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クラスター変分法による核物質状態方程式と

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クラスター変分法による核物質状態方程式と 中性子星クラストへの適用

The Nuclear Equation of State by the Cluster Variational Method with Its Application to Neutron Star Crusts

2009 年 10 月

早稲田大学大学院 理工学研究科

物理学及応用物理学専攻 理論核物理学研究

神 沢 弘 明

(2)

目次

1. 序論……….………1

2. 基底状態における一様核物質状態方程式………15

2.1 2体力までのエネルギー………15

2.2 3体力エネルギー………24

2.3 核子間相関を考慮した3体力エネルギー寄与の考察………32

3. 有限温度における一様核物質状態方程式………37

3.1計算方法……….37

3.2 数値計算結果………42

4. 孤立した原子核におけるThomas-Fermi計算………52

4.1 Thomas-Fermi法………52

4.2 非対称核物質のエネルギー………53

4.3 3体力エネルギーパラメータの調整………55

4.4 数値計算結果………56

5. 中性子星クラストにおけるThomas-Fermi計算………68

5.1 計算方法………68

5.2 数値計算結果………71

6.結論……..………78

(3)

謝辞……….…82

付録 A Thomas-Fermi 計算におけるエネルギー密度の関数フィッティング ……….83

付録 B 一様な非対称核物質EOSの作成………..………86

付録 C 略語集……….……..……….…91

参考文献……….…93

(4)

第1章

序論

高エネルギー天体物理学、特に中性子星構造と進化、超新星爆発、極超新星 爆発、ブラックホール形成、中性子星連星合体等の研究において、核物質の状 態方程式(EOS)が果たす役割が大きくなっている[1, 2, 3]。その中でも、有限 温度の核物質EOSは超新星爆発シミュレーションにおいて鍵を握っていると考 えられている。

太陽質量の10倍以上の星は、その進化の最終段階で超新星爆発を起こすと 考えられている。その最終段階では、星の中心に、主に鉄からなるコアが形成 される。コアの進化と共に、鉄の光分解反応をきっかけに、鉄コアの重力崩壊 が始まる。そして星の中心部が原子核密度に達すると、一様核物質の硬さによ りバウンスを起こし、外向きの衝撃波が発生する。この衝撃波が星の表面まで 達すると、超新星爆発は成功し、中心に原始中性子星を残すことになる。以上 が超新星の即時爆発のシナリオである[4]。ただし、多くの流体数値シミュレー ションによると、衝撃波は物質中の伝搬でそのエネルギーを失い、爆発がうま く再現できない可能性が高い。そこで次に、原始中性子星からのニュートリノ 放射を考える。このニュートリノの過熱により、最終的に星を爆発させる可能 性も指摘されている。これが遅発爆発のシナリオである[4]。さらに最近はSASI と呼ばれる流体不安定性と超新星爆発との関連なども提唱されている[5]が、実 際に数値シミュレーションで爆発を再現することは困難な状況であり、超新星 爆発機構の解明にはさらなる研究が必要である。

この超新星爆発数値シミュレーションにおいて、核物質EOSの役割は大きい。

コアのバウンスは核物質が急激に硬くなる事によって生じ、従って現実的核物

(5)

質EOSの情報が直接反映される。衝撃波がその伝搬中にエネルギーを失う主な 原因の一つは鉄の原子核の分解による吸熱反応であり、よって高温低密度核物 質の構成粒子(核種)の情報が関連する。中心に残る原始中性子星の構造はニ ュートリノを含めた高温核物質EOSによって決定され[6]、そこから生じるニュ ートリノの過熱がどの程度爆発に関係するかは、核物質構成粒子(核種)とニ ュートリノとの反応率に支配される[4]。

超新星爆発シミュレーションに適用可能な核物質EOSは、密度、温度、陽子 混在度について、とても広い領域をカバーする必要がある。よって、そのよう なEOSを作成する事は容易ではなく、そのため、実際に超新星爆発シミュレー ションに適用可能なEOSは少なく、2種類しか存在しない。ひとつは、圧縮性 液滴模型によるLattimer, Swesty (LS)によるEOS[7]であり、もうひとつは相対論 的平均場近似に基づいた Shen らによるEOS[8]である。例えば Shen-EOS では、

105 g/cm3から1015 g/cm3の密度領域、エネルギーに換算して0 MeVから100 MeV の温度領域、そして 0から0.56までの陽子混在度に対する核物質の各種熱力学 量が用意されている。特にShen-EOSは、テーブルとしてこれらの熱力学量が用 意され、その数値の変化の滑らかさから、近年多くの天体数値シミュレーショ ンに適用され、超新星爆発計算用核物質EOSのスタンダードとなりつつある。

しかし、近年の高エネルギー天体数値シミュレーションでは、これを超える領 域での核物質EOSデータが必要と言われている[9]。

この2種類のEOSを用いて、超新星爆発や関連する現象における核物質EOS の影響は精力的に調べられている。Sumiyoshiらは、一般相対論に基づき球対称 な星の重力崩壊のシミュレーションをLS-EOSとShen-EOSの両者について行い、

主に核物質の硬さに違いにより、放出されるニュートリノのスペクトルについ て、大きな違いが生じる事を示した[1]。このシミュレーションでは超新星爆発 は生じないが、ブラックホールが形成されるまでの時間が核物質の硬さによっ て異なる事から、ニュートリノ放射時間も核物質EOSによって異なる。このニ

(6)

ュートリノを検出する事で、核物質EOSに制限を加える可能性も示唆されてい る[10]。

なお、高密度核物質に対しては、多くの相転移が予想されており、それらに 対応する核物質 EOS が考えられる。典型的な例はπ中間子凝縮[10]やK中間子 凝縮[11]、Hyperon 混合[12]、クォーク相[12]への相転移等である。そして実際、

Shen-EOSにおいて幾つかの相転移を考慮した改良がなされている。具体的には、

Ishizuka らによって hyperon mixingを含む場合[13]に拡張され、また、Nakazato らによって quark-hadron 相転移を含む場合[2]にも拡張が行われた。このような 相転移を考えた場合、核物質EOSは柔らかくなり、これらの拡張されたEOSの 超新星爆発シミュレーションへの影響は、基本的にそのEOSのソフト化によっ て説明される[3]。

このLS-EOS とShen-EOS両者はともに、原子核に対する現象論的模型に基づ

くEOSであるので、そのよりどころは飽和密度における情報だけである。核物 質EOSの重要な情報はエネルギーの密度依存性であるが、現象論による模型で は、その密度依存性について、飽和密度の情報のみに頼らざるを得ない。それ では、エネルギーの密度依存性に関してより信頼性を向上させるには、どうし たら良いだろうか。

核物質EOSの研究は様々な方法により行われているが、実験的にそれを特定 する事は難しい[14]。従って信頼性の高い核物質 EOS を作成する有力な方法の 一つは、現実的な核力から出発した第一原理的多体計算により、核物質のエネ ルギーを求める方法である。実際に、これまで多くの現実的核力モデルに基づ く様々な多体計算法により、核物質EOSが計算され、特に絶対零度核物質に対 して、その計算されたEOSが中性子星構造研究に適用されてきた[15]。

中性子星はその内部密度が核物質飽和密度以上の高密度コンパクト天体であ り、パルサーとして観測される[16]。その自己重力に対して、内部核物質の硬さ により、中性子星は重力崩壊を免れている。よって中性子星構造は核物質 EOS

(7)

に支配され、逆にパルサーの観測結果から、理論的に予想される中性子星とそ の内部核物質EOSに対する制限が加えられる。典型的な例が中性子星の質量で あり、重力波放出の間接的証拠として有名な連星パルサーPSR1913+16[17]にお いて、その中性子星の重力質量は である事が知られている。従って核物 質EOSは、それにより支えられる中性子星の最大質量が少なくとも より 大きくなければならない。実際、高密度状態において Hyperon 混合を考慮した EOSの幾つかは、この条件を破ってしまい、その困難の解決が核物質EOS研究 に迫られる[18]。

このように、絶対零度一様核物質EOSとその中性子星の応用の研究では、中 性子星観測結果と核物質EOSとの関係が密接であるが、それに対し超新星爆発 現象においては、前述の通り、現状で利用可能なEOSは主に2種類しかなく、

したがって中性子星の場合とは異なり、核物質EOS不定性の影響の詳細な検討 にはほど遠い。よって、より多くの理論により超新星爆発シミュレーション用 核物質EOSが作られ、それにより超新星爆発現象における核物質EOSの依存性 を詳細に研究する事が望まれる。特に中性子星の研究において盛んに適用され ているような、第一原理的により現実的な核力の情報を反映させた、多体計算 による核物質エネルギーに基づくEOSを、超新星爆発シミュレーションへ適用 することが望まれる。

以上の背景のもとに、本研究では核力から出発した多体計算により、超新星 爆発シミュレーションに適用可能な核物質EOSを作成する事を目指す。本論文 では、その基礎となる以下のような計算処方を確立させた。

まず、本研究ではShen-EOSの処方を踏襲して、超新星爆発シミュレーション 用の核物質EOSテーブル作成を目指す。Shen-EOSの方法は以下の通りである。

はじめに、絶対零度及び有限温度の一様核物質EOSを作成する。(Shen-EOSの 場合には、相対論的平均場近似が用いられている。)次に、核物質は低密度領域 で非一様分布をするため、そのような領域に対しては、Thomas-Fermi(TF)近

(8)

似でエネルギーを求める。また、有限温度では核子のガス状態も考えられるた め、最終的にどのような相が実現するかは、有限温度での非一様核物質の自由 エネルギーに対するTF計算結果と、ガス状態の自由エネルギーとの大小関係で 決定する。本研究では、非一様核物質の取扱いは基本的に上記のShen-EOSの方 法を踏襲し、その基礎となる一様核物質のEOSは、現実的核力から出発した多 体計算により求める。

核力から出発した多体計算により核物質EOSを求める方法は複数あるが、代 表的な方法は摂動論的なBrueckner法と変分法である[19]。多体計算法の基礎と

なるHartree-Fock計算は、現実的核力における強い斥力芯の存在により適用不可

能である。Brueckner法は核物質中での2核子散乱問題を扱う事で、2核子の斥 力芯部分の波動関数の歪みを取り入れる方法であり、特に低密度物質に対して 有効であると考えられる[20]。またこの方法は相対論的多体計算へと拡張されて いる[21]。一方変分法は、核力の斥力芯や強い引力に対応する波動関数の歪みを 表す粒子間相関関数を含む試行関数でエネルギー期待値を計算する方法[22]で あり、核力によって生じる粒子間相関の記述は、仮定する試行関数の関数形に よって制限を受ける。ただし、核物質や液体3He等の強い粒子間相関をもつFermi 粒子系では、2体相関のみならず多粒子相関の影響の考慮も重要であり、それ らの取扱いについては、2体粒子間相関関数を仮定し、その重ね合わせで多粒 子相関を表現した変分法の方が有利である。実際、摂動論で多粒子相関を扱う ためには、媒質中の多体散乱問題を扱う事が要求され、その計算は困難である だけでなく、数値計算結果の信頼性も低い。特に、核物質の飽和密度の数倍の 密度程度の稠密度であると考えられている液体3He[23]を扱った場合、変分法に よる一粒子当りのエネルギー計算値と実験値との食い違いは比較的小さい[24]

が、Brueckner法では一粒子当りのエネルギーは正となり、液体3Heが束縛状態 である事が説明出来ない[25]。よって本研究では、飽和密度の核物質だけでなく 高密度核物質も扱う必要があるため、変分法を用いて、一様核物質EOSの作成

(9)

を行なう。

ただし核物質を扱う場合は、3体核力が重要である事に注意する。この事は、

現実的2体核力のみを用いて3体核子系(3重水素やヘリウム3)の結合エネ ルギーを計算した場合、その実験値を説明出来ない事からもわかる[26]。また、

非相対論的なハミルトニアンから出発した場合、2体核力のみを考慮した対称 核物質に対するエネルギー計算結果は、その飽和点が経験値から大きくずれる 傾向を示す。この傾向はBrueckner法と変分法の両者に対して成り立ち、特に2 体力のみを考慮した場合の飽和点は、その経験値より高密度側、もしくは低エ ネルギー側にずれる。多くの多体計算によりえられた飽和点は、核物質の1核 子当りのエネルギーと密度の関係を表す図において、経験値から離れた曲線上 に並ぶように見え、その線は Coester 線と呼ばれる[27]。この事より、核物質エ ネルギーにおいても3体力が重要であり、それは特に対称核物質の場合に低密 度領域で引力的寄与をし、高密度領域で斥力的寄与をする事が期待される。従 って核物質EOS計算においては、3体力の考慮が不可欠である。

ただし、この3体力の寄与は相対論的効果に対応する、という考察がある事 に注意する。BrockmannとMachleidtは相対論的系へと拡張したDirac Brueckner

Hartree Fock法で核物質EOSを計算し、2体核力としてBonnAポテンシャルを

用いた場合、飽和点の経験値を良く再現する事を示した[21]。この計算では核物 質中における核子・反核子対の生成・消滅の寄与が、非相対論的Brueckner計算 による飽和点を大きく動かし、その経験値へと近づける。この寄与は非相対論 的な表現では3体力の一種を取り扱うことに相当する(Z diagram)。2体核力の みを考慮した非相対論的多体計算による飽和点と経験値とのずれが、3体力に より説明されるべきものか、または相対論的効果によるものか、決着はついて いない。本研究では、非相対論的な枠組みで、3体力を考慮する立場を採る。

変分法は、試行関数としてJastrow型波動関数を用い、Hamiltonian期待値をク ラ ス タ ー 展 開 す る 方 法 が 、 そ の 基 礎 と な る 。 こ の ク ラ ス タ ー 変 分 法 は 、

(10)

Iwamoto-Yamada[28]によって提唱され、その後様々な定式化の改良が行なわれた。

そして高次クラスター項を部分的に足し上げるFermi Hypernetted Chan(FHNC)法 [22]がKrotcheck, Ristig, Fantoni, Rosati[29,30]らによって確立された。この方法は 液体 3He 等の、粒子間相互作用が2核子の量子状態に依存しない場合に適用さ れたが、核物質の場合には2体核力の状態依存性が強いため、粒子間相関も2 核子の量子状態を特定する演算子で表現されなければならない。そのような演 算子を含む相関関数からなるJastrow型波動関数を用いたハミルトニアン期待値 のクラスター展開、及びFHNC法は、Pandharipande, Bethe[31]によって確立され た。今日でもこの FHNC 法は絶対零度核物質 EOS の計算に対して有力であり、

絶対零度核物質に対する変分計算の代表例は、Akmal, Pandharipande, Ravenhall

(APR)[32]による。彼らは現実的な2体の核力ポテンシャルAV18[33]と3体の 核力ポテンシャルUIX[34]から出発して、対称核物質と中性子物質のエネルギー を得た。このAPRの計算結果は、天体核物理学への応用だけでなく、核物理学 の多くの分野で、標準的な絶対零度核物質EOSとして引用されている。

一方、有限温度核物質に対する変分計算例は非常に少なく、代表的な計算例 はFriedman, Pandharipande(FP)[35]によるものである。この変分計算では、FHNC 計算方法を有限温度に拡張したSchmidt, Pandharipande(SP)[36]の手法に従い、

核物質自由エネルギーが求められる。FPの計算では、2体核力としてUV14ポ テンシャルが用いられている。このポテンシャルはAV18に比べ1世代古い。ま た3体力は現象論的に扱われている。なお、近年このSPの方法はMukherjeeと

Pandharipande[37]によって、その妥当性が改めて検証された。

このように FHNC 法は洗練された変分計算法であるが、有限温度への計算例 が少ない事からわかるように、広範囲な温度領域や陽子混在度が任意である非 対称核物質への適用が困難である等の問題点がある。したがって超新星爆発へ の適用を目指す場合、より簡便な変分法が望まれる。そこで本論文では、FHNC 法の基礎となるクラスター変分法により、絶対零度および有限温度における一

(11)

様核物質のエネルギーを求める。

本研究ではAPRと同様に、2体核力としてAV18ポテンシャル、3体核力と して UIX ポテンシャルを用いる。まず AV18ポテンシャルは、核子核子散乱実 験データを良く再現した、いわゆるModernな2体核力ポテンシャルの一種であ り、その信頼性は高い。一方3体核力の UIXポテンシャルは、むしろ現象論的 なポテンシャルと言わざるを得ない。UIX ポテンシャルは2π交換項と斥力項 からなる。2π交換による3体力はFujita-Miyazawa[38]の提案の頃から知られて おり、UIX ポテンシャルにもその寄与は含まれる。そしてこれの2π交換項の 寄与は、対称核物質に対しては引力的であると期待される。よって前述の核物 質飽和点の議論より、3体力ポテンシャルにはさらに斥力項も必要であり、UIX ポテンシャルにはその斥力項が現象論的に導入されている。

こ の よ う な 2 体 核 力 と 3 体 核 力 の 信 頼 性 を 確 認 す る 手 段 と し て 、Green

Function Monte Carlo (GFMC)法による少数核子系のエネルギー準位の計算が挙

げられる。現在最大で12核子系(12C)に対してGFMC計算が行なわれており

[11]、それらの結果を見ると、2体核力としてAV18ポテンシャル、3体核力と

して UIXポテンシャルを用いた場合のエネルギー準位は、実験値より高くなる 傾向にある。そしてこの研究では、UIX を拡張し、さらに複雑な核子状態依存 性を取り入れた3体力モデルであるIL1~IL5が提案されている[11]。そして特に IL2 を3体力ポテンシャルとして用いた場合、GFMC 計算結果は UIX を用いた 場合よりもエネルギーが低くなり、実験値との一致の程度が改善される。しか し、陽子中性子数の比が1から大きくずれる不安定核に対する計算例は示され ていない。特にIL2ポテンシャルで複雑化された状態依存性が、中性子過剰核、

さらには中性子物質へと拡張させた場合にまで十分適用可能か、明らかではな い。実際、APRを代表とする多くの多体計算では、3体力としてUIXポテンシ ャルが用いられている事が多い。よって本研究においても、3体力として UIX ポテンシャルを採用する。また、以上の状況を踏まえ、3体力ポテンシャルに

(12)

は、まだ大きな不定性がある事に留意し、その不定性を逆に利用した計算方法 を提案する。

以上のハミルトニアンから出発し、本論文では以下の手順で一様核物質のエ ネルギーを求める。まず絶対零度の場合、3体力を無視し、2体力までを考慮 した場合のハミルトニアン期待値を求める。これは歴史的に、2体力で相互作 用している系に対する多体計算が長年研究されて来ており、その経緯を踏まえ て完成された FHNC 計算の結果と、本研究で提案する変分法での計算結果を比 較する事で、本研究での変分法の信頼性を確認する事が出来るからである。実 際APRも、3体力を含む全ハミルトニアンの期待値の計算だけでなく、2体力 AV18ポテンシャルだけを考慮した場合のエネルギー計算値も報告している。そ して本研究では、この2体エネルギー期待値を、2体クラスター近似で評価す る。2体クラスター近似は比較的簡便な近似法であり、非対称核物質への拡張 も比較的容易である。なお、FHNC計算においては、非対称核物質の計算例はほ とんどない。それは、対称核物質や中性子物質等の、単一のFermi面で系を表現 出来る場合に比べ、2種類の Fermi 面を扱う必要がある非対称核物質の場合、

Jastrow 波動関数の核子間相関が演算子になっている事の困難さが大きく影響す

るからである。ただし、2体クラスター近似は十分な近似ではなく、変分関数 の振舞いを制限する拘束条件が必要となる。本研究では、拡張した Mayer 条件

とhealing distance条件を導入し、現実的な解を得る事に成功した。

次に3体力から生じるエネルギーを考慮する。その際に3体力ポテンシャル には不定性がある事、APR の精密な変分計算ですら、経験的飽和点が再現出来 ていない事等を考慮して、本研究では3体力エネルギーを比較的簡略化して求 める。具体的には UIXポテンシャルが2π交換項と斥力項からなるため、それ らを分割して、対応するハミルトニアン寄与の期待値を、Fermi gas波動関数を 用いて求める。3体力そのものの不定性、粒子間相関を無視した事による補正、

相対論的補正、その他、最終的に核物質全エネルギーの飽和点が経験値を再現

(13)

するために必要となる効果を全て取り入れる事を、パラメータの導入によって 表現する。従ってこのパラメータの値は、全エネルギーが飽和点の経験値を再 現するように決定する。なお現状で、現実的核物質ハミルトニアンから出発し、

調整パラメータの導入無しに核物質飽和点経験値を理論的に再現した例は無い 事に注意する。こうして得られた核物質EOS は reasonableであり、中性子星に 適用した場合も、その最大質量が となり、PSR1913+16 の観測値を十分説 明出来る。

次に有限温度核物質EOSを求める。この際、FHNC法を有限温度に拡張した SPの方法を用いる。SPの方法では、自由エネルギーを内部エネルギーとエント ロピーで表現し、内部エネルギーは有限温度Jastrow波動関数によるハミルトニ アン期待値として求める。具体的には FHNC 計算を行なうが、その際波動関数 の反対称性から生じる交換相関の部分を、有限温度の場合へと拡張する。これ は、単一粒子状態の平均占有確率が、絶対零度の場合と異なりFermi分布になる 影響を取り入れたものであう。本論文では絶対零度において2体力エネルギー を2体クラスター近似で表現したので、SPの方法における内部エネルギーも同 様に2体クラスター近似で表現する。

前述のように、低密度核物質は非一様に分布する。この非一様核物質に対す る EOS は、Shen-EOS の方法を踏襲し、Thomas-Fermi(TF)近似によって求め る。この際、原子核の質量、半径実験値を良く再現することで、計算結果の信 頼性を向上させた。既に述べたように、超新星爆発において、衝撃波のエネル ギー損失やニュートリノ反応は、低密度状態に出現が予想される核種に大きく 依存する。よってこのように本研究におけるTF計算が孤立した原子核を良く再 現する事は、超新星爆発用EOSを作成する上で非常に重要な要素となる。

TF計算においては、一様核物質のEOSの情報が必要となる。そしてその中に は、3体力エネルギーに付随するパラメータが含まれている。上記の段階では そのパラメータは核物質飽和点の経験値を再現するように決定されたが、その

(14)

ような決定方法にこだわる必要はない。むしろ本研究の目的からして、TF計算 により原子核の実験値を再現する事の方が遥かに重要である。よって本研究で は、この TF 計算の段階で、改めて3体力エネルギーのパラメータを再調節し、

TF計算が原子核実験値を良く再現するようにした。孤立した原子核を考える事 は、絶対零度非一様核物質の低密度極限を扱っている事になり、その実験値を 再現する事で、本研究でのEOSの信頼性を大きく向上させる事になる。

以上で確立した非一様核物質EOS作成方法を適用して、中性子星クラストの EOS を作成した。中性子星クラストは格子上に原子核が存在する状態で、相対 論的電子ガスが一様に分布し、全体として荷電中性でβ安定な物質になってい る。表面から中心に向かうに従って、物質の平均密度は増加し、その結果原子 核の電子捕獲反応が促進して中性子過剰核が形成され、やがて中性子は原子核 に束縛されずに核外にこぼれる。このような中性子 drip の起こらない領域を外 殻、中性子 drip が起きてから一様核物質になるまでの領域を内殻と呼ぶ。この 非一様核物質のEOSを本研究の方法により求め、外殻と内殻における核種を計 算した。TF計算は半古典計算であり、量子効果である殻効果は含まないため、

計算結果はその大局的な振舞いに意味があるが、それらはこの中性子星外殻領 域に対する代表的な計算例である、経験的原子質量公式を用いたBethe, Pethick, Sutherland[39]の計算結果を、大局的に良く再現し、また内殻においては、やは り代表的な計算例である、Hartree-Fock計算に基づくNegele Vautherin[40]の結果 を大局的に良く再現した。また特筆すべきは、Shen-EOSが予言する中性子クラ スト核種と、本研究による計算結果が大きく異なる事である。前述のとおり本 研究ではTF計算の信頼性向上のため、原子核の実験値を再現している。よって 本研究の計算結果とShen-EOSの結果との違いは、本研究を発展させて超新星爆 発計算用EOSを完成させた時、構成核種の予言能力において、Shen-EOSを上回 る可能性を示唆している。

第2、3章では、それぞれ絶対零度および有限温度における一様核物質 EOS

(15)

の作成を行う。第4章では、孤立した原子核に対するTF計算が実験値を再現す るように、第2章で作成したEOS中のパラメータの調整を行う。さらに、得ら れたEOSを用いて中性子星の計算を第5章で行う。最後に、第6章でまとめを 行い、得られた核物質EOSの特徴や研究の今後の展望について述べた。

(16)

第2章

基底状態における一様核物質状態方程式

この章では、基底状態における一様核物質状態方程式の作成[41]について述べ る。現実的な核力から出発して、クラスター変分法によって一核子当りの2体 力までのエネルギーの計算を行い、Akmalら[32]のFHNC計算と比較を行う。さ らに、現象論的な3体力エネルギーを加えて全エネルギーとする。ちなみに、

以下では主に対称核物質についての表式を挙げるが、中性子物質についても同 様にして計算を行う。

2.1 2体力までのエネルギー

まず、非相対論的な核物質ハミルトニアンを以下のように表現する。

(2.1)

ここで、H2は2体力までのハミルトニアン

(2.2)

であり、式中の N は核物質中の核子数、m は核子質量である。2体核力ポテン シャルVijとしては、核子核子(NN)散乱実験データを良く再現するModernな

(17)

2体核力ポテンシャルの1つである、Argonne V18 (AV18)ポテンシャル[33]を用 いる。ただし、AV18ポテンシャルは、NN 散乱実験データにおけるアイソスピ ンの破れまで正確に記述するために、アイソスカラー成分だけでなく、アイソ ベクトル項とアイソテンソル項を含み、計18個の演算子から成るが、本研究 では、その中で14個の演算子から成るアイソスカラー項を用いる。

(2.3)

ここで、VCts(r), VTt (r), VSOt (r), VqLts(r), VqSOt (r) はそれぞれ、スピン・アイソスピ ンに依存する中心力、テンソル力、スピン・軌道力、Lの2次に依存する力、2 次のスピン・軌道力のポテンシャルである。STijLijはそれぞれi番目とj番目 の核子対に対するテンソル演算子と相対軌道角運動量演算子である。また、Ptsij はアイソスピン・スピン射影演算子であり、i番目とj番目の核子対の状態をそ れぞれtriplet-odd ((t, s) = (1, 1))、singlet-even ((t, s) = (1, 0))、triplet-even ((t, s) = (0, 1))、singlet-odd ((t, s) = (0, 0))の各状態に射影する。ちなみに、AV18ポテンシャ ルの残りであるアイソベクトル項とアイソテンソル項については、そのエネル ギー寄与が小さいと期待されるために無視する。この扱いはAPRのFHNC計算 と同様である。

波動関数Ψとしては、Jastrow型を仮定する。

(2.4)

ここで、ΦFは基底状態のFermi gasに対する波動関数である。また、Sym[ ]は対

(18)

称化演算子であり、その内部の演算子の積の順序について対称化する。

2体相関関数fijとしては、以下の形を仮定する。

(2.5)

ここで、fCts(r), fTt(r), fSOt(r)はそれぞれスピン・アイソスピン依存の中心力型、テ ンソル型、スピン軌道力型の相関関数である。これらは2核子間距離rの実関数 であると仮定し、特にfCts(r)は非負の関数であるとする。それに対しfTt(r), fSOt(r)

は、fCts(r)に対する相対的位相を考慮して、負の値をとることを許す。テンソル

力、スピン・軌道力によって生じる非中心力的相関を、fTt(r), fSOt(r)によって表現 する事となる。これらを変分関数に選ぶ。なお、この試行関数は、APRがFHNC 計算において採用している関数と同じである事を注意する。

式(2.4)の波動関数を用いて、H2の期待値<H2> = <Ψ|H2|Ψ>/<Ψ|Ψ>のクラスター 展開を行う。そしてこの研究においては2体クラスター近似を用い、1体クラ スター項と2体クラスター項までを考慮して3体クラスター項以上の高次のク ラスター項(以下、高次クラスター項と呼ぶ)を無視する。このとき、<H2>/N の2体クラスター近似をE2と表す。E2の表式は以下のようになる。

(19)

(2.6)

式(2.6)右辺の第1項は1体の運動エネルギーであり、EF = h2kF2/(2m)はFermiエ ネルギーである。ここで、kFはFermi波数で、対称核物質においては、核子の数 密度nを用いてkF =(3π2n/2)1/3となる。(中性子物質の場合は、kF =(3π2n)1/3である。) また、m は核子質量で、この研究では対称核物質、中性子物質のどちらの場合 に対しても、核子の質量は中性子の質量と同じものとする(m=mn)。式(2.6)右辺 の第2項はポテンシャルエネルギーを表しており、式中に現れる F2ts(r), F2Tt(r), F2SOt(r), F2qLts(r), F2qSOt(r) はそれぞれ、中心力的、テンソル的、スピン・軌道的、

L の2次的、2次のスピン・軌道的2体分布関数の2体クラスター近似であり、

その具体形は

(2.7)

(2.8)

(2.9)

(2.10)

(20)

(2.11)

のようにfCts(r), fTt(r), fSOt(r)で表現される。ここで、FFts(r), FqFts(r) , FbFts(r) はそれ ぞれ

(2.12)

(2.13)

(2.14)

である。FFts(r)は Fermi gas の場合のスピン・アイソスピン依存の動径分布関数 である。ここで、Ω は系の体積、Σ は全核子のアイソスピン座標とスピン座標に ついての和を表す。また、jn(z)はn次の球ベッセル関数である。式(2.6)右辺の第 3項は、核子間相関から生ずる運動エネルギーを表す。粒子間相関から生じる

(21)

運動エネルギー項が非負であるような表現が得られる事が、2体クラスター近 似の特徴である。実際、高次クラスター項では、運動エネルギー項が負になる 事がある。

E2は変分関数fCts(r), fTt(r), fSOt(r)をexplicitに含む汎関数であるため、表式(2.6)

から Euler-Lagrange 方程式を導き、それらを解くことで E2の最小化を行うこと

ができる。しかしながら、2体クラスター近似において、全くのconstraintなし での最小化を行うと、そのエネルギーは不自然に負の大きな値になることが知 られている[42]。これは、3体クラスター項と高次クラスター項を無視してしま ったことに起因する。この研究では、このような非物理的な結果を避けるため に2つの条件を課す。

第1の条件は、拡張したMayer条件と呼ばれるものである。

(2.15)

Fts(r)はアイソスピンとスピンに依存する動径分布関数である。

(2.16)

これらは、2核子のスピン・アイソスピン状態が(t, s)状態であるような核子対の

総数が、Fermi gasの場合のそれと等しい、という条件を意味する。本来のMayer

条件[43]は、次の式(2.17)であり、条件(2.15)は本来のMayer条件を満たす。

(2.17)

(22)

F(r)はアイソスピン、スピンの4状態に対する動径分布関数Fts(r) (t, s = 0, 1)の和 である。本来の Mayer 条件は、粒子数保存則を意味している。これは任意の系 に対して成立するので、従ってFermi gasに対しても同様の式が成り立つ。よっ

て、Fermi gasの場合との差を求める事で、スピン・アイソスピン状態(t, s)に依

存しない場合の式(2.15)に対応する式が得られる。ここでさらに特定のスピン・

アイソスピン状態(t, s)に射影した場合でも、その粒子対個数が保存するという条 件を課す事で、式(2.15)が得られる。また2体クラスター近似においては、Fts(r) は式(2.7)のF2ts(r)と一致する。矛盾のない計算を行なうため、この研究では、式 (2.15)においても2体クラスター近似を用いてFts(r)の代わりにF2ts(r)で表す。

第2の条件はhealing distance条件である。まず、healing distance rhを以下の条 件を満たす2核子間距離として定義する。

(2.18)

すなわち、距離 rhよりも2核子が離れると、2核子間の相関が消えるという条 件である。APRの FHNC 計算では、fTt(r)に関するrhfCts(r)に関する rhを独立 に選び、それらを変分パラメータとして全エネルギーを最小化する事で、それ らは自動的に決定される。特に後述するように、APR の計算結果では、ある密 度より高密度ではfTt(r)に対するrhが急激に大きくなり、Akmalらはそれをπ0中 間子凝縮相への相転移であると主張している。一方本研究では、高次の項を無 視した2体クラスター近似を用いて多体計算を行うため、この healing distance は手で固定しなければならない。ここで、healing distanceはfCts(r), fTt(r) , fSOt(r) の全てに対して共通の値とする。さらに、rhは核物質中での2核子の平均距離に 比例すると仮定する。

(2.19)

(23)

ここで、比例係数ahは調節パラメータであり、r0は体積1/nをもつ球の半径であ る。

(2.20)

これら2条件の下で、E2を最小化する。すなわち、fCts(r), fTt(r) , fSOt(r)についての Euler-Lagrange方程式を導き、Lagrangeの未定乗数法によって拡張された Mayer 条件を考慮する。Euler-Lagrange方程式はfCts(r), fTt(r) , fSOt(r)の連立微分方程式と なり、式(2.18)を境界条件としてそれを解く。ahの値については、APRのFHNC 計算による<H2>/Nを参考にする。すなわち、対称核物質に対する計算されたE2

が対応する APR の<H2>/N に近いように ahの値を決定する。このようにして得 られた値はah =1.76となった。

中性子物質の E2についても、上に述べた対称核物質と同じように計算する。

このときのahの値は、対称核物質の場合と共通ah =1.76とする。

図1は、対称核物質と中性子物質についてのE2を密度nの関数として表した ものである。図 1 には、APR の<H2>/N も比較のために載せてある。これから、

対称核物質のE2が APR の<H2>/N と良く一致していることが分かる。結局、本 研究では E2を求める際、APR と同じハミルトニアンから出発し、APR と同じ

Jastrow波動関数を用いており、APRとの違いは、高次クラスター項を取り入れ

ているかどうかだけである事は、注目に値する。高次クラスター項を含む APR による計算結果が、2体クラスター近似で healing distance 条件を課した本計算 で非常に良く再現される事から、APRのFHNC計算における高次クラスター項 の主要な効果は、healing distanceを適度な距離に押さえる効果である、と考える 事が出来る。特に、本計算のように healing distance を粒子間平均距離に比例す るように設定することで、広い密度領域でのエネルギーが再現できている事よ

(24)

り、本研究でのクラスター変分法が有効な処方である事がわかる。この事は、

対称核物質に対してだけでなく、中性子物質に対してもAPRの計算結果の再現 が良い事から、さらに強く支持される。ここで、中性子物質のAPRは n ~ 0.6 fm−3 で、エネルギーの傾きが不連続に変わっている様子が見られるが、これはAkmal らによるとπ0凝縮相への相転移のためである。前述の通り、APRのFHNC計算

では、healing distanceをテンソル型相関関数とその他の相関関数について、変分

パラメータとして独立に扱っている。そしてn ~ 0.6 fm−3においてテンソル型相 関関数に対する healing distance の急激な増加が起こり、この現象がπ0凝縮相へ の相転移と判断されている。一方本研究では、healing distanceは全ての相関関数 について全て共通であると仮定した。それゆえ、APRと同様なE2における

図1:密度に対する一核子当りの2体のエネルギーE2。対称核物質と中性子物 質に対する結果。APRの<H2>/Nの結果も示す。

(25)

π0凝縮相への相転移は見られない。なおAPRのFHNC計算では、直接π中間子 を扱う事はなされておらず、π中間子と密接に関連すると考えられるテンソル 型相関の振舞いの変化から、間接的にπ凝縮相への相転移が論じられている事 に注意する。

2.2 3体力エネルギー

次に、3体力からのエネルギー寄与をある程度現象論的に扱い、全エネルギ ーEが飽和点経験値を再現するように決定する。まず、UIXポテンシャル[34]か ら出発する。UIXポテンシャルVijkは、

(2.21)

と表現され、VijkVijkRはそれぞれ2π交換項と斥力項である。具体形は、

(2.22)

(2.23)

であり、ここでxij

(2.24)

(26)

である。右辺第1項は中心力成分、第2項はテンソル力成分である。Y (r)とT (r) の具体形は

(2.25)

(2.26)

であり、μ=( mπ0+2mπc)/3ħc(mπ0c2=134.9739 MeV、mπcc2=139.5675 MeVはπ中間 子質量)、ct = 2.1 fm−2である。また、式(2.24)において{ , }と[ , ]はそれぞれ反 交換演算子と交換演算子を表し、A = −0.0293 MeV、U = 0.00480 MeVである。こ のポテンシャルに対応させて、3体力ハミルトニアンH3を2つの部分に分けて、

それぞれを

(2.27)

(2.28)

と表す。本研究では初めに、それぞれのFermi gas波動関数による期待値<H3>F

<H3R>Fを求める。結果は以下の通りになる。まず、2π交換項の寄与の場合、i 番目の核子とj番目、k番目の核子との間に、それぞれxij, xikで記述されるスピ ン依存の中心力とテンソル力が働く。従ってそのFermi gasでの期待値は、xijの 強い状態依存性により、さらにj番目とk番目の核子との間に何らかの相関が生 じた場合にのみ有限値となる。この時、その寄与は convolutionにより、各成分

のFourier変換を用いた波数空間積分で記述される。一方で斥力項は、現象論的

に作られているため、核子のスピン・アイソスピン依存性は導入されていない。

(27)

従ってその期待値は、単にi番目の核子とj番目、k番目の核子間の寄与の積で 表される直接項部分と、さらにj番目、k番目の核子間に交換相関が生じた場合 の交換項部分から成る。前者はr空間での積分で表現され、後者は波数空間の積 分で記述される。すなわち、

(2.29)

(2.30)

であり、これらの式中に表れる関数については、それぞれ以下のように定義さ れる。

(2.31)

(2.32)

(28)

(2.33)

(2.34)

(2.35)

(2.36)

(2.37)

(2.38)

ここで、l(z) = 3j1(z)/zはSlater関数である。ちなみに、数値積分の際には式(2.29), (2.30)中でGL(k = kF) = 4を仮定しているが、この近似の数値計算結果への影響は 無視出来る。

核子間の相関を考慮に入れると、H3、H3R の期待値はそれぞれ、<H3>F

<H3R>F と違った値をとるはずである。さらに相対論的ブースト修正により、こ

の非相対論的な3体力期待値は変更を受けることになる。APRのFHNC計算で は、H3Rの期待値はかなりこれらの修正による変更を受けている。さらに、対称 核物質についてはエネルギー補正項γ n2exp[−δn]が導入され、そこに含まれるパ ラメータの調節で飽和点経験値が再現される。この補正項の n についての最低 次数は2次であり、これはエネルギー補正項が3体力以上の寄与から生じてい ると仮定した事を表す。指数関数部分をnで展開すると、nについてさらに高次 の項が得られる。これらは対応する高次多体力の効果を取り扱う事に相当する

(29)

が、その処方はあくまで現象論的である事に注意する(高次効果が一定の比δ で順次取り入れられている)。本研究では、対称核物質に対して、これと同様の 補正項を導入する。よって本研究では、3体力エネルギーE3の中にα, β, γ, δ の 4つの調節パラメータを導入したことになる。

(2.39)

そして、式(2.6)により求められたE2E3を加えたものを以下のように全エネル ギーEとする。

(2.40)

ここで、式(2.39)中の調節パラメータα, β, γ, δ nに依存しないものとする。ま た、α とβ の値は対称核物質と中性子物質で共通の値であるとする。ここで

<H3>F と<H3R>F は、対称核物質と中性子物質におけるFermi gasの波動関数ΦF

の違いのために、同じ密度 n においても対称核物質と中性子物質で異なる値を とる事に注意する。式(2.39)右辺の最後の補正項は、対称核物質についてのみ導 入する。すなわち、中性子物質においては、APR の FHNC 計算と同様にγ = 0 とする。以上の条件の下で、Eが飽和点経験値を再現するように調節パラメータ を決定する。ここで、飽和点経験値とは飽和密度 n0、飽和エネルギーE0、非圧 縮率K、対称エネルギーEsymとする。ただし、Esymは中性子物質と対称核物質の 全エネルギーEのn = n0におけるエネルギー差Esym = E(n0, 0) − E(n0, 1/2)と定義す る。ここで、E(n, x)は陽子混在度がx = np/ n(npは陽子密度)である非対称核物 質の一核子当りのエネルギーである。本研究において、これらの飽和点経験値 としては、n0 = 0.16 fm−3, E0 = −15.8 MeV, K = 250 MeV, Esym = 30 MeV を採用した。

(30)

これらの値を再現するようなパラメータの値はα = 0.41, β = −0.22, γ = −1604 MeV fm6, δ = 13.93 fm3となった。これらの値については、第4章において再度議 論する。

図2は、対称核物質と中性子物質について得られた Eを密度 n の関数として表 したものである。図1と異なり、3体力エネルギーを含んでいる事に注意する。

比較のために、APR の結果も示した。この図から、対称核物質と中性子物質の Eはともに、広い密度範囲でAPRの結果を良く再現していることが分かる。ち なみにAPRの計算結果では、対称核物質の場合n = 0.32 fm−3においてエネルギ

図2:一核子当りの対称核物質と中性子物質の全エネルギーE。APR 結果も示す。

(31)

ーの勾配が不連続に変化し、それより高密度領域でのエネルギーは、低密度領 域から外挿した値より低くなっている。また中性子物質の場合も、n 0.20fm−3 において同様の傾向が見られる。APR によると、これはπ0凝縮のためである。

一方、本研究での計算では上で述べたように、このような効果は見られない。

ここで、APR の計算結果において、π凝縮相転移が重要な役割を果たしている 事に気づく。すなわち中性子物質の場合、π凝縮前の比較的低密度領域におい て、密度の増加と共にAPRのエネルギーの上昇率は本計算結果に比べて大きく、

実際に飽和密度における中性子物質のエネルギーは、本研究で得られた値の方 が低い。一方対称核物質の飽和エネルギーは互いに経験値を再現するように調 節されているため、APR における対称エネルギーは本研究における対称エネル ギーより大きい(~34 MeV)。これは比較的大きめの値であり、このまま高密度 領域へと外挿すると、対称エネルギーの更なる増加が予想される。しかし上記 の密度でπ中間子凝縮を起こす事で、APR の中性子物質と対称核物質のエネル ギーは共になだらかになり、結果的にAPRの振舞いと本研究によるEOSの振舞 いが似る事となっている。

得られたEOSを用いてTolman-Oppenheimer-Volkoff(TOV)方程式を解き、中性 子星の質量を計算した結果を図3に示す。中性子星構造の詳しい計算方法につ いては第5章で述べる。このときの最大質量は

2.22

M となった。ただし、図 の点線よりも密度が高い領域では、音速vsが光速cを超えて因果律の破れが起 きる。これを見るために、図4にvs

/c

を示した。因果律の破れが起きるときの 密度は

ρ

mc

~ 1.91

×

10

15

g/cm

3であり、

ρ

m0

< ρ

mcが成り立つ領域のみを物理的 領域と考えると中性子質量の最大質量は

2.16 M

となる。

(32)

図3:中心密度に対する中性子星質量。第2章で作成したEOSを用いた 結果を示す。点線は因果律の破れが起こる密度に対応している。

図4:物質密度に対する中性子星物質中の音速。第2章で作成した EOSを用いた結果を示す。

(33)

2.3 核子間相関を考慮した3体力エネルギー寄 与の考察

前節までで作成した核物質EOSはreasonableであるが、3体力からの寄与E3

については、前述の通り現象論的な扱いがなされている。前節ではその期待値 計算において粒子間相関は直接考慮されず、調節パラメータに繰り込まれた。

この節では、直接粒子間相関を考慮する事で、E3 計算にどの程度の影響が見ら れるかを検討する。特に2π交換項に対する期待値に論点を置く。

前述の通り、対称核物質における飽和点経験値を再現するために、E3 は低密 度領域においては負であり、高密度領域においては正であることが知られてい る。そして UIXポテンシャルの場合、2π交換項の期待値が負であることが期 待される[44,45]。

しかし、これまでの計算ではFermi gasを用いた期待値<H3>F/Nは正となる。

図5のダイアグラムで示されているように、<H3>F/Nは(a)直接項、(b)2粒子交 換項、(c)循環交換項から成っている。図において、「π」付きの実線はπ交換を

図5:<H3>F/N成分のダイアグラム。(a)は直接項、(b)2粒子交換項、(c)循環交換項に対応する。

(34)

図6:<H3>/Nに対する修正項のダイアグラム

表す。さらに矢印付きの曲線は交換相関(Slater関数)を表す。2π交換ポテン シャルのスピン・アイソスピン依存性によって、直接項の寄与は消え、2粒子 交換項が支配的となり、交換項の性質によりその符号は正になる(循環交換項 は負だが、その寄与は小さい)。そこで本研究では2.2節で式(2.39)中のパラメー タβを負にとることで、β<H3>F /Nの値が負になっている。

Refs. [44,45]では、対称核物質の<H3>F /Nに粒子間相関を取り入れることで、

その寄与が負になる事が指摘されている。またその際、テンソル相関が重要な 役割を果たす事も指摘されている。それゆえ、この節では中心力相関fCts(r)とテ ンソル力相関fTt(r)を<H3>F/Nに導入する。ここで、<H3>F/NはJastrow波動関 数による期待値<H3>/Nをクラスター展開した際の、粒子間相関hCts(r) (= fCts(r)

− 1)とfTt(r)について0次の3体クラスター項に相当する事に注意する。よってク ラスター展開の立場に立ち、粒子間相関について高次のクラスター項を考慮す る事で、近似の程度を改善する事が出来る。ただし、高次クラスター項は非常 に複雑なエネルギー表式となり、3体クラスター項に限っても多数の項が存在 する。そこで以下では、hCts(r)とfTt(r)について次数の低い3体クラスター項のみ に注目し、それらを修正項として加える事による効果を調べる。特に簡単のた め、2.1節でのE2の最小化で決定されたhCts(r)とfTt(r)を用いて、摂動論的に、2

(35)

π交換項寄与の期待値の3体クラスター項の効果を評価する。また、以下では 対称核物質のみについて考える。

まず初めに、図6(a)のような、<H3>/N の相関について1次の3体クラスタ ー直接項を考える。この図では、相関hCts(r)とfTt(r)は「f」付きの点線によって 表されている。粒子間相関について1次の3体クラスター直接項はhCts(r)を含む 中心力項と fTt(r)を含むテンソル項に分けることができる。これらの寄与の摂動 論的評価の結果を図7に示す。図7に見られるように、<H3>1d/N は負であり、

しかもテンソル項が支配的であることが分かる。しかし、これらの寄与は粒子 間相関の0次である<H3>F /N に比べてその絶対値は小さく、全エネルギー

<H3>F /N + <H3>1d/Nはn ≥0.04fm−3 ではまだ正である。

図7:対称核物質に対する1次のTBC直接項<H3>1d/N (「1D」)。<H3>1d/Nの中心力成 分(「1Dc」)とテンソル力成分(「1Dt」)も示す。「FG」は<H3>F/Nを表す。

(36)

図8:対称核物質に対する<H3> /NTBC修正項。図6(a)、図6(b)、図6(c)のダイアグラムに 対応する寄与は「1D」、「1E」、「2D」で表す。

次に、粒子間相関について1次の3体クラスター2粒子交換項(図6(b))と 粒子間相関について2次の3体クラスター直接項(図6(c))を考える。なお、

ここでは簡単のためにseparable diagramの寄与のみを考慮するだけに止める。こ れらの修正項を摂動論的に取り入れた結果を図8に示す。これらの3つの修正 項を加えると、<H3>/Nは低密度において負になる。(高次項からの寄与により、

大きく改善される。)しかし、やはり密度が約 0.2fm−3 より大きくなると、全エ ネルギーは正になる。一方、APRによるFHNC計算では、ここで考えている密 度領域全体で負となる。

(37)

以上より2π交換項エネルギーの期待値は、粒子間相関(特にテンソル相関)

を考慮する事で、負に寄与する可能性がある事が分かった。粒子間相関につい てさらに高次の項を加える事により、それが負である領域を広げる事が可能と なるかもしれない。また上記のような摂動論的方法ではなく、粒子間相関を考 慮した2π交換項を含む全エネルギーの最小化により、2π交換項のエネルギ ーがさらに負の大きな値となる可能性がある。

ただし、より現実的な2π交換項の寄与の取扱いのためには、その対になる 斥力項のより精密な構築が必要となるであろう。3体力エネルギーに対して粒 子間相関の効果を直接考慮すべき、という点では、斥力項の期待値の取扱いに ついても同様の指摘が可能である。しかし斥力項は、それが現象論的に作成さ れている事により、スピン・アイソスピン依存性がなく、その期待値への粒子 間相関の寄与は限定的なものとなる。これは、2π交換項と斥力項のアンバラ ンスを意味する。

例えばAPRの計算結果の場合、2π交換項のエネルギー期待値の寄与が密度 の増加と共に大きくなり、それがやがてπ中間子凝縮を引き起こす。実際、APR の計算結果において、2体力のみを考慮した場合に比べて、3体力を考慮した 方が、π中間子凝縮相への相転移密度が低くなる事が分かる。つまり、APR の 計算結果においてπ中間子凝縮を引き起こす主な原因は、2体核力ではなく3 体核力の2π交換項である。このような描像が正しいか、または3体斥力のス ピン・アイソスピン依存性が考慮されていないため、2π交換項の寄与のみ強 調されている可能性があるのか、今後の3体力研究の発展を待つ必要がある。

(38)

第3章

有限温度における一様核物質状態方程式

この章では、有限温度における一様核物質状態方程式の作成[41]について述べ る。有限温度においては、Schmidt らの手法[36]を使って自由エネルギーの最小 化を行い、それから熱力学的関係式を用いて各物理量を計算する。ちなみに、

以下でも主に対称核物質についての表式を挙げる。

3.1 計算方法

有限温度における一様核物質EOSの作成においては、Schmidt, Pandharipande の手法[36]を用いて一核子当りの自由エネルギーF を計算する。この手法では、

まずFを以下のように表現する。

(3.1)

ここで、E0TS0はそれぞれ温度Tにおける、一核子当りの近似的内部エネルギ ーと近似的エントロピーである。(この表式に現れる物理量には「近似的」とつ け、自由エネルギーから熱力学的関係式を用いて計算された物理量と明確に区 別する。)

SPの方法では、近似的内部エネルギーが有限温度Jastrow波動関数による核物 質ハミルトニアンの期待値として表現される。具体的には、絶対零度における ハミルトニアン期待値をクラスター展開した各クラスター項において、交換相

(39)

関を表すSlater関数の部分を、有限温度状態の交換相関関数に置き換える事で、

有限温度の近似的内部エネルギーを求める。ここで有限温度交換相関関数は、

絶対零度におけるSlater関数を求める際に単一粒子準位の占有確率がFermi面ま での階段関数として表されるのに対し、有限温度で単一粒子準位の平均占有確

率をFermi分布で記述する事によって得られる。ただし単一粒子準位の平均占有

確率を表すFermi分布を特定する単一粒子エネルギースペクトルは、有効質量が m*を用いて表現される。

SP はこの方法を確立させる際、極低温における Landau の Fermi 液体論と correlated basis functionの理論を融合させた。すなわち、Jastrow型波動関数から 出発した絶対零度に対する FHNC 計算の自然な拡張として有限温度核物質の自 由エネルギーを求める際には、励起状態ベクトルとして、単一粒子状態の占有 状態が異なるJastrow波動関数によって作られる、互いに非直交な基底(correlated basis)を 用 い た 記 述 が 期 待 さ れ る 。 こ こ で 各 基底 が 直 交 す れ ば 、 有 限 温 度

Hatree-Fock 法と同様の処方により、自由エネルギーに対する不等式を利用した

有限温度変分法が直接適用可能であるが、実際には基底の非直交性が問題とな る。そこでSPは、極低温のFermi液体において素励起は、独立した準粒子状態 として記述できるという Landau の Fermi 液体論を用いる。すなわち用意した

corelated basisは厳密には非直交であるが、独立した準粒子状態で表現される低

励起状態は、実質的に互いに直交すると考える。

以上の考察は、比較的低温状態において良く成り立つ。一方、近年Mukherjee とPandharipandeがSPの変分法を再考察し、Correlated basisの非直交性も考慮し つつ、SPの方法がより広い範囲で有効である事を、より一般的に証明した[37]。 本研究では、このようなSPの方法を用いる。

ただし、前章で述べた絶対零度における変分計算と矛盾しない形式で有限温 度の自由エネルギーを求める必要がある。つまり内部エネルギーの計算では、

絶対零度の場合と同様に、2体ハミルトニアン期待値の2体クラスター近似に

(40)

よる2体力エネルギーに、3体力エネルギーを付随させた表現を用いる必要が ある。そこでまず、E0Tを以下のように表現する。

(3.2)

ここで、E2Tは有限温度における H2の期待値であり、以下のようにして計算さ れる。まず、有限温度におけるJastrow型波動関数Ψ(Τ )を導入する。

(3.3)

ここで、fijは式(2.5)で定義された2体の相関関数であり、式(2.6)の最小化により 得られた値をそのまま用いる。すなわち簡単のため、粒子間相関における温度 効果は無視する。また、式(3.3)においてΦF(T)は有限温度におけるFermi gas波動 関数であり、単一粒子状態の平均占有確率n(k) により表される。

(3.4)

ここで kBは Boltzmann 定数である。また は単一粒子エネルギーであり、次

のように仮定する。

(3.5)

ここでm*は核子の有効質量である。また、式(3.4)の中にある近似的化学ポテン

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