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【一般報告】
過疎地域におけるフードデザート問題
―長崎県五島市岐宿町岐宿を事例に―
林田 太一 (教職大学院教科授業実践コース院生)
Ⅰ フードデザート問題と調査対象地域について
(1) フードデザート問題とは 現在,高齢化の進行に伴い,フードデザート問題(食の砂漠:
Food Deserts,以下,FDs問題とする)が日本で発生している。FDs問題については,「①社
会・経済環境の急速な変化の中で生じた『生鮮食料品供給体制の崩壊』と,②『社会的弱者の集 住』という二つの要素が重なったときに発生する社会的弱者世帯の健康悪化問題」という整理が されている1)。つまり,買い物環境の悪化という空間的要因2)と社会的弱者の集住や社会からの孤 立といった社会的要因がFDs問題に大きく関係している。また,FDs問題に類するものとし てFDs問題の二つの要因のなかでも特に空間的要因の改善を定義の中心としている「買い物弱 者」や「食料品アクセス問題」が挙げられる。
買い物弱者とは,経済産業省より,「流通機能や交通の弱体化とともに,食料品等の日常の買い 物が困難な状況に置かれている人々」と,定義されており3),食料品アクセス問題も同様に食料品 の買い物に不便を感じている人々を対象とする問題である4)。経済産業省の審議会「地域生活イン フラを支える流通のあり方研究会」の調査によると買い物弱者は,全国に推定で500万~600万 人存在する5)と報告されている。また,農林水産省が2017年3月に公表した「『食料品アクセス問 題』に関するアンケート」では,1,245の市町村のうち8割以上が対策の必要な課題と,回答して いる6)。さらに,この数年では,メディアにおいても,しばしば同様の意味で買い物難民として社 会的弱者の買い物環境の悪化が取り上げられており,日本の社会問題として行政のみならず,民 間も含めた対応が迫られている。
(2) 海外におけるFDs問題 本節と次節では,海外と日本におけるFDs問題について,
述べている。また,本節と次節については,岩間らによる著作7)を基に記述している。
FDs問題が社会問題として初めに認識されたのはイギリスである。本研究のキーワードであ る「フードデザート」はイギリス政府が命名した公的な用語である。イギリスにおけるFDs問
題は 1970~1990 年代半ばの規制緩和に伴う大型量販店の郊外出店が都心の生鮮食料品店等の廃
業と移転へとつながり,それによって,都心に生鮮食料品店の空白地域が発生したことを契機と している。そのような都市部から郊外への進出の流れにより,郊外へ経済的な理由から買い物に 行けない貧困層の人々は,都内の生鮮品の品揃えが悪く,商品の値段が高い雑貨店での買い物を 強いられた。これにより,貧困層の栄養事情悪化と健康悪化が発生している。つまり,イギリス におけるFDs問題は都心の生鮮食料店の空白地域発生という空間的要因と貧困層の除外という 社会的要因が重なった問題というように言い換えることができる。さらに,アメリカではこのよ うな空白地域にファストフード店が多数出店し,肥満問題を誘発している。そのため,イギリス やアメリカにおけるFDs問題の被害者は低所得者や交通弱者,シングルマザーなどであり,F
浦上地理 第 5 号 2018
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Ds問題を都心で生活するこれらの低所得者層に対する生鮮食料品供給システムの崩壊とそれが もたらす健康問題とすることができる。
しかし,1990年代末以降にイギリスでは,政府の主導で,先駆的な研究が進められており,主 要な地方都市を中心にFDs問題の研究蓄積が進行している。それらの研究において,食料小売 店が近くに存在していることの重要性を示しているため,地理学の視点からも研究の有効性が指 摘されている。地理学の視点からFDs問題について考察することは,学術的に有意義である。
また,そのような視点から行政と民間企業が結びついた対策事業などがFDs地域などで行われ ている。
(3) 日本におけるFDs問題 このような,海外のFDs問題の状況に対して,日本におけ るFDs問題は,2000年頃から顕在化した。イギリスやアメリカと同様に大型店の出店規制が緩 和されたことが,その一因である。しかし,日本において,特筆すべき点は,高齢化や地方の過 疎化による社会的弱者の増加である。また,社会的弱者のなかでも,特に,高齢者の生活環境悪 化が深刻となっている。その範囲は日本全国に及んでいる。そのため,日本におけるFDs問題 の対象は大都市などの都市部だけに限らず,都市の縁辺部や中山間地域,島嶼部のような過疎地 域にも及んでいる。そのため,日本におけるFDs問題は図 1に示されるように,対応必要性の 背景も発生する都市の規模によって異なっている。
図 1 買い物弱者対策必要性の背景 資料:『食料品アクセス問題』に関する 全国市町村アンケート調査結果 注:複数回答あり
大都市:政令指定都市及び東京23区 中都市:人口5万人以上の市(大都市を除く)
小都市:人口5万人未満の市町村
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また,日本におけるFDs問題は健康悪化が,英米と比較してあまり深刻化していない。むし ろ,日本においては生鮮食料品店までのアクセスの不便さや社会的弱者の社会的な孤立という点 でFDs問題や買い物弱者が捉えられている。そのため,生鮮食料品店が集落周辺に存在しない 場合でも,自動車などの交通手段を有する人々が多い場合には,FDs問題の発生している地域 として認識されない。また,家族や地域コミュニティが社会的弱者と密接に関わることで,社会 的弱者の支援が行われている場合もFDs問題が出現しづらくなる。そのため,FDs問題は社 会的要因と空間的要因の両要因から事例を捉えることが必要となる。
(4) 調査対象地域について 本論文では,長崎県の西部,五島列島の南部に位置する福江島 を主島とする五島市の岐宿町で調査を行った。五島市とは,2004年8月に福江市,南松浦郡富江 町・玉之浦町・三井楽町・岐宿町・奈留町の1市5町が合併し,誕生した五島列島の福江島全域 とその周囲の島々を範囲とする自治体である。そのなかでも,今回の調査では,福江島の北部に 位置する岐宿町岐宿を対象としている。
五島市は,農業が盛んに行われており,なかでも,稲作や肉用牛の畜産が盛んである。特に肉 用牛は,「五島牛」という名称で,地域独自のブランドとして,売り出されている。また,近年は 観光業にも力を注いでいる。特に,世界遺産登録推進事業として,「長崎と天草地方の潜伏キリシ タン関連遺産」のPR事業を行っている。これには,五島市から「久賀島の集落」と「奈留島の 江上集落」が構成遺産として,世界遺産登録の候補となっている。これらの構成遺産が世界遺産 として,登録されると,今後,観光客の増加が期待できるだろう。
五島市の人口は年々減少しており,岐宿町も同様である。岐宿町の人口のピークは 1950 年の
10,021人であり,2015年には,3,459人まで減少している8)。また,少子高齢化が深刻化してお
り,2015年の高齢者数は,1,344人となっており,高齢化率は,38.8%まで高まっている9)。 本研究では,少子高齢化や地域の過疎化が深刻化している長崎県五島市岐宿町岐宿を事例に,
五島市
新上五島町
図 2 長崎県五島列島
基図:国土地理院地理院地図 注 :筆者作成
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過疎地域におけるフードデザート問題について明らかにした。また,調査として,2017 年11月 中旬と12 月中旬に住民や食料品店の責任者,行政の担当者から聞き取りや現地の巡検を行った。
それらの現地調査によって,岐宿におけるFDs問題改善のための対応策が明らかになった。
Ⅱ 長崎県五島市岐宿町岐宿におけるFDs問題
(1) 岐宿の買い物環境の変化 本節では,長崎県五島市岐宿町岐宿(以下,「岐宿」 と記載)
における買い物環境の変化を,FDs問題の発生前・発生時・改善,という 3 つの時系列で述べ るものとする。また,本論文で取り扱う食料品店は生鮮食料品が入手できる店舗とし,岐宿の南,
国道384 号線沿いにあるコンビニエンスストア「ポプラ」は生鮮食料品の取り扱いがないため,
本研究の対象から除いている。
a 2016 年 11 月以前 岐宿には,二つの食料品店があ った。一つ目は図のA点に立地していた「出口ストアー 岐 宿店」である。この店舗は集落のほぼ中心に位置し,住民 へ,買い物先に関する聞き取りを行うと,「出口ストアー」
という名称がでることから,この集落の買い物の中心であ ったことが想像される。少々割高な商品もあったが,住民 らの不満は特に聞かれなかった。また,週に数回,出口ス トアーの移動スーパーが集落内を巡回しており,それまで の買い物弱者対策の中核を担っていた店舗であった。しか し,2016年11月に,閉店し,それと同時に移動スーパー も営業が終了した。これを契機に,この集落の買い物環境 は急速に悪化した。二つ目は図のB点にある「Aコープ」
である。この店舗は,集落の外れに位置し,2014年に閉店 している。
図 3 五島市 と岐宿町
基図:国土地理院 地理院地図 注 :筆者作成 岐宿支所
五島市役所
表 1 五島市・岐宿町の人口動向
注 :資料を基に筆者作成。
資料:五島市統計書(平成28年版)
五島市 岐宿町
1955年 91,973 9,978 1960年 87,232 9,329 1965年 78,642 8,285 1970年 68,649 6,889 1975年 63,410 6,062 1980年 60,947 5,577 1985年 57,736 5,167 1990年 54,143 4,718 1995年 51,295 4,456 2000年 48,533 4,310 2005年 44,765 3,979 2010年 40,622 3,659 2015年 37,327 3,292
単位:人
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資料: 五島自動車株式会社「岐宿役場 前」時刻表
注 : 資料を基に筆者作成。
運休条件 時刻 高校の補習のない日 6:49 7:01 7:23 8:18 9:20 10:50 13:00 14:10 15:45 日曜・祭日、休校日 16:50 17:50 日曜・祭日 18:35 表 2 岐宿におけるバスの時刻表 また,食料品の価格は五島市中心部(以下,旧福江市内 と記載)にある食料品店の方が,安価 であったため,市内へと,通院などの用事がある者や自家用車を持つ者は,旧福江市内の食料品 店で買い物を行っていたことが明らかになっている。しかし,この集落で生活する人々の食料品 供給の中心を担っていた2 店舗の閉店は,高齢者を始めとする多くの住民にとって,大きな痛手 であった。
b 2016 年 12 月~2017 年 11 月 この時期は本研究対象地域において,FDs問題が最も深刻 に顕在化した時期である。しかし,住民は近所や家族の援助によりどうにか対応していた。この 時期の買い物先は旧福江市内の食料品店である。旧福江市内には,規模が大きい食料品店が 3店 舗存在している。自家用車を所持している住民は片道 15
分10)ほど運転し,中心部で買い物をしていた。一方で,運 転が困難もしくは,不可能な住民は大きく二つの方法で食 料品を入手していた。
一つ目は,バスによる移動である。岐宿から旧福江市 内へは1日に12本の便がある。自力の交通手段がない住 民はこのバスで旧福江市内へと向かっている。また,バ スの利用者には,病院への通院者もおり,通院のついで に買い物を行う住民もいた。しかし,往復で 1300 円11) ほどかかるバスの運賃は年金を主な収入源としている高 齢者には,重い負担といえる。また,今回,聞き取りを 行った高齢者のなかには,お茶の葉を購入するためだけ に,中心部へ買い物に出かけていた者も存在し,自力の 交通手段を持たない住民にとって,いかに深刻な環境で
図 4 岐宿におけるフードデザートマップ 基図:国土地理院 地理院地図
注 :中心をそれぞれA地点,B地点とした,半径500mの円。筆者作成。
A地点
B地点
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二つ目は,近所の自家用車をもつ住民との乗り合わせである。これは,集落内の互助機能が住 民たちに存在していたことを明らかにしている。特にFDs問題は社会的弱者となってしまった 者への住民の補助や助け合いが大切となるため,このような助け合いはFDs問題の現状を捉え る際に,注目すべき過疎地域が有する機能の一つである。その他に,農業・漁業従事者からの食 料品の提供(おすそ分け)があった。
FDs問題が顕在化したこの時期は自力の交通手段を持つ者とそうでない者という,交通手段 を有するかという点で生活に欠かすことのできない行為である買い物の身近さに大きな差があっ た。しかし,そのような状況において,交通手段を持たない住民にとって,自家用車をもつ住民 からの支援が大きな助けとなっていた。これは,本研究対象地域である岐宿が互助機能を有して いることを証明している。
c 2017 年 12 月以降 これは,現在のことである。集落内に食料品店の無い状態であったが,
2017年11月17日に旧福江市内に店舗を持つ「ダイキョーバリュー 福江店」の「出前ショップ
12)」として,「ダイキョーバリュー 岐宿店」が以前Aコープのあった図 1のB地点に開店した。
この出店は,食料品店の空白地域となっていた岐宿の買い物環境を大きく改善させた。また,こ の店舗の経営は,一般的な食料品店と異なる。この出店の経緯と経営については次章でその詳細 を述べる。この出店に関しては聞き取りの際に,ほとんどの住民が感謝や喜びの言葉を口にして おり,今後,岐宿において,その位置づけがさらに大きなものとなる可能性を感じた。
図 5 五島市における岐宿以外に位置する主な買い物先(2018 年 1 月時点)
基図:国土地理院 地理院地図
注 :円は,中心を岐宿支所とし,半径は内側から5km・8km・10kmとしている。
買い物先の選定は,新聞の広告を基に行った。筆者作成。
5km 10km 8km
シティモール
エレナ 福江店 バリューストアー
福江店 岐宿支所
バリューストアー 三井楽店
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このように,岐宿では,それまで集落の食料品供給を担っていた店舗の撤退による買い物環境 の悪化と食料品店の出店による買い物環境の改善がなされている。そのような変化のなかで,特 にFDs問題が深刻化していた時期では,住民の互助機能は,FDs問題を乗り越えるために,
必要な機能の一つとなっていたことが住民の聞き取りによって明らかになった。しかし,そのよ うな助け合いだけでは,FDs問題は解決されない。やはり,改善のためには,買い物場の誕生 が大きな力を有している。次章では,岐宿に新たに開店した「ダイキョーバリュー 岐宿店」の 詳細を述べるものとする。
(2) ダイキョーバリューストアー岐宿店の現状と課題 本節では,先述したように,「ダイキョ ーバリューストアー岐宿店」に関して述べていく。
図 6 ダイキョーバリュー岐宿店外観 注:筆者撮影
図 7 ダイキョーバリュー 岐宿店間取り
注:面積は,縦11m×横17m,敷地面積60坪,売り場面積44坪。筆者作成。
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岐宿に開店することになったきっかけは 2017 年の年明け頃にバリューストアー福江店へ届い た,約700名からの署名である。この署名は地域の団体である「岐宿の町を良くする会」が主導 して行っており,この署名が住民の声となり,岐宿店出店を決める大きな要因となった。しかし,
民間企業のため,採算性が確保できなければ,大きな損失となってしまい,営業を続けることが できない。それでは,再びFDs問題が深刻化してしまう。そのようにならないように,損しな い店舗経営を模索した結果,開店時期が2017年11月となった。
この店舗の経営の特徴は岐宿店が在庫管理を行わないという点である。つまり,五島市内にお いて,岐宿店は拠点である福江店の売り場の延長線上にあるということである。そのため,岐宿 店には,一般的な食料品が設けるバックヤードを設けていない13)。これは「出前ショップ」という 店舗の立ち位置が関係しており,1日に3回,福江店から岐宿店に商品を入荷している。それに加 え,消費者の要望があれば,岐宿店に置く予定のない商品も岐宿店まで配送してくれる。このこ とから,岐宿店は,旧福江市内の福江店という拠点を持っていることがその営業の大きな前提と なっている。現在,売り上げは予算通りに推移しており,月商はおおよそ 1,000 万円と,店舗の 採算面は良好である。
しかし,その一方で,人手不足という深刻な課題を抱えている。その対応のために,現在,五 島市内の他店舗から従業員を派遣し,不足している人員を補っている。これから,岐宿は人口の 高齢化がさらに進行することが予想されるため人員不足は,これから先も深刻な課題となり続け るだろう。
また,当店舗の責任者である店長にこれからの展望や目標を尋ねたところ,岐宿店の地域にお ける立場の向上とサービスの拡大の二点について述べていた。一つ目は地域における立場として,
岐宿店を地域の中心となるようなコミュニティスペースにすることである。その中心となるのが,
「イートインコーナー」である。この空間は岐宿店内で調理しているうどんなどを食べ,販売し ているコーヒーなどを飲む,飲食ができるスペースである。このスペースについて,店長は住民 が井戸端会議を行うような身近な場所としての利用から,ゆくゆくは,老人会を行うような場に したいと述べていた。しかし,現段階では,あまり消費者の利用率は良くない。高齢者の多い住
図 8 福江店と岐宿店の関係図 注:筆者作成
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民にとって,居心地の良い空間となるように,外から見えないようにするためのカーテンやテレ ビを設置するなど,利用者増加のための工夫を行っているが,高齢者の多い住民に定着していな いのが現状である。
二つ目のサービスの拡大とは,岐宿店限定の会員カードを用いたサービスの導入である。具体 的には,配達サービスである。これは,身体的な障害などで,直接店舗まで来ることのできない 住民に対応したサービスである。このサービスは他のFDs問題を抱えた地域の食料品店におい てもみられる。その多くは,電話などで希望する商品を利用客から聞きとり,店舗から利用者宅 へ配達する,という形式がとられている14)。
本節で,述べたようにバリューストアー岐宿店は,旧福江市内に福江店という拠点を持ち,在 庫管理を福江店と一括化することによって,その採算性を高め,金銭面での持続可能性を示して いる。その一方で,従業員の確保という,今後岐宿店を運営していくうえで,深刻な課題を抱え ている。この課題克服のためには,長年,地域に根付いている住民のみならず,移住者など,広 い範囲の人々を雇用の対象とすることが必要となるだろう。また,人員不足は,今後,配達など の人手を要するサービスを拡大するうえでも克服しなければならない。
本節で,述べたバリューストアー岐宿店の出店は,岩間ら15)が述べたFDs問題への対応策の類 型において「アクセス改善型」に当てはまる。次節では,この類型について述べ,類型を通して,
バリューストアー岐宿店について考察を深める。
(3) FDs問題への日本における対応策の類型 現在,FDs問題の対応策として,自治体 で行われている事例の多くは小売店の出店などの買い物環境の改善,つまり空間的要因の改善で ある。しかし,FDs問題の対応策には,地域のコミュニティを活用した社会的要因に注目した 対応策もみられる。そのような対応策は「共食型」・「配達型」・「アクセス改善型」という類型を 行うことができる。前節で,述べたように本節では,これらの類型からバリューストアー岐宿店 について考察を深める。また,本節における類型は岩間ら16)が述べているものに基づく。
a 「共食型」 ここでの,共食とは,「誰かと食事を共にする」という意味である。この支援 は自治体や社会福祉協議会,地域ボランティアが主導して行っていることが多い。この活動は,
地域に暮らす高齢者が引きこもってしまうことを防止し,月に数回行われる会食などを通して,
高齢者と地域住民のつながりを形成するということがポイントとなっている。また,活動も月に 数回から年に数回と,幅広く,支援を行う側の金銭的な負担が比較的少ないため,活動の継続が 行いやすいという利点を持っている。
b 「配達型」 これは,配食サービスや買い物代行,宅配サービスが当てはまる。これらの 支援の対象は,自力の交通手段をもたない社会的弱者や単身で生活する高齢者である。これらの 活動は「共食型」のように,自治体や社会福祉協議会,地域ボランティアが行っている事例が多 い。また,買い物代行や宅配サービスは地域のスーパーや大手業者も「御用聞き」や「ネットス ーパー」という形で参入が始まっている。これらのサービスは利用者個々の需要に合わせた提供 が可能であり,高齢者の安否確認という買い物以外の面でメリットがある。しかし,サービスが 個々の住民に沿ったものであるため,採算のとれたサービス提供が困難となりやすい。採算性向 上のために,補助金などでその赤字分を補っているが,その補助金が終了した後の採算性や支援 を行うための人員の確保など,長期的な支援継続のためには,多くの課題が挙がっている。
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c 「アクセス改善型」 これは,買い物場の開設や移動販売,買い物バス・タクシーが当て はまる。これらの支援の対象は住居の周辺に食料品店が立地していない人々や,食料品店までの 移動手段を持たない人々である。これらの活動は地域の事業者や自治体,NPO団体などの地域 の住民らによって行われている。この支援では,地域ビジネスの活性化や地域コミュニティの拠 点づくりという町全体の活性化につながるという利点がある。しかし,顧客の確保などの経営面 での困難さがあり,「アクセス改善型」には,「配達型」と同様にその採算性の確保に難しさがあ る。また,買い物バスやタクシーは,運賃や経路の選定で利用者のニーズと合致させ,利用者の 安定的な確保が求められる。
この類型は,社会的要因の改善に重点を置く,「共食型」と空間的要因の改善に重点を置く,「配 達型」と「アクセス改善型」というように大きく分けることができる。しかし,「配達型」と「ア クセス改善型」も,高齢者の安否確認や買い物を通した住民同士の交流という取り組みを行って いる事例も多く社会的要因の改善にも一定の効果を有している。
この類型を通して,前述したように,本研究事例は,「アクセス改善型」に当てはまる。また,
採算性を確保しているという点で,FDs問題への対応策として,本事例がもつ有効性を示して いる。しかし,拠点と分店という関係性を土台にした店舗は,他地域への応用に限りがあるだろ う。なぜなら,拠点となる店舗に一定以上の規模が求められるからである。本研究で聞き取りを 行ったバリューストアーもフランチャイズ契約などによってチェーン展開している企業である。
そのため,会社として,大きな基盤が存在している。そのため,本事例のような運営方法が可能 である。同じように地域の小さな食料品店が同じ方法で店舗を経営するというのは,少々困難で ある。そのため,本事例や他地域の事例にも見られるように,今後,一定以上の大きさの基盤を もった店舗が,分店を出店し,FDs問題の改善に影響を及ぼすようになるだろう。また,これ まで過疎地域への出店を避けていたような企業が顧客獲得の良い機会と捉えるようになるだろう。
その一方で,NPO法人など,地域住民を中心とした団体が,買い物環境を改善する事例も存在 する。地域住民が中心の団体は,地域の細かな情報に精通しているため,より地域の問題に寄り 添ったアプローチが可能となる。今後,住民個々への「配達型」のような事業を展開する予定の 本研究対象事例も地域住民とのより強固な連携が必要となるだろう。
FDs問題における他地域の事例に,共通してみられるのは,買い物場がただ単に消費の場だ けでなく,従業員と客,客同士という人と人の関わり合いを新たに生み出していく,失われかけ たコミュニティの再構築の場となる点である。本研究対象地域である岐宿においても,閑散とし た町全体のなかに,集落内で買い物ができるという喜びや人々の活気を感じた。前述したように,
今後,コミュニティの中心となるための事業を行うバリューストアー岐宿店が,その採算性を保 ち,住民個々を対象としたどのようなサービスを行うのか,注目したいと思う。
Ⅲ おわりに
本論文では,過疎地域におけるFDs問題の発生とその改善について,五島市岐宿町を事例に 述べた。本研究を通して,FDs問題が付近の買い物先を無くした社会的弱者の排除問題だとい うことが改めて認識できた。また,FDs問題に苦しむ集落において,集落内に食料品店が 1店 舗できるということが問題改善への大きな一歩となることを実感した。しかし,食料品店の開店
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は,あくまでも,買い物環境という空間的要因を改善しただけである。FDs問題は,空間的要 因と社会的要因の二つの要素を捉えることが重要である。特に,社会的要因は,高齢者などの社 会的弱者を指すため,将来の人口変化まで見据えることが,これから少子高齢化が進行していく,
日本の各地域に必要な視点だろう。そのため,食料品店の誕生で満足するのではなく,今後10年,
20年先を見据えた持続可能なFDs問題への対応策を考えることが求められるようになるだろう。
そのような,長期的な視点を持った対応策が提示されることに期待したい。
また,本研究で経験した,課題発見とその調査・考察という過程は,私が今後,教員となり,
様々な授業を生成していくうえで,より学問的な視点として,役立つだろう。本研究で身につけ た視点を活かしていきたいと思う。
本研究では,FDs問題の事例として,主にバリューストアー岐宿店について着目した。しか し,本来,FDs問題は民間と行政が協力して,その改善に取り組む事例が多い。しかし,本研 究では,民間に焦点をあて,行政への視点が不足していた。この点は,本研究の反省すべき点で ある。
[追記] 本研究にあたって,突然の訪問にも関わらず回答してくださった岐宿支所や岐宿社会福祉協議会 の方々,聞き取りに快く応じてくださった岐宿の住民の皆様,そして,業務の忙しい年末に時間を割いてく ださったバリューストアー岐宿店の店長様,多くの方々にご協力をいただいた。これら多大なご協力に対し て厚く御礼を申し上げたい。なお本稿は2018年1月に長崎大学教育学部に提出した平成29年度卒業論文 を一部修正したものである。
注
1) 岩間信之ほか『改訂新版 フードデザート問題 無縁社会が生む「食の砂漠」』農林統計協会,2013,1
頁。
2) 本論文における「空間的要因」とは,生鮮食品を入手することのできる食料品店までどれほどの距離であ
るかという点に注目する。
具体的な目安としては,健康な高齢者が休むことなく歩くことができる片道10分,距離にして500m(往
復1km)とする。
3) 地域生活インフラを支える流通のあり方研究会『地域生活インフラを支える流通のあり方研究会報告書』
経済産業省,2010,32頁。この推計は,アンケートで明らかになった「買い物に不便を感じている人の割合」
と「60歳以上高齢者数」の乗法である。
4) 薬師寺哲郎『超高齢社会における食料品サクセス問題-買い物難民,買い物弱者,フードデザート問題の
解決に向けて-』ハーベスト社,2015,2頁。
5) 前掲3)。
6) 農林水産省『「食料品アクセス問題」に関する全国市町村アンケート調査結果』農林水産省,2017,5頁。
7) 前掲1)8-12頁。
8) 五島市『五島市統計書⦅平成28年版⦆』五島市,2016,10-11頁。
9) 岐宿まちづくり協議会『きしくまちづくり新聞 第4号』2017,3頁。
10) 筆者の実測やインターネット上の経路検索の目安時間より算出。
11) 聞き取りを基に算出 12) 「分店」と同義である。
13) ここでの「バックヤード」は,在庫を管理する倉庫を指す。
14) 前掲1)135-140頁。
15) 前掲14。
16) 前掲14。