企業システムの運営パクーンは, 「クローズド・システム としての企業イメージ」が定着していたから,取られたのである。

( 2 ) ,オープン・システムとしての企業イメージ

一方, 1 9 3 0 年代のアメリカにおいて,変動する環境のさ中で,フォード社 は T 型フォードという規格品を作り続けたため,そのスクイルの陳腐性,そ の他の理由によって顧客から敬遠され,逆に消費者の多様な欲求を先取りし た G・M 社が飛踵的に成長し得た例に見られるように,企業が変化する環境 に応じて自己のシステムの運営方式を変えるというような企業システムの運 営パクーンが登場してきた。 「オープン・システムとしての企業イメージ」

が現れてきていたからである。

( 3 )クローズド・システムとしての企業・環境イメージ

最近,公害や環境汚染に対する企業の社会的責任の追及,欠陥商品に対す る消費者の告発運動などが生じてきた。これらの動きは,企業が変化する環 境に対応することを要求しているのであるが,しかもその要求は企業のなし た行動の影響に対して提出されてきているのである。企業の巨大化,またそ の立地の混雑化は,企業と客観的な意味での環境との間の相互作用関係を,

いやが応でも明確にするよう作用するに至った。このような段階の企業は,

まさに自らの行動が環境へ及ぼす影響を意識しつつ企業運営を図らなければ ならない。このような企業運営を支えるものとして「クローズド・システム としての企業・環境イメージ」が定着しだしてきている,と言える。

このわれわれの三分法と関連するものとして,ジャコビの三つの企業モデ

( 1 2 )  

ルが指摘されうる。彼は,従来の企業行動理論として,吉典派市場モデルと

( 1 2 )   N e i l  H. J a c o b y ⑫幻 p p . 284‑303. 参照。

(15)

54  ( 2 4 2 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

経営者モデルをあげ,さらに第三のモデルとして「社会環境モデル」を提案

( 1 3 )  

する。そして彼はその特質について次のように述ぺている。 「社会環境モデ ルのもっとも重要な特質は,企業行動が市場の諸力はもちろん,政治的諸力 にも等しく反応するということを明確に認識している点にある。…………大 企業をしてその資源を社会的目的に向けさせるようにしたのは,世論の圧力 であり,株主の要求であり,議会や政府の奨励とおどしであり,さらにまた ラルフ・ネーダーのような熱狂的オムブツマン主義者の攻撃であり,すべて 非市場的諸力であった。…………現代企業は規模が大きく財務内容も安定し ているので,十九世紀の比較的小さな企業に比べて,はるかに広い視野に立 って行動することができるようになった。」と。

このような企業・現境のクローズド・システム観,あるいは社会環境モデ ルを想定することが妥当となってきている現在,企業環境を考慮に入れた政 策的意思決定モデルについての議論が緊要性を持ってきているのである。

それらについての実際的なテクニックの紹介と特質の検討に入る前に,こ のような政策的意思決定モデルについての方法論的考察をしておこう。

ペティットは,このような政策的意思決定モデルについて,方法論的にそれ ぞれ特色のある四つのクイプのモデルを考えることができるという。すなわ ち,( 1 )掏衡モデル ( t h ee q u i l i b r i u m  m o d e l ) ,   ( 2 ) 増分的モデル ( t h ei n c r e ‑ m e n t a l  m o d e l ) ,   ( 3 ) コンピュークモデル,および ( 4 ) 状 況 的 モ デ ル ( t h e s i t u a t i o n a l  m o d e l ) の四つであって,それぞれに関して彼は次のように説明

( 1 4 )  

している。

掏衡モデル的手法とは,企業経営者が意思決定を行うにあたって,かれの 決定によって影響を受ける種々のグループの福祉の間に掏衡状態を維持せん と試みるようなものをさし,このアプローチは意思決定の状況に含まれてい る諸価値についての経営者による主観的評価をできるだけ排除しようとする

( 1 3 )   i b i d .   p .  1 9 0 .  

( 1 4 )   T h o m a s   A .   P e t 辻〔 3 7 Jpp.164‑167. 参 照 邦 訳 p p .234‑238. 参照。

桜井克彦〔4 2 Jp p .  116‑122. 参照

(16)

企業環境を考感した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 4 3 )   5 5  

( 1 5 )  

ものである。

次に増分的モデルは,意思決定者が,直観に頼りつつ,現状を見積りわず

( 1 6 )  

かでも事態を最適状態へと進めようとする, 幾分保守的なアプローチであ る。またコンピューク・モデルは,合理的演繹的なアプローチをとり,幾つ かの決められた価値あるいは原則を設定しておいて,そのもとでの意思決定 を機械的に行なおうとするものである。最後に, 状況的モデルとは, 言わ ば,コンビューク・モデルの対立物的なもので,特定のルールにしたがって 意思決定を導出するのではなく,特定のケース毎の特殊要因に即して意思決

( 1 7 )  

定を行なおうとするアプローチを言う。

企業環境を考慮に入れた意思決定モデルについての方法論的態度について の考察を終えて,具体的なテクニックの紹介と検討を行なおう。われわれが 検討しようとするのは,次の三つの政策的意思決定モデルである。

( 1 )   PATTERN 分析 ( 2 )   PPBS 

( 3 )   目標計画法 ( G o a lP r o g r a m m i n g )  

( 1 )   PATTERN 分析

PATTERN という名前は, P l a n n i n gA s s i s t a n c e  Through T e c h n i c a l   E v a l u a t i o n  o f  R e l e v a n c e  Numbers" の略で,「相対的な重要度を技術的に

( 1 8 )  

評価して,計画策定を助ける手法」と訳されている。この方法は,本来的に はアメリカのハネウェル社によって, 1 9 6 4年春から約50万ドルをかけで開発 させられたものであり,当初の目的は「 1 9 6 8 年から 1 0 年にわたる国家的必要 事項を研究し,この必要性を滴たすための研究開発行動の重要度を評価す る」こととされていた。すなわち,国家目標を国家の安全,国家の威信,国 際親善の三つに分け,それらの相対的な必要度を算定し,さらにそれらを達 成する手段の相対的な重要度を判定するというように,順次レベルを落して

( 1 5 )   T .  A.  P e t i t .   ( 3 7 〕邦訳 p . 2 3 5 . ( 1 6 )   i b i d .   p .  2 3 6 .  

( 1 7 )   T .  A. P e t i t ⑬ 7 ] 邦訳 pp.237‑238 .参照。

(17)

5 6   ( 2 4 4 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

いくという形で,究極的な目的が,手段の体系に及ぽす影響を組織休系化し たものである。そしてこの研究においては,最初に設定された国家目標のも とでの民需への波及効果や影響が総合的に検討された。

このような PATTERN 分析は,一つの意思決定上のテクニックとして,

,当初の研究目的とは独立に, 「やるべきこと」を上位レベルから瀬次落し ていって手段を組織体系化することによって意思決定の環境を把握し,手段 の硯実的可能性を検討したり,あるいは逆に目標達成のためにネックとなっ ている手段についての技術の進歩を指摘したりするなど,環境を的確に把握 した意思決定を可能にするものと言えよう。

( 2 )   PPBS 

PPBS は,長期的な戦略計画と短期的な予算編成との間のギャップの橋渡

( 1 9 )  

しをすることを一つのねらいとしている。なぜそのようなギャップが生じる のかと言えば,前者は組織体の目的に焦点をあて, そのニーズ ( n e e d s ) あ るいは,そのつくり出すべき生産物を中心に考えるのに対し,後者は,その ような目的を達成するために用いられる資源,生産物をつくり出すために必

( 2 0 )  

要な投入物を中心に考える傾向があるからである。そのギャップを, PPBS における Programming (プログラム作成)は,長期的な計画策定と短期的 な予算編成とを有機的に結合することにより,解消させようとするものであ る 。

このようなねらいをもった PPBS はつぎのような特徴をもっていると言 える。第 1 に,組織体のニーズという,企業組織にとって重要な環境に焦点 をあて,それに対応しうるしくみをもっていること,第 2 に,財務環境や原 材料在庫などの内部環境を考慮に入れることができること,第 3に,何より

も,組織の外的な環境と内的な環境に対する考慮とを統合しようとするもの であることである。これらのことより, PPBS は大規模で複雑なシステム の運営に適当であり,企業環境を考應に入れた意思決定をするときには妥当

( 1 8 )   青野忠夫 C 2  J  p p .   238‑247. 参照。

( 1 9 )   宮川公男 ( 3 4 J 参照。

(18)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 4 5 )   5 7   性の高い手法となるだろう。

( 3 )   目標計画法 ( G o a lProgramming) 

目標計画法は線型計画法の基礎の上に, 1 9 6 0 年代に入ってから,チャーン ズ=クーパーによって展開させられた計画手法である。彼らの目標計画法の 開発のきっかけは,解くことのできない線型計画問題の適切な取り扱い法が ないだろうかという模索からであった。たとえば,諸資源の制約が決定変数 についての実行可能解を存在させないように決められている場合でも,管理 者は何らかの意味で好ましい決定をしなければならないときがある。そのと き,制約条件を「目標」と見なす。すなわちそれを絶対に守らなければなら ないものとしてではなく,それにできるだけ近づくことが望ましいものと想 定する。このような目標からの差異の加重和を最小にするという形で,線型 計画法では取り扱えない問題を解こうとするのが目標計画法である。

目標計画法は上述のように,複数の目標を設定し,それからの差異の加重 和を最小化するものであるから,それは多元的な目標を達成しようとする計 画問題としても把握される。企業の行動目標は,利潤極大のみでなく,内部 環境の福祉の向上や,社会的責任,社会的貢献,広報活動などの外部環境へ の考慮,などを含むという形で多様化している。目標計画法は,このような 状況に適合した計画手法であると解されるのである。

さて,ここでも外部現境の問題として環境汚染の問題を考え,利潤極大の 企業行動を線型計画でとらえ,躁境を考慮に入れた企業行動を目標計画法で

とらえ,両者の解の比較を試みよう。

二種類の製品をそれぞれ, X 1 , X2 単位だけ販売している企業を想定する。

ただし,資涼の制約として

功+ 2x2~lO ( 3 3 )  

が課せられているものとする。

また,これらの製品の生産ー単位ごとに,それぞれ, 3 ,   2 単位の汚染物 が出るものと想定し,その汚染物の総量について,

3x1+2x2~12 ( 3 4 )  

(19)

5 8   ( 2 4 6 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

という制約が設けられているものとする。

そして,企業は自らの排出した汚染物を除去するような活動を行うものと し,その活動量をそれによって除去しえる汚染物の量で測定し,それを X3

で表示するものとしたとき,

ね 65 ( 3 5 )  

という制約が課せられているものとする。

また,製品 1 単位ごとの利益額は,それぞれれ, 2 ,   3 であり,汚染除去 活動量ー単位ごとのコストは 1 であるとする。

i)線型計画法による利潤極大解

上述の問題を線型計画法で解くことにしよう。

ふ+ 2 X 2 ニ 1 0 3x1+2x2~12

X3 ニ 5

X1~0, X2~0 のもとに,

Z  =  2 x 1  +  3 x 2  ‑X a  

( 3 3 )   ( 3 4 )   ( 3 5 )   ( 3 6 )  

( 3 7 )  

を最大にする問題として定式化される。ただし, ( 3 5 ) ,   ( 3 6 ) 式より m=5 とするのが望ましいことは明らかである。だから原問題はスラック変数 X4,

店を用いて,

ふ+ 2 ズ 2+m =10  3x1+2 ズ 2 十ズ 5=12

X1~0, ズ2三0,れ三0, X 5 三 0 のもとに

Z=2x1+3x2 

を最大化する問題として示される。

( 3 8 )   ( 3 9 )   ( 4 0 )  

( 4 1 )  

これをシンプレックス法で解くと,そのシンプレックス表は次のようにな

る 。

(20)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 4 7 )   5 9  

基底 X 1   2   4   5   I 定数

4   1  ②  1  1 0   5  X 5   3  2  1  1 2   6 

z  1  ‑2  ‑3 

1  1  1  5  1 0   X 2   2  2 

X 5   ②  ‑1  1  2  1  1  1 

2  3  1 5   1  1  1  I 

X 1   2  2 

X 2   1  1  1  , 

4  4  2  1  1 1   1  3 1  

4  4  2  表ー4 , 

解は,表から明らかなように, 1=1, X 2 =ーである。それに Xs=5が自 2 

明の解として加わり,これらが利潤極大の企業行動の解を示すこととなる。

i i ) 目標計画法による環境を考慮に入れた解 原問題を目標計画法を用いて解くことにしよう。

X 1 + 加 + d1‑‑d け= 1 0 ( 4 2 )   邸 + 年 + d2‑‑d が= 1 2 ( 4 3 )   X3+d3‑‑d3+ = 5  ( 4 4 )  

加 + 紐 2 十必+ d4‑‑d.‑=25 ( 4 5 )   X160,  X 全 O , Xa60,  d 1 ‑ ,   d 2 ‑ ,   d a ― ,d,‑,  d 1 + ,   d が ,

,  d a + ,  d4+6o  ( 4 6 )   のもとに

Z=Ad1‑+Pad2 ― +2Pld ぷ+ Edr+P2d け+ Pad2+‑2Pida++P 必+

( 4 7 )  

を最小にすること。 (Pl>P2>Pa) 

(21)

6 0   ( 2 4 8 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

さて, d 1 ‑ , d け……,は,各式の右辺で示される目標値からの差異を示 し,咋,在,…は目標達成不足値, d 1 + , d が,…は目標達成超過値を示す。

この定義から明らかなように,

d1-•d「 =O, d2― •dが= o, …... ( 4 8 )   である。

また ( 4 5 ) 式において,製品の販売から得られる利益額に,汚染物除去の コストを加えている。このような社会的費用の負担は,それと同額の付加価 値を企業が生産していることに等しいと考えられるからである。

そして目的関数において,各変数の加重に用いられた係数について, pl>

p2> 広が想定されている。 Pl>P2 の意味は,どのように大きな整数 K につ

①  ⑥ 

シ乞プレックス 基準

② 

⑥ 

⑥ 

P 2   P 3  2 P 1   P 1   P 2  P3 ‑ 2 P 1   P 1   加重値 基底 目標 c/a  X  l  X  2  X 3   d " " j   d2 d 3   d4 dt dt d1  d~

P 2   d  1  1 0   5  1  ②  1  ‑ 1   P 3   d2  1 2   6  3 2  1  ‑ 1   2 P 1   da  5  1  1  ‑ 1  

P 1   d " i   2 5  

I

弩 2 3  1  1  ‑ 1  

p3  3  2  ‑ 2  

P2  1 2  ‑ 2  

P1  2 匡 I 3 

x ・ 2   5  -½- 1  1  ーす 1  P 3   d 2   2  2  ‑ 1   1  1 ‑ 1   2 P 1   da  5  5  ①  1  ‑ 1  

P 1   d• 1 0   1 0   2  1  1 —告 1  +  2  ‑ 1   P 3   2  ‑ 1   1 ‑ 2   P 2   ‑ 1   ‑ 1  

P 1   1  国 ー立 2  . . a 2  . . .   ‑ 2  

‑   ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ / 

三 ‑ 2 P 1  

ニー—•

dt  1 ,  ー、 ー る 長 ー . . . l . . . 2   . . . l . . .   1 1  ̀ ̀ 岳• 合•—+   -¼-

X3  2  1  ‑る 1 ' 岳 十 x2  ,  2  1  ナ—+ ‑ 4 2 L   _立

表 ー 5

(22)

企業現境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 4 9 )   6 1   いても Pl>kP2 が成り立つということ,すなわち, P1 の方が P1 より十分 大きいということである。また, d 3 十に開してだけー 2P1 という負の係数が 乗ぜられている。それは汚染物除去の社会的費用負担については,目標を超 過すればする程よいという仮定を示している。

( 2 1 )  

この問題をシンプレックス法を用いて解いて見よう。この問題のシンプレ ックス表は,表 5 のように示される。目標計画法のシンプレックス基準と,

線型計画法のそれとの遮いは,後者のは単一の行で表されるのに対し,前者 のは行列で表硯されるということである。すなわち,加重係数を示す, P 1 , P 2 , …,ごとにシンプレックス基準を示す行が置かれる。 そしてまず最初 に , p 1 についての行の中で,最大の正の数値を持つ列を選択列とする。も し , p 1 行での数値が同じであれば,次の P2 行の大小で選択列を決定する。

以後は線型計画法と同じような手法によって解が得られる。

さて,目標計画法で得られた解は,

X1=l,  , 

X2= ‑

2 '  

1 9  

X3= —-• 2  である。

ここで得られた解と,線型計画法によって得られた解との相遮は,制約値 を目標値と読み代えたこと,汚染物除去という社会的責任を達成する行動に 大きな評価を加えていたことなどからもたらされたと考えられる。このよう に目標計画法は,そのときどきの状況を反映するように加重係数を設定する ことによって,多様な意思決定を可能なものとする。ペティットによって論 じられた,計画問題の方法哲学としての, 1 , 均衡モデル, 2 , 増分モデル,

3 , コンピュータ・モデル, 4 , 状況モデル, などのそれぞれに基礎を置い て,目標計画法の目的関数の加重係数を決めることができる。その意味で,

目標計画法は一つのテクニックとして,この種の方法哲学から中立である。

だが,企業環境の状況に応じて,また種々の方法的姿勢にしたがってそれに 対応した政策的意思決定が行なえるように計画問題を定式化できるという意

( 2 1 )   Sang M. Lee ( 3 0 ] 邦訳 pp.101‑136. 参照。

(23)

6 2   ( 2 5 0 )   企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊)

味で,目標計画法はこの種の痕境をめぐる問題に関する積極的な解法として 有用なテクニックであり,今後の適用が期待されるであろう。

4 . 結 び に か え て

企業環境をめぐる種々の問題,中でも特に自然環境の問題をとり上げ,それ に対する企業の「外部的組織化」と,それらを考慮しうるような政策的意思 決定手法について論じてきた。自然環境の問題に特に論点や例示を限定した のは,それらがきわめて重要な問題であるという見解からばかりではなく,

新たに企業環境として意識された問題の典型例と考えることによって,現在 生じている,あるいは将来生じるであろう他の環境問題の解決への着実な一 歩を志したからである。全体的に見て,議論は規範的である。それは,逆説 的ではあるが,従来一部の企業環境をめぐる議論に見られた,企業と環境の 間の有機的関連を断ち切ったような展開とは異なり,議論の基礎を,企業環 境とは意思決定者の主観的構成物であるとする,現実的すぎるといっても過 言ではないような立場に求めたからである。すなわち,企業の社会的責任が 説かれ,また企業の側でもそれを自覚してきていると思われる状況にあって

は,規範論が無意味な議論ではなくなってきている。

また, 「環境を考慮に入れた政策的意思決定」についての議論は,少し技

術論的で,それらの及ぽすインパクトなど経験的,あるいは分析的な議論ま

で十分に言及しえなかった。それらについては,小論で取り扱わなかった環

境適応のための「内部的組織化」をめぐる議論や,自然環境以外の企業環境

をめぐる議論とともに,今後の課題としたいと思う。 ( 1 9 7 5 , 9 , 2 3 )  

(24)

企業環境を考慮した組織化と政策的意思決定手法(広田俊) ( 2 5 1 )   6 3  

参 考 文 献

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(25)

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参照

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