九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Basic Studies on Breeding of Clones of HINOKI (Chamaecyparis obtusa Endl.)
宮島, 寛
https://doi.org/10.15017/15624
出版情報:九州大学農学部演習林報告. 34, pp.1-164, 1962-03. Research Institution of University Forests, Faculty of Agriculture, Kyushu University
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権利関係:
目 次
緒言 (1)発根率 34
第1編 栄養系育成の必要性 4 (2)さし穂1本あたり発根数 35
…キの多型性 ・ 8饗讐 ;1
1.球果の形状 6 b.実験II 37 2・成長量の変異 8 11.発根促進物質による処理の影響 37 a・調査の方法 8 1.研究の意義 37 b・調査の結果 9 2.材料と方法 38 3.考 察 9 a.実験1 38 11.ヒノキの結実性 11 (1)ホルモン単用処理 39 1.タネの豊凶 11 (2)ホルモン,庶糖併用処理 39 2.タネの発芽 12 (3)ホルモン・薦糖・過マン 3.考 察 13 ガン酸カリ併用処理 39 111,苗木養成期間の短縮 14 b.実験】1 39
1秘ヒノキの徳利病・・対す・抵抗性 14 (4)ホ螂蠣野壷
lll羅病 ii (・)。青藍三遷別品用お39 1:響査の結暴 捻 (、)尿議繕畿繍・9
V・綜合考察と結論 19 およびホルモン,ジベレ 第2編 栄養系育成の手段 21 リンの併用処理 39 1.各種要因とさし木の発根性 21 c.実験III 40 A.母樹の年令と発根との関係 21 (7)ホルモンの濃度別丁用処理 40 1.研究の意義 21 (8)ジベレリンの濃度別品用 2.材料と方法 鎗 およびホルモンの併用処理40 a.実験1(母樹が実生の場合 d.実験IV 40 1.ホルモン処理との比較) 22 (9)ホルモンおよびジベレリ
b・実製膿器誹合箆 孟騰懇樹への葉⑳
c.実験m(母樹がさし木 3.実験結果 41 クローンの場合) 23 a.実験1 41 3.実験結果 24 (1)ホルモンの濃度別単用処 a.実験 1 24 理の効果 41 b.実験II 25 (2)ホルモン・庶糖併用処理の効果42 (1)新芽の伸長量 25 (3)ホルモン(a)・庶糖(b)・過マ (2)枯損本数の時期別変化 25 ンガン酸カリ(c)併用 (3)発 根 率 26 処理の効果 44 (4)その他の発根成績 26 b・実験II 46 c.実験II1 27 (4)ホルモンの濃度別単用およ 4.考 察 27 びジベレリン・蕪糖・尿 素の併用処理の効果 46 B・母樹個体による発根性の差異 31 (5)ジベレリン濃度霜曇用およ 1・研究の意義 31 びホルモン,薦糖,尿素 2・材料と方法 31 の併用処理の効果 56 a・実験1 31 (6)尿素の葉面散布回数別単用 b.実験II 33 およびホルモン,ジベレ 3.結果と考察 33 リンの併用処理の効果 64 a.実験1 33 c.実験III 65
効果 65 a.貯蔵物質の定量 93
(8)ジベレリンの濃度別単用および (1)窒素化合物 93
ホルモンの併用処理の効果 68 (2)炭水化物 94
d.実験IV 71 (3)タンニン 99
(9)ホルモンおよびジベレリンの b.さし木の実験 101
さし穂母樹への葉面散布前 (1)実験 1 101
処理の効果 71 (2)実験 II 102
4.考察 72 (3)実験nl 104
111.つぎ木応用によるさし木の発根促進 75 (i) 月別さし木の発根成績 104 1.研究の意義 75 (11) さし床の温度の変化 1042.つぎ木の活着と水分関係 76 (1皿且) さし床の地温と発根 104 a.実験1 76 (lv) さし穂母樹の月別成長 105 (1)材料と方法 76 4・考 察 106
(2)結果 77V.綜合考察と結論 112
b・実験II 77 第3編 栄養系育成への接近 1158幕料と方彙 ;;・精英樹選椥・よ・・ノキ栄縣の育成115
c.考 察 78 1・選抜の方法 1153.つぎ穂母樹の年令と活着との関係 79 2・クローン検定 116
a.材料と方法 7g a・さし木の発根性 116
b。結
果 80 b・成長の特性 117
(1)つぎ木の活着成績 80 3・考察と結論 11g (2)さし木の発根成績 80 1Lナンゴウヒの実例 119
(3)つぎ木,さし木の新条の伸長量 81 1.成立と分布 120
c.考
察 81 a.発見の経緯
1204,つぎ穂母樹の個体別活着と同一母 b・成立と分布 120
樹によるさし木の発根性との比較 82 2.一般的特徴 122
a.材料と方法 83 3.成長的特徴 123
b.結果と考察 84 a.青木成長量 123
5.つぎ木の時期と活着との関係 85 b・林分成長量 126
a.材料と方法 87 4・ナンゴウヒさし木の発根性 130
b.結果 87 a・ナンゴウヒと実生ヒノキの発
c.考察 88 根性の比較 131
6.つぎ木栄養系のさし木の発根性 89 (1)実験の方法 131
a.材料と方法 89 (2)実験の結果 131
b.結果と考察 8g b.ナンゴウヒ母樹年令別発根性
即し木発根の難易・貯蔵成分・の関係・・ (1懲の方法 lll
1.研究の意義 90 (2)実験の結果 1322・材料と方法 90 c.発根性に関する考察 133
言:鄭躍 器 拷察・結論 134
摘 要 (1)貯蔵物質の定量 91(2)さし木の実験 91 引用文献 (i) 実験 1 91 R6sum6 (ii)実験 11 92 写 真 (iii)実験111 92
表 目 次
表 1.母樹別球果の着生量と形状 6 表41.分散分析表 45
表 2.母樹別球果形状比 7 表 42.分散分析表(第1次枝の場合) 45 表 3・林の斉一度比較 10 表43.分散分析表(第2次枝の場合) 45 表 4.ヒノキのタネの豊凶 11 表44.さし穂1本あたり平均発根数と 表 5.ナンゴウヒの結実豊凶 12 平均最大組長(BI) 45
表 6.母樹別タネの発芽試験成績 13 表45.同 上 (BII) 46
表 7.生産苗木の大きさの比較 14 表46.発根部位(%) 46
表 8.ヒノキの幹三型(その1) 表 47.発根本数ならびに発根率(%) 47 さし木ナンゴウヒ林の場合 17 表48.資料(表47.発根率よりブリス 表 9.ヒノキの幹脚型(その2) 変換値) 48
実生ヒノキ林の場合 17 表 49.分散分析表 49
表10.ヒノキの幹理型(その3) 表50.補助資料1 49
阿蘇地方以外の地方での実生ヒ 表 51.分散分析表 49
ノキとさし木ヒノキ林の比較 18 表 52.補助資料II 50
表 11.母樹年令別発根成績 24 表 53.分散分析表(より細部について) 50 表 12.母樹年令別発根率(%) 26 表 54.補助資料III 50
表 13.さしつけ配置による発根率 表 55.分散分析表(より細部について) 51 (ブリス変換値) 26 表 56.補助資料1V 51
表 14.分散分析表 26 表 57.分散分析表(より細部について) 51 表15.発根成績 27 表58.生存本数ならびに生存率(%) 52 表 16.母樹個体別,年令別発根成績 27 表 59.発 根 数 52
表 17.母樹別胸高直径および樹高 31 表 60.平均最大応長(cm) 53
表 18.母樹別さしつけ配列 32 表61.発根部位と未発根生存本数 54
表 19.母樹別(クローン別)の根元直径 表62.発根本数ならびに発根率(%) 56 および樹高 32 表63.資料(表62.発根率よりブリス変 事20.母留別さし木活着成績(4区平均) 33 三値) 57
表 21.発根率(ブリス変換値) 34 表 64.分散分析表 58
表 22.分散分析表 34 表 65.補助資料1 58
表 23.さし穂1木あたり発根数 35 表 66.分散分析表 58
表 24.分散分析表 35 表 67.補助資料II 58
表25.発根部位 36 表68.分散分析表(より細部について) 59 表 26.クローン別さし木活着成績 37 表 69.補助資料III 59
表 27.母樹別さし木発根率の比較 37 表 70。分散分析表(より細部について) 59 表 28.発根率と生存率 41 表 71.生存本数ならびに生存率(%) 60 表 29.さし穂1歯あたりの平均発根数と 表72.発 根 数 61
平均最大根長 41 表 73.平均最大茎長(cm) 62
表 30.資料(表28.発根率よりブリス変 表 74.発根部位と未発根生存本数 63
換値) 41 表 75.発根本数ならびに発根率 64
表31.分散分析表 41 表 76.生存本数ならびに生存率 65
表32.発根部位(%) 42 表77.発根本数ならびに発根率 65
表 33.発根率と生存率 42 表 78.生存本数ならびに生存率 66
表 34.さし穂1本あたりの平均発根数と 表 79.生存本数に対する発根率 66
平均最大根長 42 表80.資料(表?7」発根率よりブリス変 革35.資料(表33.発根率よりブリス変 換値) 66
換値) 43 表 81.分散分析表 67
表 36.分散分析表 43 表 82.分散分析表(第2次枝の場合) 67 表 37.発根部位(%) 43 表 83.さし穂1本あたり平均発根数と平 表 38.発根率と生存率(BIの場合) 44 均最大根長 67
表 39.発根率と生存率(BIIの場合) 44 表 84.発根部位(第2次枝の場合) 67
表40.資料(表39.発根率よりブリス変 表 85.発根本数ならびに発根率 68
換値) 44 表86.生存本数ならびに生存率 68
表 88.資料(表85.発根率よりブリス変 表110.タンニンの含有量 99 換値) 69 表111.Aグループの発根成績 101 表 89.分散分析表 69 表112・GAグループの発根成績 101 表90.分散分析表(ホルモン併用の場合) 70 表113.1グループの発根成績 102
表・・さ
i美灘晋灘騨,。嚢{}1:燕騰纒の生存本数(率){ll
{}:漆㍑讐鞭。の併用処理}嚢1}1:露繍繋雛績 畿
表92.発根部位(第2次枝の場合) 70 表118・温度と発根との関係 105
佳鋤雛果偲の併用処理} 嚢ill:ε簾 {1;
表93.ホルモンおよびジベレリンのさし 表121.AおよびGAグループのC/T率と 穂母:樹に対する葉面散布前処理 発根率との相関々係 108 の影響 71 表122.時期別C/T率およびC/N率と発
表 94.つぎ木の活着成績 77 根率との相関々係 111 表95.つぎ穂母樹の胸高直径および樹高 79 表123.Nり.17の胸高直径による棄却検 表96.つぎ木の活着率(%)
80 定と周囲3大木との材積比較 115
表 97.さし木の発根率(%) 81 表124.さし木発根性のクローン検定 116 表 98.新芽の伸長量(㎝) 81 表125.クローン別成長量 117 表 99.毎木調査結果1(二二7年生) 83 表126.母樹個体とそのクローンとの肥大 表100.毎木調査結果2(林令30年生) 83 および上長成長に関する相関々係118 表101.つぎ木活着率 84 表127.ヒノキ品種の特性一覧表 122 表102.7年生母樹個体別発根率(ブリス 表128.樹幹析解木 123 変換値) 85 表129.ナンゴウヒ現実林分材積および成 表103.30年生母樹個体別発根率(ブリス 長量 127 変換値) 86 表130.実生ヒノキ現実林分材積および成 表104.時期別つぎ木の活着率 88 長量 127 表105.さし木の活着成績 90 表131.ナンゴウヒ林分推定材積および成
虫106.供試材料 91 長量
表107.N,A.A.処理濃度による薬害の程度 92 (主林木のみ)(熊本県阿蘇地方) 128 表108.全窒素(N)の含有量(乾重%) 93 表132.実生ヒノキ林分推定材積および成 表109の1.炭水化物の含有量(乾重%) 長量
(1)全糖(T.S) 94 ( 〃 )( 〃 ) 128 表109の2.炭水化物の含有量(乾重%) 表133.実生ヒノキとナンゴウヒの発根成 (2)還元糖(RS) 95 績比較(1) 131 表109の3.炭水化物の含有量(乾重%) 表134.実生ヒノキとナンゴウヒの発根成 (3)澱粉(S) 95 績比較(2) 132 表109の4.炭水化物の含有量(乾重%) 表135.ナンゴウヒ母樹年令別発根成績比較133
図 目 次
図 1.球果形状比の比較 7 図 11.さし木床の温度の変化とさしつけ 図 2.樹幹の胸高直径と幹脚直径との関係 16 期間ならびに時期別発根率 105 図 3.新芽の時期別伸長量 図 12.ヒノキクローン(粕演No.20号)
(総成長および平均成長量) 25 成長曲線 106 図 4.時期別累積枯損率 25 図 13.ヒノキクローン(ナンゴウヒ22号)
図 5.母樹年令別発根率・生存率および 成長曲線 106 カルス形成率 30 図 14.母樹年令別C/T率の季節的変化 109 図 6.つぎ穂の水分蒸散量 図 15.ナンゴウヒ分布地域 121 (g/生重g/12時間) 78 図 16.樹高および胸高直径総成長量 123 図 7.時期別つぎ木の活着率 88 図 17.樹高および胸高直径連年成長量 124 図 8.全窒素含有量の季節的変化 94 図 18.樹高および胸高直径平均成長量 124 図 9のし炭水化物含有量の季節的変化 図 19.No.1号木(市原徹男氏)材積成 (A−10) 96 長量 125 図 9の2.炭水化物含有量の季節的変化 図 20.No.2号木(深葉国有林)材積成 (GA−10) 97 長量 125 図 9の3.炭水化物含有量の季節的変化 図 21.No.3号木(大矢国有林)材積成 (A−35) 97 長量 126 図 9の4.炭水化物含有量の季節的変化 図 22.ナンゴウヒ現実林分平均樹高と平 (GA−35) 98 均胸高直径(熊本県阿蘇地方) 129 図9の5.炭水化物含有量の季節的変化 図23.実生ヒノキ現実林分平均樹高と平 (1−20) 98 均胸高直径( 〃 ) 129 図 9の6.炭水化物含有量の季節的変化 図 24.ナンゴウヒ現実林分立木本数(熊 (1−12) 99 本県阿蘇地方) 129 図 10の1.タンニン含有量の季節的変化 図 25.実生ヒノキ現実林分立木本数
(Aグループ) 100 ( 〃 ) 129 図 10の2.タンニン含有量の季節的変化 図 26.ナンゴウヒ現実林分材積および推 (GAグループ) 100 定材積(haあたり) 130 図 10の3.タンニン含有量の季節的変化 図 27.実生ヒノキ現実林分材積および推 (1グループ) 101 定材積( 〃 ) 130
写 真 目 次
写真1.ヒノキの多型性 156 写真5.つぎ木によるさし木の発根促進(1) 160 写真2.さし木ヒノキ(ナンゴウヒ)の徳 写真6.つぎ木クローンの養成 161 利病に対する抵抗性(1) 157 写真7.つぎ木によるさし木の発根促進(11)162 写真3・さし木ヒノキの徳利病に対する抵 写真8.ナンゴウヒのさし木苗養成 163 抗性(II) 158 写真9.ナンゴウヒのさし木林 164 写真4.母樹によるヒノキさし木の発根性 159
緒
言森林は,国土の保全(水資源の培養をも含めて),国民の保健という点からも重要な意義 をもつものであるが,近時飛躍的に増大してきた木材の需要に応ずるために,林木の成長 量の増大を図ることは極めて重要な問題であって,森林の存在意義は広く認識されるよう になってきた・
そして,林業が採取林業から育成林業へと移行するに伴って,造林技術もまた多くの角 度から多くの人びとによって,あるいは近代科学を基礎として,あるいは林業人自身の長 年にわたる経験によって進歩発達してきた・特に,林木の成長量の増大と形質の向上とを 図る手段を構ずることは,造林技術の根幹をなすものであって,その手段としての林木の 育種に関する研究と技術の重要性はここに改めて述べるまでもないところである.
一般に林木育種とは,佐藤敬二博士lo6)の言をかりて云えば,「現在の林木よりも優れたも のをつくり出して,これを正しく増殖していく仕事」であって,その基礎となる研究方法 や研究範囲もまた,多方面にわたっている・
まず,林木育種の方法を大別すれば,つぎの4つが老えられる.
L選抜育種(分離育種)
個体選抜(突然変異個体の選抜を含む)
集団選抜 栄養系選抜 ll.導入育種
皿.交雑育種(雑種強勢の利用を含む)
IV.創成育種 倍数体の利用 人為突然変異の利用
われわれが通常林地に植栽する主要造林樹種は,同一品種または同一系とみなされるも のは稀であって,多くの品種系統が混じりあった,いわば雑種,または混系の集団である場 合が多い.従って,個々の林木についてみれば,それは成長および形質において複雑な多 型性を表わすのが普通である.そこで,われわれは,さきにのべたように林木育種の方法 としてはいろいろあるけれども,まず,既往の造林地から優良個体を選抜(選抜育種)し,
増殖することが林木育種としての第一歩であり,さらに,導入育種や交雑育種および創成 育種などの場合にも常に選抜は併行されなければならない.そして,これら選抜された優 良個体の形質を保持して広く増殖するためには,林木の個休それ自身が極めて雑種性に富 むという遺伝的特性から考えて,さし木やつぎ木などの無性繁殖法によることが最も捷径
である.
さらに,一般造林樹種では,結実の豊凶差が年度によって著しく,また概してタネの発 芽率の低い樹種では,事業的に苗木の需給に安全性をもたせるためにも栄養系増殖の意義 がある.それはまた, 苗木の養成期間を短縮し,経費の節減をはかり,そのうえ,病虫害 に対する抵抗性を増すなどの場合もあって,単なる苗木育成の手段としても,さし木やつ ぎ木などによる栄養系育成の理由がある.
2
わが国では,従来スギ(Cりyptomeria japoniea D. Don)の造林に関して,地方によって はさし木による方法がとられ,京都の北山地方(シロスギ),千葉県山武地方(サンブス ギ),富山県地方(ボカスギ),九州地方(メアサ,アヤスギ,ヤブクグリなどの他多数)
などで多くのさし木品種が育成されている.特に,九州地方における主なスギの造林地帯
(日田,八女,小国,飲肥地方など)では,ほとんどさし木によっており,それぞれさし 木品種の特性も明らかにされている.
その他の樹種では,石川県能登地方のヒバ(Thuiopsis dolabrata Sieb. ct Zu㏄.)(アス ナロtアテともいう)について,古くからさし木または伏条などによる無性繁殖が行なわ れ2,3の品種が育成されている.
ヒノキ(Chamoeeyparis obtusa Endl.)については,スギとともに古くからさし木を実行 した例が散見せられ,ことに旧藩時代に熊本藩では,スギとともに山地じかざしによる造 林法がとられたことが記録133)に明らかであり,現に,菊池営林署部内深葉国有林,熊本営 林暑部内吉三田国有林,矢部営林署部内大矢国有林などに旧藩木と称してさし木によるヒ
ノキ林分が点在している.しかしながら,これらの造林地もほとんど山地じかざしによる もので,その技術も未だ幼稚なものであった・その後,明治時代に入ってスギとともに大 面積の一斉造林が行なわれるようになると,ヒノキは比較的さし木が困難であるという理 由から,ほとんど実生苗植栽のみによるようになってきた・勿論,その間にスギさし木の 研究とともにヒノキのさし木に関しても2,3の報告は散見せられるが,現在のところほと んど実用性のある方法は未だ確立さるまでには至っていない.
近年,林木育種事業が国家的にとりあげられ,精英樹選抜による増穂園や採種園の設定 が急がれており,とくにスギやヒノキでは無性繁殖法による増殖が期待されている.にも かかわらず,ヒノキについてはさし木増殖に関する基礎的研究が未だ確立されておらず,
従って技術的にも所用化の域に到達していないために,現在,ヒノキの育種事業に関して 大きな障害の一つとなっている。
筆者は,恩師九州大学教授佐藤敬二博士のご指導のもとに,1946年以来ヒノキの栄養…系 育成に関する研究を続けてきた.この論文においては,以上に述べきたった見地からこれ
までに行なった研究の結果を,つぎの3編に分けて述べることとした.
L栄養系育成の必要性とその価値について論じた・
皿.栄養系育成の手段としてその方法について論じた.
m.栄養系育成への接近として,筆者が,育成しつつある栄養学のクローン検定の結果 から精英樹選抜による栄養系育成法に関して論じ,最後にわが国における唯一のヒノキ栄 養系ナンゴウヒ104)の笑例をあげ,その特性を明らかにして,ヒノキのさし木による栄養系 育成の方向が現実的に正しいことを実証した・
秣木の育種の方法として最初の段階であり,かつ最終の:方法でもある選抜育種において,
その無性繁殖法による増殖は選抜の理論を実地に適用せしめる主要なかけ橋である.勿論,
主要造林樹種のうちでもマツ類(1bUs spp.)を始めさし木の困難な樹種は未だ極めて多い.
筆者が行なったこの研究はそれらの5ちの・一つであるヒノキをとりあげ,一応そのさし木 の実用的可能性を実証したに過ぎない.この小文が将来この方面の発展に少しでも役立つ ところがあれば筆者の望外の幸せである.
本研究を遂行するにあたり,長年にわたって直接ご懇篤なるご指導を賜わった恩師九州
大学教授佐藤敬二博士に対し,満腔の謝意を表する・また,本研究の遂行,とりまとめに あたってご指導とご便宜を賜わった九州大学演習林長大野俊一教授,本研究の実験計画な らびにとりまとめにあたって統計的処理法に関してご指導を賜わった九州大学助教授木梨 謙吉博士を始め,本研究の企画,調査,実験の遂行上多大のご援助とこ鞭錘を賜わった諸 氏の芳名を記し深謝の意を表する.
九州大学関係一加藤退介氏(九州大学農学部助教授),吉武和美氏(現熊本県技師),永 野正造氏(現岩手大学農学部講師),汰木達郎氏(九州大学農学部教官),黒木嘉久氏(現 宮崎大学学芸学部研究生),須崎民雄氏(九州大学農学部教官),塚原初男氏(九州大学大 学院学生),室屋法暁氏(同上),中村義司氏(同上),新谷安則氏(九州大学粕屋演習林教 官),安河内靖久氏(現航空自衛官).
熊本営林局関係一梶木治郎氏,島本貞哉氏,申川久美雄氏,淡谷忠一氏,甲斐原一朗氏,
田中忠良氏,長友種男氏,浅野正昭氏,石井五郎氏,坪田廉氏,鳥巣節男氏,谷口義成氏,
佐野義男氏,伊藤馨氏,国武正典氏,西下清氏,川原国治氏・
民有林関係一馬原広雄氏,吉良恒氏,長尾鷲彦氏,今村正治氏,羽田誠氏,市原徹男氏,
佐藤宇一・郎氏.
なお,長期を要した本研究の遂行}eet九州大学農学部造林学教室,同演習林関係職員各 位の絶大なるご理解とご援助があったことを特筆し,謹んで感謝する次第である。
4
第1編 栄養系育成の必要性
1.ヒノキ(Chamaeのyparis obtusa E皿dl.)の多型性
林木のタネは元来他家受精により結実する性質が強く,ことにスギ(Cryptomeria japonica D.Don),マツ類(ft nus SPP.),ヒノキ(Chamaecyparis obtusa Endl.)などを始め,主要樹種 は,同一種内において一般に雑種性に富んでいる・従ってタネによって育成された林木は,
同一の種に属するものでも個体によってその遺伝的性質は異なっているのが普通である.
しかしながら,その生育する環境によって,それぞれの環境に適した性質を有するものの みが残り,不適当な性質をもったものは消滅していくという,いわゆる自然淘汰作用によ って,その環境に適した遺伝性を有する集団を形成するようになる.こうして,環境の相違 によって自ら異なる遺伝子,あるいは遺伝子群をもつ幾つかの集団に分離することが可能 と老えられる.われわれはこのようにして,ある種のなかで,ある共通の遺伝性を有する集 団に分けられたものを品種と名づける・そしてこのような品種を気候品種,立地品種など という.スギについては,裏目本型と表日本型とに大別し,さらにそれぞれの地方によっ て,アキクスギ,クマスギ,ヨシノスギ,ヤクスギなどの地域品種に分け,さらにせまい 分布区域に分けて呼ばれる場合もある・マツについても,シラ一着マツ,トウザソマッ,
キリウエマツ,グイセソVツ,キリシママツ,モドウマツ,などと呼ばれる地域品種があ る.そして,われわれはこれらの品種間には針葉,球果,樹皮の色や形,あるいは樹型,
成長型などについて,それぞれ他と異なった性質があることを知る・しかしながら,これ らの地域品種は,同一の品種に属するものでも,ある変異の巾をもっていることは明らかで あって,われわれはその笑用的要求の度合によって,さらに細かく幾つかの系統に分離し ょうと試みる.そして窮極の分離は個休にまで進むようになる.しかし,品種とは,その遺 伝的性質が他と分離し得る一つの集団の謂であるから,品種として固定させる手段として は自家受精による純系分離の困難な林木については,無性繁殖法によることが考えられる.
われわれはこれを栄養系(Clone)と呼んでいる.そして,この栄養系は純粋に同一個休 から出発したものを純粋栄養系(Pure−clone),ある似かよった幾つかの個体から出発した ものを複合栄養系(Clone−complex)と呼び,これらを総称して栄養系品種と名づける.ス ギのようにさし木繁殖が比較的容易な樹種で,しかも古くから,さし木が行なわれてきた ものでは既に多くのさし木品種ができており,複合栄養系としては九州地:方におけるアヤ スギ,ホンスギ,アオスギ,ウラセバルスギ,ヤブクグリなどがあり,純粋栄養系として 選抜育成されたものには,武藤品雄のクモトオシスギや福田孫多のテンシy,昌ホソバレ,
その他がある.マツについては現在のところさし木が容易に行なわれるまでに至っていな いので栄養系品種はできていない.
ヒノキはスギに比べてその品種改良の歴史が浅く,しかもさし木繁殖が比較的困難なた めにスギのような多数のさし木品種や地域品種に分けられたものが少ない。
従来,ヒノキの林業品種は,その林業上必要な形態的特徴によって寺崎126》は細枝種と太 枝種に分け,地域品種として前者は京都系,後者は高野系ヒノキをそれぞれあげている・
そして,この区分は,上のように地域的集団としてではなく,同一地域において同じ林分 のうちにまじってあらわれる品種として考えられる場合もある.すなわち,九州地方にお
けるホンピとeクラヒの区分がそれであって,これはさきに述べた地域品種区分と概ね一 致するといわれている.いま,これら両者の区別点を述べればつぎのとおりである.
(A) 細枝種,京都系(ホンピ)1型
(1)枝が細く,幹に対してほとんど水平(800内外)にでる.
(2)樹冠(クローネ)の形は円錐形.
(3)心材は黄色または淡桃色.
(4)丁令迄の成長は三枝種に劣るが老年に至るまで成長は衰えない.従って樹幹は完 満型となる傾向がある.
(5)徳利病の被害樹が少ない.
(B)三枝種,高野系(サクラヒ)II型
(1)枝が太く,幹に対して鋭角(60e内外)につく.
(2)クロ r一ネは放物線形である.
(3)心材は濃赤色または赤褐色.
(4)壮令迄の成長は速いが,以後の成長は衰え,従って年輪巾は不均一であり,樹幹 は三訂となる傾向が強い.
(5)徳利病に侵され易い.
また,田中は125),高知営林局管内に生育するヒノキをつぎのとおり3つに分類した・
(A) 太高温(高野台,または土佐物)心材は赤褐色または深紅色を呈する・
(B) 細枝種(京都系,または尾州物)心材は薄い桃色または黄色を呈する・
(C) 中間種前2者の特徴を組合わせた性質をもつもの.
つぎに,熊本県八代郡,阿蘇郡地方の俗称「サクラヒ」は心材が赤褐色を呈し,「シμヒ」
と差別せられ,また,茨城,富山,静岡,岡山各県地:方の俗称「ホンピ」は心材が赤褐色 で「ヌカヅピ」と区別されているt27).
しかしながら,以上に述べたヒノキの地域品種の形態的・材質的特徴は,必ずしもすべ てその遺伝的特性に基づくものではなく,その生育する環境条件によってもまた異なるも のであるとする考え方も強い.三好65)によれば,ヒノキの樹型について幹型の完満ならび に梢殺型は,前者が比較的密林を形成する単層三内に生育する林木に多く見られる形態で あって,枝下高が高い.後者は,比較的疎林内または孤立木や林縁木として生育する林木 であって,枝下高が極めて低く,クローネは四囲に発達し,枝条は一般に長いという・心 材についても,ヒノキの郷土とされる木曽地方に産するものは,一般に淡黄色を呈するも のが多いが,海抜高が下がり,暖帯林に近接する地帯では,淡紅色の程度を増すという.
また,長谷川,野原tg)によれば,さきに述べたヒノキの地域品種は,その生育している 環境による形態的,品質的差異は認められるが,遺伝的因子と関連してみれば地方的品種
とは認められないという.
以上に述べてきたように,ヒノキもまた,その生育する地方環境により,自然,あるい は人為淘汰作用によってその形態的・材質的特徴を異にすることは明らかであるが,こ れらはすべて,遺伝的特徴のみによるものではなく,立地条件に支配される表現形質で ある場合も多い・また,遺伝的構成は同一であっても,異なった環境に生育するようにな ると,各遺伝型の個体が子孫を残す割合に差違が起こり,集団としての遺伝的構成はかな
6
り変わってくる.さらに,もとの環境では一様な形質を示していた集団でさえも,異なっ た環境に移されると著しい個体差を現わすことも考えられる,このように,地域品種はそ の遺伝的構成が他と切り離され得るとは云っても,現笑にはこのような天然生林は極めて 少なくなり,さらに人為淘汰作用は形質の不良なものを残し易い傾向にあるということが 考えられる.
つぎに,同一林分内において外部形態的に分類された品種は,その遺伝的構成が品種に よって,明らかに異なるのか,あるいは遺伝的構成は同じであっても,局所的立地条件の 差違によってその働きが異なった結果として現われるものか,それらについての吟味はあ
まり行なわれていない.
以上要するに,ヒノキの三生は,他の林木の場合と同様に極めて雑種性に富み,その形 質もまた異なっている場合が多いと考えられる.つぎに2,3の形質について調査測定した 結果を比較的純度の高い栄養系(さし木クローン)の削合と比較して考察を進めたいと思
う.
1,球 果 の 形 状
地域品種は,その外部形態的特徴を異にするが,佐藤98》は球果の形状比が京都系ヒノキ と高野系ヒノキで異なり,それが分類学上の価値があることを認めている.すなわち,球 果の形状はある程度遺伝的特性によるものであることがわかる.そこで,筆者は熊本県阿 蘇地方において,実生ヒノキ林分と,さし木ヒノキであるナンゴウヒ(詳細は後述)の林 分から,母樹個体別に球果を採取し(1956年10月下旬),そのなかからそれぞれ100個ず つの球果を無作為に抽出してその形状比を測定比較した.すなわち,その方法は球果が成 熟して,まさに開智しょうとする状態において,ダイヤルゲージ(o.02m/m〜20m/m)を 用い,縦径(L),灘(D)をそれぞれα1㎜まで測定し,L/D × 100をもって形状比とし
た.
母樹とその球果の着生状態はつぎのとおりである.
表1.母樹別球果の着生量と形状
母 樹
母樹の
成 立 場 所 着 球果
隻
里
の 剥き さ
N・・1年令 羅(L)1横径ω) 備 考
1 2 3 25 R5 P20
ナンゴウヒ iさし木)
@ 〃
@ 〃
熊本県阿蘇郡阿蘇町
@ 大字伊安原 F本県阿蘇郡高森町
@ 大字高森町中坂 F本県阿蘇郡高森町
@ 大字高森字遊雀
多少中
mm mmV.90〜10.60 W.60〜11.50 W.60〜1L30mm ㎜
W.40〜11.50 X.30〜11.80 W.40〜1L40
N(瓦5の実生ヒ mキと隣接して Q本成立独立樹 iンゴウヒ
@ さし木林分 〃
4 300 〃 熊本県阿蘇郡阿蘇町
@ 阿蘇農高校
中
7.90〜10.90 8.60〜12.00
独立樹
5 6 5 02 ∩﹂
実生ヒノキ
@ 〃
熊本県阿蘇郡阿蘇町
@ 大字伊安原 F本県菊池郡
@熊本営林署大津苗畑
多雪
9.70〜12.30W.60〜11.30
9.80 》12.30 X.50〜11.80
Nα1に同じ c畑周囲の防風
林を形成して 7 30 〃 熊本県菊池郡 「る
@熊本営林署大津苗畑
少
850〜11。90 9.20〜1L80 〃 8 35 〃
熊本市外高峯山
中 7.30〜10.00 8.20〜10.60 実生ヒノキ林分この結果,実生ヒノキではナソゴウヒ(さし木)に比べて母樹個体間に遺伝的変異の巾
8
が大きいことがわかる.そして,これら球果の形状比を佐藤が分類した京都系および高野 系ヒノキと比較してみれば,実生ヒノキでは形状比平均100を示すもの(No.5)から,平 均88(N()■8)を示すものまであり,特に細長い形を示す高野系ヒノキが見出されないで,
No.8のごとくむしろ偏平形のものがあるということは興味深い.そして,ナソゴウヒで は,その球果の形状比も平均92〜93であって,実生ヒノキのNo.8, No.5のほぼ中間の 値を示している.
2.成長量の変異
これまでもたびたび述べてきたように,林木は極めて雑種性に富んでいるので,クネに よって育成されたものは個体によって遺伝的性質が異なっているのが普通であるから,そ れらの林分においては同一林令であってもその成長量は個体によって区々である場合が多 い.一方,さし木によって増殖することのできる樹種では,望ましい形質を具えた母樹を 選定し,それを増殖し,類似の形質を共通にもった品種を作り上げている.従来の九州地 方を始めとする既成のさし木スギ品種はこれに該当する.これらはその:方法が集団選抜で ある場合が多く,従って純粋の栄養系(Pure clone)ではなく複合栄養系(Clone−complex)
というべきものであるが,なかには純度の高いものも多い.そしてこれらはタネによった 場合よりもずっと均一性が高いのが普通である.
ヒノキについても以上のようなことは当然考えられることであって,つぎに実生の場合 とさし木の場合とについて比較考察したいと思う.
まず,母樹の品種系統がはっきりしている場合とそうでない場合とに分けて老え,さら に,前者では母樹が孤立した場合(孤立母樹)と母樹が集団の場合(母樹林)とが考えら れる.これらの3つの場合をそれぞれ実生林とさし木林とに分けて考えてみるとつぎのよ
うになる.
(a)実生ヒノキ
(1)ナンゴウヒ孤立木(母樹)
(2) ナンゴウヒ集団(母樹林)
(3)混系実生林 (b)さし木ヒノキ
(1)純粋栄養…系(Pure−clone)
(2)複合栄養系(Clone・oomplox)
(3)混系さし木
ただし,さし木ヒノキ林分(b)のうち,(1)純粋栄養系,(3)混系さし木の各林分は適当 な調査対象林分がなかったので,(2)複合栄養系(ナンゴウヒ)の林分のみを調査の対象と
した.
a.調査 の 方法
さきに述べた幾つかの場合を想定し,それぞれに該当する林分を調査し,樹高,胸高直
径(あ・・心元直径)を測定して恵沢り定値の騨面一±厚「(但・・D一偏差・
ノ=変員数,n==総個体数)と,変異係数。・・σ/M×100(但しM一平均値)とを求めた.
つぎに調査の対象となった林分の成立について順を迫って述べることとする.
(a) 実生ヒノキ林の場合
(1)ナソゴウヒ(II型)孤立木(母樹)
まず,母樹が単木であって,しかもその品種系統がはっきりしており,それにできたタ ネは恐らく,自家受精(Selfing)によったものであろうと老えられる場合である.これは,
熊本県阿蘇郡一ノ宮町大字下西河原の宮本定次宅の屋敷内に1本目ナンゴウヒがあったが,
ある年暴風のため倒れたので,彼はその木からタネを採って養回し,これを阿蘇町大字山 田字笹川に植栽した,1956年10月26日調査現在で林野23年生であった・
(2)ナソゴウヒ(lmeq)の集団(母樹林)
品種がはっきりしていて,しかも同一品種に属する母樹の集団のなかから1本を選んで それにできたタネ(同一品種内の交雑と老えられる)から出発した場合である・これは,
三方がスギ林に囲まれ,一方が畑で付近(約300m以内)一帯に他のヒノキがなく,すべて ナソゴウヒからなる林分のなかの一本からタネを採取,養苗してこれを一ヵ所に造林した.
所有者は熊本県阿蘇郡阿蘇町大字東黒川の倉本シエ,造林地は東黒川字上芹川で,タネの 採取や植栽を行なったのは東黒川の江藤安平である.1956年10月27日調査現在で林崎15年 生であった,
(3)混系笑生林
品種系統がはっきりしておらず,多くの母樹から事業的にタネが採取,急峻されたもの が植栽された場合である,これは,熊本営林署部内の熊本県阿蘇郡蘇陽町大字柏官行造林 地(2林班ろ小班)で1957年9月28日調査現在で林令29年生であった.
(b)さし木ヒノキの場合(複合栄養系)
ヒノキ在来種といわれるナソゴウヒについて,従来さし木で増殖されてきたもので,そ のうちにはホソバ系(1型)とヒロバ系(II型)に分けられるといわれているが,そのよ うな厳密な区分がなされていないもの,いわゆる複合栄養系で,熊本県阿蘇郡蘇陽町大字 鎌継旅館にあるナンゴウヒさし木林分で1957年9月28日調査現在林令21年生であった.
所有者は同町居住の佐藤宇一郎である.
b.調 査 の 結 果
以上それぞれの林分について測定した結果をまとめてみると,つぎの表3に示されるとお りである.これらの調査地は立地条件としては熊本県阿蘇地方の黒色火山灰土壌で概ね類 似の場所と考えられるが,この結果からいえることは,樹高,胸高直径ともに,その変異 係数は品種として確立し得るナンゴウヒのさし木林分が最も小さく,ついでナンゴウヒ
(II型)孤立木の母樹から採種,養楽して植栽された実生林分,ナソゴウヒ(II型)の母 樹林から採種,養辞して植栽された実生林分となり,変異係数の最も大きいのは混系実生 林から採種,養弔して植栽された実生林分であった,また,胸高直径の変異係数は樹高の それよりも一・般に大きく,どの林分についても,概ね1.5〜2倍の値を示す傾向がうかがわ
れた.
3.考 察
ヒノキの遺伝的変異の巾を調査する目的で,その球果の形状と樹高および胸高直径の成
le
表3.林の斉一度比較
母樹の由来
ナンゴウヒ(II型)孤 立 木
i母 樹)
ナンゴウヒ(II型)集 団
i母樹林) 混系実生林
栄 養 系iナンゴウヒ)座面本 島積数
23年生
9no a 159本
15年生
10.78 a
145本
29年生
13.78 a
82本
21年生
6.28a 116本 樹
高
胸高直径
範囲 7.5m〜13.Om
平 均 10.78m 標準偏差 ±0.96m
as係数1 8・・%
45m−v9.5m
9.5m−v16.5m i13gfu一 1 i3.im
±O.86m 1 ±1.52m 11.6% 1 11.5%
9.Om・v 12.Om
10.7m
± O.53m 5.0.%
範 囲 平 均 標準偏差 変異係数
地者 在有
所所
10cm.v23cm
16.5 cm
+ 2.92 cm 17.7 %
6cmN18cm
12.5cm
±2.04cm
16.3 %
1bem.v 37cm 1 11.Ocm・y26.Ocm
2Z2cm 1 20.5cm
±5,12cm 1 ±2.39cm 27.6% 1 11.7%
灘朧塁糠灘斎字騰絶品跳鼠肇陽町大字
宮本定次 倉本シ工 熊本営林署 佐藤三一郎
畏量を測定して比較検討した.
まず,球果の形状比については,ナンゴウヒという品種のはっきりしているものと,単 なる混系の実生ヒノキについて,それぞれ4本ずつの母樹を選んで比較したが,個々の母 樹についてみれば,ナンゴウヒでも実生ヒノキでも変異係数の大きさに相異は認められず,
大体2.5%〜4.4%の範囲にあった.しかしながら,ナンゴウヒとその他の実生ヒノキとに 大別してみると,前者はその変異係数が2,83%に対して後者では5.57%であった.このこ とはナソゴウヒが純度の高い一つの品種として分離確立し得るものであるということがで
きる.
つぎに,成長量についての多型性を比較するために,実生ヒノキとさし木ヒノキに大別 し,前者はさらに母樹の品種系統がはっきりしていて,かつ孤立木であり,従って恐らく 自家受精によったと考えられる場合と,同一品種に属する母樹の集団の場合で,従ってこ の場合は,品種内交雑が起こり得ると考えられる場合と,さらに異品種混合の母樹林から 採種されたもので,恐らく品種間交雑がなされたと老えられる場合との3つの場合から,
それぞれタネをとって養凹し,植栽された林分と,品種がはっきりしているさし木林(ナ ソゴウヒ)とについて,それぞれ,樹高および胸高直径を測定して,その変異の巾を比較 した.これら調査林分の立地条件,林分の取り扱い方などに大差は見られなかった.これ らをそれぞれ比較してみると,さし木林は実生林に比べて,いずれも変異係数は最も小さ かった・笑生林では,雑種性が高いと思われる林分ほど変異係数は大きい傾向がうかが われた.これらの傾向はスギについても同じことが云われており,佐藤106)によれば,熊本 県阿蘇地方において,さし木林(アヤスギ)と実生林(ヨシノスギ)とについて樹高の変 異係数を調べ,前者が10%前後の値を示したのに対して,後者では約20%の値を得てい
る.
以上に述べたように,林の斉一性はさし木は実生よりも高くなり,さらに,それは品種
系統が純粋なもの程高くなる傾向がある.ttのようなことを比較的容易に可能ならしめる 手段としては個体選抜によるさし木繁殖が最も効果的であるということができる・
II、ヒノキの結実性 1.タネの豊凶
一般に林木の結実状況は年度によって著しい豊凶差がある.これまでの結実豊凶調査統 計資料91)92)などによると,アカマツやクPマツでは豊凶の差が比較的少ないが,スギ,ヒ ノキ,トドvツでは,およそ3年毎に,カラマツではおよそ5年毎に=豊作の年があるとい われている、
ヒノキの結実性の年度による豊凶の差は,坂ロ91)によれば,1回結実するとその翌年か ら1年ないし3年の不作があり,また,大豊作の翌年は必ず大凶作であるといわれている・
林野庁が集計したわが国都道府県別ヒノキのタネの豊凶に関する最近の資料についてみ れば表4に示すように1956年度は東北地方では平年並み,南西地方はやや:豊作で,全国平
表 4.ヒ ノ キ の タ ネ の 豊 凶*
輪隻塁 19・619571958剛織数
1956 1557 1958 1959並豊 並 豊並豊 豊 豊並並 並並並並並
凶並凶凶並凶凶凶凶凶凶 凶並凶並凶凶並並凶
凶凶凶凶凶凶凶凶並凶凶 凶凶凶並凶凶凶賊凶
■豊並豊並豊富豊並並豊豊 豊州豊豊並並豊凶豊
都阪庫良山取根山島口島川媛知那賀崎本二巴島
歌
京大豊春和賀島岡広山徳香愛早福佐長湯大宮鹿
並 並並並並並並並
凶並凶並凶凶凶
並凶凶凶並並並
並並並並豊並豊
道森手金田形島城木馬玉葉京川鋸山川井梨野阜岡知重賀 与名海 奈
北青岩宮秋山福茨栃群埼千束神国富石福山長岐静愛三滋
岐 阜
テ 岡
、 知 O 重
?@ 賀
韮普薔霊並 並 凶 三豊 凶 凶 並並 凶 凶 豊
塞児昌
{1
豊 凶 凶 並 タ 凶 凶 並 P6 0 0 7 P8 10 9 23 P 25 26 0
*全苗連時報より.
12
均としてみれば並みの上程度であるが,1957年度,1958年度は全国的に凶作であった・そ して1959年度は全国平均で並みの地方が多かった。また筆者がナンゴウヒについて過去6 年間熊本県阿蘇郡高森町付近において観祭したところによれば,表5のとおりで1956年度
と 59年度にクネの採取が可能であったが,それ以外の年度ではほとんど結実をみなかっ
た.
表5.ナンゴウヒの結実豊凶
年 度11955
1956 1957 1958 1959 1960豊 凶 凶 並
繭 紬
並 凶
この傾向は,普通の笑生ヒノキ林の結実年度の豊凶と概ね一致しており,クネの結実が 年度によって極めて不安定であることを示している.この原因については,養分説,気象 説,酵素説,昆虫・菌類の作用説,刺激説,開花ホルモン説などの諸説があるといわれて いるが,結笑現象が全国的に大体同じ傾向で,年度によって豊凶の差があるということに ついてては,気象因子によることも考えられる.いずれにしても年度によって結笑の豊凶 があることは,事業用クネの需給計画上極めて不安定であるということがわかる.
2.タ ネ の 発 穿
ヒノキ・の結笑が年度によって豊凶の差が著しいことは前にも述べたが,豊作年度のタネ の発芽力は凶年のそれに比べて良好であり,反対に,凶作年度のクネは採取も困難である
うえに,発芽率も低い傾向があるといわれている・また,この傾向は母樹の単木について もいわれることで,坂ロ9りが木曽地方で調査した報告によれば,母樹1本あたりタネの精 選重量は:豊年で5389,並年で2279,凶年のそれは1539であり,その発芽率は,それぞれ 35%,24%,14%であったという.
筆者は,1956年10月下旬,熊本地:方において,ナンゴウヒ(さし木)と,比較のために 実生ヒノキを選び,それぞれ母樹4論ずつについて母樹毎に球果を採取し,その発芽試験 を実施した(供試材料はさきにのべたLヒノキの多型性,球果の形状の項参照)・
採取した球果は,これを精選し,そのタネを発芽試験に供した.発芽試験は定温器(23℃)
を用い,径10cmのペトリ皿に円形ろ紙を敷き,各母樹別4個ずつのペトリ皿に1個あた り100粒ずつのタネを並べ,置床期聞を21日間として実施した・試験の結果は表6のとお
りである.
この結果,球果着生量の多いNo.1および5はそれぞれ44.8%,35.8%を示し,着生 量の普通とみられるNo,3,4,6および8はそれぞれ2、3%,155%,6.5%,13・8%で あり,着生量の最も少ないNo.2,7はそれぞれ9.8%,95%を示した・これからみても 概して着生量の多い球果ほど発芽力の旺盛なタネを生産する傾向がうかがわれる・また,
クネの重量はその充笑度に関係があり,発芽率の高いものほど重量は大きく,低いものほ ど小さい傾向を示しているということができる.
スギでは,さし木によるものは球果の着生量が少なく,かつ,シイナの多い傾向があり,
ことに,九州地方におけるスギの在来品種,アオスギ,アヤスギなどでは壮丁時までほと んど球果の着生をみないことが多いが,さし木によるナソゴウヒもまた,一般に結笑性が
表6。母樹別タネの発芽試験成績
× No.
項詮\
ナ ン ゴ ウ ヒ1 2 3 4
実 生 ヒ ノ キ
5 6 7 8
kgあたり騒擾1 3 ・S・・423・…739・6・・376・6・・1292・…67・・…35・・3・・759・3・・
軸壁あ惟 2・9C・2・36・1・3522…51 ・・4251・4912・8551・317
︵置床後3週間︶ 発芽率% ︵置床後引D日間︶ 発芽勢%
1234
Q/2︽ゾ∩﹂4.44T4・ −Q/OQ/1 雪ユ11う自5
う一〇ノー^0角∠111
ん∠ノ0504T36﹂3
ノ00/4ツ・2079
噌二噌■翻 うω7・151■111 平均144・89・82・315・・135・86・59・513・8
1234
31う耐74343 190Q/
1 111轟凸乙︽研 ︽﹂ρ︶7・0旭■i − ■︶14773縄﹂∩∠う副 5664τ7・ ーハU7・00
11
12 17 11 15平均138・39・82・31L31・9・36・・9・・13・8
平醗荊数1&55・45・89・31
8.7 7.7 7.7 6.4発芽係数15・271・82・・r・1・6714・11・・841・232・16
注:平均発芽日数=Efv/N f:毎日の発芽粒数 V:置床からの日数 1V:発芽総数
発芽係数=発芽率/平均発芽日数
乏しいとされている。しかしながら発芽試験の結果,ナソゴウヒのうち,No.1のみは球 果の着生量も多く,発芽率も高い結果を示したということは,たまたまNo.5の実生ヒノ
キに隣接して生育していた独立樹であったためであると考えられる.すなわち,このこと は,一般に林木は自家不和合性が強く,他家受精の性質があるということも,その一因で あろうと推測される.
3.考 察
ヒノキではその結実年度に豊凶の差が著しく,これまでの調査結果からおよそ3〜4年 毎に豊作の年があり,その他の年度では球果の採取すら困難なほど凶作の場合が多く,と くに,豊作の翌年はほとんど凶作となる傾向がある.そしてこの結実現象は,全国的に概 ね同じ傾向を示すことから,その一因として気象要因によることも考えられる.上田t41)は 京都府下においてスギのタネの豊凶と気象との関係について調査した結果から,豊作の前 年にスギの成長期間(6月〜10月)の5ヵ月の降水量が少なく,かつ,平均気温の高いこ
とを認めている.
つぎに,タネの発芽力については,結実量の豊凶と深い関係があり,豊作年度のタネの 発芽力は凶作の年に比べて良好である.これらの関係は母樹個体別についても同じ傾向が あり,球果着生量の多い母樹は少ない母樹よりもそのタネの発芽率は高い傾向にある・そ して,球果着生量は,母樹林の遺伝的形質において純度の高い場合ほど少なく,低い場合