色付き Jones 多項式と ADO 不変量
森 祥仁
東北大学大学院 理学研究科 数学専攻
2022年12月22日
目次
概要
予備知識 量子群
枠付きタングルの不変量 不変量の性質
plumbedグラフと絡み目
主定理
概要
代数と絡み目不変量
量子群の表現を使うと枠付き絡み目の不変量を構成できる.
I Reshetikhin–Turaev + small quantum group −→ RT不 変量F.
I Geer–Patureau-Mirand–Turaev + unrolled quantum group −→ re-normalized不変量F0.
F,F0は色付きJones多項式, ADO不変量に対応する.
Costantino–Geer–Patureau-Mirand による F と F
0の関係
「結び目」を一つ固定するとF0は有理型関数になる.
Costantino–Geer–Patureau-MirandはF0の留数がFで書ける ことを証明した.
なぜ「結び目」なのか
絡み目を固定するとF0は正則関数になり留数が消えるから.
主定理
plumbedグラフΓに対応する枠付き「絡み目」に対して以下
の等式が成立する.
Fr(Γf(r −1−x)) = (−1)|E|+
P
v∈V≥2(dv−1)xv
r{1}
× X
ε∈{±1}E
Y
e∈E
ε(e)
!
α→x(ε)lim
F0r(Γf(α)) Q
v∈V≥2{rαv}dv−1
定理の読みかた
Fは正則関数F0の高次の項の線型和として書かれる. 結び 目のときは−1次の項にFが現れたが,絡み目では1次以上 の項に出る.
主定理を plumbed 絡み目に制限する理由
一般の絡み目への拡張は次の理由から難しい.
I そもそも計算が難しい.
I 計算できたとして, 得られた表示が比較に適しているか どうか怪しい.
例えば村上順先生によってWhitehead link, Borromean rings に対してF,F0が計算されているが両者の関係はまだわかっ ていない.
今回の状況に制限すれば次の特徴から計算・比較がなんと かできる.
I Hopf絡み目に対しては簡単に計算・比較できる.
I plumbed絡み目はHopf絡み目の連結和で書ける.
量子群
small quantum group
r ∈Z>0を固定し, q=exp(π
√−1
r )とする.
small quantum groupとは以下の生成元と関係式で与えられ
るC上の代数である.
生成元
E,F,K±1
関係式
KK−1 = 1 =K−1K, KEK−1 =q2E, KFK−1 =q−2F, [E,F] = K −K−1
q−q−1 , Er =Fr = 0, K2r = 1.
small quantum group の表現
各 n∈ {0, . . . ,r −1}に対して以下の基底と作用で定義され る表現Snが存在する.
基底
{si}ni=0
作用
Esi = [i][n−i + 1]si−1, Fsi =si+1, Ksi =qn−2isi, Es0 = 0 =Fsn
ただし複素数zに対して[z] = qq−qz−q−1−z,qz =exp
π√
−1z r
.
注意
関係式K2r = 1から, nは整数でなくてはならない.
unrolled quantum group
unrolled quantum groupとは以下の生成元と関係式で与えら れるC上の代数である.
生成元
E,F,H,K±1
関係式
KK−1 = 1 =K−1K, KEK−1 =q2E, KFK−1 =q−2F, [E,F] = K −K−1
q−q−1 , Er =Fr = 0, K2r = 1, [H,K] = 0, [H,E] = 2E, [H,F] =−2F.
unrolled quantum group の表現
各α ∈Cに対して以下の基底と作用で定義される表現Vαが 存在する.
基底
{vi}ri=0−1
作用
Evi = [i][i −α]vi−1, Fvi =vi+1, Hvi = (α+r −1−2i)vi, Ev0 = 0 =Fvr−1, Kvi =qα+r−1−2ivi.
注意
K2r = 1が要請されていないのでパラメータが複素数まで拡 張されている.
不変量 F , F 0
枠付きタングルの不変量 F の構成方法
以下のように線型写像を割り当てる.
V idV: V →V
W V
cV,W: V ⊗W →W ⊗V V
bV: C→V ⊗V∗
V
dV: V∗⊗V →C V
θV:V →V
枠付きタングルの不変量 F の構成方法
絡み目図式に従って各線型写像のテンソル積,合成をとる.
ℂ
ℂ
線形写像
線形写像
線形写像
線形写像
線形写像 Vi
V*
i⊗ V
iV*
i⊗ V*
i⊗ V
i⊗ V
iV*
i⊗ V*
i⊗ V
i⊗ V
iV*
i⊗ V
i⊗ V*
i⊗ V
i不変量の性質
F の性質と F
0I L:表現で色付けられた絡み目,
I TLi:Viで色付けられた成分Liで切り開いて得られる (1,1)タングル.
このときhTLii ∈Cが存在して
F(L) = qdim(Vi)hTLii.
問題点
qdim(Vα) = 0なので, unrolled quantum groupの表現を使 うとF(L) = 0.
Geer–Patureau-Mirand–Turaevはmodified quantum dimension dを導入してF0(L) =d(Vα)hTLiiとすることでre-normalized 不変量F0を構成した.
関数としての F
0絡み目L=L1 ∪ · · · ∪Lnを固定し, U¯qHsl2の表現{Vαi}ni=1を 動かせば複素変数の関数F0(L(α)) : (C rXr)n→Cになる.
この関数について以下の特徴が知られている.
I F0(L(α))は次のように定義される.
F0(L(α)) =d(αi)hTLi(αi)i I d: C rXr →Cは次のように定義される.
d(α) = (−1)r−1r(qα−q−α) (qrα−q−rα)
I F0(L(α)) = d(αi)hTLi(αi)i ∈ qrαi−q1−rαiC[q±α1, . . . ,q±αn]
F
0にとっての結び目と絡み目の違い
結び目の場合, 切る場所が1箇所しかないから F0(K(α))∈ 1
qrα−q−rαC[q±α] だが, 絡み目は切る場所が複数あるから
F0(L(α))∈ 1
qrαi −q−rαiC[q±α1, . . . ,q±αn]∩ 1
qrαj −q−rαjC[q±α1, . . . ,q±αn] となる. したがってF0(L(α))は全平面Cnに拡張可能となる.
plumbed 絡み目
plumbed グラフと絡み目の対応
I グラフの頂点は自明な結び目,
I 二つの頂点が辺で結ばれるとき, 対応する自明な結び目 たちはHopf絡み目のように絡む,
I 頂点の重みはフレーミング.
fv1 fv2 fv3
fv4
fv1
fv2 fv3
fv4
連結和
頂点での接着は頂点に対応する自明な結び目で連結和を取 ることに対応する.
V で色付けられた成分で絡み目L,L0の連結和をとる. この ときF,F0は次の関係式を満たす.
F(L#L0) = qdim(V)−1F(L)F(L0), F0(L#L0) = d(V)−1F0(L)F0(L0).
主定理
主定理
I Γf = (V,E,f):基点を持つ重み付きplumbedグラフ, I dv:v ∈V の次数,
I x ∈XrV = (Z rrZ)V:固定, I α = (αV)v∈V ∈CV:変数, I xv(ε) = Q
e∈Pv ε(e)
xv, ただしε∈ {±1}E, Pv:基点か らv に向かう道.
Fr(Γf(r −1−x)) = (−1)|E|+
P
v∈V≥2(dv−1)xv
r{1}
× X
ε∈{±1}E
Y
e∈E
ε(e)
!
α→x(ε)lim
F0r(Γf(α)) Q
v∈V≥2{rαv}dv−1
証明の方針
Step1
Hopf絡み目で証明する. fv1 fv0
Step2
帰納法で一般の場合に証明 する.
fv1
fv0 e0
証明( Hopf 絡み目)
目標は以下の等式:
Fr (Hf(r −1−x)) = (−1)1 r{1}
X
ε∈{±1}{e}
ε(e) lim
α→x(ε)F0r(Hf(α))
Hopf絡み目に対するFの値は
Fr(Hf(r −1−x)) = framingの項(−1)1
r{1} (−1)r−1r{xv1xv0}.
{xv1xv0}= (qxv1xv0 −q−xv1xv0)と F0r(Hf(α, β)) = framingの項
(−1)r−1rqαβから右辺を得る.
証明(一般の plumbed グラフ)
連結和に対する不変量の性質と帰納法の仮定から Fr(Γ0f(r −1−x)) = (−1)r−1−xv1 {1}
{r −xv1}
(−1)|E|+
P
v∈V≥2(dv−1)xv
r{1}
× X
ε∈{±1}E
Y
e∈E
ε(e)
!
α→x(ε)lim
F0r(Γf(α)) Q
v∈V≥2{rαv}dv−1
×(−1) r{1}
X
εH(e0)∈{±1}
εH(e0) lim
αv1→xv1,αv0→εH(e0)xv0
F0r(H0,fv0(αv1, αv0)).
符号ε, εHをΓ0に対する符号ε0でまとめて右辺を得る.