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ゼロ金利政策と自然利子率について

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(1)

ゼロ金利政策と自然利子率について

著者 千田 隆

雑誌名 同志社商学

巻 70

号 6

ページ 809‑825

発行年 2019‑03‑15

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000048

(2)

ゼロ金利政策と自然利子率について

千 田 隆

Ⅰ 問題の所在

Ⅱ 動学的レバレッジ解消モデル

Ⅲ 残された課題

Ⅰ 問題の所在

流動性の罠,すなわち政策金利をゼロに引き下げても景気が回復しない状態は,わが 国では1990年代後半から,欧米諸国でも2008年からの世界金融危機以降悩まされ続け ている問題である。こうした状況における解決策が多くの経済学者によって提案されて おり,それらには,例えばEggertsson­Woodford(2003),Ball(2006),Eggertsson(2011),

DeLong­Summers(2012),Krugman(2013)がある。これらの論文は財政政策の重要性 について洞察し,また拡張的財政政策による公的債務増大の問題にも言及している。

しかし,DSGEモデルを用いる研究者から,こうした手法はミクロ的基礎付けが不十 分でアドホック(ad hoc)な前提に基づいていると批判されている。DSGEモデルによ らない論文はアドホックな点が残るため学術雑誌に採用されるのが難しい状況である。

例えば,Ramey(2012)はDeLong­Summers(2012)の簡潔なモデル分析へのコメント の中で「私はDSGE モデルを不正確に特定化された直観的なアイディアに基づくモデ ルに置き換えることを改善だとは思いません。まさに,不正確に特定化された直観的な アイディアに基づいていることがこの論文の欠陥だと私は思います。」と述べてい

1

る。

また,Krugman(2016)は現状を嘆いて,「論文の基本的な洞察をアドホックで簡潔な 形で提示することは,論文の討論者には許される。しかし,論文の執筆者に同様のこと が許されることはない。」と述べてい

る。Blanchard(2016)は,マクロ経済学における2

DSGEモデルの役割について詳細かつ明快にまとめている。

こうした批判に応える形で,従来のアドホックなモデルにミクロ的基礎付けを与える という研究が進んでいる。例えば,Krugman(1998)は,ミクロ的基礎付けのあるモデ ルを用いて,流動性の罠という状態が生じうることを示した。また,従来のモデルをミ

────────────

I do not think that replacing them with a model based on imprecisely specified intuitive ideas is an improve­

ment. Indeed, I see that as a disadvantage of the approach(Ramey, 2012, p.281).

2 [H]e noted that he was allowed to present the basic insight more simply only because he was the discussant, but that the author of the paper wasn’t allowed to do the same thing(Krugman, 2016).

809)203

(3)

クロ的基礎から説明しようという書籍として,Woodford(2003),Walsh(2017),およ びGali(2015)が出版されている。

本稿の目的は,従来のアドホックなモデルの問題点として指摘されている,自然利子 率の外生性に対応することである。特に,アドホックに与えられていた自然利子率の動 きを内生変数としてモデルに取りこむEggertsson-Krugman(2012)の研究を検討する。

Eggertsson-Krugman(2012)は自然利子率がマイナスになる理由を明瞭な形で述べてお り,応用範囲は広いと考えられる。

Ⅱ 動学的レバレッジ解消モデル

本節では,Eggertsson-Krugman(2012)が,レバレッジ解消モデルをどのように動学 化しているかを述べる。

Ⅱ-1.家計

家計は借手主体と貸手主体の2つに分けられる。家計全体の世帯数を1,借手主体数 を$*$$,借手主体数を$.$$!$とする。まず,借手主体(borrowers)は

##%

/$#

"

"/0*# $"/*

!#*# $,/*

' (

を制約条件

!/$ $#-# /!$*$

!/!$#&/"/*!&/(/,/*!&

%/*!-"+-!&

)/*!-"+-!&/$/*#&/'/*

の下で最大化する。ここで,!/は債務(!/がプラスのとき債務を負っている),-/*は 銀行借入の名目借入利子率,"/*は借手主体の消費,,/*は借手主体の労働量,(/は実 質賃金,および"は借手主体の割引率!#%"%$"である。また,%/*!-"は銀行から借手 主体に支払われる配当,)/*!-"は非銀行企業から借手主体に支払われる配当,-は各企 業に付けられたインデックスである。$/*は銀行に対する詐欺行為で得た収入,'/*は 租税である。

つぎに,貯蓄主体(savers)は

##%

/$#

"

!/0.! ""/.

!#.! ",/.

' (

を制約条件

204(810 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(4)

#7% $$1# 7!$.$

#7!$!)7"76$)7+7076$+

&76!1".1$+

,76!1".1$)7%76!)7*76

の下で最大化する。ここで,#7は預金(#7がプラスのとき預金を保有している),17. は銀行預金の名目預金利子率,および!は貯蓄主体の割引率で#'"'!'$を満た す。

借入金利と預金金利との関係は

$$17-% $$1# 7.$

$$%7

! " (1)

で表わされ,金利差%7

%7%%!7

)7&(7

)7&-2

% &

2%01/0,359 (2)

で与えられる。ここで,!7は貯蓄主体個人の債務であり,(7は経済全体の総債務であ る。金利差%7は-7"!7

)7および47"(7

)7について増加関数,すなわち%-(#および

%4(#であり,また簡単化のために%-9%#と仮定する。代表的個人の債務と経済全 体の総債務は等しくなるが!-7%47",一階の条件には影響を与える。このモデルにお けるショックは,安全であると考えられる債務水準-2の-01/0から-359への予想外の 下落である。安全であると考えられる債務水準の下落により,金利差%7の上昇と借入 金利の上昇がもたらされ,その結果,借手主体は債務返済を始めるようになる。

借手主体と貸手主体のラグランジアンはそれぞれ

'#-%$#*

7%#

# "78-# $"7-

!$-# $07- ,

$#7- !7! $$1# 7!$.$

$$%!7!$

)7!$&(7!$

)7!$&-01/0&359

% &

% &

!7!$!)7"7-$)7+707- (

$+

&7-!1".1$+

,7-!1".1$)7%7-!)7*7-)'

および

'#6%$#*

7%#

# !786! ""76

!$6! "076 ,

$#

76

#

7

! $$1 !

7!$.

"

#

7!$

$)

7

"

76

!)

7

+

7

0

76

! +

&

76

! 1" .1!

+

,

76

! 1" .1!)

7

%

76

$)

7

*

76

( )'

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 811)205

(5)

である。

借手主体のラグランジアンはインデックスを変更すると

&4,$#4(

)$4

"

!)!45,! ""),

!#,! "0),

*

#"), !)! $#1! )!$. "

$#$!)!$

()!$%')!$

()!$%,01/0%236

# $

# $

!)!$!()"),#()*)0),

&

#)

%),!1".1#)

+),!1".1#()$),!())),'%

と表わされ,この一階の条件は

&&4,

&"4,$5-,! ""4,

!"4,(4$# (3)

&&4,

&04,$!#0,! "04,

#"4,(4*4$# (4)

&&4,

&!4$"4,#!#4"4#$, !!$#14."!$#$4"!!$#14."!4$,$ (4

& '

$# (5)

である。(3)より"4,$5-,!"4,"

(4 となり,これを(5)に代入して次式を得る。

5-,!"4,"

(4 $!#45-,!"4#$,"

(4#$ !$#14."!$#$4"#!$#14."!4$,

(4

& '

すなわち

5-,!"4,"$!#4(4

(4#$!$#14,"5-,!"4#$,"#!#45-,!"4#$,"!4

(4

$#14,

$#$4$,(4

(4#$

$!#4$#14,

!4#$5-,!"4#$,"#!#45-,!"4#$,"!4

(4

$#14,

$#$4

$,

!4#$ (6)

である。また,(3)と(4)より!#0,!04,"#5-,!"4,"*4$#,すなわち

*4$#0,!04,"

5-,!"4," (7)

を得る。

206(812 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(6)

貯蓄主体のラグランジアンの一階の条件は '$0/

'!0/%1)/!!0/"$$0/%0%#

'$0/

'+0/%!&+/!+0/"!$0/%0&0%#

'$0/

'"0%$0/!"#0$0$$/ !$$,0*"%#

であり,同様にして

1)/!!0/"%"#0$$,0*

!0$$1)/!!0$$/" (8)

&0%&+/!+0/"

1)/!!0/" (9)

を得る。

Ⅱ-2.企業

消費財はDixit-Stiglitz型で

!0# %

#

$

)0!-"#!$#*-

# $#!$#

である。ここで,-は各消費財に付けられたインデックスである。総企業数は1であ り,各企業は1種類の財を生産する。第-財の需要関数は

20!-"% .0!-"

%0

! "!#

'0

である。第,企業は利潤

(0!,"%!$!%".0!,"20!,"!%0&0+0!,"

を最大化する。ここで,%は補助金で,後の記号の簡単化を目的として導入している。

価格調整はCalvo型であり毎期に確率!$!!"で価格調整が行われ,変更後の価格は

.0"に設定される。また,企業は貯蓄主体によって所有・経営されているものとする。

各企業は

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 813)207

(7)

&%'

(*" "* .

$%*

#!!""$!*$$)!$!%"(*"&$ (*"

#$

# $!#

!#$%$&$ (*"

#$

# $!#

% &

'+ )

(,

*

を最大化するように(*"を設定する。一階の条件より

"* .

$%*

#!!""$!*$$)#$&$ !$!%"!$!#"(*"

#$

# $!#

$%$#(*"

#$

# $!#!$

% &

$

#$

'+ )

(,

*%#

"*.

$%*

#!!""$!*$$)&$%$#(*"

#$

# $!#!$

%"*.

$%*

#!!""$!*$$)&$!$!%"!#!$"(*"

#$

# $!#

!(*""!#!$

!(*""!# %

"*-

$%*

#!!""$!*$$)&$!$!%"!#!$"#$#

"*-

$%*

#!!""$!*$$)&$%$##$$$#

(*"% "*-

$%*

#!!""$!*$$)&$%$##$$$#

"*-

$%*

#!!""$!*$$)&$!$!%"!#!$"#$#

%

"*-

$%*

#!!""$!*+')!!$)"#$#&$ #

#!$%$

"*-

$%*

#!!""$!*+')!!$)"!$!%"#$#!$&$

よって

(*"

#*%

"*-

$%*

#!!""$!*+')!!$)"! "##$*#

&$ #

#!$%$

"*-

$%*

#!!""$!*+')!!$)"!$!%"! "##$*#!$

&$

(10)

を得る。Calvo型モデルでは物価水準は

#*% !/$!!"!(*""$!#$!#*!$$!#0$!#$

すなわち (*"

#*% $!!!*!$$#

$!!

% &$!#$

(11)

と表わされる。(10)と(11)によって物価水準の動きが説明される。

208(814 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(8)

Calvo型モデルでは,全体の$!!の割合は価格を/1"に設定し,残りの!は価格を 前期のまま変更せず/1!."%/1!$!."となる。このとき,価格のばらつき!1

!1#% /1!."

&1

# $!"

,.%!$!!"/1"

&1

# $!"

$!% /1!$!."

&

# $!"

,.

%!$!!"/1"

&1

# $!"

$!% &1!$

&1

/1!$!."

&1!$

# $!"

,.

%!$!!"/1"

&1

# $!"

$!&1!$

&1

# $!"% /1!$!."

&1!$

# $!"

,.

%!$!!"/1"

&1

# $!"

$!!1!$"1" (12)

となる。

Ⅱ-3.集計

集計された財の制約条件は

)1%#+"1+$#0"10$$1 (13)

であり,ここで$1は政府支出である。集計された労働量は -1%#+-1+$#0-10%%

#

$

21!."%%

)1/1!."

&1

# $!"

,.%)1!1 (14)

となり,ここで-1は総労働供給であり,また生産関数は21!."%-1!."とする。

本稿では,借入主体は株式を所有せず,企業からの配当や詐欺行為からの収入は全て 貯蓄主体に分配されるとする。借入主体の制約式に%1+!."%*1+!."%#1+%#を代入する と

!1

&1% $$.! 1!$+"!1!$

&1!$

&1!$

&1$"1+!(1-1+$'1+

となり,総実質債務+1#!1

&1の推移式 +1% $$.! 1!$+"

+1!$"1!$$"1+!(1-1+$'1+ (15)

を得る。金融政策反応関数は

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 815)209

(9)

-1*$&%'!#(+!&1"" (16)

であり,ここで,&1は全ての内生および外生変数を含むベクトルである。以上で,13 の内生変数と13の式があり,モデルは閉じることとなる。

Ⅱ-4.均衡条件

こ の モ デ ル の 内 生 変 数 は13個 -1*(-1(('1((1(!1((!10(,1((,10('1(%1(/1"

#1("1(!1

# $

で あ り,式は(1),(2),(6)−(16)の13本である。これらの式から均衡条件を求め,その 均衡の周りで線形近似を行う。金融財政政策は,インフレ率ゼロ!"$$"を目指して運 営 さ れ る も の と す る。し た が っ て,定 常 状 態 で は(11)よ り /"

#

! "

$$,(8)よ り -*$!!$!$が成立する。さらに,(6)より定常状態における債務(を($.より

"!$!$$#'!((("#('(!(((" (17)

から求めることができる。

さらに,(1)より-($!!$!$#'"!$,(10)より% $!$!$"#!$

# が得られる。さ らに,記号の簡単化のため$$ $

$!#とし,% $$とする。ゼロインフレを達成する財 政政策として"1$"および" $$とする。産出は正規化して'$$である。残りの

!!((!0(,((,0"については,まず!(と,(が,(15)から得られる

,(!!($-((#"

および

%,(!,("

2)(!!("$$

から求められる。つぎに!0と,0は,(12)からの!$$と(13)と(14)から得られ る

&0,0#&(,($&(!(#&0!0#"

および

210(816 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(10)

!&+!&+"

-#+!!+"%$

から求められる。

当初の均衡の実質債務は"&'%&であり,新しい均衡の実質債務は"(*.である。このモ デルの線形近似は"%"(*.で与えられる新しい均衡の周りで行われる。

Ⅱ-5.線形近似

式(1) !$$',""%!$$',$"!$$#,"は対数を取ると

&'%!$$',""%&'%!$$',$"$&'%!$$#," (18)

と な る 。 例 え ば ,"!/"を /#で 展 開 す る と"!/"="!/#"$"#!/#"!/!/#"と な る 。

&'%!$$',""を'"で展開すると,

&'%!$$',""=&'%!$$'""$ $

$$'"!',"!'""

%&'%!$$'""$',"!'"

$$'"

となる。よって,(18)は

&'%!$$'""$',"!'"

$$'"%&'%!$$'$"$',$!'$

$$'$$&'%!$$#"$#,!#

$$#

あるいは,

'(,"%'(,$$#(,

と 表 わ す こ と が で き る。こ こ で,'(,""',"!'"

$$'"$'(,$"',$!'$

$$'$$#(,"#,!#

$$#で あ る。

",%),に注意すると(2)#,%#!",$),"は

#,!#%#"!",!""$#)!),!)"

%!#"$#)"!",!""

あるいは,

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 817)211

(11)

&&-$ϑ'&-

と表わすことができる。ここで,ϑ"&'#&,

$#& ', '&-"'-!'

' である。

式(6) .('!"-'"$"#-$#*-'

!-#$.('!"-#$'"#"#-.('!"-#$'"!-

%-

$#*-'

$#&-

&'!-

%-'$%--''+

# $

!-#$

.(('!"-'!"'"$"$#*'

! .(('#-!"-#$' !"'"#".('

!!*-'!*'"#"!$#*'".('!!!!"!%"

#-!!-#$!!"

#".((''$#*'

$#&

&'

!#-!"-#$' !"'"#".('$#*'

$#&!'-!'"#".(' '

$#&

&'

!!*-'!*'"

#".(''$#*'

$#&&'!!!!"!%"

#-!!-#$!!"

#".(''$#*'

!

&''!$#&"!&'%

!$#&"% !'-!'"#&',!$#&"!&'&,

!$#&"% !,-!,"

' (

となる。これは,!$$,!!$$$#*)$$#*'

$#&および&',$#より

.(('!"-'!"'"$ "!$#*'".(('#".((''$#*'

$#&&'

% &

#-!"-#$' !"'"

# ".('#".(' '

$#&&'

% &

!*-'!*'"# !"!$#*'".('!".(''$#*'

$#&&'

% &

#-$-#$

# ".('!!$&'#".(''!!$ &''!$#&"!&'%!&'&,

!$#&"

' (

% &

!'-!'"

となり,さらに(6)の均衡条件$$"!$#*'"#"'$#*'

$#&&'より

.(('!"-'!"'"$.(('#-!"-#$' !"'"# .(('

$#*'!*-'!*'"!.('#-$-#$

# ".('!!$&'#".(''!!$ &''!$#&"!&'%!&'&,

!$#&"

' (

% &

!'-!'"

となる。そして,両辺に $

.(('&を掛け,&&-$ϑ'&-より

"&-'$#-"&-#$' !%!*&-'!#-$-#$##&&-"

212(818 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(12)

を得る。同様にして,(8)より

!+.-&".!+.%$- !'!*+.(!".&.%$"

を得る。ここで,$# *&

*&%*+ "!!$!$%*"!"!!$&!*&%*+"%"!!$&*&&

*&!$%*"

% &

,

'&!/'&

/''&%&! /'-

/''-%, !+.&#!.&!!&

% , !+.-#!.-!!-

% および&.# #.

#.!$!$である。

労働供給は(7)'(&$.&'(&()&!).&"!'(&/'&!!.&"より

$

$!$.!$"&())&

()&!).&!)&"!/''&

/'&!!.&!!&"

$.!$

$ &())&% ()&

).&!)&

% !/''&% /'&

!.&!!&

% すなわち

$+.&%)+.&%'!$!+.&

を得る。同様にして,(9)より

$+.&%)+.-%'!$!+.-

を得る。ここで,%&())&%

()& &())-%

()- である。つぎに,!.と#.の定義および(12)より,

!.と,."

#.を均衡で展開する。%*)!0"のマクローリン級数で1次の項までが%*)!0"&)!0"

=)!#"%)$!#"0&$%0であることより

,.!*"

#.

# $!#

&%*)!#!! '(&,.!*"!'(&#.""

=$!#!'(&,.!*"!'(&#."

となり,!.&'

#

$ ,.!*"

#.

# $!#

(*&$!#'

#

$

!'(&,.!*"!'(&#."(*より

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 819)213

(13)

!('%!$'

#

$

!&('!%"!"('"$%

となる。また,"'# '

#

$

&'!%"$!$$%

% &$!$$

より$%'

#

$ &'!%"

"'

# $$!$

$%である。マクローリン 級数より

$%$$!$!$"'

#

$

!&'%&'!%"!&'%"'"$%

となり,

'

#

$

&('!%"$%%"('となる。したがって

!('%#

を得る。また,(12)より

!'!!%!$!!"!!$"&'"

"'!$

# $

$!!!'!$!!"$!!$!"'!$"

となり,また!%!$!!"$!!より!%$を得る。よって

!('%!$!$!!"&('"$!!('!$$!$%'

および!('%#より

&('"% !

$!!%'

となる。ここで&('"#

&'"

"'

! "

!! "&""

&"

"

! " %&'"

"'!$である。

式(10)等より,ニューケインジアン・フィリップス曲線

%'%##('$"!'%'$$

を導出することができ,ここで##!$!!"!$!!""

! である。

214(820 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(14)

集計された財の制約条件(13)より

&(,%$'!(',$$+!(,+$"(,

となり,ここで"(,"",!"

& および&(,"&,!&

& である。

また,集計された労働量(14)と!(,%#より

&(,%$')(,'$$+)(,+

となる。

借手主体の予算制約は

',!'%'!*,!$' !*'"$!$$*'"!',!$!'"!!$$*'"'!",!$"

$!,'!!'!)'!$,!$"!!),'!)'"$!#,'!#'"

となり,",!$%",より

'.'(,%'.!$$*'"*(,!$' $!$$*'"'.'(,!$!'.!$$*'"",$!(,'!)'$(,!)(,'$#(,'

を得る。ここで'."'

&および#(,'%#,'!#'

& である。金融政策反応関数についてゼロ

金利制約*,(##は*(,(%*,(!*(

$$*(# !*(

$$*(を意味し,!!$%$$*(より !*(

$$*(%!!$で あり

*(,(%&%'!!!$%#-%(,"

となる。

Ⅱ-6.要約と解釈

Ⅱ-6-1. 11本の方程式

内生変数と方程式は2つ減って11となる。方程式は

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 821)215

(15)

-(2)$-(2*#+(2 (19)

+(2$ϑ)(2 (20)

!(2)$"2!(2#$) !(!-(2)!"2'2#$#%+(2" (21)

!(21$"2!(2#$1 !(!-(2*!"2'2#$" (22)

&(2$&,(2)#(!$!(2) (23)

&(2$&,(21#(!$!(21 (24)

'2$#&(2#""2'2#$ (25)

)5)(2$)5!$#-)"-(2!$) #!$#-)")5)(2!$!)5!$#-)"'2#!(2)!,)&(2!,(2)#%(2) (26)

((2$*)!(2)#*1!(21##(2 (27)

((2$*),(2)#*1,(21 (28)

-(2*$&%'!"!$,)4'(2" (29)

であり,内生変数は -2*,-2),+,)2,!2),!21,,2),,21,(2,'2,&2

! "

である。2つ減った内生変 数は,!2については!(2$#であり,02"

$2については11本の方程式群から得られる'2を 0(2"$ !

$!!'2に 代 入 す る こ と で 求 め ら れ る。こ の 方 程 式 体 系 で の シ ョ ッ ク は )(!$$)!$!)

) $),-+,!,./3

)./3 -#であり,長期的に)2は)./3に収束する。

Ⅱ-6-2.標準的ニューケインジアン・モデルとの比較

11本の方程式群は標準的ニューケインジアン・モデルに倣い,3本の方程式で表現す ることができる。

((2$"2((2#$!(!-(2*!"2'2#$#*)!$#%"+(2" (30)

'2$$((2#$#""2'2#$ (31)

-(2*$&%'!"!$,)''2#)4((2" (32)

(30)の導出については,(21)より

*)!(2)$*)"2!(2#$) !(!*)-(2)!*)"2'2#$#*)%+(2"

となり,(22)より

216(822 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

(16)

'-!%.-$'-".!%.#$- !&!'-+%.'!'-".%.#$"

となる。#%.$#のとき,+%.&$+%.'#(%.を代入し2本の式を足し合わせることで(30)を 得る。つぎに(31)は

$%.$!'&#'-"$%.$'&$%.#'-$%.

$$'&*%.&#&!$'&!%.&#$'-*%.-#&!$'-!%.-

$$%%.#&!$%%.$!$#&!$"%%.

を(25)に 代 入 す る こ と で 得 ら れ,こ こ で"$!!$#&!$"で あ る。(32)は 例 え ば +.'$)!!.)%."で両辺に1を足し対数を取って均衡で展開することで

+%.'$ )!"

$#)"%.# )%"%

$#)"%%.となる。

注目すべきは,自然利子率,%.(

,%.($!'&!$##"(%.$!'&!$##"ϑ&%.

となり,外生的に与えられるのではなく内生的に決まることである。ある時点で突然に 債務の水準が高すぎると皆が考えると,借入金利と預金金利の金利差(%.が上昇する。

金利差が大きくなり借入金利が上昇すると,借入主体は債務を減らそうとし債務の返済 を始める。借入主体の債務返済は借入主体の支出減少を意味する。借入主体の支出減少 を相殺するためには貯蓄主体の支出増加が必要であるが,貯蓄主体の支出を増加させる ために,自然利子率が低下することになる。その後,徐々に借入主体の債務返済が進む と,金利差が縮小し,借入主体の支出が回復して,自然利子率が元の水準へと上昇し始 める。

Ⅲ 残された課題

本稿の目的は,従来のアドホックなモデルの問題点として指摘されている,自然利子 率の外生性に対応することである。アドホックに与えられていた自然利子率の動きを内 生 変 数 と し て モ デ ル に 取 り こ むEggertsson-Krugman(2012)の 研 究 を 検 討 し た。

Eggertsson-Krugmanは,流動性の罠を説明するには2つの柱が必要だと言う。1つの柱 は,自然利子率がマイナスになることである。もう1つの柱は,名目金利のゼロ制約と

ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 823)217

(17)

価格の粘着性(もしくは中央銀行の低すぎる目標インフレ率)である。Eggertsson-

Krugman論文は自然利子率がマイナスになる理由を明瞭な形で述べており,他研究へ

の応用範囲は広いと考えられる。

Blanchard(2016)は,DSGEに批判的な小論の中で,「DSGEモデルから何かを学ん

だ。DSGEモデルとアドホックなモデルは代替的関係ではなく,補完的関係にある」と 述べてい

る。また,Krugman(2016)は,「マクロの分野で新しいアイディアを作り出3

そうとするとき,特にそのアイディアがこれまでの常識と矛盾するとき,それをニュー ケインジアン・モデルの枠組みで検討しようと試みることはしばしば有益である。なぜ なら,1つには分析の論理的一貫性を確認することができる,そしてもう1つは,根本 的問題の理解を深めるような直観的な解釈を得ることができるからである」と述べてい る。アドホックなモデルから得られた結論を,DSGE4 モデルで確認することで,結論の 信憑性を高めることができると思われる。

参考文献

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Krugman, Paul(2016) The State of Macro Is Sad(Wonkish), The Opinion Pages, The New York Times,

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I had learned something from the formal model, but I was able(and allowed as the discussant)to present the basic insight more simply than the author of the paper. The DSGE and the ad hoc models were complements, not substitute(Blanchard, 2016, p.4).

4 [W]hen trying to work out new ideas in macro, especially ideas that conflict with conventional wisdom, the ef- fort of casting those ideas in a New Keynesian framework is often useful, both as a check on the logical consis- tency of the analysis and as an additional intuition pump, adding to our understanding of the underlying issues

(Krugman, 2016, p.17).

218(824 同志社商学 第70巻 第6号(2019年3月)

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ゼロ金利政策と自然利子率について(千田) 825)219

参照

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