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Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 著者 Author(s) 掲載誌 巻号 ページ Citation 刊行日 Issue date 資源タイプ Resource Type 版区分 Resource Version 権利 Rights DOI

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(1)

Kobe University Repository : Kernel

タイトル

Title

取締役責任追究目的による株主会社資料閲覧権について : デラウェア

州会社法を中心として(1)(Some Problem Concerning the Shareholder's

Rights to Inspect Corporate Books and Records which could be used

for Pursuing Director's Liability in The state of Delaware (1))

著者

Author(s)

梁, 爽

掲載誌・巻号・ページ

Citation

六甲台論集. 法学政治学篇,62(2):101-130

刊行日

Issue date

2016-03

資源タイプ

Resource Type

Departmental Bulletin Paper / 紀要論文

版区分

Resource Version

publisher

権利

Rights

DOI

JaLCDOI

10.24546/81009216

URL

http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009216

PDF issue: 2019-03-10

(2)

第1節 アメリカ会社のコーポレートガバナンスと株主による会社情報閲覧請求権

コーポレートガバナンスの議論はアメリカがその発祥地であるが、特に、20 世紀 70 年代 に入ってから、かかる議論が盛んに行われるようになった経緯がある。そしてコーポレート ガバナンスの議論の中心にあるのは、株主主権論と取締役会主権論である(2) 周知のように、コーポレートガバナンスとは、経営者への監督監視システムのことである。 アメリカ法上、株主により会社経営が専門家である取締役へ委譲され、そこから「代理コス ト」(Angency cost)が発生する。すなわち、委任者である株主と被委任者である取締役と の間において、経営目標、あるいは理念の面で異なる意見を持つことがありうる。そこで、 経営者の行為を監督監視するために、アメリカ法上では、基本的に、取締役が取締役を監督 監視するという仕組みが構築されている。 これに対して、取締役会中心説の支持者らは、取締役は株主の代理者、あるいは単なる会 社経営を委譲される立場に立つ者ではなく、会社が契約の束で、取締役がその契約の束の中

(1) 華 東 政 法 大 学 國 際 金 融 法 律 学 院 特 別 研 究 員、Research supported by The Program for Profes-sor of Special Appointment (Young Eastern Scholar) at Shanghai Institutions of Higher Learning

NO.QD2015048;Innovation Program of Shanghai Municipal Education Commission NO.14YS083

;Inno-vation Program of Eastchina University of Political Science and Law NO. A-3101-14-144514 and「上海

高校青年教师培养资助计划」 NO.ZZHZ13026、2015 年度上海市「哲学社会科学基金青年課題」「公司 法与民事部門法交錯問題研究」2015EPX004、[中国博士後科学基金資助]NO.2015M571525。

(2) Margare M.Blair,Reforming Corporate Govenance What History Can Teach 1 Berkeley Bus L

Rev.1(2004).

取締役責任追究目的による

株主会社資料閲覧権について:

デラウェア州会社法を中心として(1)

(3)

心に位置し、会社のあらゆる利害関係者の利益の紐帯であると主張する(3)。さらに取締役会 中心説の支持者らは、そのよう立場に立たされる取締役は、会社資源を合理的に配置し、中 立的な立場に立ち、会社の安定した長期的利益の実現と確保を取締役の職責とする(4) そして株主主権論、あるいは株主中心論が盛んに議論されたのは、20 世紀 80 年代のこと であった。当時の議論の多くは、株主が追求する会社の短期的利益と取締役が追求する会社 の長期的利益の矛盾がその発端となっている(5)。その多くは、会社買収の場面で、取締役は 独自の判断で敵対的買収を拒否することができるか否かをめぐる議論であった。 これについて、取締役会中心説の支持者らは、敵対的買収を拒否することは取締役による 経営判断の事項で、取締役は当然ながらその権限を有すると主張した(6)。これに対し、株主 中心説の支持者らは、かかる敵対的買収の場面では、株主意思への尊重が必要で、取締役に よる独断的な行為は許されるべきではないと主張する(7) 上記のようなコーポレートガバナンス論以前に、資本の集中と会社規模の拡大等を背景に、 今よりおよそ 1 世紀前、バーリ教授とミーンズ教授による公開会社制度の研究がすでに行わ れている。そして彼らは、「所有と支配の分離(separation of ownership from control)」の理

(3) Stephen M. Bainbridge, Director Primacy: TheMeans and Ends of Corporate Governance, 97 Nw. U. L.

Rev. 547 (2002-2003).

(4) Stephen M. Bainbridge, Director Primacy and ShareholderDisempowerment, 119 Harv. L. Rev. 1735

(2005-2006).

(5) The DealDecade: What Takeovers and Leveraged Buyouts Mean for Corporate Governance (Margaret

M. Blair ed., Brookings 1993).

(6) Leo Herzel et al., Why Corporate Directors Have aRight to Resist Tender Offers, 3 Corp. L. Rev. 107

(1980); Martin lipton, Takeover Bids in the Boardroom: An Update After One Year, 36 Bus. Law. 1017

(1981);Steven M. H. Wall-man, The Proper Interpretation of Corporate Constituency Statutes and

For-mulation of Director Duties, 21 Stetson L.Rev. 163 (1991).

(7) Frank H. Easterbrook&Daniel R. Fischel, The Proper Role of a Target’s Management in

Responding-to a Tender Offer, 94 Harv. L. Rev. 1161(1981);Ronald J. Gilson, A Structural Approach to Corporations:

The Case Against Defensive Tactics in Ten-der Offers, 33 Stan. L. Rev. 819 (1981); Lucian A. Bebchuk,

The Case for Facilitating Tender Offers, 95 Harv. L. Rev. 1028(1982); Jeffrey N. Gordon, “Just Say

Nev-er?” Poison Pills, DeadhandPills, and Shareholder一Adopted Bylaws: An Essay for Warren Buffett, 19

Cardozo L. Rev. 511(1997); Lucian A. Bebchuk&Allen Fer-rell, A NewApproach to Takeover Law and

Regulatory Competition, 87Va. L. Rev. 111 (2001);; John C. Coates, IV & Bradley C. Faris,Second一

(4)

論を提唱した(8)。そして、そのような「所有と経営の分離理論」、あるいは原則のようなもの がその後米国制定法にも反映されるようになり、アメリカ模範事業会社法およびデラウェア 州会社法では、通常の会社の経営は広く取締役会の指示に基づいて行われ、会社の経営に関 して株主に残される権限は、取締役の選任・解任その他組織の本質に関わる事項(合併・定 款変更等)に限られることになる(9) しかし、会社買収というのは会社経営における一つの場面に過ぎず、そして「経営と所有 の分離」も実際にみれば、会社発展における現象に過ぎない。そして少なくとも建前上で は、会社の所有者は「株主」であることには異論が少ないようである。なぜなら、「株主」は、 企業経営を監督するため、取締役会として知られている特別のグループを選出し、会社を運 営する役員(officer)を選ぶ(10)仕組みで会社という組織が成り立っているからである。さら に、米国制定法は、一般的に正当事由に基づく、場合によっては、正当事由なしでも、株主 による取締役の解任まで認めている(11)。そして制定法の制定前に、裁判所は株主には所有者 として会社を守る権利があることから、正当事由に基づいて取締役を解任する固有の権利が あることを認めた事例も存在する(12) 株主による取締役の解任権、あるいは訴訟権が付与されている以上、訴訟に備えるために、 株主による会社書類の閲覧権が必要であるといえる。 そしてコーポレートガバナンスの視点からでは、取締役の監視装置の運用問題が重要にな (8) 彼らの分析によれば、まず、公開会社では、株主集団(創立者またはその家族)、または別の会社 が支配権を有し、一般株主が少数株主である場合がある(現代社会における例として、マイクロソ フト社は大規模な公開会社であるが、創立者のビル・ゲイツとポール・アレンは大株主であり、実 質的に会社を支配している)。そして会社の発展及び株主数の拡大につれ、会社の株主がより分散し た集団になり、いずれの集団も会社の経営を左右するのに十分な株主を有していなく、取締役の選 任に対して支配権を行使できるほどの大株主集団も存在しなくなる。その結果、株主による直接的 監督なしに会社を経営し、経営者はたとえ少数の株式しか所有していなくても、会社を支配するこ とができるようになる。このように、会社の支配は所有から分離したという。 (9) (DGCL§141(a), MBCA§8.01(b))しかし、デラウェア州の閉鎖会社においては、議決権付株式の 過半数を有する株主による書面の合意は、たとえそれが取締役会の裁量や権力を制限することとな るものであっても、合意した当事者間では有効とされている(DGCL§350)。また、基本定款において、 会社の経営は取締役会ではなく株主が行うと定めることも可能である(DGCL§351)。 (10)アーサー・R・ピント/ダグラス・M・ブランソン(著)米田保晴監訳『アメリカ会社法』1 頁 LexisNexis(2010年)。 (11) MBCA§8.08 (12)アーサー・R・ピント/ダグラス・M・ブランソン(著)米田保晴監訳『アメリカ会社法』176 頁 注180LexisNexis(2010年)。

(5)

るが(13)、前述したように、アメリカの会社では、取締役会は経営機関のみならず、監視監督 の職務をも背負うことになっている。つまり、監視責任者である取締役が経営責任者であ る取締役を監視するという仕組みである。そこで、経営責任者、特に部内者(insider)が 情報の非対称性を利用して、取締役会をコントロールしようとする。内部者支配(insider control)の結果、会社が CEO による独裁体制になる恐れが生じる。そして外部取締役は監 視監督の役割を背負っているものの、内部者のようなインセンティブを有せず、多くの場合 においては、会社経営陣の圧力の下で、独立性を失ってしまう(14)  この問題を解決するために、米国では、2002 年に「Sarbanes-Oxley Act」(SOX 法案)が 制定され、それによれば、独立取締役のみによる監査委員会の設置が強制されるようになっ た。また、ニューヨーク証券取引所(New York Stock Exchange)では、その上場基準において、 取締役会の過半数を独立取締役とすることの改正が行われたことや(15)、NASDAQ に上場し ている会社も、過半数の独立取締役(会社の常勤の従業員ではない)を擁することが要求さ れること等が挙げられる(16)。さらに、上場会社の財務諸表を作成する会計事務所を選任しか つ当該財務諸表を検証する監査委員会、報酬委員会、及び指名委員会をそれぞれ設置しなけ ればならず、また、各委員会はすべて独立取締役(independent director)によって構成しな ければならないことになっている(17)。特に、米国デラウェア州法の下では、特定の取締役が 優位性(domination)または支配を通じて、別の取締役に支配されているかどうかを調査す る必要があるとされる(18) アメリカでは、かつて「誰が取締役会を構成すべきかという問題、及び取締役が真に独立 した役割を果たすことを制約するグループダイナミックス(group dynamics, 集団力学)の 問題」が提起されている(19)。そこで、独立取締役は、内部者による会社情報のコントロール、 会社の財務状態を向上させる経済的インセンティブのないと言う問題点や、及び非常勤とい (13)機関保有率は50%以上、アーサー・R・ピント/ダグラス・M・ブランソン(著)米田保晴監訳『ア メリカ会社法』161頁注41LexisNexis(2010年)。

(14) Charles M.Elson,Director Compensation and the Management-Captured Board-The History of

a Symptom and a Cure 50 Sm u L Rev.127 (1996) E. Norman Veasey, The Emergence of Corporate

Gov-ernance as a New Legal Discipline, 48 Bus. Law. 1276 (1993) Victor Brudney, The Independent

Di-rector-HeavenlyCity or Potemkin Village, 95 Harv. L. Rev. 597 (1981-1982).

(15) New York Stock Exchange,Listed Company Manual §303A.01 (2003).

(16) NASDAQ 上場規程5605⒜⑵。 (17)役員は、社長、副社長、財務担当役員及び秘書役が含まれ、これらの人は、正当事由がなくても 取締役会が自由に解任することが出来る。MBCA§8.43(b)。 (18)この優位性は、個人的または親族的結びつき、意思の力、または取締役が利害関係者の恩義(経 済的利益)を受けていることから生じうる。 (19)行動経済学は、取締役の法的基準の決定に役に立ちうるであろう。

(6)

う地位から、取締役の経営を監督監視する役割を果たすに限界があると言う問題点がある。 そして独立取締役過半数などの規定によって、部内者からの圧力の問題が一部緩和されうる としても、インセンティブの問題や、外部性を重視すればするほど、内部者を監視する能力 が低下する問題などが依然として難解なものになっている。 そこで、独立取締役のインセンティブの問題(取締役と株主間における利益の乖離の問題 も)を解決するために、アメリカでは、独立取締役の利益を株主の利益に適合させることを 期待して、会社株式を保有させることがすすめられた。日本においても同様であるが、取締 役の報酬について、退職慰労金制度が続々と廃止され、代わりにストックオプション(20) 導入されつつあることによって、経営者と株主の間で企業価値向上に向けて利益を共有でき る関係が築かれるといわれる。このことは、エージェンシー問題を解決するための仕組み の一構成部分と考えられる(21)。しかし、ストックオプションの付与が経営者の報酬において、 一定の割合を占める場合、経営者が会社株式の市場価値を吊り上げる行動(会計情報などを 操作して、短期的に会社の株価を上昇させるインセンティブを有することになる。)に出る 確率が高まり、虚偽記載や、業績悪化の隠蔽に動きだすことがこれにより、確実に多くなる であろう(22)。かかる場合、独立取締役にもストックオプションが付与されれば、取締役への 監督機能をも失うので、中国では、独立取締役はストックオプションを受け取ってはいけな いと規定された(上市公司股権激励弁法)。 真に独立性の強化された取締役会は、経営者の監視機能を果たすであろうと期待されてい た(23)。独立取締役が行動した結果、社長または最高経営責任者の交替、及び取締役会の行動 規範の創設等、大きな変更が実現した例もあれば、失敗した例も多い。例えば、エンロン事 件のような事例では、外見的には十分に適格な独立取締役が存在したにも関わらず、経営者 への監視ができなかった。取締役会の「自浄能力」が低下し、もはや経営者への監督監視の (20)会社法2条21号、236条1項。 (21)すなわち、エージェンシー問題を解決するための仕組みとしては、株主の直接監視・監督する、 もしくは監視監督を誰か他のものに頼むといったことも考えられるが、取締役にインセンティブを 与えることも考えられ、この報酬はそのようなものとして評価できる。 (22)そして社外取締役にストック・オプションを与えると、彼らが株価反応に敏感になってくるし、 また、そのような敏感度は、ストックオプションが報酬においてどれ程の割合かによるとする見解 が見られる。伊藤靖史「インセンティブ報酬(ストック・オプション)および市場による規律」法 学セミナー648号27頁以下(2008年)。

(23) Ira M.Millstein,The Professional Board,50 Bus.Law.1427 (1995); James M.Tobin,The Squeeze on

(7)

機能を失っているとの指摘もなされた(24) 思うに、会社を支配することなく株式を所有する場合に株主が直面する大きな問題として は、経営者の盗み(steal)行為である。経営者のかかる行為によって、被害を被るのは公認 会計士、弁護士(ゲートキーパー)などではなく(エンロン事件が起きたことは、ゲートキー パーによる機能が発揮されなかったのがひとつの理由として認識されているが(25))、株主側 である。前述のように、会社経営と所有の分離によって、多くの株主が会社経営に合理的な 不関心な態度を採り、積極的に会社経営者への監督監視をせず、単なるキャピタルゲインを 追求する一般投資家になっている事象が生じている。しかし、機関投資家が現れたことにつ れ、株主らも自分の権利を擁護するために、会社経営へ積極的に参加し、会社経営陣への監 視監督に大いに興味を示すようになった。なぜなら、機関投資家は簡単に市場で株式を譲渡 できないから、彼らはむしろ会社の安定した長期的利益を追及しているとの指摘がなされて いる(26)。彼らは、経営者の恣意的な経営、あるいは盗み行為を監督監視することが期待され よう(27)。そしてそのような監督、監視を有効なものにするために、株主会社資料閲覧請求権 が必要不可欠である。このような権利は本来、コモンロー上認められたものであり、そして 株主の「固有的」権利として認識され、前述したように、株主による取締役の解任権、ある いは訴訟権が付与されている以上、訴訟に備えるために、株主による会社書類の閲覧権が必 要である以上、前記の株主保護に利用できる監視装置の補足的な制度ではなく、むしろ両者 が並立している関係にあると思われる(28) 但し、株主が会社への過度な干渉を認めれば、会社経営の効率が低下するし、そして株主 権を過分に強調すれば、株主による権利濫用がされ、会社の利益が害される恐れがある(29)

(24) Martin C. McWilliams,Jr, Guardians Adrift: The Social Anthropology of the Corporate Gatekeeper

Professions, 46 U. Louisville L. Rev. 225 (2007), 247-255.

(25) JohnCoffee,Understanding Enron:Its About the Gatekeepers Stupid,57 Bus.Law.1403 (2003)

(26) White, Giant Pension Funds’ Explosive GrowthConcentrates Economic Assets and Power, Wall St.

J, June 28, (1990), at Cl, col. 3;L. Roache, CEOs, Chairmen and Fat Cats:The Institutions Are Watching

You, 27 Co. Law 297 (2006);Willard T. Carleton, James M. Nelson&Michael S. Weisbach, The

Inf-lu-ence of Institutions on Corporate Governance Through Private Negotiations: Evidence from

TIAA-CREF, The Journal ofFinance, Vol. 53, No. 4, 1998, 1335-1362).

(27)経営陣において、一定比例の経営者を株主によって直接選任される方法も提案されている。

Lucian A. Bebchuk, The Myth of the Shareholder Franchise, 93Va. L. Rev. 675 (2007); Lu-cian A.

Beb-chuk. The Case for Shareholder Access to the Ballot, 59 Bus. Law. 43 (2003).

(28)久保田光昭「帳簿・書類閲覧権に関する立法論的考察」吉川・出口編集『石田満先生還暦記念論 文集・商法・保険法の現代的課題』176頁文真堂(1992年)。

(8)

したがって、株主会社資料閲覧請求権を含む株主の権利行使は一定範囲内に制限される必要 があると考えなければならない。

第2節 米国法上の会社財務会計情報を確保する制度

株主が会社の所有者として、会社の経営状態を把握するために、当然ながら、会社の財務 情報を得る必要があるが、これに関して、株主による情報の請求とは無関係に、会社による 株主に対する主動的な情報提供制度が米国法上存在する。例えば、米国公開会社の財務諸表 は、独立公認会計士が作成し(30)、米国連邦証券法によると、これらは一般投資家及び株式市 場に提供されなければならないことになっている(31)。また、模範会社法 §16.20 は、株主に 対する最低限の財務情報の提供を要求するが、多くの小会社は監査役や会計士を持たないの で、情報開示の実効性が問題視される。ただし、MBCA§16.20(a)は、一般に認められた 会計原則(GAAP)に基づき財務報告書を作成する会社に対しては、同じ基準で株主に対す る年次財務諸表を作成するよう義務付けている。

SOX 法 §304 は、財務報告が修正された一定の場合において、CEO と CFO の両者が受け 取った業績連動報酬を証券発行者へ返還することを定めている。 そしてSOX法§302は、会社の最高経営責任者CEO及び最高財務責任者CFOが各四半期 報告書及び年次報告書に関して、最低 9 つの計算書を承認しなければならないと義務付けて いる。なおCFOとCEOの両者が、過去90日間に会社の会計に関わる内部統制システムを検 証したことの認証(certification)もしなければならない(32)。報告書が適正に表示していない ことを知りつつ、適正に表示しているとの証明書を提出したCEO および CFO には、100 万 ドル以下の罰金若しくは10年以下の懲役が課され、併科される。 なおSOX 法 §307 は、会社のアドバイザー弁護士の職務行為基準をも定める。これに基 づき、連邦証券法の重大な違反があった場合には最高経営責任者への報告を、もしそれで充 分な対応が取られない場合には取締役会への報告をそれぞれ義務付けている。 このような開示の目的は、投資家に投資判断が出来るように情報を提供すること、及び、 (30)財務諸表には登録の日より 90 日前以内の貸借対照表、過去 3 年会計年度の損益計算書が含まれ、 これらは公認会計士による監査を受けていなければならない。直近の貸借対照表から 135 日以上経過 しているときは、中間貸借対照表の提出も要求される。 (31)1934 年証券取引所法 §12 により登録を要求される種類の証券を有する会社は、株主に対して、監 査済みの財務諸表を含む年次報告書を四半期ごとに提供する義務を負う。 (32)同法404条。

(9)

詐欺を防止するために情報を提供することであるが(33)、たとえば、非会計情報の開示項目の

うち、登録者の財務状況及び経営成績に関する経営者の議論と分析(MD&A, Managements Discussion and Analysis)の開示が求められる(34)

さらに、情報開示の実効性、会社が負う負担ならびに投資家の投資判断へ配慮した結果、 1982 年、SEC は証券発行者を三つのレベルにわけ、登録届出書及び目論見書において開示 すべき情報量に区別を設けたが(35)、特に、取引所法12条に基づき証券を登録した者及び証券 法 6条の登録をした発行者は、年次報告書、四半期報告書、臨時報告書などをSECに提出し なければならないとされ、これらの規定は本中国法編で述べる、中国上場企業の情報開示規 定に大きな影響を与えた。特に、開示の内容、開示の真実性の確保システム(米国において は、取締役の過半数が年次報告書に署名しなければならないとされる、フォーム 10 −Kの 「記載上の注意」D(2)(a))などは、米国の制度を参考にしていると考えられる。 以上、連邦証券法及びSECは会社情報開示の面で、色々な工夫をしている(36)、その理由と しては、投資家の投資判断のためというのがあるが、それ以外に、株主保護に利用できる監 視装置として、外部市場の機能が期待されうる面もあるからである(37) 外部市場の期待については、主に効率的市場仮説と強制的開示との関係論が論じられてき (33)詐欺とは、つまるところ開示しないか、半真実であるか、または誤解を招く方法で開示すること 等である。 (34)この項目は、経営の傾向と将来の見通しに関する経営者の見解を開示することを求めるものであ り、少なくともSECは、単なる歴史的事実以上のものが求められている。 (35)(SA Release No.6383 (1982))信用が良く、そして公開市場で盛んに取引され、証券アナリストに よりよく分析されている発行者に関する情報が市場価格に反映しているから、直接投資家に提出す る必要がないと考えられたが、これらの発行者はフォームS3 の適用を受ける。フォームS2 を利用で きる発行者の証券は、S3 の証券ほど効率的な市場は成立していないが、全ての情報を詳細に開示さ せる必要もない。そしてその他の発行者は、効率的な市場が成立していないので、詳細な情報を開 示させられる。 (36)連邦証券法が会社法の法源であり、その規制の多くは、情報開示に関係している(Marc Steinberg,

UNDERSTANDING SECURITIES LAW(3rd ed.2001).

(37)つまり、経営者及び支配集団の信任義務、株主訴訟、委任状合戦(proxy fight)、敵対的公開買い

付け(hostile tender offer)、行動に影響しうる情報請求権及び開示義務、ならびに一定の状況下で現

金化による撤退を可能にする株式買取請求権による救済または解散による救済以外に、市場におけ る株式の価格が、会社の定款や設立した州法等の、コーポレートガバナンスやそれに関連したルー ルに関する情報を織り込んでいることが、エージェンシーコスト問題についての保護を株主に与え るものとの主張であった。カーティス・J・ミルハウプト編・安藤麻紀子等著米国会社法有斐閣 2009 年 10 月 9 頁;Stigler,Public Regulation of Securities Markets,37 J.of Bus.117 (1964); Benston,Required

Disclosure and the Stock Market:An Evaluation of the Securities Exchange Act of 1934, 63 Am.Econ.

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た。即ち、スティグラ―とベンストンの研究は(38)、証券法及び取引所法の制定は証券市場の 供給される情報の質を向上させなかった証明を試みに、強制的開示制度は不要だとする見解 が唱えられるようになったが、さらに市場で情報を提供しても、これらの詳細で専門的な情 報は、一般投資家にとって、理解しがたいもので、一般投資家は、このような情報に基づき、 過小評価されている証券または過大されている証券を見つけ出すのは困難であることを根拠 に、開示制度は投資判断に役に立たないとの主張もされた(39) これに対して、強制的開示制度が必要とする学者らは、以下のように反論する、すなわち、 会社は報告書を提出する段階で真実を保証しなければならないので、それより前では虚偽の 情報開示はできなくなること、そして合理的な会社は、マイナスの情報も自発的に開示する ので、情報開示は市場に必要であるとする。さらに、強制的開示制度が必要とする学者がい る。コフィー(Coffee)氏は、第一に、情報の開示を会社の自由な裁量に任せた場合、不要 に大量な情報が市場に供給されることはなくなるが、少ない情報しか供給されなくなると、 投資家の投資判断は難しくなること、第二に、MBO のような、会社経営者と株主との利益 が相反する場合には、情報の自発的開示は期待できないこと、第三に、一般投資家らは分散 投資をしているとしても、個別投資には、個々の会社の固有のリスクを判断するための情報 が必要であることを理由に、強制開示的制度が必要と主張していた(40)。つまり、投資家は自 由に投資先を決定することができるため、株式の価格という情報に基づいて自らの保護を図 ることが可能である。 上述したように、合理的分析を行う機関投資家の選択(株式の購入あるいは売却、引いて いは積極的に株主権の行使)によって、会社経営へのコントロールが期待されうる面がある。 そして機関投資家が増える中、情報開示の機能を重視することが必要であると考える。但し、 以下の問題点が依然として残っている、すなわち、機関投資家以外に、個人投資家が存在し、 そのような個人投資家にとって、どのような開示情報が必要とするかは不明瞭であること、 また、強制的開示制度が必要と認めることは、現在の開示制度が本当に有用な情報を供給し ていることを認めていることとは限らない点である。 但し、上場会社の経営、及び発展において、重要な事実、実質的事実あるいは事件が起き

(38) Stigler,Public Regulation of Securities Markets, 37 J.of Bus.117 (1964); Benston,Required

Disclo-sure and the Stock Market:An Evaluation of the Securities Exchange Act of 1934,63 Am.Econ.Rev.132

(1973).

(39) Kripke,The SEC and Corporate Disclosure:Regulation in Search of a Purpose (1979).

(40) Coffee,Market Failure and the Economic Case For a Mandatory Disclosure System 70 Va.L.Rev.717

(11)

た、或いはおきようとしたときには、開示が要求される(Staffin事件では(41)、裁判所は、当 事者は他社との合併の交渉中に自社株公開買い付けを行ったが、合併の交渉を公表していな かったが、裁判所は、公開買い付け期間中は買い付け者があらゆる重要情報の開示義務を負 うことを認めつつ、交渉中の合併は大筋において合意に達成するまで重要性を帯びないもの について、開示義務を負わないとの判断をしたが、Basic 事件では(42)、たとえ秘密を維持す ることが望ましいとしても、それは開示義務の文脈でなされるべきであり、重要性の判断と は関係がないとし、情報の重要性と開示義務の存否とを明確に区別した、つまり、交渉の進 展、実現可能性、合併等事件が起こった場合の影響の規模などを掛け合わせて、その情報が 重要か否かを判断する)点、将来指向情報の開示も一定程度要求される点(発行会社が任意 に行えるが、会社による自主的な開示義務に関しても、非常に投機的な行為や実務、急激 な取引及び疑わしい計画が抑制されることが意図されているのである(43))、注意表示の法理、 つまり、注意表示がある場合には、将来指向表示が重要性を有しなくなる点(但し、証券の 投資は投機的であり、リスクはすべて自己負担へや、株式はまったく価値のないものなる可 能性がある等のような一般的な警告は認められないが)で、情報開示のあり方が米国で工夫 されている。 そのようなことから、SEC がこれまで情報開示に工夫をしてきた経緯があると考える。 その情報開示の問題と関連している金融管理の問題もあるが、これについて、米国SEC 設 立 60 周年や、最近の 75 周年の記念をきっかけ、多くの学者は、SEC の撤廃を主張してい る。その議論の多くは、SECはバブル経済への制御をできない結果、バブル経済が深刻化し、 SECはもはや、バブル経済の助長をしていると語っている(44)。さらに、SECの撤廃後、その 職能について、市場の監督、管理の機能を財務省へ、執行の機能を法務省へ、それぞれ委譲

(41) Staffin v.Greeberg, 672 F.2d 1196 (3rd Cir.1982).

(42) Basic Inc.v.Levinson,485 U.S.224(1988).

(43)その発想は、発起人または発行者が、その計画がいかに投機的であるか、また疑わしいものであ るかを開示するよう強制されるだけで、発起人は事業計画の投機的であるとか疑わしいものとする 原因となる部分を修正するか、または放棄するであろうというものである。一方、きわめて人の目 線を引くため、強烈な印象を与える(hit them between the eyes)開示は、開示された計画を市場で 失敗させる。開示が欠陥を明らかにするため、誰も投資しなくなる。

(44) Jill E. Fisch,Top Cop or Regulatory Flop?The SEC at 75, 95Virginia Law Review 785, 788 (June,

2009); also see Regulation and the Financial Crisis,Adam Smith Insti-tute blog delivered by Newstex,

(12)

させるという具体策の議論も展開されている(45)。これに対して、SECの支持者らは、SECの 職員らは勤勉で、常に金融機構の現場を訪れ、その場で監査、監督をしていることや、米国 が世界最強に誇る金融市場を擁することは、SEC の貢献がそのひとつの要因と訴えった(46) それ以外、一部の論者は、SEC の機能をよく強化し、市場情報への監督、及び情報開示に 関する違法行為の処罰を強化すべきと論じている(47) しかし、上記の情報提供、あるいは情報開示の適正性を確保するためのシステムの構築等 は、投資家投資の投資判断のためであり、会社財務会計情報の適正性を確保する点で一定の 効果はあるものの、外部コントロールは、完全に株主による権利行使(取締役への監視監督 のため)のための閲覧権に代替できるものと考えられない。

第3節 株主による会社資料閲覧権

アメリカ法上、株主は、自らの収益を受くべき利益を保護する必要があるということを根 拠に、株主が会社経営の実態が反映される財務会計情報などを取得する権利を有する(48) アメリカでは、株主の情報取得権(right to information)は連邦証券法及び州法で定めら れている。これらの規定によると、まず、一般株主が議決権を行使する場合、株主は議題に 関する情報を受け取ることが出来なればならない。次に、閲覧権はどの株主でもこれを有し、 別段の規定がない限り、株主の閲覧権は、持ち株数や株式保有年限による制限がない単独株 主権として設計されている(49)。ただし、一定の持ち株数を有しまたは一定年限以上継続的に 株主である者にのみ閲覧権を認めるという州があり、反対に、定款または付属定款をもって 制限することができないとされている(名簿に関してのみ)州もある(50) そして米国各州の州法は、適切な目的がある限り、株主は帳簿や記録または株主名簿を閲 覧することが出来るとする。

(45) Jill E. Fisch, Top Cop or Regulatory Flop?The SEC at75, Virginia Law Review 786 (June, 2009);

James D. Cox, Coping in a Global Marketplace: Survival Strategies for A75-Year-Old SEC, Virginia

Law Review 941 (June, 2009).

(46) Christine Daleiden,The Legal Parameters of the Financial Cri-sis,Hawaii Bar Journal 6,7 (March,

2009).

(47) Susan L. Merrill ,Matthew L. Moore&Allen D. Boyer, Fo-cusing on Sanctions at the New York Stock

Exchange,3 N.Y.U. J. L.&Bus. 156 (2006).

(48) Stevens,Handbook no the Law of Private Corporations 488∼489 (2ded.1949).

(49)このような閲覧権は、米国模範事業会社法(制定法)で定められている。MBCA§16.02;青木英 夫「判批」ピケンズ対小糸製作所事件 金商判例837号45頁。

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第4節 デラウエア州の優位性

本稿は以下で、主にデラウェア州の会社法判例および制定法規定を取り上げる。その理由 を以下の通り述べておくその理由は、以下の通りである。デラウェア州は、全米 50 州のう ち 2 番目小さく、アメリカ大陸の東海岸人口 80 万未満の州であるが、2002 年全米上場等さ れている会社の 57.75%、近年でも45%がデラウェア州で設立された会社である(51)。デラウ エア州において、歳入に対する事業免許税の割合は、約25%を占めている(52) そこで、デラウェア州は株主よりも経営者を優遇する法律を有すると主張する学者がい る(53)。これに対して、一部の学者は、デラウェア州での設立は株主にとって利益があると主 張する(54) 何れにせよ、多くの会社がデラウエア州で設立されたことも事実であり、従って、会社法 の紛争が多く発生するデラウェア州では、会社法判例の数も多く、デラウェア州の弁護士及 び裁判官が会社法の複雑さに関する優れた理解力を有しているということであるから、その 制定法及び判例が研究に値すると考えられる。 (51)カーティス・J・ミルハウプト編・安藤麻紀子等著『米国会社法』7頁有斐閣(2009年)。 (52)カーティス・J・ミルハウプト編・安藤麻紀子等著『米国会社法』7 頁有斐閣(2009 年)。その理由 として、①会社設立の容易さ、つまり、州外の取締役会の開催も認められ、事務所の設置が不要で あること、②税制面の優遇、デラウェア州内法人所得税率は平均約9%である。

(53) William Cary,Federalism and Corporate Law:Reflections on Delaware,83 Yale L,j.663 (1974)参照。そ

の根拠とされているのは、以下の点である。デラウェア州は収入のかなりの割合が会社関係手数料 から得ており、デラウェア州の会社法弁護士は、デラウェア州が適用される訴訟において、会社側 の代理人として盛んに活動している。そして経営者が設立地または他州への再設立を決定すること ができ、このため、経営陣が自分に有利な法整備が行われる州で会社の設立をすることになる。よっ て、多くの会社の設立を要請できたデラウェア州は、経営陣に迎え合い、株主の利益を犠牲にして、 経営陣の経営判断の裁量の更なる拡大を図るような法整備をしている。 (54)これらの学者は、会社経営者は株主に不利で経営者に有利な州での設立を選択するのではないと 主張する。まず、投資家は、どの州法の下で設立された会社に投資するかを自由に決定することが 可能であり、なぜなら、そのようなことをすると経営者の潜在的な機会主義を反映して株価が下 落するからだという。そして株主の保護が薄く、経営陣の利益を優先した州法下で設立した会社は、 投資家から資本を集めるために、株主の保護が厚い州法下で設立された会社よりも高いプレミアム を払わなくてはならないことから、資本コストが高まる。

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第5節 株主名簿閲覧請求権

Ⅰ 判例紹介COMPAQ COMPUTER CORP. v. HORTON事件(55):

(1)事実の概要 原告(チャールズ・ホートン, Charles Horton)は、78 人の他の株主は、会社に対して、 会社を対象に以下の点を理由として、株式取引元帳(原簿)及び株主名簿の調査を求めた: ①会社経営者はテキサス証券法の違法行為をしている、②取締役らの行為はテキサスの取引 −消費者保護法の違法行為、③かかる行為には、詐欺行為にも該当する。そして、ホートン の株主名簿閲覧の目的は、会社のほかの株主と連絡して、株主訴訟を提起するために、どれ ほどの株主がこの訴訟と関係しているかを確認し、そして彼らに訴訟の参加を要請するこ とである。これについて、会社はホートンによる閲覧要求が、デラウェア会社法 220 条(b) の下で、不適切な目的によるものであることを理由に、資料提供を拒否した。これを受け、 ホートンは衡平法裁判所に提訴した。 ホートンは、彼の資料調査、そして会社経営の不正を摘出することは、会社株主の最大の 利益であると主張した。そして、会社経営を正すための訴訟に参加する株主を募集すること も妥当な目的であると主張した。そしてホートンは、たくさんの関連材料を裁判所に提供し たが、かかる関連資料は判例法の運用に関連するもので、しかも派生訴訟にも関係するもの であった。 (2)裁判所の判断 衡平法裁判所は、ホートンの主張を正面から支持し、特に裁判所は、会社の不正行為の適 正等は株主の権利で原告の目的は、「株主としての個人の利益に関連する合理的な目的」と 認定した。そしてデラウェア最高裁判所は、派生訴訟、或いは非派生訴訟の場面における会 社資料閲覧は「それほど違いのない区別」であると述べ、そしてホートンの会社資料調査の 目的は合理で、適切なものと認定し、衡平法裁判所の判決を維持した。なお最高裁は、株主 名簿の閲覧について、閲覧請求者株主の目的が不正である証明責任は、会社側にあると強調 した。最高裁は以下のように判断している、即ち、 「公開会社の株主にとって、株式取引の元帳(stock ledgers)及び公開会社の記録の閲覧 権は、しばしば会社の合併及び委任状合戦における重要である。… デラウェア州法は、登 録株主であれば誰でも株主名簿または会社帳簿の閲覧請求権を認める。 … 株式取引の元帳 及び記録の閲覧に抵抗する会社は、株主による閲覧の目的が不適切なものであることを主張

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して、積極的に防衛することが出来る。…デラウェア州制定法は、二つ異なる、そして互い に関係する閲覧権について述べている:(1)株主名簿及び株式取引の元帳、(2)会社の帳簿 及び記録、及び株主名簿及び取引元帳以外の記録(the corporation’s books and records, other than its stock ledger or list of stockholders.)そして制定法は、株主による閲覧対象書類の種 類(訴求)によって、「適切目的」に関する立証責任を置く。即ち、若し株主が株式取引の 記録或いは株主名簿の閲覧を求める場合、会社側が株主による閲覧請求が不適切な目的によ るものという立証責任を負うことになる…」 裁判では、会社側は以下のように反論した。すなわち、訴訟が提起されれば、当然ながら、 訴訟の費用が増え、そして会社が負う訴訟の負担も増加する。このように、会社の負担を増 やすために提起する会社資料の閲覧請求は、会社の利益に反するものである。 「公開会社の株主にとって、株式取引の元帳(stock ledgers)及び公開会社の記録の閲覧 権は、しばしば会社の合併及び委任状合戦における重要である。… デラウェア州法は、登 録株主であれば誰でも株主名簿または会社帳簿の閲覧請求権を認める。 … 株式取引の元帳 及び記録の閲覧に抵抗する会社は、株主による閲覧の目的が不適切なものであることを主張 して、積極的に防衛することが出来る。…デラウェア州制定法は、二つ異なる、そして互い に関係する閲覧権について述べている:(1)株主名簿及び株式取引の元帳、(2)会社の帳簿 及び記録、及び株主名簿及び取引元帳以外の記録(the corporation’s books and records, other than its stock ledger or list of stockholders.)そして制定法は、株主による閲覧対象書類の種 類(訴求)によって、「適切目的」に関する立証責任を置く。即ち、若し株主が株式取引の 記録或いは株主名簿の閲覧を求める場合、会社側が株主による閲覧請求が不適切な目的によ るものという立証責任を負うことになる…」 裁判では、会社側は以下のように反論した。すなわち、訴訟が提起されれば、当然ながら、 訴訟の費用が増え、そして会社が負う訴訟の負担も増加する。このように、会社の負担を増 やすために提起する会社資料の閲覧請求は、会社の利益に反するものである。 最高裁は、この反論を認めなかった。なぜなら、最高裁は、「株主として、会社を害する ことによって、何も手に入ることが出来ず、また、非派生訴訟の原告が増えることによって、 会社に与えるダメージが大きくなる恐れがあっても、それが当然に不正な目的と評価できな い」と判断して、また、裁判所は以下のように判示する、「会社が管理の面で免責条項を見 つけることによって、潜在的なダメージを減らすことが出来る」(the corporation could seek indemnification from management and thus diminish any potential damages)、以上の点を理由 に、裁判所は、原告に、株主名簿及び株式取引元帳(原簿)の閲覧を許可した。

最高裁判所は過去の判例の扱いに注意しながら、新たな目的(非派生訴訟提訴のために他 の株主を募る目的)を株主名簿閲覧正当目的に加えた。そして最高裁は、株主名簿の調査権 は絶対的で無制限なものではないとも強調し、「絶対に会社の利益に反対しない」条件の下

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にある権利と明言した。さらに、裁判所は、会社がこの場合における立証責任の重さをも考 慮し、会社の立証について、以下のように言及する、嫌がらせ訴訟の目的」、「名簿売却の目 的」などが不適切な目的として捕らえることが出来、さらに、裁判所は包括的な基準をも提 供した。すなわち、「不適切な目的は、概ね、請求者が不誠実に行動していることや、株主 としての役割と全く無関係な理由に基づく請求であることに裏づけることが出来」、「そのよ うな目的による請求は拒まれる」。 最高裁判所は過去の判例の扱いに注意しながら、新たな目的(非派生訴訟提訴のために他 の株主を募る目的)を株主名簿閲覧正当目的に加えた。そして最高裁は、株主名簿の調査権 は絶対的で無制限なものではないとも強調し、「絶対に会社の利益に反対しない」条件の下 にある権利と明言した。さらに、裁判所は、会社がこの場合における立証責任の重さをも考 慮し、会社の立証について、以下のように言及する、嫌がらせ訴訟の目的」、「名簿売却の目 的」などが不適切な目的として捕らえることが出来、さらに、裁判所は包括的な基準をも提 供した。すなわち、「不適切な目的は、概ね、請求者が不誠実に行動していることや、株主 としての役割と全く無関係な理由に基づく請求であることに裏づけることが出来」、「そのよ うな目的による請求は拒まれる」。 (3)米国法における株主名簿閲覧権の検討 米国会社法の規定によって、会社は「各株主の保有する株式の数及び種類を付記して、株 主の種類毎にアルファベット順で株主全員の名称と住所のリスト作成を可能にする形式で株 主の記録を維持しなければならない」とされている。名簿閲覧権は株主の制定法上またはコ モン・ロー上の閲覧権の対象となる。そして、多数の富裕者の名称と住所を記した株主名簿 は、それ自体の価値が高く、これを第三者に売却し、利益を得ようとする者がいる(56) 従って、株主名簿の情報を取得することには、一定の制限がされるのは当然である。しか し、会社の支配権を争う場面において、経営者は個々の株主に対して直接働きかけることが 出来るにも関わらず、反対派株主に同様の機会を認めないのであれば、公正な委任状争奪戦 は行われにくいといえる。 1934年証券取引所法§12によれば、名簿上の株主が500(自然人と法人、組織を含む)あ ること並びに資産が 500 万ドルを有する会社について、連邦委任状規則は株主名簿閲覧につ (56)ニューヨーク州などでは、株主名簿閲覧申請前 5 年以内に、閲覧申請者が第三者に対して株主名 簿の売却の申し込みをしていたか、または第三者の売却若しくは売却申し込みを補助していた場合、 その申請者には株主名簿を閲覧させる必要はない旨を規定している。

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いて選択的基準を規定している(57)。したがって、米国法の下では、経営者により株主の正当 な権限行使が害されることがないよう配慮がなされつつ、株主提案により取締役会に付与さ れた会社経営権限が侵害されるのを防止するというバランス保つことも考えられなければな らない。 そのようなバランスを図るために、前記の判例で、デラウェア最高裁が示した立場によれ ば、株主による株主名簿の閲覧請求の目的が不適切という立証責任を、会社側に負わせる方 法が考えられる。本来、デラウェア州会社法は、株主名簿閲覧権に関して、株主の権利行 使は、MBCA§16.02(c)(1)によれば、誠実かつ適切な目的(good faith and for a proper purpose)によらなければならない、そしてDGCL§220(b)によれば、適切な目的(proper purpose)によらなければならないことになっている。すなわち、請求者の株主としての利 益に合理的に関連する目的(a purpose reasonably related to such persons interest as a stock holder)の場合に限り、株主による株主名簿等の閲覧・謄写請求が許容される。 そしてデラウェア州会社法220(a)条と(b)は(58)、閲覧手続きについて規定している。まず、 デラウェア州法は、登録株主であれば、誰でも株主名簿または会社帳簿の閲覧請求権を認め ている(59)。請求者株主は、書面にて宣誓書(調査の目的を述べる)を提出しなければならな (57)つまり、連邦委任状規則SEC§14a-7 は、会社が名簿を提供するか、または株主が郵送料を支払う ことを条件として会社がある株主を代理して他の株主に対する委任状勧誘を郵送することのいずれ かを要求する。しかし現実には、会社は大体の場合後者を選択する。州法が、名簿の直接閲覧等、よ り大きな権利を与えている場合、州法は連邦法より優先する。よって、反対派は適用される州法に基 づいて株主名簿の提出を要求せざるを得なくなる。なぜなら、反対派は、単に株主と連絡を取りた いというのでなく大株主を確認して個別に接触するために株主名簿が必要不可欠であるからである。 (58)条文の参照について、日本で出版されるものとして、浜田道代・北沢正啓共訳 デラウェア会社 法 商事法務研究会 1988 年 11 月 80 ∼ 82 頁、中国で出版されるものとして、徐文彬等著 特華州普 通公司法最新全訳本 中国法制出版社2010年9月91∼93頁。 (59)そして、アメリカの場合、市場株式の大部分は実際に個人株主が保有しているのではなく、主要 預託機関「ストリート・ネーム」(業者名義)で預託されている。預託機関による株式保有は、株式 が売却された場合にも所有物が物理的に株券に署名する必要がないので、株式の譲渡を容易にする。 株式は、株主を代理する仲買人名義で登録されている。真の所有者の名義なしでは、実際の所有者 に連絡するのは困難である。その結果、仲買人はSEC規則に基づき、実質的所有者の名義を、所有 者が異議を申し出ない限り会社に送付することが義務付けられている(「NOBO」規則。

Non-object-ing beneficial owner)但し、デラウェア州の判例は、真の所有者名簿の作成に時間がかかり、負担で

ある場合は提出しなくても差し支えないと指摘している(Sadler v. NCR Corporation,928 F.2d 48(2d Cir.1991) 。そして多数の機関投資家は、定期的にポートフォリオ(有価証券一覧表)を開示してい るので、特定の機関投資家が所有する特定の会社の証券に関しては幅広い情報が公的に入手できる。

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い(60)、次に、請求者株主は、個人的に、或いは代理人に通じて閲覧請求をしなければならない。 この請求手続に成功した請求者は、会社の一般営業時間内に、請求書類の閲覧をすることが 可能となる。 閲覧請求をする株主に、その請求について、適切な目的が要求される。しかし、この「適 当な目的」は曖昧な定義で、そして従来から、この「適切な目的」は、「株主としての利害 利益に関連する合理的な目的」と理解されてきている(デラウェア州会社法 220 条(b)規 定参照)。

CM & M Group, Inc. v. Carroll(61)事件では、デラウェア州最高裁は、以下のように判断し

ている。すなわち、「株主の会社帳簿及び記録の閲覧の可否を判断するに当たって、その閲 覧請求者の目的が最重要の要因で…そのような要因は、個々の案件及び事実の下で判断しな ければならない…」そして、裁判所は「一旦、合理的な目的が見つかれば(認められれば)、 その他隠れた目的が重要でなくなる」と明言した。そして会社側の証拠について、裁判所は、 会社による株主の閲覧が不当目的に基づくものである証拠は、「アクションの決定に重要で、 実在するいかなる事実及びその傾向を示すためのすべての「関連証拠」を意味する」と判断 した。そして、裁判所は、会社の立場を配慮しながら、会社による「不適切な目的」の立証 について、様々な例を挙げた。すなわち、「嫌がらせ訴訟の目的」、「名簿売却の目的」など である。そしてCM & M Group, Inc. v. Carroll 事件で裁判官は、包括的な基準を以下のよう に述べている。すなわち、「不適切な目的は、概ね、請求者が不誠実に行動していることや、 株主としての役割と全く無関係な理由に基づく請求であることに裏づけることが出来」、そ して株主による「そのような目的に基づく請求は拒まれる」。 その後、会社が、株主による会社資料の閲覧請求が不適切なものであるという立証に成功 した例として、例えば、株主の会社資料閲覧請求では、単に株主の名前及び連絡方法を、請 求者株主たる権利の行使以外の目的、株主が他の起業家実力の調査のため、あるいは新たに 別の会社の設立勧誘目的、あるいは閲覧要求の対象会社とは無関係の会社の証券を対象会社 の株主に売却する目的で、獲得するためになされるものであれば、そのような請求が、「厄 介で不誠実」なものとされ、株主の閲覧が認められなかった事例もあった(62) また、株主による株主名簿閲覧の目的が、専ら個人の政治的見解を会社で宣伝することで ある場合に、それも「不適切」であると判断される。 (60)宣誓書及び請求目的説明は、主要な営業所あるいは州のその登記簿上の事務所に提出しなければ ならない。

(61) CM & M Group, Inc. v. Carroll, 453 A.2d 788, 793-94 (Del. 1982).

(62) the plaintiff's purpose is vexatious or in bad faith.Relying on Melzer v. CNET Networks, Inc., 2007

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例えば、ベトナム戦争時代の判例を例に挙げよう(63) 会社の株主が、デラウェア州法に基づいて株主名簿及びその他の会社記録の閲覧を請求し た。そしてミネソタ州裁判所は、デラウェア州法を適用して、デラウェア州会社法 220 条で 規定される株主による閲覧目的は、まず「適切な目的」に基づかなければならないので、そ の目的について、Kelly裁判官は事実の認定を踏まえながら、以下のように判断している、「原 告の証言によれば、原告による非常に少ない株式数(100 株)を取得する目的は、専ら会社 の経営陣そして株主に、自分の政治的見解を分かってもらい、賛同してもらうためであるこ とが認定できる。」「会社に武器を販売しないような主張は、個人的な政治目的、しかもそれ が会社の営利行為と無関係で、不適切で」、さらに、「株主による閲覧の唯一の目的が、経済 的なものではなく、政治的なものであった」と認定して、裁判所は、株主による株主名簿の 請求を支持しなかった。 判例の立場を分析することに、このような政治的目的の宣伝が支持されなかった事例は、 かつてのアメリカ判例法上存在していた。たとえば、1925年、ある株主が会社総裁、ニュー ジャージー州の国務長官の政治的名声を傷つけるために、株主名簿の閲覧を請求したが、そ れも認められなかった(64)

これに対して、General Time Corp.v.Talley Industries 事件では(65)、デラウェア州最高裁判

所は、名簿を求める株主の主たる目的が委任状勧誘にあり、そのような目的は、株主の利益 に合理的に関係しているので適切であって、いかなる二次的目的も無関係であると認定して いる。さらに、Highland Select Equity Fund v. Motient Corp 事件では(66)、デラウェア州最高

裁は、衡平法裁判所に、以下の事実について明らかにする要求をしている。 つまり、「被告側会社のすべての動機に不法なものがあるか否か、そして若しそれが不法 なものであれば、彼らの 220 条の運用を拒否する真の動機はいかなるものであるか」という 事実である。これを受けて、衡平法裁判所は、会社の株主による閲覧請求を拒絶する意思決 定とその意図の前後関係についての理解、及び訴訟中に発生する各事情を考察することなど を強調した。この点について、被告側会社における間近に迫った委任状合戦の存在は、相 当な要因とされ、結局、株主による株主名簿閲覧請求が認められた。さらに、onservative

(63) Conservative Caucus v. Chevron Corp., 525 A.2d 569 (Del.Ch.1987) ;State ex rel.pillsbury

v.Honey-well,Inc., 191 N.W.2d 406 (Minn.1971).

(64) McMahon v.Dispatch Printing Co.,101N.J.L.470,129 A.425.

(65) General Time Corp.v.Talley Industries,Inc.240 A.2d 755 (Del.1972).

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Caucus Research,Analysis & EducationFoundation,Inc.v.Chevron Corp 事件では(67)、株主が被

告会社のアンゴラにおける事業の経済的リスクにつき他の株主と議論するために株主名簿の 開示を求めたが、デラウェア衡平法裁判所は、会社の懸案に係る特定の事項についての他 の株主とのコミュニケーションは適切な目的に該当するとし、株主名簿の開示を認めてい る。また、Saito v.Mckesson HBOC 事件(68)においては、起こり得る会社の不祥事(possible

corporate wrongdoing)についての他の株主とのコミュニケーションは適切な目的に該当す るという判断もされている。公開買付において、株主名簿の閲覧は適切な目的と見なすべき であり、Crane Co.v.Anaconda Co事件では(69)、ニューヨーク州最高上訴裁判所は、公開買付

が会社の事業に関連がないとの主張を退けている。このように、デラウェア州会社法の下に おける株主による株主名簿閲覧の適切な目的は比較的広く解されているということが分かる。 したがって、前記の会社に対して武器を販売しないような主張をする株主が「政治的見解 の宣伝」を正面から主張せず、代わりに、「株主との連絡」、「武器の販売と経済的リスクに ついて他の株主と議論するため」等を主張すれば、裁判所の判断が違った可能性も十分考え られる。

本件COMPAQ COMPUTER CORP. v. HORTON 事件では、デラウェア州最高裁は次のよ うな判断をしている。つまり、①非派生訴訟(non-derivative suit)の原告が増えることに よって、会社に与えるダメージが大きくなる恐れがあっても、それが当然に請求株主の「目 的」を不正と評価できない。②自ら参加者募集をする株主による提訴は、必ずしもクラスア クションと同じように、会社に大きな打撃を与えるものになると限らない、③会社が管理の 面で免責条項を見つけることによって、潜在的なダメージを減らすことが出来ること、など である。 (4)私見 このような見解について、私見を次のように述べておく。 思うに、直接(非派生)訴訟においては、原告が勝訴すれば、損害金は会社ではなく株主 に直接支払われるため、株主は直接的に経済的利益を享受できる。また、直接訴訟において は、一定の共通性を有する者全員(クラス)のためにそのうち一部の者が訴えることが出来 る訴訟の仕組みである(クラスアクション)が、クラスを構成する者が多数に及ぶ場合にお いても、一部の者による提訴の結果、それが自動的にクラス全員に適用されてしまうので、

(67) Conservative Caucus Research,Analysis & Education Foundation,Inc.v.Chevron Corp.,525 A.2d 569

(Del.Ch.1987).

(68) Saito v.Mckesson HBOC Inc.,806 A.2d 113 (Del.2002).

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高額の損害金を期待できる場合が多い。しかし、デラウェア最高裁判所は、非派生訴訟の参 加者の募集の目的に基づく株主の閲覧請求は、非派生訴訟に関連するものの、非派生訴訟そ のものは、必ずしも会社に大きな打撃を与えるものとは限らないと判断している。このよう な判断は、デラウェア州がクラスアクションの分野において、会社よりも株主を好んでいる ことの証となると思われる。 それ以前、証券所持人保護委員会の結成等のために他の株主と連絡を取ることは通常、適 正な目的であると判断されることが多いとの指摘もなされている。(70)これらの事例とは別 に、「証券民事訴訟は、会社の虚偽記載(虚偽なる陳述)の防止、市場の監督(社内情報の 漏洩の防止)の面で、行政の監督管理より優越性を有する」とされた判決の影響も実に深遠 なものである(71) 連邦証券法 11 条が、発行者が登録届出書に重要な事実について不実の表示をし、または 重要な事実を表示しなかった場合の民事責任を規定している。それに証券法12条(a)項(1) 号及び 17 条が詐欺、不実表示について、コモンロー上の詐欺に基づく救済も利用できると 規定している(72)。そして証券民事訴訟の損害賠償額について、原告が請求しうる損害賠償額 は法定されており(73)、会社側は自ら証明責任を果たすことによって、賠償額の減額を求める ことができる(74) このような「会社側は証明責任を果たせば、賠償責任の減額がされるので、会社にとって 不要に大きな損害が生じる可能性が低い」という発想は、デラウェア州最高裁の会社よりも 株主の権利を優先させるという政策的判断を下す原因のひとつと思われる。 そのようになったのは、継続開示書類の真実性を確保するための最大の手段は、不実表示 に対して民事責任を負わせることであるとアメリカでは考えられていることからである(75) 投資家保護と株主権への尊重は本来違う分野で議論されているものである。しかし、前述 (70)ロバード・W・ハミルトン著・山本光太郎訳『アメリカ会社法』369頁木鐸社(2001年)。

(71) Bateman Eichler, Hill Richards, Inc. v Berner, 472 U. S. 299 (1985).

(72)コモンローの詐欺による救済は、不実表示の重要性(materiality)、信頼(reliance)、因果関係 (causation)、欺罔の意図(scienter)の各要件について、証券法上の明示または黙示の救済規定より も原告にとって負担の重いものになっている。 (73)すなわち、不実表示と損害との間の因果関係を立証する必要がなく、原告が取得した証券を売却 しているときは、原告は購入価格と公募価格のいずれか低い価格と売却価格との差額につき損害賠 償を請求しうる。これに対して、訴訟提起の時まで当該証券を保有している者は、購入価格と公募 価格といずれか低い価格と訴訟提起時の価格との差額につき賠償を請求できる。 (74)もし原告が判決のときまでに訴訟提起時よりも高い価格で証券を売却したときは、それだけ損害 賠償額は減額される(連邦証券法11条(e)項)。 (75)黒沼悦郎『アメリカ証券取引法』弘文堂(2004年)。

(22)

したように、所有と経営の分離がより進んだ大規模会社(特に上場企業)では、一般投資家 が会社経営、あるいは取締役への監督監視に対して合理的無関心な態度を採っている。そし て上記のような政策的判断は、証券民事訴訟に通じて、会社の開示情報の適正性を確保する (投資家保護)目的に基づくものと思われるが、その反射的効果として、上場会社の経営者 の恣意な経営、または前述した、ストックオプションの付与に伴い、経営者が会社株式の市 場価値を吊り上げる行動(会計情報などを操作して、短期的に会社の株価を上昇させるイン センティブを有することになる)を防ぐ効果をもたらすものとも評価できる。 その中、虚偽記載防止のための連邦証券法 10b ­ 5 規則があるが、この規則は、取引所の 内、外におけるすべての証券取引に適用されるので、上場会社の投資家のみならず、広い範 囲で投資家の利益を保護するものと評価できる(76)。但し、10b­5は会社情報の開示(虚偽記 載、虚偽陳述、実質的な事実の隠蔽(77))に関連して適用があるが、一般州法上の忠実義務違 反だけでは、10b­5の違反にはならない。 10b ­ 5 の運用、その反射的効果として、多くの上場会社の取締役による経営行為が正し い軌道に乗せられるとの期待も大きいといえる。言い換えれば、政策的効果として、会社の 株主の利益にもなると考えられる。そしてその延長線上にある、上場会社の財務情報の適正 性を確保するための制度(内部統制システム)も一般投資家の投資判断のためだけでなく、 ある程度、経営者による経営行為に対する制御弁として評価できよう(78)

第6節 会社帳簿の閲覧請求権

Ⅰ 判例紹介Holman v. Northwest Broadcasting, L.P.C.A. No. 1572-VCN 2007 Del. Ch.事件 (1)事実の概要

原告のクリック・ホールマンは、被告側会社の持分をおよそ 4.6 %を保有する有限責任 組合員である。被告会社のNorthwest は、公開会社ではないため、よって、原告は普段か

(76)但し、一般の州法上の忠実義務違反だけでは、10b‒5 違反にはならない(Fratt V. Robinson case,

203 F. 2d 627(9th, Cir. 1953)参照)。虚偽記載防止のための連邦証券法 10b‒5 規則があるが、この規 則は、取引所の内、外におけるすべての証券取引に適用されるので、上場会社の投資家のみならず、 広い範囲で投資家の利益を保護するものと評価できる。

(77) Santa Fe Industries v. Green, 430, U. S. 462 (1977).

(78)但し、一般投資家の保護は、金融市場の活性化、ひいては、国の経済的競争力にもつながるもの として、米国はこの分野において、非常に力を入れていると考えられる。最近でも、SECの規則改 正によって、上場会社の多くが上場廃止になっていることを受け、米国国内で改正が必要とする声 が上がっている。

参照

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