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ベ ロ毒 素 産 生性/腸 管 出血 性 大 腸 菌 の ス ク リー ニ ング に用 い られ る
Beutin血 液 寒 天 培 地 の基 礎 的検 討
石川県予防医学協会 木 村 晋 亮 小 崎 明 子 佐 々 木 富 子 小 松 原 彰 (平成10年10月5日 受付) (平成11年1月14日 受理)Key words: verocytotoxin-producing Escherichia coli, enterohemorrhagic
Esche-richia coli, Beutin' s blood agar
要 旨 ベ ロ 毒 素(VT)産 生 性/腸 管 出 血 性 大 腸 菌(VTEC/EHEC)の ス ク リー ニ ン グ に は,Beutin洗 浄 羊 血 液 寒 天 培 地 で の 溶 血 が 有 用 な 指 標 と な る.そ こ で,更 に 良 い 培 地 へ の 改 良 を 目指 して,血 液 の 洗 浄 回 数 と 濃 度,2価 イ オ ンの 種 類 と濃 度,基 礎 培 地 の 種 類 に つ い て,VT産 生 大 腸 菌27株,VT非 産 生 大 腸 菌 74株,Escherichia hermanii1株 を 用 い,基 礎 的 な 検 討 を加 え た.羊 血 液 の リ ン 酸 緩 衝 液(PBS)(pH72)に よ る 洗 浄 回 数 の 比 較 で は,原 法 の3回 よ り5回 の 方 が,ま た 血 液 の 濃 度 は5%よ り4%の 方 が よ り溶 血 の 観 察 に 適 して い た.2価 金 属 イ オ ン で は,CaCl2とMgCl2と を用 い た が,溶 血 は 前 者 の 方 が よ り明 瞭 で, 濃 度 はLOmMが 適 当 で あ る こ と を確 認 し た 。 な お2価 イ オ ンが な い 場 合 に は,一 部VT産 生 株 が 非 溶 血 と な っ た 。 基 礎 培 地 に つ い て は,原 法 のSoybean-Casein-Digest(SCD)寒 天 培 地 の ほ か,普 通 寒 天培 地, Heart-lnfusion(HI)寒 天 培 地,Brain-Heart-Infusion(BHI)寒 天 培 地 を 用 い て 比 較 し た が,溶 血 が 鮮 明 な の はSCD寒 天 培 地 とHI寒 天 培 地 で あ っ た.ま た 両 培 地 の 比 較 で は,溶 血 環 は 前 者 の 方 が 大 き い が, 溶 血 は 後 者 の 方 が 見 や す く,ま た ± の 判 定 も後 者 の 方 が よ り容 易 で あ っ た.
以 上 の 結 果 か ら,VTEC/EHECの ス ク リ ー ニ ン グ に用 い るBeutin血 液 寒 天 培 地 に は,HI寒 天 培 地 を
基 礎 培 地 に,CaC12を10mMに,羊 血 液 はPBS(pH72)で5回 洗 浄 し た も の を4%に 添 加 し た 方 が よ い と い う結 論 に 達 した. 序 文 い わ ゆ る 病 原 大 腸 菌 の あ る株 が,羊 血 液 寒 天 培 地 上 で 溶 血 を示 す こ と がGiles&Sangsterに よ っ て 初 め て 報 告 さ れ た が1),こ れ ら大 腸 菌 の 溶 血 を み る の に,初 期 に は 脱 繊 維 した 羊 血 液 を加 え た 寒 天 培 地 を使 用 し て い た 。そ の 後Beutinら は改 良 を 加 え,血 液 寒 天 培 地 に は リ ン酸 緩 衝 液(PBS)(pH 7.2)で3回 洗 浄 した 羊 血 球 を5%に,塩 化 カ ル シ ウ ム(CaCl2)を10mMに 調 整 す る こ とに よ り,安 定 した 溶 血 が 観 察 され る と した2).我 々 も前 報3)で は,こ の 組 成 の血 液 寒 天 平 板 培 地 を用 い 溶 血 の 判 定 を した.と こ ろ でBeutinら は そ の変 遷 の 経 緯 に つ い て,文 献 上 で は特 に 言 及 して お らず,ま た 個 々 の 成 分 に つ い て も検 討 の 記 載 が な い こ とか ら,果 た して こ の 培 地 が 最 良 な の か ど うか,血 球 の 洗 浄 回 数,濃 度,2価 イ オ ンの 必 要 性 と濃 度,基 礎 培 地 に つ い て,追 試 と検 討 を行 っ た 。 材 料 と方 法 1. 供 試 菌 株 別 刷 請 求先:(〒920-0365)金 沢 市神 野 町 東115 (財)石 川県 予 防 医 学協 会 検 査 部 木 村 晋 亮
Table1•@ Number of strains used in each experiment
*hemolysis on Beutin' s blood agar plate
Table2•@ List of verocytotoxin-producing E. coli strains used in experiments and hemolysis on5%washed sheep blood agar plate
* basal medium: Soybean-Casein-Digest agar 'Eiken'
溶 血 の 指 標 に 用 い た ベ ロ 毒 素 産 生 性/腸 管 出 血 性 大 腸 菌(VTEC/EHEC)に は,Table1(実 験C) に 示 した27株 も し くは そ の 一 部 を使 用 した.そ の 大 部 分 は分 離 株 で あ るが,保 存 株 が6株 含 ま れ る. またVT非 産 生 株 は,Beutin血 液 寒 天 培 地 上 で 溶 血 を 示 す10株 と 非 溶 血 の64株 の 計74株 で,2 株 が 保 存 株 で あ る 以 外 はす べ て 分 離 株 で,そ の 全 体 も し くは一 部 を 使 用 した.以 上101株 の 大 腸 菌 に加 え て,Ol57抗 原 を有 す るEscherichia hermanii
1 株 も参 考 の た め に使 用 し た. また 以 下 の 各 実 験 で は,Table1に 示 し た よ う に,実 験Aで は25株(VT産 生 株19,非 産 生 株 6),実 験Bで は30株(VT産 生 株23,非 産 生 株7), 実 験Cで は全102株(VT産 生 株27,非 産 生 株75) を用 い た. 使 用 した 個 々 のVT産 生 株 のO:H血 清 型 と 株 数 をTable2に,ま たVT非 産 生 株 のO血 清 型 と株 数 をTable3に 示 した. 2. Beutin血 液 寒 天 培 地(Beutin培 地)の 組 成 (原 法) Beutinら が 最 終 的 に 用 い た 培 地 の 組 成 をTa-ble4に 示 した.我 々 が 用 い たBeutin培 地 も こ の 処 方 に準 じ,滅 菌 し た トリ プ トソ イ寒 天 培 地‘ 栄 研'(R)にPBS(pH7.2)で3回 洗 浄 した 羊 赤 血 球(日 本 生 物 材 料 セ ン ター)を 血 液 量 と して5%に な る よ う に加 え,更 に 塩 化 カ ル シ ウ ム(CaCl2)を 最 終 濃 度10mMに な る よ う に 調 整 し,直 径90mmの ペ トリ皿 に20mlあ て 分 注 し,平 板 培 地 と して 使 用 した. 3. Beutin培 地 へ の接 種 供 試 株 は, 前 日 にBTB乳 糖 寒 天 培 地 に 劃 線 し 37℃1夜 培 養 後 にBeutin培 地 に ス ポ ッ ト し,37
320 木村 晋亮 他
Table3•@ List of verocytotoxin-nonproducing E. coli strains used in experiments and hemolysis on 5% washed sheep blood agar plate
* not hemolysed on Beutin' s blood agar** , but hemolysed on another blood agar **basal medium: Soybean-Casein-Digest agar 'Eiken'
Table4•@ Beutin' s washed sheep blood agar
Tryptose blood agar base (Difco)*
supplemented with10mM CaCl2and
5% defibrinated sheep blood (Oxoid: Statens Seruminstitut) washed three times in phosphate-buffered saline, pH 7.2
*Soybean-Casein-Digest agar ℃1夜 培 養 後 に,溶 血 の 有 無 と大 き さ を 観 察 した. 4. 溶 血 の 判 定 溶 血 は,ス ポ ッ ト培 養 した コ ロ ニ ー の 周 辺 に明 瞭 な β溶 血 が み られ る もの を陽 性 と した.大 き さ は1mm以 下 を ±,3mm台 ま で を+,5mm台 まで を++,6mm以 上 を+++と 表 示 した.ま た 溶 血 が 起 きて い る か ど う か 判 然 と し な い もの に?を, 溶 血 環 の 辺 縁 が ぼ や け て 不 明 瞭 な もの に()を 付 した. 5. 観 察 日数 の 検 討 VT産 生 株27株 とVT非 産 生 株75株 を 原 法 に 準 じたBeutin培 地 に ス ポ ッ ト し,1日(1夜,約 18時 間)培 養 後 と2日(約42時 間)培 養 後 に 溶 血 の 有 無 と大 き さ を観 察 した. 6. 羊 血 液 の洗 浄 回 数 の検 討 Beutin培 地 に 添 加 す る 血 液 の 洗 浄 回 数 に よ っ て 溶 血 に 差 異 が 生 ず る か ど う か にっ い て,VT産 生 株19株,VT非 産 生 株6株 を用 い て 検 討 した. 血 液 に は,市 販 の 抗 凝 固剤 の 入 っ た 羊 血 液 を,洗 浄 回数0回(1回 遠 心 し,上 清 を 除 い た 後 の 血 球 を PBS(pH7.2)で2倍 量(血 液 量)に し,5%に 添 加),3回,5回 の3条 件 で比 較 した. 7. 血 液 の濃 度 の検 討 原 法 で は5%と な っ て い る 血 液 濃 度 が 果 た して 溶 血 の観 察 に最 適 か ど う か を 検 討 す る た め,PBS
(pH7.2)で5回 洗 浄 し た羊 血 球 を血 液 量 と して3 %,4%,5%に な る よ うに 基 礎 培 地 に加 え,ス ポ ッ ト培 養 した25株(VT産 生 株19株,VT非 産 生 株 6株)に つ い て,1夜 培 養 後 に溶 血 の 程 度,溶 血 環 の 大 き さ,辺 縁 の 状 況,± の 判 定 の 容 易 さに つ い て 観 察 した. 8.2 価 金 属 イ オ ンの 影 響 原 法 で は,CaCl2,を10mMに な る よ うに 添 加 し て い る が,こ こ で は 対 照 にMgCl2を 同 濃 度 に加 え た もの と,両 イ オ ンが 入 っ て い な い培 地 の3種 に つ い て比 較 した.こ の 検 討 に は,PBS(pH7.2)で 5回 洗 浄 し た羊 血 液 を4%に 添 加 し,実 験 に は, VT産 生 株23株,VT非 産 生 株7株 を用 い た. 9. 基 礎 培 地 の 検 討 基 礎 培 地 に は,原 法 に 準 じ た ト リ プ ト ソ イ (SCD)寒 天 培 地`栄 研'(R)のほ か,普 通 寒 天 培 地 `栄研 ,ハ ー トイ ン フ ユ ジ ョ ン(HI)寒 天 培 地 `栄研' ,ブ レイ ンハ ー トイ ン フ ユ ジ ョ ン(BHI)寒 天 培 地`栄 研'の4種 を用 い,CaCl2を10mMに, 5回 洗 浄 した 羊 血 液 を4%に 加 え た 血 液 寒 天 培 地 にVT産 生 株19株,VT非 産 生 株6株 を ス ポ ッ ト し,1夜 培 養 後 に 溶 血 の 有 無 と大 き さ を観 察 した. 10. 同一 基 礎 培 地 で の 製 品差 の 影 響 基 礎 培 地 の 検 討 に 用 い たHI寒 天 培 地`栄 研' (培地A)と 対 照 に 選 ん だ 国 産 他 社 の 同培 地(培 地 B)と に,VT産 生 株19株,VT非 産 生 株6株 をス ポ ッ ト し,1夜 培 養 後 に 溶 血 の 観 察 を した. 結 果 1. 観 察 日数 の検 討 Beutin培 地 に接 種 したVT産 生 株27株 は 全 株 が1日 後 に ±∼++の 溶 血 を示 し,平 均 径 は27 mmで あ っ た.2日 後 に は+∼+++と な り,平 均 径 は5.1mmで,2日 後 は1日 後 の19倍 の 径 と な っ た(Table2). 一 方,VT非 産 生 株 で は,74株 中10株(14%) が 溶 血 陽性 で,1日 後 の 平 均 径 は2.5mm,2日 後 の 平 均 径 は4.6mmと,や は り1.8倍 の 増 が み られ た (Table3).ま た,Table3中 の()の3株 はBeu-tin培 地 で は 不 溶 血,市 敗 の 羊 血 液 寒 天 培 地 で は溶 血 を示 した株 で あ る.ま た,E.hermaniiは 不 溶 血 で あ っ た. 以 上 の 供 試 株 の うち,2日 後 に溶 血 陽 性 の 株 は 1日 後 で もす べ て 溶 血 陽 性 で あ っ た. 2. 羊 血 液 の洗 浄 回数 の 検 討 Beutin培 地 に 添 加 す る 羊 血 液 の 洗 浄 効 果 を み た と こ ろ,未 洗 浄 よ り も3回 洗 浄 の 方 が,3回 洗 浄 よ り も5回 洗 浄 の 方 が 溶 血 環 の 直 径 が 大 きか っ た.平 均 す る と,未 洗 浄(0×)で13mm,3回 洗 浄(3×)で15mm,5回 洗 浄(5×)で は2.5mm で あ っ た(Table5).25株 中溶 血 株 は21株 で,こ
Table5•@ Influence of blood washing times on the hemolysis on Beutin's blood agar plate
*after overnight incubation at37•Ž
**basal medium: Soybean -Casein-Digest agar `Eiken' ***one of the7strains of0157: H7/VT1 , 2
322 木村 晋亮 他
Table6•@ Influence of sheep blood concentration on the hemolysis on Beutin' s washed blood agar plate*
*basal medium: Soybean-Casein-Digest agar Tiken' sheep blood: 5times washed with PBS, pH7.2 **after overnight incubation at37•Ž
Table7•@ Influence of divalent metal ion on the hemolysis on Beutin' s blood agar plate
*after overnight incubation at37•Ž , -•`++,?(doubtful) **basal medium: Soybean-Casein-Digest agar Tiken'
Supplement: 4%5times washed sheep blood ***() shows that the margin of hemolysed ring is diffuse
の う ち0157:H7/VT1,2の1株 は5× で の み 溶 血 陽性 で あ っ た.他 の 溶 血 株 の う ち,VT産 生 の 18株 とVT非 産 生 の2株 は,洗 浄 の 回数 で 溶 血 の 程 度 に差 は 出 た もの の,有 無 に変 化 は な か っ た. 3. 血 液 の 濃 度 の検 討 接 種 した 溶 血 株21株 の37℃1夜 培 養 後 の 溶 血 の程 度 は ±∼++で,溶 血 環 の 平 均 径 は,血 液 濃 度3%で32mm,4%で2.7mm,5%で22mm と,平 均 径 は 血 液 濃 度 が 低 い と大 き くな る 傾 向 が み られ た.そ して 血 液 濃 度3%の 場 合,溶 血 環 の 辺 縁 が 不 明 瞭 で,特 に ±の 判 定 が 困 難 で あ っ た. また5%の 場 合,血 球 濃 度 が 高 い た め,ペ トリ皿 の 裏 に印 した 区 画 の 枡 目や 番 号 の数 字 が 見 づ ら く ス ポ ッ トし に くか っ た ほ か,や は り±の 判 定 が 容 易 で なか っ た.一 方4%添 加 の 培 地 で は,大 変 明 瞭 な 判 定 が 可 能 で あ っ た(Table6). 4.2 価 金 属 イ オ ンの 影 響 Beutin培 地 に お け るCa2+とMg2+の 溶 血 に 及 ぼ す 影 響 を み た と こ ろ,原 法 のCaCl、10mM添 加 で は,溶 血 株25株 全 株 が 溶 血 ±∼++で,平 均 径 は 2.5mmで あ っ た.こ れ に対 しMgCl210mM添 加 で は,溶 血 株 は 全 株 陽性 で あ っ た が,溶 血 環 の 辺 縁 が ぼ や け て不 明 瞭 とな る傾 向 が み られ,溶 血 環 の 平 均 径 も2.2mmとCaCl2添 加 よ り小 さ か っ た.ま た 両 イ オ ン無 添 加 で は,溶 血 株25株 中9株 が 溶 血 陰 性,7株 が?で 判 定 不 能,溶 血 陽 性 株 の 溶 血 の 程
Table8•@ Influence of basal medium on the hemolysis on Beutin' s blood agar plat
*basal medium: SCD (Soybean-Casein-Digest agar) , NA (Nutrient agar)
'Eik
en' HI (Heart Infusion agar), BHI (Brain Heart Infusion agar) supplement: 4% 5times washed sheep blood and 10mM CaCl2 **() shows that the margin of hemolysed ring is diffuse
. ***after overnight incubation at37•Ž
324 木村 晋亮 他 度 も ±∼+,そ の 平 均 径 も0.8mmと 小 さ か っ た (Table7). また,CaC12の 濃 度 に つ い て,原 法 の10mMと 2倍 量 の20mM添 加 とで 比 較 を 行 っ た と こ ろ,10 mMの 平 均 径 は2.5mm,20mMは2.4mmと,ほ と ん ど差 は み られ な か っ た. 5. 基 礎 培 地 の 検 討 4種 の 基 礎 培 地 を 用 い たBeutin培 地 で の 溶 血 の状 況 をTable8に 示 した. 基 礎 培 地 に普 通 寒 天 培 地 を用 い た 場 合,1日 後 の 平 均 径 は3.6mmと 溶 血 環 は 大 きい が 輪 郭 が 不 鮮 明 で,溶 血-と ±の 区 別 が 困難 で,こ の不 鮮 明 さ は2日 後 に は 更 に 増 大 した. BHI寒 天 培 地 の 場 合,コ ロ ニ ー の 発 育 が 非 常 に 良 好 な た め に,溶 血 環 が コ ロ ニ ー に 隠 れ て し まい, 溶 血 株 の 平 均 径 も1.1mmと 小 さ く,溶 血 の 程 度 を 観 察 す る の に は適 して い な か っ た.ま たVT産 生 株19株 中1株 は溶 血 陰 性 で あ っ た. 原 法 のSCD寒 天 培 地 とHI寒 天 培 地 の 基 礎 培 地 で は,1日 後 の 溶 血 環 の 大 き さ は 前 者 で ±∼ ++,平 均2.6mm,後 者 で ±∼+,平 均1.8mm と後 者 の 溶 血1環の 方 が 小 さか っ た.ま た 溶 血 環 の 辺 縁 は 両 基 礎 培 地 と も明 瞭 で あ っ た が,両 者 を比 較 す る と,後 者 の 方 が よ り明 瞭 で あ り,特 に ±の 判 定 が 容 易 で あ っ た. 6. 同一 基 礎 培 地 で の 製 品 差 の 影 響 HI寒 天 培 地 を 基礎 培 地 に 使 用 す る場 合,メ ー カ ー 間 で 差 が 生 ず る か ど う か を み た と こ ろ,Ta-ble9に 示 す よ う に,溶 血 の 程 度 で,培 地Aが+∼ ++,培 地Bが ±∼+,溶 血 環 の平 均 径 も,前 者 で2.4mm,後 者 で1.6mmと 差 が 見 られ た. 考 察 い わ ゆ る病 原 大 腸 菌 の あ る株 が,羊 血 液 寒 天培 地 上 で 溶 血 を 示 す こ とがGiles&Sangsterに よっ
Table9•@ Influence of quality of basal medium on the hemolysis on Beutin' s blood agar plate
*basal medium
supplement: 4% 5times washed sheep blood and10mM CaCl2 **after overnight incubation at37•Ž
て 報 告 さ れ1),Orskovは 後 に こ の 溶 血 株 のO血 清 型 はO26で あ る こ と を 明 らか に し た4).ま た GronrossはO26の 外 にO44も 溶 血 を 起 こ す こ と5),更 にCharterは 大 腸 菌 が 原 因 で 起 き る 幼 児 の 下痢 症 や 新 生 子 牛 の 伝 染 性 下 痢 症 か ら分 離 され たO114も 溶 血 を起 こす こ とか ら,こ の 溶 血 能 は 病 原 大 腸 菌 の 病 原 性 と関 係 が あ る の で は な い か と した6). Cavalieriら は,こ の 病 原 大 腸 菌 の 溶 血 素 は大 腸 菌 の ビ ル レ ンス を助 長 す る もの で あ る と し,こ れ ら 溶 血 株 は 下 痢 患 者 か ら多 く分 離 さ れ る の に 対 し,健 常 者 か ら は極 め て 稀 に しか 分 離 さ れ ない こ と は,こ の こ とを 裏 付 け て い る と した7).こ の こ と はBeutinら も追 認 し て お り,β 様溶 血 を起 こ す enterohemolysinを 産 生 す る 大 腸 菌 は,下 痢 症 患 者 か ら しか 分 離 して い な い8).ま た 患 者 由 来 の 病 原 大 腸 菌 で あ っ て も,O26は 高 頻 度 に溶 血 を 起 こ す の に対 し,O126は 極 め て 低 頻 度 で あ る こ と,更 にO26の 物 遺 伝 子 は プ ラ ス ミ ドに コ ー ド さ れ て い る の に対 し,O114や0126の そ れ は染 色 体 上 に あ る こ と を示 した8)9). 1977年,KonowalchukはVero細 胞 に毒 性 の あ るベ ロ毒 素(VT)を 産 生 す る 大 腸 菌(VTEC)が あ る こ と を報 告 して い るが10),Beutinら は 大 腸 菌 のVT産 生 能 と溶 血 能 と の 関 連 で,VT産 生 株 は す べ て溶 血 を示 す が,VT非 産 生 株 で も一 部 溶 血 を起 こす 株 もあ り,両 者 に高 い相 関 性 は あ る もの の,事 象 と し て は 別 の も の で あ る と言 及 し て い る9). これ らの大 腸 菌 の 溶 血 をみ る の に,初 期 に は脱 繊 維 した羊 血 液 を加 え た 寒 天 培 地 を使 用 して い る が,我 々 もVT非 産 生 のOl8,26,114等 が 市 販 の 血 液 寒 天 培 地 上 で 溶 血 を起 こす こ と を観 察 して い る3). これ ら溶 血 の 程 度 を定 量 的 に取 り扱 う た め に, Springerら は 血 球 を 含 む 液 体 培 地 を 考 案 し た が11),Beutinら は こ れ に 改 良 を加 え,溶 血 を み る 血 液 寒 天培 地 に は,リ ン酸 緩 衝 液(PBS)(pH7.2) で3回 洗 浄 した 羊 血 球 を5%に,CaCl2を10mM に加 え る こ と に よ り,安 定 した 溶 血 が 観 察 さ れ る と した2). 最 近Beutinら は 糞 便 か ら のVTECの 分 離 に は,少 量 の 便 をTryptic soy broth(Difco)に 入 れ て37℃20∼22時 間 静 置 培 養 し,翌 日100∼10-7に 希 釈 し,そ の0.1mlを 前 記 血 液 寒 天 培 地 に塗 抹 し, 37℃3時 間 培 養 後 に α溶 血 を,1夜 培 養 後 に全 溶 血 を判 定 す る の が よい と して い る12). VT産 生 性 とBeutin培 地 で の 溶 血 と の 間 に 高 い 相 関 性 が あ る こ とか ら2),我 々 もVTEC/EHEC の ス ク リー ニ ング に は,Beutinら が 用 い た と同 じ 組 成 の 血 液 寒 天 培 地 に,分 離 培 地 のSorbitol Mac-Conkey agarに 生 育 した コ ロニ ー を 塗 抹 で は な く 穿 刺 して,37℃1夜 も し くは2日 培 養 後 に 溶 血 の 判 定 を して きた3).し か しBeutinら は こ の 培 地 が 最 良 な の か ど うか に つ い て は 言 及 して い な い 。 そ こ で 我 々 は 個 々 の 点 に つ い て 追 試 と検 討 を 行 っ た. 観 察 日数 に つ い て は,1日 目 よ り も2日 目の 方 が 溶 血 環 が 大 きか っ た が,VT産 生 株 で2日 目に 溶 血 した 株 はす べ て1日 目 に も溶 血 を示 した こ と か ら,ス ポ ッ ト後 の 溶 血 の 判 定 は37℃1夜 培 養 後 で 充 分 で あ る と考 え られ た. 羊 血 液 の 洗 浄 回 数 に つ い て は,VT産 生 株 の1 株 が,3回 洗 浄 で 溶 血 せ ず,5回 洗 浄 で 溶 血 し た こ とか ら,少 な く と も5回 の 洗 浄 が 必 要 で あ る と思 わ れ る.ま た そ の 濃 度 に つ い て も,3%,4%,5 %添 加 で比 較 した と こ ろ,溶 血 の見 や す さ,明 瞭 さ,± の 判 定 の 容 易 さか ら,4%が 至 適 と考 え られ た. 2価 の 金 属 イ オ ンの 添 加 に つ い て は,添 加 し な い と本 来 溶 血 す る株 で も不 溶 血 に な る こ とが あ る 一 方 ,MgCl210mM添 加 で は,原 法 のCaC1210mM 添 加 に 比 べ,溶 血 環 の 辺 縁 の不 明 瞭 さ や 径 の 小 さ さが 目立 っ た.ま た 濃 度 の 比 較 で は,10mMと20 mMと で は 差 が な か っ た こ とか ら,原 法 どお り, CaCl2を 最 終 濃 度10mMに 添 加 す る の が 最 適 と判 断 した. Beutin培 地 に用 い る基 礎 培 地 に つ い て は,こ れ まで 原 法 に準 じたSCD寒 天 培 地 を用 い て きた が, HI寒 天培 地 との 比 較 で は,溶 血 の 明 瞭 さ で は 両 者 に 差 は な い も の の,± の判 定 で は後 者 の方 が 前 者 よ りも容 易 で,基 礎 培 地 と して は,常 用 して き た
326 木村 晋亮 他 SCD寒 天 培 地 よ り もHI寒 天 培 地 の 方 が 優 れ て い た.し か し同 じHI寒 天 培 地 で あ っ て も,メ ー カ ー に よ り若 干 の 差 が み ら れ,こ れ ま で の 成 績 か らは, HI寒 天培 地`栄 研'が 溶 血 の 見 や す さ,溶 血 環 の 大 き さ等 で優 れ て い た.一 方,同 一 メ ー カ ー の ロ ッ ト差 につ い て は検 討 を行 っ て い な い が,そ の 差 は メ ー カー間 の 差 よ りは 小 さ い の で は な い か と思 わ れ る. な お,血 液 の 質 に つ い て は これ ま で検 討 した こ とが な く,動 物 種 に よる 差,生 産 す る フ ァ ー ム に よ る差 等 が 考 え られ る が,我 々 が こ れ まで 用 い て き た の は,日 本 生 物 材 料 セ ン タ ー か ら供 給 さ れ る 緬 羊 無 菌 保 存 血 の み で,こ れ に つ い て は今 後 検 討 す る必 要 が あ る 。 以 上 の検 討 か ら,原 法 のBeutin培 地 を改 良 し, 羊 血 液 の 洗 浄 回数 を3回 か ら5回 に,血 液 の 濃 度 を5%か ら4%に,基 礎 培 地 をSCD寒 天 培 地 か ら HI寒 天 培 地 にす る こ とに よ り,溶 血 の 判 定,中 で も溶 血 ± の判 定 が 極 め て 容 易 に な っ た.こ れ まで の と こ ろ,こ の 改 良 され たBeutin培 地 に接 種 され たVT産 生 性 大 腸 菌 は 全 株 が 溶 血 陽性 で,溶 血 陰 性 の例 は な か っ た.し か しこ の 点 につ い て も更 に 多 くの 菌 株 に つ い て 検 討 す る必 要 が あ ろ う。 文 献
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