福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009)
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エアーセル式車いすシートの開発
西村 博之
*1本 明子
*1石川 弘之
*1Development of the Air Cell-type Wheelchair Sheet
Hiroyuki Nishimura, Akiko Moto and Hiroyuki Ishikawa
高齢社会の進展や高齢者・障害者に対する社会的インフラの整備,車いす利用者に対する心理的バリアの減少な どが要因となって,車いす利用者が年々増加している。しかしながら,車いす利用者にとって既存の車いすシート では,床ずれの心配や長時間の着座による痛みや不快感等の不安・問題が発生しているようである。そこで,本研 究では車いす利用者の生活の質の向上を目指して,以前開発した床ずれ防止マットレスの技術を応用した,エアー セルが交互に膨縮を繰り返す新しい機能を持った車いすシートの開発を行った。開発品と市販品の体圧分散性を比 較したところ,同等以上の性能を有していることが分かった。
1 はじめに
近年,高齢社会が進展し,2015年には高齢者(65歳 以上)の割合が25%を超え,4人に1人が高齢者になると の推計が出されている1)。また,1994年には「高齢者,
身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の 促進 に 関す る 法律(ハ ート ビル 法)」が ,2006年に は
「高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する 法律(バリアフリー新法)」が施行され,高齢者や障害 者に対する社会的インフラの整備も進んできている。
さらには,2000年に介護保険法が施行され,車いす等 の福祉用具のレンタルサービスも行われている。こう いった状況から車いすの利用者が年々増加してきてお り,現在の車いす利用者は40万人以上と推定されてい る。
ところが,長時間車いすに乗っていると,床ずれが 心配である,体がずれてしまう,痛みや不快感が生じ るといった不安や問題が発生してくる。しかしながら,
現在市販されている車いすシートは,一度着座すると その状態のままクッションが沈み込んでいく静止型が ほとんどであり,上記の不安・問題が解決できている とは言い難い。
このような不安・問題を解決すべく,本研究では車 いす利用者のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上 を目的とした。そこで,以前開発した床ずれ防止ハイ ブリッドエアマット「P・wave(ピーウェーブ)」の技術 を応用して,エアーセルが交互に膨縮を繰り返す新し い機能を持った車いすシートの開発を行った。
ここでは,市販品と開発品の体圧分布の測定を行い,
開発品の体圧分散性について検討を行った結果を報告 する。
2 実験方法 2-1 体圧分布測定
開発品の体圧分散性を市販品と比較するため,ニッ タ(株)製タクタイルセンサシステム(圧力分布測定シ ステム)を用いて体圧分布測定を行った。測定条件を 下記に示す。
〈測定条件〉
被験者:12名(属性は表1 被験者の属性に示す) 測定時間:30分間
使用車いす:カワムラサイクル製介助型車いす (図1参照)
使用シート:市販品,開発品(図2参照)
膝関節は90度にして,背中は背もたれに接し,肘は アームレストに置き,安静状態で測定する。
図 1 介助型車いす
*1 インテリア研究所
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市販品 開発品
図 2 測定に使用した車いすシート
表 1 被験者の属性
被験者 性別 年齢
(歳) 身長 (cm)
体重 (kg)
体脂肪 率(%) A 男 59 168 61.2 28 B 男 47 171 71.2 22 C 男 31 173 62.0 20 D 女 57 153 48.6 26 E 男 70 162 62.0 24 F 男 39 177 84.2 30 G 男 40 179 79.0 21 H 男 31 172 76.2 18 I 男 31 166 52.0 17 J 男 32 171 86.8 30 K 男 36 166 67.4 24 L 男 36 165 70.2 27
3 結果と考察
3-1 体圧分布測定結果
被験者Hの市販品の体圧分布測定結果を図3(体圧ス ケールは図4を参照)に,開発品の体圧分布測定結果を 図4に示す。
一般的に,床ずれは,骨の出ているところ(骨突出 部位)に体重が集中することによって,皮膚組織への 圧迫が継続されることで発生すると言われている。そ のため,高い圧力が同じ部分に長時間かからないよう にすることが床ずれの予防となる。
市販品は,着座直後はクッション性があるため,良 好な体圧分散となっている。しかし,安静状態で着座 していると徐々にクッションが沈み込んでいき,体圧 分散性が悪化するため,座骨部において時間経過と共 に圧力が高くなり,圧力が高い部分の面積も拡大して いる。よって,床ずれになる可能性も高くなっている といえる。
一方,開発品はエアーセルが交互に膨縮するため,
圧力の高い部分が膨縮に合わせて入れ替わり,膨縮中 においては圧力の高い部分が減少し,良好な体圧分散 性を有している。この傾向は,着座30分後も変わりな く,床ずれ予防の効果が持続すると考えられる。
次に,被験者Hの左座骨部付近のピーク体圧の変化 を図5に示す。
25 30 35 40 45 50 55
0 5 10 15 20 25 30
時間(分)
ピーク圧(mmHg)
市販品
開発品
開発品の平均曲線
図 5 左座骨部付近のピーク圧の変化
着座直後 着座 30 分後 図 3 市販品の体圧分布図
着座直後 着座 30 分後
mmHg エアーセル膨縮中
図 4 開発品の体圧分布図
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市販品は,時間経過と共にピーク圧が徐々に上昇し,
変動がほとんどない。そのため,前述の通り,床ずれ になる可能性も高くなっているといえる。
開発品は,膨縮に合わせてピーク圧が大きく変動し ており,周期的に35mmHg以下の体圧が実現できている ため,床ずれになりにくいと考えられる。また,開発 品の ピ ーク 圧 の平 均 曲線 を 見る と 市販 品 と比 較 して 10mmHg程度の体圧の低減ができており,市販品と比較 して体圧分散性が良いといえる。
その他の 11 名の被験者に関しても,同様の傾向で あった。
4 まとめ
本年度の研究では,開発品と市販品との体圧分散性 の比較を行った。エアーセルが交互に膨縮を繰り返す ことにより,開発品が良好な体圧分散性を有し,ピー ク体圧も市販品より低くなることが判明した。また,
30分着座後も同様な傾向を示したことから,この良好 な体圧分散性は長時間に渡って継続し,床ずれになり にくい環境を提供できていると考えられる。
5 参考文献
1)総務省統計局,統計トピックス(人口推計),No.14