Ⅰ.はじめに
文部科学省において2011年に「大学における看 護系人材養成の在り方に関する検討会」報告書が取 りまとめられ、学士課程においてコアとなる看護実 践能力と卒業時到達目標が示された。さらに、2017 年10月に同検討会の下で、実習場の確保、学部教 育と卒後の看護実践との乖離の解消、根拠に基づい た看護実践ができる能力の向上という課題を解決し ていくため、「看護学教育モデル・コア・カリキュ ラム」報告書の中で、学士課程における看護実践能 力の取得を目指した学習目標が示された1)。
そこで筆者らは、経済産業省が2006年から提唱 している「社会人基礎力」2)に着目し、初年度から 社会人基礎力を育成できるような教育プログラムを 展開することとした。「社会人基礎力」とは、職場 や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必 要な基礎的な力であり、【前に踏み出す力】、【考え 抜く力】、【チームで働く力】の3つの能力(12の 能力要素)から構成されている。これらの構成要素 は、先述した「看護学教育モデル・コア・カリキュ
ラム」報告書の中で、学士課程において求められる 基本的な資質・能力として、「根拠に基づいた課題 対応能力」、「コミュニケーション能力」「保健・医 療・福祉における協働」等が挙げられており、これ らは社会人基礎力が示す能力と重なり合う部分が多 くある。また、社会人基礎力を用いた成功例も紹介 されており、実践力の向上が認められたという報告 や、通常の授業の中で活用するなどの事例があり、
同じ看護系大学である岐阜大学医学部看護学科3)
では臨地実習において「社会人基礎力」の評価法を 活用して効果を上げている。
本研究の目的は、看護学士課程1年生を対象に初 年時教育の「基礎ゼミ」を通した主体的学習により 社会人基礎力が向上したかを検証することである。
Ⅱ.方法
1.研究デザイン
本研究は、初年次教育の基礎ゼミの科目を通して 社会人基礎力の向上が見られるか、そして向上が見 られた場合、どのような体験をしていたのかを捉え
看護学士課程1年生の社会人基礎力の変化 第1報
-初年時教育の基礎ゼミを通して-
新野由子 糸井和佳 清野純子 大森美保 福井郁子 岡潤子
帝京科学大学医療科学部看護学科
Improvement of the level of the basic skills to become a fully-fledged member of society such as communication skills for the target group of freshmen nursing students in a
bachelor degree program (1st report)
-through the basic seminar of the first year education-
Yoshiko NIINO Waka ITOI Junko SEINO Miho OMORI Ikuko FUKUI Junko OKA
Department of Nursing, Faculty of Medical Sciences, Teikyo University of Science
Abstract
The aim of this research is to verify the improvement of the fundamental ability of social skill by subjective learning through "basic seminars" of first year education for nursing undergraduate freshmen. 76 people were surveyed. In the survey, we conducted a questionnaire for self-evaluation regarding fundamental skills to be a member of society, examined the change of fundamental ability as workers in society before and after the basic seminar and the basis thereof. As a result, self- evaluation on the student's efforts showed answers that about 70% of students in all 12 items self-evaluated as “very good” or
“capable”. In the evaluation of fundamental ability as workers in society, the score after the basic seminar was significantly higher in 9 of 12 items than before the basic seminar. This suggests the possibility that the method of basic seminars aiming at achieving the task of subjective active learning in a small group was useful.
キーワード:社会人基礎力、看護、学士課程、看護基礎教育、基礎ゼミ
Keywords:fundamental ability as workers in society, nurse, baccalaureate degree program, basic nursing education, basic seminar
るために、混合研究法を用いた。そして、社会人基 礎力の12の要素に対し、基礎ゼミ前後のレベルの 変化を量的データで示し、評価の根拠を示した質的 データを統合して、その変化が生じた理由を検討す る。データの統合は、各々の分析が終了した時点で 行い、これにより社会人基礎力の変化とその理由を 統合し、量・質の両者から社会人基礎力の向上に影 響した体験や行動について検討した。
2.基礎ゼミの目的ならびに方法
本学では初年次教育として「基礎ゼミ」を開講し ており、4月から7月に実施する(週1回)。1年 次前期に15回30時間(2単位)の授業が行われ、
前半に講義形式にて文章表現法を学び、後半に助言 教員ゼミとして助言教員と少人数によるグループ ワークを実施した。文章表現法は7回で構成され、
大学生として自らの考えを持ち、レポートや論文と して表現できること、助言教員ゼミは8回で構成さ れ、少人数によるグループワークを通して、テーマ の設定、文献検索、グループディスカッション、ま とめ、発表のプロセスを通して、主体的に学習を深 めていく力を養うことを目的とし、以下の1)~6)
を目標としている。
1) 自らの考えを持ち、レポート・論文として表現 することができる。
2) クラスの中での自分の位置を認識し、クラスの 一員として良い学習環境をつくるための役割を 担える。
3) 自ら学ぶという主体的な学習態度を身につけ、
積極的に学習成果を高める努力をすることがで きる。
4) 大学人として学問を追及し、新しい知見を見出 すことに喜びを感じることができる。
5) 他者の話を聞き、意見交換ができ、かつ協働し 目標を達成することができる。
6) 看護職になる者として、対象者の立場に立った 配慮や行動、つまり倫理観を身につけることが できる。
そして、この基礎ゼミを社会人基礎力育成教育プ ログラムのひとつに位置づけた。
今年度は、多様な価値観を持つ地域住民を看護す るために様々な年代の対象者の健康課題を明らかに し、健康増進を図るための方策を考えられるような テーマとして「各年代の住民の健康増進を目指す」
を提示した。学生には、基礎ゼミの目的を理解でき るように、初回のオリエンテーションの際、基礎ゼ
ミの進め方や課題に取り組む姿勢について説明し た。学生は、グループワーク前に、助言教員ゼミの 初回として図書館ガイダンスを受け、さらにプログ レスシートを用いた社会人基礎力に関する説明と健 康教育についての基礎知識を学んだ。学生はテーマ に基づき、年代別に健康問題や課題を明らかにし、
どのように健康増進を図ることができるのかを調 べ、パワーポイントにまとめ、発表会に於いてグ ループ毎に発表を行い、学生はメモを取りながら各 グループの発表を聞き、気づきや学びを共有した。
なお、学生は基礎ゼミ前後にプログレスシートを 用いた社会人基礎力に関する自己評価を行った。各 助言教員は5~6名を1グループとする2グループ を受け持ち、学生の学習状況や履修状況に応じて必 要な指導を行い、グループダイナミクスが発揮でき るようにファシリテートを行うと同時に学生の学習 を深めるために、テーマ選定、知りたい情報の検索 方法や文献検索の方法、考え方やまとめ方の助言、
パワーポイントの作成方法や発表に関する助言を 行った。
3.社会人基礎力の評価 1)対象
2018年前期に基礎ゼミを履修した85名中、「社会 人基礎力を育成するための教育プログラムの開発」
に関する研究に同意が得られた76名中全ての質問 に回答が得られた73名を対象とした。対象者の平 均年齢は18.4±0.7歳、男性11名(平均年齢18.5±
0.7歳)、女性62名(平均年齢18.4±0.7歳)であっ た。
2)調査内容
経済産業省より公表された「社会人基礎力育成・
評価のためのリファレンスブック」にある「社会人 基礎力の評価シート」2)を使用した。これは、【前 に踏み出す力】【考え抜く力】【チームで働く力】の 3つの能力、12の能力要素より構成される。【前に 踏み出す力】は、[主体性][働きかける力][実行 力]の3つの能力要素、【考え抜く力】は、[課題発 見力][計画力][創造力]の3つの能力要素、【チー ムで働く力】は、[発信力][傾聴力][柔軟性][状 況把握力][規律性][ストレスコントロール力]の 6つの能力要素より成る。回答は、それぞれ、「レ ベル1:発揮できなかった(1点)」「レベル2:通 常の状況では発揮できた(2点)」「レベル3:通常 の状況で効果的に発揮できた(3点)」となってお り、加えて12の能力要素に対してその根拠を自由
記述で回答を求めているが、本研究では【前に踏み 出す力】【考え抜く力】【チームで働く力】の3つの 分類に対して、評価の根拠を自由記述で回答を求め た(図1)。
3)調査時期
社会人基礎力の評価シートの記載は、基礎ゼミ 前、基礎ゼミ終了時に実施した。
4)分析方法
社会人基礎力評価の12の能力要素に対して、基 礎ゼミ前後でこれらの能力の変化を検証するため に、Wilcoxonの符号付き順位検定を行なった。な お分析には、IBM SPSS Statistics22を使用し、有 意水準は5%とした。
また、社会人基礎力評価に対する自由記述では、
3つの能力(前に踏み出す力、考え抜く力、チーム で働く力)ごとに、基礎ゼミ終了時の記述に対して テキストマイニング解析ソフトであるトレンドサー チ(Bell Curve社)を用いて分析を行なった。テキ ストマイニングで、キーワードの重要度と出現頻度 の抽出、および内容分析による主なキーワードの マッピングとその解析をした。マッピングは関連度 の高い単語は近くに、関連度の低い単語は離れて配 置される。このマップから学生の自己評価の根拠
(具体的行動事実)を知り、どのような体験から3 つの能力に対して評価を行なったかを検討した。
4.倫理的配慮
調査協力を得るにあたり、対象者には基礎ゼミ開 始前に社会人基礎力とはどのようなものであるか説 明を行なった。そして、口頭と文書で研究の目的と
方法、研究への参加は自由意志であり参加の有無と 成績とは関係ないこと、匿名性の遵守、拒否の自 由、データの管理、結果の公表について説明し同意 を得た。本研究は、帝京科学大学の「人を対象とす る研究」に関する倫理委員会の承認(第18029号)
を受けている。
Ⅲ.結果
結果の表記は、社会人基礎力は【 】、社会人基 礎力の能力要素は[ ]、抽出されたキーワードは
「 」、カテゴリを『 』で示す。加えて、学生の記 述例は斜体で、重要キーワード部分は太字で示す。
1.基礎ゼミ前後における社会人基礎力の変化 社会人基礎力の全ての項目について、基礎ゼミ終 了後の得点は、基礎ゼミ前の得点より高かった。た だし有意な差が見られたのは、社会人基礎力の【前 に踏み出す力】では、[主体性][働きかけ力][実 行力]の全ての項目、【考え抜く力】では、[課題発 見力][計画力][創造力]の全ての項目、【チーム で働く力】では、[発信力][柔軟性][状況把握力]
の3項目であった。有意な差が見られなかったの は、社会人基礎力の【チームで働く力】のうち[傾 聴力][規律性][ストレスコントロール力]の3項 目のみであった(表1)。
2.社会人基礎力評価の根拠(具体的行動事実)に 関する自由記載
社会人基礎力の3つの能力【前に踏み出す力】
【考え抜く力】【チームで働く力】ごとに、基礎ゼミ 図1 社会人基礎力の評価シート
終了時の社会人基礎力自己評価の根拠となる「具体 的行動事実」の自由記載から、表2~4に示す重要 キーワードならびに図2~4に示すような関連ワー ドのつながりが得られた。重要キーワードは単に出 現頻度だけではなく、他の語句との関連性の強さも 考慮した語句上位20位までを示すものである。
1)前に踏み出す力
【前に踏み出す力】のキーワードの重要度と出現 頻度を表2に示した。重要度順位1位は「出来る」
で、出現頻度も最も多い51回であった。続いて「自
分」「発表」の重要度が高かった。
【前に踏み出す力】の重要キーワードマップから、
文章全体の関連キーワード同士のつながりを俯瞰す ると、「出来る」「積極的」「働きかける」「発表」を 中心に、図2内に示した4群で、学生の自己評価の 根拠を捉えることが出来た。
まず、「出来る」を中心とした群には、「自分」
「進む」「取り組む」などが近くに配置されており、
表1 基礎ゼミ前後における社会人基礎力得点の平均値と標準偏差およびWilcoxonの符号付き順位検定の結果
表2 「前に踏み出す力」のキーワードの重要度と出現
頻度(上位20位) 表3 「考え抜く力」のキーワードの重要度と出現頻度
(上位20位)
『目標達成に向けた自らの取り組み』を経験してい たことが示された。学生の記述例では、「自分から 進んで取り組むことができた。」「誰かがどうにか活 動を始めないと進まないので、普段より主体的に取 り組むことができて、そこは成長できたと思う。」
があった。
次に「積極的」を中心とした群には、「意見」「資 料」「パワーポイント」が近くに配置されており、
『積極的な資料集めや意見交換』を経験していた。
学生の記述例では、「積極的に資料集めをした。」
「パワーポイントを積極的に作っていくことはでき た。」「積極的に意見を出したり、パワーポイントを まとめるために資料を調べることができた。」など があった。一方で「慣れてきたら積極的に意見を言 うことができなかった。初めから積極的に行えるよ うにしたい。」という記述も見られた。
「働きかける」を中心とした群には、「グループ」
「話し合い」「実行」が近くに配置されており、『個 人からグループへの発信』を経験していたことが示 された。グループへの働きかけが出来たと捉える学 生や、逆にできなかったので課題だと捉える学生も いた。学生の記述例では、「グループで話し合い、
互いの意見を出し合いながらできた。」「グループで 情報共有、交換を働きかけた。」の一方で「働きか けが少し足りなかったので次回からは気をつけてい く。」という記述も見られた。
「発表」を中心とした群には、「前」「主体性」「あ う」が近くに配置されており、『発表前後で気づい 表4 「チームで働く力」のキーワードの重要度と出現
頻度(上位20位)
図2 【前に踏み出す力】の重要キーワードマップ
た自らの主体性』を経験していた。学生の記述例で は、「発表時、自ら発表するという主体性が少しつ いたのかなと思う。」「ゼミで発表することがたくさ んあったので、前の自分よりも発表することが増え た。」などがあった。
分析の結果、【前に踏み出す力】をつけるうえで、
学生は『目標達成に向けた自らの取り組み』『積極 的な資料集めや意見交換』『個人からグループへの 発信』『発表前後で気づいた自らの主体性』の4つ の経験をしていることが分かった。
2)考え抜く力
【考え抜く力】のキーワードの重要度と出現頻度 を表3に示した。重要度順位が一番高かったのは
「かんがえる」で、出現頻度は35回であった。次い で「出来る」の重要度が高く、出現頻度は最も多い 46回であった。「課題」「調べる」の重要度が続き、
出現頻度も多かった。
【考え抜く力】は、「見つける」「かんがえる」「計
画的」の大きく3群で学生の自己評価の根拠を捉え た(図3)。
まず、「見つける」を中心とした群には、「出来 る」「伝える」「課題」が近くに配置されており、
『課題の発見』をしていたことが分かった。学生の 記述には、「課題を見つけ、伝えることが出来る。」
「自分から課題を見つけることができました。」「課 題を見つけて対策を話せた。」「話し合いをしていっ てグループの人と発見していくことができた。」な どが挙げられた。また、「自分がやるべき課題を見 つけることはできていたので、他のことにも目を向 けられるようになりたいと感じた。」と新たな課題
を見出した学生の記述もみられた。
「かんがえる」を中心とした群には、「健康問題」
「意見」「発表」「理解」「調べる」「話し合い」など の語句がつづいており『意見交換を通した学びの深 化』を経験していることが示された。学生の記述例 には、「資料や話し合いでたくさん意見を交換し合 図3 【考え抜く力】の重要キーワードマップ
い、考えることができた。」「みんなで事について話 し合い、考え、調べることが出来た。」「40代に起 こりうる健康問題について考えることができた。」
「調べたことからいろいろ考えて意見を言った。」
「他グループの発表を聞いて考えを深められた。」な どがあった。
最後に「計画的」を中心とした群には、「進める」
「足りない」「無い」が近くに配置されており、『目 標達成にむけた工程の意識化』がされていたことが 分かった。学生の記述例には、「6人で集まる機会 を作り計画的に進めることができた。」という記述 と、「授業の時間では足りなかった。もっと計画的 に行いたいと思った。」という記述がみられた。
分析の結果、【考え抜く力】を習得する上で、『課 題の発見』『意見交換を通した学びの深化』『目標達 成にむけた工程の意識化』の経験がされていること が明らかとなった。
3)チームで働く力
【チームで働く力】のキーワードの重要度と出現 頻度を表4に示した。重要度が最も高かったのは
「意見」で、出現頻度は54回であった。次いで重要 度が高かったのは「グループ」で、出現頻度は27 回であった。出現頻度が最も多かったのは「出来 る」の93回で重要度は3位であった。重要度9位 の「思う」の出現頻度が33回、重要度8位の「自 分」は出現頻度が25回と多かった。
【チームで働く力】は「調べる」「意見」「チーム」
を中心に大きく3群で、学生の自己評価の根拠を捉 えた(図4)。
まず、「調べる」を中心とした群には、「課題」
「共有」「聴く」「パワーポイント」が近くに配置さ れており、『チームを支える個人の働き』があった。
記述例には、「グループの人の意見を聴くことがで きた。パワーポイントを作る際、何の情報が足りて いないかを考え、必要な情報を共有し調べ、内容を 発信することができた。」「チームで協力して分担 し、課題に対して調べることができた。またそれぞ れ調べてきた内容を共有し、情報を整理できた。」
などがあった。
「意見」を中心とした群には、「自分」「言う」「グ ループ」「聞く」「出し合う」「全員」「取り入れる」
「考える」が近くに配置されており、『自他の意見の 尊重とグループとしての決定』を経験していた。学 生の記述例では、「グループで意見を出し合い、少 し違った意見が出た時も、1人1人の意見をちゃん と聞き入れながらグループの総意を出した。またス トレスは全くたまらなかった。」「グループの意見を 取り入れて考えることが出来た。」などがあった。
「チーム」を中心とした群では、「メンバー」「協 力」「する」「分担」が近くに配置されており、『チー ムメンバーとしての自覚』の必要性に気づいてい た。記述例には、「チームのメンバーに知らない人 も多かったのですが、よく協力できました。」「チー ムで協力をし、分担して行動することができた。」
があった。一方で、「チームワークはうまくいかな かったと思う。徐々にチームで協力し合い、グルー プでうまくなっていきたい。」や「少しチームの規 律性が足りないところがあった。」という記述も 図4 【チームで働く力】重要キーワードマップ
あった。
分析の結果、【チームで働く力】において『チー ムを支える個人の働き』『自他の意見の尊重とグ ループとしての決定』『チームメンバーとしての自 覚』の3つの経験をしていることが分かった。
Ⅳ.考察
1.基礎ゼミによる社会人基礎力の変化とその理由 社会人基礎力は、3つの能力ともに基礎ゼミ後に 有意に上昇が見られた。その理由を自由記載の解析 結果をもとに考察する。まず、【前に踏み出す力】
では、[主体性][働きかけ力][実行力]の全ての 能力要素が有意に上昇したが、自由記載の分析から は『目標達成に向けた自らの取り組み』『積極的な 資料集めや意見交換』『個人からグループへの発信』
『発表前後で気づいた自らの主体性』が経験として 抽出された。すなわち、積極的な資料集めや取り組 みを通して、[主体性]や[実行力]の修得につな がったと考えられる。また、グループ単位で年代別 の健康増進を目指す内容を調べ発表するプログラム 構成であったため、個人の取り組みでは完結せず に、個人からグループへの発信をすることとなり、
その結果、[働きかけ力]を修得できたことが伺え る。一方で「働きかけが少し足りなかったので次回 から気をつけていく」というように現段階での未熟 さに気づいた学生もおり、基礎ゼミ前後で有意に上 昇がみられたものの、12の能力要素では下から2 番目の点数であり、個々人が十分にグループへの発 信ができるようなファシリテートも必要であると考 える。PBL(Problem-based Learning)は複雑な現 実の問題に対する探究とその解決を中心に据えて集 中して取り組む、体験的な学びであり4)、具体的な 課題について洞察、観察、対話、交渉、反省、学習 の再構築という過程が見られるという。対話や交渉 など他の学生と、意見交換ができるようになったこ とは、今後の臨地実習のカンファレンス等で本科目 の学びが有効活用されると考えられる。
次に【考え抜く力】の能力においては、[課題発 見力][計画力][創造力]の全ての能力要素が有意 に上昇がみられ、自由記載の分析からは『課題の発 見』『意見交換を通した学びの深化』『目標達成にむ けた工程の意識化』の経験が抽出された。課題の発 見には、テーマである各年代の健康課題をみつけて 対策を考える意味と、自分自身の行うべき課題の明 確化の意味があった。このことから[課題発見力]
が養われたと考え、テーマ設定やグループ人数の設
定が適切であった可能性が示唆された。学生は分担 して調べた内容について、他者と共有し、話し合う なかで考えを深める経験をしており、新たな価値を 生み出す[創造力]の向上につながったと考えられ る。さらに、全体の発表に向けて資料の準備やパ ワーポイントや発表原稿の作成など、目標達成にむ けた工程を意識したことから、[計画力]を養うこ とにつながったと考えられる。しかしグループメン バーと共に計画的に学習を進めることができていた とするグループと、もっと計画的に行いたかったと するグループがあり、[計画力]は基礎ゼミ前より も上がったものの、12の能力要素では最も低い値 を示しており、今後も伸ばしていく必要がある。
最後に【チームで働く力】の能力は6要素から成 り立っているが、有意に得点が上昇したのは、[発 信力][柔軟性][状況把握力]の3要素のみであっ た。これら3要素の有意な上昇は、市川ら5)の調 査による学年の進行に伴う得点の向上と同様であっ た。[発信力]は自分の意見を分かりやすく伝える 力、[柔軟性]は意見の違いや立場の違いを理解す る力、[状況把握力]は自分と周囲の人々や物事と の関係性を理解する力である。今回の分析の結果、
抽出された学生の経験には『チームを支える個人の 働き』『自他の意見の尊重とグループとしての決定』
『チームメンバーとしての自覚』があり、チームメ ンバーとしての自覚から、チームの中で発言した り、提案したりと[発信力]を養うことができたと 考えられる。グループワークを通して『自他の意見 の尊重とグループとしての決定』を経験したことか ら[柔軟性]や[状況把握力]もさらに向上したと 考える。一方、有意な差が認められなかった[傾聴 力][規律性][ストレスコントロール力]の3要素 については、全て基礎ゼミ前より2点台でありもと もと得点が高く、1年生であってもそれらの能力は すでに身についていたと考えられる一方で、看護師 に求められる患者の思いを[傾聴]するような能力 については、有意差が認められるほどの向上を「基 礎ゼミ」では見出すことはできなかった。その理由 としては、本学では「看護学概論」や「コミュニ ケーション論」等で看護師に必要な傾聴の意味を学 修するが、基礎ゼミと同時期に開講の他科目での学 びを活用できず、有意な得点の上昇に至らなかった と考えられる。そのため、各科目が完結するのでは なく、関連付けられるようにしていくことが必要で あり、今後様々な医療専門知識を得る中でそれらの 学びを統合し活用できることが、社会人基礎力なら
びに個人の能力を伸ばすことにつながると考える。
[規律性]については、まだ臨地での実習が始 まっておらず、また基礎ゼミにおいては、限られた 時間の中でテーマについて調べるため、小グループ 内で役割や期限といったものを話し合いのなかで決 めて行われていたものの、「少しチームの規律性が 足りないところがあった」との記述のように、欠席 者もおり、社会のルールや人との約束を守るという 規律性を求める科目運営が不十分であったと考えら れる。[ストレスコントロール力]においても、「ス トレスは全くたまらなかった」との記述のように、
強度のストレスと感じるほどのプレッシャーは基礎 ゼミではなく、さらなる得点の上昇を得るのは困難 であったのかもしれない。今後、学内の守られた環 境以外のところで実際の対象への看護を学ぶ臨地実 習等の科目で、ストレスに対応できる力を伸ばすこ とが求められる。
以上、社会人基礎力の【前に踏み出す力】【考え 抜く力】【チームで働く力】の3つの能力の基礎ゼ ミ前後の得点の量的変化を質的データで説明してき たが、小人数グループで具体的な課題について調べ てまとめるという基礎ゼミの方法や達成目標が、グ ループの主体性や対話を促し、社会人基礎力を上げ ることができたことが示唆された。
2.本研究の限界と今後の社会人基礎力向上の方策 今回、社会人基礎力の3つの能力ともに上昇が見 られたが、本研究の対象者が1年生であり、また前 期における調査であったことから、大学での学びが 新たに始まるという学習環境の大きな変化そのもの が回答結果に影響をもたらしている可能性がある。
本調査結果が純粋に「基礎ゼミ」のみの効果であっ たかどうかを明らかにするためには、基礎ゼミ以外 の要素、例えばコミュニケーション論などの科目の 前後で調査することや、2、3、4年次と年次毎に 調査し、各学年次に1年次に学修した基礎ゼミがど のように影響しているかを縦断的に調査する必要が あると言える。また、学生の背景が影響している可 能性もある。小島ら6)は、学生の「ひとり暮らし 経験」が社会人基礎力育成に何らかの影響を及ぼし ていると報告しており、ボランティアへの参加やク ラブ活動の加入の有無などの背景も鑑みて、もとも と備わっている社会人基礎力のレディネスを踏まえ た群分けに基づく調査も有用と考えられる。
今後、社会人基礎力を継続して向上させていくた めには、今回上昇は見られたものの、12能力要素の
中で低値を示した[働きかけ力]や[計画力]を意 識的に伸ばせるプログラムを開発することや、さら に今後臨地実習科目が始まるなかで、[規律性]や
[ストレスコントロール力]を育成できるように、
助言教員等との対話を取り入れたリフレクションを 充実する必要性があると考えられる。今回の社会人 基礎力の変化は、あくまで学生の自己評価のみでと らえており、他者評価は行っていないところに限界 がある。今後は社会人基礎力の自己評価に加え、客 観的にその力がついたかの他者評価も踏まえ、対話 から学生の成長を促す関わりが必要と考える。
謝辞
本研究にご参加いただいた学生の皆様に心より感 謝申し上げます。なお本研究は、帝京科学大学平成 30年度教育推進特別研究費「看護学士課程におけ る社会人基礎力を育成するための教育プログラムの 開発と評価-地域への健康教育チームプロジェクト
-」(研究代表者:新野由子)の助成を受けて行わ れました。
引用文献
1)看護学教育モデル・コア・カリキュラム~「学 士課程においてコアとなる看護実践能力」の修 得を目指した学修目標~,2017年10月
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/
chousa/koutou/078/gaiyou/__icsFiles/
afieldfile/2017/10/31/1397885_1.pdf(2018年9 月17日検索)
2)経済産業省:今日から始める 社会人基礎力の 育成と評価,2007
http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/
h19reference.htm(2018年6月14日検索)
3)社会人基礎力 育成事例-岐阜大学,2009 https://www.wakuwaku-catch.com(2018年 9
月18日検索)
4)Linda Torp, Sara Sage著,伊藤通子,定村誠,
吉田新一郎(訳):PBL学びの可能性をひらく 授業づくり 日常生活の問題から確かな学力を 育成する,北大路書房,京都市,2017,pp.16-37 5)市川裕美子,山野内靖子:看護学生の社会人基 礎力の学年別自己評価と変化.八戸学院大学紀 要,56:161-166,2018.
6)小島尚子,落合のり子:看護系大学生の社会人 基礎力の属性別の検討.島根県立大学出雲キャ ンパス紀要,12:19-28,2017.